シリーズの紹介

Vol.26 No.1
新タイプIGBTモジュール 低ノイズタイプ
「A」シリーズの紹介
小宮 明*
田中 俊光*
1.はじめに
1.
「Aシリーズ」の特徴
近年,地球規模での環境問題やエネルギーに対する関
・低スイッチング損失 Low Esw
心が高まり,パワーデバイスの低損失化にかけられる期
・新開発ソフトリカバリ特性のファストリカバリダイ
待はますます大きくなっています。さらに,スイッチン
,
オード(FRD)の採用により低損失化(Low VF)
グ速度は,ますます高速化されています。高速化につれ
低ノイズ化(Low Noiz)を実現
てノイズの問題に対する取り組みが求められています。
これらのニーズに応えるべく,弊社ではこのたび新シ
2.定格・特性値
表1に「Aシリーズ」の定格・特性値を示します。
リーズのIGBTモジュールとして「Aシリーズ」を開発
しました。
「Aシリーズ」では,新世代のIGBTチップに
よる低飽和電圧・低スイッチング損失を実現すると共
に,フリーホイーリングダイオードには新開発の低順電
圧ソフトリカバリーダイオードを採用し,発生するノイ
ズを大幅に低減しました。
ここにその概要を紹介します。
定格・特性一覧表 「Aシリーズ」最大定格
Circuit Scheme
E
Type
C
E
G
G2
E2
C2E1
E2
C1
E1
G1
+
+
G1
E1
U
−
G2
E2
G3
E3
V
G4
E4
G5
E5
IGBT
−
toff
300
2.4
0.3
0.12
0.24
500
0.8
400
2.4
0.3
0.085
0.20
500
0.8
600
2.4
0.3
0.06
0.14
650
0.85
0.8
800
2.4
0.3
0.045
0.11
650
0.4
0.7
50
2.3
0.3
0.50
1.00
220
2.6
0.4
0.7
75
2.3
0.3
0.38
0.80
220
2.6
0.4
0.7
100
2.3
0.3
0.31
0.65
220
150
2.6
0.4
0.7
150
2.3
0.3
0.22
0.45
430
200
2.6
0.4
0.7
200
2.4
0.3
0.16
0.38
430
600
300
2.6
0.75
0.8
300
2.4
0.3
0.12
0.24
430
600
400
2.6
0.85
0.8
400
2.4
0.3
0.085
0.20
450
PTMB50A6
600
50
2.5
0.4
0.7
50
2.3
0.3
0.50
1.00
550
PTMB75A6
600
75
2.6
0.4
0.7
75
2.3
0.3
0.38
0.80
550
PTMB100A6
600
100
2.6
0.4
0.7
100
2.3
0.3
0.31
0.65
550
PTMB150A6
600
150
2.6
0.4
0.7
150
2.3
0.3
0.22
0.45
550
PHMB300A6
600
300
2.6
0.75
0.8
PHMB400A6
600
400
2.6
0.85
PHMB600A6
600
600
2.6
0.85
PHMB800A6
600
800
2.6
PDMB50A6
600
50
2.5
PDMB75A6
600
75
PDMB100A6
600
100
PDMB150A6
600
PDMB200A6
600
PDMB300A6
PDMB400A6
表1 「A」シリーズの特性一覧
7
IGBT
FWD
Weight
trr
IC
IF
Rth(j-c)
VF
VCE(sat)
ton
VCES
W
G6
E6
FWD
Vol.26 No.1
VGE=15V
400
3.IGBTの特性
TC=25℃
1)出力特性
ゲート電圧をパラメータとした出力特性を図1に示し
ます。定格電流における飽和電圧VCE
(sat)
は,
「Tシ
リーズ」の2.6Vに対「Aシリーズ」では2.1Vと特性改善
300
コレクタ電流IC(A)
的な特性を従来品「Tシリーズ」と比較し紹介します。
125℃
350
400A/600V定格のPDMB400A6型を例にとり,代表
250
200
150
100
が進みました。又,実使用領域(定格電流の60%)では
50
2.0Vが1.8Vと低くなり,従来のTシリーズと比較して、
0
0
約10%の低飽和電圧化=低損失化を実現しました。
0.5
TC=25℃
800
12V
VGE=20V
700
1
1.5
2
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
2.5
図2(a)Tシリーズ 出力特性(Tc=25℃/125℃)
