小型複合光ファイバカプラの開発 Development of Compact

小型複合光ファイバカプラの開発
マ
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ー
ー
テ
テ
定
定
特
特
6 小型複合光ファイバカプラの開発
Development of Compact and Multiple Fiber Couplers
武田 光善
嶋田 薫
渡瀬 光太郎
佐々木 弘之
Teruyoshi Takeda
Kaoru Shimada
Koutarou Watase
Hiroyuki Sasaki
光デバイス事業部 技術部
光デバイス事業部 製造部
光デバイス事業部 技術部 主任
光デバイス事業部 技術部 マネージャ
キーワード:光ファイバカプラ、融着延伸
要 旨
融着延伸型の光ファイバカプラは市場に投入されて久しく、数々の市場要求に対応してきた光製
品の一つです。 現在IT 技術が飛躍的進歩を続けている中で、光ファイバカプラに対する市場要求も
より高いものが要求されています。当社では長年光ファイバカプラの開発、生産を行ってきました
が、今回この新しい市場要求に答えるべく、新たに複合光ファイバカプラの開発を行いました。そ
の結果は大変良好なものとなりました。
SUMMARY
Fusion taper type optical fiber couplers have been supplied to the market for a long time, as an optical
product flexibly adapted to meet market demands. With today's rapid advancement of IT technologies, the
market demand toward optical fiber couplers is also increasing. JAE has been developing and manufacturing
optical fiber couplers for many years. This new compact and multiple optical fiber coupler was developed to
meet current market demands. This product has been well-received in the market.
写真 1 小型複合光ファイバカプラ
特定テーマ 6 − 小型複合光ファイバカプラの開発
1 まえがき
3 開発した複合光ファイバカプラの概要
融着延伸型光ファイバカプラは、
本号特集のIT市場の中核
今回開発した光ファイバカプラの概要をそれぞれ以下に述
を成す光通信技術を構成する主要デバイスの一つです。光
べます。(写真 1 参照)
ファイバカプラは、
他の光コンポーネントあるいは光デバイ
スに比較して、市場へ投入された歴史も古く、現在では多く
3.1 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラ
の製造メーカによって市販されています。
また小誌でも今ま
でに何度か掲載されている 1)2)3)ように、技術的にはほぼ確
この光ファイバカプラは、
複合光ファイバカプラというより
立された段階にあります。
小型を特徴とする光ファイバカプラです。従来までの光ファ
このように技術的には確立された観のある光ファイバカプ
イバカプラのパッケージは、φ 3 x 50mm の円筒状のパッ
ラですが、IT技術の進歩あるいは市場要求の変化に対応して
ケージに 1つの光ファイバカプラが収納されたものが一般的
いくためには、新しい技術開発が必要です。今回当社では、
でした。今回開発した 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラ
このような光ファイバカプラに対する市場要求に対応した新
は、この従来までの大きさのパッケージに 2 つの光ファイバ
しい光ファイバカプラを開発しましたのでここで紹介します。
カプラを収納したものです。(図 1 参照)
従来の光ファイバカプラ
2 開発のコンセプト
従来の光ファイバカプラ
前章に述べたように融着延伸型光ファイバカプラをプロダ
クトライフサイクルで見ると、成熟期にあると見られます。
これは反面次の製品が登場することが予想されます。
この製
品は導波路型光カプラであり、既に一部の製品は市場へ投入
が始まっています。
融着延伸型光ファイバカプラとこの導波路型光カプラを潜
在的な特徴を列記してみると表 1 のようになります。
2in1パッケージ光ファイバカプラ
表 1 融着延伸型と導波路型光ファイバカプラの比較
融着延伸型光ファイバカプラ
導波路型光カプラ
光ファイバとの接続性が良い
小型である
信頼性を確保しやすい
複合化が容易である
多様性に適している
量産性に適している
図 1 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラの説明図
現在市場では、DWDM * 3(用語説明)技術が盛んに開発
されています。DWDM技術を用いた製品は、各波長毎に同
じ機能の部品を使っています。このようなアプリケーション
では、本光ファイバカプラは装置への実装スペースを小さく
融着延伸型光ファイバカプラが成熟期に居続けるには、こ
する上で非常に有効です。
