FEJ 71 08 430 1998

富士時報
Vol.71 No.8 1998
カレントモード電源用 CMOSIC
丸山 宏志(まるやま ひろし)
まえがき
特に海外ではよく採用されている方式である。
表2 に FA1384x
近年,環境問題の改善策として省エネルギー化が重要視
シリーズの 主要特性 を 示 す。また, 図
1 にチップ写真を示す。
されるなか,電気・電子機器に広く使用されるスイッチン
グ電源の高効率化・低消費電力化がクローズアップされて
2.1 特 長
いる。このため,リモートコントローラやタイマ付きの製
今回開発 した FA1384x シリーズは, 8 ピンのカレント
品や AC アダプタなど常時電源を投入したまま使用される
モード電源用制御 IC としては,業界標準といえる他社の
製品では,待機時消費電力の低減を目的として,スタンバ
384x シリーズと同じピン配置を採用し,同じ機能を CMOS
イ(低消費電力)モードを持つなどの工夫をした電源回路
回路で構成している。また,パッケージ外形は DIP(Dual
も増えてきている。
Inline Package)と SOP( Small Outline Package)の2
商用交流電源 ( 100 V, 230 V など)を 直流電源 に 変換
する AC-DC 電源用制御 IC として,バイポーラプロセス
種類を用意している。
IC の特長は以下のとおりである。
を使用したものが従来から主として開発されてきたが,ス
(1) CMOS プロセスの採用により低消費電流化
タンバイモードなどの最小負荷時には電源用制御 IC 自体
(2 ) サイクル 単位 で 電流制限 を 行 う,ラッチング PWM
の消費電力も,低消費電力化の対象となるレベルに達して
(Pulse Width Modulation)制御
(3) ヒステリシス特性をもつ低電圧ロックアウト
いる。
富士電機では,液晶パネルやプリンタのサーマルヘッド
などで使用される高耐圧ドライバ IC の開発で蓄積してき
た 高耐圧 CMOS( Complementary MOS)プロセス 技術
FA13842/44 : 16.5 V オン/9 V オフ
FA13843/45 : 9.6 V オン/9 V オフ
(4 ) フライバック 回路 またはフォワード 回路向 けに 最大
を,スイッチング電源用制御 IC にも適用し,消費電流の
デューティの異なる品種を用意
低減 を 行 った CMOS タイプの IC を 開発 していく 方針 を
FA13842/43 : 96 %
固め,その関連製品として,8 ピンのカレントモード電源
FA13844/45 : 48 %
用制御 CMOSIC「FA1384x シリーズ」を開発したので,
(RT = 10 kΩ,CT = 3,300 pF のとき)
その概要を紹介する。
2.2 回路構成・デバイス
製品の概要
今回開発した FA1384x シリーズの回路ブロック図を図
2 に 示 す。 VCC 端子 から 接続 された 基準電圧発生回路 ,
富士電機ではすでに,バイポーラプロセスを用いた
AC-
低電圧保護(UVLO)回路,出力ドライバ回路などから構
DC 電源用制御 IC として, 表 1 の 製品 を 系列化 している。
成される高耐圧部と,基準電圧発生回路から接続された発
今回の開発では,製品系列を強化するため 8 ピンのカレン
,電流比較器(カレン
振器,誤差増幅器(エラーアンプ)
トモード電源用制御 IC を,CMOS プロセスを用いて製品
トコンパレータ)などの低耐圧制御部から構成されている。
化した。
2.2.1 デバイス
こ の 制 御 方 式 は , パ ワ ー MOSFET ( Metal-Oxide-
使用したプロセスは,30 V 耐圧の高耐圧 MOS デバイス
Semiconductor Field-Effect Transistor)のピーク 電流 を
と 5 V 耐圧の MOS デバイスで,2 種類のゲート酸化膜厚
一定に保つように制御する方式で,位相遅れ要素の影響が
を使い分ける構成をとっており,高耐圧・低耐圧どちらで
少なく,安定動作する電源を設計しやすいなどの理由で,
も CMOS 回路を構成することができる。
丸山 宏志
スイッチング電源用制御 IC の開
発に従事。現在,松本工場半導体
開発センター IC 開発部主任。
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表1 AC-DC電源用 IC の製品系列
動作電圧
最大動作周波数
最大デューティ
FA5301BP/BN
(16ピン)
7∼22V
200kHz
任意
20mA
(DC)
FA5304AP/AS
(8ピン)
10∼30V
600kHz
46%
±1.5A
(ピーク)
FA5305AP/AS
(8ピン)
10∼30V
600kHz
46%
±1.5A
(ピーク)
FA5310BP/BS
(8ピン)
10∼30V
600kHz
46%
