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技術紹介 12 屋内環境中での金めっきコンタクトの腐食状態について
技術紹介
12 屋内環境中での金めっきコンタクトの腐食状態について
Corrosion on Gold Contacts in Indoor Atmosphere
新谷 唯志
Tadashi Shintani
コネクタ事業部 生産技術部 エグゼクティブマネージャー
キーワード: 屋内環境、腐食、金めっき
Keywords : indoor environment, corrosion, Au plating
要 旨
電気的な接続離脱を目的とするコネクタは、接触機
能としてのコンタクトが大気下に曝された状態で使用
されるという特徴があります。そのため、接触表面の
耐食性維持が重要なテーマとなっています。一般的に
は使用状況を考慮し、コンタクトに対し各種の耐食性
(環境)試験を行うことで性能を確認しています。実
際環境より厳しい状況を想定しての環境試験ですが、
必ずしも使用状況をシミュレートできているとはいえ
ません。その意味では、コネクタの使用される環境で
のコンタクト表面の経時的状態を知ることは非常に重
要なことと言えます。これまで、いろいろな表面処理
を行ったコンタクトを用い、実際に近い使用環境での
表面状態の調査を実施してきました。その中から、金
めっきコンタクト(試片)を屋内環境中で 1 年間暴
露した結果を紹介します。封孔処理など耐食性向上の
ための処理のない表面状態では、多くの腐食物が発生
し、その生成物は下地層からのニッケルおよび素材か
らの銅の塩化物、酸化物、炭酸塩などの化合物が見ら
れました。また、金表面からは窒素とイオウの化合物
である硫酸アンモニウムの生成が多く見られ、一般的
な耐食性試験とは異なる状況が生じていることがわか
りました。
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SUMMARY
Connectors used for electrical connection and
disconnection have a character that their contacts for
connecting are used under the condition exposing
to the atmosphere. Accordingly, corrosion inhibition
of contacting interface is an important issue.
Performance against corrosion is generally verified
by a variety of corrosion (environmental) tests
considering actual usage conditions. Although such
corrosive environmental tests are conducted under
the more severe conditions than those in actual use,
they do not always simulate properly the actual use
condition. From such aspect, it is very important to
know temporal change of contact surface under the
actual use condition of connectors. We have long
studied surface states in more realistic use conditions
using contacts having various surface treatments.
From those studies, we present here the result of
the test case that Au plating contacts (specimen)
were exposed to indoor environment over one year.
Much corrosive emerged on the surface with no
treatment for corrosion resistance improvement
such as inhibiting treatment. Compounds such as
chlorides, oxides and carbonates derived from nickel
of underlayer and copper of base material were
observed. In addition, generation of ammonium
sulfate, a compound of nitrogen and sulfur, was