れら導波路型光カプラの特徴を融着延伸型光フファイバカプ
ラで実現する必要があります。
3.2 WDM+WDM光ファイバカプラ
今回開発した光ファイバカプラは、この導波路型光カプラ
が持っている特徴、すなわち複合化(小型化を含む)を融着
この光ファイバカプラは、
2つのWDM光ファイバカプラを
延伸型光ファイバカプラで実現しました。これらは以下に述
シリーズに接続された状態で従来の大きさのパッケージに収
べる 4 種類の光ファイバカプラです。
納したものです(図 2参照)
。融着延伸型光ファイバカプラの
(1) 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラ
短所の一つとして使用波長範囲が狭い事が挙げらます。これ
(2) WDM * 1(用語説明)+ WDM 光ファイバカプラ
を回避する手段として 2 つの WDM 光ファイバカプラをシ
+ WBC * 2(用語説明)光ファイバカプラ
リーズに接続して、使用波長範囲の広帯域化を実現すること
(3) WDM
(4) 一体型ツリー光ファイバカプラ
以下にこれらの概要を述べます。
が可能です。あるいは使用波長範囲でアイソレーションを大
きくとることが可能です。
この技術は従来既に実現されていましたが、2 つの光フ
ファイバカプラをシリーズに接続してパッケージに収納する
航空電子技報 NO.24 2001-3
小型複合光ファイバカプラの開発
ために、どうしてもパッケージの長さが長くなりました。今
が構成されています。パッケージを既に述べた従来の大きさ
回開発したWDM+WDM光ファイバカプラは、既に述べた
のパッケージに収納しました。(図 4 参照)
従来の大きさのパッケージに収納して、あたかも従来までの
WDM光ファイバカプラの波長帯域だけが広帯域化されたよ
従来の光ファイバカプラ
うに見ることが出きます。
従来のWDM光ファイバカプラ
一体型2x4ツリー光ファイバカプラ
WDM+WDM光ファイバカプラ
従来の光ファイバカプラ
従来の光ファイバカプラ
従来のWDM光ファイバカプラ
図 4 一体型 2 x 4 ツリー光ファイバカプラの説明図
図 2 WDM + WDM 光ファイバカプラの説明図
これまでの一般的なツリー光ファイバカプラは、例えば
3.3 WDM + WBC 光ファイバカプラ
2 x 4 ツリー光ファイバカプラであれば 3 つの 2 x 2 光ファ
イバカプラを 2 箇所でスプライス等により接続しました。こ
この光ファイバカプラは前記に述べた WDM + WDM 光
のように構成すると、3 つの 2 x 2 光ファイバカプラを固定
ファイバカプラと同じ構造ですが、接続されている光ファイ
し、2 つのスプライス部分を固定し、かつこれらの余長部分
バカプラが 2 つのWDM光ファイバカプラではなく、WDM
の処理を行う必要があり、2 x 4 ツリー光ファイバカプラと
光ファイバカプラと広帯域光ファイバカプラが接続されたもの
してはかなり大きなサイズになりました。これに比べて本光
を従来の大きさのパッケージに収納したものです(図 3 参
ファイバカプラは、パッケージを従来の 2 x 2 光ファイバカ
照)。
プラの大きさのパッケージに収納したため、非常にコンパク
トなサイズとなります。
従来のWBC光ファイバカプラ
4 実現するための技術
WDM+WBC光ファイバカプラ
これらの光ファイバカプラを実現するために開発した技術
を以下に述べます。
(1) 延伸長の短尺化
複合化するために必要な技術である小型化を行うために
は必須の技術です。この技術は、複合光ファイバカプラの
従来のWDM光ファイバカプラ
中でも特にWDM+WDM光ファイバカプラ、WDM+W
BC光ファイバカプラ及び一体型ツリー光ファイバカプラ
図 3 WDM + WBC 光ファイバカプラの説明図
の開発に必須となる技術です。
(2) 2 本同時延伸の均一化
機能としては、2 つの波長を分波しその一つの波長のパ
ワーを 2 つに分岐するという 2 つの機能を兼ね備えていま
す。
3.4 一体型ツリー光ファイバカプラ
この光ファイバカプラは 3 つの 2 x 2 光ファイバカプラを
トーナメント状に接続して、2 x 4 ツリー光ファイバカプラ
この技術は、被覆除去された 4 本の光ファイバを 2 本
ずつ 2 つアライメントして 2 箇所を同時に延伸する技術
です。この技術は、複合光ファイバカプラの中でも特に 2
in 1 パッケージ光ファイバカプラおよび一体型ツリー光
ファイバカプラの開発に必須となる技術です。
(3) 2 箇所連続延伸の実現
この技術は、被覆除去された 3本の光ファイバの内の2
特定テーマ 6 − 小型複合光ファイバカプラの開発
箇所をアライメントして連続して融着延伸する技術です。
5.2 WDM+WDM光ファイバカプラ
この技術は、複合光ファイバカプラの中でも特にWDM+
WDM 光ファイバカプラ、WDM + WBC 光ファイバカプ
試作データを以下に示します。
ラ及び一体型ツリー光ファイバカプラの開発に必須となる
試作は、1.31/1.55μ m 帯の WDM 光ファイバカプラを
技術です。
1.31μm帯のアイソレーションを大きくするように行いま
した。この結果から従来のWDM光ファイバカプラに見られ
5 試作結果
ないような大きなアイソレーションを得ることができまし
5.1 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラ
