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「省エネルギー」 と 「生産性の維持」 を両立させるオフィス向け
照明制御システム
Lighting Control System for Office that both Saves Energy and Maintains Worker's Productivity
藤原
由貴男*
稲留
孝則*
畑
大介*
Yukio FUJIWARA
Takanori INADOME
Daisuke HATA
鄭
塚本
今
継川**
Jichuan ZHENG
武雄***
Takeo TSUKAMOTO
要
旨
鮑
新平**
Xinping BAO
張
光磊**
Guanglei ZHANG
重太****
Juuta KON
_________________________________________________
オフィス内のワーカーの在位状態に応じて,照明を省エネルギーかつ最適な照度状態にす
る照明制御システムを提案する.従来,大規模なオフィスにおいて調光レベルを高速に最適
化することは困難であった.本提案システムでは,LED照明を含む無線型照明制御システム
と2次計画法による最適化を用いる.外光を考慮した目標照度と現状照度との差分を,2次計
画法により最適化した後,照明を制御する.実証実験により提案手法は,照明を素早く最適
に制御することが可能であり,大規模なオフィスに対しても実用的な照明制御システムであ
ることを確認した.
ABSTRACT _________________________________________________
We propose a lighting control system that optimizes the lighting level and saves energy depending
on the worker's position. Conventionally, it has been difficult to optimize the dimming level rapidly in
a large office. In this paper, we utilize a wireless sensor network lighting control system and quadratic
programming to optimize the dimming level. Its system controls the illuminance after optimizing the
differences between the target illuminance and present illuminance by quadratic programming. Through
this experiment, we confirmed that our proposed system could control illumination optimally and faster
than the previous system. Our proposed system is also practical lighting control system for a large office.
*
リコー技術研究所
システム研究センター
System Research & Development Center, Ricoh Institute of Thechnology
**
リコーソフトウェア研究所(北京)有限公司
Ricoh Software Research Center (Beijing) Co., Ltd.
*** コーポレート統括本部
経営企画センター
Corporate Strategy and Planning Development, Corporate Division
**** リコーITソリューションズ株式会社
エンベデッドソリューション事業部
Embedded Solution Business Group, Ricoh IT Solutions Co., Ltd.
Ricoh Technical Report No.40
73
FEBRUARY, 2015
1.
り求めるため,規模の大きなオフィスへの適用を考
背景と目的
えた場合,スケーラビリティの面で十分ではない.
オフィスにおける照明の電力は約24%を占めてお
外光を利用する場合,外光は急速に変化するため,
り,照明電力の省エネルギー化が求められている.
その変動に追従できる性能が必要である.明るさの
一方,照度に関するJIS規格 (JISZ9110) に定められ
変動によりワーカーの集中力が阻害されることは
ているように,ワーカー作業ごとに適切な明るさを
に報告されている.
9)
提供することは重要である.また,オフィスにおけ
以上述べた従来技術は,大規模なオフィスの在席
る勤務状態は,ノートPCなどモバイル可能な機器
状態に応じて,省エネルギーと照度の最適化を行い
の普及により,ワークスタイルも変化し,オフィス
つつ,外光の変化に追従しながら,ワーカーに適切
の在席率も低下しており,不在場所への明るさは無
な照度を提供することは極めて困難である.
駄な電力となっている.従って,オフィス内のワー
私たちはこれまでの研究10)により照度色温度制御
カーの在席状態に応じて,適切に照度を与えること
が可能なライティングモデルを提案した.本研究で
ができ,かつ,省エネルギーができる照明システム
は,このライティングモデルを応用し,大規模なオ
が必要となる.
フィスを対象とした照明システムにおいて,ワー
従来,種々の照明システムが提供されている.照
カーの要求照度を在席状態に応じて,省エネルギー
明に併設される照度センサ,人感センサを用い,外
と照度の最適化を素早く行い,ワーカーの集中力を
光状態,人の在・不在を検知し,予め設定したエリ
妨げ,生産性を低下させることのない快適な照度を
ア内の机上面照度を一定に保つ機能を有する照明シ
提供できる照明制御システムの実現を目的とする.
ステム 1,2)がある.しかし,このようなシステムは,
2.
エリアごとに予め定めた照度に一定に制御する方法
を用いているため,ワーカーごとに状況に応じた最
適な照度を提供することが困難である.
2-1
明るさを最適化する手法としては,遺伝的アルゴ
リズムを用いた照明システムがある 3,4).この手法
照明制御アルゴリズム
アルゴリズム概要
Fig. 1に照明制御アルゴリズムの概要を示す.大
は,要求照度に対する最適化は行っているが,省エ
きく5つのステップがある.
