FEJ 75 10 572 2002

富士時報
Vol.75 No.10 2002
インテリジェントパワーモジュール
「R-IPM 3,Econo IPM シリーズ」
渡辺 学(わたなべ まなぶ)
楠木 善之(くすのき よしゆき)
松田 尚孝(まつだ なおたか)
R-IPM 3,Econo IPM の系列
まえがき
富士電機の IGBT-IPM(Insulated Gate Bipolar Tran-
表2にR-IPM 3 と Econo IPM の製品系列,特性および
sistor-Intelligent Power Module)は,1993 年に J シリー
内蔵機能を示す。IGBT チップは,NPT プレーナを採用
ズ,1995 年に N シリーズ,1997 年に R シリーズの開発量
し,スイッチング損失の低減を図っている。FWD チップ
産化を行った。Jシリーズでは低損失,N シリーズではソ
は,アノード構造を最適化しソフトリカバリー性をさらに
フトスイッチング,そして R シリーズではオールシリコ
改善した。
ン化による信頼性とコストパフォーマンスの向上および
チップ過熱保護機能による保護精度の向上を実現した。
R -IPM 3 シリーズは,従来のR -IPM シリーズと外形,
機能で互換性があり,リプレースに最適である。
近年のパワーエレクトロニクス応用製品のさらなる高周
Econo IPM シリーズは,外形を小型化し,取付面積を
波化,小型化,高効率化,低ノイズ化の要求を背景に,今
R -IPM 比で約 30 %低減した。さらに上アームのアラー
回R-IPM をベースに損失改善を図った「R-IPM 3」およ
ム出力を追加することによって,地絡などのトラブルに対
びR-IPM と Econo モジュールのコンセプトを融合した小
して,より確実な保護を可能にしている。
型・薄型の「Econo IPM シリーズ」を新たに開発したの
で紹介する。
両シリーズとも,600 V 系で電流定格 50 ∼ 150 A,6個
組,7個組(ブレーキ用 IGBT 内蔵)を用意した。さらに
IGBT は薄ウェーハプロセスの確立により実現した 100
20 A 小容量素子については,銅ベースタイプのパッケー
μm厚の NPT(Non Punch Through)微細チップ(Tシ
ジを適用することで使いやすさを向上させており,豊富な
リーズ)を開発し,FWD(Free Wheeling Diode)には
ラインアップから,用途にあった製品を提供可能としてい
ソフトリカバリー性を向上させた新構造 FWD チップを新
る。図2に各 IPM の外形図を示す。
規に開発し適用している。 表1 に各 IPM シリーズの特徴
を示す。損失改善を実現しつつコストパフォーマンスを向
上させた RTB タイプ,パッケージの小型・薄型化を実現
した Econo IPM,損失低減重視の RTA タイプの 3 系列
を開発した。 図 1 にR -IPM 3,Econo IPM,小容量R -
図1 IPM の外観
IPM 3 の外観を示す。
表1 IPM の特徴
シリーズ
名
項 目
R-IPM 3
Econo IPM
RTA
RTB
外 形
™R-IPM シリーズと互換
(標準パッケージ)
™ねじ端子
™小型,薄型
™ピン端子
™銅ベース付き
パッケージ
™小型
特 性
™低損失
™低損失
(R-IPM 比 (R-IPM 比
18 % 減) 10 % 減)
™コスト
パフォー
マンス
™低損失
(R-IPM 比
10 % 減)
™コスト
パフォー
マンス
™ベース付きで
放熱性向上
(ベースレス
比)
572(24)
Econo IPM
小容量
R-IPM 3
小容量
R-IPM 3
R-IPM 3
渡辺 学
楠木 善之
松田 尚孝
インテリジェントパワーモジュー
インテリジェントパワーモジュー
インテリジェントパワーモジュー
ルの開発に従事。現在,富士日立
ルの開発に従事。現在,富士日立
ルの開発に従事。現在,富士日立
パワーセミコンダクタ(株)松本事
パワーセミコンダクタ(株)松本事
パワーセミコンダクタ(株)松本事
業所開発設計部チームリーダー。
業所開発設計部。
業所開発設計部。
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インテリジェントパワーモジュール「R-IPM 3,Econo IPM シリーズ」
Vol.75 No.10 2002
表2 IPMの系列,特性および内蔵機能
(a)Econo IPM
インバータ部
素子数
型 式
V DC
V CES
(V) (V)
ブレーキ部
IC
PC
IC
PC
(A) (W) (A) (W)
内蔵機能
上下アーム共通
上アーム
パッケージ
型式
下アーム
Dr
UV
TjOH
OC
ALM
OC
ALM
TcOH
ー
6MBP 50TEA060
50
144
ー
○
○
○
○
○
○
○
×
6MBP 75TEA060
75
198
ー
ー
○
○
○
○
○
○
○
×
