FEJ 74 10 0000 2001

昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 13 年 10 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 74 巻 第 10 号(通巻第 799 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 13 年 10 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 74 巻 第 10 号(通巻第 799 号)
IC特集
聞こえてきますか、技術の鼓動。
本誌は再生紙を使用しています。
定価525円(本体500円)
ISSN 0367-3332
マルチな要求に,マルチでお応えする
電源IC
富士電機の電源IC
お問合せ先:電子カンパニー IC事業部 電話(03)5435-7158
pチャネル
ドライバ
PNSEL
OUT5
pチャネル
ドライバ
OUT6
OUT4
PGND3
OUT3
nチャネル
ドライバ
DT2
pチャネル
ドライバ
VCC3
OUT2n
DT1
nチャネル
ドライバ
OUT2p
OUT1n
VCC2
OUT1p
pチャネル
ドライバ
各ドライバへ
ドライバ
用電源
デッドタイム
設定
VCC1
第3
チャネル
デッドタイム
設定
第1チャネル
制御
UVLO
電源
pチャネル
ドライバ
第4
チャネル
pチャネル/
nチャネル
ドライバ
第5
第6
チャネル
チャネル
三角波
発振器
RT
CT
第2チャネル
CS3
社
務
所
1(03)5435-7111 〒141-0032 東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)
北
東
北
中
関
中
四
九
海
道
支
北
支
陸
支
部
支
西
支
国
支
国
支
州
支
社
社
社
社
社
社
社
社
1(011)261-7231
1(022)225-5351
1(076)441-1231
1(052)204-0290
1(06)6455-3800
1(082)247-4231
1(087)851-9101
1(092)731-7111
〒060-0042
〒980-0811
〒930-0004
〒460-0003
〒553-0002
〒730-0021
〒760-0017
〒810-0001
札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)
仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)
富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)
名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)
大阪市福島区鷺洲一丁目11番19号(富士電機大阪ビル)
広島市中区胡町4番21号(朝日生命広島胡町ビル)
高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)
福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)
北
関
東
支
店
首 都 圏 北 部 支 店
首 都 圏 東 部 支 店
神
奈
川
支
店
新
潟
支
店
長 野 シ ス テ ム 支 店
長
野
支
店
東
愛
知
支
店
兵
庫
支
店
岡
山
支
店
山
口
支
店
松
山
支
店
沖
縄
支
店
1(048)526-2200
1(048)657-1231
1(043)223-0701
1(045)325-5611
1(025)284-5314
1(026)228-6731
1(0263)36-6740
1(0566)24-4031
1(078)325-8185
1(086)227-7500
1(0836)21-3177
1(089)933-9100
1(098)862-8625
〒360-0037
〒330-0802
〒260-0015
〒220-0004
〒950-0965
〒380-0836
〒390-0811
〒448-0857
〒650-0033
〒700-0826
〒755-8577
〒790-0878
〒900-0004
熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)
大宮市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)
千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)
横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)
新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)
神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)
岡山市磨屋町3番10号(住友生命岡山ニューシティビル)
宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)
松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)
那覇市銘苅二丁目4番51号(ジェイ・ツービル)
道
北
釧
道
道
青
盛
秋
山
新
福
い
水
茨
金
福
山
松
岐
静
浜
和
鳥
倉
山
徳
高
小
長
熊
大
宮
南
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
1(0166)68-2166
1(0157)22-5225
1(0154)22-4295
1(0155)24-2416
1(0138)26-2366
1(0177)77-7802
1(019)654-1741
1(018)824-3401
1(023)641-2371
1(0233)23-1710
1(024)932-0879
1(0246)27-9595
1(029)231-3571
1(029)266-2945
1(076)221-9228
1(0776)21-0605
1(055)222-4421
1(0263)33-9141
1(058)251-7110
1(054)251-9532
1(053)458-0380
1(073)432-5433
1(0857)23-4219
1(0858)23-5300
1(0852)21-9666
1(088)655-3533
1(088)824-8122
1(093)521-8084
1(095)827-4657
1(096)387-7351
1(097)537-3434
1(0985)20-8178
1(099)224-8522
〒078-8801
〒090-0831
〒085-0032
〒080-0803
〒040-0061
〒030-0861
〒020-0034
〒010-0962
〒990-0057
〒996-0001
〒963-8033
〒973-8402
〒310-0805
〒311-1307
〒920-0031
〒910-0005
〒400-0858
〒390-0811
〒500-8868
〒420-0053
〒430-0945
〒640-8052
〒680-0862
〒682-0802
〒690-0007
〒770-0832
〒780-0870
〒802-0014
〒850-0037
〒862-0950
〒870-0036
〒880-0805
〒892-0846
旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)
北見市西富町163番地30
釧路市新栄町8番13号
帯広市東三条南十丁目15番地
函館市海岸町5番18号
青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)
盛岡市盛岡駅前通16番21号(住友生命盛岡駅前ビル)
秋田市八橋大畑一丁目5番16号
山形市宮町一丁目10番12号
新庄市五日町1324番地の6
郡山市亀田一丁目2番5号
いわき市内郷御厩町二丁目29番地
水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)
茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)
金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)
福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)
甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)
静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)
浜松市池町116番地13(山崎電機ビル)
和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地
鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事
(株)
内〕
倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)
松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)
徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)
高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)
北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)
長崎市金屋町7番12号
熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)
大分市寿町5番20号
宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)
鹿児島市加治屋町12番7号(日本生命鹿児島加治屋町ビル)
エ ネ ル ギ ー 製 作 所
変電システム製作所
東京システム製作所
神
戸
工
場
鈴
鹿
工
場
松
本
工
場
山
梨
工
場
吹
上
工
場
大
田
原
工
場
三
重
工
場
1(044)333-7111
1(0436)42-8111
1(042)583-6111
1(078)991-2111
1(0593)83-8100
1(0263)25-7111
1(055)285-6111
1(048)548-1111
1(0287)22-7111
1(0593)30-1511
〒210-9530
〒290-8511
〒191-8502
〒651-2271
〒513-8633
〒390-0821
〒400-0222
〒369-0192
〒324-8510
〒510-8631
川崎市川崎区田辺新田1番1号
市原市八幡海岸通7番地
日野市富士町1番地
神戸市西区高塚台四丁目1番地の1
鈴鹿市南玉垣町5520番地
松本市筑摩四丁目18番1号
山梨県中巨摩郡白根町飯野221番地の1
埼玉県北足立郡吹上町南一丁目5番45号
大田原市中田原1043番地
四日市市富士町1番27号
事
北
営
見
営
路
営
東
営
南
営
森
営
岡
営
田
営
形
営
庄
営
島
営
わ き 営
戸
営
城
営
沢
営
井
営
梨
営
本
営
阜
営
岡
営
松
営
歌 山 営
取
営
吉
営
陰
営
島
営
知
営
倉
営
崎
営
本
営
分
営
崎
営
九 州 営
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
CS2
VREG
CS1
制御
電源
ソフト
スタート
制御
PWM比較器
基準
電圧
CNT3
タイマ
ラッチ
CNT1
CREF
オンオフ
制御
誤差増幅器
CP
IN6+
TLSEL
FB6
IN6−
IN5+
IN5−
FB5
IN4+
IN4−
FB4
IN3+
IN3−
FB3
IN2−
FB2
IN1+
FB1
IN1−
バッファ
VREF
製品例: 2チャネルFA3630V,3チャネルFA3629AV,
6チャネルFA3621F,6チャネルFA3675F,
6チャネルFA3676F,6チャネルFA3698F
用 途: TFTパネル用マルチ出力電源,ビデオカメラ・ディジ
タルカメラ用マルチ出力電源など
特 長: ●同期整流対応(FA3676F2チャネル分)
●低オン抵抗DMOS出力トランジスタを内蔵可能な
C/DMOSプロセスによりパワー段と制御部を
ワンチップ化
●低消費電力・小型・高効率
低入力電圧に対応可能(2.5Vまで)
過電流,加熱などに対する保護機能が充実
●小型パッケージ
TSSOP-16,SSOP-28,LQFP-48,LQFP-64
VDRV
低消費電力のパワーマネジメントをワンチップで実現
本
FA3676Fの例
(株)
富士電機総合研究所
(株)
FFC
1(0468)56-1191 〒240-0194 横須賀市長坂二丁目2番1号
1(03)5351-0200 〒151-0053 東京都渋谷区代々木四丁目30番3号(新宿コヤマビル)
IC 特集
目 次
集積回路技術分野での産学連携に想う
546( 2 )
谷口 研二
富士電機の IC の現状と展望
547( 3 )
古森 敏夫
CMOS 力率制御用電源 IC
551( 7 )
鹿島 雅人 ・ 城山 博伸
小電力 AC アダプタ用電源 IC
片 山
554(10)
靖
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
野村 一郎 ・ 米 田
557(13)
保
LCD パネル用電源 IC
561(17)
山田谷政幸
表紙写真
チャージポンプ型昇圧コンバータ IC
吉 田
564(20)
豊 ・ 荒井 裕久
白色 LED 駆動用電源 IC
加茂 宏明 ・ 佐 野
567(23)
功
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
荒井 裕久 ・ 吉 田
豊 ・ 藪 崎
570(26)
純
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
574(30)
野口 晴司 ・ 澄田 仁志 ・ 川村 一裕
電子機器の小型化,高集積化の動きは,と
どまるところを知らず,また数量の拡大もま
すます進展している。電子機器全体での消費
新構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール
578(34)
小松 幸哲
エネルギーは膨大になりつつあり,地球環境
の健全化を図るためにも省エネルギー化は急
ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ
務となっている。
上柳 勝道 ・ 西川 睦雄 ・ 植松 克之
581(37)
富士電機の IC は高耐圧 CMOS アナログ
技術をコアとし,IC 自身の省電力化に対応
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
するとともに,機器システムのパワーマネジ
鶴田 芳雄 ・ 多 田
元 ・ 斉 藤
584(40)
俊
メントをつかさどり,その省電力化に貢献し
ている。
表紙写真は,省エネルギー化や端子めっき
の鉛フリー化など環境調和型製品を目指す富
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
杉
588(44)
祥 夫 ・ 澤田 睦美 ・ 藤島 直人
士電機の IC を若々しい青葉と重ねて,エコ
ロジーに配慮した製品をイメージ的に表現し
ている。
最近の学会発表── EPE 2001
593(49)
集積回路技術分野での
産学連携に想う
谷口 研二(たにぐち
けんじ)
大阪大学工学部教授 工学博士
最近では集積回路の製造工場を一つ建設しようとすると
る。彼らは入社した時点ですでに集積回路の設計ができる
数千億円ものお金が必要になっている。クリーンルーム内
ため,入社企業での評価も高いようである。このシステム
の清浄度を極限にまで上げたり,高価な製造装置を設置し
は社会人の職場配置転換に向けた再教育にも一部活用され
たりするのだから,この程度の投資額は当然であるが,問
ている。このように,大学で集積回路設計の教育経費を分
題なのはそこで作られる集積回路の売り値が余りにも安い
担することで企業における集積回路の生産コストの低減に
ことである。あれほど複雑で手の込んだ製品の値段が数百
役立っている。
円,ドライバー 1 本の値段と同じである。極論すれば集積
第 2 のポイントである「日本の大学が産業界の頭脳とし
回路の中には「くぎ」1 本の値段以下の製品もある。この
ての役割を果す」ことについては,実現までに時間がかか
安価な集積回路を製造するには,集積回路の製造に関わる
るかも知れない。過去の歴史を振り返ると,産学連携が上
すべての産業(含大学)がベクトルを合わせて目標となる
「日本の大学と共同
手く機能しなかった苦い経験がある。
技術の開発に取り組まなくてはならない。
研究をしてもほとんど成果は得られない」という企業エン
過去には,半導体企業は独自の考えの下で集積回路の将
ジニアの不満がもとで,日本の大学を素通りして海外の大
来像を描き,それに向かって様々な技術を独自開発してき
学との共同研究が盛んになった。しかもこれらを通して国
た。しかし,90年代の後半からは世界的な規模で企業間の
内半導体企業のノウハウが海外に流出しただけでなく,そ
分業が盛んになってきた。例えば,欧州で生まれたアーキ
の共同研究に携わった数多くの学生が海外の半導体企業で
テクチャを使って米国でシステム・回路設計を行い,それ
活躍するようになった。これが国内半導体産業の凋落に少
を基に台湾でチップを生産して,韓国のメモリと一緒に日
なからぬ陰を落としている気がする。
本の家電製品に組み込むことも不思議ではない時代になっ
国内の半導体産業を復興させるには,日本の大学と企業
た。もちろん,その仕組みの中における大学の役割は今後
が対等の立場で議論して研究開発レベルの質的な向上を図
ますます重要になってくる。これからの大学(工学部系)
らなければならない。私見であるが,半導体企業はもっと
の役割としては,即戦力になり得る人材の供給と,産業界
日本の大学に技術情報を提供する必要があると思う。こう
の頭脳としての研究開発,が期待されている。
することによって半導体産業界の求める方向に教官の意識
半導体企業に入社して即戦力となり得る学生は,大学時
を向け,産業界の要請に応えられる教官の数を増やすこと
代に電磁気学・電気回路理論・制御理論などの専門基礎の
が重要なのである。ご存知の通り,一流の研究成果は高い
他,特定専門分野を深く掘下げて学ばなければならない。
目的意識を持った研究者からしか生まれない。この意味で
しかし,大学で専門知識を学んでも実社会でその知識が生
産業界が提供する重要な技術情報をヒントに若手教官が研
かせるとは限らない。今後は集積回路の生産性向上を図る
究テーマを設定することができる。幸いなことに,最近,
ために,専門知識を生かした職種に就ける採用方法に変え
大学には企業で集積回路の設計・製造を経験した若い教官
る必要がある。それと並行して大学でも教育内容を産業界
が増えている。さらに再来年に予定されている国立大学の
の要請に応えられるものに変えなければならない。すでに
独立法人化が産業界との連携を上手く機能させる起爆剤と
集積回路の技術分野では大学で集積回路の設計ができる教
なることであろう。企業側も大学の知的資産を上手く活用
育システム(VDEC)が作られ,数多くの学生が育ってい
して集積回路産業の再興を図って欲しいと願っている。
546( 2 )
富士時報
Vol.74 No.10 2001
富士電機の IC の現状と展望
古森 敏夫(こもり としお)
まえがき
い,顧客製品の付加価値アップに貢献することを目指して
いる。
富士電機の IC(Integrated Circuit)は,電源 IC を中
表 1 に CMOS 製品の例を示す。電源 IC においては,
心に拡大を図っており,その中核技術としてパワーとイン
AC-DC コンバータ分野での待機時省電力化や力率改善に
テリジェンスとアナログをキーワードに,高耐圧 CMOS
よる低ノイズ,高効率化の要求に対して軽負荷時にスイッ
IC(Complementary Metal Oxide Semiconductor IC)技
チング周波数を低減してスイッチングロスを抑える機能を
術を開発してきた。
備 え た PWM( Pulse Width Modulation) 制 御 IC( FA
近年の環境問題,とりわけ省エネルギーに対する要求の
3641/3647)を展開している。力率改善制御に関しては今
増大に対応して,富士電機の IC がこれまで取り組んでき
回 CMOS 技術を用いて新しくピーク電流モード制御型の
た低消費電力・高耐圧 CMOS アナログ技術は,その要求
IC(FA5501)を開発した。これは,8 ピンという小型パッ
にマッチした特長ある技術となっている。例えば,携帯電
ケージに各種保護機能を内蔵させ,照明用途や小型電源に
話用電源 IC では,待受け時間の増大に貢献し,ディジタ
適した力率改善動作を実現している。詳細は本特集号の別
ルスチルカメラ(DSC)では,細かなパワーマネジメント
稿(CMOS 力率制御用電源 IC)にて紹介する。
IC により,これまでよりも長時間の撮影を可能としてい
ワールドワイド電源に対応するべく 700 V 高耐圧 MOS
FET を内蔵したワンチップパワー IC(FA5701/5702)も
る。
高耐圧化技術においては,700 V 耐圧のパワー MOS
今回開発した。これは,携帯電話用など小型 AC アダプタ
FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transis-
に最適なように,各種保護機能を内蔵し,外付け部品を減
tor)を IC に内蔵できる高信頼性デバイス・プロセス技術
らし DIP(Dual In-line Package)-6 で提供される。特に,
を開発し,製品適用を図っている。
信頼性技術には磨きをかけ, 2 層メタルシールド構造を採
また,もう一つの富士電機の IC の特長として,センサ
用することにより,プラスチックモールドパッケージにお
複合化技術がある。ホトダイオードによる光センサ内蔵の
いてもプレッシャクッカーバイアステスト(PCBT)1,000
カメラ用オートフォーカス(AF)IC やピエゾ型ストレン
時間以上の実力を備えている。この 700 V ワンチップパワー
ゲージ内蔵の自動車用圧力センサ IC などに応用されてい
IC に関する製品例およびデバイス技術については本特集
る。
号の別稿(
「小電力 AC アダプタ用電源 IC」および「700
本特集号では,これらの特長を生かした新製品について
電源 IC を主として紹介する。
V ワンチップパワー IC デバイス技術」
)で紹介している。
DC-DC コンバータ分野では,汎用 DC-DC コンバータ
IC として直接 MOSFET 駆動が可能な高耐圧 CMOS 技術
富士電機の IC の現状
による 1 チャネル,2 チャネルの製品化を行っている。
2000年に引き続き本特集号では汎用 2 チャネル DC-DC コ
2.1 製品展開
ンバータ IC(FA7703/7704)の事例を紹介する。また,
2.1.1 電源 IC
この分野では,多チャネルを高集積化したビデオカメラや
富士電機では,先に述べたとおり,電源 IC に最も重点
DSC 用のカスタム IC を展開している。ここでの顧客要求
をおいて製品展開を図っている。コンセプトは高耐圧
はカスタマイズと開発スピードである。セルベース設計技
CMOS アナログ技術による低消費電力,高パワー,高精
術の適用ときめの細かいサービスにより顧客ニーズに対応
度,高機能,低コストの追求である。これらにより顧客第
している。
一の視点で「使いやすさ」を追求した製品・技術開発を行
電子機器の小型・軽量・薄型・低消費電力化の要求の高
古森 敏夫
CMOSIC のプロセス開発に従事。
現在,松本工場 IC 開発部長。
547( 3 )
富士時報
富士電機の IC の現状と展望
Vol.74 No.10 2001
表1 CMOS 汎用電源 IC の一覧
(a)AC-DC 分野
Dmax
(%)
型 名
MOS
適用回路
フライ
バック
FA13842
96
FA13844
48
FA3641/3647
70
○
FA5510/5511
FA5514/5515
46/70
○
動作モード
フォ
ワード
MOS
駆動
力率
改善
○
○
○
保護回路
外 形
カレ
ント
ボル
テージ
OCP
OVP
OTP
○
○
8ピン
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
FA5501
○
○
○
○
8ピン
FA5502
○
○
○
○
16ピン
○
FA5701
70
○
700 V
MOS 内蔵
○
○
FA5702
50
○
700 V
MOS 内蔵
○
○
○
6ピン
○
6ピン
(b)DC-DC 分野
MOS
適用回路
電圧範囲
型 名
チャ
ネル
数
Dmax
(%)
FA3675F
6
任意設定
FA3676F
6
任意設定
FA3698F
6
任意設定
○
FA3630V
2
任意設定
FA13843
1
96
FA13845
1
48
FA3686V
2
85
○
FA3687V
2
任意設定
○
FA7700
1
90
○
FA7701
1
100
○
○
FA7703/7704
2
任意設定
○
○
FA3629AV
3
外 形
○
○
48ピン
○
○
48ピン
○
○
○
48ピン
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
○
16ピン
○
○
○
○
16ピン
○
○
8ピン
○
8ピン
○
16ピン
ステップ
アップ
イン
バータ
フライ
バック
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
2.5∼
5.5 V 系
10∼
25 V 系
○
○
○
○
○
チャネル1=87
チャネル2=87
MOS
駆動
ステップ
ダウン
2.5∼
18 V 系
2.5∼
5.8 V 系
チャネル3=86
FA3635P
1
任意設定
10∼
45 V 系
FA3685P
1
任意設定
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
MOS 内蔵
nチャネル
16ピン
(1チャネルのみ)
○
○
○
○
○
8ピン
○
○
○
8ピン
まりはとどまるところを知らず,ますます進展している。
の別稿(チャージポンプ型昇圧コンバータ IC)を参照さ
特にノートパソコンの液晶ディスプレイパネルなどの電源
れたい。
は,小型・薄型が求められる。富士電機では高周波 PWM
このように富士電機では,AC-DC から DC-DC,シス
技術を生かし,この分野では,トランスやコイルなど外付
テム電源といった幅広い顧客ニーズに対応できる製品展開
け部品を小型化できる高周波スイッチング電源 IC(300
を図るとともに,顧客の細かいカスタム要求に迅速に対応
kHz ∼ 1.5 MHz)を製品化している(FA3686/3687)
。
している。
次に,携帯電話に代表されるような携帯機器用電源 IC
2.1.2 PDP ドライバ IC
としてはリチウムイオン電池の充電制御やその他アンプ類
高耐圧技術を生かした製品展開には,電源 IC のほかに
と無線通信,アナログ電源用に低消費電流・高 PSRR(リ