10V
15V
VGE=15V
400
TC=25℃
500
9V
125℃
350
400
300
300
コレクタ電流IC(A)
8V
200
100
7V
0
0
2
4
6
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
8
10
VGE=20V
150
50
0
0
TC=25℃
700
200
100
図1(a)Tシリーズ 出力特性(Tc=25℃)
800
250
0.5
1
1.5
2
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
2.5
3
12V
図2(b)Aシリーズ 出力特性(Tc=25℃/125℃)
15V
10V
600
3)ゲート特性
500
ゲートチャージの波形を図3に示します。ゲートチャ
400
ージは,ドライバ回路の電源電圧やキャリア周波数と共
9V
300
リーズ」では「Tシリーズ」の後継機種として従来の特
200
8V
100
性に近づけた設計を行いました。
400
7V
2
4
6
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
8
10
図1(b)Aシリーズ 出力特性(Tc=25℃)
2)温度特性
高温時の飽和電圧を実使用領域(定格電流の60%)レ
ベルで比較しますと,「Tシリーズ」では2.1Vに対し
「Aシリーズ」では1.7Vと約20%の低損失化が可能とな
りました。これらを図2(a)
,
(b)に温度をパラメー
タとした出力特性を示します。
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
0
0
にドライバ回路の電力損失に影響を与えますが,
「Aシ
350
16
RL=0.75Ω
TC=25℃
14
300
12
250
10
8
200
VCE=300V
6
150
VCE=200V
100
4
VCE=100V
50
0
0
ゲート−エミッタ間電圧VGE(V)
コレクタ電流IC(A)
600
コレクタ電流IC(A)
3
2
600
1200
0
1800
ゲート電荷Qg(nC)
図3(a)Tシリーズ ゲートチャージ特性
8
Vol.26 No.1
350
RL=0.75Ω
TC=25℃
16
この問題を解決するため,一般的にはターンオン時の
14
ゲート抵抗を大きくする等の手法が用いられますが,こ
300
12
250
10
8
200
VCE=300V
6
150
VCE=200V
4
100
VCE=100V
50
0
0
ゲート−エミッタ間電圧VGE(V)
コレクタ−エミッタ間電圧VCE(V)
400
2
600
1200
0
1800
れはスイッチング損失の増大を招き,総合的な損失を増
やすこととなり,動作周波数の制約に繋がります。
「Aシリーズ」ではこのターンオン時にノイズの発生
がほとんどなく,「Tシリーズ」で使用していました
FRDと比べ低ノイズ化を実現しました。
また,
ターンオフ動作ではテール部分の損失が小さく,
スイッチング損失につきましても「Tシリーズ」と比較
して,大幅な改善を図っています。
ゲート電荷Qg(nC)
図3(b)Aシリーズ ゲートチャージ特性
4)誘導負荷スイッチング特性
VCE
誘導負荷・ハーフブリッジ回路でのスイッチング波形
のターンオン波形を図4
(a)
,
(b)
に,ターンオフ波形
を図5
(a)
,
(b)
に示します。
条件
IC=400A
VCC=300V
RG=8.
2Ω
Tj=125℃
IC:
100A/div
VCE:
50V/div
t:
200ns/div
IC
ターンオン時には対向アームに流れるフリーホイーリ
GND
ングダイオード(FWD)の逆回復電流が重畳され波高
Eoff
値の高い電流が流れます。この際に発生するノイズが周
辺機器や制御機器に対してコモンモードノイズとなって
図5(a)誘導負荷 Tシリーズ ターンオフ波形
誤動作を引き起こす原因にもなります。
IC
条件
IC=400A
VCC=300V
RG=8.
2Ω
Tj=125℃
IC:
100A/div
VCE:
50V/div
t:
200ns/div
VCE
条件
IC=400A
VCC=300V
RG=8.
2Ω
Tj=125℃
IC:
100A/div
VCE:
50V/div
t:
200ns/div
IC
GND
VCE
GND
Eoff
Eon
図5(b)誘導負荷 Aシリーズ ターンオフ波形
図4(a)誘導負荷 Tシリーズ ターンオン波形
スイッチング損失はターンオン,ターンオフを繰り返
IC
条件
IC=400A
VCC=300V
RG=8.
