プッシュプル嵌合方式(FO-MCシリーズ)

技術紹介 5 プッシュプル嵌合方式(FO - MC シリーズ)光コネクタの開発
技術紹介
5
プッシュプル嵌合方式(FO- MCシリーズ)光コネクタの開発
Development of Optical-Fiber Connector for PUSH-PULL CONNECTION TYPE
嶋津 秀人
Hideto Shimazu
コネクタ事業部技術二部 主任
戸田 武男
Takeo Toda
コネクタ事業部技術二部
キーワード: 光コネクタ、防水、小型、多芯、プッシュプル、光ファイバ
Keywords : optical connector, water-proof, small size, multi contacts, push-pull, optical-fiber
要 旨
SUMMARY
携帯電話、インターネット等の普及により、音声や
映像のデータ量は急激に増加し、大容量の情報やデー
タを高速で伝送するために、さまざまな分野で光伝送
を導入する社会になっています。用途の広がりに合わ
せて、様々な設置箇所や環境に対応する光コネクタ
が求められてきました。この度、
「ワン・アクション」
で着脱操作ができるプッシュプル嵌合方式を採用し
た、IP68 相当の防水性能を持った小型防水光コネク
タを開発しました。また、様々なお客様のご要望に応
えるために、シングルモードファイバ(SMF)対応可
能で、単芯、2 芯、4 芯をラインナップしました。
With the diffusion of mobile phone, Internet, etc.,
transmission amount of voice and image data is
drastically increasing and we are now entering
the society where optical transmission system is
used in a variety of fields to transmit huge mount of
information and data at high speed. With the spread
of optical transmission system, optical connectors
that can be used in various installation sites and meet
various environments are now demanded. We newly
developed a small, water-proof optical connector
with waterproof capability complying with IP68. The
connector is push-pull connection type that allows
us to connect/disconnect with “one action.” Further,
to respond customers' various needs, we prepared
a line up of the connectors with single, two, and four
contacts supporting single mode fiber (SMF).
写真 1 FO-MC シリーズ 小型防水光コネクタ
Copyright c 2007, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
航空電子技報 No.30(2007.3)
1
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1 はじめに
弊社の防水多芯光コネクタは、新幹線や地下鉄などの移動体から、鉄道信号、高速道
路の ETC システム、携帯電話基地局などに用途を広げてまいりました。防水多芯光コネ
クタを屋外で着脱する場合、風雨や粉塵にさらされぬ様、短時間で確実な接続をする必
要があります。また、近年増加している携帯電話用アンテナが設置される箇所は、鉄塔
などの高所に設置される事から、危険が伴う作業となります。操作性が良く確実な着脱
操作が出来る事は、工事作業を短時間に安全に実施できることに繋がります。
屋外に設置される光コネクタは、安定した光学特性、防水性、機械的特性、耐環境性
など、あらゆる性能を長期間満足しなければなりません。さらに、通信機器・装置等の
小型化に伴い、光コネクタの小型化のご要望や、環境にやさしい (RoHS 対応 ) 製品が求
められてきました。
これらの市場動向に対応するため、クリック感と音による確実な嵌合が「ワン・アクショ
ン」で出来る、シングルモードファイバ対応の小型防水光コネクタを開発いたしました。
2 仕様
開発した製品の仕様を Table.1 に示します。
Table.1 製品仕様
項 目
SMF
MMF
挿入損失
(AdPC 研磨 )
0.5dB 以下
( λ =1.31μ m)
0.5dB 以下
( λ =1.31μ m)
反射減衰量
(AdPC 研磨 )
40dB 以上
( λ =1.31μ m)
25dB 以上
( λ =1.31μ m)
コンタクト数
単芯 ,2 芯 ,4 芯
適合ファイバクラッド径
Φ125 μ m
適合ケーブル外径
Φ 9.5mm ※ 1
繰り返し動作
500 回
防水性
IP68 相当
※ 1 ケーブル外径に合わせて対応可能
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3 構造
3.1 プラグ