widely seen on the Au surface. These results show us
that the changes are different from those by general
corrosion resistant tests.
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技術紹介 12 屋内環境中での金めっきコンタクトの腐食状態について
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1 まえがき
電気的な接続離脱を目的として使用されるコネクタは、非常に多くの機器に使用されそ
の用途は拡大しているといえます。その機能の中心となるのはコンタクトであり、これは
使用環境の大気下に開放されるという特徴があります。屋内環境の中で使用されるものも
あれば、屋外で使用されるものもあります。更に、そのいずれの環境にも繰り返し曝され
るものもあります。また、地域的な違いや周辺物の要素も加わり、大気下としてもそれぞ
れに特徴を持った状況の下に暴露されるということが言えます。コンタクト表面は大気と
の接触により、大気中の水分、ガス成分、環境汚染物質などの吸着や反応が生じます。そ
の結果、変色や腐食が発生します。これらにより生じた生成物等は接触障害となり、コネ
クタとしての機能が損なわれることになります。
そのため、発生を抑えるための処理(封孔処理、後処理など)が行なわれるのが一般的
であり、その内容はメーカーのノウハウとなっている部分です。コンタクトの環境中での
耐食性を調べるために、一般的には各種の腐食(環境)試験が代替として行なわれます。
しかしながら、これらの試験により生じた腐食や変色状況は、必ずしも実際の使用環境で
の腐食などと一致していないことが経験より分かっていました。
そのため、より実際に近い環境中での状況を調べるため、一般大気中での暴露試験を実
施しています。その中から、屋内環境中での 1 年間の長期暴露した場合の金めっきコン
タクト(試片)の腐食状況を紹介します。
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2 放置試験方法
金めっきした試片を、選択した 3 つの屋内環境中に 1 年間暴露放置し、回収後その表
面状態を解析しました。尚、金めっき表面には封孔処理等特別な処理を行っていないもの
を基本として実施しました。
試験サンプル:金めっきを行った試験片 硬質金(Au)めっき 0.15 μ m /下地ニッケル(Ni)2.5 μ m /
素材 リン青銅(C5210)
封孔処理等の処理なし。
10 × 23 × 0.3t mm の板状試片を用いた。
屋内環境 :3 つの代表的環境(サイト)を選択しました。 a 実験室環境(5 階建てビルの 2 階部分)
b オフィス環境(5 階建てビルの 3 階部分)
c 居住環境(8 階建て集合住宅 1 階部分)
いずれも、東京都多摩地区。
暴露期間 :1 年間 (4 月スタート∼翌年 3 月末回収)
サンプルはダストなど異物の堆積を避けるためカバー等の保護をしました。
b 環境の試験風景を写真 1 に紹介します。
写真 1 b オフィス環境試験風景
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3 1年間の放置後の状況
3.1 外観の変化
試験後の各サンプルを目視、光学顕微鏡および電子顕微鏡(SEM)等により観察しま
した。いずれの環境サイトの試片においても外観の変化が生じ、多くの腐食物と思われる
生成物が見られました。各環境サイトでの外観特徴を下記に示します。
a 実験室環境
多くの腐食物の発生が見られます。大きく成長したものが多く、緑色系、白色系で
透明∼半透明感があり、大きく盛り上がっています。
その生成物の周辺を黄色∼オレンジ色のシミ状のものが広がっています。
また、それらの他に表面上に微小の生成物が密集して存在しているのがわかります。
b オフィス環境
多くの腐食物が発生しています。しかし、小さく半球状のものが多く見られます。
生成物は緑色系∼黒色系で透明∼不透明感があります。
この物質の周りを同様に黄色∼オレンジ色のシミ状のものが広がっています。
表面上には、微小の生成物が見られますが、a 環境よりは少ない状態です。
c 居住環境
多くの腐食物が発生しています。同様にそれらは緑色系∼黒色系で透明∼半透明感
があります。
さらにその周辺をシミ状のものが広がっています。
a 環境と同様に表面上に微小の生成物が密集して存在しています。
各放置環境での代表的腐食状況を写真 2 に示します。いずれの表面も初期状態にあっ
た光沢は無くなっており、黒っぽい腐食物の生成が見られます。
実験室環境
オフィス環境
住居環境
写真 2 光学顕微鏡観察例
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次に代表的な腐食物の形態を写真 3 に示します。
実験室環境
オフィス環境
住居環境