ネルギーを考慮した最適化は行っていない.知的照
① 座席ごとにワーカーの在位状態を検出
明システムとして,自律分散制御を用いた照明制御
② 在席しているワーカーに応じ目標照度を決定
システムも提案されている .このシステムは,快
③ 照明のワーカーに対する明るさの影響度計算
適な明るさと省エネルギーの両立を実現しているが,
④ 照明と電力の最適化
演算が収束する時間が十分ではない.また,同研究
⑤ 調光レベルの制御
5)
者達は,外光の影響が無い環境のオフィスに対して,
数理的計算手法を用い,素早く照度を最適化する手
目標照度は,座席ごとに予めサーバー内に登録し
法を提案している .しかし,オフィスの外光を活
ておく.環境センサから得られる外光や非常灯など
用することは非常に有効な省エネルギー手段である
制御対象以外の光源の影響を考慮し決定する.
6)
ため十分ではない.
ここでいう照明の影響度は,制御対象となる照明
これに対し,外光を活用し,PSO手法を用いたシ
ステムが提案されている
7,8)
のワーカーに対する明るさの影響度である.
.このシステムでは数
人規模のオフィスで収束速度が数秒とある.しかし,
勾配法を用いる場合,最適値を繰り返しの探索によ
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制御対象場所に対する影響度は,制御対象場所 𝑖
に対して照明の調光レベルを1%変化させたときの
LED照明
照度変化量であり,逐点法 11) に基づき式(2)となる.
環境センサ
調光制御命令
⑤
500lux
Eim
Dm
600lux, 在
①,②
・・・
450lux
m
i
I
lm
d i2
2
i
2
h
lm2
450lux, 在
③ ,④
600lux
300lux, 不在
1
サーバー
hi2
650lux, 在
700lux
現在の照度 と 在席検知結果
目標照度
d i2
lm
1
tan
hi2
d i2
(2)
𝑙𝑚 は照明𝑚の長さであり,ℎ𝑖 ,𝑑𝑖 は,それぞれ,
Fig. 1 Overview of lighting control system.
照明𝑚に対する制御対象場所𝑖に対する高さ,場所,
水平距離である.I𝜃𝑖𝑚 は,照明𝑚の制御対象場所 𝑖
最適化方法
2-2
に対する調光レベル1%時の角度𝜃1 における単位長
電力と調光レベルの最適化手法について説明する.
さ当たりの光度である.照明の配光特性 8)より求め
式(1)は,制御対象場所の目標照度を満たし,かつ
る.
電力量が最小になるように照明の調光レベルを求め
目的関数𝐽を最小化にするため
るための目的関数である.大きく3つの項があり,
(𝑡)
𝑚
(t )
D1
(t )
D2
る.
N
( Ei( t )
J
Ei [
i 1
Ei1
D1
E i2

D2
E im
Dm
]


)2
(t )
Dm
N
(t )
Dm
(t )
D1
(t )
D2
( DL1
( DL 2
2
) PL1
) PL 2

( DLm
(t )
D1
(t )
D2
i 1
2
N
i 1
) PLm
E i1
D1
E i2
D2
(t )
Dm
Dm
i 1
(1)
N
i 1
N
(𝑡)
𝑁はワーカーの数, 𝑚は照明の数,𝐸𝑖 は制御対
( E i( t )
i 1
象の目標照 度, Ei は制 御対象 の演算開始 前の照
𝜕𝐸𝑖𝑚
𝜕𝐷𝑚
D1
E 1i
D1
E im E 1i
N
( E i( t )
度,
E 1i
E 1i E i2
D1 D2
N
aPL21
i 1
Ei2 E i2
D2 D2
N
i 1
N

i 1
N
2
L2
aP

i 1
E i1
D1
E i2
D2
E im
Dm
E im
Dm


(t )
Dm
= 0を満た
す式(3)の𝛿𝐷 を擬似逆行列により算出する.