2Ω
Tj=125℃
IC:
100A/div
VCE:
50V/div
t:
200ns/div
VCE
GND
すたびに発生する損失で,一般にスピードが速いほど損
失が小さく,高周波での駆動が可能となります。しかし,
スイッチングスピードと飽和電圧はトレードオフの関係
にあり,両方を同時に改善することはできません。
「A
シリーズ」では従来の「Tシリーズ」と比べIGBTチッ
プの微細加工を進め,セルサイズを約半分に縮小しまし
た。このことによって,低飽和電圧を実現すると共に,
Eon
高速動作を可能としました。
図6にコレクタ電流とスイッチング損失,図7に外部
図4(b)誘導負荷 Aシリーズ ターンオン波形
ゲート抵抗によるスイッチング損失の特性カーブを示し
ます。
9
Vol.26 No.1
外部ゲート抵抗を同じ値にした場合,
「Aシリーズ]
100
は「Tシリーズ」よりも若干ターンオン時のスイッチン
50
形のようにターンオン時のノイズの発生がないため,
「Tシリーズ」よりも小さなゲート抵抗でドライブする
ことが可能となり,総合的には損失を低減することがで
きます。
スイッチング損失ESW(mJ)
グ損失が大きくなりますが,先程のスイッチング動作波
TC=25℃
30
10
ESW(on)
5
1
1
10
ゲート抵抗RG(Ω)
ESW(off)
20
図7(a)Tシリーズ ゲート抵抗とスイッチング損失
15
100
10
ESW(on)
50
5
0
0
100
200
コレクタ電流IC(A)
300
400
図6
(a)Tシリーズ コレクタ電流−スイッチング損失
TC=25℃
30
VCC=300V
RG=1.6Ω
25 VGE=±15V
スイッチング損失ESW(mJ)
スイッチング損失ESW(mJ)
ESW(off)
20
2
VCC=300V
RG=2.7Ω
25 VGE=±15V
スイッチング損失ESW(mJ)
TC=25℃
VCC=300V
IC=400A
VGE=±15V
TC=25℃
VCC=300V
IC=400A
VGE=±15V
ESW(off)
20
10
5
ESW(on)
2
1
1
10
ゲート抵抗RG(Ω)
ESW(off)
20
図7(b)Aシリーズ ゲート抵抗とスイッチング損失
15
4.フリーホイーリングダイオードの特性
10
ESW(on)
1)フリーホイーリングダイオードの順電圧特性
5
図8にフリーホイーリングダイオードの順電圧特性を
0
0
100
200
コレクタ電流IC(A)
300
400
図6
(b)Aシリーズ コレクタ電流−スイッチング損失
示します。
フリーホイーリングダイオードの損失もスイッチング
回路で発生する損失の大きな要因となります。
「Aシリーズ」では新規開発のFRDを採用することに
よって順電圧の増大を押さえ,従来の「Tシリーズ」
とほぼ同じ1.9Vを達成できました。
10
Vol.26 No.1
800
TC=25℃
125℃
IF
700
順電流IF(A)
600
500
条件
IF=400A
Tj=25℃
-di/dt=800A/μs
IF:
100A/div
t:
200ns/div
400
300
GND
200
100
0
0
1
2
3
図9(a)Tシリーズ ダイオード逆回復特性
4
順電圧VF(V)
図8(a)Tシリーズ ダイオードの順電圧特性
IF
800
TC=25℃
700
125℃
条件
IF=400A
Tj=25℃
-di/dt=800A/μs
IF:
100A/div
t:
200ns/div
順電流IF(A)
600
500
GND
400
300
200
図9(b)Aシリーズ ダイオード逆回復特性
100
0
0
1
2
3
4
順電圧VF(V)
図8(b)Aシリーズ ダイオードの順電圧特性
5.モーター負荷での損失比較
正弦波PWMインバータ回路を想定し,従来の「Tシ
リーズ」と[Aシリーズ]の各タイプを次の条件で,平
2)フリーホイーリングダイオードの逆回復特性
図9にフリーホイーリングダイオードの逆回復時の波
形を示します。
「Tシリーズ」では逆回復時間が短いものの,逆回復
均電力損失を試算してみました。