最近注目されている PDP(Plasma Display Panel)駆動用
プル圧縮率)なシリーズレギュレータを多出力ワンチップ
IC がある。アドレス用ドライバ IC としては 150 ∼ 85 V
に内蔵したシステム電源 IC を展開している。また,昇圧
の C/DMOS(Complementary Double Diffused MOS)デ
が必要な用途には,チャージポンプ昇圧回路とシリーズレ
バイスを用いたもの,スキャン用ドライバ IC としては
ギュレータをワンチップに集積した低出力リプル電圧を実
SOI(Silicon On Insulator)基板を用いた 200 V の IGBT
現できる電源 IC(FA3705)を開発した。詳細は本特集号
(Insulated Gate Bipolar Transistor)出力段を内蔵した製
548( 4 )
富士時報
富士電機の IC の現状と展望
Vol.74 No.10 2001
品をそろえている。
2.1.3 AFIC
2.2 技術開発
もう一つの富士電機の特長であるセンサ応用技術を用い
2.2.1 プロセス・デバイス技術
た製品には,カメラ用 AFIC がある。特に光学モジュー
富士電機のプロセス・デバイス技術の特長は,高耐圧
ルと IC パッケージを一体化した小型 AF モジュールを展
CMOS 技術に多くのアナログオプションを加えたことで
開し,カメラの小型化,低消費電力化,高倍ズーム化など
ある。すなわち,表2にプロセスフローを示すように,基
に対応している。今回は,大幅なコストダウンを実現した
幹となる 1μmルール CMOS プロセスに p,n オフセット
新構造パッケージを開発した。詳細は本特集号の別稿(新
拡散,nツェナー拡散,デプレション拡散,高抵抗・低温
構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール)にて紹
度係数ポリシリコン抵抗形成などを加え,表3に示すよう
介する。
な各種デバイスを内蔵可能としている。
特に今回は,本特集号で紹介しているとおり 700 V のワ
2.1.4 圧力センサ
また,圧力センサ技術の適用では自動車用圧力センサを
ンチップパワー IC デバイス・プロセス技術を開発した。
展開しており,これまでセンシング部と増幅調整回路をワ
高信頼性を達成した 2 層メタルシールド構造を採用し,そ
ンチップ上に集積化した製品を実現してきた。2000年は厳
のための平たん化技術,パッシベーション技術を駆使して
しくなりつつある自動車の電磁ノイズ環境に対して,電磁
いる。また,単位面積あたりのオン抵抗(Ron×A)も 26
波障害(EMI)対策のためのローパスフィルタを集積化し
Ω・mm2 と 700 V 耐圧 MOSFET として低オン抵抗化を達
た EMI 対策型圧力センサを製品化した。
成している。
今回はより高精度で安定的なトリミングが可能な EPR
2.2.2 設計技術
OM(Erasable Programmable Read Only Memory)内蔵
IC 設計技術においては,電源 IC 用の PWM 回路技術を
によるディジタルトリミング方式で,かつ樹脂パッケージ
ベースにアナログ・ディジタル混載設計技術を保有してい
の新型圧力センサを開発した。詳細は本特集号の別稿
る。設計期間を短縮するためにアナログ IC にも自動設計
(ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ)にて紹介
を取り入れつつあり,アナログセルベース設計を進めてい
る。CMOS アナログマクロセルは基準電圧回路や定電流
する。
源回路など基本回路ブロック(13回路,21ブロック)が使
用可能であり,順次実績の確認された回路ブロックの拡充
を進めている。
表2 プロセスフロー
プロセスフロー
標準プロセス
携帯機器用など特定用途向けの電源 IC に要求される機
オプション
プロセス
能は,用途別にほぼ決まってくるが,最終的には顧客固有
n ウェル拡散
○
の仕様を取り入れたカスタム IC になることが多い。その
p ウェル拡散
○
場合にも,セルベース設計の迅速な対応により短納期開発
p オフセット拡散
○
に対応でき,最短エンジニアリングサンプル(ES)完成
n オフセット拡散
○
まで 3 か月の実績を得ている。
n ツェナー拡散
○
フィールド酸化膜形成
○
チャネル拡散
○
設計品質を高めるためには,回路シミュレーション技術
の高度化にも取り組み,MOS トランジスタのコーナーモ
デルと受動素子のばらつき,使用周囲温度のすべての組合
デプレション拡散
○
ゲート電極形成
○
ソース・ドレイン拡散
○
せを考慮した自動実行可能なコーナーシミュレーション技
術を適用している。また,IC 全体回路の動作をビヘイビ
アモデルを用いて検証するフルチップシミュレーションも
高抵抗・低温度係数ポリシリコン形成
○
コンタクト形成
○
第1金属配線形成
○
適用し,設計での品質の作り込みを行っている。
今後の展望
第2金属配線形成
○
パッシベーション膜形成
○
富士電機は,今後とも高耐圧アナログ CMOSIC 技術に
表3 デバイス特性一覧
デバイス
CMOS
高耐圧 MOS(60 V 耐圧)
高耐圧 DMOS(60 V 耐圧)
高耐圧 DMOS(30 V 耐圧)
項目
NMOS
PMOS
低 V th NMOS
低 V th PMOS
低オン抵抗 NDMOS
低オン抵抗 PDMOS
低オン抵抗 NDMOS
低オン抵抗 PDMOS
V th
0.5 V
0.5 V
0.5 V
0.5 V
1.0 V
1.0 V
1.0 V
1.0 V
BVdss
11 V
11 V
90 V
75 V
87 V
75 V
43 V
R on × A
ー
ー
ー
ー
0.124 Ω・mm
2
0.315 Ω・mm
2
0.066 Ω・mm
47 V
2
0.205 Ω・mm2
549( 5 )
富士時報
富士電機の IC の現状と展望
Vol.74 No.10 2001
表4 電源 IC の技術開発ロードマップ
項 目
2000年度
2001年度
2002年度
2003年度
力率改善制御
ピーク値制御/平均値制御
AC-DC
スタンバイモード対応
カレントモード/ボルテージモード CMOS 制御
DC-DC 用セルベース 1.0/0.6
回路設計技術
m
低電圧起動セル
ノイズ低減制御スイッチング回路
DC-DC
高周波スイッチング方式
小型高効率システム系電源 IC
マルチチャネル
バッテリー
マネジメント
LiB 残量計測精度1%,消費電流125
A
LiB 保護スイッチ統合化
ディジタル
制御電源
次世代電源制御技術(DSP 応用)
高信頼性 700 V パワー IC
低オン抵抗
デバイス
デバイス・
プロセス技術
横型トレンチ
パワー MOS(TLPM)
700 V デバイス低オン抵抗化
n チャネル TLPM/30 V
100 V TLPM
トレンチ MOS プロセス/高信頼性酸化膜
高信頼性アナログ
CMOS プロセス
p チャネル TLPM
配線の低抵抗化(パワー AI,Cu)
1.0 m アナログ CMOS/700 V,60 V,30 V
磨きをかけ,顧客起点の発想によって電源 IC を中心に,
パワーマネジメント IC 分野で特長ある製品を提供してい
きたいと考えている。
0.6 m アナログ CMOS/30 V
シュアップを図っていく。
パワー IC 技術の要(かなめ)としては,低オン抵抗デ
バイスの開発が必要不可欠である。これに対しては,本特
表4に電源 IC の技術開発ロードマップを示す。AC-DC
集号の別稿(低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイ
分野では,ますます強まる低消費電力化に対して,待機時
ス技術)でも紹介しているように,横型トレンチパワー
の消費エネルギーを最小化する電源 IC 技術を開発し,製
MOS デバイスを開発した。今後さらに完成度を高め実用
品系列化していく。
化を図っていく。また,中核技術となる高耐圧アナログ
高調波ノイズやパワーロスを低減する力率改善制御 IC
も今後重要性を増してくる。CMOS にてピーク値制御の
CMOS プロセスに関しては,1 μmルールから 0.6 μmルー
ルへと微細化を進め,トータルコストダウンを図っていく。
IC を実現したが,引き続き平均値制御方式の IC を開発す
る。
あとがき
DC-DC 分野では,設計期間の短縮を目指しアナログセ
ルの拡充を図り,セルベース設計技術の高度化を目指す。
富士電機の IC の現状と展望について電源 IC を主とし
さらに,今後は携帯機器用の高性能 CPU(Central Pro-
て概要を述べた。このように,今後も富士電機では,高耐
cessing Unit)や ASIC(Application Specific IC)の動作
圧・大電流のパワー技術とセンサやディジタル混載のイン
電圧が低電圧化する方向をとらえ,電池電圧から効率よく
テリジェント機能を低消費・高精度アナログ CMOS 技術
低電圧を作り出す PWM スイッチング電源が必要になる
に融合させ,顧客製品の付加価値アップに貢献する特長あ
と考えられる。そのためには,低ノイズのスイッチング電
る製品づくりにまい進していく所存である。
源技術の開発が重要になると考え取り組んでいく。一方,
電源の小型化に関しては,リアクトルやトランスを小型化
することがキーとなり,スイッチング周波数を高める技術
開発を進めている。すでに 3 ∼ 6 MHz の高周波スイッチ
ング技術を開発していて,さらに実用化に向けてのブラッ
550( 6 )
参考文献
(1) 古森敏夫.富士電機の IC の現状と展望.富士時報.vol.73,
no.8,2000,p.423- 426.
富士時報
Vol.74 No.10 2001
CMOS 力率制御用電源 IC
鹿島 雅人(かしま まさと)
城山 博伸(しろやま ひろのぶ)
まえがき
in
: n 次高調波成分
以上の式から,力率改善回路により力率を改善すること
現在普及しているほとんどの電子機器では,内部の電子
ができれば入力高調波電流成分を抑制できることが分かる。
回路を駆動するために直流電源を用いているため,交流を
力率とは電圧波形と電流波形の位相のずれのことである
直流に変換する整流回路を必要としている。この整流回路
ので,力率を改善するためには電流波形を制御して電圧波
としてはコンデンサ入力型の回路が主に使われているが,
形と同相の波形としてやればよい。電圧波形と電流波形の
交流入力電圧のピーク時のみに入力平滑コンデンサに電流
位相が完全に一致したときに力率は 1 となる。
が流れるため,入力電流波形がひずんでしまい大量の高調
電流波形を制御するためのアクティブフィルタ回路とし
波電流成分を発生してしまう。また,このときの力率は
て用いられる昇圧型コンバータ回路を図2に示す。これは
0.6 前後となってしまう。このような高調波電流成分の増
ダイオードブリッジによる全波整流回路に昇圧型コンバー
加は,電子機器の誤動作といった社会問題を引き起こす原
タ回路を接続したものである。図2の回路のスイッチング
因ともなり,法的な規制を実施する動きがでてきている
素子M 1 を交流入力電圧の周波数よりも十分高い周波数で
(577 ページの「解説」参照)
。また,力率の低下による電
オンオフ動作させ,そのオンとオフの比率を制御して入力
電流波形の平均値を全波整流された入力電圧波形と同相の
力送配電ロスの増加も問題となってきている。
高調波電流および力率の問題を解決するために種々の方
式が提案されているが,小型・軽量で高力率を実現できる
正弦波電流波形とすることで力率を改善する。
その制御方式には,スイッチング素子M 1 に流れる電流
のピーク値を制御するピーク電流モード制御とリアクトル
ことからアクティブフィルタ方式が広く使われている。
富士電機でも,これまでにアクティブフィルタ制御用
L1 に流れる連続的な電流を制御する平均電流モード制御
IC(Integrated Circuit)として平均電流モード制御の力
率制御用電源 IC である FA5331P/M および FA5332P/M
図1 コンデンサ入力型整流回路とその入力電圧・電流波形
を製品化しているが,今回新たにピーク電流モード制御の
入力電圧
力率制御用電源 IC である FA5500P/N および FA5501P/N
入力電流
を開発したので紹介する。
+
力率改善回路の概要
(a)回路図
(b)入力電圧・電流波形
コンデンサ入力型整流回路とその入力電圧・電流波形を
図1に示す。入力電流は入力電圧のピーク付近のわずかな
期間に流れるだけであり,大量の高調波電流成分が発生し
図2 昇圧型コンバータ回路
ている。高調波電流の存在は力率を低下させるが,その関
L1
係は次式で表すことができる。
2
PF = 1/ 1+THD
+
THD = (i2 2+i32+…in2 )
/i12
PF
M1
:力率
THD :全高調波ひずみ率
il
:入力電流基本波成分
鹿島 雅人
城山 博伸
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
に従事。現在,松本工場 IC 開発
に従事。現在,松本工場 IC 開発
部。
部。
551( 7 )
富士時報
CMOS 力率制御用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図3 ピーク電流モード制御と平均電流モード制御との入力電
図4 FA5500 と FA5501 の外観
圧・電流波形の比較
入力電圧
入力電流
平均
入力電流
(a)ピーク電流モード制御
(b)平均電流モード制御
表1 ピーク電流モード制御と平均電流モード制御の比較
制御方式
ピーク電流モード制御
平均電流モード制御
機 種
FA5500/FA5501
FA5331/FA5332
発 振
自励発振
他励発振
周 波 数
可変
固定
出力容量
小(約 200 W以下)
大(約 200 W以上)
適用製品
照明器具,パソコンなど
インバータなど
図5 内部ブロック図
MUL
3
VCC
8
VREF
+
FB 1
−
COMP 2
2.5 A
誤差
増幅器
VREF
VDD
VOVP
VZCD
VOS
VSP
乗算器
AOC
+
−
−
VSP
7 OUT
R
S
SP
+
Q
VOVP
の 2 種類がある。図3にピーク電流モード制御と平均電流
+
GND 6
低電圧
誤動作
防止
VOS
+
−
モード制御との入力電圧・電流波形の比較を示す。なお,
基準
電圧
−
+ −
OVP
実際の製品に用いられる場合には通常どちらの方式の場合
R
R
OVP
SP
タイマ
VZCD
4
5
IS
ZCD
でもアクティブフィルタ回路と交流入力電圧との間に高周
波用のフィルタを挿入して使用する。このフィルタの作用
により,入力電流は図3の破線で示された平均入力電流に
近くなる。
また,表1にピーク電流モード制御と平均電流モード制
御の比較を示す。表1に示したとおり,適用製品は両モー
ド制御を比較した場合,一般的には出力容量の差で決まっ
てくる。比較的大きい出力容量(約 200 W 以上)に適し
スタートアップ 20 μA,動作時 2 mA
(2 ) 軽負荷補正回路により,定格負荷から無負荷までの定
電圧制御が可能
(3) FB ショート検出回路により,出力電圧検出部が異常
になった場合に回路動作を停止
た平均電流モード制御の FA5331P/M と FA5332P/M が
(4 ) 過電圧保護機能内蔵
インバータなどでの使用を目的としているのに対して,今
(5) 低電圧誤動作防止回路のオン電圧による系列化
回開発したピーク電流モード制御の FA5500P/N と FA
FA5500P/N : 11.5 V オン/9 V オフ
5501P/N は比較的小さい出力容量(約 200W 以下)に適
FA5501P/N : 13 V オン/9 V オフ
しており,照明器具,パソコンなどでの使用を目的として
(6 ) リスタートタイマ内蔵
いる。
(7) パワー MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field
Effect Transistor)を直接駆動可能
製品の概要
今回開発した IC は各種の機能を内蔵し,8 ピンの DIP
出力ピーク電流:ソース 500 mA,シンク 1 A
3.2 軽負荷補正回路
( Dual In-line Package) ま た は SOP( Small Out-line
従来の力率制御回路では,力率制御 IC の内部回路のオ
Pakage)に収められている。 図 4 に外観を, 図 5 に内部
フセット電圧の影響で軽負荷時に出力電圧が上昇してしま
ブロック図を示す。
うという問題が発生していた。
3.1 特 長
トオフセットコントロール(AOC)回路を設けて IC 内部
本 IC ではその対策として内部の電流コンパレータにオー
本 IC の特長は以下のとおりである。
(1) 30 V 高 耐 圧 CMOS( Complementary Metal Oxide
Semiconductor)プロセスにより,低消費電力を実現
552( 8 )
の電圧オフセットを回路的に補正している。このように軽
負荷時に内部回路のオフセット電圧を補正することで,定
格負荷から無負荷までの定電圧制御を可能としている。
富士時報
CMOS 力率制御用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図6 応用回路例
600 V 4 A
80∼264 Vac
680 kΩ
2,200 pF 5D11
470 kΩ
2SK3520
3A
+
100 F
47 kΩ
0.47 F
0.22 F
410 V
100 W
ERC25-06
390 H
0.22 F 2,200 pF
470 kΩ
10 kΩ
0.1 Ω
ERA91-02
100 kΩ
680 kΩ
22 Ω
33 Ω 100 kΩ
220
Ω
47 kΩ
5.6 Ω
FB
ERA91-02
680 kΩ
VCC
COMP OUT
9.1
kΩ
0.47 F
MUL
GND
IS
ZCD
FA5501
+
0.1 F
100 F
2,200 pF
ERA91-02
0.01 F
図7 入力電圧・電流波形
応用回路例
〈条件〉入力:100 Vac 50 Hz,出力:100 W
図6に応用回路例として本 IC を使用した 100 W 出力の
入力電流
1 A/div
0→
アクティブフィルタ回路を,図7に入力電圧・電流波形を
示す。電流波形が電圧波形と同位相の正弦波となっており,
力率がほとんど 1 に近い値に制御されていることが分かる。
また,電流波形は入力部のフィルタにより平均化されて正
弦波となっていることが分かる。
入力電圧
100 V/div
0→
あとがき
ピーク電流モード制御の力率制御用電源 IC の概要につ
5 ms/div
いて紹介した。力率改善回路のニーズはより一層高まって
いくものと予想される。今後さらに,力率制御回路と DC
出力を制御するための PWM(Pulse Width Modulation)
制御回路を一体化した IC の開発などを行い,市場の要求
3.3 FB ショート検出回路
にこたえていく所存である。
FB ショート検出回路を設けて,FB 端子入力がグラウ
ンドなどとショートした場合やオープンとなった場合に
IC の出力を停止させている。これにより,従来必要であっ
た外部保護回路を削除することができる。
参考文献
(1) 黒 田 栄 寿 ほ か . 力 率 改 善 制 御 用 IC. 富 士 時 報 . vol.67,
no.2,1994,p.121- 125.
553( 9 )
富士時報
Vol.74 No.10 2001
小電力 AC アダプタ用電源 IC
片山 靖(かたやま やすし)
まえがき
図1 FA5702P の主な回路ブロック図
AC アダプタは,携帯電子機器の電源供給やバッテリー
5 V レギュ
レータ
VDD
充電などの用途に多く用いられている商用交流電源を直流
基準電圧
回路
出力に変換するための電源である。AC アダプタに対して
1.18 V
バイアス
は,従来から小型化,軽量化,低価格化といった要求がな
ロジック
VIN
内部
電源
UVLO
D
されてきたが,近年では地球環境問題を背景とした省エネ
50 kHz
D =0.5
clk
ルギー化の流れから,待機電力低減も要求されるように
D max
blk
なってきた。
このような AC アダプタへの要求に対し,富士電機では,
高 精 度 ア ナ ロ グ CMOS( Complementary Metal Oxide
過熱
保護
FB
コンパレータ
発振器
1.18 V
S
−
−
+
Q
R
ドライバ
Rs
Semiconductor) デ バ イ ス で 構 成 し た PWM( Pulse
S
Width Modulation)制御回路と 700 V 耐圧パワー MOS
FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)をワンチップ化することにより,AC アダプタの小
表1 FA5702P の主な電気的特性
型化,低価格化,低消費電力,高信頼性を実現する,スイッ
項 目
チング電源制御用パワー IC(Integrated Circuit)の開発
および製品化を行っている。
特 性
ド レ イ ン 耐 圧
700 V(最小)
パワー MOSFET
オ ン 抵 抗
20 Ω (標準)
本稿では,5 W クラスの小電力 AC アダプタへの適用を
電 源 電 圧
500 V(最大)
目的として開発したスイッチング電源制御用パワー IC
VDD 端 子 電 圧
5 V (標準)
「FA5702P」 について,その概要を紹介する。
発 振 周 波 数
50 kHz(標準)
制 御 回 路
特 長
図1 に FA5702P の回路ブロック図, 表1 に主な電気的
最大デューティ比
50 % (標準)
制 限 電 流
350 mA(標準)
動作時消費電流
200
A(標準)
停止時消費電流
60
A (標準)
特性を示す。
AC アダプタの待機電力低減においては,常時動作して
いる制御回路部の消費電力をいかに小さくするかといった
に電源を供給するために従来必要であった変圧器三次巻
ことが大きな課題となっている。FA5702P は,回路の大
線,整流用ダイオード,コンデンサなどの外部回路が不
幅な低消費電流化や最適化により,200 μA(動作時)の
低消費電流を実現している。
以下に,FA5702P の主な特長を記す。
(1) パワー MOSFET と制御回路をワンチップ化
(2 ) 新設計の制御回路により低消費電流 200 μA(動作時)
を実現
耐圧は最大 700 V で,AC100 V から AC240 V までワー
ルドワイドな商用交流電源に対応可能
(5) 安定度,周波数応答,軽負荷時の変圧器音鳴り発生の
抑制に優れるピーク電流制御方式電流モード PWM 制
(3) 整流回路高圧部から IC 内部電源として直接給電。IC
片山 靖
パワーエレクトロニクス製品の開
発を経て,スイッチング電源制御
IC の開発に従事。現在,
(株)
富
士電機総合研究所デバイス技術研
究所。電気学会会員。
554(10)
要で,AC アダプタの回路構成の簡略化が可能
(4 ) 電源電圧は最大 500 V,パワー MOSFET のドレイン
御を採用
富士時報
小電力 AC アダプタ用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
(6 ) 保護機能内蔵:過電流制限,過熱保護,低電圧誤動作
応用回路例
防止(UVLO : Under Voltage Lock-Out)
図2にチップの外観,図3にパッケージの外観を示す。
図2 に示す上半分が 700 V 耐圧パワー MOSFET,下半
図4に FA5702P を用いた AC アダプタの応用回路例を
分が制御回路部となっている。パッケージには標準外形の
示す。回路構成は小電力 AC アダプタで多く用いられてい
DIP(Dual In-line Package)を採用している。
るフライバックコンバータ方式で,入力は AC90 ∼ 264 V,
出力は DC5.8 V/800 mA である。
FA5702P は,スイッチ用パワー MOSFET を内蔵して
おり,電源は図4のように整流回路高圧部から直接給電す
る。このため,一般的なスイッチング電源制御用 IC で必
図2 チップの外観
要とされるパワー MOSFET や変圧器三次巻線,整流用ダ
イオード,コンデンサなどから構成される電源供給用回路,
起動回路などが不要であり,従来タイプの IC を使用した
場合に比べて少ない部品点数で AC アダプタを構成できる。
図5に定格出力時における動作波形を示す。このように,
PWM 制御によって出力電圧を制御しつつ,安定に動作し
ていることが確認できる。
図6,図7に無負荷時における動作波形を示す。無負荷
時には,図に示すように間欠発振動作に移行する。このと
図5 動作波形(定格出力時)
V IN=100 V,V OUT=5.77 V,I OUT=0.78 A
図3 パッケージの外観
V OUT
0
V DS
0
ID
V OUT:5 V/div
0
V DS:250 V/div
I D:0.2 A/div
20 s/div
図4 応用回路例
D1
T1
R2
D3
L1
I OUT
C4
C5
+
+
C6 V OUT
VIN
D2
D
VDD
V IN
+
V DC
C1
R1
FA5702P
C2
R3 R4
PC1
FB
C7
S
C3
IC1
VR1
555(11)
富士時報
小電力 AC アダプタ用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図6 動作波形(無負荷時,拡大)
図8 応用回路で測定した効率
100
V IN=100 V,V OUT=5.77 V,I OUT=0 A
80
ID
V DS
効率η(%)
V OUT
V OUT:5 V/div
0
60
40
0
V DS:250 V/div
20
入力電圧 V IN=100 V(AC)
出力電圧 V OUT=5.78 V
0
0
0
I D:0.2 A/div
200
400
600
800
出力電流 I OUT(mA)
20 s/div
図9 応用回路で測定した損失
101
図7 動作波形(無負荷時,全体)
損失 P IN - P OUT(W)
V IN=100 V,V OUT=5.77 V,I OUT=0 A
V DS
V DS:100 V/div
0
100
10−1
待機電力38.8 mW
間欠発振周期:91.3 Hz
ID
10−2
0
200
入力電圧 V IN=100 V(AC)
出力電圧 V OUT=5.78 V
400
600
800
出力電流 I OUT(mA)
I D:0.04 A/div
0
1 ms/div
あとがき
5 W クラスの小電力 AC アダプタへの適用を目的として
き間欠発振周波数は可聴周波数帯域まで低下しているが,
開発したスイッチング電源制御用パワー IC 「FA5702P」
FA5702P においては,電流モード PWM 制御によりピー
について,その概要を紹介した。
ク電流が低い値に制御されるため,変圧器鉄心に励磁され
本 IC は,パワー MOSFET を内蔵し,消費電流が小さ
る磁束の変化も低く抑えられ,変圧器鉄心からの可聴音発
いという特長を持つ。このため,AC アダプタの待機電力
生を抑制できる。
低減や部品点数の削減に有用である。
図4の回路において測定した効率を図8,損失を図9に
富士電機では,スイッチング電源制御用パワー IC の用
示す。回路の効率および損失は,変圧器や出力電圧フィー
途別,出力別の系列拡充を進め,さらなる市場の要求にこ
ドバック回路などの部品選定によって大きく変動するが,
たえていく所存である。
図4の応用回路では,38.8 mW の低い待機電力を実現して
いる。
参考文献
(1) 佐藤満,多田元.700 V 耐圧電源用パワー IC.電子技術.
vol.43,no.5,2001,p.114- 115.