6MBP100TEA060
100
347
ー
ー
○
○
○
○
○
○
○
×
6MBP150TEA060
150
431
ー
ー
○
○
○
○
○
○
○
×
7MBP 50TEA060
50
144
30
144
○
○
○
○
○
○
○
×
7MBP 75TEA060
75
198
50
198
○
○
○
○
○
○
○
×
7MBP100TEA060
100
347
50
198
○
○
○
○
○
○
○
×
7MBP150TEA060
150
431
50
198
○
○
○
○
○
○
○
×
6 in1
450
7 in1
450
P622
600
P622
600
(b)R-IPM 3
インバータ部
素子数
型 式
V DC
V CES
(V) (V)
ブレーキ部
IC
PC
IC
PC
(A) (W) (A) (W)
内蔵機能
上下アーム共通
上アーム
パッケージ
型式
下アーム
Dr
UV
TjOH
OC
ALM
OC
ALM
TcOH
ー
6MBP 20RTA060
20
103
ー
○
○
○
×
×
○
○
×
6MBP 50RTA060
50
198
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP 80RTA060
80
347
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP100RTA060
100
431
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
160
500
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP 50 RTB060
50
144
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP 75RTB060
75
198
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP100RTB060
100
347
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
6MBP150RTB060
150
431
ー
ー
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP 50RTA060
50
198
30
144
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP 80RTA060
80
347
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP100RTA060
100
431
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP160RTA060
160
500
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP 50 RTB060
50
144
30
144
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP 75RTB060
75
198
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP100RTB060
100
347
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
7MBP150RTB060
150
431
50
198
○
○
○
○
×
○
○
○
P619
P610
P611
6 in1
6MBP160RTA060
450
600
P610
P611
P610
P611
7 in1
450
600
P610
P611
Dr:IGBT 駆動回路,UV:制御電源不足電圧保護,TjOH:素子過熱保護,OC:過電流保護,ALM:アラーム出力,TcOH:ケース温度保護
*6MBP20RTA060は,Nラインでシャント抵抗による検出方式を採用
示す。図から従来 IGBT チップの N シリーズおよび S シ
パワー素子の特徴
リーズは,温度依存性が大きいことが分かる。一方,開発
した T シリーズの NPT プレーナチップは,温度依存性が
従 来 の R -IPM に 適 用 し た PT( Punch Through) -
小さく高温でのターンオフ損失を低減することができる。
IGBT と R -IPM 3, Econo IPM に 適 用 し た NPT-IGBT
PT プレーナチップと NPT プレーナチップを比較した
チップ断面図を図3に示す。
VCE(sat)のばらつきを図5に示す。NPT プレーナは狭い範
NPT-IGBT の主な特徴は次の 3 点である。
囲に分布しており,安定した定常損失特性を示す。
