FEJ 82 06 403 2009

富士時報 Vol.82 No.6 2009
特 集
EPA5.0 規格対応カレントモード PWM 制御 IC
「FA5592 シリーズ」
FA5592 Series of EPA5.0-compliant Current Mode PWM-ICs
朴 虎崗 Kokou Boku
藤井 優孝 Masanari Fujii
山根 博樹 Hiroki Yamane
電気製品全般での低消費電力化と高周波数規制の要求が厳しくなりつつある。2009 年 7 月に米国環境保護庁発効の
EPA5.0 規格に適合するため,従来以上に電源 IC の軽負荷時特性を高める必要がある。富士電機では,低消費電力化に有
効な起動素子内蔵タイプのスイッチング電源用制御 IC の系列化を進めている。カレントモード PWM-IC「FA5592 シリー
ズ」は,EPA5.0 規格に対応し,750 V 起動素子の内蔵,軽負荷時周波数低減特性の改善,低 EMI ノイズ,保護機能の充実
などの特長がある。
In recent years, requests for lower power consumption and for harmonic regulation have intensified for all electrical products. To meet
the United States Environmental Protection Agency’
s EPA5.0 standard, which became effective as of July 2009, it is necessary to improve the
light load performance of an IC in a power supply. Fuji Electric has been developing switching mode power supply control ICs. These ICs contain an internal start-up element which is effective for reducing the power consumption. In this paper, we introduce Fuji Electric’
s FA5592
series of current mode PWM-ICs that comply with the EPA5.0 standard. This series features an internal 750 V start-up element, improved frequency-lowering performance when operating under light load conditions, lower EMI noise, and enhanced protection functions.
1 まえがき
要求が強まっている。ノートパソコンメーカーをはじめと
する各電気機器メーカーは,2009 年 7 月に米国環境保護
近年,地球環境の温暖化が世界的な問題として取り上げ
庁発効の EPA5.0 規格に適合するため従来以上に電源用制
られ,電気製品全般で省エネルギー化がますます重要と
御 IC の低待機消費電力特性向上への要求を強くしてきて
なっている。特に常時コンセントに接続されているテレビ
いる。
やオーディオ製品,ノートパソコン,プリンタなどの周辺
富士電機ではこれまで商用交流電源(100 V,240 V)を
機器では実使用以外の待機状態の時間が長い。そのため待
直流電源に変換するスイッチング電源用の制御 IC を系
機時の消費電力を削減することが必須となり,それらの機
列化している。今回は従来よりも低待機消費電力特性と
器で使用する電源に対しても年々待機時の消費電力の削減
EMI(Electromagnetic Interference)ノイズ低減機能を
表₁ 低待機電力対応 PWM 制御 IC シリーズの特性一覧
周波数
拡散
シリーズ
FA5528
型 式
FA5528
FA5546
FA5547
FA5547
FA5592
FA5593
FA5594
FA5592
FA5595
FA5596
FA5597
パッ
ケージ
動作
周波数
SOP-8,
60 kHz
DIP-8
SOP-8,
60 kHz
DIP-8
SOP-8,
100 kHz
DIP-8
SOP-8,
65 kHz
DIP-8
SOP-8,
65 kHz
DIP-8
拡散幅
−
−
±7 kHz
±5 kHz
±5 kHz
DSS
(Dynamic
Self
Supply)
機能
−
−
○
−
−
保護機能
低待機電力
過負荷
保護
最大入力
しきい値
電圧
ピーク
負荷
対応
過電圧
外部
ラッチ
(過熱
保護)
ブラ
ウン
アウ
ト
二次
側短
絡保
護
無負荷時
入力電力(W)
(V IN = AC
264 V のとき)
タイマ
ラッチ
+1.0 V
−
ラッチ
○
−
−
0.30
− 0.67/
− 1.0 V
○
ラッチ
○
○
−
0.17
− 0.67/
− 1.0 V
○
ラッチ
○
○
−
− 0.3/