556(12)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
野村 一郎(のむら いちろう)
米田 保(よねだ たもつ)
まえがき
表1 FA7703とFA7704の出力極性と適用回路
型 式
ノートパソコンや携帯電話,ビデオカメラなどの携帯電
出力
端子
子機器は,高機能化に伴う高速動作化,表示パネルの大画
面・カラー化などにより消費電力が増大する方向にある。
一方,機器の小型化や連続通電時間の長時間化の市場要
SEL1端子
接続先
駆動素子
GND 端子
pチャネル MOSFET
pnpトランジスタ
OUT1
FA7703
V/M
昇圧回路または
フライバック
回路
pチャネル MOSFET
pnpトランジスタ
降圧回路または
極性反転回路
pチャネル MOSFET
pnpトランジスタ
降圧回路
OUT2
タが使用された機器にも,小型・高効率化に有利な DC-
GND 端子
DC コンバータの適用が広がりつつある。
この要求にこたえ,富士電機では,小型化に有利な高周
波 化 , 高 効 率 化 に 有 利 な 低 消 費 電 流 化 と MOSFET
OUT1
FA7704
V/M
REG 端子 nチャネル MOSFET
(2.2 V) npnトランジスタ
昇圧回路または
フライバック
回路
nチャネル MOSFET
npnトランジスタ
昇圧回路または
フライバック
回路
(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)駆
OUT2
動化に適する CMOS(Complementary Metal Oxide Semi-
降圧回路
REG 端子 nチャネル MOSFET
(2.2 V) npnトランジスタ
求から,電源の小型・高効率化の必要性が高まっている。
このため,電源に関しては,従来はシリーズレギュレー
適用回路
conductor)型の DC-DC コンバータ IC(Integrated Circuit)
(1)∼(4 )
の製品系列化を進めている。この系列として2チャネル出
(OUT2)降圧・極性反転用
力の IC「FA7703V/M」と「FA7704V/M」の開発を完了
したので,ここにその概要を報告する。
™FA7704V/M:
(OUT1)降圧・昇圧・フライバック用
(OUT2)昇圧・フライバック用
製品の概要
(5) 高精度基準電圧: 1 V +
− 1 %(REF 端子)
FA7703V/M,FA7704V/M は,直流安定化電源として
1 V+
− 2 %(チャネル 1 誤差増幅器)
(6 ) 各チャネルとも,任意の最大オン時比率に設定可能
機能するための,駆動スイッチング素子のスイッチング周
(7) ソフトスタート機能(起動時にオン時比率を徐々に広
期に対するオン時比率(デューティサイクルともいう)の
げて,電源出力電圧のオーバシュートなどを仰制)とタ
制御を行う基本機能のほか,電源の小型・高効率化に有利
イマ・ラッチ方式の短絡保護機能(電源出力の短絡が一
な以下の特長を有する。
定時間継続後にスイッチング動作を停止)を内蔵し,
(1) 電源電圧範囲が広い: IC 電源入力 Vcc = 2.5 ∼ 18 V
CS 端子にコンデンサ 1 個のみの接続でこれら二つの機
(2 ) 動作周波数範囲が広い: 50 kHz ∼ 1 MHz
能を実現(当社特許)
(3) 低電圧動作に有利な 0 V ∼ Vcc の振幅で n チャネルま
(8) 消費電流が小さい: 1.7 mA(標準,190 kHz 時)
,
(9) パッケージ: TSSOP-16〔最大 5.1 × 6.5 × 1.1( mm)
たはpチャネル MOSFET を駆動可能:
™OUT1,OUT2 端子ハイサイドオン抵抗= 10 Ω
型式末尾: V〕の小型・薄型品と,許容損失が 400 mW
™OUT1,OUT2 端子ローサイドオン抵抗= 5 Ω
,
と比較的大きい SOP-16〔最大 10.5 × 8.0 × 2.1( mm)
(ベース電流設定抵抗とスピードアップコンデンサの
型式末尾:M〕の 2 種を製品化
(10) 低 電 圧 誤 動 作 防 止 ( UVLO: Under Voltage Lock-
接続により,バイポーラトランジスタの駆動も可能)
(4 ) 各回路方式に適した IC を選択可能(表1参照):
Out)回路を内蔵し,Vcc 約 2 V 以下でスイッチングを
™FA7703V/M:
(OUT1)降圧・昇圧・フライバック用
停止するとともに,CS 端子を 0 V に引き下げ,電源投
野村 一郎
米田 保
リニア IC の開発に従事。現在,
スイッチング電源制御 IC の開発
松本工場 IC 開発部。
に従事。現在,松本工場 IC 開発
部。
557(13)
富士時報
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
Vol.74 No.10 2001
構成しており,図3は SEL1 端子を GND 端子に接続し,
入前の状態にリセット
(11) 外付部品が少ない:電圧検出抵抗を含め,抵抗11∼15
チャネル 1 で降圧回路,チャネル 2 で昇圧回路を構成して
個(アプリケーションに依存)
,コンデンサ 4 個で 2 チャ
いる。これらの電源は,各種 IC や液晶パネルなどの負荷
ネルの MOSFET 駆動を実現
に電力を供給することが可能である。なお,前述のとおり,
参考として 図 1 に FA7703V/M と FA7704V/M 共通の
各 IC ともに適用可能な電源回路方式は種々あり,ここに
内部ブロック図を示す。2 種の IC の相違点は OUT2 端子
示す例はあくまでその一例である。
の出力極性のみであり,上記
で述べたとおり,所望の応
(4 )
電源起動時には CS 端子に接続したコンデンサを内部2
μA電流源で約 0.6 V から約 1.1 V に充電する間に,外付け
用回路に応じて最適の IC を選択できる。
MOSFET のオン時比率が 0 から徐々に広がる前述のソフ
応用回路例
トスタート動作が働くことにより,電源出力の容量を急速
充電する過大な突入電流の防止ができるとともに,電源出
応用回路例として,図2に FA7703,図3に FA7704 を
力電圧が緩やかに上昇するため,フィードバック制御によ
使用した例を示す。 図2 は SEL1 端子を REG 端子に接続
る同電圧のオーバシュートが抑制できる。電源出力電圧が
し,チャネル 1 で昇圧回路,チャネル 2 で極性反転回路を
設定値で安定する定常動作に移ると,CS 端子は内部で約
図1 FA7703 と FA7704 共通の内部ブロック図
REG
DT1
REF
IN1−
FB1
SEL1
OUT1
VCC
16
15
14
13
12
11
10
9
誤差増幅器1
−
基準電圧
+
−
+
1V
+
Ics
2.2 V
+
オンオフ
PWM
コンパレータ1
1.27 V
バイアス
UVLO
1.5 V
短絡保護
+
−
+
−
−
2.0 V
短絡検知
電圧監視
オンオフ
FA7703
+
−
+
誤差増幅器2
+
+
発振器
FA7704
PWM
コンパレータ2
−
1
2
3
4
5
6
7
8
RT
CS
DT2
IN2+
IN2−
FB2
GND
OUT2
図2 FA7703 の応用回路例
10
1 kΩ
2.5∼8.0 V
9 kΩ
H
+
SC802-04
CPH3403
数十
+
10 V/100 mA
F
11 kΩ
10 kΩ
REG
11 kΩ
0.1 F
DT1
CPH3303
CS
DT2 IN2+ IN2− FB2
10 kΩ
10 kΩ
1 F
10
kΩ
10 kΩ
1 kΩ 16 kΩ
558(14)
−7.5 V/100 mA
REF IN1− FB1 SEL1 OUT1 VCC
FA7703
RT
SC802-04
10
GND OUT2
数十
H
F +
Vol.74 No.10 2001
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
1.27 V にクランプされる。
MOSFET のスイッチング損失(ターンオン時またはター
富士時報
電源の過負荷または出力短絡による出力電圧の異常低下
ンオフ時の電力損失)を小さくできる。ここでは図4の全
が生じると, 図 2 では IN1 −端子または IN2 +端子にお
回路と図5のチャネル2の波形が不連続モードの動作のた
いて, 図 3 では IN1 −端子または IN2 −端子において出
め,インダクタ電流が 0 になる期間にインダクタと回路全
力電圧絶対値の低下を検知することにより CS 端子の約
体の容量との共振による数 MHz 程度のドレイン電圧振動
1.27 V 内部クランプ回路がはずれ,CS 端子接続コンデン
が生じているが,正常な波形である。
サを再び内部2μA電流源で充電する。同端子が約 2 V を
図6および図7に各回路の電力変換効率データを示す。
超えるとタイマ・ラッチ短絡保護回路が働き,二つのチャ
図6の昇圧回路と極性反転回路を構成した例では,入力
ネルともスイッチング動作を停止する。この動作後には,
2.5 ∼ 8.0 V, 出 力 10 V/0.1 A と − 7.5 V/0.1 A で 約 82∼
電源入力遮断などにより VCC 端子が約 2 V 以下に下がる
85 %と高効率を得ている。電源入力電圧の上昇に対し,
までスイッチング停止が維持される。
オン時比率が下がり外付け MOSFET のオン時電力損失が
定常動作時の外付け MOSFET のスイッチング波形を図
減少することと,同 MOSFET の駆動電力とスイッチング
4および図5に示す。二つの回路とも約 400 kHz の比較的
損失が増大することのトレードオフから,電源入力電圧の
高い周波数動作のため,メイン回路のインダクタ値および
変化に対して効率がほぼ一定になっている。
コンデンサ容量を小さくでき,電源の小型化が可能である。
図7の降圧回路と昇圧回路を構成した例においても,入
また,数十 ns 程度の高速スイッチングをしていること,
力 8 ∼ 18 V, 出 力 5 V/0.5 A と 30 V/20 mA で 約 84∼
およびインダクタ電流を連続モード
(電流が常時 0 より大)
90 %と高効率を得ている。 図6 に比べて電源入力電圧が
と不連続モード(スイッチング周期内で電流が 0 になる期
高い領域にあるため,同電圧にほぼ比例する外付け MOS
間がある)の境界近傍で動作させていることから,これら
FET の駆動電力とスイッチング損失が比較的大きくなり,
図3 FA7704 の応用回路例
CPH3303
1 kΩ
8∼18 V
4 kΩ
47
H
+
数十
F
5 V/500 mA
+
SC802-04
22
REG
DT1
RT
CS
REF IN1− FB1 SEL1 OUT1 VCC
H
SC802-04 数十
CPH3406
+
F
30 V/20 mA
FA7704
11 kΩ
0.1 F
DT2 IN2+ IN2− FB2
GND OUT2
10 kΩ
10 kΩ
0.1 F
1.5 kΩ 43 kΩ
図4 FA7703 応用回路の MOSFET スイッチング波形
図5 FA7704 応用回路の MOSFET スイッチング波形
OUT1側
ゲート電圧
(5 V/div)
0V
OUT1側
ゲート電圧
(10 V/div)
0V
OUT1側
ドレイン電圧
(10 V/div)
0V
OUT1側
ドレイン電圧
(10 V/div)
0V
OUT2側
ゲート電圧
(5 V/div)
0V
OUT2側
ゲート電圧
(10 V/div)
0V
OUT2側
ドレイン電圧
(10 V/div)
0V
(1 s/div)
OUT2側
ドレイン電圧
(20 V/div)
0V
(1 s/div)
559(15)
富士時報
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
Vol.74 No.10 2001
がる傾向にある。
図6 FA7703 応用回路の電力変換効率データ
いずれの IC においても,オン時比率制御に用いる発振
100
器の三角波電圧を内蔵して外部端子に出力しない構成とし
たため,一般の電源 IC に多い三角波電圧の出力端子の接
95
効率(%)
地または電源端子などとの短絡によるオン時比率 100 %と
90
なるアブノーマルモードを回避することが可能である。
85
あとがき
80
75
70
2
携帯電子機器などの小型化,高効率化に有利な,高周波
動作,低消費電流,MOSFET 駆動に適した 2 チャネル出
3
4
5
6
入力電圧(V)
7
8
9
力の DC-DC コンバータ IC(4型式)の概要を紹介した。
富士電機では,今後も電源の小型化,高効率化,軽量化
および安全性向上に寄与すべく,高精度化,保護機能の充
図7 FA7704 応用回路の電力変換効率データ
実,制御方式の考案・改良などを行い,製品系列の拡大を
図っていく所存である。
100
参考文献
効率(%)
95
(1) 野村一郎.1 チャネル CMOS DC - DC コンバータ制御 IC.
90
富士時報.vol.73,no.8,2000,p.432- 435.
85
(2 ) 遠藤和弥.同期整流対応 6 チャネル DC- DC コンバータ制
御 IC.富士時報.vol.73,no.8,2000,p.436- 439.
80
(3) 山田谷政幸.3 チャネル DC- DC コンバータ用 IC.富士時
75
70
6
報.vol.71,no.8,1998,p.434- 437.
(4 ) 遠藤和弥.6 チャネル DC- DC コンバータ用 IC.富士時報.
8
10
12
14
入力電圧(V)
16
18
20
vol.71,no.8,1998,p.438- 441.
(5) 丸山宏志.カレントモード電源用 CMOSIC.富士時報.
vol.71,no.8,1998,p.430- 433.
全損失に占める外付け MOSFET のオン時電力損失の割合
が小さくなるので,電源入力電圧の低下に対して効率が上
解 説
(6 ) 野村一郎,有村健一.DC- DC コンバータ制御用 IC.富士
時報.vol.68,no.7,1995,p.403- 406.
CMOS-IC
MOS 型〔駆動電極の金属など(Metal)
,絶縁物で
あるシリコン酸化膜(Oxide)
,半導体(Semiconduc-
間平均値が小さく,かつ,駆動電流の流れる時間が短
いので,高周波動作,低消費電流動作に適している。
tor)のサンドイッチ構造〕の電界効果トランジスタ
(Field Effect Transistor)で構成される半導体集積回
+電源
路(Integrated Circuit)の一種である。
ロー電圧駆動で導通する p チャネル MOSFET とハ
G
イ電圧駆動で導通する n チャネル MOSFET の 2 種に
よ り 相 補 す る ( Complementary) MOSFET 構 成で
S
D
入力
(駆動電極)
駆動電流はスイッチング動作(ターンオン,ターン
pチャネルMOSFET
出力
D
nチャネルMOSFET
種々の回路が作りやすく,基本回路は右図のインバー
タ(反転器)である。
寄生容量
(各電極間)
G
G:ゲート電極
D:ドレイン電極
S :ソース電極
S
0V
オフ)時に駆動電極(ゲート)まわりの比較的小さい
寄生容量を充放電する成分のみのため,駆動電流の時
560(16)
CMOS 回路例(インバータ)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
LCD パネル用電源 IC
山田谷 政幸(やまだや まさゆき)
まえがき
表1 FA3686VとFA3687V 共通の主要特性
項 目
条 件
最小
標準
最大
単位
18
V
0.99
1.00
1.01
V
2.178
2.200
2.222
V
435
500
565
kHz
2.00
2.20
2.35
V
マルチメディア化の進行に伴い,電子機器はますます小
電 源 電 圧 範 囲
2.5
型,軽量,薄型,低消費電力が求められてきており,表示
基 準 電 圧
装置ではその特徴を生かした液晶ディスプレイ(LCD)
内部制御系電圧
が主流となっている。
三角波発振周波数
LCD パネルの駆動には一般的に 3 種類の電圧が必要と
されているが,LCD パネルへの入力電圧,その駆動に必
要な電圧構成および電源シーケンスはパネルメーカーや種
類により異なっているのが実情である。
また,電源回路の小型化を実現するには特にトランスや
コイルを小さくする必要があり,そのためには電源回路を
RT =12 kΩ
低電圧誤動作防止
動作電圧
OUT1,2
H レベルオン抵抗
I OUT =50 mA
10
20
Ω
OUT1,2
L レベルオン抵抗
I OUT =−50 mA
5
10
Ω
〈注〉特に条件のない限り,電源電圧3.3 V,常温(25℃)における定格
高い周波数で駆動することが求められている。
富士電機ではこれまでも LCD パネル用電源 IC(Integrated Circuit)を製品化してきたが,このたび新系列と
ポーラトランジスタのいずれも直接駆動可
FA3686V と FA3687V 共通の主要特性を表1に示す。
して 2 チャネルの PWM(Pulse Width Modulation)方式
スイッチング電源制御 IC「FA3686V」および「FA3687V」
FA3686V の特長
を開発したので,その概要を紹介する。
FA3686V は LCD パネル用電源 IC の中でも特に 3 出力
製品の概要
電源用途向けの製品である。2 チャネルの PWM 制御部に
加え,さらに誤差増幅器を 1 個追加し,シリーズレギュレー
今回開発した FA3686V と FA3687V はともに LCD パ
ネル用電源 IC であるが,LCD パネルが必要とする電源構
成や用途などの違いにより使い分けることができる。
タが容易に構成できるようになっている。
図 1 に FA3686V の内部回路を示す。FA3686V の特長
は次のとおりである。
これら二つに共通の特長は次のとおりである。
(1) TSSOP(Thin Shrink Small Out-line Package):16
ピンパッケージを採用
3.1 PWM 制御部
チャネル 1 およびチャネル 2 の誤差増幅器の非反転入力
(2 ) 動作電圧範囲:2.5 ∼ 18 V
はいずれも内部にて基準電圧(1.00 V+
−1 %)に接続され
(3) 発振周波数:300 kHz ∼ 1.5 MHz,外付け抵抗のみで
ている。チャネル 1 の出力は n チャネルドライバで昇圧
回路,チャネル 2 の出力は p チャネルドライバで極性反
設定可
(4 ) 基準電圧および内部制御系電圧の精度+
−1 %
(5) 2チャネルの PWM 制御出力を内蔵
転回路をそれぞれ構成することができる。
(6 ) タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路,低電圧誤動作
3.2 最大デューティ制限回路
防止回路,ソフトスタート回路を内蔵
昇圧回路および極性反転回路の駆動の際は出力が 100 %
(7) 外付けスイッチング素子は MOSFET(Metal Oxide
オンしないように最大デューティを制限する必要がある。
Semiconductor Field Effect Transistor) ま た は バ イ
FA3686V では最大デューティ制限回路を内蔵し,外部
山田谷 政幸
電源 IC の開発に従事。現在,松
本工場 IC 開発部。
561(17)
富士時報
LCD パネル用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
にて設定する必要なく約 85 %に制限されている。
力電圧を監視し,ある一定の遅延時間の間,誤差増幅器の
出力がスイッチングを広げるがわに振り切れ続けている場
3.3 ソフトスタート回路
合,異常状態と判断してスイッチングを停止する機能であ
FA3686V では各チャネル独立のソフトスタート回路を
る。この遅延時間を決める方法として,FA3686V では発
設けている。ソフトスタートを設定する CS1 端子,CS2
振周期をカウントする方法を採用している。時間は発振周
端子には内部電流源が備え付けられており,外部にコンデ
期の 2 16 倍または 2 17 倍のいずれかに設定可能で,外付け
ンサのみを接続することで機能が実現できる。
部品は一切必要ない。
3.4 タイマ・ラッチ回路
3.5 PGS
タイマ・ラッチ方式出力短絡保護回路は誤差増幅器の出
FA3686V で は 新 た な 機 能 と し て PGS( Power Good
Signal)を持っている。これは FA3686V が駆動している
電源の異常信号を外部に送る機能で n チャネル MOSFET
のオープンドレイン出力になっている。
図1 FA3686V の内部回路構成
入力電圧が規定に満たない場合(電圧上昇時 2.35 V,下
⑬ VREG
⑥ VCC
UVLO
基準電源
内部制御
系電源
⑫ RT
誤差増幅器1
+
⑭ IN1−
−
⑮ FB1
誤差増幅器2
+
④ IN2−
−
電圧検出
UVLO
三角波
発振器
⑦ CS2 ⑩ CS1
降時 2.25 V)
,低電圧誤動作防止(UVLO)回路が動作し
VPGS
た場合,タイマ・ラッチ回路が動作した場合のいずれかの
ソフト
スタート
場合に n チャネル MOSFET がオンする。
最大
デューティ
制限
PWM
コンパ
レータ1
3.6 応用回路例
+
nチャネル
ドライバ
−
図2に FA3686V を用いた応用回路例を示す。
⑨ OUT1
チャネル 1 にて昇圧回路,チャネル 2 にて極性反転回路
PWM
コンパ
レータ2
−
pチャネル
ドライバ
+
を駆動している。さらにチャネル 1 のスイッチングを用い
⑧ OUT2
てチャージポンプ回路を作り,これとシリーズレギュレー
③ FB2
誤差増幅器3
タを組み合わせてもう一つ電圧を作っている。
+
−
② IN3−
FB検出
⑤ PGS
VPGS UVLO
① FB3
負荷電流の少ない電圧生成にはコンデンサで構成できる
チャージポンプ回路が部品サイズやコストの面で有利であ
タイマ・
ラッチ
(カウンタ)
り,FA3686V はその駆動に適している。
⑯ TL
⑪ GND
図2 FA3686V の応用回路例
10 V/5 mA
90 kΩ
0.1 F
0.1 F
4.7 F
0.1 F
0.1 F
2.9∼3.6 V
10 kΩ
1,000 pF
10 F
15 F
5.0 V/200 mA
4 kΩ
470 Ω
1 kΩ
GND
−5.0 V/100 mA
47 kΩ
4,700pF
562(18)
FB3 IN3− FB2 IN2− PGS VCC CS1 OUT2
10 kΩ
FA3686V
12kΩ
1 F
TL
0.022 F
FB1 IN1− VREG RT GND CS1 OUT1
1,000 pF
10 F
470 Ω
12 kΩ
0.047 F
2.4 kΩ
0.47 F
PGS
33 kΩ
10 kΩ