FA5311BP/BS
(8ピン)
10∼30V
FA5314P/S
(8ピン)
エラー
アンプ
基準電圧
機 能
あり
5V
±5%
外部同期
過負荷・過電流
CRT
モニタ
2.0V
±5%
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
2.0V
±5%
過負荷・過電圧
過電流(−検出)
汎用電源
±1.5A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
フォワード回路
600kHz
70%
±1.5A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
フライバック回路
10∼30V
600kHz
46%
±1.5A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(−検出)
汎用電源
フォワード回路
FA5315P/S
(8ピン)
10∼30V
600kHz
70%
±1.5A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(−検出)
汎用電源
フライバック回路
FA5316P/S
(8ピン)
10∼30V
600kHz
46%
±1.0A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
フォワード回路
FA5317P/S
(8ピン)
10∼30V
600kHz
70%
±1.0A
(ピーク)
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
フライバック回路
FA5321P/M
(16ピン)
12∼27V
500kHz
50%
±1.5A
(ピーク)
2.4V
±8%
カレントモード
外部同期
過負荷・過電圧
過電流(+検出)
汎用電源
FA5331P/M
(16ピン)
10∼28V
220kHz
92%
±1.5A
(ピーク)
1.54V
±4%
外部同期
過電圧・過電流
力率改善
形式(端子数)
出力電流
表2 FA1384xシリーズの主要特性
5V
±4%
用 途
図1 チップ写真(FA13842)
(a)絶対最大定格
項 目
特 性
電源電圧
10∼28V
ソース電流
400mA
シンク電流
1.0A
出力ピーク電流
動作周波数
10∼500kHz
動作周囲温度
−25∼+85℃
動作接合温度
150℃
(b)電気的特性
項 目
スタートアップ電流
特 性
12 A(標準)
スタンバイ電流(V CC =14V)
2 A(最大)
動作時消費電流(C L =1,000pF)
3mA(標準)
基準電圧
5V±5%
エラーアンプ帰還入力電圧
2.5V±4%
電流センス最大入力しきい電圧
1V±0.1V
出力立上り時間(C L =1,000pF)
40ns(標準)
出力立下り時間(C L =1,000pF)
20ns(標準)
2.2.2 UVLO 回路
CMOS 化 のメリットを 生 かし, 起動前 の 消費電流 を 徹
底的に低減するため,図3に示す回路構成とした。
動作は,VCC 電圧がツェナー電圧を超えるまでは MN1
がオフしているので 電流 はほぼゼロになり, 出力 される
H/L のロジック 信号 によって 他 の 回路 ブロックのバイア
また,通常の CMOS プロセスで使用するソース,ドレー
ス電流をオフに固定できるため IC 全体の消費電流もほぼ
ンを作る濃い濃度の領域と,高耐圧用に使用する濃度の薄
ゼロとなる。図4に起動直前までの消費電流特性を示す。
い領域を組み合わせることによって,npn トランジスタ,
14 V までのスタンバイ電流はほぼゼロ,起動直前のスター
pnp トランジスタ,ツェナーダイオードのバイポーラデバ
トアップ電流は10μA 強である。
イスを 構成 することができ, 基準電圧発生回路 は,この
VCC 電圧 がさらに 上 がれば MN1 はオン 状態 になり,
npn トランジスタを使ったバンドギャップ基準電圧回路を
出力されるロジックは反転し,各部のバイアス電流が流れ
採用している。
出し動作が始まる。また,MP1 がオンすることで UVLO
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図2 回路ブロック
VCC
(7)
図5 出力ドライバ回路
EnbL1
UVLO
30V
VREF
(8)
VCC
5V
5V REF
ENB 2.5V
+
−
EnbL2
pチャネル
UVLO
+
出力
ENB
−
VCC
pチャネル
pチャネル
OUT
(6)
OUT
RT/CT
(4)
FB
(2)
COMP
(1)
GND
(5)
OSC
ER_AMP
+
−
nチャネル
OnH
nチャネル
2R
1R
S
1V
FF
QB
−
+
ISNS
(3)
Q
R
TFF
Q
CLK
QB
nチャネル
OnL
5V制御ブロック