− 0.5V
○
ラッチ
○
○
○
− 0.5V
−
ラッチ
○
○
○
自動
復帰
タイマ
ラッチ
自動
復帰
タイマ
ラッチ
自動
復帰
タイマ
ラッチ
自動
復帰
タイマ
ラッチ
0.09
注:−は機能なし
403( 47 )
富士時報 Vol.82 No.6 2009
EPA5.0 規格対応カレントモード PWM 制御 IC「FA5592 シリーズ」
特 集
強化し,各種製品に最適な保護機能を付加した 8 ピンのカ
⑶ 軽負荷時周波数低減特性の改善
レ ン ト モ ー ド PWM(Pulse Width Modulation) 制 御 IC
⑷ 低 EMI ノイズ
「FA5592 シリーズ」を開発したのでその概要を紹介する。
⑸ 保護機能の充実
2 製品の概要
₂.₂ 機能の詳細
⑴ EPA5.0 規格対応
富 士 電 機 で は,30 V 耐 圧 の CMOS(Complementary
EPA5.0 規格対応のために電源の平均効率と待機電力特
Metal-Oxide-Semiconductor)プロセスを使用した低待機
性の向上を図っている。軽負荷時周波数リニア低減を行っ
電力対応の電源 IC を系列化している。その系列一覧を 表
ており,60 % 以下の負荷レベルに対して周波数低減を行
₁に示す。今回開発した FA5592 シリーズは,過負荷保護
うことで 25 % と 50 % 負荷領域での効率を改善している。
動作としてラッチ/自動復帰方式とピーク負荷対応などを
それにより EPA5.0 の平均効率規格を達成している。
系列化している。また,軽負荷時トランスの補助巻線電圧
⑵ 750 V 起動素子内蔵
が不足しても起動回路から電流を流し IC の電源端子を保
待機時消費電力削減のために起動回路を内蔵している。
持する機能(DSS:Dynamic Self Supply)も系列化して
その耐圧を従来の 500 V から 750 V 保証にすることで電源
いる。
事情の悪い国への対応を図っている。従来より起動電流を
増加させることで電源起動時間の短縮を図っている。さら
FA5592 シリーズは,従来機種より低待機電力特性・低
EMI ノイズ特性の向上および保護機能の充実化を図って
に,軽負荷時に補助巻線電圧が不足しても VCC 端子電圧
いる。
を保持することもできる。
⑶ 軽負荷時周波数低減特性の改善
₂.₁ 特 徴
従来機種においては,入力電圧が高いときは軽負荷時の
今回開発した FA5592 のブロック図を図₁に示す。また,
動作周波数が低くなり音鳴りが問題であった。また,入力
その特徴を以下に列挙し,後にその詳細を説明する。
電圧が低いときは動作周波数が十分落ちず平均効率が低下
⑴ EPA5.0 規格対応
することが問題であった。今回開発した FA5592 シリーズ
⑵ 750 V 起動素子内蔵
は,100 V 系と 200 V 系の周波数低減特性を同一にして従
図1 「FA5592」のブロック図
起動
回路
VH
VCC
+
基準電圧
UVLO
オン
−
内部
電源
+
−
DBL
ドライバ
リセット
D max
リセット
ブランキング
パルス
OSC
5V
RSFF
S
LAT
Q
R QB
スロープ
+
FB
OFF
起動回路
制御
−
+
−
モニタ
制御
オン
PWM
+
+
−
IS
VCC
保持
OVP
+
−
GND
LAT
ラッチ
ラッチ
セット
リセット
S
OLP タイマ
リセット
ブラウンアウト BO
タイマ
(50 ms)
404( 48 )
Q
R QB
R
BO
RSFF
S
OLP
OUT
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EPA5.0 規格対応カレントモード PWM 制御 IC「FA5592 シリーズ」
図₂ 軽負荷時周波数低減方法の改善
電源
出力電圧
待機電力大
T olp(200 ms)
従来機種
100 V 系
FB
FA5592 シリーズは
100 V 系と 200 V 系
の特性を統一
OUT
T off(1,600 ms)
VCC
従来機種
200 V 系
音鳴り
20 kHz
二次側短絡保護
特 集
固定周波数
スイッチング周波数
図₄ 「FA5592」の負荷短絡保護機能のシーケンス
VCCdet
VCCOFF
f min
25%
0
60%
負荷
VCCdet :負荷短絡保護しきい値電圧
:過負荷遅延時間
T olp
:過負荷停止時間
T off
:フィードバック信号
FB
:出力信号
OUT
:IC 電源電圧
VCC
VCCOFF :IC リセット電圧
図₃ 「FA5592」の内蔵デジタル周波数拡散方式
図₅ 起動電流の「FA5592」VCC 端子電圧依存性
70 kHz
18
起動電流(mA)
Δf =±5 kHz
65 kHz
60 kHz
16
14
FA5592(VH=120 V のとき)
12
10
VCC 短絡時
起動電流を絞る
8
6
4
f m=125 Hz(8 ms)
従来機種(VH=120 V のとき)
0
4
8
12
16
20
VCC 電圧(V)
来の問題を解決した。図₂に 100 V 系と 200 V 系の周波数