(1) コレクタ - エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))が正の温
次に,R-IPM 3 と Econo IPM に採用した FWD につい
度係数を持つため,チップ内の単位セルに電流集中する
て述べる。FWD には放射ノイズ低減のため,新構造を採
ことがない。
用した。新構造 FWD と従来の FWD の逆回復時の波形比
(2 ) ターンオフ損失(Eoff)の温度依存性が小さい。
較を図6に示す。新構造 FWD は図6に示すようにアノー
(3) ライフタイムコントロールがないため,VCE(sat)のば
ドからの正孔注入を抑えて逆回復ピーク電流を小さくし,
らつきが小さい。
ソフトリカバリー化を達成している。
VCE(sat)とターンオフ損失のトレードオフ関係を図4に
573(25)
富士時報
インテリジェントパワーモジュール「R-IPM 3,Econo IPM シリーズ」
Vol.75 No.10 2002
図2 IPM の外形図
シリーズ名
R-IPM3
Econo IPM
P610,P611
パッケージ名
P619
P622
70
122
109
1
4
7
10
16
1
7 10 15
4
1
P
外形図
P U
W
V
9
13
19
P
W N1N2
V
U
V
W
N
B
U
9
26
17 8
18
9.5
31.2
22 7
8.5
N
5
55
46.5
88
B
寸法
L109×W88×H22(mm)
L70×W46.5×H9.5(mm)
L122×W55×H17(mm)
質量
450 g
85 g
270 g
図5 VCE(sat)の分布図
図3 IGBT チップの断面比較
NPT-IGBT
エミッタ
PT-IGBT
ゲート
エミッタ
n−
20
70 m
NPT-IGBT
n(個)
n+
コレクタ
n−
350 m
p+
V CE(sat)
NPT-IGBT/PT-IGBTの ばらつき比較
ゲート
n−
100 m
25
15
10
p+
PT-IGBT
5
0
1.4
コレクタ
図4 IGBT チップのトレードオフカーブ
1.6
1.8
2.0
2.2
V CE(sat)
(V)
〔条件:25℃,I c(DC)
〕
図6 FWD の逆回復時の波形比較
ターンオフ損失(mJ/pulse)
従来型 FWD
8
V cc =300 V
I c =100 A
R g =24 Ω
V ge =±15 V
600 V/100 A
デバイス
2.4
新構造 FWD
V r :50 V/div
V r :50 V/div
6
0
Sシリーズ
(PTプレーナ)
4
Tシリーズ
第三世代
Nシリーズ
(Rシリーズ)
(PTプレーナ)
I f :25 A/div
0
0
I f :25 A/div
0
dv /dt =9.8 kV/ s
dv /dt =6.8 kV/ s
NPTプレーナ
2
1.2
: 25(℃)
:125(℃)
1.4
1.6
1.8
2.0
2.2
V CE(sat)
(V)
2.4
2.6
2.8
異なる構造で作られている。従来のパッケージでは端子
バーによる配線方式が取られていたが,バー配線の制約か
ら,パッケージ高さを低く抑えることが難しい。そのため,
Econo IPM では従来の端子バー構造から,内部結線すべ
てをアルミワイヤで行う方式を採用した。またパッケージ
パッケージ構造
幅を抑えるために,制御プリント板を 2 階に配置する構造
を採用している。これらにより,従来と比較し大幅にコン
Econo IPM は小型・薄型化を達成するため,従来とは
574(26)
。
パクトなパッケージを作ることに成功した(図7参照)
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インテリジェントパワーモジュール「R-IPM 3,Econo IPM シリーズ」
Vol.75 No.10 2002
図 8 にサイドフィンタイプのサーボアンプへの Econo
IPM 搭載例を示す。この図の Econo DiM(Econo Diode
にした。これにより顧客装置内のデッドスペースを減らし,
顧客装置の省スペース化へ貢献できることが期待される。
Module)は Econo IPM と同一コンセプト(Econo-Mod-
損失低減
ule Concept)で開発され,共に 17 mm のパッケージ高と
なっている。Econo IPM と Econo DiM は同じ高さである
ため,同一のプリント基板で接続することができる。この
IPM の製品開発コンセプトとして,損失の低減と,こ
二つのモジュールを採用することにより,プリント基板設
れとトレードオフ関係にある放射ノイズレベルの両立が最
計の簡素化が期待できる。また,Econo IPM は薄型の
も重要な項目である。
パッケージをさらに有効に生かす工夫として,ふたの一部
今回新たに開発した Econo IPM と R-IPM 3 においても
を 下 げ て い る 。 図 に 示 す よ う に プ リ ン ト 基 板 と Econo
