機器内光接続用フロントプレーンコネクタ

技術紹介 5 機器内光接続用フロントプレーンコネクタ
技術紹介
5 機器内光接続用フロントプレーンコネクタ
Front-Plane Connector for Optical Interconnection
白鳥 雅之
Masayuki Shiratori
中央研究所 研究開発部 主任
藍原 周一
Shuichi Aihara
中央研究所 研究開発部 電子技術シニアマーネジャー
キーワード: 光コネクタ、光ファイバ、光伝送
Keywords : optical connector, optical fiber, optical transmission
要 旨
SUMMARY
高速・大容量プラットフォーム機器に対応すべく、
筐体内のボード内/ボード間の光接続用光コネクタを
開発しています。本報告の“フロントプレーンコネク
タ”は、従来の筐体背面(バックプレーン)光接続で
はなく、筐体前面(フロントプレーン*)光接続を可
能にすることで、メンテナンス性の向上、放熱効果の
向上、操作性の向上を図ることを特長としています。
We have proposed a novel optical connector,
named “front-plane connector*”, for board-to-board
interconnection used in high-capacity platform
instruments such as blade-servers and routers. The
front-plane connector is installed at the front of the
instrument chassis, which facilitates maintenance,
heat dissipation, and usability, in contrast to the
conventional backplane connectors.
*一般名称ではありませんが、本報告では筐体背面での接続(バッ
クプレーン)に対して筐体前面での接続を“フロントプレーン”
と称します
(*) : This is not a general term. However we refer to the
connector installed at the front of chassis as “front-plane
connector” in contrast to the back-plane connector.
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航空電子技報 No.31(2008.3)
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1 まえがき
プラットフォーム機器のバックプレーンに要求される信号容量は、数年後に数 Tbps
に達すると予測され、機器内の光伝送が期待されています。従来提案されている“バック
プレーンに光接続を搭載する構造”では、接続部が筐体奥にありメンテナンスが煩雑なこ
と、筐体内エアフローの放熱効率低下など、課題が残されていました。
そこで機器背面(バックプレーン)ではなく、機器前面(フロントプレーン)に光接続
が搭載可能になれば、上述の課題を解決できます。このように筐体前面(フロントプレー
ン)への光接続搭載のソリューションとして提案するのが、本報告の“フロントプレーン
コネクタ”です。
2 本論
2.1 開発の背景
近年、プラットフォーム機器 ( サーバ/ルータなど ) においては、情報処理の並列化に
加えて、機器の柔軟性、拡張性、冗長性の観点から、ブレード構造が採用される傾向にあ
ります。ブレード構造は、インターフェースやスイッチを搭載した複数のボードとそれら
のボード間を接続するバックプレーンから構成されています。
信号容量の大容量化に伴い、ブレード構造内のバックプレーンに要求される信号容量は
年々倍増しています。現状では電気接続により 10G ∼数百 Gbps の信号容量が伝送され
ていますが、数年後には数 Tbps 超の高速・大容量の信号容量が必要になると予測されて
います [1]。この要求に対して、従来の電気伝送では伝送性能の限界/スペースの限界/
冷却性能の限界に達するといわれ、光伝送に期待が高まっています。
従来提案されている光バックプレーン構成は、筐体の規格によって予め用意されている
拡張エリアにファイバーシートを組込み、電気バックプレーンと一体で光接続を筐体背面
に搭載する構成です [2]。しかしながら、この構成では 2 つの課題が残されています。第
1 の課題は、メンテナンスの煩雑さです。ボード間隔が狭く光接続が筐体の奥にあるため、
システムを停止させないで光接続面をクリーニングすることが難しくなります。つまりメ
ンテナンス性・冗長性が低下します。第 2 の課題は、放熱効率の低下です。筐体内部では狭
い間隔で多数のボードが収納されるので、放熱のために効率の良いエアフローを確保する
必要があります。しかし高速・大容量によるボードの発熱の増加に加え、拡張エリアへの光
接続の搭載により筐体背面のほとんど全面が塞がれ、放熱効率の低下をまねいています。
これらの課題に対するソリューションの 1 つとして、筐体前面に光接続を搭載可能と
する“フロントプレーンコネクタ”を開発しましたので報告します。
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2.2 開発コンセプト
ブレード構造の機器内光接続の一例を、Fig-1 に示します。各ボードとファイバーシー
トを接続する多芯光コネクタが、本報告の“フロントプレーンコネクタ”です。
