FEJ 74 02 127 2001

富士時報
Vol.74 No.2 2001
超薄型パワー SMD
梅本 秀利(うめもと ひでとし)
古島 達弥(ふるしま たつや)
まえがき
図1 超薄型パワー SMD の外観
インターネットなどによる急激な情報化社会の発展に伴
い,携帯電子機器や情報通信の分野では,さらなる小型・
軽量化,省エネルギー化,高効率化が求められている。特
に,ノートパソコン,携帯電話,各種民生・通信機器など
には,バッテリー電源から必要な直流電圧を作り出す
SD シリーズ
DC-DC コンバータが搭載されており,今後も,さらなる
小型・軽量化が追求されることが予測されている。
これら電子機器の主要構成部品である半導体デバイスと
しては,従来から SMD(表面実装デバイス)が主として
使用されているが,今後,さらなる小型・軽量化を達成す
るためには,この SMD を可能な限り小型・薄型化してい
TFP シリーズ
く必要がある。
今回,富士電機ではこれらの要求に対し,超薄型パワー
SMD「SD シリーズ」
,
「TFP(Thin Flat Package)シリー
で小型化している。一方,TFP シリーズは,素子高さ 2.8
ズ」
(図1参照)を開発,製品化を行ったのでその内容を
mm と T パック(D2 パック)と比較して 62 %と薄型化
紹介する。
を達成しており,基板取付け占有面積も T パックの 72 %
まで小さくした高密度実装に対応可能な製品である。
富士電機製パワー SMD の特長とアプリケー
ション
2.2 アプリケーション
今回開発した超薄型 SMD SD シリーズと TFP シリーズ
の主なアプリケーションを表1に示す。SD シリーズは,
2.1 定格電流ー素子高さ,素子占有面積
富士電機では,従来,1 A クラスの SC シリーズ,5 ∼ 7
素子高さ 1.2 mm で定格電流 3 A と超薄型大電流 SMD と
A クラスの K パック(D パック)シリーズ,10 ∼ 30 A
いう特長から,小型・薄型携帯機器やノートパソコンなど
クラスの T パック(D2 パック)シリーズを開発・系列化
の大電流薄型機器に対して非常に有効なパッケージである。
(1)
している。
また,TFP も定格電流 20 ∼ 30 A でかつ高さ 2.8 mm と超
今回,新たに開発した 3A クラスの SD シリーズと 20
薄型・大電流 SMD のため,通信機器用電源,サーバシス
∼ 30 A の TFP シリーズは,電源の小型・薄型化に対応
テム電源といった小型・薄型の DC-DC コンバータに有効
するために素子の高さおよび基板に取り付けたときの占有
なパッケージである。
面積を改善した点に大きな特長を持っている。これらにつ
(b)
に定格電流ー素子高さ,図2
に定格電流ー
いて,図2
(a)
パッケージの開発
素子占有面積の関係を示す。
SD シリーズは,素子高さ 1.2 mm で従来の 3 A クラス
今回開発した SD シリーズと TFP シリーズのパッケー
SMD と比較して 60 %の薄さになっており,基板占有面
(b)
,
ジの概略は次のとおりである〔外形寸法図は,図3
(a)
積も従来より 1 クラス下の 1 ∼ 2 A クラスと同等の面積ま
を参照〕
。
梅本 秀利
古島 達弥
小容量ダイオードの開発・設計に
小容量ダイオードの開発・設計に
従事。現在,富士日立パワーセミ
従事。現在,富士日立パワーセミ
コンダクタ
(株)
松本事業所開発設
コンダクタ
(株)
松本事業所開発設
計部。
計部。
127(27)
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超薄型パワー SMD
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図2 パッケージ寸法の比較
10
SCタイプ
素子占有面積 S(mm2)
素子高さ h(mm)
Tパック
(D2パック)
Kパック
(Dパック)
TFPシリーズ
1
Tパック
(D2パック)
100
Kパック
(Dパック)
TFPシリーズ
SCタイプ
10
SDシリーズ
SDシリーズ
1
1
10
100
10
1
100
定格電流 I o(A)
定格電流 I o(A)
(b)定格電流と素子占有面積
(a)定格電流と素子高さ
図3 外形寸法図
降圧型コンバータ(ノートパソコン)
逆流防止回路(ノートパソコン,ディジタルスチルカメラ
など)
DC-DC コンバータ(通信機器)
AC アダプタ(携帯電話)
TFP
シリーズ
DC-DC コンバータ(通信機器,サーバシステム用電源)
小型・薄型の電源
5
0.5
(0.8)
(0.8)
3.1 超薄型 SMD SD シリーズ
0.5
4
2.5
SD
シリーズ
1.5
主なアプリケーション
0.2
パッケージ
1.2 max
表1 主なアプリケーション
(a)SDシリーズ
今回の SD シリーズの開発に対しては,市場の小型・薄
2.8
9
型化に対応し,かつ 2 端子型で 3 A の定格電流を確保する
ことを最大の目的として開発を行った。従来の SMD パッ
0.4
0.5
7
4
ケージは,3 A という電流定格に対して製品高さが 2 mm
9
課題を解決するためにパッケージの放熱設計の最適化とチッ
10
と厚く,放熱性も改善の余地があった。そこで,これらの
プサイズの最適化を図り,超薄型・大電流パッケージを開