2,200pF
4,700pF
4.7 kΩ
富士時報
LCD パネル用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
ブ切換が可能である。これにより降圧,昇圧,極性反転,
FA3687V の特長
フライバック,フォワードのあらゆる回路が構成できる。
FA3687V は LCD パネル用電源の中でも特に汎用性を
4.2 ソフトスタート回路
重視した製品である。2 チャネルの PWM 制御部にはすべ
FA3687V では各チャネル独立のソフトスタート回路を
て n チャネルまたは p チャネル駆動の切換があり,駆動
設けている。ソフトスタートを設定する CS1 端子,CS2
することのできる電源構成の幅が広い。
端子にて抵抗およびコンデンサを用いて設定を行う。また
図 3 に FA3687V の内部回路を示す。FA3687V の特長
CS1 端子,CS2 端子の電圧を設定することで最大デューティ
は次のとおりである。
制限を設定することも可能である。
4.1 PWM 制御部
4.3 タイマ・ラッチ回路
チャネル 1 の誤差増幅器の非反転入力は内部にて基準電
FA3687V ではラッチまでの遅延時間を決める方法とし
圧(1.00 V+
−1 %)に接続されている。チャネル 2 の誤差
てコンデンサ充電方式を採用している。CP 端子にコンデ
増幅器は非反転・反転入力ともに外部にて設定できる。い
ンサを接続すると内部電流源によりコンデンサが充電され,
ずれのチャネルの出力も n チャネル/p チャネルのドライ
一定電圧に達するとスイッチングを停止する。
図3 FA3687V の内部回路構成
4.4 応用回路例
図4に FA3687V を用いた応用回路例を示す。これは全
⑦ CS2 ⑩ CS1
⑥ VCC
⑬ VREG
UVLO
基準電源
チャネル降圧回路を駆動している例である。
FA3687V は n チャネル,p チャネル駆動切換が可能な
ソフト
スタート
内部制御
系電源
ことから,応用回路例以外にも降圧,昇圧,極性反転など
三角波
発振器
⑫ RT
あらゆる回路の組合せが可能で汎用性が高い。
PWM
誤差増幅器1 コンパ
レータ1
+
⑭ IN1−
⑮ FB1
⑤ IN2+
④ IN2−
+
−
−
n/pチャネル
ドライバ
⑨ OUT1
n/pチャネル
ドライバ
⑧ OUT2
PWM
誤差増幅器2 コンパ
レータ2
+
⑯ SEL1
−
−
あとがき
+
LCD パネル用電源 IC である FA3686V および FA3687V
の概要を説明した。
③ FB2
② SEL2
FB検出
現在,LCD パネル分野では低価格化,小型化が年々進
んできており,富士電機では市場要求にこたえるべく LCD
パネル用電源 IC のさらなる系列化を進め,魅力ある製品
タイマ・
ラッチ
(充電式)
の開発を進めていく所存である。
① CP
⑪ GND
図4 FA3687V の応用回路例
5 V/500 mA
7∼18 V
40 kΩ
10 F
10 F
10 kΩ
GND
1 F
0.01 F
10 kΩ
FA3687V
6.2 kΩ
CP SEL2 FB2 IN2− IN2+ VCC CS2 OUT2
0.1 F
100 kΩ
SELI FB1 IN1− VREG RT GND CS1 OUT1
0.1 F
GND
100 kΩ
3.3 V/500 mA
0.01 F
100 Ω
0.47 F
22 kΩ
10 F
11 kΩ
10 kΩ
0.01 F
1 MΩ
10 kΩ 10 kΩ
0.068 F
563(19)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
チャージポンプ型昇圧コンバータ IC
吉田 豊(よしだ ゆたか)
荒井 裕久(あらい ひろひさ)
まえがき
図1 FA3705NM のチップ写真
近年,普及が急速に進んでいる PDA(Personal Digital
Assistant)や携帯電話などの携帯電子機器は,持ち運び
やバッテリー動作の面から小型化・軽量化・低消費電力化
が要求されている。
携帯電子機器に使用される電子部品において,ディジタ
ル IC(Integrated Circuit)では加工微細化に伴う電源電
圧の低下が進んでいる。これに対しアナログ IC や無線通
信用部品は電気的特性が電源電圧に影響されやすいため,
3 ∼ 5 V 程度にとどまっている場合が多い。携帯電子機器
のバッテリーとして使われているリチウムイオン二次電池
の定格出力は 3.6 V であるため,昇圧電源が必要となる。
また,アナログ IC や無線通信用部品は,電源ノイズが
大きいと正しい動作が行われなくなるおそれがあるため,
安定した電源電圧が要求される。
本稿では,このような携帯電子機器の市場要求に応じて,
図2 FA3705NM の外形写真
出力リプルが小さく,低消費電力化した小型の昇圧電源と
して開発したチャージポンプ型昇圧コンバータ IC「FA
3705NM」を紹介する。
特 長
FA3705NM は安定した電源電圧 5 V を必要とする携帯
電子機器部品の電源 IC として開発され,低出力リプル電
圧,低消費電力,回路の小型化などを特長とする。通常,
昇圧電源としてインダクタを使った DC-DC スイッチング
昇圧コンバータやキャパシタを使ったチャージポンプ昇圧
回路があるが,これらの回路方式はスイッチングに伴う出
力電圧のリプルが大きくアナログ IC や無線通信用部品に
は適さない。
の使用とシャットダウンモードの設定で低消費電力化を図っ
これに対し,FA3705NM はキャパシタを使ったチャー
ている。さらに,超小型パッケージ MSOP(Micro Small
ジポンプ昇圧回路と,スイッチングで生じるリプルを抑え
Out-line Package)- 8 の採用と外付け部品をコンデンサ 5
るシリーズレギュレータをワンチップに集積して,出力リ
個だけで済ますことで電源回路の小型化を図っている。
プ ル の 小 さ い 昇 圧 回 路 を 実 現 し て い る 。 ま た , CMOS
特長を以下に簡単にまとめる。
(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセス
(1) 低出力リプル電圧:標準 1 mVp-p
吉田 豊
荒井 裕久
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
在,松本工場 IC 開発部プリンシ
在,松本工場 IC 開発部。
パルエンジニア。電気学会会員。
564(20)
富士時報
チャージポンプ型昇圧コンバータ IC
Vol.74 No.10 2001
(2 ) リチウムイオン電池に対応した入力電圧範囲:2.7 ∼
4.4 V
ポンプは入力電圧の 2 倍の電圧値を出力するが,内部基準
電圧発生回路と内部コンパレータを用いて CPO 端子の出
(3) シャットダウンモード可能
力電圧を監視し,この電圧が 5.8 V を超えている期間は
(4 ) 過熱,過負荷,低電圧入力に対する保護回路内蔵
チャージポンプを停止させることで一定の出力電圧を得る。
チャージポンプの出力はスイッチング動作によるリプル
(5) 基準電圧発生回路内蔵
(6 ) 超小型 MSOP- 8 ピンパッケージ:3.0 mm×4.9 mm
(リード先端まで含む)
が乗っているため,内部レギュレータによりリプルを減衰
させ安定した 5.0 V を VOUT 端子に供給する。シリーズ
FA3705NM のチップ写真を 図1 に,外形写真を 図2 に
レギュレータの誤動作を防ぐため,CPO 端子の電圧が 5.1 V
に達するまではシリーズレギュレータを停止させる。
示す。
チャージポンプの発振周波数は 630 kHz を使用している。
IC の概要
これは携帯電子機器で使用される無線用の高周波とデータ
転送周波数の周波数変換を行うときに用いる中間周波数
表1の電気的特性および図3の内部ブロック図を使い,
FA3705NM の動作説明を行う。
(450 kHz および 455 kHz)との干渉を避けるための選択
である。
電源立上り時の動作は以下のように説明される。
(1) まず内部基準電圧発生回路が起動する。FILT 端子の
3.1 基本動作
内部チャージポンプは,VIN 端子の入力電圧から約 5.8
V の電圧を生成し,CPO 端子に出力する。通常チャージ
電位が初期値 0 V から約 1.22 V になるまで上がる。
(2 ) 内部チャージポンプが遅れて起動し,フライングキャ
パシタ Cx を介して CPO 端子に接続されている外部容
量 Cdd が初期値 0 V から約 5.8 V になるまで充電される。
表1 電気的特性
(3) 内部シリーズレギュレータは CPO 端子の電位が 5.1 V
項 目
特性値
入 力 電 圧 範 囲
2.7∼4.4 V
になるまでは動作せず,VOUT 端子の電位は 0 V であ
スタートアップ入力電圧
2.5 V(標準)
る。CPO 端子の電位が 5.1 V を超えるとレギュレータが
出 力 電 圧
5.00 V±0.10 V
(入力電圧 3.2 V,出力電流 1 mA)
出 力 電 流
50 mA(最大)
発 振 周 波 数
630 kHz(標準)
消 費 電 流
250 A(標準)
(入力電圧 4.4 V,出力電流 0 mA)
4.1 mA(標準)
(入力電圧 3.2 V,出力電流 1 mA)
シャットダウン電流
0.1 A(標準)
起動し,VOUT 端子は 5.0 V になるまで徐々に電位を上
げる。
図4に電源立上り時の動作波形を示す。動作開始から約
1.2ms 後に所定の電源出力が得られる。
立上り時間は Cref の値に依存し, 図4 に示した例では
10 nF の場合である。 図 5 に Cref の値と立上り時間の関
係を示す。Cref の値を大きくすることで立上り時間は長
くなるが,出力リプルは小さくなる傾向がある。
図3 内部ブロック図
3.2 シャットダウン
SHDN_ 端子をローレベルにすることで内部回路をすべ
Cx
VIN
6
SD
Cin
5
シャットダウン時は,この電源 IC につながっている電子
CPO
8
チャージ
ポンプ
UVLO
CLK
Cdd
ENB1
サーマル
シャット
ダウン
SHDN_
ENB3
630 kHz
発振器
2
部品が誤動作しないよう VOUT 端子を内部スイッチで
FILT
ENB2
SD
VOUT
1
Cout
FILT
3
Cref
SD
基準電圧
SD
レギュレータ
4
GND
図4 電源立上り波形
SHDN_
入力端子電圧 (V)
パワー
オン
リセット
て停止させ,消費電流を 1μA 以下にすることができる。
C−
7
4
2
0
6
VOUT
出力端子電圧 (V)
C+
4
2
0
T a = 25 ℃
V in = 3.0 V
I out =10 mA
C ref =10 nF
C in = C dd = C out = 4.7 F
時間 (400 s/div)
565(21)
富士時報
チャージポンプ型昇圧コンバータ IC
Vol.74 No.10 2001
図6 電源立下り波形
SHDN_
入力端子電圧(V)
図5 Cref 容量と立上り時間の関係
7
5
T a = 25 ℃
V in = 3.2 V
I out =10 mA
C in = C dd = C out = 4.7 F
4
VOUT
出力端子電圧(V)
立上り時間(ms)
6
3
2
1
0
0
20
40
60
Cref 容量(nF)
80
4
2
0
6
T a = 25 ℃
V in = 3.0 V
I out = 0 mA
C ref =10 nF
C in = C dd = C out =4.7 F
4
2
0
100
時間(400 s/div)
図7 FA3705NM を使用した応用回路例
入力電圧
(2.7∼4.4 V)
Cdd
4.7 F
リチウムイオン
二次電池
Cx
0.22 F
Cin
4.7 F
CPO
VOUT
C+
SHDN_
VIN
FILT
C−
GND
5 V出力
Cout
4.7 F
電子部品
Cref
10 nF
GND と短絡させ電源を切断する。 図6 にシャットダウン
時の出力電圧の立下り波形を示す。約 2.5 ms 後にほぼ電
応用回路
圧値が 0 V まで下がる。
FA3705NM を使用した応用回路例を 図7 に示す。入力
3.3 保護回路
外部回路により起こされる異常条件で IC が破損されな
いよう以下の保護回路を内蔵している。
(1) 過熱保護
チップ温度が約 150 ℃になるとチャージポンプの動作を
止めて負荷への電源供給を停止する。約 140 ℃まで下がっ
た時点で回路動作を再開する。
電源としてリチウムイオン二次電池を用い,VCO(Voltage Controlled Oscillator)などの無線通信部品に安定し
た 5 V を供給する電源回路である。
外部部品として必要なのは安価なセラミックコンデンサ
5 個だけである。
SHDN_ 端子をマイコンのポートに接続することで,シャッ
トダウンモードの設定が可能である。
(2 ) 過負荷保護
シリーズレギュレータの出力電圧が約 1.22 V 以下に下
あとがき
がったとき,過負荷条件とみなしシリーズレギュレータを
停止する。
(3) UVLO(Under Voltage Lock-Out)
以上,携帯電子機器用の電源 IC として開発した FA3705
NM の 概 要 に つ い て 紹 介 し た 。 今 後 , こ の 分 野 の LSI
入力電圧が約 2.5 V 以下では,内部回路の誤動作防止の
(Large Scale Integrated circuit)は統合化がますます進
ため,内部基準電圧発生回路以外の回路動作を停止する。
むと考えられ,これに対応した,より多機能なシステム構
築ができる技術開発を行っていく所存である。
566(22)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
白色 LED 駆動用電源 IC
加茂 宏明(かも ひろあき)
佐野 功(さの いさお)
まえがき
図1 負荷電流と効率
90
器がある。小型ゲーム機に始まり携帯電話,電子手帳に至
80
効率(%)
われわれの手放せなくなった物の一つに携帯型の電子機
るまでさまざまな種類があり,それらのほとんどはヒュー
マンマシンインタフェースとして表示装置を持つ。近年,
液晶パネルに代表される表示装置の発達は目覚ましく,高
V dd =3.6 V, Vdd3v =2.85 V
70
60
Ta =25 ℃
Ta =−30 ℃
Ta =85 ℃
50
40
30
精彩カラー化など表示機能,品質に対する期待がますます
0
5
10
15
20
負荷電流(mA)
強くなっている。
一方,液晶パネルと同様にパネルを照らすバックライト
にも品質の高度化が求められる。現在,携帯機器では小型
軽 量 , 低 消 費 電 力 の 点 か ら 白 色 LED( Light Emitting
図2 FA3717J の外観
Diode)がその代表として用いられている。白色 LED は
Vf = 3.6 ∼ 4.0 V で,通常の電池使用では昇圧,均一な発
光,多段階調光機能を制御する IC(Integrated Circuit)
が必要となる。
本稿ではこうした機能,品質を実現する白色 LED 駆動
用 IC「FA3717J」を紹介する。
製品の概要
FA3717J は携帯電子機器向けに開発されたパルス幅変
調(PWM:Pulse Width Modulation)方式 DC-DC コン
バータコントローラである。
以下に本製品の特長を列挙する。
(1) 高効率昇圧型 DC-DC コンバータ(図1に負荷電流と
効率を示す。
)
保護回路内蔵
(8) 高耐圧出力スイッチング素子内蔵(n チャネル DMOS
(2 ) 白色 LED を定電流駆動可能
FET:Double Diffused Metal Oxide Semiconductor Field
(3) 多段階調光を可能にする 8 ビットの DAC(Digital to
Effect Transistor)
Analog Converter)搭載
(9) CMOS(Complementary MOS)プロセスを使用し低
(4 ) さまざまな制御を可能にするシリアルインタフェース
消費電力:1μA(待機時の標準値)
図3にブロック図を,表1に主な電気的特性を示す。
搭載
(5) 小型 SON(Small Outline Non-lead)16 ピンパッケー
例えば,電源にリチウムイオン電池(3.6 V)を使用し,
図4のように昇圧型コンバータとして使用した場合,最大
ジ(図2参照)
(6 ) 外付け抵抗による発振周波数の変更が可能
約 18 V の出力電圧を得ることができる。この電圧は白色
(7) ソフトスタート回路,最大デューティ制限回路,各種
LED 3個を直列に駆動するのに十分な電圧である。
加茂 宏明
佐野 功
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
在,松本工場 IC 開発部。
在,松本工場 IC 開発部。
567(23)
富士時報
白色 LED 駆動用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図3 ブロック図
図4 使用回路例
VDD3V
VDD
CS
X1
L1
3.6V
VIN
C1
BGR
C3
X2
GND
OSC
RT
ソフト
スタート
CLK
シリアル 8ビット
I/F
D/A
DATA
デューティ
制限
インタフェース
入力
STRB
NRST
誤差増幅器
+
R2(Rt)
+
−
IN−
OUT
コンパ
レータ
C2
−
FB
FA3717J
RT
FB
CS
VR22
PGND
2.2V
基準電圧
VR22
X4
R5
C4 R3
R4
GND
VDET
R6
VDD3V
2.85V
VDD3V
BGR
18V検出
X3
VDD
OUT
NRST
VDET
CLK
DATA
STRB
IN−
C5
PGND
GND
表1 主な電気的特性
項 目
記 号
条 件
最 小
標 準
最 大
単 位
昇圧系電源電圧
Vdd
3.1
3.6 4.3 V
制御系電源電圧
Vdd3v
2.75 2.85 2.95 V
OUT 端子出力電圧
Vout
0 19 OUT 端子出力電流
I out
0 700 三角波発振周波数
f osc
500
f osc82
R t=8.2 kΩ
発振器電源安定度
S fosc_vdd3v
R t=8.2 kΩ
誤差増幅器基準電圧
V ref
Vref 分解能
0.85 1,500 1.00 1.20 ±6 V
mA
kHz
MHz
%
DAC=00(h)
0.773
0.803
0.833
V
DAC=FF(h)
1.148
1.184
1.220
V
D vref
DAC=00∼FF(h)
1.5 mV
V csd0
デューティ=0%
0.82 V
V csd50
デューティ=50%
CS 端子しきい値電圧
CS 端子充電電流
I cs
異常出力電圧検出
V det
最大デューティサイクル
V
2.6 A
17
19 21 V
f osc=500 kHz
81
87 93 %
D max2
f osc=1 MHz
79
83 92 %
0.5
0.6 0.7 Ω
2.200
2.244
R on
VR22 出力電圧
V R22
待機時消費電流
2.0 D max1
出力オン抵抗
動作時消費電流
1.10 1.4
2.156
V
I dd1
f osc=1 MHz
1.2 mA
I dd3v1
f osc=1 MHz
1.2 mA
I dd3
0.1 A
I dd3v3
0.5 A
※特記なき場合,Vdd=3.6 V,Vdd3v=2.85 V,R t=8.2 kΩ,温度=25℃
一方, 図4 において電流検出抵抗に発生した電圧は 2.2 V
主要回路の概要
を定電圧出力する VR22 端子と外付け抵抗によりレベルシ
フトされる。この二つの電圧を比較演算しPWM制御を行
図5に FA3717J のチップ図を示す。
い,定電流制御を実現している。
図4の使用方法における外付け部品のばらつきを含めた
3.1 DAC と定電流制御回路
DAC の設定値と出力電流の相関の例を図7に示す。
図3において,負荷電流設定用に8ビットの DAC を搭
載している。DAC の設定はシリアルインタフェースを介
して行われ,設定値に対して図6に示す電圧を出力する。
568(24)
3.2 発振回路
素子間の不要な干渉を防ぐため,外付けの抵抗値による
富士時報
白色 LED 駆動用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図5 FA3717J のチップ図
図8 タイミング抵抗と発振周波数の関係
発振周波数 f (kHz)
10,000
1,000
100
10
タイミング抵抗 R t(kΩ)
1
100
図9 起動時のデューティ制御
図6 DAC 設定値とその出力電圧
1.38V
原振(三角波)
DAC 出力電圧(V)
1.2
CS端子
電圧
1.1
0.82V
1.0
0.9
0V
0.8
V dd3V
0.7
0
150
100
DAC 設定値(dec)
50
200
250
0V
スイッチ
ング素子
駆動波形
し外付けの平滑コンデンサを破壊する恐れがある。このよ
図7 DAC 設定値と出力電流の相関
うな状態を避けるために,出力電圧を監視する VDET 端
70
子を設けた。VDET 端子は昇圧出力に接続され,出力電
60
圧が 19.5 V(標準値)を超えると,スイッチング動作を停
I out(mA)
50
40
止し各素子に高い電圧が印加されるのを防ぐ。
最大
30
20
3.5 過電流保護回路
10
最小
0
−10
FF(h)
00(h)
−20
例えば,インダクタの端子が何らかの原因で短絡した場
DAC
合,電源から出力スイッチング素子に非常に大きな電流が
流れ,素子破壊を招くことが考えられる。そこで,大電流
が流れると出力スイッチング素子のドレイン端子電圧が上
昇することを監視し,異常電圧を検出するとスイッチング
発振周波数の可変制御を可能にしている。図8にタイミン
動作を停止する。
グ抵抗と発振周波数の関係を示す。
あとがき
3.3 ソフトスタート回路
スイッチング開始時の突入電流を回避するために,ソフ
携帯電子機器の表示パネルの白色 LED バックライト制
トスタート回路を内蔵している。CS 端子に接続されたコ
御用 IC として開発した FA3717J の製品紹介を行ってきた。
ンデンサに2μA(標準値)の定電流充電を行い,そのコ
今後ますます小型電子機器の持つ情報密度は濃くなるもの
ンデンサの端子電圧により最大デューティの制御を行う
と予想できる。欲しい情報をすぐ手にできる利便性,楽し
。
(図9参照)
3.4 過電圧検出回路
動作中,何らかの原因で負荷回路が断線した場合,フィー
ドバック制御ができなくなるため,出力電圧が異常に上昇
さを実現するため,製品の拡充を図る所存である。
参考文献
(1) 佐野功ほか.携帯電話機用電源 IC.富士時報.vol.73,
no.8,2000,p.440- 442.