〈注〉FA13844とFA13845ではトグルフリップフロップを使用
図6 出力端子動作波形(C L = 2,200pF)
図3 UVLO 回路
INV2
MP3
MP2
VCC
MP1
立上り時間
68.5ns
ZD1
EnbH
INV1
立下り時間
35.0ns
R2
MN2
EnbL
ZD2
MN1
R1
50ns/div
図4 スタートアップ電流
VCCスタートアップ電流(μA)
12
Ta=25℃
FA13842/44
10
て VCC 電圧までの信号に拡張したあと,UVLO 回路部か
らのイネーブル信号と AND をとって最終段を駆動する。
VCC 電圧 が 起動電圧 に 満 たない 場合 はイネーブル 信号 が
8
H レベルで入力されその結果,制御信号の状態にかかわら
6
ず出力ドライバを L レベル(ゲートオフ)に固定する。
図6に,出力端子に負荷として 2,200 pF
4
の容量をつけた
場合の動作波形を示す。立上り時間70 ns/立下り時間35 ns
2
0
となっており,n チャネルパワー MOSFET を駆動する場
合,ゲートオン時の立上りに比べよりスピードの要求され
0
5
10
15
20
VCC供給電圧(V)
るゲートオフ時の立下りを重視して設計されている。また,
VCC 電圧15 V のときのオン抵抗は p チャネルソース電流
側が15 Ω,n チャネルシンク電流側は 7.5 Ωである。
回路のヒステリシスが設定されている。
2.2.3 出力ドライバ回路
応用回路例
CMOS インバータ 構成 の 出力 ドライバ 回路 を 内蔵 し,
スイッチング用 MOSFET のゲートを VCC 電圧までフル
図7にホトカプラを使用した二次巻線電圧検出方式の応
スイングさせることができる。また H レベル/L レベルの
用回路例を示す。AC 入力された電圧は,起動抵抗 R1 を
切換時には,VCC 側の p チャネル MOS と GND 側の n チャ
通り,電解コンデンサ C2 を充電する。この電圧がオンし
ネル MOS の 両方 がオフする 数十 ns の 期間 を 設定 するこ
きい電圧に達すると,IC が動作を開始しその後変圧器の
とで,貫通電流を低減している。
補助巻線から電力を供給する。今回開発した FA1384x で
図5にドライバ回路の概略構成を示す。制御部からの5
は,スタートアップ電流が小さいため,起動抵抗値を大き
V 振幅のロジック信号(OnH/OnL)をレベルシフタを使っ
く設定することができる。電源が動作を開始し,補助巻線
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図7 応用回路例
ヒューズ
TR YG902C
AC80∼
264V
+
+
+
4,700μF 4,700μF
4,700μF
+
100kΩ
400V/220μF
R1
33mH
0.022μF
16V
0∼4A
GND
220kΩ
ERA22-10
2SK2101
1.2kΩ
470pF
33Ω
4.7
kΩ
ERA
91-02
ERA
22 10
PC
2.2kΩ
1kΩ
0.33Ω
10kΩ
560Ω
100Ω
0.1μF
FA13842x
0.1μF
COMP VREF
10kΩ
1,000pF
FB
VCC
ISNS
OUT
RT/CT GND
PC
22μF
VR
5kΩ
D1
ERA91-02
2,200pF
1kΩ
+
C2
1kΩ
100pF
図8 起動時間と R1,C2 の関係
図9 起動時間の短い補助巻線回路
AC100V入力
4
起動時間(s)
C2=47μF
R1
D2
C2=22μF
D1
3
VCC
+
+
C3
C2
FA13842
2
C2=10μF
1
0
200
400
600
800
1,000
1,200
間を早め,起動後は C2 から電力を供給する。
起動抵抗 R1(kΩ)
あとがき
から VCC 電流が供給される通常動作状態でも起動抵抗に
カレントモードの AC-DC 電源用 CMOSIC の 概要につ
は 電流 が 流 れ 続 けるため, 抵抗値 を 大 きくすることでこ
いて紹介した。バイポーラ構成の制御 IC に比べ,CMOS
の 抵抗損失 を 低減 することができる。ただし, 電流 を 小
構成の IC は,低消費電力化に有利であり,またロジック
さくするとコンデンサ C2 の充電が遅くなり起動時間が長
回路 を 内蔵 しやすいなどの 点 でも 優 れている。 富士電機
くなるので実使用に合わせて定数を選ぶ必要がある。図 8
では,今回開発した IC 以外にもスイッチング電源用制御
に C2 容量と起動抵抗値および起動時間の関係を示す。
IC の CMOS 化を進め,市場要求にこたえ,ユニークな製
また, 起動抵抗値 を 大 きくしても, 起動時間 を 短 くす
品を開発していく所存である。
る方法として図9がある。C3 の容量を小さくして起動時
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。