FEJ-85-06- 426-2012a.pdf PDF [672KB]

エネルギーマネジメン
特集 トに貢献するパワー半
導体
「V シリーズ」IGBT モジュールの系列拡大
―小型フレキシブル PIM―
Expansion of the IGBT Module “V Series”
̶ Flexible PIM ̶
小松 康佑 KOMATSU Kosuke
甲斐 健志 KAI Kenshi
塩原 真由美 SHIOHARA Mayumi
富士電機は,産業機器の省エネルギーを実現するための IGBT モジュールを設計・開発し,社会に供給してきた。その適
用範囲は多岐に渡っている。今回,小容量帯(〜 50 A)機器の高効率化・小型化・軽量化を目的として,小型フレキシブ
ル PIM(Power Integrated Module)を開発し,系列化した。IGBT・FWD(Free Wheeling Diode)素子に第 6 世代「V
シリーズ」を適用し,銅ベースレスのパッケージにより,取付け面積で 45 % の小型化,質量で 75% の軽量化を達成した。
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
ピン端子の形状は,顧客のニーズに応じてプレスフィットピンとソルダピンから選択できる。
Fuji Electric has been engaged design and development of insulated gate bipolar transistor (IGBT) modules for society to achieve energy
efficiency in industrial machinery. These modules have a wide range of applications, and we have now developed a lineup of flexible power
integrated modules (PIMs) for the purpose of increasing the efficiency and reducing the size and weight of low power devices (up to 50 A).
For the IGBT free-wheeling diode (FWD), we have used the 6th generation“V series”and have reduced by 45 % in footprint size and by 78 %
in weight by use of a copper baseless package. As for the pin terminal configuration, customers can choose between press-fit pins and solder
pins according to their needs.
〈注〉
まえがき
量化を実現した。また,環境規制の RoHS 指令 に対応し
た鉛フリーパッケージである。
パワーエレクトロニクスの分野では,従来,インバー
タ・コンバータ回路が電力の効率的変換に使用されてき
定格・外形
た。現在,電力変換素子の主流は IGBT(Insulated Gate
小型フレキシブル PIM の製品系列を表 1 に,外観を図
Bipolar Transistor)である。
富士電機は,IGBT・FWD(Free Wheeling Diode)な
に示す。1,200 V 系は定格電流 10 〜 35 A の範囲で 5 型式,
ど複数の素子を 1 パッケージ化した IGBT モジュールを開
発してきた。これをインバータ・コンバータ回路システム
に用いて,主に産業分野の機器の省エネルギー化に貢献し
ている。最近では,その応用分野は産業分野だけでなく,
表
小型フレキシブル PIM の製品系列
定格電圧
定格
電流
家電製品から電気鉄道に至るまで多岐にわたっている。各
10 A
分野の顧客からは,高効率化・小型化・低価格化が強く求
15 A
められている。家電製品のなかでは,特にエアコン市場な
15 A
どからその要求が強い。一方,半導体素子の小型化・高性
25 A
端子形状
パッケージ
型式名
7MBR10VKA120-50
M726
プレス
フィット
ピン
7MBR15VKA120-50
7MBR15VKB120-50
M727
7MBR25VKB120-50
35 A
7MBR35VKB120-50
格電流の領域が,さらに小型のパッケージで対応できるよ
10 A
7MBR10VKC120-50
うになってきている。このように,小型で小容量の IGBT
15 A
モジュールの需要は,家電製品に加えて産業用途において
15 A
も拡大している。
25 A
能化により,従来は中容量のパッケージで対応していた定
1,200 V
M728
7MBR15VKC120-50
ソルダ
ピン
7MBR15VKD120-50
M729
7MBR25VKD120-50
これらの需要に対し,富士電機では新しい小容量 IGBT
35 A
7MBR35VKD120-50
モジュールとしてブレーキ付きインバータ・コンバータ用
10 A
7MBR10VKA060-50
モジュール“小型フレキシブル PIM(Power Integrated
15 A
Module)
”を開発し,系列化した。
20 A
電気特性面では,最新の第 6 世代 「V シリーズ」 IGBT
30 A
チップ・FWD チップを搭載し,低損失・小型化を実現し
50 A
プレス
フィット
ピン
7MBR15VKA060-50
M726
7MBR20VKA060-50
7MBR30VKA060-50
M727
7MBR50VKB060-50
600 V
ている。構造面では,従来の IGBT モジュール製品とは異
10 A
7MBR10VKC060-50
なり,銅ベースを使用しないことにより大幅な小型化・軽
15 A
7MBR15VKC060-50
20 A
〈注〉RoHS 指令:電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限