569(25)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
荒井 裕久(あらい ひろひさ)
吉田 豊(よしだ ゆたか)
藪崎 純(やぶざき じゅん)
まえがき
図1 FA3694R の外観
近年,携帯電子機器の小型化,軽量化,高機能化が進ん
でおり,その代表である携帯電話は,小型化の進展および
低消費電力化による待受け時間や通話時間の伸びにより,
いつでも,どこでも連絡可能という携行性,利便性が一層
進み,多くの消費者の支持を受け,現在の高い普及率となっ
ている。
富士電機では,低消費電力化〔IC(Integrated Circuit)
消費電力の削減〕
,小型化(各機能の集積化)に対応した
携帯電話用電源 IC として,48ピンの小型パッケージを適
用した「FA3694R」を開発,製品化したので概要を紹介
する。
特 長
図2 FA3694R のチップ写真
FA3694R は携帯電話用に開発したシステム電源 IC で,
高精度充電制御回路(スタンドアローン)
,6 個の 2.85V
出力電圧,最大 150mA 出力電流の LDO(Low Drop Out)
レギュレータ,音声用スピーカアンプ,各種ドライバ
〔LED(Light Emitting Diode)
,ブザー,バックライト〕
,
各種検出回路,基準電圧出力回路などを内蔵している。
また,各 LDO レギュレータ,スピーカアンプ,各ドラ
イバはシリアルインタフェースを介しておのおの個別にオ
ン・オフが可能で,必要に応じて電源のオン・オフを行い,
バッテリーパワーのセーブを可能にし,携帯電話の低消費
電力化に対応している。
特長を以下にまとめる。
(1) 充電制御回路内蔵(Battery Charger)
™予備充電(Pre-Charge)
™急速充電(Fast Charge)
定電流充電(CC Mode)
時における定電圧充電の電圧を,4.2 V+
−30 mV の高精度で
定電圧充電(CV Mode)
本 IC は,バッテリーの満充電(携帯電話の使用時間を
実現している。
伸ばす)
,安全に充電する(過電圧によるバッテリーの損
(2 ) LDO レギュレータ 6 個内蔵
傷を防ぐ)ことを目的に,充電の最終段階である急速充電
(3) スピーカアンプ内蔵(32 Ωスピーカ駆動)
荒井 裕久
吉田 豊
藪崎 純
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
在,松本工場 IC 開発部。
在,松本工場 IC 開発部プリンシ
在,松本工場 IC 開発部。
パルエンジニア。電気学会会員。
570(26)
富士時報
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
(4 ) 各種ドライバ内蔵
表2 主要電気的特性
LED,ブザー,バックライト
項 目
(5) 各種検出器内蔵
条 件
標 準
単 位
充電制御
レギュレータ,メインパワー,バッテリー検出
予備充電
R s=0.4 Ω
100
mA
(6 ) 基準電圧回路内蔵
急速充電(定電流充電)
R s=0.4 Ω
1,000
mA
(7) CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconduc-
急速充電(定電圧充電)
R s=0.4 Ω
4.20
V
tor)シリコンゲート 1 μm プロセス
AC アダプタ過電圧検出
6.0
V
(8) 低消費電流: 100 μA(待機時)
AC アダプタ低電圧検出
3.65
V
(9) 48 ピン QFN(Quad Flat Non-lead)パッケージ
バッテリー過電圧検出
4.55
V
バッテリー低電圧検出
2.90
V
FA3694R の外観を図1に,チップ写真を図2に示す。
0
℃
高温度検出
(予備充電停止)
43
℃
高温度検出
(急速充電停止)
50
℃
充電最大時間
(予備充電)
140
min
充電最大時間
(急速充電)
140
min
低温度検出
仕 様
表1に絶対最大定格を,表2に主要電気的特性を示す。
IC の概要
4.1 充電制御
充電回路は,リチウムイオンバッテリー用に開発を行っ
た。図3に充電部ブロック図を示す。
充電部は,充電電流モニタ部,電源電圧モニタ部,充電
電圧・電流コントロール部(定電流充電および定電圧充
電)
,バッテリー電圧モニタ部,バッテリー温度モニタ部
(バッテリー有無モニタを含む)
,クロックモニタ部,シー
レギュレータ
出力電圧
I load=150 mA
2.85
V
リプル除去率
f =21 kHz
−60
dB
負荷変動
I load=1∼150 mA
0.2
mV/mA
0.20
V
ブザー
NMOS オン電圧
I load=120 mA
LED
ケンスロジック部で構成している。
充電シーケンス(図4)は,アダプタ電圧,バッテリー
電圧,バッテリー温度,充電電流,充電時間をモニタし,
出力電流
V in=1.0 V
40
mA
出力電圧
V in=2.85 V
114
mA
待機時
100
A
消費電流
制御を行っている。
消費電流
図5に充電タイミングチャートを示す。
通常の充電動作を以下に述べる。
(1) 電池電圧が 3 V 以上で,アダプタ電圧が正常(3.75
V < VCHG < 6.0 V)のとき急速充電を行う。
(2 ) 急速充電では,充電電流およびバッテリー電圧に応じ
図3 充電部ブロック図
て,定電流充電あるいは定電圧充電のどちらかが行われ
る。通常,1 A の定電流充電が行われ,その後 4.2 V の
ACアダ
プタから
VCHG
バッテ
リーから
定電圧充電が行われる。
(3) 定電圧充電で充電電流が 150 mA 以下になった時点で
終了する。
MPWR
RSNS
充電電流
モニタ
(4 ) バッテリー電圧が 3.9 V 以下になったら再充電を開始
CHG_SNS
RMOD
する。
TRMOD
CHG_
MOD
表1 絶対最大定格
項 目
定 格
VCHG
6.5
MPWR
6.5
電 源 電 圧
単位
VBAT
V
入 力 電 圧 範 囲
−0.3∼+3.15
スピーカアンプ入力電圧範囲
−0.3∼+3.0
V
600
mW
動 作 温 度 範 囲
−30∼+85
℃
保 存 温 度 範 囲
−40∼+125
℃
全
損
失
(Ta=25℃)
V
RTMP
BAT_
TMP
CLK
充電
コント
ロール
過電圧・
低電圧検出
バッテリー
電圧モニタ
バッテリー
温度検出
バッテリー
有無検出
シーケンス
ロジック
発信器
停止検出
571(27)
富士時報
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図4 充電シーケンス
(5) 充電開始時に,バッテリー電圧が 3.0 V 以下の場合は
予備充電を行う。予備充電は 100 mA の定電流充電をバッ
テリー電圧が 3.0 V を超えるまで行う。予備充電が 140
待機
N
分を超えた場合はバッテリーに異常があると判断し,充
V CHG>3.75 V?
電を終了する。
Y
V BAT>3.0 V?
N
(6 ) 充電中,バッテリー温度が 50 ℃を超えるか,0 ℃未
予備充電
Y
T BAT>43 ℃?
急速充電
(定電流充電)
(定電圧充電1)
タイムアウト?
Y
N
V BAT>3.0 V?
Y
る。
N
N
(7) 次の場合は充電を停止する。
図5 充電タイミングチャート
バッテリー有無 N
または
VCHG<3.65 V?
Y
Y
急速充電
(定電圧充電2)
N
0 ℃以上または 43 ℃以下に戻った場合,充電を再開す
T BAT<43 ℃?
異常
タイマリセット
N
T BAT>50 ℃
または
T BAT<0 ℃?
N
Y
Y
Y
I CHG<40 %?
タイムアウト?
満になった場合には充電を停止する。バッテリー温度が
保留1
N
タイムアウト?
N
T BAT>50 ℃
または
T BAT<0 ℃?
N
Y
N
予備
充電
定電流
充電
急速充電
定電圧
充電1
タイムアウト
定電圧充電2
I REG
V FBAT
Y
V LBAT
保留2
Y
0< T BAT<43 ℃?
N
I TR
バッテリー
電圧
Y
I CHG<15 %?
Y
I STP
I PC
充電電流
完了
Y
V BAT<3.9 V?
N
急速充電
最大時間
予備充電
最大時間
急速充電
最大時間
図6 FA3694R の回路ブロック図
VR3
MPWR
Rs
LED_VIN
28
27
26
25
LED_GND
24
電
流
制
御
CLK
CLK
BLR
23
STB
22
DATA
21
発振器
VIB_OUT
CLK
VIB
40
29
LED_OUT
30
充電制御
VBAT
39
MPWR
31
SCLK
20
MPWR
41
VR4
47
VR2
BG
VR4
MPWR
48
1
VR1
2
3
MIC_
BIAS
4
VREF
BUF
5
6
7
8
9
10
BAT_MON
BG
46
RST
45
電圧
検出部
シリアル
インタ
フェース
VR1
VR2
ス
ピ SPOUT1
ー
15
カ
ア GNDSP
14
ン
プ SPOUT2
11
SHOCK
MPWR
44
VCHG
PWRHLD
18
DGND
17
MPWRSP
16
VR3
PWR_FAIL
43
PWRSW
19
MSW
VR3
AGND
VREF
42
AGND
保護
パワー
コントロール
ロジック
MIC_
OUT
バッテリー
12
AUDIN
CHG_MOD
38
32
LEDs
BLG
33
BZ2
AC
アダプタ
572(28)
34
VCHG
37
GNDN
35
BZ1
36
CLK_CNT
RST_IN
BAT_TMP
CHG_SNS
MPWR
13
富士時報
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
™アダプタ電圧が 3.65 V 未満あるいは 6.0 V を超えた場
合
™バッテリー電圧が 4.55 V を超えた場合
™バッテリーがない場合
(MPWR)の低電圧検知をしており,システム自身をシャッ
トダウンできるよう,IC 端子から出力している。
また,バッテリーの残量を確認するために,バッテリー
モニタは電圧変換したアナログ電圧を出力している。
™クロックが停止した場合
4.6 シリアルインタフェース
4.2 LDO レギュレータ
FA3694R は CMOS による LDO レギュレータを使用し
3線式シリアルインタフェースにより,各ブロックのオ
ン・オフをコントロールする。
ている。バイポーラと比較して消費電流が小さく,ドロッ
プアウト電圧が小さいため,バッテリーの消費を抑え,か
つ低いバッテリー電圧での使用が可能である。この IC に
4.7 全体回路
FA3694R の回路ブロック図を図6に示す。
内蔵している LDO レギュレータは,20 kHz まで−60dB
以上の高リプル除去率を持ち,1回路あたり 40 μA の低
あとがき
消費電流を実現している。
以上,充電制御機能を内蔵した携帯電話用電源 IC とし
4.3 スピーカアンプ
BTL(Balanced Transformer Less)構成でスピーカを
て開発した FA3694R の概要について紹介した。
今後,携帯電話用 LSI(Large Scale Integrated circuit)
駆動するため, 2 個のプッシュプルアンプを内蔵している。
は,さらに統合化が進むと考えられるが,低消費電力,小
EN 端子を L レベルにすることにより,シャットダウンモー
型化の追求により,高性能なシステムが構築できる IC の
ドになり,消費電流を 1 μA 以下にすることができる。
開発を行い,一層の拡大が期待される携帯電子機器市場の
ニーズにこたえるとともに,電子機器の発展に貢献してい
4.4 各種ドライバ
く所存である。
ブザー,バックライトを駆動するため,オープンドレイ
ン構成の n チャネル MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を内蔵する。
LED 駆動は,IN 端子の入力電圧レベルにより駆動電流
を制御でき,複数の LED を駆動できるように電流を 120
mA まで供給できる構成としている。
参考文献
(1) 佐野功ほか.携帯電話機用電源 IC.富士時報.vol.73,
no.8,2000,p.440- 442.
(2 ) 芳尾真幸,小沢昭弥.リチウムイオン二次電池―材料と応
用―.日刊工業新聞社.1996,p.145- 151.
4.5 各種検出器
常時,内部レギュレータの低電圧検知(VR1)
,主電源
573(29)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
野口 晴司(のぐち せいじ)
澄田 仁志(すみだ ひとし)
川村 一裕(かわむら かずひろ)
まえがき
図1 プロセスフローの概略
薄型,軽量,高視野角などの商品価値を備えたカラー
埋込みエピタキシャル層形成工程
PDP(Plasma Display Panel)は,その低価格化が一般家
素子分離工程
庭用テレビとしての普及にとって大きな課題となっている。
また,BS(Broadcasting Satellite)ディジタル放送の開
ウェル形成工程
始により,ディジタルハイビジョン放送に対応した精細度
フィールド酸化工程
が PDP に求められている。
高性能・低価格 PDP の実現には,パネル技術のみなら
ゲート形成工程
ず,パネルを駆動するドライバ IC(Integrated Circuit)
の性能が寄与するところも大きい。そのため,ドライバ
ソース/ドレイン形成工程
IC に対しては高速スイッチング,低消費電力,高ノイズ
配線工程
耐量などといった高性能化とともに,低コスト化がこれま
で以上に強く要求されている。
富士電機では,第一世代 PDP ドライバ IC として誘電
(1)
体分離プロセスを用いたスキャンドライバ IC と,pn 接合
(2 )
分離プロセスを用いたアドレスドライバ IC をすでに製品
化している。そして,この第一世代 PDP ドライバ IC の
るが,今回改めて最適化を行った。また,フィールド酸化
性能とコストをしのぎ,高性能・低価格 PDP の実現に大
工程,ゲート形成工程についても既存プロセスをベースに
きく貢献する次世代 PDP ドライバ IC の開発に取り組ん
改良を加え,さらに二層配線プロセスを採用し(既存機種
でいる。今回,第二世代 PDP アドレスドライバ IC とし
は一層配線)
,チップサイズの縮小を図った。これらの結
て,pn 接合分離プロセスを用いた動作電圧 70 V のアドレ
果,目的のデバイス特性とチップサイズ縮小とを両立する
スドライバ IC を開発した。
ことができた。
本稿では,この第二世代アドレスドライバ IC について,
デバイス技術
デバイス・プロセス技術の概要と IC の特性について紹介
する。
高耐圧デバイスとして,70 V のスイッチング動作を保
プロセス技術
証する横型の n チャネル MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)
(NMOS)と p チャネ
今回紹介する第二世代 PDP アドレスドライバの開発に
ル MOSFET(PMOS)を開発した。両デバイスともに IC
あたり,既存機種よりさらなる低価格化を実現するために
のチップ面積縮小を目的として,単位素子面積あたりの電
低オン抵抗化と素子分離領域の縮小を図った。図1にプロ
流駆動能力向上を達成している。また,制御回路用デバイ
セスフローの概略を示す。1 μm ルールのロジックプロセ
スとして,IC の 40 MHz 動作を可能とする CMOS(Com-
スをベースとしており,図の網かけ部が既存機種から今回
plementary MOS)用デバイスも開発した。このデバイス
改良した工程である。埋込み拡散型エピタキシャルウェーハ
は 12 V 以上のドレイン - ソース耐圧を有している。ここ
を使った pn 接合分離プロセスは既存機種から採用してい
では,高耐圧デバイスについて概説する。
574(30)
野口 晴司
澄田 仁志
川村 一裕
CMOS,高耐圧 MOS のプロセス
高耐圧デバイスの開発に従事。現
CMOSIC の開発に従事。現在,松
開発に従事。現在,松本工場 IC
在,松本工場 IC 開発部。工学博
本工場 IC 開発部。
開発部。
士。電気学会会員。
富士時報
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
Vol.74 No.10 2001
高温高電圧長期印加試験(HTRB 試験)を実施した。印
加電圧は 70 V,試験温度は 150 ℃である。図3に,NMOS
3.1 高耐圧デバイス
と PMOS の定格電流値における印加時間変化を示す。両
3.1.1 電流・電圧特性
PDP ドライバ IC では,高耐圧デバイスによって構成さ
デバイスとも 2,000 時間の印加に対して初期電流値は変化
れた出力回路がチップ面積の 50 %以上を占めるため,チッ
していない。また,図示してはいないが,耐圧値も変化し
プ面積縮小には高耐圧デバイスの占有面積縮小が必須(ひっ
なかった。このように,HTRB 試験によるデバイス特性
す)となる。
の変化は現れず,デバイスの品質に問題がないことを確認
図2に,今回開発した NMOS と PMOS の電流・電圧波
した。
形を示す。素子の低オン抵抗化による活性領域の面積縮小
カラー PDP ドライバ IC への適用
と,分離領域の形成方法改良による分離領域のスリム化に
より,単位素子面積あたりの電流駆動能力を向上させてい
る。低オン抵抗化に対しては下記のアイテムから取り組み,
今回新規に開発した特徴あるプロセス・デバイスを適用
し,カラー PDP アドレスドライバ IC を開発したので以
素子に複雑な構造を導入することなく実現した。
(1) ドレイン層形成方法の改良による耐圧と電流駆動能力
下に紹介する。
のトレードオフ特性改善
(2 ) チャネル領域形成方法の改良によるチャネル抵抗の低
4.1 概 要
この IC の概要は下記のとおりである。
減
(3) 素子平面構造の改良とデバイスパラメータの最適化に
(1) 128 ビット高耐圧プッシュプル出力
,+
(2 ) 高耐圧出力:85 V(最大)
−30 mA(標準)
よるセルサイズの縮小
( 3)
なお,NMOS ではリサーフ効果によるドレイン層の高
(3) 高耐圧出力高速スイッチングスピード
(4 ) 高速データ転送:40 MHz(データ取込み時最大)
不純物濃度化も図っている。
3.1.2 信頼性特性
26 MHz(カスケード接続時最大)
デバイスの品質を確認するため,デバイス単体に対して
図3 高耐圧デバイスの電流特性に対する HTRB 試験の結果
図2 高耐圧デバイスの電流・電圧波形
1.2
電流変化量(初期電流値との比)
ドレイン - ソース電流(mA)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
20
40
60
ドレイン - ソース電圧(V)
500
80
1,000
1,500
印加時間(h)
2,000
(a)PMOS
(a)PMOS
1.2
電流変化量(初期電流値との比)
ドレイン - ソース電流(mA)
60
50
40
30
20
10
0
0
40
60
20
ドレイン - ソース電圧(V)
(b)NMOS
80
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
500
1,000
1,500
印加時間(h)
2,000
(b)NMOS
575(31)
富士時報
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
Vol.74 No.10 2001
(5) 3.3 V CMOS 入力インタフェース
電圧においては約 1/2 の低オン抵抗を実現した。この特性
(6 ) 4 ビットデータ入出力ポート
は IC の発熱に関係する特性であるが,チップサイズにも
(7) 32ビット双方向シフトレジスタ 4 回路
大きく影響する特性で,従来製品に対し小型化したうえで,
この特性を実現することができた。
(2 ) 静止時消費電流
4.2 回路構成
図4にこの IC のブロック図を示す。
静止時消費電流においては,レベルシフト回路の改良に
回路構成としては,3.3 V CMOS 入力インタフェースを
可能にする入力バッファ回路,32ビット× 4 回路の双方向
より,従来製品 6.6 mA に対し 5 μA以下を実現した。
(3) スイッチングスピード
シフトレジスタ回路,128 ビットラッチ回路,全高耐圧出
PDP の高精細化には必須条件となる高速スイッチング
力 H/L/Z(High/Low/High Impedance)制御用のゲート
スピードとしては,微細加工技術によるロジック回路の高
回路,低消費電流レベルシフト回路,128 ビット高耐圧プッ
速化,レベルシフト回路の改良による高耐圧出力の高速化
シュプル出力回路から構成されている。
を実現することができた。
さらに特徴となる特性としては,高速なスイッチングス
4.3 特徴と従来機種比較
ピードを持つ回路においても,図6のように伝達遅延時間
4.3.1 チップサイズ
をコントロールすることにより,L から H に変化する出力
図5にこの IC のチップ写真を示す。
と H から L に変化する出力の H 期間が重ならないように
この IC は,新規に開発された低オン抵抗デバイスの採
用,微細加工プロセスの採用,高耐圧出力の多出力化(従
来製品64出力に対し,128 出力化を実現)などにより,1
出力あたりのチップ面積で,従来比の約 61 %に小型化す
ることができた。
4.3.2 代表特性
従来製品とこの IC の代表特性比較を表1に示す。
表1 代表特性比較
条件・適用
従来機種
開発機種
単位
高耐圧
V OH DO
H 出力電圧
I OH=−30 mA
64.0
64.8
V
高耐圧
L 出力電圧
V OL DO
I OH=30 mA
5.0
2.2
V
I CC
ロジック電源電流
6.6(mA)
I DD
高圧電源電流
6.6(mA)
項 目
(1) 高耐圧 H/L 出力電圧
H 出力電圧においては従来製品と同等の特性で,L 出力
静止時
消費電流
最大
クロック
周波数
図4 ブロック図
VDL
伝達
遅延時間
VDH
入
力
端
子
シ
フ
ト
レ
ジ
ス
タ
回
路
ラ
ッ
チ
回
路
ゲ
ー
ト
回
路
レ
ベ
ル
シ
フ
ト
回
路
GNDH
高
耐
圧
出
力
端
子
A
1.0
1.0
A
単体
40.0
50.0以上
MHz
カスケード接続
40.0
50.0以上
MHz
t pdHL
ロジック出力
19.0
14.2
ns
t pdLH
ロジック出力
22.4
15.3
ns
t pHL
高耐圧出力
91.8
55.8
ns
f CLK
t pLH
高耐圧出力
156.0
130.0
ns
出力
立上り時間
tr
高耐圧出力
146.0
52.3
ns
出力
立下り時間
tf
高耐圧出力
113.0
75.6
ns
DO1
入
力
バ
ッ
フ
ァ
回
路
記号
〈注〉特に指定のない限り, T j =25℃, V DL =5 V, V DH =70 V
DO128
図6 高耐圧出力波形
ロジック
出力端子
出力切換信号
t pHL
tf
L出力への立下りが
遅いと,誤発光する
可能性がある。
H 出力
図5 チップ写真
立下り出力
L 出力
t pLH≒t pHL+t f(H 期間が重ならない)
立上り出力
t pLH
576(32)
tr
H 出力
富士時報
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
Vol.74 No.10 2001
し(tpLH ≒ tpHL + tf)
,誤発光を防止するものである。PDP
ものを開発しなければならない。富士電機では今後も,よ
は,ある期間においてデータドライバがH出力しているビッ
り高性能のドライバ IC をより低コストで実現するための
トのみが発光書き込みされる。したがって,発光させたく
デバイス・プロセス技術を確立し,特徴ある PDP ドライ
ないビットは,すばやくL出力に立ち下がっていることが
バ IC をタイムリーに開発していく所存である。
望ましい。
参考文献
あとがき
(1) Sumida, H. et al.Circuit Design and a High Voltage
Device for an Advanced PDP Scan Driver IC.The 6th
本稿では,pn 接合分離技術を用いて開発した第二世代
PDP アドレスドライバ IC の概要について,プロセス・デ
バイス技術とあわせて紹介した。
PDP では,民生用テレビとしての普及を確実なものと
することから,一層の高性能化と低価格化が取り組まれて
International Display Workshop.1999,p.739- 742.
(2 ) 重田善弘,多田元.カラープラズマディスプレイドライバ
IC.富士時報.vol.69,no.8,1996,p.426- 429.
(3) Appels, A. et al. High Voltage thin Layer Devices
(Resurf Devices)
.IEEE IEDM.1979,p.238- 241.
