FEJ 2014 S02

新製品
紹介
「V シリーズ」IPM
―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」――
“V Series” IPM
-- Medium Capacity and Compact Package “P636 Package”
皆川 啓 * MINAGAWA Kei
寺島 健史 * TERASHIMA Kenshi
近年,IPM(Intelligent Power Module)の主な用途で
ベルの最適化を図った。過電流保護レベルは,P622 パッ
ある汎用インバータ,サーボ制御装置などのモータ駆動
ケージが定格電流の 1.5 倍であるのに対して,P636 パッ
装置だけでなく,エアコン,太陽光発電用 PCS(Power
Conditioner)などの市場においても,装置の小型化が強
く求められている。そのため,IPM に対しては,さらな
る小型化と出力電流の拡大の要求が高まっている。
これらの市場要求に応えるため,富士電機は現行の「V
シリーズ」IPM のラインアップに追加して,新たに中容
量(600 V/50〜100 A,1,200 V/25〜50 A)の小型パッケー
ジの製品化を計画している。
本稿では,中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」
の特徴とその技術的背景について述べる。
(a)外 観
特 徴
90
18.5
80
P636 パッケージの外観 と外形図を図
プを 表
に,ラインアッ
に示す。P636 パッケージは, 外形寸法 W90×
D55×H18.5(mm)の小型パッケージ であるにもかかわ
25.55
55
らず定格電流が 600 V/100 A,1,200 V/50 A までの中容量
をラインアップした業界初の IPM である。装置の小型化
と装置設計の自由度向上に貢献する製品である。
⑴ 小型化
16
シリーズ IPM「P630 パッケージ」に対して 54 %,既存の
中容量 IPM である Econo-IPM「P622 パッケージ」に対
して 26 % 低減している。
25.5
P636 パッケージのフットプリントサイズは,現行の V
(b)外形図
⑵ 過電流保護レベルの最適化
装置の最大負荷電流 を 拡大するために, 過電流保護レ
表
「P636 パッケージ」
「P636 パッケージ」のラインアップ
定格電流
電 圧
600 V
1,200 V
*
図
インバー
タ部
ブレー
キ部
型 式
搭載機能
6 in1
7 in 1
IGBT
駆動回路
制御電源
低下保護
チップ過熱
保護
過電流
保護
アラーム出力
(上下アーム)
50 A
30 A
6MBP50VFN060-50
7MBP50VFN060-50
○
○
○
○
○
75 A
50 A
6MBP75VFN060-50
7MBP75VFN060-50
○
○
○
○
○
100 A
50 A
6MBP100VFN060-50
7MBP100VFN060-50
○
○
○
○
○
25 A
15 A
6MBP25VFN120-50
7MBP25VFN120-50
○
○
○
○
○
35 A
25 A
6MBP35VFN120-50
7MBP35VFN120-50
○
○
○
○
○
50 A
25 A
6MBP50VFN120-50
7MBP50VFN120-50
○
○
○
○
○
富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部産業モジュー
ル技術部
2014-S02-1
富士電機技報 2014 vol.87 no.1
「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」――
ケージは定格電流の 2.0 倍にアップしている。
用 に 最 適 設 計 を 行 っ た 第 6 世 代 IGBT(Insulated Gate
⑶ ブレーキ用素子の搭載
Bipolar Transistor) の 適用 により, 前 世代 IGBT 適用の
素子定格は,600 V/50〜100 A および 1,200 V/25〜50 A
P622 パッケージと比較して約 10 % 損失を低減している。
の中容量帯をカバーしている。 小型パッケージに もかか
図
に示すように,IGBT と FWD の定常損失は全発生
わらず,ブレーキ用素子を搭載して おり, 装置設計にお
損失の約 60% を占めている。
“IGBT の定常損失とターン
いて,外付けブレーキ用素子が不要となる。
オフ損失”および“FWD の定常損失とターンオン損失・
リカバリー損失”は,それぞれトレードオフの関係にある。
そこで,発生 損失の中で最も支配的な IGBT と FWD の
背景となる技術
定常損失を低減させる ために,IGBT の Vce(sat) と FWD
の VF のトレードオフ曲線上の適用ポイントを見直した。
