被覆コンクリートによる柱脚の強度改善

被覆コンクリートによる柱脚の強度改善
Strength Improvement of Column Base by Covering Concrete
田中 秀宣*
中野 建蔵*
伊藤 倫夫*
Hidenori Tanaka
Kenzo Nakano
Michio Itoh
設計者や建設業者らのニーズに応えて柱脚強度の高い被覆型弾性固定柱脚を開発した。被覆型
弾性固定柱脚はコンクリートによりベースプレートを被覆することで,ベースプレート部の強度を向
上せしめるが,この作用と効果を被覆ベースプレート部要素実験により確認した。被覆コンクリート
の効果により最大荷重が鋼板ベースプレートよりも 32 ∼ 64 % 向上した。また,柱脚実大実験によ
り被覆型弾性固定柱脚の曲げ強度や履歴特性を確認した。
A covered type semi-rigid column base with high strength was developed at the request of
the designer and the building constructor. The covered type semi-rigid column base can
improve the strength of the base plate by covering the base plate with concrete. This effect
was confirmed using the covering base plate elemental experiment. The ultimate load has
improved more than the steel base plate due to the effect of the covered concrete by 32 to 64
%. The flexural strength and the hysteretic characteristics of the covered type semi-rigid
column bases were confirmed by the column base experiment results.
● Key
Word:柱脚,コンクリート,曲げモーメント
Code:クリアベース
● Production
● R&D
Stage:Development
このQFDの結果を基にこれまでの露出型柱脚よりも柱脚
1. 緒 言
強度,特に曲げ強度が高い鉄骨柱脚の開発に取り組み,被
鉄骨造建築物では,一般に基礎に埋め込まれたアンカー
覆型弾性固定柱脚「クリアベース」を開発した(図 1 )
。
ボルトと鉄骨柱に溶接接合されたベースプレートを用いた
露出型柱脚を使用する。日立機材は,1972年に日立金属に
より開発された「ハイベース」の流れを汲む露出型柱脚で
ある「スーパーハイベース」
「ハイベース・エコ」を開発し,
市場に供給を続けている。
被覆コンクリート
ナット
(補強バンド)
C バンド
定着板
ナット
スリープ
鉄骨造建築物の柱脚に対する設計者や建設業者のニーズ
は多岐にわたり,鉄骨柱脚のさらなる改良が望まれた。そ
こで,設計者や建設業者らへのアンケートを基に品質機能
展開(Quality Function Deployment,以下,QFD)1)
の手法を用いて新たな鉄骨柱脚の開発コンセプトを決定し
押えプレート
ベースプレート
定着板
アンカーボルト
た。その結果,設計者や建設業者が重要視する要求品質
(ニーズ)として抽出されたものは,
「建築物の材料が減ら
基礎コンクリート
せる」
,
「建築物の構造計算が楽にできる」であり,これら
を満たすための重要な品質要素(品質特性)は「柱脚強度」
であるということが明確になった。
*
46
日立機材株式会社
日立金属技報 Vol. 27(2011)
*
ベース下面モルタル
図 1 クリアベースの構造概要
Fig. 1 Skeleton framework of‘ClearBase’
Hitachi Metals Techno. Ltd.