いる。このため,PDP ドライバ IC もこの流れに合致した
解 説
高調波規制
電力系統に各種電子機器が接続される場合,多くの
際規格である IEC555-2 が1982年に発行された。現在
機器で高調波電流が発生する。それぞれの機器で発生
は数回の修正などを経て,IEC61000-3-2 が適用され
する高調波電流はそれほど大きいものではない。しか
ている。
し,各種機器が普及しその数が増加すると,全体では
日本国内の場合,この国際規格に基づき,1994年に
非常に大きなものとなる。この高調波電流により,電
通商産業省(現在の経済産業省)資源エネルギー庁か
源電圧にひずみが発生し,電力系統の設備やこれに接
ら「家電・汎用品高調波抑制対策ガイドライン」が発
続される各機器の動作に影響する場合がある。
行された(その後,数回の改訂が行われている)
。こ
この増加する高調波電流を抑制するため,家庭用な
のガイドラインに基づき,おおむね1996∼97年ごろか
どの一般の機器に関しては,それぞれの機器から発生
ら,業界ごとの自主規制により高調波電流に対する規
する高調波電流の限度値や測定方法などを定めた,国
制が運用されている。
577(33)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
新構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール
小松 幸哲(こまつ さちあき)
まえがき
図1 FM6266W37 の外観
銀塩カメラ業界では,小型軽量化が進められている。特
にオートフォーカス(AF)システムの優劣が大きなポイ
ントとなっている。また,ディジタルスチルカメラ(DSC)
分野でも優れた AF システムが求められ始めている。
従来,富士電機では,センサデータの A-D(Analog to
Digital)変換と AF 演算回路をワンチップ化した AFIC
(Auto-Focus Integrated Circuit)に光学系を組み合わせ
た AF モジュールを1992年から量産してきた。また,APS
(Advanced Photo System)フィルム用カメラの登場によ
る一層の小型化の要求に対して,センサピッチの縮小が可
能なアナログデータ出力タイプの AF モジュールを1998年
表1 アナログタイプ AF モジュールの機種系列
から量産し,好評を得ている。
今回,アナログデータ出力タイプのセンサと,新しい構
造の IC パッケージの採用により,小型で高精度の測距が
可能な AF モジュール「FM6266W37」を3倍超ズームク
機 種
FM6255AT42
項 目
適用 AFIC
FB6256T
FB6255AT
(クリアモールド)(クリアモールド)
端子数(ピン)
ラスの銀塩カメラおよび DSC 向けに開発した。
図1に FM6266W37 の外観を示し,以下にその構成,構
造,特長を紹介する。また, 表 1 にはアナログタイプの
AF モジュールの機種系列を示す。
適用対象
基線長 B
(mm)
この新構造の IC パッケージ(以下,新構造パッケージ
と略す)を採用した小型・高精度 AF モジュールの特長は
次のとおりである。
(1) 精度向上
新構造パッケージは IC チップを柔軟性に富む材料で封
止する構造となっているため,封止時の応力がほとんどか
16
24
FM6266W37
FB6266W
(新構造)
12
2倍以下のズーム 3倍以上のズーム 3倍以上のズーム
コンパクトカメラ コンパクトカメラ コンパクトカメラ
5.566
7.118
7.118
5.7
10.7
10.7
2×130
2×224
2×224
12
12
12
センサ感度
(V/s)
(A 光源
5EV)
200
147
147
最大視野角
(度)
10.8
10.1
10.1
4.0∼6.0
3.0∼6.0
3.0∼6.0
焦点距離 f
(mm)
FM6266W37 の主な特長
FM6256T36
センサ数
センサピッチ
( m)
電源電圧(V)
からず,応力に起因する特性の変動を生じない。
(2 ) 小 型
センサピッチを縮小したアナログデータ出力タイプのセ
(1)
ンサによりモジュールの小型化を実現しているが,上記
(3) 遮 光
新構造の採用により従来必要であったクリアモールド部
により,従来より小型化のメリットをより大きいものにし
分の遮光が簡略化され,より少ないスペースで実装が可能
ている。
となった。
小松 幸哲
CMOSIC,オートフォーカスモ
ジュールの開発に従事。現在,松
本工場 IC 開発部。
578(34)
富士時報
新構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール
Vol.74 No.10 2001
出力電圧が下降していく回路構成となっている。そして,
AFIC の回路構成
積分終了の信号を受けてそのときの電圧がサンプルホール
ドされる。各画素のセンサデータは外部クロックに同期し
図2にアナログタイプ AFIC の回路ブロック図を示す。
て選択・出力され,そのデータは図3に示すように,被写
詳細な説明は省略するが,本 IC は,左右センサアレイの
体像の明るい部分が結像した画素は出力電圧が低く,暗い
各ホトダイオードの光電流を,MOS(Metal Oxide Semi-
部分に対応する画素は出力電圧が Vref に近い値となる。
conductor)トランジスタからなる積分回路および増幅回
路で電圧に変換,増幅し,センサデータとしてサンプルホー
ホトダイオードの構造および特性
ルドする構成になっている。
積分は基準電圧 Vref からスタートし,積分時間に応じて
MOS アナログセンサでは,増幅回路の変更に伴いホト
ダイオード部の構造も変更した。図4にその断面構造をト
ランジスタとともに示す。従来のディジタルタイプとは異
図2 アナログタイプ AFIC の回路ブロック図
なり,ホトダイオードを基板から電気的に分離する構造と
バイアス回路
左センサ
アレイ
×n
右センサ
アレイ
×n
増幅回路
サンプル
ホールド
+
ピーク
検出回路
シフト
レジスタ
また,このホトダイオード部の構造の変更により,分光
図4 ホトダイオードの断面構造
ポリシリコン
ゲート
リセット
回路
WRITE-CLK
END
Al
ポリシリコン
ゲート
SiO2
SiN
RESET
READ
-CLK
n+ソース・ドレイン
センサデータ
積分終了回路
出力制御回路
内部
リセット
READ/
WRITE
-CLK
自動積分
終了検出回路
V ref/2
センサ
データ
モニタ
データ
モニタデータ
出力回路
けなくなり,映像データへのノイズが低減している。
センサリセット
モード選択
レジスタ END
した。これにより,基板内で発生するキャリヤの影響を受
感度特性も図5のように変化する。すなわち,基板の深い
増幅回路
サンプル
ホールド
+
ピーク
検出回路
シフト
レジスタ
感度・ピーク
検出選択
AD/
EXTEND
TEST
V ref/2
ほか
モニタ
データ
pウェル-1
nウェル
ホトダイオード
p+ソース・ドレイン pウェル-2
n 基板
(a)アナログタイプ
ポリシリコン
ゲート
Al
ポリシリコン
ゲート
SiO2
SiN
×2
AFDATA
×2
MDATA
nウェル
n+ソース・ドレイン
p+ソース・ドレイン
pウェル
ホトダイオード
n 基板
(b)ディジタルタイプ
図3 センサデータの出力例
図5 分光感度特性
1
左レンズ
右レンズ
アナログ
タイプ
0.8
セ
ン
電サ
圧出
(V)
力
0.7
0.6
左センサ
アレイ
右センサ
アレイ
相対感度
V ref
(2.7V)
0.9
0.5
0.4
0.3
ディジタル
タイプ
0.2
0.1
積分終了
電圧
左センサ
ポジション
右センサ
ポジション
0
400
600
800
波長(nm)
579(35)
富士時報
新構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール
Vol.74 No.10 2001
部分で発生するキャリヤを基板と p ウェル-2の間の接合
図6 従来の AF モジュールと新構造の外形比較
で吸収してしまうため,ディジタルタイプに比べ長波長側
13.6
の光の感度が低下している。
遮光ケース
5.1 新構造パッケージの適用
13.3
新しいモジュール構造の特長
従来の構造を持つ AF モジュール FM6256T36 と新構造
クリアモールド
パッケージを採用した FM6266W37 の外形を比較して図6
に示す。
6.7
9.5
12.8
従来構造の FM6256T36 では,リードフレーム上にダイ
(a)FM6256T36(従来構造)
付けとワイヤリングをした AFIC チップを透明エポキシ
13.6
樹脂で封止して AFIC 単体(クリアモールド)を最初に
製作する。この AFIC 単体に,レンズを接着した遮光ケー
遮光ケース
げる。
一方で今回の FM6266W37 では,従来のクリアモール
14.01
スを一つずつ位置決め接着して AF モジュールとして仕上
透明板
ドに替えて,リード端子をインサート射出成形した樹脂製
センサステージ
のセンサステージに,AFIC チップをダイ付け,ワイヤリ
ングする。透明板をセンサステージに接着した後,透明板
6.4
8.4
13.1
と AFIC の間に透明な封止材を注入して硬化させ,AFIC
(b)FM6266W37(新構造)
単体を製作する。以降は従来と同様に,レンズを接着した
遮光ケースを一つずつ位置決め接着して AF モジュールと
して組み上げる。
図7 従来のクリアモールド IC と新構造 IC の比較
5.2 センサ特性の改良
新構造パッケージによりセンサ特性も改善される。従来
のモールドタイプの IC では,モールド樹脂である透明エ
ポキシ樹脂の AFIC チップへの応力が温度や湿度によっ
て変動し,それがセンサ特性に微妙な影響を及ぼしていた。
(a)FM6256T36
(従来構造)
センサピッチが大きい場合はほとんど問題がないが,セン
(b)FM6266W37
(新構造)
サピッチが縮小するにつれて影響が大きくなる。
FM6266W37 に使用する封止材は構造を支える必要がな
いために柔軟性に富む材料を採用することができ,このた
め AFIC チップには応力がほとんどかからず,特性の変
あとがき
動を生じない。今後狭ピッチ化を進めてより小型で高性能
のモジュールを開発する際には,同様の構造をモジュール
やパッケージに適用していく予定である。
以上,富士電機の新しい構造を採用した小型・高精度
AF モジュールを紹介した。
富士電機では,今後,より高性能,低コストの AF モ
5.3 遮光性の改良
従来,カメラに AF モジュールを搭載する際には,黒色
ジュールを開発し,顧客のニーズに対応した独創性の高い
製品を開発していく所存である。
テープやカメラ内の構造的な仕切りによって,透明なクリ
アモールド部分を完全に遮光する必要があった。FM6266
W37 では, 図7 に示すように従来のクリアモールドに相
当する部分のほとんどは黒色の樹脂で構成されている。AF
モジュールにおいては,遮光ケースと新構造パッケージの
接続部の透明板周辺部のみ,最低限の遮光処理を施せばよ
く,カメラへの組込みの際の工数やスペースの削減に寄与
できる。
580(36)
参考文献
(1) 泉晶雄,西部隆.オートフォーカスモジュール.富士時報.
vol.68,no.7,1995,p.415- 420.
(2 ) 田中誠ほか.MOS アナログセンサを適用したオートフォー
カスモジュール.富士時報.vol.71,no.8,1998,p.445- 447.
(3) 泉晶雄.広角・小型オートフォーカスモジュール.富士時
報.vol.73,no.8,2000,p.462- 465.
富士時報
Vol.74 No.10 2001
ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ
上柳 勝道(うえやなぎ かつみち)
西川 睦雄(にしかわ むつお)
まえがき
植松 克之(うえまつ かつゆき)
ている。
21世紀の自動車用圧力センサにおいては,社会を取り巻
表1 自動車用圧力センサの開発経過
く環境の変化などから,高度なエンジン制御に必要な高精
項 目
度のセンサ,情報化社会の発展による電磁波からの耐性な
ど要求レベルがさらに高まっている。また,自動車のシス
プロセス
テムが高度化してセンサの需要は伸びているのと同時に,
CMOS
2
1
1
1
調整方式
厚膜
トリミング
厚膜
トリミング
薄膜
トリミング
ディジタル
トリミング
機 能
センサ,
増幅器
センサ+
増幅器
センサ+
増幅器+
フィルタ
センサ+
増幅器+
フィルタ
するため,今回,CMOS(Complementary Metal Oxide
Semiconductor)プロセスを用いたディジタルトリミング
バイポーラ
2000年
第四世代
チップ数
低コスト化は加速している。
富士電機はこのような自動車用圧力センサの要求に対応
1992∼
1997年
第三世代
1988年
第二世代
1984年
第一世代
型の圧力センサを開発したので,その概要を紹介する。
表2 自動車用圧力センサ製品の変遷
富士電機における自動車用圧力センサの
項 目
開発経過
∼1985
∼1990
∼1995
∼2000
2001∼
第四世代
+EMI フィルタ
富士電機の自動車用圧力センサの開発経過および製品の
変遷を表1,表2に示す。1984年から自動車のエンジン制
チップ
第三世代
第二世代
御を主体とした第一世代の圧力センサを,バイポーラによ
第一世代
る増幅回路技術およびサージ耐性を生かして製品化を開始
し,その後,ワンチップ化,薄膜トリミング化により現在
パッ
ケージ
に至っている。
樹脂
キャン
今回開発したディジタルトリミング型圧力センサチップ
は,CMOS プロセスを用いて,EPROM(Erasable Pro-
図1 ディジタルトリミング型圧力センサチップ
grammable Read Only Memory)によるディジタルトリ
ミングを行うことにより,以下のメリットが得られる。
(1) 回路の微細化,ウェーハの大口径化により低コスト化
が図られる。
(2 ) 調整精度を高くできる。
(3) 高価なトリミング装置が不要になる。
ディジタルトリミング型圧力センサチップの
特長
図1に今回開発した圧力センサチップを示す。チップ内
部は以下の回路ブロックがすべてワンチップ内に格納され
上柳 勝道
西川 睦雄
植松 克之
半導体加速度センサ・圧力センサ
半導体加速度センサ・圧力センサ
半導体圧力センサの開発・設計に
の開発・設計に従事。現在,松本
の開発・設計に従事。現在,松本
従事。現在,松本工場 IC 部。電
工場 IC 部担当課長。
工場 IC 部。
気学会会員。
581(37)
富士時報
ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ
Vol.74 No.10 2001
(1) ダイアフラム(ひずみを検出するゲージを含む)
ここで,ダイアフラムに圧力が加わると,ホイートストー
(2 ) 温度センサ
ンブリッジを構成するゲージのうち,半径方向に配置され
(3) センサ信号増幅回路
たゲージ抵抗は抵抗値が上がり,接線方向に配置された
(4 ) ディジタルトリミング回路〔DAC(Digital to Analog
ゲージ抵抗は抵抗値が下がる。その結果,ブリッジの出力
には圧力に比例した電圧信号が出力される。
Converter)回路,EPROM 含む〕
(5) EMI(Electromagnetic Interference)フィルタ回路
(6 ) サージ保護素子
4.3 回路設計
図3に回路ブロック図を示す。それぞれの回路における
(7) 過電圧保護回路
これらの構成により自動車用としての圧力センサ性能を
オールインワンチップで確保していることが最大の特長で
機能は次のとおりである。
(1) シフトレジスタ部:外部から EPROM へのディジタ
ル信号を入力する機能
ある。
(2 ) EPROM 部:DA の調整データを保持する機能
設 計
(3) DAC 部(感度,零点):感度,零点を調整する機能
(4 ) DAC 部(温 度 検 出 , 感 度 温 度 特 性 , 零 点 温 度 特
4.1 センサ設計
性):温度センサ,感度温度特性,零点温度特性を調整
表3に従来品との比較で,結晶面,ゲージ配置,ピエゾ
する機能
抵抗係数分布,センサブリッジ出力の計算式を示す。本セ
(5) センサ部:圧力を電圧に変換する機能
ンサでは,CMOS に使用される結晶面(100)のウェーハ
(6 ) 増幅回路部:センサ部から検出された圧力信号を増幅
において,最も高感度の得られる結晶軸〈110〉にゲージ
する機能
を配置した。ここでπ44 は結晶軸および表面不純物濃度
高精度に設計された本回路によって,−40 ∼+ 125 ℃
によって決まるピエゾ抵抗係数,σL は半径方向の応力,
までの全温度範囲において,センサ出力を+
− 0.4%に調整
できる。
σT は接線方向の応力,Vcc はブリッジに印加される電圧
である。
4.4. 耐ノイズ・耐サージ設計
自動車が電磁波の強い場所を走行しても,センサが誤動
4.2 センサ部動作原理
図2に示すように,チップ中心に円形に見える部分の裏
作しないために,電磁波に強いセンサが要求されている。
側は薄く加工されてダイアフラムが形成されており,表面
また,前述の基本回路はすべて過電圧保護回路,フィルタ,
には拡散抵抗によってゲージが形成されている。富士電機
保護素子の内部に位置し,外部からのサージやノイズを分
では従来から結晶面に依存しないダイアフラム加工技術を
離する構成になっている。
用いているため,ダイアフラムの形状は従来と同じである。
この結果,耐ノイズ性能として,G-TEMcel 方式の EMI
図2 センサ部動作原理図
表3 従来品と開発品のゲージ比較
項 目
従来品
開発品
結晶面
P(110)
〔エピタキシャルウェーハ〕
P(100)
R1
R1
R4
R2
R4
R3
σL
σT
ゲージ
配置
R2
〈011〉
R3
〈011〉
〈100〉
〈110〉
図3 回路ブロック図
〈110〉
〈100〉
シフト
レジスタ
ピエゾ
抵抗係数
分布
〈011〉
EPROM部
〈110〉
温度検出部
ブリッジ
出力
π44(σL−σT)/4・V cc
582(38)
π44(σL−σT)/2・V cc
DAC部
感度・零点
DAC部
温度検出
感度温度特性
零点温度特性
VCC
感度調整回路
センサ部
増幅回路
零点調整回路
GND
VOUT
富士時報
ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ
Vol.74 No.10 2001
図4 G-TEMcel 方式による EMI 特性(200 V/m)
図6 樹脂パッケージの一例
100
+1.5%
センサ
チップ
13
ΔV out(mV)
50
ゲル
ガラス
台座
0
ケース
4.25
−50
−1.5%
GND VCC VOUT
−100
0
200
400
600
周波数(MHz)
800
1,000
13
項 目
高温放置試験(150℃)
絶対最大電圧
3.0
2.5
6.8
表4 標準仕様
図5 信頼性変動改善の一例
誤差(%F.S.)
リード
フレーム
対策前
単位
定 格
V max
V
16.5
TstrL
℃
−40
記号
保存温度
2.0
TstrU
℃
150
使用最大圧力(一例)
Pop
kPa
100,200,300
0.5
使用電圧
Vcc
V
5±0.25
0
消費電流
I cc
mA
<10 mA
使用温度
Top
℃
−40∼+125
出力範囲
Vout
V
0.5∼4.5
1.5
対策後
1.0
0
200
400
600
時間(h)
800
1,000
シンク電流
I sink
mA
1
試験において, 図 4 に示すようにケーブル長 30 cm では
ソース電流
I source
mA
0.1
200 V/m での出力変動を 1.5%以下が実現した。また,ケー
圧力誤差(20∼80%)
Vper1
%F.S.
<1.5
圧力誤差(0∼100%)
Vper2
%F.S.
<2.0
温度誤差(0∼85℃)
Vter1
%F.S.
<1.5
T op)
温度誤差( Vter2
%F.S.
<2.0
電源レシオ性(5 V±5%)
Vver
%F.S.