についての EU(欧州連合)の指令
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
426(38)
ソルダ
ピン
M728
7MBR20VKC060-50
30 A
50 A
7MBR30VKC060-50
M729
7MBR50VKD060-50
「V シリーズ」IGBT モジュールの系列拡大 ―小型フレキシブル PIM―
V GE:20 V/div
0V
V CE:200 V/div
0V
0A
I C:25 A/div
t:200 ns/div
(a)ターンオン波形
図
小型フレキシブル PIM
0V
V GE:20 V/div
I C:25 A/div
V CE:200 V/div
0V
0A
t:200 ns/div
(b)ターンオフ波形
パッケージは容量に応じて,M726,M728,M727,M729
の 4 種類がある。
系列の製品は,いずれも三相コンバータ部,三相イン
バータ部,ブレーキ部および NTC(Negative Tempera-
I C:25 A/div
ture Coefficient)サーミスタで構成されている。サーミス
0V
0 A V CE:200 V/div
タによってモジュール内部のケース温度をリアルタイムに
モニタすることで,異常時の確実な検出と保護を可能にし
ている。
t:200 ns/div
(c)逆回復波形
また,顧客の組立工程に応じてモジュール端子の先端形
状が選択できるように,プレスフィットピンのパッケー
ジ(M726,M727)と,ソルダピンのパッケージ(M728,
図
スイッチング波形(
「7MBR35VKD120-50」
)
M729)の 2 種類を用意している。
電気的特性
パッケージ構造
インバータ部およびブレーキ部には,最新の V シリー
⑴〜 ⑷
ズ IGBT および FWD を採用している。
V シリーズは,これまでの「U シリーズ」で開発した
.
小型化・軽量化
小 型 化・ 軽 量 化 を 達 成 す る た め に,DCB(Direct
Copper Bonding)基板の外周部の寸法および回路パター
フィールドストップ(FS)構造とトレンチゲート構造を
ン間の寸法を最適化した。外周部は,端子ケースとの嵌合
進化させている。小容量帯の製品に搭載するために,V
(かんごう)を考慮するとともに,回路パターンを最大限
シ リ ー ズ の IGBT や FWD の チ ッ プ 厚 さ を 薄 く し, か
確保できるように設計した。また,回路パターン間は,絶
つ,チップ内のキャリア濃度分布を最適化することにより,
縁性能の維持と回路パターンの最大化を両立する寸法にし
チップの小型化と損失低減を達成した。V シリーズの特徴
た。この結果,従来品と同等の絶縁耐量・信頼性を確保し
を次に示す。
つつ,銅ベースを不要にした。これにより,従来品に比べ
⒜ FS 構造とトレンチゲート構造の最適化によるオン
電圧 VCE(sat)とスイッチング損失の低減
⒝ 最高ジャンクション温度 175 ℃保証
⑶
⒞ 損失とノイズのトレードオフ改善
⒟ ゲート抵抗 Rg によるターンオン di/dt の制御性向
クランプで放熱フィンに取り付ける構造を採用したことで,
モジュールが小型・軽量になった。さらに,DCB 基板へ
の締め付け時の応力も緩和している。
表
に, 小 型 フ レ キ シ ブ ル PIM の 外 形 と 質 量 を 示
す。M727,M729 パ ッ ケ ー ジ は,50 A/600 V,15 〜
上
図
て大幅な小型化・軽量化に成功した。また,モジュールを
に,7MBR35 VKD120-50 の VCC=600 V,IC=35 A,
35 A/1,200 V に対応している。従来品で同じ定格電流の
Rg=12Ω,Tj=150 ℃におけるスイッチング波形を示す。
M711 パッケージと比較すると,小型フレキシブル PIM
ターンオフでは定格電圧を超える電圧サージは観察されず,
は,取付け面積で 45 %,質量で 75 % 削減した。これによ
逆回復では発振のないソフトリカバリー波形を実現してい
り,顧客装置の小型化・低コスト化に大きく貢献できる。
る。
さ ら に, 製 品 表 示 と 製 品 管 理 の た め に DMC(Data
Matrix Code)のレーザ捺印を行っている。長期保管や過
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
427(39)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
600 V 系は定格電流 10 〜 50 A の範囲で 5 型式を系列化し
た。さらに,端子形状が 2 種類あるため計 20 型式である。
「V シリーズ」IGBT モジュールの系列拡大 ―小型フレキシブル PIM―
表
小型フレキシブル PIM の外形と質量
シリーズ名
小型フレキシブルPIM
パッケージ名
定格電流/定格電圧
EP2(従来品)
M726,M728
M727,729
M711
10 A,15 A,20 A,30 A/600 V
10 A,15 A/1,200 V
50 A/600 V
15 A,25 A,35 A/1,200 V
50 A,75 A,100 A/600 V
25 A,35 A,50 A/1,200 V
62.8
107.5
56.7
8
22
7
24
1
2
3
4
5
6
20.5
M726:L62.8×W33.8×H16.4(mm) M727:L56.7×W62.8×H16.4(mm)
M728:L62.8×W33.8×H15.5(mm) M729:L56.7×W62.8×H15.5(mm)
質 量
23
48
62.8
H
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
H
45
33.8
48
外形図
寸 法
10
9
21
20
25 g
L107.5×W45×H20.5(mm)
45 g
180 g
酷な環境下の保管でも,高いトレーサビリティが期待でき
る。
.