リーズでは負荷短絡状態を検出し,過負荷遅延時間より
低減特性を示す。
短い時間内でも強制停止する機能を内蔵している。図₄
⑷ 低 EMI ノイズ
にそのシーケンスを示す。負荷短絡状態を VCC 端子電
電源の EMI ノイズ(雑音端子間電圧)低減のためにデ
圧で検出して IC がリセットされる前にスイッチング動
ジタル周波数拡散機能を内蔵している。 図₃ にその動作
作を止めるため過負荷停止期間が正常に取れる。そのた
を示す。周波数拡散幅 Δf は 65 kHz 固定周波数の場合 +
−
5 kHz とし,周波数拡散周期は 8 ms(125 Hz)で,動作周
め負荷短絡時にパワー MOSFET を保護できる。
⒝ 低 VCC 時,起動電流制限機能
波数はその周期内で階段状に変化させている。また,周波
VCC 端子と GND ショート時の発熱を抑えるため,
数拡散幅 Δf を +
− 5 kHz にすることで,電源の EMI ノイ
VCC 電圧が低いときに起動電流を制限する機能を追加
ズ(雑音端子間ノイズ)測定時に十分低減効果が達成でき
した。図₅に従来機種との起動電流の比較結果を示す。
ている。
VCC 端子電圧が高いとき,起動電流は全領域で従来機
⑸ 保護機能の充実
種より大きいが,VCC = 0 V 時は起動電流制限機能に
⒜ 負荷短絡保護機能
より従来機種とほぼ同等なレベルに制限している。
従来機種において負荷短絡時に VCC 端子電圧が低
下し,IC がリセットされ,間欠動作を繰り返していた。
3 電源回路への適用効果
そのため過負荷停止時間が十分取れずパワー MOSFET
(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)
に長時間大電流が流れ,熱破壊する恐れがあった。対策
として VCC 端子の電解コンデンサの容量を大きくして
VCC 端子電圧の低下を防ぐ必要があった。FA5592 シ
₃.₁ 評価用電源回路の構成
FA5592 を使用したスイッチング電源の特性を説明する。
図₆に FA5592 シリーズの応用電源回路図を示す。
電源仕様は次のとおりである。
405( 49 )
富士時報 Vol.82 No.6 2009
EPA5.0 規格対応カレントモード PWM 制御 IC「FA5592 シリーズ」
図₆ 「FA5592」の評価用電源回路
6
C29
2,200 pF
D4
ERA92-02
D3
6
5
VH (NC) VCC OUT
FA5592
FA5593
IC1
LAT
FB
IS
GND
1
2
3
4
*
R24
オープン
+
F
C36
CN2
R33
220Ω
R36
51 kΩ
PC1 A
R34
1 kΩ
C37 0.1
C38
0.1
R22
1 kΩ
F
R37
4.7 kΩ
R35
F 20 kΩ
R38
4.7 kΩ
IC2
2
R23
1MkΩ
*:R24 は以下 2 とおりの接続可能
①VCC-IS 間に接続
②OUT-IS 間に接続
R24 で発生するロスを削減する場合
C12 R16
330 pF(オープン)
図₇ 「FA5592」の電源効率の負荷電流依存性
図₈ 無負荷時入力電力の入力電圧依存性
出力 65 W/19 V
90
0.20
0.18
電力(W)
86
効率(%)
+
C35
470 F
HS2
R21
10Ω
C16
0.1 F
C11
0.01 F
PC1 B
+
ERA92-02
D6
1
C14
47 F
7
+
C40
0.01 F
R5
0.1Ω
R8
10Ω
8
19 V/3.4 A
+
R6
4.7 kΩ
R7
220Ω
R11
2.2 kΩ
C9
3.3 F
8,9
FMV11N60
TR1
C13
0.1 F
HS1
82
78
0.16
従来機種
0.14
FA5592
0.12
0.10
FA5592(115 V のとき)
74
FA5592(230 V のとき)
0.08
50
従来機種(115 V のとき)
従来機種(230 V のとき)
70
DS2
YG902C2R
D2
ZNR1
CN1
L3
3.3 H
T1
10,11
0.1
1 MΩ
4
R3
100 kΩ
C34
470 F
R2
C5
220 F
C6
0.01 F
+
C33
470 F
C2
1 MΩ
F
R1
C1
0.47 F
AC 90 ∼
264 V
D5SBA60
DS1
TH1
L1
12 mH
0.22
F1
3.15 A
R31
470 pF 33Ω
C32
470 F
特 集
C31
C30
2,200 pF
0
25
50
75
100
150
200
250
300
入力電圧(V)
100
負荷率(%)
を 図₇ と 表₂ に示す。FA5592 シリーズは 115 V 入力電圧
で平均効率 1.6 %,230 V 入力電圧で 1.5 % 向上し,EPA5.0
表₂ 「FA5592」と従来機種との効率比較
の 平 均 効 率 規 格 87 % が 達 成 で き た。 図 ₈ に 同 じ く 無 負
電源効率(%)
FA5592
荷時の入力電力の比較結果を示す。無負荷時入力電力は
従来機種
全入力電圧範囲にわたって従来機種より低減しており,
負荷率
25%
50%
75%
100%
25%
50%