写真 3 光学顕微鏡観察例 腐食物の拡大
腐食物発生点以外の周辺表面部分に見られる微小生成物の例を写真 4 に示します。表
面の無光沢化はこの金表面上の微小生成物の発生に起因していると言えます。オフィス環
境の試片上にも非常に微量ですが、同様な生成物が観察されます。
実験室環境
オフィス環境
住居環境
写真 4 光学顕微鏡観察例 腐食物の周辺部
3.2 腐食物等の分析
電子顕微鏡 EDS 分析にて腐食物の元素分析および 2 次元的な元素分布状態を調べまし
た。分析は、生成物の形態変化を避けるため、低真空状態にて行いました。腐食物の状態
の観察から、各放置環境により生成物の大きさに差がありましたが、
おおむね大きく発生し
た物、
小さめの物に区分しました。その検出された元素の量的な状態例を表 1 に示します。
(分析条件は同様になるように実施していますが数値の定量性は検証していません。)
表 1 各放置環境における腐食物の検出元素の濃度[原子 %]
大きい腐食物
小さい腐食物
atomic%
C
O
Cl
Ni
Cu
Au
実験室環境
̶
57.0
7.7
24.1
5.5
5.7
オフィス環境
26.3
45.1
2.3
21.1
̶
5.1
住居環境
37.2
43.8
2.3
10.2
3.3
3.3
実験室環境
̶
56.5
8.2
19.2
7.9
8.3
オフィス環境
38.7
41.3
4.6
9.1
3.0
4.3
住居環境
38.7
42.2
̶
9.4
4.8
4.9
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いずれの環境サイトの腐食物からも表 1 以外の元素は検出されませんでした。特に、環
境汚染物質にかかわる窒素(N)やイオウ(S)の存在は明確には確認できませんでした。
分析結果から、以下のような特徴および各放置サイト間の違いが見られます。
①分析した各環境サイトのどの生成物からもニッケル(Ni)が検出され、金皮膜下地か
らの Ni の溶出が生じたことが分かります。
②素材からの銅(Cu)については、検出された腐食物も多くありましたが明確には存在
を確認できない物もありました。特にオフィス環境においては、検出しないものが多く
ありました。
③金属元素のほかに、C(炭素), O(酸素), Cl(塩素)が検出されましたが、実験室環境
においては、C の存在は非常に少なく検出されない場合が多くありました。それに対し
て、オフィス環境 , 居住環境においては、C は多く存在し、環境サイト間での大きな違
いが見られました。
④また、Cl については、逆に実験室環境では存在量は多い状態でしたが、オフィス , 居住
環境では少ないという違いが見られました。O はいずれの腐食物にも多く存在してい
ました。
各環境サイトでの代表的腐食物の元素分布状態を図 1 ∼ 3 に示します。
(より黄色∼赤
色に着色している部分が高濃度状態を示し、またより青色部分は低濃度状態を示します。
)
図 1 a 実験室環境
Ni と Cu の溶出が見られます。O は全体に存在しますが、Cl は腐食物の中央部を主体に
局部的に多く存在しています。また、C は Cl の少ない部分に多く存在しているのが分か
ります。
図 2 b オフィス環境
Ni の存在に比べ Cu は腐食物の周辺にわずかに分布しています。O は腐食物の全体に存
在していますが、C と Cl は存在量の多い場所が異なっています。
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図 3 c 居住環境
Ni は腐食物全体に分布していますが、Cu は周辺に広がって存在しています。シミ状の部
分と対応しているのが分かります。また、O と C の分布はよく対応していますが、Cl は
非常に少ないと言えます。
次に、金表面上に密集して存在している微小物の元素分布状態を図 4 に紹介します。
図 4 c 居住環境
微小の斑点状のものからは、O N S が検出され、Ni,Cu 等の金属元素は検出されませ
んでした。腐食生成物ではないということが分かります。
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4 考察
4.1 腐食物の内容について
酸素(O)はすべての腐食生成物に存在しましたが、塩素(Cl)は局部的に分布し、ま
た、環境サイト間において量的な差もありました。炭素(C)は b 環境と c 環境サイト
では O の分布と良く一致していました。この結果より、腐食物は単一の化合物ではなく、
少なくとも塩素と係わる塩化物系の物質が存在し、また、C と O の分布対応性から部分
的には炭酸塩系化合物としても存在していると考えられます。C と O の存在は大気汚染
源の一つである CO2 に起因すると考えられ、これは、人の呼吸に関係していると推測で
きました。このことに関して、放置期間中での大気の CO2 濃度状態を分析した値を比較
しました。その結果、a 環境(CO2:350 ∼ 450ppm)にくらべ、b 環境(CO2:750 ∼