Fig-1 フロントプレーンによるブレード構造機器内の光接続例
フロントプレーンコネクタの開発コンセプトは下記の 3 つです。
a) メンテナンス性の改善と放熱効率の改善
接続面のクリーニングの際に、アクセスが容易であること。
強制冷却用エアフローのため、スペースを拡張すること。
b) 従来の Advanced TCA 規格 [3] 筐体との親和性
従来の電気接続ボードと混在可能であること。
c) 光接続を意識しない操作性
従来通りのボード挿入操作だけで光接続が可能であること。
a) については、接続部を筐体前面(フロントプレーン)へ配置し光接続面を筐体前面
に近くすることで、接続面のクリーニングを容易にします。またバックプレーンの拡張エ
リアは未使用ですのでオープンスペースになっています。全ボード間を光で伝送する構成
では電気伝送エリアも不要になり、バックプレーン面積の約 4/5 がオープンスペースと
なり、エアフローのスペース拡張を可能にします。
b) については、光接続部を筐体内部に収納することで、筐体のボード挿入エリアには
突起などがなく、従来の電気接続ボードも使用可能になります。
c) については、筐体前面(フロントプレーン)でパッシブアライン光接続可能な位置
決め機構を考案することで実現します。
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2.3 フロントプレーンコネクタの特徴
光接続対応の位置決め機構を持たない機器前面(フロントプレーン)において、多芯
の光ファイバをパッシブアライン接続する機能を実現するために、本コネクタには下記の
3 つの特徴があります。
ⅰ)MT フェルール [4] の採用
スペースに制限がある機器前面(フロントプレーン)に搭載するため、小型で高密度な
MT フェルールを利用し、MT フェルールのパッシブ嵌合(± 5 μ m)機構により構造
の簡略化を図りました。また MT フェルールは規格品ですので入手性も良くローコストで、
72 芯も開発段階であるため将来の多 CH 化に対応できます。
ⅱ)二重フローティング構造のレセプタクル(Fig-2 参照)
筐体とボードの嵌合が低精度のために、プラグと嵌合するレセプタクル内側部分のフ
ローティング機構だけでは MT フェルール同士の嵌合まで確実に誘導することができま
せん。
そこで、ボードのガイドピンを基準にレセプタクル全体をセルフアラインし、内側のフ
ローティングで対応可能な範囲まで誘導するために、レセプタクル全体を筐体へスプリン
グでフローティング支持しています。
ⅲ)多段階に誘い込む嵌合シーケンス
筐体とボードの嵌合精度(低精度)と MT フェルール同士の嵌合精度(光学レベル)の差
は約 100 倍であるため、アライメント機構を複数設けて多段階に誘い込むことで、スムー
ズ、かつ確実な嵌合を可能にしています。
Fig-2 二重フローティング構造
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2.4 嵌合シーケンス
フロントプレーンコネクタの嵌合シーケンスを、Fig-3a ∼ -3f で説明します。各図の
左側は嵌合部の詳細図で、黄色の矢印はボード挿入方向を示し、赤色部分は各ステップの
嵌合に関連する部分を示します。また右側は筐体の全体図で、番号付きの黄色の矢印は詳
細図の視点方向を示します。
①ボードを挿入していくと、最初にプラグ先端部が筐体のスリットを通過します (Fig-3a)。
②ボードの位置決めピンが筐体のガイド穴を通過します (Fig-3b)。これは、Advanced
TCA 規格 [3] に従い筐体とボードに従来から設けられている機構であり、この時点で
低精度に位置決め ( ± 0.5mm) されます。
③ボードの位置決めピンがレセプタクルの位置決め穴を通過します (Fig-3c)。レセプタ
クル全体のフローティング機構により、レセプタクル全体が押入されたピンに沿ってセ
ルフアライメントされ、中精度に位置決め(± 0.1mm)されます。
④プラグ先端とレセプタクルのアーム部が嵌合します (Fig-3d)。レセプタクル内側のフ
ローティング機構により、レセプタクル内側がプラグにセルフアライメントされ、高精
度に位置決め(± 0.05mm)されます。
⑤ MT フェルールのガイドピンが位置決め穴を通過します (Fig-3e)。これは、JIS 規格
[5] に従い MT フェルールに従来から設けられている位置決め機構です。
⑥ MT フェルールの光接続面同士が接触し、嵌合が完了します (Fig-3f)。最終的に MT
フェルールの嵌合精度(± 0.005mm)で位置決めされ、レセプタクル内部のバネ機
構により光接続面に常時接圧が作用することで、光接続が完了します。
上記①∼⑥は、連続したボード挿入動作であり、この動作は従来の電気接続のボード挿
入動作と同じですので、ユーザは光接続を意識せず光接続ボードの挿抜を行うことが出来
ます。
Fig-3a 嵌合シーケンス(第 1 ステップ)
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Fig-3b 嵌合シーケンス(第 2 ステップ)
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Fig-3c 嵌合シーケンス(第 3 ステップ)
Fig-3d 嵌合シーケンス(第 4 ステップ)
Fig-3e 嵌合シーケンス(第 5 ステップ)
Fig-3f 嵌合シーケンス(第 6 ステップ)
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2.5 フロントプレーンコネクタを適用した大容量プラットフォーム機器