<1.0
ブル長 1.5 m の試験では 100 V/m で+
− 1.5%以下を実現し
た。また,耐サージ性能では,0
Ω -200
pF において,
+
−600 V のサージ耐性を得ることができた。
4.5 信頼性設計
4.5.1 環境信頼性
(1) レイアウト設計
条件と故障率との最適化を図ることで,250 ℃/1,000 h で
本チップでは,ディジタル部におけるデザインルールは
の故障率が 1 ppm 以下であることが確認できた。これは
当社標準のルールを適用しているが,アナログ回路部に関
実仕様温度を 125 ℃と仮定した場合,その温度での連続放
しては,変動要因を抑制する独自のデザインルールを適用
置時間で10年以上に相当する。
した。この結果,変動量を大幅に改善することができた。
図5は改善の一例で高温放置変動による特性が,従来ルー
センサの特性・仕様
ルでは 2.5%に対して,1%以下に改善できた。
(2 ) パッケージ設計
図6にパッケージの一例を示す。ここでは二つの点に考
以上の設計検討結果により得られた製品の標準仕様を表
4に示す。
慮したパッケージ設計を行っている。一つは,センサチッ
プがエンジンオイルミストや噴霧ガソリンなどの圧力媒体
あとがき
に直接接触しないように,チップ表面をゲルで保護してい
る。二つめは,ケースの形状を工夫し,社内や顧客の組立
本稿では自動車用に開発したディジタルトリミング型圧
工程などによってチップにひずみが伝わりにくい構造とし
力センサについて,その設計技術および諸特性について紹
た。
介した。
4.5.2 EPROM 信頼性
EPROM は,品質の高いゲート酸化膜による EPROM
デバイスを用いて素子そのものの信頼性を確保し,書込み
今後は,さらに高精度・高信頼性の圧力センサチップの
技術開発を進めると同時に,自動車用としての高い品質レ
ベルの製品開発に取り組んでいきたいと考えている。
583(39)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
鶴田 芳雄(つるた よしお)
多田 元(ただ げん)
斉藤 俊(さいとう まさる)
まえがき
イスを示す。また, 図 1に要素デバイスの断面図を示す。
ワールドワイド(100 ∼ 240 V)の商用電源入力に耐える
近年,世界的な携帯電子機器の普及拡大に伴い,それら
ため,パワー MOSFET の耐圧は 700 V 保証としている。
に用いられる AC アダプタやバッテリーチャージャなどの
制御回路部は低耐圧 CMOS(Complementary MOS)
,中
電源システムに対する,小型化・軽量化・低消費電力化の
耐圧 CMOS およびバイポーラトランジスタを用い,高精
要求はますます強まっている。これらの電源システムは,
度のアナログ回路を構成している。
これまで個別のパワー MOSFET(Metal Oxide Semicon-
表2にプロセスフローを示す。各要素デバイスの拡散層
ductor Field Effect Transistor) と 電 源 制 御 IC( Inte-
を共通化することで工程を簡略化し,低コスト化を達成し
grated Circuit)を組み合わせて使用されている例が多く,
ている。
上記の対応には十分ではなかった。
富士電機はこのような要求にこたえるため,スイッチン
グ電源用の高耐圧パワー MOSFET と制御 IC を一体化し,
さらに高信頼性を確保できる 700 V ワンチップパワー IC
2.2 新構造パワー MOSFET の特徴
700 V ワンチップパワー IC は,プラスチックパッケー
ジに封止される。プラスチックパッケージ中にはイオン性
の不純物が含まれており,動作時にパワー MOSFET に高
技術を開発した。
本稿では,新規に開発したパワー MOSFET デバイス技
電圧が印加されると,高電圧電極(ドレイン)側には−イ
術,制御回路デバイス技術,およびこれらの技術を適用し
オンが蓄積し,低電圧電極(ソース)側には+イオンが蓄
積する。したがって,パワー MOSFET にはこのようなイ
た製品例について概要を紹介する。
オン蓄積後の状態においても,初期のデバイス特性を維持
デバイス構造と特徴
することが要求される。
さらに,使用環境下においてはプラスチックパッケージ
700 V ワンチップパワー IC を構成するデバイスの構造と
中に水分が浸入するが,高電圧が印加された状態であって
特徴について述べる。
も,その水分によってデバイス特性の劣化や電極の腐食が
2.1 要素デバイスとプロセスフロー
2.2.1 イオンシールドおよび低オン抵抗化技術
おこらないように,高信頼性構造が要求される。
表1 に 700 V ワンチップパワー IC を構成する要素デバ
富士電機では,プラスチックパッケージ中のイオン性不
純物の影響を受けにくい2層メタルフィールドプレート構
(1)
造のデバイスを開発した。
表1 要素デバイス
分 類
図2に従来構造(1層メタル)でのイオン蓄積後の電界
デバイス名称
耐圧(V)
分布を,図3に新構造(2層メタル)でのイオン蓄積後の
LVNMOS
7
LVPMOS
7
MVNMOS
30
MVPMOS
30
の間隔を広くとる必要があった。この構造では,初期耐圧
npn トランジスタ
30
は 700 V 以上あるものの,イオン蓄積後はソース電極側に
pnp トランジスタ
30
電界分布を示す。
低耐圧 CMOS
従来構造は1層メタル構造であり,初期状態(イオン蓄
積前)の耐圧を確保するためにソース電極とドレイン電極
中耐圧 CMOS
バイポーラ
トランジスタ
高耐圧デバイス
584(40)
パワー MOS
蓄積した+イオンとドレイン電極側に蓄積した−イオンの
700
影響で電界分布が不均一になる。その結果,イオン蓄積後
鶴田 芳雄
多田 元
斉藤 俊
CMOSIC のプロセス・デバイス
高耐圧 IC のプロセス・デバイス
高耐圧 IC のプロセス・デバイス
開発に従事。現在,松本工場 IC
開発に従事。現在,松本工場 IC
開発に従事。現在,松本工場 IC
開発部マネージャー。
開発部。
開発部。
富士時報
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
図1 要素デバイス断面図
2層目メタル
1層目メタル
D
S
G
n
+
n+
n−(nウェル-1)
p−
n−
(nウェル-2)
パワーMOS
(a)パワーMOSデバイス
S
S
D
G
n+
S
D
D
n+
p+
−
S
D
G
G
p+
n+
−
p
p
n
LVNMOS
LVPMOS
G
n+
−
n
p+
−
−
p
n
p+
p
−
MVNMOS
MVPMOS
(b)低耐圧CMOSおよび中耐圧CMOSデバイス
C
E
n+
n+
p
B
C
E
B
p+
p+
p+
n+
n−
p−
n−
npnトランジスタ
p−
pnpトランジスタ
(c)バイポーラデバイス
表2 プロセスフロー
デバイス
低耐圧 CMOS
中耐圧 CMOS
バイポーラトランジスタ
パワー MOSFET
プロセス
p ウェル拡散
NMOS
PMOS
○
NMOS
PMOS
npn トランジスタ
○
pnp トランジスタ
○
○
n ウェル-1拡散
○
○
○
○
○
○
n ウェル-2拡散
○
○
○
○
○
○
○
○
ベース拡散
フィールド酸化膜形成
○
○
○
○
○
○
○
ゲート電極形成
○
○
○
○
○
○
○
ソース・ドレイン形成
○
○
○
○
○
○
○
コンタクト形成
○
○
○
○
○
○
○
1層目メタル形成
○
○
○
○
○
○
○
ビア形成
○
2層目メタル形成
○
の耐圧は 640 V 程度に低下する。さらに,オン状態でのド
した構造である。2層目メタルの下には厚い層間膜を形成
レイン電流もイオンの影響を受けて変動することが分かっ
してあるので,ソース電極側とドレイン電極側の2層目メ
ている。
タルの間隔を狭くしても初期耐圧を 700 V 以上に確保する
これらの問題を解決するために,富士電機では独自の2
ことができる。2層目メタルの間隔を狭くできたことによ
層メタルフィールドプレート構造を開発した。2層メタル
り,高電圧印加後のイオン蓄積状態であっても,デバイス
フィールドプレート構造は,従来の1層目メタル(1st
表面がイオンの影響を受けにくくなり,初期状態の耐圧や
Metal)に2層目メタル(2nd Metal)を接続し,2層目
ドレイン電流特性を維持できる。
メタルをソース電極側とドレイン電極側から内側に張り出
図4に耐圧とドレイン拡散層(n ウェル-1)濃度との関
585(41)
富士時報
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
図2 従来構造(1 層メタル)でのイオン蓄積後電界分布
モールド樹脂
図5 新構造パワー MOSFET の出力波形
VG = 5 V
不純物イオン
+ + +
VG = 4 V
− − −
p
+
SiO
G
S
D
+
n
n
pウェル
+
nウェル-2
ブレイクダウンポイント(640 V)
nウェル-1
電流(100 mA/div)
SiN
VG = 3 V
VG = 2 V
等電位線
p基板
電圧(1 V/div)
図3 新構造(2 層メタル)でのイオン蓄積後電界分布
図6 新構造パワー MOSFET の耐圧波形
モールド樹脂
p
SiO
D
2層目メタル
+
n
n
pウェル
nウェル-1
+
nウェル-2
電流(20 μA/div)
G
S
+
不純物イオン
+ + +
− − −
SiN
等電位線
ブレイクダウンポイント(760 V)
p基板
電圧(100 V/div)
図4 耐圧とドレイン拡散層濃度の関係
900
2.2.2 高信頼性化技術
新構造
700 V ワンチップパワー IC に内蔵されるパワー MOS
BV ds(V)
800
FET には高電圧がかかるため,特に耐湿性が要求される。
従来構造
700
プラスチックパッケージを通して水分がデバイス内部に浸
入すると,電気的特性の変動(しきい値電圧の低下)やア
600
ルミ配線の腐食を引き起こすので,湿気に対して保護する
500
必要がある。その保護の手段として,富士電機では専用の
400
0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0 2.2
nウェル-1ドーズ量(1012cm−2)
平たん化プロセスを開発し,本デバイスに適用した。
2.4
コンタクト部やアルミ配線端部などの段差が発生する箇
所では,そのまま最終保護膜(パッシベーション膜)を形
成すると被覆が不完全な形状となり,そこが水分浸入経路
係を示す。2層メタルフィールドプレート構造とすること
となる。そこで,最終保護膜形成前に段差を吸収する平た
で従来構造よりも電界緩和された結果,ドレイン拡散層を
ん化プロセス(図7)を適用し,最終保護膜の段差形状を
高濃度にしても耐圧を確保できるようになった。その結果,
従来構造よりもオン抵抗を低減することが可能となり,単
(592 ページの「解説」
位面積あたりオン抵抗(Ron × A)
改善した。その結果,耐湿性を評価する高温高湿印加試験
(85 ℃,85 %,700 V 印加)において 5,000 時間以上の高
。
信頼性を達成した(図8)
2
参照)で 26 Ω・mm を達成することができた。
図5に新構造パワー MOSFET の出力波形を,図6に耐
圧波形を示す。
以上の技術によって,低オン抵抗で耐圧マージンのある
デバイスとすることができた。
586(42)
2.3 制御回路部デバイスの特徴
制御回路部は,低耐圧デバイスおよび中耐圧デバイスか
ら構成されており,デザインルールに1μmルールを適用
することにより,チップサイズの縮小および高精度化を実
富士時報
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
図7 平たん化プロセス適用構造
図9 製品適用例(FA5701P)
(2 ) パルスバイパルス電流制限
(3) 過負荷保護,過熱保護,低電圧保護など各種保護機能
の充実
図8 高温高湿印加試験結果
(4 ) 外部設定可能なソフトスタート回路の内蔵
900
(5) CMOS プロセスによる低消費電力化
800
(6 ) パッケージは標準外形の DIP(Dual In-line Package)
BV(V)
700
を使用
600
500
あとがき
400
300
200
スイッチング電源用高耐圧パワー MOSFET と,制御
100
0
0
1,000
2,000
3,000
時間(h)
4,000
5,000
IC を一体化した 700 V ワンチップパワー IC 技術について
紹介した。
富士電機では,この技術を用いて,小電力 AC アダプタ
用電源 IC(本特集号の別稿にて紹介)や,バッテリー
現した。制御回路に用いられる抵抗は,低温度係数ポリシ
チャージャ用電源 IC を開発している。今後とも,小型・
(2 )
リコン抵抗 を採用している。この抵抗は,−20 ∼+125 ℃
軽量・低消費電力化の市場要求にこたえるべく,特長ある
にわたって温度係数が 100 ppm/℃以下であり,温度に対
技術開発を行い,社会に貢献していく所存である。
しても高性能な回路を構成可能としている。さらに,制御
回路部の中で大きな面積を占めていた抵抗部分の面積も,
本抵抗を用いることで,従来(拡散抵抗使用)の 40 %に
縮小することができた。
参考文献
(1) Fujishima, N. et al.A 700V Lateral Power MOSFET
with Narrow Gap Double Metal Field Plates Realizing
Low On-resistance and Long-term Stability of Perform-
2.4 製品適用例
ance.Proceedings of ISPSD’01.2001,p.255- 258.
本デバイス技術を用いて,スイッチング電源用ワンチッ
(2 ) 北村明夫,佐々木修.アナログ C/DMOS デバイス・プロ
( 3)
プパワー IC「FA5701P」を開発した。 図9 にチップ写真
を示す。
本 IC の特徴は次のとおりである。
セス技術.富士時報.vol.73,no.8,2000,p.456- 459.
(3) 佐藤満,多田元.700 V 耐圧電源用パワー IC.電子技術.
vol.43,no.5,2001,p.114- 115.
(1) 安定度,高速応答に優れている電流モード制御を採用
587(43)
富士時報
Vol.74 No.10 2001
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
杉 祥夫(すぎ あきお)
澤田 睦美(さわだ むつみ)
藤島 直人(ふじしま なおと)
まえがき
図1 プレーナ型 LDMOS
インターネットなどの情報化社会の本格的到来によって,
ソース
携帯電子機器や情報通信機器の小型・軽量化,低消費電力
チャ
ネル
n−ドレイン
ドレイン
G
化および高効率化の要求が高まっており,これら電子機器
B
のスイッチング電源やパネルドライバに用いられる高耐圧
p
パワー IC(Integrated Circuit)が今後ますます重要な部
S
+
n
D
+
n+
n−ドレイン
pベース
品の一つとなっている。
p−基板
富士電機ではこれまでに,1 μm ルール高耐圧・低オン
pチャネル
抵抗パワー IC 技術を開発し,ノートパソコンや携帯電子
機 器 の DC-DC コ ン バ ー タ IC, PDP( Plasma Display
決するために,これまで Si トレンチ技術を用いた横型
Panel)ドライバ IC などの製品化を行ってきた。
パワー IC に集積されるスイッチング素子として,高速
MOS が提案されている。例えば,チャネル部にトレンチ
で 低 損 失 を 特 徴 と す る 横 型 パ ワ ー MOS( Metal Oxide
を形成してチャネル幅を増大する構造,あるいは n−ドレ
Semiconductor)が一般に用いられており,要求される素
イン領域にトレンチを形成してデバイスピッチを縮小する
子耐圧は携帯電子機器やパソコン周辺機器では 10 ∼ 60 V
構造などが提案されていたが,いずれも集積度向上におい
( 3)
(4 )
(1)
て限界があった。これに対し,富士電機では,トレンチ側
程度,PDP では 100V 前後である。
今後,市場ニーズにこたえるためには,主スイッチであ
壁にチャネルと n−ドレイン領域を形成し,デバイスピッ
るパワー MOS のさらなる低オン抵抗化と高集積化を行う
チを縮小することでチャネル幅密度を向上した低オン抵抗
必要があり,集積度改善のためには,トレンチ(溝)技術
ト レ ン チ 横 型 パ ワ ー MOS( TLPM: Trench Lateral
を適用し,シリコン(Si)基板への立体的な素子形成を行
Power MOS)を提案した。これまでに,図2に示すドレ
うアプローチが注目されている。しかし,トレンチ内部に
インコンタクトをトレンチ底面に持つ TLPM(TLPM/D)
横型素子を形成する場合,電極取出しなどの点で困難な課
を開発しているが,TLPM/D ではゲート - ドレイン間の
題があった。
帰還容量がゲート
今回,富士電機では,トレンチ内部に素子を形成した次
ト
-
-
n− ドレイン間(Cgd1)に加えてゲー
ドレインポリシリコン間(Cgd2)にも形成されるた
( 5)
世代の高集積度・低オン抵抗横型パワー MOS を開発した
め,スイッチングの高速化が難しかった。
ので紹介する。
TLPM/S のデバイス構造とプロセスフロー
従来の低オン抵抗横型パワー MOS
3.1 TLPM/S のデバイス構造
富士電機ではこれまでに, 図1 に示すような 60 V 級プ
これらの課題を解決し,低オン抵抗化とスイッチング特
レーナ型 LDMOS(Lateral Double Diffused MOS)を内
性の改善を行うために,ソースコンタクトをトレンチ底面
(2 )
蔵するパワー IC 技術を開発し,製品に適用してきた。こ
に持つ TLPM(TLPM/S)を開発した。
(6 )
( 7)
のような従来型のプレーナ型 LDMOS では高耐圧に必要
TLPM/S の断面構造を 図3 に示す。TLPM/S は2段の
な高抵抗 n− ドレイン領域が横方向に形成されるので,高
トレンチ構造をとり,ソース電極とドレイン電極の位置関
集積化と低オン抵抗化の妨げとなっていた。この問題を解
係は TLPM/D の場合とは逆になっている。したがって,
杉 祥夫
澤田 睦美
藤島 直人
高耐圧パワー IC のプロセス・デ
高耐圧パワー IC のプロセス・デ
高耐圧パワー IC のプロセス・デ
バイス研究開発に従事。現在,
バイス研究開発に従事。現在,
バイス研究開発に従事。現在,
(株)
富士電機総合研究所デバイス
(株)
富士電機総合研究所デバイス
(株)
富士電機総合研究所デバイス
技術研究所。
588(44)
技術研究所。
技術研究所グループマネージャー。
富士時報
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
帰還容量はゲート - n−ドレイン間の Cgd3 にほぼ等しくな
ように基板全体にわたって厚い酸化膜を形成する。続いて,
り,TLPM/D の場合(Cgd1+Cgd2)に比べて低く抑えられ
図4
のように異方性エッチングによりトレンチ底面の酸
(c)
ている。また,チャネル長を 0.6 μm 程度とすることで,
化膜をエッチングし,トレンチ側壁と表面に残した酸化膜
当社従来 LDMOS(チャネル長 1.0 μm 程度)に比べてゲー
(d)
に示す
をマスクにして第2トレンチを掘る。さらに図4
ト入力容量が低減し,高速スイッチングを実現している。
ようにゲート酸化膜をトレンチ内部に形成した後,ポリシ
リコンの形成と異方性エッチングによりゲート電極を形成
する。そしてゲート電極と酸化膜をマスクにして p ベー
3.2 TLPM/S のプロセスフロー
(f )
TLPM/S のプロセスフローを 図 4
∼
に示す。まず
(a)
ス領域とソース領域を二重拡散で形成する。続いて, 図
図4
に示すように,トレンチを掘った p 基板に n 型ウェ
(a)
4
(f )
のように層間絶縁膜を形成する。最後に,図4
に示
(e)
ル領域を作り,トレンチ表面から p−ボディ領域と n−ドレ
すように酸化膜異方性エッチングによるトレンチ底面への
(b)
の
イン領域を斜めイオン注入で形成する。その後,図4
ソースコンタクトの形成,トレンチ内部へのソースポリシ
−
リコンの形成と平たん化,コンタクトホールの形成,およ
図2 TLPM/D の断面構造
図3 TLPM/S の断面構造
D
ドレインポリシリコン
S
S
p+
S
ソースポリシリコン
D
n+
D
C gd2
pベース
酸化膜
チャネル
n+
−
ゲート
ポリ
シリコン
n
ウェル
n−
ドレイン
C gd1
酸化膜
+
n ドレイン
ゲート
ポリ
シリコン
n−ドレイン
p−ボディ
C gd3
n−
ドレイン
−
n
ドレイン
p−ボディ
チャネル
n+ソース
pベース
p−基板
p−基板
図4 TLPM/S のプロセスフロー
第2トレンチ
酸化膜
−
−
n
ウェル
−
n
ウェル
n
ウェル
n−ドレイン
p−ボディ
p−基板
p−基板
(a)
p−基板
(b)
酸化膜
−
n
ウェル
n+ソース
pベース
p−基板
D
n−
ドレイン
−
p ボディ
n+ソース
pベース
n+ソース
pベース
p−基板
(d)
S
D
n−
ウェル
n−
ドレイン
p−ボディ
n−
ドレイン
p−ボディ
(c)
n+
−
n
ウェル
n−
ドレイン
p−ボディ
n−ドレイン
p−ボディ
p−基板
(e)
(f)
589(45)
富士時報
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
び電極形成を行う。
図6 TLPM/S のオン抵抗と耐圧
このプロセスでは,トレンチ側壁にゲートおよびソース
120
電極を自己整合的に形成するため,ホトリソグラフィによ
R on×A(mΩ・mm2)
るマスク合わせマージンが不要であり,デバイスピッチを
最小にできる利点がある。
TLPM/S の特長
4.1 試作結果
今回試作した TLPM/S は 0.6 μm ルール CMOS(Com-
100
80
実測
60
40
シミュレーション
20
0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
n−ドレイン領域のドーズ量(1013/cm2)
plementary MOS)プロセスをベースとしている。試作し
た TLPM/S の断面 TEM(透過型電子顕微鏡)写真を 図
(a)オン抵抗
5 に示す。60 ∼ 100 V の素子耐圧を目標とし,第 1 トレ
120
ンチ幅 5.0 μm,第 1 トレンチ深さ 4.0 μm,第 2 トレンチ
深さ 1.2 μm のトレンチ形状において,第 1 トレンチ側壁
100
BV dss(V)
の酸化膜,第 2 トレンチ側壁のゲート酸化膜およびゲート
ポリシリコン,さらにプラグとしてのソースポリシリコン
を形成している。
4.2 DC 特性
80
60
実測
40
20
TLPM/S のオン抵抗と耐圧のトレードオフについて述
0
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6
n−ドレイン領域のドーズ量(1013/cm2)
(b)
,
に n− ドレイン領域のドーズ量に対する
べる。 図6
(a)
オン抵抗と耐圧の依存性の実測結果(実線)を示す。オン
(b)耐圧
抵抗は,n− ドレイン領域のドーズ量の増大とともに減少
する。これは,n− ドレイン領域の濃度が上昇することで,
オン抵抗の大半を占める n− ドレイン領域の抵抗が減少す
図7 試作素子の I -V 特性(実測)
−
るためである。また,耐圧についても n ドレイン領域の
ドーズ量の増大とともに減少するが,これは n− ドレイン
も電界集中を生じてしまうためである。
(b)
,
に試作素子の I -V 特性を示す。こ
さらに, 図7
(a)
こでは,デバイスピッチ 3.0 μm,チャネル幅 40 μm,お
よび n−ドレイン領域の不純物ドーズ量 7 × 1012 cm−2 のデ
バイスの特性を示す。駆動電圧 Vgs=20 V およびドレイ
ン
-
電流(1 mA/div)
領域に空乏層が広がりにくくなり,ドレイン電圧が低くて
ソース間電圧 Vds=1 V では Ids=1.9 mA を得た。これ
電圧(500 mV/div)
(a)オン状態
図5 試作素子の断面 TEM 写真
ソース
(金属電極)
電流(1 μA/div)
ドレイン
(金属電極)
酸化膜
ソース
(ポリシリコン)
ゲート
(ポリシリコン)
ゲート
(酸化膜)
590(46)
1.0 μm
電圧(10 V/div)
(b)オフ状態
富士時報
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
図8 TLPM/S のシミュレーション解析
図9 ゲートチャージ特性のシミュレーション結果
V gs
G
LP
M
/D
24
TLPM/D
12
1
0
0
高電流
密度領域
p−基板
V ds(V)
S
TL
PM
LD
従
来
36
T
社
2
48
当
3
TLPM/S
V gs(V)
Vgs = 20 V
Vds = 1 V
n−
ドレイン
V
4
ds
S
LDMO
当社従来
S
60
/S
5
MO
D
2
0
6
4
Q g(×10−14C)
p ベース
(a)電流密度分布(オン状態)
図10 耐圧とオン抵抗のトレードオフ
140
当社従来LDMOS
S
D
120
R on×A(mΩ・mm2)
他社プレーナLDMOS
G
n−
ドレイン
Vgs = 0 V
Vds = 73 V
p ベース
100
TLPM/S(実測)
80
60
40
TLPM/S(シミュレーション)
20
p−基板
(b)ポテンシャル分布(オフ状態)
0
0
20
40
60
耐圧(V)
80
100
は,面積抵抗率 Ron×A=62.0 mΩ・mm2 に相当する。また
濃度とゲート酸化膜厚を調整した。このようにゲート電圧
耐圧は 72 V である。
が 5 V に達するまでに必要なゲートチャージ量は TLPM/
−
なお,側壁角度や n ドレインイオン注入条件の最適化
S が最も少なかった。これは,TLPM/S では TLPM/D に
により,耐圧とオン抵抗のトレードオフが改善することを
比べて帰還容量が低く,また当社従来 LDMOS に比べて
に示
シミュレーションで確認しており,その結果を図6
(a)
ゲート入力容量が低く抑えられていることによる。これら
2
す(点線)
。耐圧 72 V において Ron×A=53 mΩ・mm に
の結果から,TLPM/S はスイッチング特性に優れている
低減できる。
ことが分かる。
次に,TLPM/S のシミュレーションによる解析結果を
述べる。ここでは,73 V 耐圧の TLPM/S のオン状態の電
あとがき
(b)
,
に
流密度分布とオフ状態のポテンシャル分布を図8
(a)
示す。オン状態において,電流はドレインからソースに向
本稿では次世代パワー IC に集積する低オン抵抗 TLPM/
かいトレンチ側壁に沿って流れている。また,オフ状態で
S について試作,評価結果を述べた。図10に示すように,
は,空乏層は n− ドレインから p− 基板に広がるが,pベー
TLPM/S では当社従来 LDMOS に比べ耐圧とオン抵抗の
スによりパンチスルーが回避されていることが分かる。
トレードオフが大幅に改善した。さらにゲートチャージ特
性においても,TLPM/S は TLPM/D や当社従来 LDMOS
4.3 ゲートチャージ特性
に比べ,スイッチング特性が優れていることを示した。今
TLPM/S のスイッチング特性を評価するためにゲート
後は,低耐圧 CMOS と TLPM との一体化プロセスの開発
チャージ特性のシミュレーションを行った。その結果を図
を行い,部品点数,信頼性,消費電力などの点においてさ
9 に示す。ここでは,TLPM/S,TLPM/D および当社従
らにメリットの出せる低オン抵抗パワー IC を実現し,携
来 LDMOS について比較を行った。これら三つの MOS お
帯用電子機器の電源 IC や PDP ドライバ IC に適用してい
のおののしきい値電圧が 1.0 V 程度になるようにチャネル
く所存である。
591(47)
富士時報
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
Vol.74 No.10 2001
(5) Fujishima, N. ; Salama, C. A. T.A trench lateral power
参考文献
MOSFET using self-aligned trench bottom contact holes.