800ppm)では 2 倍近い高い濃度であることがわかりました。a 環境と b 環境では人の
密度などが違っており、人の呼吸による影響が腐食の一因にもなることが推定できました。
塩素の存在量の違いについては、明確な理由は見つかりませんでした。放置環境にある家
具や内装の違いにかかわる可能性もあります。その他腐食化合物としては、酸素の量から
さらに酸化物系としても存在しているものと思われます。
4.2 腐食発生ポイント
腐食の発生は、めっき皮膜中の
ピンホールや素材の状態などに影
響して生じるめっき欠陥部を起点
としています。今回の試験におい
て発生した腐食も同様であると思
われます。表面上の腐食物を排除
すればその発生ポイントが現れま
す。その例を写真 5 に紹介しま
す。腐食物の中心部をうまく除去
するとその下から発生起点となっ
た丸い穴が現れました。発生初期
にあった欠陥部は非常に小さいも
のであったと予想されます。 Copyright c 2008, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
写真 5 腐食物除去後の表面 組成像
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4.3 金表面上の微小生成物の解析
量的な差はありましたが、各環境サイトのすべてに見られたこの微小な生成物が何であ
るのかについて、解析した結果を紹介します。
まず、元素分析により、存在する元素が何であるかを調査した結果、上記の元素分布状
態例のように金属としての Ni,Cu は存在せず、O とわずかながら N と S が検出され、そ
れらが主な構成元素であることをつかみました。すなわち腐食物ではないと推定できまし
た。一般環境中には二酸化イオウ(SO2)や二酸化窒素(NO2)など環境汚染物質が存
在することは良く知られていますが、腐食物中には N や S が認められず、その周辺の表
面上に存在しているのはなぜなのか不思議でした。すなわち、これらの元素は腐食発生に
は関与していないこということが言えました。
次に表面上の分析として FT-IR を用い化合物としての状態を調査しました。その結果、
どのサイトでの微小生成物もほぼ同じような物質であり、それらは、検討の結果硫酸アン
モニウムに近似していることをつかみました。分析例を図 5 に示します。
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FT-IR microscope reflection
図 5 FT-IR 顕微測定
更に表面上の微小生成物を溶解させ、イオンクロマト分析を行いました。その例として
実験室環境にて 4 ヶ月間放置したサンプルを分析した結果を表 2 に紹介します。試料を
水の中に静かに浸漬させその溶液を分析した結果、液中からアンモニウムイオン(NH4 +)
と硫酸イオン(SO 4 2− )が同定されました。また、その濃度比は硫酸アンモニウム
((NH4)2SO4 )とほぼ同様であることを確認しました。
表 2 イオンクロマト分析結果
+
ppm
2−
NH4
SO4
NH4/SO4 比
金めっき試片(18.5cm )
1.946
5.41
0.36
硫酸アンモニウム
̶
̶
0.375
2
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このように、試料表面上には環境サイト間で量的差はありますが、多くの硫酸アンモニ
ウムが生成していることがわかりました。実は、金系合金表面に硫酸アンモニウムが生成
すること、またそれが接点障害となることが 30 年以上前に確認されていました。これは、
電話交換機のリレー接点上で大気汚染ガスとしての SO2 とインシュレーターに使用され
たフェノール樹脂からのアンモニアガスにより、さらに汚染ガスとしての NO2 の酸化促
進作用により生成するとされたものでした。1)2)3)同様のことが今回の放置試験におい
て生じていたと考えられますが、サンプル近くにはフェノール樹脂はなくアンモニアの存
在がどこから来るのかが疑問でした。調査の結果、試験環境中に出入りする人の身体が放
出源であることをつきとめました。人は多くのアンモニアを放出しています。また、簡易
的なガス検知試験から SO2 ガスの存在は確認されましたが、NO2 については確認できま
せんでした。しかしながら、大気中の SO2 ガスと人からのアンモニア(NH3)により、
さらには大気中の水分(H2O)の存在により金表面上に硫酸アンモニウムが生成したも
のと推定できます。
純金プレート表面上で発生
した硫酸アンモニウムの生成
状況を参考に写真 6 に紹介し
ます。純金表面においても生
成が見られることより、金と
ガス因子さらに水分子との吸
着作用等が関与していること
が推定できます。
(実験室環境にて 4 ヶ月間の
放置後)
写真 6 純金プレート上の硫酸アンモニウム
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4.4 放置環境について