⑴ 高放熱絶縁基板の適用による低熱抵抗化
パッケージ を 小型化 する上で,放熱性を改善して パ
また,発生損失は,放射ノイズともトレードオフの関
ワーチップの熱集中・熱干渉 による チップの温度上昇を
係にある。P636 パッケージでは発生損失を低減しつつ,
抑制する必要がある。そこで,P636 パッケージの絶縁基
放射ノイズを抑制するために,前述の トレードオフ関係
板には,既存の P622 パッケージで使用しているアルミナ
の最適ポイントの見直しにより,スイッチング時の電圧
(Al2O3) 絶縁基板 に替わり, 放熱 性の高い 窒化アルミニ
ウム(AlN)絶縁基板を新たに採用した。
表
の立上がり dv/dt を低減 し,図
に示すように従来より
も放射ノイズを抑制している。
に,100 A/600 V の 同 一 定 格 素 子 に お け る P622
⑶ 出力電流の増加
パッケージと P636 パッケージの熱抵抗の 比較を示す。
P636 パ ッ ケ ー ジ は,P622 パ ッ ケ ー ジ よ り も 熱 抵 抗
P636 パッケージは,P622 パッケージよりも 熱抵抗 が 約
(IGBT 部) が 17 % 低減 し,発生損失 は 10% 低減したこ
20 % 低くなった。
とで,同一のΔTj c(チップ−ケース間温度)となる出力
⑵ 発生損失と放射ノイズの低減
電流値は,30% 増加させることができる。 たとえば 表
-
パ ワーチップの 温度上昇 を抑制するために は, 熱抵抗
に示すように, 同一のΔTj c となる出力電流値は,P622
を 低減す るだけでなく, 発生損失 も 低減す る必要がある。
パッケージが 30 A(実効値) であるのに対して,P636
に,600 V/100 A に お け る P622 パ ッ ケ ー ジ と P636
図
-
パッケージは 39 A(実効値)と増加させることができる。
パッケージの PWM インバータ動作時の発生損失 につい
て シミュレーション で 比較 した 結果を示す。 キャリア周
90
表
ノイズレベル(dBµV/m)
波数 5 kHz の運転条件 の 場合,P636 パッケージは IPM
600 V/100 A の同一定格素子における熱抵抗の比較
項 目
熱抵抗 max.(℃/W)
低減率(%)
j=125 ℃,
「P622パッケージ」
インバータ部
「P636パッケージ」
インバータ部
IGBT
FWD
IGBT
FWD
0.36
0.67
0.30
0.52
−
−
17
22
d=300 V,
Econo-IPM
80
70
V シリーズ IPM
P636 パッケージ
60
50
40
30
30
cc=15 V, o=30 A (実効値)
λ=1.0
c=5 kHz, o=150 Hz,cosφ=0.8,
P622パッケージ
40
50
60
70
80
90 100 110 120 130
周波数(MHz)
図
放射ノイズ比較(相対比較試験結果)
表
600 V/100 A における適用電流と温度上昇の比較
トータル発生損失(W)
30
リカバリー損失
(FWD)
25
定常損失(FWD)
20
15
ターンオン損失
(IGBT)
10
ターンオフ損失
(IGBT)
0
Econo-IPM
P622 パッケージ
Econo-IPM
「P622パッ
ケージ」
V シリーズ IPM
P636 パッケージ
Vシリーズ
IPM「P636
パッケージ」
600 V/100 A におけるトータル発生損失のシュミレー
ション比較
富士電機技報 2014 vol.87 no.1
IGBT
FWD
出力
電流 トータル 熱抵抗
トータル 熱抵抗
ΔT j-c
ΔT j-c
(実効値) 損失
max.
max.
損失
(℃)
(℃)
(A)
(W) (℃ /W)
(W) (℃ /W)
製 品
定常損失(IGBT)
5
図
T j=125 ℃,E d=300 V,V cc=15 V,f c=5 kHz,f o=150 Hz,
cosφ=0.8,λ=1.0
2014-S02-2
30
21.9
0.36
7.9
3.7
0.665
2.5
30
19.5
0.30
5.8
3.7
0.52
1.9
39
26.0
0.30
7.8
5.0
0.52
2.6
30%増加
2.1 ℃低減
0.6 ℃低減
「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」――
発売時期
600 V 系:2014 年 8 月
お問い合わせ先
1,200 V 系:2014 年 12 月
富士電機株式会社
営業本部半導体営業統括部営業第一部
電話(03)5435-7152
(2014 年 3 月 11 日 Web 公開)
2014-S02-3
富士電機技報 2014 vol.87 no.1
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商標ôÕå登録商標ݸā場合¸ĀôÏg