光コンタクトのフェルールには、Φ1.25mm ジルコニアセラミックスフェルールを採用し、
コイルスプリングを内蔵したフローティング構造としました。(Fig.1 に示す。)
また、整列用の割スリーブにも、ジルコニアセラミックス製を採用し、着脱を繰り返し
をしても安定した接続ができ、プラグ内部には、ケーブルのテンションメンバを保持する
ストッパと、強固にケーブルを保持するためのケーブルクランプを設けています。
プラグのコンタクト 配 列は、単 芯、2 芯、4 芯に適 応 できる 構 造となっています。
(Table.2 に示します。)
�����
��������
����
��������
�����
Fig.1 FO-MC ※ H ※ DTG(※:芯数)
Table.2 プラグのコンタクト配列
芯数
単芯
2芯
4芯
名称
FO-MC1H1DTG
FO-MC2H2DTG
FO-MC4H4DTG
配列図
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3.2 レセプタクル
光コンタクトのフェルールには、プラグコネクタと同様にΦ1.25mm ジルコニアセラミ
ックスフェルールを採用し、AdPC 研磨によるリターンロスの小さい端面加工を可能とし
ています。
(Fig.2 に示す。)
また、コンタクトフェルールのフローティング機能をプラグ側に任せて、コイルスプリン
グを削除し、パネル取り付け用フランジ後方の寸法の短尺化を実現いたしました。これに
より、機器内の部品やカード等に干渉し難い実装が可能となっています。
レセプタクルのコンタクト配列は、単芯、2 芯、4 芯に適応できる構造となっています。
(Table.3 に示します。)
����
�����
Fig.2 FO-MC ※ H ※ AT(※:芯数)
Table.3 レセプタクルのコンタクト配列
芯数
単芯
2芯
4芯
名称
FO-MC1H1AT
FO-MC2H2AT
FO-MC4H4AT
配列図
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4 試験結果
機械的評価試験及び耐候性能評価試験を実施し、非常に良好な性能であることを確認
致しました。確認した結果を Table.4 ∼7 に示します。また、
代表的な試験結果のグラフは、
Fig.3 ∼ Fig.10 に示します。
Table.4 初期性能評価試験結果
項目
外観、構造
および
嵌合性
試験方法
適用条件及び規格値
JIS C 5961
試験結果
規格値)変形、亀裂、緩み等の有害な損傷な 良好
きこと。機械的に異常なく嵌合すること。
(n=30)
5
挿入損失
7.1
条件) 測定波長:1.31 μ m
規格値)0.5dB 以下 (1 接点 )
良好
反射減衰量
7.2
条件) 測定波長:1.31 μ m
規格値)AdPC 研磨 :40dB 以上
良好
(n=30)
(n=30)
Table.5 挿入損失と反射減衰量の結果
挿入損失
反射減衰量
Max.
0.47dB
48.30dB
Min.
0.15dB
42.20dB
Ave.
0.31dB
44.64dB
σ
0.101
1.102
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Table.6 機械的性能評価試験結果
項目
耐振性
耐衝撃性
繰り返し動作
試験方法
JIS C 5961
適用条件及び規格値
試験結果
8.1
条件) 振動数の範囲:10 ∼ 55Hz
全振幅:1.5mm
良好
方向:嵌合軸を含む 3 軸
(n=5)
Fig.3
一軸当たりの試験時間:2h
∼ Fig.6
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
参照。
瞬断 : 無きこと。
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
8.2
条件) ピーク加速度:981m/s2 (100G)
良好
パルス作用時間:6ms
(n=5)
回数 : 嵌合軸を含む 3 軸、5 回
Fig.7
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
Fig.8
瞬断:無きこと。
参照。
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
8.3
良好
条件) 繰返し動作回数:500 回
(n=5)
Fig.9
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
Fig.10
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
参照。
フェルール押圧力
結合部接続強度
( 軸方向 )
8.5
条件) 光学的基準面 プラグタイプのみ
規格値)5.5 ∼ 6.5N
良好
(n=5)
8.6
条件) 引張速度:50mm/min 規格値)200N 以上
挿入損失変動幅:0.2dB 以下
良好
(n=5)
8.10
条件) 落下回数:5 回
落下の高さ:1000mm
良好
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
(n=5)
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
8.11
条件) 引張速度:25mm/min
規格値)200N 以上
良好
挿入損失変動幅:0.2dB 以下
(n=5)
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
光ファイバ
コードクランプ