5.3 一体型ツリー光ファイバカプラ
試作データを以下に示します。
試作データを以下に示します。
試作は、1.55μ m 帯の 10dB 光ファイバカプラを 2 つ行
試作は、1.31μ m 帯の 2 x 4 ツリー光ファイバカプラと
いました。この結果から1つのパッケージに収納されている
1.55 μ m 帯の 2 x 4ツリー光ファイバカプラをそれぞれ 1
2つの 10dB光ファイバカプラは、それぞれほぼ同一の性能
つずつ行いました。この結果から4 つの出射ポートのばらつ
が得れられていることがわかります。
きも小さく押さえて作ることが可能なことがわかりました。
た。
表 2 2 in 1 パッケージ光ファイバカプラの試作データ
挿入損失
波長
サンプル
P1 → P2
P1 → P3
[nm]
1
2
P4 → P5
挿入損失偏光依存性(PDL)
P4 → P6
P1 → P2
P1 → P3
[dB]
P4 → P5
P4 → P6
[dBp-p]
1535
0.8
9.4
0.7
10.9
0.03
0.04
0.04
0.18
1565
0.8
9.3
0.7
10.8
0.06
0.08
0.08
0.20
1535
0.7
9.5
0.7
10.3
0.10
0.19
0.05
0.18
1565
0.7
9.3
0.7
10.2
0.07
0.20
0.06
0.20
表 3 WDM*1 + WDM 光ファイバカプラの試作データ
挿入損失
サンプル
波長
P1 → P2
[nm]
1
2
3
アイソレーション
P1 → P3
P1 → P2
[dB]
P1 → P3
[dB]
0.82
39
1308
0.96
27
1330
1.40
31
2.06
8
1530
0.67
19
1580
1.72
13
0.35
34
1308
0.50
28
1330
0.80
36
1.64
8
1530
0.63
19
1580
2.04
10
0.20
35
1308
0.39
25
1330
0.75
29
1.87
8
1530
0.53
19
1580
1.41
10
航空電子技報 NO.24 2001-3
74 以上
74 以上
63
1280
1480
P3 → P2
65
1280
1480
P2 → P3
[dB]
1280
1480
ダイレクティビティ
74 以上
74
小型複合光ファイバカプラの開発
表 4 一体型 2 x 4 ツリー光ファイバカプラの試作データ
挿入損失
波長
サンプル
P1
[nm]
1
2
P2
P3
挿入損失偏光依存性(PDL)
P4
P1
[dB]
P2
P3
P4
[dBp-p]
1290
6.8
6.0
6.4
7.1
0.09
0.08
0.13
0.09
1310
6.8
6.5
6.3
6.7
0.08
0.07
0.15
0.13
1330
6.9
7.2
6.4
6.0
0.18
0.13
0.18
0.12
1550
6.4
6.4
6.3
6.3
0.17
0.04
0.16
0.04
1555
6.4
6.5
6.3
6.3
0.16
0.04
0.17
0.04
1560
6.4
6.6
6.3
6.2
0.18
0.04
0.16
0.05
6 今後の展開
8 用語の説明
冒頭で述べた WDM + WBC 光ファイバカプラの試作は未
* 1:
Wavelength Division Multiplex/Demultiplex:
だ行っていません。今後の展開としてこの光ファイバカプラ
分波合波あるいは波長分割多重、通常 2 つの波長(一
の試作を行っていますが、技術要素としては WDM + WDM
般的には、1310nm と 1550nm の光)を、1 本の
光ファイバに多重する。
光ファイバカプラと同じであり、特に大きな開発要素がある
とは考えていません。
* 2:
Wavelength Broadband Coupler:広波長帯域
またこれらの新しい複合光ファイバカプラの信頼性評価に
光ファイバカプラ、通常 2 つの波長(1310nm と
ついては現在実施中ですが、当社のこれまで培ってきた光
1550nm)帯域で使用できるようにした光ファイバ
ファイバカプラの信頼性設計技術の範疇内にあり、良好な結
カプラと1つの波長帯域において広い波長範囲で分岐
果が期待できます。
比の変化が小さくなるようにした光ファイバカプラと
がある。
7 むすび
* 3:
Dense Wavelength Division Multiplex/
Demultiplex:高密度波長多重あるいは高密度波長分
割多重、現在では 1550nm 帯の光において 0.8nm
以上述べてきたとおり、複数の光ファイバカプラを従来ま
間隔あるいは 0.4nm 間隔の複数の波長の光を 1 本の
での大きさのパッケージに収納して、複数の光ファイバカプ
光ファイバに多重する。
ラをあるいは複数の機能を持つ光ファイバカプラを、あたか
も一つの光ファイバカプラとしてご利用いただけるような新
[参考文献]
しい融着延伸型光ファイバカプラを実現しました。今後は現
在実施している信頼性評価を終了し、市場に満足していただ
ける製品を提供していきます。
1) 佐久間一浩他;航空電子技報、N o . 1 1 , p p 2 1 - 2 6
(1988)
2) 岡憲臣他;航空電子技報、No.13, pp80-84(1990)
3) 佐々木弘之;航空電子技報、No. 21, pp3-10(1988)
特定テーマ 6 − 小型複合光ファイバカプラの開発