それぞれ目標照度と差分,電力,調光変化度合であ
(t )
D1
(t )
D2
𝜕𝐽
𝜕𝛿
N
は 制 御 対 象 場所 𝑖に 対 す る 照 明の 影 響 度 ,
( E i( t )
i 1
(𝑡)
𝐷𝐿𝑚 は演算開始前の照明の調光レベル, 𝛿𝐷𝑚 は演算
D1
E im E i2
Dm D2
N
i 1
E i1
D1
E i2
Ei )
D2

E im
Ei )
Dm
Ei )
N

i 1
E im E im
Dm
Dm
2
aPLm
D L1 PL21
D L 2 PL22
2
D Lm PLm
(3)
で求める照明𝑚に対する調光レベルの変化量,𝑃𝐿𝑚
は照明𝑚の調光レベル1%当たりの電力,α, βは重
調光レベルは0%から100%の値であり,最適化の
みである.αを大きくした場合,省エネルギーにな
過程で, 𝐷𝐿𝑚 + 𝛿𝐷 がLED照明の最大調光レベル
(𝑡)
𝑚
るように働き,βを大きくした場合,現状の照度レ
である100%より高い値を算出した場合は100%,最
イアウトを保つよう働きゆっくりと照度を収束させ
低調光レベルである0%より低い値を算出した場合
る.
は0%とする.
Ricoh Technical Report No.40
75
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1
スケーラビリティ
2-3
3-1
LED照明
Fig. 2に照明の数は1.5本/人とし,ワーカー人数
LED照明は調光機能をもっており,サーバーから
に対する最適化に要する時間を示す.目標照度,演
の制御命令に基づいて,調光率0%から100%まで,
算開始前の照度,影響度は乱数によりランダムに発
1%刻みで調光できる.また,調光率ごとの消費電
生させ,最適化に要した時間(5回平均値)を算出
力データを保持しており,サーバーからの要求に従
した.
い,現状の調光レベルに基づいた消費電力値を返す.
本システムではワーカー400人,照明600灯規模の
3-2
オフィスまで2秒以内で演算することが可能である.
環境センサ
これにより外光変化に伴う明るさ変動に追従し照明
環境センサは温湿度センサ,照度センサ,人感セ
照度を制御することができるため,ワーカーの集中
ンサを有し,環境センサ用コントローラの設定に
力の低下を抑制できる.
従って,それぞれのデータをサーバーに送信する.
送信は全ての情報を1秒ごとに送信する.環境セン
サが保有する照度センサから外光値を算出する.
1.4
計算機能力
OS:Windows 7
CPU:Core i5-3320 2.5GHz
メモリ:4GB以上
最適化時間[s]
1.2
1
0.8
3-3
サーバーはWebサーバー,DBサーバーを有し,
プログラム言語
Java
0.6
サーバー
DBサーバーに蓄積したデータに基づいて,制御ア
0.4
ルゴリズムを実行する.LED照明の消費電力は1管
0.2
ごとに1分間隔で取得・蓄積し,環境センサのセン
0
0
50
100
150
200
250
300
350
400
450
サデータは1秒間隔で取得・蓄積する.制御アルゴ
ワーカー人数[人]
リズムの実行結果に基づき,LED照明に調光制御命
令を送信する.また,座席ごとに予め設定する目標
Fig. 2 Calculation time of optimization for scalability.
照度は,ワーカーに応じた適切な照度を個別に設定
3.
することが可能である.
照明制御システム構成
Fig. 3にシステムのブロック図を示す.システム
は主に,LED照明,環境センサ,サーバーで構成さ
れ,サーバーとLED照明,環境センサはそれぞれ専
用の無線親機およびコントローラを介して,920 MHz
帯の無線で接続される.
照明用無線親機
環境センサ
温湿度
センサ
照度
センサ
制御用マイコン
920MHz帯
無線モジュール
人感
センサ
LAN
IF
制御用
マイコン
LED照明
920MHz帯
無線モジュール
920MHz帯
無線モジュール
LED
ドライバ
環境センサ用無線親機
920MHz帯
無線モジュール
制御用
マイコン
制御用
マイコン
LAN
IF
LED
電源(AC/DC変換)
LAN
IF
サーバー
環境センサ用コントローラ
ROM
RAM
制御用
マイコン
HUB
Webサーバー
制御アルゴリズム
DB
Fig. 3 Block diagram of system.
Ricoh Technical Report No.40
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4.
実験結果と考察
4-2
照明制御システムの実験評価
電力削減効果
4-2-1
4-1
実験環境
実証実験の電力削減効果をFig. 5に示す.制御無し
Fig. 4に示す照明レイアウトを持つオフィスにて
の電力量は,実験期間中に照明制御システムが稼動
実証実験を行った.照明の本数は217本,制御対象
した時間に対して全てのLED照明が調光レベル100%
場所はワーカーの座席138席とミーティングスペー
であると仮定し電力量を算出した.制御無しにおけ
スの合計141ヶ所であった.ワーカーの業務内容は
る2ヶ月間の電力量と比較し,照明制御システムの
設計,評価,スタッフ,マネージメントであった.
制御による効果は,38%の電力削減率であった.
実証実験の期間は2014年2月1日から2014年3月31日.