端子配置,端子形状
図
にピン端子の配置を,図
にピン端子の先端形状
を示す。小型フレキシブル PIM は,ピン端子がモジュー
(a)プレスフィットピン
(b)ソルダピン
ル上面から出る構造を採用している。ピン端子配置はモ
ジュール上面内のほぼ全面から任意に選択できるので,ピ
ン端子とアース間の絶縁距離を十分確保しつつ,さまざま
な端子配置の要求に応えられる。
端子の先端形状は,顧客の組立工程に合わせてソルダピ
(c)従来品のプレスフィットピン
ンとプレスフィットピンの 2 種類から選択できる。従来品
のプレスフィットピンは,比較的定格電流が大きい従来
図
ピン端子の先端形状
パッケージの製品で,はんだフリーの組立工程に対応して
⑸
いる。小型フレキシブル PIM では,小型化するために最
適な形状のプレスフィットピンを開発し,従来品と同等の
接合信頼性を確保している。
パッケージは,環境対策として RoHS 指令に対応した鉛
フリーパッケージとしている。
端子配置可能範囲
回路構成
図
に,小型フレキシブル PIM の回路構成を示す。三
相のコンバータ部,三相のインバータ部,ブレーキ部およ
び NTC サーミスタを 1 パッケージに収めているため,1
(a)端子配置可能範囲
端子−アース間距離
14.6 mm
台で三相交流インバータを構成できる。これにより,イン
バータシステムの小型化および顧客の設計の効率化が期待
できる。
さらに,従来の PIM 製品と異なり,直流中間電圧マイ
ナス側(N ライン)を分離している。これにより,顧客装
(b)端子−アース間距離
置においてシャント抵抗や電流コアなどで各相の電流検出
を行うことができ,簡易ベクトル制御や,より確実な過電
図
ピン端子の配置
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
428(40)
流保護が可能になる。
「V シリーズ」IGBT モジュールの系列拡大 ―小型フレキシブル PIM―
P P1
R
S
T
Gu
Gv
Gw
Eu
Ev
Ew
B
U
V
W
Gb
Gx
Gy
Gz
参考文献
T1
T2
⑴ 仲野逸人ほか. 第6世代IGBTモジュール 「VシリーズPIM」.
富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.388-392.
⑵ 高橋孝太ほか. IGBTモジュール 「Vシリーズ」 の系列化.
富士時報. 2009, vol.82, no.6, p.380-383.
N
Nb
Ex
Ey
Ez
⑶ Igarashi, S. et al. Low EMI Techniques for New
(a)小型フレキシブル PIM
Generation IGBT Modules. Proc. PCIM. Europe. 2007
Powermodule p.13-17.
P P1
R
S
T
Gu
Gv
Gw
Eu
Ev
Ew
B
U
V
W
Gb
Gx
Gy
Gz
⑷ Kobayashi, Y. et al. The New concept IGBT-PIM with
T1
T2
the 6th generation V-IGBT chip technology.
⑸ 関 野 裕 介 ほ か. 「Vシ リ ー ズ 」 チ ッ プ 搭 載 のPIM・6in1
En
IGBTモジュール系列. 富士時報. 2010, vol.83, no.6, p.379-383.
(b)従来品
小松 康佑
図
小型フレキシブル PIM の回路構成
IGBT モジュールの開発設計に従事。現在,富士
電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導体
事業統括部産業モジュール技術部。
あとがき
ベースレス構造による小型化・軽量化ならびにお客さま
の適用が容易な簡易パッケージをコンセプトとした小容量
IGBT モジュール“小型フレキシブル PIM”の製品系列と,
甲斐 健志
IGBT モジュールの構造開発 ・ 設計に従事。現在,
富士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半
導体事業統括部産業モジュール技術部。
その特徴について述べた。本製品は,最新の第 6 世代 「V
シリーズ」 IGBT および FWD を採用して電気特性を最適
化しており,小容量インバータ装置に求められる高効率・
小型・軽量に大きく貢献できるものと確信する。
今後も,素子の高性能・高信頼性を確保しつつ,市場
要求を満足する小容量 IGBT モジュールの開発・系列化を
塩原 真由美
IGBT モジュールの開発設計に従事。現在,富士
電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導体
事業統括部産業モジュール技術部。
行っていく所存である。
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
429(41)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
N N1
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。