75%
100%
115
87.89
87.76
87.45
86.75
83.71
86.12
87.16
86.57
230
87.93
88.27
87.91
87.81
84.32
86.49
87.69
87.50
AC
入力
電圧
(V)
AC90 V 入力で約 110 mW と減っている。
₃.₃ EMI ノイズ抑制効果
図₉ と 図₁0 にそれぞれ周波数拡散機能の有無について
EMI ノイズ(雑音端子電圧)の測定結果を示し, 表₃ に
まとめた。EMI 規格のクラス B リミットに対し FA5592
〜 264 V
™入力電圧:AC90
シリーズの QP(Quasi Peak)マージンは従来機種より約
V
™電源出力:DC19
2 dB 向上し,AV(Average)マージンは約 13 dB 向上し
W
™出力電力:65
ている。周波数拡散機能による EMI 伝導ノイズの低減効
果により電源の入力側のフィルタを削除または小容量化も
₃.₂ 電源効率と無負荷時入力電力特性
負荷電流と電源効率の関係を従来機種と比較した結果
406( 50 )
可能となっている。
富士時報 Vol.82 No.6 2009
EPA5.0 規格対応カレントモード PWM 制御 IC「FA5592 シリーズ」
図₉ 従来機種の EMI 測定結果
(LA)PEAK: QP: AV: (LB)PEAK: QP: AV: :2.501 ms
t1
:154.7 ms
t2
Δt :152.2 ms
1/Δt :6.572 Hz
80
70
V)
60
QP
AV
Vo
50
(dB
3
V CC
40
30
負荷短絡検出VCCしきい値電圧
V DS
150 ms
2
20
50 ms
過負荷停止期間
10
0
0.15 0.2
0.3
0.5 0.7
1
2
3
5
7
10
20
30
Ch1 100 V
Ch3 10.0 V
周波数(MHz)
BW
Ch2 10.0 V
BW
M 200 ms 125 kS/s 8.0
A Ch3 ∼ 11.2 V
V DS:パワー MOSFET のドレイン電圧
V CC :IC 電源電圧
s/pt
V o:電源出力電圧
図1₀ FA5592 の EMI 測定結果
(LA)PEAK: QP: AV: (LB)PEAK: QP: AV: 90
特性・低 EMI ノイズ特性を重視したスイッチング電源に
80
適している。また EPA5.0 の平均効率規格をよりマージン
70
(dB
V)
60
を持ってクリアでき,充実した保護機能により電源の安全
QP
性を高めている。今後もさらに低待機電力消費・低 EMI
AV
50
ノイズの要求は高まってくるため,市場要求に応じた電源
40
制御 IC の製品開発,系列化を進めていく所存である。
30
参考文献
20
⑴ 藤井優孝ほか. 多機能低待機電力PWM電源IC
10
0
0.15 0.2
「FA5553/5547シリーズ」
. 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.4360.3
0.5 0.7
1
2
3
5
7
10
20
30
周波数(MHz)
440.
⑵ 丸山宏志ほか. 低待機電力擬似共振電源IC「FA5571シリー
ズ」
. 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.415-418.
表₃ 「FA5592」と従来機種との EMI マージン比較
規格に対するマージン
FA5592
従来機種
QP(dB)
8.4
6.5
AV(dB)
11.1
− 2.2
朴 虎崗
スイッチング電源 IC の開発に従事。現在,富士電
機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括
部ディスクリート・IC 開発部。
₃.₄ 過負荷動作時の電源出力短絡保護特性
₁ に示す。
自動復帰版 IC の負荷短絡時の保護動作を図₁
負荷短絡状態で VCC 端子電圧が IC のしきい値電圧より
藤井 優孝
下がったら,IC 固定仕様の過負荷遅延時間(200 ms)以
スイッチング電源 IC の開発に従事。現在,富士電
内でも即動作停止する。VCC 端子電圧の低下による IC の
機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括
部ディスクリート・IC 開発部。
リセット動作は発生せず,過負荷停止期間は正常に取れて
いる。そのためパワー MOSFET に長時間大電流が流れな
いので熱破壊が防止できる。
4 あとがき
新規開発したカレントモード PWM 制御 IC「FA5592
山根 博樹
スイッチング電源 IC の開発に従事。現在,富士電
機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括
部ディスクリート・IC 開発部。
シリーズ」について紹介した。これらの IC は低待機電力
407( 51 )
特 集
90
図1₁ 「FA5592」負荷短絡時の保護動作
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。