発した。特に,放熱設計は重要であり,いかにチップから
1111
0.4
0.2
1
2
3
板へ放熱できるという特長を持っており,小型 SMD に対
(2.1)
し有効な構造である。しかも,基板への自動実装に関して
も外部電極が基板取付面にほぼフラットとなるため,安定
はんだめっき
化を実現するために,材料的には高密着性の高熱伝導低応
力樹脂を適用し,同時にモールド樹脂の厚さに対しても十
分な検討を行った。
3.2
4
(2.2)
し効率的な実装ができることが挙げられる。さらに,薄型
10
成した外部電極フラット構造を適用している。この構造は,
半導体チップから発生する熱を最短距離で積極的に外部基
3.6
(5.7)
には,裏面のアノードとカソードの両電極をフラットに形
0.5
発生する熱を外部へ放散するかがポイントである。構造的
0.8
(b)TFPシリーズ
3.2 超薄型 SMD TFP シリーズ
TFP シリーズは,20 ∼ 30 A という大電流パッケージ
ポイントである。構造設計としては,裏面フラット構造の
のため,SD シリーズと同様,放熱特性が最も重要な設計
適用により,カソード電極,アノード電極からの放熱特性
128(28)
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超薄型パワー SMD
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チップ下はんだの塑性ひずみ(%)
パワーサイクル耐量(サイクル)
図4 シミュレーション検討結果
例1:SDシリーズ構造
厚い
薄い
例2:TFPシリーズ構造
温度サイクル
パワーサイクル
薄い
厚い
チップ下はんだ厚( m)
シリコンチップ厚( m)
(a)チップ下はんだ厚と信頼性の関係
(b)シリコンチップ厚と信頼性の関係
を改善した。特に,このアノード電極は,従来の T パッ
表2 製品型式
ク(D2 パック)とは異なり,リード端子構造を幅広く設
パッケージ
種 類
型 式
計し,リード部からの放熱特性を向上させている。また,
材料設計としては,放熱特性を向上させるために,高熱伝
導かつ温度ストレスにも十分耐量を確保できるような低応
SD883-02
SD833-03
30 V/3 A,
V F =0.46 V
SD883-04
40 V/3 A,
V F =0.45 V
SD833-04
40 V/3 A,
V F =0.51 V
力樹脂を選定し適用した。
SBD
信頼性設計
SD シリーズ
定 格
20 V/3 A,
V F =0.39 V
備 考
SD833-06
60 V/3 A
SD833-09
90 V/3 A
SD903-02
200 V/2 A
SD903-04
400 V/2 A
MS808C06
60 V/30 A,
V F =0.58 V
MS888C02
20 V/30 A,
V F =0.39 V
MS838C03
30 V/30 A,
V F =0.45 V
MS838C04
40 V/30 A,
V F =0.53 V
る。今回の開発では,新たな解析手法としてシリコンチッ
MS838C09
90 V/30 A
プ,はんだ,モールド樹脂などの主要部材について,①物
MS838C10
100 V/30 A
MS906C2
200 V/20 A,
V F =0.98 V
MS906C3
300 V/20 A
MS906C4
400 V/20 A
表面実装デバイスの信頼性に関して注意すべき重要なポ
計画中
イントは,①実装時のはんだ付け熱ストレス耐量,②温度
サイクルとパワーサイクルの耐量,③耐湿性などが挙げら
計画中
LLD
れる。そこで,今回の構造設計では,これらの信頼性に対
する向上を図るため,積極的にシミュレーションを活用し
た。
4.1 シミュレーションによる設計諸元の最適化
SBD
SD と TFP の両シリーズとも超薄型を特長としており,
実使用上における熱ストレス耐量の向上が必要不可欠であ
TFP シリーズ
性値の温度依存性を考慮した「弾塑性熱応力シミュレーショ
ン」
,②「弾塑性温度サイクルシミュレーション」
,③「過
渡熱シミュレーション」などを効果的に組み合わせて実施
した。そして,これらの結果を設計仕様に反映し,目標品
LLD
計画中
計画中
質を十分確保できる設計諸元を選定した。以下に,今回適
用したシミュレーション結果の代表例を記す。
4.1.1 チップ下はんだ厚の検討
4.1.2 チップ厚さの検討
図4
(b)
に TFP シリーズの構造モデルを使用したシリコ
図4
に SD シリーズの構造モデルを使用したチップ下
(a)
ンチップ厚とチップ下はんだの塑性ひずみ量についてのシ
はんだ厚とパワーサイクル耐量のシミュレーション結果を
ミュレーション結果を示す。チップ厚を薄くするほど,チッ
示す。上記の結果からチップ下はんだ厚が最も信頼性に影
プ下はんだ内の塑性ひずみが低減され信頼性が向上するこ
響することが分かり,この結果に基づいて,目標とするパ
とから,このデータを基に目標とするパワーサイクル耐量,
ワーサイクル耐量を満足するはんだ厚を設計仕様に反映さ
温度サイクル耐量を満足するチップ厚を求め,設計仕様を
せ,実際の信頼性試験においても上記に対応する結果を確
決定した。そして,実際に信頼性試験を実施し,シミュレー
認した。
ションの検証を行った。
129(29)
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プ下はんだの塑性ひずみへの影響に違いが生じることが分