試算条件(線形近似による簡易式を用いています)
・モーター容量:45kW
・出力電流の最大値:230A
時に大きな振動電圧を発生させています。これら,ノイ
・電源電圧:AC200V
ズの発生要因をなくすため,
「Aシリーズ」には新規に
・デュティー:50%
開発しましたソフトリカバリFRDを採用しました。
・PWMキャリア周波数:20kHz
ここでも誘導負荷回路でのターンオン波形と同様に,
ノイズの発生を抑制していることが判ります。
「Aシリーズ」では「Tシリーズ」並に順電圧を低く
抑えたまま,逆回復時のソフト性を増しています。
・出力正弦波の力率:0.8
損失の内容はIGBTチップの飽和電圧によって発生す
る定常損失とスイッチング時に発生するスイッチング損
失とフリーホイーリングダイオードによって発生する損
失を合計したものです。尚,飽和電圧やスイッチング損
失など,全ての項目は125℃での値を用いています。
図10に20kHzでの平均電力損失試算のグラフをTシリ
ーズ,Aシリーズを比較して示します。
図11にキャリア周波数による電力損失を,
Tシリーズ,
Aシリーズを比較して示します。
11
Vol.26 No.1
45kW三相200V正弦波PWMインバータの平均電力損失試算
Vcc=300V, fc=20kHz, duty=50%, 力率:0.8, ICP=230A
250
ゲートの入力容量CiesやゲートチャージQgが若干増大
するため,ゲートドライバーの負担が増えますので,設
計に当たられては配慮が必要となります。
平均電力損失(W)
200
以上,当社の新タイプIGBTモジュール「Aシリーズ」
30
29
の概要を紹介しました。
「Aシリーズ」では中容量から
150
ダイオード損失
104
スイッチング損失
88
定常損失
100
大容量まで多彩なラインナップを取りそろえ,用途にあ
った最適なモジュールを選択できるよう準備していま
す。
パワーデバイスには,常に低損失化・低ノイズ化の優
50
77
69
れた製品が求められています。当社では市場のニーズに
0
応えるべく,高性能・高信頼性の製品の開発に力をそそ
当社従来品との比較
図10
平均電力損失試算(20kHz)
ぐ所存です。尚,ご意見・ご要望等がございましたら営
業窓口または弊社カスタマーサービスグループへご用命
願います。
IGBT モジュールの電力損失比較
45kW 三相 200V 正弦波インバータの試算結果
Vcc=300V, VGE=±15V, duty=50%, 力率:0.8, ICP=230A
Tj=125℃
2000
損失(W)
1000
500
200
実線:PDMB400T6
破線:PDMB400AH6
100
50
0.1 0.2
図11
0.5
1
2
5 10
周波数(kHz)
20
50 100 200
キャリア周波数−電力損失
高周波でスイッチング動作させた場合、発生する損失
はIGBTの飽和電圧やフリーホイーリングダイオードの
IGBTモジュール Aシリーズ外観
順電圧に起因する定常損失にとスイッチング損失の和と
なります。
20kHzでの試算結果から「Aシリーズ」では,
「Tシ
リーズ」と比較して約13%の損失低減が可能となりまし
た。
スイッチング損失につきましては,高周波になるほど
低電力化の効果が大きく現れてきます。
6.まとめ
∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼
* 筆者紹介
小宮 明 Akira Komiya
1973年入社 現在,生産本部 モジュール技術部
勤務
田中 俊光 Toshimitu Tanaka
1996年入社 現在,生産本部 モジュール技術部
勤務
「Aシリーズ」は従来の「Tシリーズ」の後継機種と
して開発いたしました。
「Tシリーズ」からの置き換え
によって,次のような特徴を見いだすことが出来ます。
まず,定常損失やスイッチング損失が低減し,発生す
る損失が小さくなり,装置の効率を上げられます。
次にスイッチングによるノイズの発生が無いため,小
さいゲート抵抗でドライブすることが可能となり,より
一層スイッチング損失を低減することが可能です。
反面,
12