ナット
被覆コンクリートによる柱脚の強度改善
350
200
C
28
h
Reinforcing band
160
Plate
420
70
Tension(P)
Column
250
Anchor bolt
Concrete
(単位 mm)
Fixed base
図2 試験体(要素実験)
Fig. 2 Specimen (Elemental experiment)
本開発は,まず被覆型弾性固定柱脚の特徴でもあるコン
の材料特性を表 2 に示す。また,アンカーボルトは実験中
クリート被覆されたベースプレート部(以下,被覆ベース
に塑性化しない強度のものを使用した。
プレート部)の要素実験を行いベースプレート部の強度や
加力は,ベースプレート塑性化後,荷重が低下し始める
変形等の基本性能を把握し,その後,柱脚実大実験を行い
までとして実験を進めた。
鉄骨柱脚の構造特性を確認したものである。
本報は,これらの被覆型弾性固定柱脚の開発に伴う被覆
ベースプレート部要素実験,柱脚実大実験に関する報告と
表2 材料特性(要素実験)
Table 2 Material characteristics (Elemental experiment)
被覆型弾性固定柱脚の効果について述べるものである。
被覆ベースプレート部の強度や変形性能を把握する目的
引張強さ
(MPa)
SN490B
343
553
SD295A
341
489
材質
ベースプレート
補強バンド(D13)
2. 被覆ベースプレート部要素実験
2. 1 実験方法
降伏点
(MPa)
部品
補強バンド(D19)
SD345
396
572
補強バンド(D22)
SD345
382
556
で,被覆ベースプレート部周辺のみを取り出した形状の試
験体を製作し実験を行った(図 2 )
。本実験では,実体の柱
2. 2 実験結果・考察
脚部を90°回転させた状態で試験体を設置し,ベースプレー
本実験のアンカーボルト引張荷重とベースプレート変
トに接合されたアンカーボルトから引張力を載荷した。こ
形の関係を図 3 に示す。同図中の点線(S - 0)がコンクリー
のときのアンカーボルト引張荷重とベースプレート変形(ア
ト被覆を行わない試験体である。また,同図中,右縦軸
ンカーボルト接合位置)を測定した。
はS - 0の最大荷重を1とするときの荷重比である。
実験パラメータは,被覆コンクリートの有無,補強バン
被覆ベースプレート部は,鋼板のみの場合よりも最大
ド径,補強バンド位置であり(表 1 )
,ベースプレート厚さ
荷重や剛性が向上している。被覆ベースプレート部の最
t(28 mm)とコンクリート強度(18 MPa)は共通とした。
600
表1 試験体一覧(要素実験)
Table 1 List of specimens (Elemental experiment)
試験体
被覆コンク
リート
補強
補強バンド
被覆コンク
バンド径
位置
リート厚
(鉄筋呼び)
h(mm)
C(mm)
C-13
D13
C-19
D19
被覆あり
C-22
S-0
被覆なし
1.6
C-13
500
1.4
C-13H
400
1.2
1
S-0
300
0.8
0.6
200
0.4
C-22
100
0.2
C-19
0
125
192
0
0
1
2
3
4
5
Deformation δ(mm)
D22
C-13H
Tension P(kN)
SD295AまたはSD345の異形棒鋼を用いた。これらの鋼材
Load ratio by‘S-0’sample
ベースプレートにはSN490B鋼板を用い,補強バンドは
D13
180
242
−
−
−
図3 引張荷重−変形の関係
Fig. 3 Tension-deformation relationships
日立金属技報 Vol. 27(2011) 47
大荷重は,鋼板のみの場合に比べて 1.32 ∼ 1.64 倍である。
トの強度であり,第2項は圧縮束の効果による被覆コン
補強バンド位置(h)が同じ場合,最大荷重はC- 22が
クリート部の強度を表し2),コンクリート部の曲げ強度
最も大きく,次いでC- 19,C- 13の順である。このことか
(M R /L)または支圧強度(A e ・σc)の小さい値となる(式
ら,補強バンド径が大きいほど被覆ベースプレート部の
中のminは括弧内の最小値を選択する意)。実験値と計算
最大耐力も大きい。
値の比(eP/cP)は,0.98 ∼ 1.17(平均1.06)であり,
(1)
また,C- 13Hは C- 13よりも最大荷重が大きく,剛性が
式による計算値は本実験の結果に一致した。すなわち,
高い。すなわち,補強バンドとベースプレートの距離を
被覆ベースプレート部の最大耐力の推測には(1)式が有
大きくすることで最大耐力と剛性が向上する。
効である。
コンクリート被覆された試験体の最大荷重の実験値
MR
Ms
(1)
+ min(
, Ae・σc)
cP=
L
L
(eP)と(1)式による計算値(cP)を比較して図 4 に示す。