実証実験実施期間における目標照度は1,000 [lux]と
照明
して,電力削減効果を評価した.なお,実験対象場
照明制御システム(照明以外)
4,000
所の標準勤務時間は9時から17時30分であった.
3,500
12m
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
.
5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
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5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
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5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
.
5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
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5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
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0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
.
5
5
0
.5 0
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.5 .5
5
55
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0
.0 0
.0
.0
.5
5
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5
5
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.5 0
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.0
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5
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.0 0
.0
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5
5
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.5 .5
5
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.0 0
.0
.0
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0
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.5
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5
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.5 .5
5
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0
.0 0
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.0
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5
0
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55
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0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
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5
5
0
.5 0
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.5 .5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
.
5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
2,500
2,000
427
3507
1,500
1,000
1732
500
0
制御無し
0
.
5
0
.
5
0
.
5
0
.
05
0.
5.
5
00
0
.0
.
0
.5 0
.5
0
0
.0
.0
.5
.5
5
.5
.
5
5
55
00
0
.0 0
.0
.0
.5
5
.0
.
5
5
0
.5 0
.
.5 .5
5
55
座席
0
.
5
ミーティング
スペース
0
.
5
LED
電力量[kwh]
3,000
制御有り
54m
Fig. 5 Power saving effect.
Fig. 4 Experiment environment.
実証期間中の休日を除く平日の時間別の照明電力
また,照明制御システムのワーカーへの作業中の
の削減効果をFig. 6に示す.時間別では,定時内で
影響を,実証実験実施後のアンケート評価により
は約30%の電力削減効果があり,業務開始前,業務
行った.アンケート内容をTable 1に示す.
終了後の残業時においては約40%以上と大きな電力
削減効果があった.残業時のオフィス内の在席率が
Table 1 Contents of questionnaire.
低下するにつれて電力削減効果が高くなることが顕
項目
内容
著に表れている.
照明制御に対する総合評価
机上面の明るさ総合満足度/
机上面の作業効率
机上面,執務空間全体の
見やすさ
机上面の書類などの見やすさ
/机上面のモニター見やすさ
/執務空間全体の見やすさ
机上面,執務空間全体の
明るさ度合
机上面の明るさ度合/
執務空間全体の明るさ度合
フリーアンサー
照明制御システムに対する
意見
100
90
電力削減効果[%]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
時刻
Fig. 6 Power saving effect during work.
Ricoh Technical Report No.40
77
FEBRUARY, 2015
4-2-2
机上面,執務空間全体の明るさに対する結果を
アンケート調査結果
Fig. 9に示す.Fig. 7の総合評価の結果とは異なり,
実証実験中の照明制御システムに対する総合評価
机上面の明るさ度合,執務空間全体の明るさ度合に
結果をFig. 7に示す.机上面での見やすさ,明るさ
対して,やや暗く感じると答えた割合が多く,特に
度合に対する総合満足度,照明制御実施下での作業
執務空間全体の明るさに対しては30%と多くなった.
効率に対して,低下したと答えた割合は約10%以下
であり,生産性の維持ができていると考える.
良くなった
やや良くなった
やや悪くなった
悪くなった
変わらない
100%
3%
3%
9%
5%
100%
明るく感じる
やや明るく感じる
やや暗く感じる
暗く感じる
2%
変わらない
1%
15%
32%
80%
80%
60%
38%
52%
60%
80%
40%
45%
40%
23%
20%
21%
15%
20%
26%
0%
8%
4%
0%
机上面の明るさ総合満足度
11%
6%
机上面の明るさ度合
執務空間全体の明るさ度合
机上面の作業効率
Fig. 9 Brightness of desk top and whole of space.
Fig. 7 Satisfaction and operational efficiency on desk
top.
執務空間全体に対する見やすさ,明るさ度合に対
机上面,執務空間全体の見やすさに対する評価結
して,やや見づらい,やや暗く感じると答えた割合
果をFig. 8に示す.書類やPC作業ではやや不満足と
が多くなったのは,本実験ではワーカーが不在とな
感じている人は約10%以下でありFig. 7と同様の傾
る座席には照度を与えない制御を行っているためで
向がある.執務空間全体の明るさに対する結果では,
ある.本照明制御システムでは,全体の明るさを考
やや見づらいという意見が多くなった.
慮した制御を行うことができる.しかし,Fig. 6に
示すように総合評価の結果からは,生産性の維持は
100%
見やすい
やや見やすい
やや見づらい
見づらい
1%
1%
9%
8%
40%
41%
達成できていると考えられるため,机上面以外での
変わらない
明るさが,机上面での作業効率に及ぼす影響がある
1%
かについて今後調査していく必要がある.