上記課題が重要なテーマの一つであった。その中で,前述
IPM のふたとの間隔を 3 mm 確保することにより,プリ
の新たに開発した NPT-IGBT を適用することにより,
ント基板の裏面にホトカプラなどの電子部品の搭載を可能
IGBT 損失の低減を図り,またソフトリカバリー性を持つ
MPS ダイオードを搭載し,さらに駆動条件の最適化を行
図7 Econo IPM の内部構造
総損失(W)
図9 総損失比較
:逆回復損失
:定常損失(FWD)
:ターンオフ損失
:ターンオン損失
:定常損失(IGBT)
30.0
25.3
25.0
1.4
2.0
21.6
20.9
20.0
5.9
1.5
1.8
2.3
1.6
1.8
15.0
3.3
4.3
3.3
4.1
10.0
12.7
11.7
10.1
5.0
0
R-IPM
Econo IPM
R-IPM3
図10 ターンオフ波形
V CE :100 V/div
I C:50 A/div
T j :125 deg
t :200 ns/div
IC
0
VCE
V CE :100 V/div
I C:50 A/div
T j :125 deg
t :200 ns/div
IC
0
VCE
R-IPM
Econo IPM
図11 放射ノイズスペクトルの比較
図8 Econo IPM の搭載例
顧客プリント板
主端子
R-IPM
(7MBP50RA060)
ホトカプラ
3mm
17mm
100
Econo DiM
Econo IPM
100
放射能
50
ノイズ
レベル
(dB V/m)
センター
80.0 MHz
Econo IPM
(7MBP50TEA060)
50
スパン
100.0 MHz
センター
80.0 MHz
スパン
100.0 MHz
冷却フィン
575(27)
富士時報
インテリジェントパワーモジュール「R-IPM 3,Econo IPM シリーズ」
Vol.75 No.10 2002
うことにより,従来品の R-IPM と比べ,同等以下の放射
図12 IPM 回路ブロック図
ノイズレベルを達成することに成功した。
P
DC15 V
IGBT FWD
図9 に,今回開発した Econo IPM,R-IPM 3 と,従来
の R-IPM との総損失比較を示す。新しい IGBT チップと
ドライバ
U
8V
FWD チップを搭載した結果,従来の R- IPM に対し,
Econo IPM は 15 %,R-IPM 3 は 18 %の損失低減を達成
している。特にターンオフ損失の低減が,総損失低減に大
ドライバ
V
き く 貢 献 し て い る 。 図10に 従 来 品 ( R- IPM) と Econo
IPM のターンオフ波形を示す。また, 図11に R-IPM と
ドライバ
Econo IPM の放射ノイズのスペクトルを示す。放射ノイ
W
ズスペクトルは,キャリヤ周波数 4 kHz のサーボアンプを
用いて加減速運転を行い,3 m 法により測定したものであ
ドライバ
り,30 ∼ 130 MHz の範囲で従来品と同等のノイズレベル
を保っていることが分かる。
ドライバ
IPM のブロック図
ブレーキ内蔵タイプのブロック図を 図12に示す。
が
(a)
ドライバ
B
(b)
が Econo IPM である。Econo IPM では,上
R-IPM 3,
アーム回路のアラームを外部へ出力している。
ドライバ
N
1.5 kΩ
ドライバ内蔵機能
①IGBTドライブ
過熱検出回路 ②短絡保護
③過電流保護
④制御電源不足電圧保護
⑤IGBTチップ過熱保護
(a)R-IPM3
IGBT FWD
1.5 kΩ
富士電機のパワーデバイスにおける最新の技術を盛り込
んだ IGBT-IPM を紹介した。これらの IPM は,パワーエ
P
DC15 V
あとがき
レクトロニクス応用製品の高効率化,小型化を実現し,市
場の期待に応えられるものと確信する。
ドライバ
U
8V
今後とも市場要求に十分応えられるよう,開発,製品化
に注力していく所存である。
1.5 kΩ
ドライバ
V
参考文献
(1) Kusunoki, Y. et al.A new compact intelligent power
1.5 kΩ
module with high reliability for servo drive application.
ドライバ
W
PCIM Europe 2002.
(2 ) Matsuda, N. et al.New 600V Compact Intelligent Pow-
ドライバ
er Module“Econo IPM”
.CIPS2002,p.101- 106.
ドライバ
ドライバ
B
1.5 kΩ
ドライバ
N
ドライバ内蔵機能
①IGBTドライブ
②短絡保護
③過電流保護
④制御電源不足電圧保護
⑤IGBTチップ過熱保護
(b)Econo IPM
576(28)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。