(1)式は鋼板ベースプレート部と被覆コンクリート部の
強度の累加により算出する被覆ベースプレート部の最大
cP
耐力計算式である。(1)式の第1項は鋼板ベースプレー
M s :鋼板ベースプレート曲げ強度
:被覆ベースプレート最大耐力計算値
M R :被覆コンクリート部曲げ強度
L :柱面−アンカーボルト中心間距離
A e :被覆コンクリートの有効支圧面積
700
650
eP(kN)
600
550
eP=1.2cP
C-13
σc :被覆コンクリート支圧強度
C-19
C-22
3. 柱脚実大実験
C-13H
500
eP=0.8cP
450
3. 1 実験方法
eP=cP
400
被覆型弾性固定柱脚の曲げ強度や変形性能を把握する目
的で,柱脚実大実験を実施した。本実験は,加力フレーム
350
内に固定した鉄筋コンクリート基礎上に被覆型弾性固定柱
300
300
350
400
450
500
550
600
650
700
脚を有する鉄骨柱を設置した試験体の柱上部に水平力と柱
cP(kN)
軸力(鉛直力)を作用させることにより行った(図 5 )。
実験パラメータは,柱サイズ,アンカーボルト径,アン
図4 計算値と実験値の比較
Fig. 4 Comparison of calculated and experimental values
カーボルト本数,柱軸力である(表 3 )。
400
600
330
430
2,400
330
430
(+)
Axial load
(N)
(−)
52
(+)
290
470
594
b)□ 350×350
210
300
850
Concrete
Base plate
Anchor bolt
1,700
(−)
290
470
594
Horizontal load
Column
a)□ 250×250
0
Base plate
210
300
b)□ 150×150
Fixed base
Fixed base
(A)Specimen
(B)Base plate
(単位 mm)
図5 試験体(実大実験)
Fig. 5 Example of a specimen (Column based experiment)
48
日立金属技報 Vol. 27(2011)
被覆コンクリートによる柱脚の強度改善
表3 試験体一覧(実大実験)
Table 3 List of specimens (Column based experiment)
400
25-0
(mm)
ボルト
バンド径
[本数]
(鉄筋呼び)
□ 250×250
M30
[4 本]
D22
□ 350×350
M36
[8 本]
D25
+440
+440
−590
35-T
15-0
N(kN)※
0
35-0
□ 150×150
15-C
M24
[4 本]
D19
25-C
柱軸力
−400
25-T
35-C
300
0
25-0
25-C
補強
Moment M(kNm)
柱サイズ
試験体
アンカー
25-T
200
Yield time point
100
0
−100
−200
−300
−400
0
−50 −40 −30 −20 −10
+440
0
10
20
30 40
50
60
70
Rotation θ(×10−3rad)
※:柱軸力は圧縮が正,引張が負
ベースプレートには,SN490Bの鋼板を,アンカーボル
図6 モーメント−回転角の関係
Fig. 6 Moment-rotation relationships
トにはSD490の異形棒鋼に転造ねじ加工を施したものを使
用し,コンクリート強度は18MPaを使用した。使用鋼材の
イズやアンカーボルト本数等の違いの影響を受けない。こ
材料特性を表 4 に示す。
の傾向は露出型柱脚の実験結果と同様である3)。
加力は,変形を漸増させる正負繰り返し載荷により行い,
被覆型弾性固定柱脚試験体のアンカーボルト降伏時曲げ
柱上部が所定の変形に達する時点で実験を終了した。
モーメントの実験値(eM)と(2)式による計算値(cM)
の比較を図 7 に示す。
(2)式は,アンカーボルトやコンク
部品
ベースプレート
(□ 250×250 用)
ベースプレート
(□ 350×350 用)
ベースプレート
降伏点
引張強さ
(MPa)
(MPa)
SN490B
411
549
SN490B
417
559
材質
SN490B
399
553
アンカーボルト(M30)
SD490
526
703
アンカーボルト(M36)
SD490
533
721
アンカーボルト(M24)
SD490
516
694
(□ 150×150 用)
リートの強度から圧縮力と引張力の応力中心距離を求めて
柱脚部の降伏時曲げ耐力を算出する計算式である3)。
Experimental bending moment
eM(kNm)
表4 材料特性(実大実験)
Table 4 Material characteristics (Column based experiment)
900