今回長期放置に選定した環境は、つぎのような特徴がありました。
a 実験室環境(5 階建てビルの 2 階)
化学実験、機器分析等を行っている部屋であり、薬品等を多く使用しています。また、
排気ダクトがあり換気されています。空調設備もありますが、外気も入る状態でした。
人の出入りはありますが、人数的には多くはありません。
b オフィス環境(5 階建てビルの 3 階)
日中の人口密度は 3 つの環境サイトの中で最も大きいと言えます。 空調はされてい
ますが、換気のため窓を開けることもありました。PC など事務機器等も多く稼動し
ています。
c 居住環境(8 階建て集合住宅 1 階)
1 階ではありますが地上部から 1.5m ほど床が上がっています。冬場は、ガス系暖房
器具を使用していました。放置場所は、南側リビングで、床から 1.6m 部分にサンプ
ルが放置されました。居住人数は 5 人でした。
また、1 年を通しての温度と湿度の変化状態をグラフ 1 ∼ 3 に紹介します。乾燥の時
期と湿度の高い時期が 1 年の中にあり、特に湿度 70% 以上の高い時期が 6 ヶ月以上あ
ることが分かりました。この期間にはサンプル表面上で結露が生じやすい状況にあったと
思われます。腐食の発生は、電解質溶液を介して、異種金属間に電池が形成されることよ
り発生します。電解質溶液は、金属表面上に生成する吸着水あるいは結露であり、それに
ガス成分等が溶解することで生じると言えます。異種金属は今回の場合、金とニッケルや
銅などと言えます。それらが、ピンホール等を通じて電池が形成されることで、ニッケル
や銅が溶解する腐食が発生します。従って、高湿状態の時期は腐食発生環境が整っている
と言え、接点表面としては理想的には相対湿度 50% 以下であることが望まれます。
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グラフ 1 各放置環境中の温度変化
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グラフ 2 各放置環境中の湿度変化
5 まとめ
今回、3 ヶ所における屋内環境中の 1 年間放置後の金めっき表面の変化状況を紹介し
ました。発生した腐食物の内容やその他生成していた微小斑点状の硫酸アンモニウムの存
在などから、意外な影響因子や作用が確認できました。知見をまとめると以下のようにな
ります。
①腐食因子としては、塩素(Cl)と二酸化炭素(CO2)の関与が推定できました。CO2
は環境中での人の呼吸に起因するものと考えられます。
②腐食以外に金表面上に、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4 )が生成していました。大
気中の二酸化イオウ(SO2)と人からのアンモニア(NH3)が関与して生成したもの
と推定できます。今回の試料の表面上からは二酸化窒素(NO2)や硝酸イオン(NO3−)
等の存在は確認できませんでした。
③腐食物の組成より、重要な腐食因子として知られる SO2 と NO2 は腐食発生に関与し
ていないということが言えました。ただし、雰囲気中での NO2 の存在はガス検知試験
では確認できませんでした。
④腐食の発生の要因となる湿度状態は、1 年を通じて大きな変化があり 70% 以上の状態
が 6 ヶ月以上もありました。
腐食物の発生は接点として障害になりますが、硫酸アンモニウムの生成も問題となりま
す。ただし、コネクタにおいては接点摺動要素があるため、割合排除されやすといえます。
しかし、特に固化しているものの場合では、接触部に介在する可能性があるため、生成を
抑制する必要があると言えます。そのためには、金表面を封孔処理すること等で保護する
必要があると言えます。
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6 むすび
今回の結果を含めより多くの調査内容から、コネクタ接点の使用環境中での状況の把握
に努めて行きたいと考えています。また、その結果を踏まえ、より安定な接触表面状態を
維持するための方法の開発も続けていきます。
7 参考文献
1)S.Yamazaki T.Nagayama Y.Kishimoto and N.kanno:“Investigation of
Contact Resistance of Open Contacts Covered by Ammonium Sulfates
Films”, Proceedings of the 8th ICECP, p.281 (1976)
2) 谷 井 琢 也 川 口 武 徳 :“ 接 点 材 料 表 面 へ の 硫 酸 ア ン モ ニ ウム の 付 着(1)”,
EMD94-55,12,p.25(1994)
3)青木武 :“リレー接点の環境劣化とその抑制法”
, EMD2001-5,5, p.1(2001)
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