16%
フリーアンサーから得られた特徴的な意見を
80%
60%
40%
20%
Table 2に示す.照明の消灯時の制御状態に対する意
51%
21%
22%
30%
28%
机上面の書類などの見やすさ
机上面のモニター見やすさ
見が複数人から挙がった.実証実験では,ワーカー
が在席する机上の1点に対して目標照度を定めた.
22%
そのため,複数の人が同時に離席した際は,場合に
9%
0%
執務空間全体の見やすさ
よっては在席パターンによって席の前方の照明が点
灯して照度を維持していた状態から,後方の照明が
Fig. 8 Satisfaction of desk top and whole of space.
点灯して照度を維持する状態へ変化が起こってしま
うことが原因と考えられる.机上の1点の照度変化
が少ない場合でも,照明の点灯パターンが大きく変
Ricoh Technical Report No.40
78
FEBRUARY, 2015
化することは,机上面の影の状態も大きく変化して
参考文献 _________________________________
しまう.自席の明るさに対する満足度を低下させる
1)
佃和吉, 五島成夫, 山本一喜: ネットワーク式
原因になっている可能性があるため,机上面の目標
自律照明制御型器具, 松下電工技報, No. 74, pp.
照度を定める座標を複数点設けるなどの検討を行い,
74-80 (2001).
目標照度の自席以外の人が離席した際に気づかれな
2)
いよう消灯時の制御を検討していく必要がある.
森本康司, 太田正明: オフィスにおける照明設
備の省エネ制御, 東芝レビュー, Vol. 59, No. 10
(2004).
3)
Table 2 Free answer.
H. Park et al.: Design and Implementation of a
フリーアンサー回答結果
Wireless Sensor Network for Intelligent Light
自席に近い複数の人が同時に離席した際の,全体的な明るさ
の変化が気になる
Control, Proceedings of the 6th International
照明の点灯までのスピードは問題がないが,消灯時に早く消
えるのは気になる
Conference on Information Processing in Sensor
Networks, Cambridge, MA, pp. 370-379 (2007).
4)
5.
H. Park et al.: Intelligent Lighting Control using
Wireless Sensor Networks for Media Production,
結論と今後の展望
KSII Transactions On Internet And Information
Systems, Vol. 3, No. 5, pp. 423-443 (2009).
本稿では,「省エネルギー」と「生産性の維持」
5)
を両立させるオフィス向け照明制御システムを提案
三木光範: 知的照明システムのための自律分散
最適化アルゴリズム, IEEJ Trans. EIS, Vol. 130,
した.
No. 5, pp. 750-757 (2010).
従来技術では省エネルギーと照度の最適化が素早
6)
く収束することは困難であった.そこで,ワーカー
三木光範: 外光のない状況において個別照度を
実 現 す る 照 明 の 最 適 制 御 , The 25th Annual
の在位状態を判別し,逐点法により照度推測を行い,
Conference of the Japanese Society for Artificial
2次計画法の最適化手法を用いた照明制御システム
Intelligence, 2I1-2, pp. 1-3 (2011).
を提案した.実証実験により大規模なオフィスにお
7)
いても実用的な照明制御システムであることを確認
W. Si: A Prototype of Energy Saving System for
Office Lighting by Using PSO and WSN, IEEJ Trans.
した.今後は,更なるスケーラビリティの向上,消
EIS, Vol. 131, No. 7, pp. 1298-1302 (2011).
灯時の制御方法の検討,また,机上面以外での明る
8)
さ感,照明の制御速度等の物理量として明確な仕様
W. Si: An Improved PSO Method for Energy Saving
System of office Lighting, SICE Annual Conference
が決まっていないものがワーカーの生産性にどのよ
2011, pp. 1533-1536 (2011).
うに影響があるかについて実証実験を行い調査して
9)
いくことを課題とする.
鹿倉智明, 森川廣幸, 中村芳樹: オフィス照明
環境における明るさの変動知覚に関する研究,
照明学会誌, Vol. 85, No. 5, pp. 346-351 (2001).
10) 鮑新平, 張光磊, 鄭継川: 知的照明システムに
おける照度と色温度制御, Ricoh Technical Report,
No. 39, pp. 180-187 (2013).
11) 岩 通 電 気 株 式 会 社 : 照 明 技 術 資 料 ,
http://www.iwasaki.co.jp/info_lib/tech -data/
calculation/point_method/02.html (参照2014-10-31).
Ricoh Technical Report No.40
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FEBRUARY, 2015