●□ 250×250
□ 350×350
■□ 150×150
800
700
eM=1.2cM
600
eM=cM
500
eM=0.8cM
400
300
200
100
0
0
100 200 300 400 500 600 700 800 900
Calculated bending moment
3. 2 実験結果・考察
柱脚部の曲げモーメントと回転角の関係の一例として柱
サイズ 250×250 mm角の3試験体の実験結果を図 6 に示
す。同図中の○印はアンカーボルト軸部降伏に対応する位
置を示す。被覆型弾性固定柱脚は,アンカーボルトの塑
性化で変形が増大する。また,その履歴特性はスリップ
型(傾斜した8字形のような復元力特性)となる。これら
cM(kNm)
図7 アンカーボルト降伏時曲げモーメントの計算値と実験値
Fig. 7 Calculated and experimental bending moment at yield
times of anchor bolt
Dt
Dt
) + Ty・
(2)
cM=Ac・ σc2 ( j−
2
2
cM
:降伏時曲げモーメント計算値
の傾向は露出型柱脚と同様である3)。いずれの試験体も柱
A c :ベースプレート支圧面積
脚回転角θは 0.02 rad 付近でアンカーボルト軸部が降伏し
σc2:コンクリート支圧強度
変形が増大し始め,荷重低下が起こることなく所定の変形
j
に到達した。
Dt :アンカーボルトピッチ
25-0,25-C,25-Tでは,圧縮軸力が大きいほどアンカー
T y :曲げ引張側アンカーボルト降伏耐力
:応力中心距離
ボルト軸部降伏時曲げモーメントと最大曲げモーメントが
大きくなる。この傾向は,図示していない柱サイズ150×
実験値と計算値の比(eM/cM)は,1.00 ∼ 1.27(平均1.09)
150 mm角,350×350 mm角の試験体も同様であり,柱サ
であり,
(2)式は本実験の結果とよく一致する。
日立金属技報 Vol. 27(2011) 49
4. 被覆型弾性固定柱脚の効果
5. 結 言
被覆型弾性固定柱脚(クリアベース)と露出型柱脚(ハ
露出型柱脚よりも高い柱脚強度を発揮する被覆型弾性
イベース・エコ)における最大柱脚曲げ耐力(Mmax)
固定柱脚の開発にあたり,被覆ベースプレート部要素実
と鋼材部品質量(W)の比(Mmax/W)を図 8 に示す。
験と柱脚実大実験を行った。これらの実験結果や露出型
3つの柱サイズ(200×200 mm角,250×250 mm角,300
柱脚との比較結果から被覆型弾性固定柱脚に関する次の
×300 mm角)において,アンカーボルト径,アンカーボ
ルト本数が同様な柱脚型式で比較する。被覆型弾性固定
知見が得られた。
(1)コンクリートによりベースプレートを被覆すること
柱脚のMmax/Wは,露出型柱脚の1.38 ∼ 2.04倍であり,
で,ベースプレートの強度は向上する。また,被覆ベー
被覆型弾性固定柱脚の鋼材部品単位質量当たりの曲げ強
スプレート部の強度は,補強バンド径や補強バンドと
度は露出型柱脚よりも向上している。
ベースプレートの距離に比例する。
(2)被覆型弾性固定柱脚のアンカーボルト軸部降伏時モー
メントは,露出型柱脚と同様に柱脚部に作用する軸力
の影響を受ける。
10
(3)被覆型弾性固定柱脚は,鋼材部品単位質量当たりの曲
Mmax/W(kN・m/kg)
(200×200mm 角)(250×250mm 角) (300×300mm 角)
8
Covered type
+104%
Exposed type
+85%
6
+38%
4
2
EP300-8-30
CB30-830
EP250-8-30
CB25-830
EJ200-4-30
CB20-430
0
Column base
図8 最大柱脚曲げ強度 Mmax−質量 W 比
Fig. 8 Maximum bending strength-mass ratio at column bases
50
日立金属技報 Vol. 27(2011)
げ強度が露出型柱脚よりも向上する。
被覆コンクリートによる柱脚の強度改善
引用文献
田中 秀宣
Hidenori Tanaka
1 )赤尾洋二:品質機能展開活用マニュアル 1 品質展開入門,
pp.2-66,1990.11
2 )田中秀宣ら:アンボンド型アンカーボルトを用いた露出型柱
脚基礎部の応力伝達機構と配筋法,鋼構造論文集,第 9
巻第 34 号,pp.45-56,2002.6
3 )田中秀宣ら:変動軸力を受ける露出型柱脚の曲げ挙動と復
元力特 性,鋼 構造論文集,第 10 巻第 39 号,pp.39-49,
2003.9
日立機材株式会社
テクニカルセンター
博士(工学)
中野 建蔵
Kenzo Nakano
日立機材株式会社
Nプロジェクト
伊藤 倫夫
Michio Itoh
日立機材株式会社
テクニカルセンター
博士(人間環境学)
日立金属技報 Vol. 27(2011) 51