かり,実際の評価結果と検証を行った。さらに,これらの
4.2 実使用を想定した評価方法の適用
今回の薄型 SMD の評価としては,実使用を考慮した評
データをアプリケーションデータとしてまとめ,活用でき
るようにした。
価方法を適用した。具体的には,2 種類の実装基板(ガラ
スエポキシ基板とアルミ基板)を使用して,実際に温度ス
トレスに対する品質の確認を行った。また,シミュレーショ
ンの適用から,基板の違いにより温度ストレスが加えられ
たときの基板の反り方と反り量が異なること,およびチッ
表3 開発製品の定格特性
SD シリーズ
項 目
記 号
条 件
SD883-02
SD883-04
TFP シリーズ
SD833-03
SD833-04
SBD
最
大
定
格
せん頭
繰返し
逆電圧
V RRM
平均順電流
IO
サージ電流
I FSM
MS808C06
MS906C2
SBD
LLD
20
40
30
40
60
200
V
方形波
デューティ=1/2
3
3
3
3
30
20
A
正弦波,10 ms,
1発
70
70
70
70
150
80
A
接合温度
Tj
−40∼+125
−40∼+125
−40∼+150
−40∼+150
−40∼+150
−40∼+150
℃
保存温度
Tstg
−40∼+125
−40∼+125
−40∼+150
−40∼+150
−40∼+150
−40∼+150
℃
0.39
0.45
0.46
0.51
順 電 圧
VF
I F =3 A
I F =12.5 A
V
0.58
I F =10 A
電
気
的
特
性
単位
逆 電 流
0.95
200
V R = V RRM
* V R =20 V
IR
R th(j−l) 接合-リード間
2
*1
1
1
12
12
12
12
℃/W
熱 抵 抗
R th(j−c) 接合-ケース間
結 線
シングル
シングル
シングル
シングル
1.2
2
ツイン
ツイン
図5 SD シリーズの順方向特性
10
10
Tj =25℃
T j =25℃
Tj =125℃
1 Tj =150℃
順電流 I F(A)
順電流 I F(A)
1
0.1
0.1
SD833-03
SD833-04
SD883-02
SD883-04
0.01
0.01
0
130(30)
0.1
0.2
0.3
A
mA
3
0.4
0.5
0.6
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
順電圧 V F(V)
順電圧 V F(V)
(a)Vシリーズ
(b)Aシリーズ
0.6
0.7
ー
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図6 TFP シリーズの順方向特性と逆方向特性
100
103
MS808C06
MS808C06
T j =150℃
T j =125℃
102
10
逆電流 I R(mA)
順電流 I F(A)
T j =100℃
T j =150℃
1
T j =125℃
T j =100℃
101
100
T j =25℃
Tj =25℃
0.1
10−1
10−2
0.01
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0
1.2
10
20
30
40
50
順電圧 V F(V)
逆電圧 VR(V)
(a)順方向特性
(b)逆方向特性
60
70
80
また,TFP シリーズの代表としては,60 V/30 A SBD
定格特性および電気的特性
(b)
,
に示
の順方向特性および逆方向特性をそれぞれ図6
(a)
す。
5.1 定格特性
今回開発した 2 端子 SD シリーズと TFP シリーズの製
あとがき
品型式を表2に示す。また,これら開発製品の定格特性を
表3に示す。SD シリーズは,低 VF SBD(Schottky Bar-
今回,富士電機が開発した超薄型パワー SMD 2 端子
(2 )
rier Diode)V シリーズ,および 30 V,40 V アバランシェ
SD シリーズと TFP シリーズについて紹介した。これら
保証 SBD の A シリーズを系列化し,アプリケーションに
のデバイスは,携帯電子機器,および通信機器の小型・軽
合った最適 SBD の選択が可能である。
量化を実現していくうえで最適なデバイスであり,富士電
また,TFP シリーズは,5 V 以上の高出力電圧整流用と
して 60 V SBD,および 200 V LLD(Low Loss Fast Re-
機では,これらのパッケージ製品の系列化とさらなる性能
の向上を目指した製品開発を推進していく考えである。
covery Diode)を系列化した。
参考文献
5.2 電気的特性
SD シリーズの代表的な電気的特性として 20 V,40 V V
シリーズ,および 30 V,40 V A シリーズの順方向特性を
(b)
,
に示す。
それぞれ図5
(a)
(1) 岩原光政ほか. 電源用ダイオード. 富士時報. vol.68, no.7,
1995, p.390- 393.
(2 ) 森本哲弘ほか. 低順電圧のショットキーバリヤダイオード.
富士時報. vol.72, no.3, 1999, p.172- 175.
131(31)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。