屈曲強度 ( 屈曲 )
8.12
条件) 屈曲の大きさ:20N( ケーブル )
屈曲回数:100 回
良好
長さ:1 ∼ 2m
(n=5)
規格値)挿入損失変動幅 :0.2dB 以下
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
結合力及び離脱力
8.13
条件) ─
規格値)結合力:12N ∼ 28N
離脱力:10N ∼ 20N
8.15
条件) 治具降下速度:1mm/min
規格値)50N
良好
挿入損失変動幅:0.2dB 以下
(n=5)
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
8.17
条件) 50N
おもりの位置:クランプの根元から、10cm
良好
ねじり動作:10 サイクル
(n=5)
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
落下試験
光ファイバ
コードクランプ
引張強度 ( 軸方向 )
結合部接続強度
( 横方向 )
光ファイバケーブル
クランプ屈曲強度
( ねじり )
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良好
(n=5)
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Fig.3 耐震性(挿入損失)
Fig.4 耐震性(反射減衰量)
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Fig.5 耐震性モニタリング(軸方向の挿入損失変動)
Fig.6 耐震性モニタリング(径方向の挿入損失変動)
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Fig.7 耐衝撃性(挿入損失)
Fig.8 耐衝撃性(反射減衰量)
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Fig.9 繰り返し動作(挿入損失)
Fig.10 繰り返し動作(反射減衰量)
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Table.7 耐候性能評価試験結果
項目
耐腐食性
(塩水噴霧)
温度サイクル
耐湿性(定常状態)
耐湿性
(温湿度サイクル)
耐熱性
(高温放置)
耐寒性
(低温放置)
防水試験
試験方法
JIS C 5961
適用条件及び規格値
試験結果
9.1
条件) 試験温度:35℃
塩溶液濃度:5%
良好
試験時間:96h(4 日間)
(n = 5)
規格値)変形、亀裂、緩み等の有害な損傷
なきこと。
9.2
条件) 試験 Na(熱衝撃試験)
高温温度:+ 85℃
低温温度:− 40℃
各温度の放置時間:30min
良好
温度の変化速度:3℃ /min
(n = 5)
サイクル数 :100 サイクル (5 日間)
規格値)挿入損失変動幅 :0.2dB 以下
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
9.3
条件) 温度:+ 50 ± 2℃
湿度:95%
良好
放置時間:720h(30 日間)
(n = 5)
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
9.4
条件) シーケンス:− 25 ∼+ 25 ∼+ 65℃
湿度:95 ± 3%(65℃時)
試験時間:24h/1 サイクル× 25 日間
良好
(n = 5)
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
瞬断:無きこと。
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
9.5
条件) 試験温度:+ 85℃
試験時間:1000h (42 日間)
良好
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
(n = 5)
瞬断 : 無きこと。
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
9.6
条件) 試験温度:− 40℃
試験時間:1000h (42 日間)
良好
規格値)挿入損失変動幅:0.2dB 以下
変形、亀裂、緩み等の有害な損傷なきこと。
JIS C 0920 規格値)IP68 相当(嵌合時)
(1993)
気密性能として、5kPa 以上のこと。
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良好
(n = 5)
浸水なし
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5 まとめ
全ての試験項目の条件において、規格値を満足しました。
試験前後の挿入損失変動は、0.2dB 以下で非常に良好な結果が、得られました。
6 今後の展開
通信装置には、必ず電源が必要になることから、給電用電気コネクタと通信用光コネ
クタが同時に使用されます。装置の小型化により、筐体のコネクタの取り付けスペースは、
現状よりも、少なくなる事が予想されます。
今後は、さらなる省スペース化を計るため、光・電気複合 ( ハイブリット ) コネクタの
開発を進め、更なる小型化へ展開していきます。
Copyright c 2007, Japan Aviation Electronics Industry, Ltd.
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