試作したブレード構造のサーバ筐体(Advanced TCA 準拠)を Fig-4 に示します
[6]。写真の赤丸部分に今回開発したフロントプレーンコネクタを搭載しています。
Fig-4 フロントプレーンコネクタを適用した
Advanced TCA 準拠のブレードサーバ筐体
フロントプレーンコネクタを Fig-5 に示します。プラグ、レセプタクル各々の先端に、
12 芯 MT フェルールを組込んでいます。
Fig-5 フロントプレーンコネクタ
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光接続面は筐体前面から約 25mm 奥の位置にあり、筐体前面から近いので、光接続面
を容易にクリーニング可能にしました (Fig-6a) 。レセプタクルは筐体前面上部内に完全
に収納され、ボード挿入エリアに突起などがなく、従来の電気接続ボードも使用可能にし
ました (Fig-6b)。また、前述の嵌合シーケンスによって、従来のボード挿入と同様のブラ
インドメイト可能な操作性を実現しました。
Fig-6a 前方からみたフロントプレーンコネクタ嵌合
Fig-6b 背後から見たフロントプレーンコネクタ嵌合
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2.6 フロントプレーンコネクタの接続評価
Fig-7, および Table-1 に挿入損失の測定結果を示します。500 回までの繰り返し嵌
合において機械的な嵌合不良は発生しないことを確認しました。フロントプレーンコネク
タの挿入損失は 1.2dB 以下と小さく、また MT フェルール単体での挿入損失との差は±
0.15dB 以下と小さいことを確認しました。参考として、本コネクタと同様に MT フェ
ルールを組込む構造である MPO コネクタの JIS 規格 [5] を適用しました。
Table-1 挿入損失の測定結果
挿入損失 [dB]
備考
【試験条件】
● 12 芯 MT フェルール
初回嵌合時
Max:0.92
Ave:0.58
参考:1.2dB 以内
(MPO コネクタ JIS C 5982)
100 回嵌合後
Max:1.10
Ave:0.98
参考:1.2dB 以内
(MPO コネクタ JIS C 5982)
●光源波長:850nm
Max:1.20
Ave:0.99
参考:1.6dB 以内
(MPO コネクタ JIS C 5982)
●マッチングオイル なし
500 回嵌合後
フェルール単体
Max:0.81
Ave:0.71
FP コネクタ組込み前に測定
●測定 CH:1,6,7,12
●石英系 MMF GI-50/125
●嵌合回数:1 ∼ 500 回
500 回の繰返し嵌合において、機械的結合不良は発生していない。
Fig-7 嵌合回数と挿入損失の関係
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Fig-8 は、500 回の繰り返し嵌合後の光学基準面からの変位と挿入損失の関係を示し
ています。変位が± 0.3mm においての挿入損失は 1.6dB 以下と規格範囲内であること
を確認しました。MT フェルールの両端のチャンネル(CH-1 および CH-12)と中心のチャ
ンネル (CH-6 および CH-7) のバラツキも小さく、レセプタクルに組込んだバネ機構によ
りフェルールの接合面にほぼ均等に接圧が作用していることを示しています。
Fig-8 500 回嵌合後における光学基準面からの変位と挿入損失の関係
2.7 今後の予定
今回試作のサーバ筐体により、フロントプレーンコネクタの嵌合機構の動作を確認しま
した。引き続いて本コネクタを用いた大容量プラットフォーム機器の動作実証(電気的/光
学的評価)を予定しています。これに伴い、製品化へ向けてフロントプレーンコネクタの
完成度の向上および耐環境性の評価へと開発を進めていきます。
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3 むすび
大容量プラットフォーム機器内の光接続として、メンテナンス性と放熱効率の向上を主な
目的としたフロントプレーンコネクタを開発しました。Advanced TCA 規格との親和性を維
持しつつ、光接続を意識しない操作性を実証しました。
4 謝辞
今回のフロントプレーンコネクタは、社団法人日本電子回路工業会(JPCA)光電子回
路実装標準化・推進委員会 普及促進サブワーキンググループ活動の一環として開発した
ものです。本開発にあたり、普及促進サブワーキンググループのメンバーおよび関係者の
方々に感謝申し上げます。
【参考文献】
[1](独)新エネルギー・産業技術総合開発機構;
超高速光通信システムのニーズと展望,平成 17 年 6 月
[2] 増田 宏ほか;細径光ファイバを用いた高密度光バックプレーンの開発,
エレクトロニクス実装学会誌 9〔4〕289 ∼ 295(2006)
[3] PICMG 3.0 R2.0 Advanced TCA Base Specification ECN-002, October 28 2005
[4] タイコ エレクトロニクス メディア・ダイジェスト (7) Brief #7 - September 2005
[5] 日本工業規格;JIS C 5982 F13 形多心光ファイバコネクタ
[6] 藍原 周一;
「ボードコネクタについて」,
JPCAShow 2007 JPCA 電子回路実装標準化・推進委員会 普及促進 SWG 報告
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