(1) 北村明夫,佐々木修.アナログ C/DMOS デバイス・プロ
IEDM Tech. Dig.1997,p.359- 362.
(6 ) Fujishima, N. et al.A High Density, Low On-resist-
セス技術.富士時報.vol.73,no.8,2000,p.456- 459.
(2 ) 多田元,北村明夫.高耐圧 IC プロセス技術.富士時報.
vol.69,no.8,1996,p.410- 416.
ance, Trench Lateral Power MOSFET with a Trench
Bottom Source Contact. Proceedings of ISPSD. 2001,
(3) Nakagawa, A. ; Kawaguchi, Y.Improved 20 V Lateral
p.143- 146.
(7) 杉祥夫ほか.トレンチ底面にソースコンタクトのある高集
Trench Gate Power MOSFETs with Very Low On2
resistance of 7.8 mΩ・mm .ISPSD,2000,p.47- 50.
積低オン抵抗トレンチ横型パワー MOSFET.電気学会電
(4 ) Zitouni, M. et al. A New Concept for the Lateral
子・情報・システム部門大会講演論文集.no.1,2001,p.271-
DMOS Transistor for Smart Power IC’
s.Proceedings of
274.
ISPSD,1999,p.143- 146.
解 説
単位面積あたりオン抵抗(Ron × A)
パ ワ ー MOSFET( Metal Oxide Semiconductor
Field Effect Transistor)のパフォーマンスを示す指標
同じ耐圧でいかに Ron×A を小さくできるかは,各社
のデバイス技術の腕の見せどころである。
の一つに,単位面積あたりオン抵抗(Ron×A)がある。
5 Ω品をつくる場合は 40 Ω・mm2/5 Ω=8 mm2 の面積
R on=5 Ω品がほしい
2
が必要となるが,Ron×A=30 Ω・mm のパワー MOS
2
FET で 5 Ω品をつくるときは 30 Ω・mm /5 Ω=6 mm
2
の面積で済むことになる。
このように,単位面積あたりオン抵抗の低減は,チッ
プ面積を低減し低コスト化するために必要であり,パ
ワー MOSFET デバイス開発の指標の一つとなってい
る。一般的には,高耐圧になるほど Ron×A は大きく
なり,低耐圧になるほど Ron×A を小さくできるが,
592(48)
R on×A
=30 Ω・mm2 では
R on×A
=40 Ω・mm2 では
6 mm2
8 mm2
R on×A(Ω・mm2)
例えば,Ron×A=40 Ω・mm2 のパワー MOSFET で
100
10
1
0.1
10
100
耐圧(V)
1,000
R on × A と耐圧の関係
富士時報
Vol.74 No.10 2001
最近の学会発表
EPE 2001
(9th European Conference on Power Electronics and Applications)
電力変換技術,デバイス技術とアプリケーション,
発表の様子
さらには教育に至るまで多岐にわたる分野を網羅した
ヨーロッパ最大のパワーエレクトロニクス関連国際会
議である EPE 2001(9th European Conference on
Power Electronics and Applications)が,2001年8
月 27日 か ら 29日 ま で オ ー ス ト リ ア ・ グ ラ ー ツ の
“Grazer Congress”にて開催された(欧州にて隔年
で開催)
。
発表論文はヨーロッパを中心に日本・アジア,アメ
リカを含め世界54か国から,120 件の Lecture Session と 426 件の Dialogue Session の合計 546 件あり,
両セッションともに 4 から6のパラレルセッション形
式で盛大に開催された。
日本からの発表論文はドイツ,フランス,スペイン
に次いで 4 番目の39件(全体の 7%)あり,そのうち
富士電機グループからは 2 件(電源関連が1件,ドラ
イブ関連が 1 件)であった。
で運転するセンサレス運転技術,およびトルク制御技
まず,大熊康浩〔
(株)
富士電機総合研究所〕の“A
術を中心とした発表であった。埋込磁石構造永久磁石
Novel PWM Control AC Chopper Circuit Based on
形同期電動機は誘導電動機と比べて小型,軽量,高効
DC-Clamped Bilateral Switching Circuit Topology
率であるという特長があり,近年,エアコンやファ
and Its Typical Applications”は,独自の回路技術
ン・ポンプなどを中心に適用が進んでいる電動機であ
による双方向スイッチを用いない交流チョッパ回路の
る。従来のセンサレス運転方式は始動トルクが小さく
動作原理と製品適用事例に関する発表であった。従来
加速時間を短くできないという問題があった。しかし,
の PWM 制御による交流チョッパ回路は,交流電圧
発表した方式は零速度を含めた全速度領域で定格トル
を直接変換するために双方向スイッチという特殊な半
クの 150%以上のトルクを出力できるため,零速度か
導体スイッチが必要であった。これに対して,論文で
ら基底速度までの加速時間を 0.5 秒までに短縮可能な
は双方向スイッチを用いずに通常のインバータで使用
加速性能を実現した点に大きな注目を集めた。また,
する 6 アームブリッジ構成の回路で直流中間を介さず
従来,埋込磁石構造永久磁石形同期電動機は電流とト
に電源電圧の昇降圧動作を実現した点が技術的な特長
ルクの関係が複雑であることから正確なトルク制御が
となる。出力電圧指令に対する入力電圧の大小により,
困難であったが,富士電機独自のトルク制御方式によ
入力または出力の 4 アームを商用同期でオンオフさせ,
り定格運転時のトルク制御誤差3%以下という高精度
残る 2 アームを高周波(16 kHz)の PWM スイッチ
を実現できた点を評価された。
ングさせることで,交流電源電圧の昇降圧動作を直接
また,この会議を特徴づける技術の流れの一つとし
変換で実現する。この動作原理については,その独創
て,大熊の発表にもあった直接変換技術が挙げられる。
的な考え方や実現するためのスイッチングシーケンス
特に,可変速インバータへの展開が期待されるマト
の工夫,スナバ方式に関して注目を集めた。さらに,
リックスコンバータは一つのトレンドとして回路構成
製品適用事例としてあげた交流電圧調整装置のうち,
から制御に至るまで数多く発表されていた。さらに,
直並列形の変換装置である節電装置「省エネ名人」に
このような技術に必要不可欠な逆阻止能力を持った新
ついては,定格時 98.8%と非常に高い変換効率を達成
しい IGBT の発表もあり,大学を含めてトップ企業間
した点と節電を目的としたフィールドテストの結果に
での競争が激化していく印象を受けるとともに,今後,
対して,エネルギー有効利用の観点からヨーロッパに
直接変換を中心とした技術革新が富士電機を含めて加
おいても非常に高い評価を得た。
速するものと期待される。
次 に , 野 村 尚 史 〔( 株 )富 士 電 機 総 合 研 究 所〕 の
最後に,今回発表した 2 件の論文は,富士電機のパ
“Position-Sensorless Drive of the Interior Permanent
ワーエレクトロニクス製品の一翼を担って種々の製品
Magnet Synchronous Motor for Wide Speed Range”
へ展開される技術であり,今後はこのような技術をは
は埋込磁石構造永久磁石形同期電動機の制御技術に関
じめとするより高いレベルの技術開発と社会に貢献す
する発表であり,位置センサと速度センサを使わない
る製品開発を進めていく所存である。
593(49)
カンパニー別営業品目
電機システムカンパニー
情報・通信・制御システム,水処理・計測システム,電力システム,放射線管理システム,FA・物流システム,環境シス
テム,電動力応用システム,産業用電源,車両用電機品,クリーンルーム設備,レーザ機器,ビジョン機器,電力量計,
変電システム,火力機器,水力機器,原子力機器,省エネルギーシステム,新エネルギーシステム
機器・制御カンパニー
電磁開閉器,操作表示機器,制御リレー,タイマ,ガス関連機器,配線用遮断器,漏電遮断器,限流ヒューズ,高圧受配
電機器,汎用モールド変圧器,電力制御機器,電力監視機器,交流電力調整器,検出用スイッチ,プログラマブルコント
ローラ,プログラマブル操作表示器,多重伝送機器,インダクションモータ,同期モータ,ギヤードモータ,ブレーキモー
タ,ファン,ポンプ,ブロワ,汎用インバータ,サーボシステム,加熱用インバータ,UPS,ミニ UPS
電子カンパニー
磁気記録媒体,パワートランジスタ,パワーモジュール,スマートパワーデバイス,整流ダイオード,モノリシック IC,
ハイブリッド IC,半導体センサ,サージアブソーバ,感光体およびその周辺装置
流通機器システムカンパニー
自動販売機,コインメカニズム,紙幣識別装置,貨幣処理システム,飲料ディスペンサ,自動給茶機,冷凍冷蔵ショーケー
ス,ホテルベンダシステム,カードシステム
富 士 時 報
第
74
巻
第
10
号
平 成
平 成
13 年 9 月 30 日
13 年 10 月 10 日
印 刷
発 行
定価 525 円 (本体 500 円・送料別)
編集兼発行人
高
発
行
所
富
社
室
〒141 - 0032 東 京 都 品 川 区 大 崎 一 丁 目 1 1 番 2 号
(ゲートシティ大崎イーストタワー)
編
集
室
富士電機情報サービス株式会社内
「富士時報」編集室
〒151 -0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号
(新宿コヤマビル)
電 話(03)5388 − 7826
FAX(03)5388 − 7369
印
刷
所
富士電機情報サービス株式会社
〒151 - 0053 東京都渋谷区代々木四丁目 30 番 3 号
(新宿コヤマビル)
井
士
電
明
機
技
株
術
式
企
会
画
電 話(03)5388 − 8241
発
売
元
株 式 会 社
オ
ー
ム
社
〒101 - 8460 東京都千代田区神田錦町三丁目 1 番地
電 話(03)3233 − 0641
振替口座 東京 6−20018
2001
Fuji Electric Co., Ltd., Printed in Japan(禁無断転載)
594(50)
富士時報論文抄録
富士電機の IC の現状と展望
CMOS 力率制御用電源 IC
古森 敏夫
鹿島 雅人
富士時報
Vol.74 No.10 p.547-550(2001)
富士時報
城山 博伸
Vol.74 No.10 p.551-553(2001)
富士電機は高耐圧アナログ CMOSIC 技術をコアとして,電源 IC
近年,電子機器で広く用いられている直流電圧を作り出すための
を中心に製品展開を図っている。また,優れた高耐圧技術の一環と
コンデンサ入力型の整流回路における高調波電流の発生と,それに
して PDP ドライバ用 IC も手がけている。一方,インテリジェント
伴う力率の悪化が問題となり,法的な規制を実施する動きもでてき
な機能を取り入れたセンサ IC にも特長があり,カメラ用オート
ている。その対策としてはアクティブフィルタ方式が広く使われて
フォーカス(AF)IC や自動車用圧力センサを展開している。本稿
いる。富士電機では,アクティブフィルタ制御用 IC として今回新
では,電源 IC の新製品を中心に,新しく開発した高信頼性 700 V
たにピーク電流モード制御 IC を開発したのでその概要を紹介する。
ワンチップパワー IC 技術や新構造 AF モジュール,PDP ドライバ
IC など富士電機の特長ある製品,技術の概要を紹介する。
小電力 AC アダプタ用電源 IC
汎用 2 チャネル DC-DC コンバータ IC
片山 靖
野村 一郎
富士時報
Vol.74 No.10 p.554-556(2001)
富士時報
米田 保
Vol.74 No.10 p.557-560(2001)
近年,AC アダプタに対して,小型化,軽量化,低価格化,低待
携帯電子機器では高機能化に伴う消費電力増大の一方,連続動作
機電力化といった要求がなされている。このような要求に対し,富
の長時間化と軽量化の要求があるため,小型・高効率を特長とする
士電機では 700 V 耐圧パワー MOSFET と PWM 制御回路をワン
電源である DC-DC コンバータの用途が従来以上に広がりつつある。
チップ化したスイッチング電源制御用パワー IC の開発および製品
富士電機ではこの要求にこたえ,電源の小型・高効率に適した
化を行っている。本稿では,5 W クラス小電力 AC アダプタへの適
CMOS 型の2チャネル DC-DC コンバータ IC(4型式)を開発し
用を目的として開発した IC について概要を紹介する。本 IC は,回
た。電源入力 2.5 ∼ 18 V,周波数 50 kHz ∼ 1 MHz の広い動作範囲,
路の大幅な低消費電流化や最適化により 200 μA(動作時)の低消
MOSFET 直結駆動および 1.7 mA の低消費電流を実現し,2∼ 3 W
費電流を実現している。
出力の電源に適用した例では,約 82 ∼ 90%の高効率を達成した。
LCD パネル用電源 IC
チャージポンプ型昇圧コンバータ IC
山田谷 政幸
吉田 豊
富士時報
Vol.74 No.10 p.561-563(2001)
富士時報
荒井 裕久
Vol.74 No.10 p.564-566(2001)
電子機器の表示装置の主流は LCD になってきている。この LCD
近年,普及が急速に進んでいる PDA や携帯電話などの携帯電子
パネルの駆動に必要な電圧構成および電源シーケンスはパネルメー
機器において,搭載するアナログ IC や無線通信部品のために,ノ
カーや種類により異なっているのが実情である。また,電源回路の
イズの少ない,低消費電力化した小型の昇圧電源が必要となる。こ
小型化を実現するため高い周波数での動作が求められている。富士
のような市場要求に応じ,富士電機では昇圧を行うチャージポンプ
電機ではこれらに対応するため,従来の LCD パネル用電源 IC に
回路とスイッチング動作で生じるリプルを抑えるシリーズレギュレー
加え新たに3出力の「FA3686V」および 2 出力の「FA3687V」を
タをワンチップに集積したチャージポンプ型昇圧コンバータ IC を
開発したのでその概要を紹介する。
開発した。本稿ではこの IC の概要を説明する。
白色 LED 駆動用電源 IC
充電機能内蔵携帯電話用電源 IC
加茂 宏明
荒井 裕久
富士時報
佐野 功
Vol.74 No.10 p.567-569(2001)
携帯機器の表示パネルに使用される白色 LED 駆動用 IC として,
DC-DC コンバータ IC を開発した。昇圧動作時,電池電圧から最
富士時報
吉田 豊
藪崎 純
Vol.74 No.10 p.570-573(2001)
近年,携帯電子機器は小型化,軽量化,高機能化が進んでいる。
特に携帯電話は,どこでも連絡可能という携行性・利便性を特徴に,
大約 18 V の電圧を発生し,定電流制御,8 ビット DAC による多段
小型化・低価格化の進展,低消費電力化による待受け時間や通話時
階輝度調整機能とともに高効率で白色 LED 3個を直列に駆動制御
間の伸びにより,現在の高い普及率となっている。富士電機では,
することができる。本稿ではその電気的特性の概要と各主要回路に
携帯電話用電源 IC として,6 個のレギュレータ,充電機能,各種
ついて述べる。
ドライバ,スピーカアンプなどを内蔵し,48ピンのパッケージとし
た IC を開発,製品化したので概要を紹介する。
Abstracts (Fuji Electric Journal)
CMOS Power Factor Control IC
Present Status and Prospects for Fuji Electric’s IC
Products and Technologies
Masato Kashima
Toshio Komori
Hironobu Shiroyama
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.551-553 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.547-550 (2001)
Recently, harmonic current generation in the capacitor input rectifier circuit for producing DC voltage widely used in electronic equipment accompanied by a power factor drop has become an issue, and
there has come a movement to establish legal regulation. The active
filter system is widely used as a preventive measure. This paper outlines Fuji Electric s newly developed peak current mode control
CMOSIC (complementary metal oxide semiconductor integrated circuit) as an active filter control IC.
Fuji Electric has continued developing products laying stress on
power supply ICs (integrated circuits) based on the high-voltage analog
CMOSIC (complementary metal oxide semiconductor IC) technology.
It also handles ICs for the PDP (plasma display panel) driver utilizing
its excellent high-voltage technology. In addition, the distinctive sensor
IC with intelligent functions has been developed into AF (auto-focus)
ICs for cameras and pressure sensors for automobiles. This paper outlines Fuji Electric s distinguished products and technologies, such as
the new products of power supply ICs as the core and newly developed
high-reliability 700 V one-chip power IC technology, new model AF
modules, and PDP driver ICs.
Two-Channel DC-to-DC Converter Control ICs for
General Use
Power Supply IC for Low Power AC Adapters
Ichiro Nomura
Yasushi Katayama
Tamotsu Yoneda
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.557-560 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.554-556 (2001)
In portable electronic equipment, power consumption increases
with advanced functions, while there arerequirements for long, continuous operation and light weight ; therefore, the use of DC-to-DC converters, small high-efficiency power supply,are expanding rapidly. To
meet the requirement, Fuji Electric has developed CMOS (complementary metal-oxide semiconductor) type 2-channel DC-to-DC converter control ICs (4 models). These realizes the wide operation range
of power input 2.5 to 18 V and frequency 50 kHz to 1 MHz, direct
MOSFET (MOS field-effect transistor) drive, and low current consumption of 1.7 mA. An application example of power supply of output
2 to 3 W attains high efficiency of 82 to 90%.
Recently, AC adapters have been required to be small, lightweight, low-cost and low-standby-power-consumption. To meet these
requirements, Fuji Electric has developed a power IC (integrated circuit) for switching power supply control with a 700 V power MOSFET
(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor) and a PWM (pulse
width modulation) controller integrated on a chip. This paper outlines
the newly developed power supply IC for 5 W class low power AC
adapters. This IC achieved low supply current of 200μA at MOSFET
switching by utilizing low-current-consumption circuits and optimizing
the internal circuits.
Charge Pump Booster IC
Power Supply ICs for LCD Panels
Yutaka Yoshida
Masayuki Yamadaya
Hirohisa Arai
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.564-566 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.561-563 (2001)
Portable electronic equipment that has rapidly diffused recently
such as PDAs (personal digital assistants) and cellular phones requires
small, noiseless, low-power-consumption voltage boosters to operate
analog ICs and radio communications devices. To meet these market
needs, Fuji Electric has developed a charge pump booster IC (integrated circuit) with a charge pump booster circuit and a series regulator for suppressing ripples caused by switching operation integrated on
a single chip. This paper describes an outline of this IC.
The mainstream of displays for electronic equipment has become
LCDs (liquid crystal displays). Actually the voltage and power supply
sequence required for LCD panels vary with panel manufacturers and
types. In addition, operation with higher frequency is required to
reduce the size of power supply circuits. To meet these requirements,
Fuji Electric has added the new types of three-output FA3686V and
two-output FA3687V to the former power ICs (integrated circuits)
for LCD panels. This paper describes an outline of these ICs.
Power Management IC for a Cellular Phone with a
Li-Ion Battery Charger
DC-to-DC Converter-Controller IC for White LEDs
Hirohisa Arai
Hiroaki Kamo
Yutaka Yoshida
Jun Yabuzaki
Isao Sano
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.570-573 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.567-569 (2001)
Portable electronic equipment has recently been improved in
respect of (reduced) size and weight and advanced functions. In particular, cellular phones, which are characteristic of portability and convenience to make calls possible anywhere, have attained present high
penetration owing to reduction in size and price and standby / talk time
extended by low power consumption. To meet the market needs, Fuji
Electric developed 48-pin-packaged power supply IC (integrated circuit) for cellular phones which integrates six regulators, a battery
charging function, various drivers, a speaker amplifier, and other auxiliarycircuits.
Fuji Electric has developed a DC-to-DC converter-controller for
driving white LEDs (light emitting diodes) used in the display panel of
portable electronic equipment. This IC boosts voltage up to a maximum of about 18 V from battery voltage and is capable of driving and
controlling three white LEDs in series with high efficiency as well as
constant current controlling and multiple-step luminance controlling
with an 8-bit DAC (digital analog converter). This paper describes an
outline of electrical characteristics and the major circuits of this IC.
第二世代 PDP アドレスドライバ IC
新構造パッケージ適用オートフォーカスモジュール
野口 晴司
小松 幸哲
富士時報
澄田 仁志
川村 一裕
Vol.74 No.10 p.574-577(2001)
富士時報
Vol.74 No.10 p.578-580(2001)
カラープラズマディスプレイパネル(PDP)の普及を目的に,
銀塩カメラは,高性能化・小型化が進められている。特にオート
PDP を駆動するドライバ IC には高性能化と低コスト化が強く求め
フォーカス(AF)システムの優劣がキーになっている。また,ディ
られている。この要求を満足する第二世代 PDP アドレスドライバ
ジタルスチルカメラ(DSC)でも優れた AF が求められている。富
IC を開発した。IC の絶対最大電圧は 85 V である。この IC では,
士電機では銀塩カメラおよび DSC 向けに,アナログデータ出力タ
出力部高耐圧素子の低オン抵抗化と分離領域のスリム化によるチッ
イプのセンサと,新しい構造の IC パッケージを採用した小型・高
プ面積の縮小,そして 1 μm ルールの採用と回路方式の改良による
性能な AF モジュールを開発したので,その構成,特徴について紹
低消費電力・高速化を実現している。本稿では,この IC の概要を
介する。
デバイス・プロセス技術とともに紹介する。
ディジタルトリミング型自動車用圧力センサ
700 V ワンチップパワー IC デバイス技術
上柳 勝道
鶴田 芳雄
富士時報
西川 睦雄
植松 克之
Vol.74 No.10 p.581-583(2001)
富士時報
多田 元
斉藤 俊
Vol.74 No.10 p.584-587(2001)
半導体 CMOS プロセスによる EPROM を用いたディジタルトリ
携帯電子機器に用いられる AC アダプタやバッテリーチャージャ
ミング型の自動車用圧力センサを紹介する。ピエゾ抵抗方式の圧力
に対する,小型化・軽量化・低消費電力化の要求が強まっている。
センサにおいて CMOS で用いる結晶方位(100)におけるセンサ部
これらの要求にこたえるため,富士電機では 700 V 耐圧のパワー
設計,EPROM と D-A 回路を用いた回路構成,自動車用として要
MOSFET と制御 IC を一体化し,さらに高信頼性を確保できるス
求される耐ノイズ・耐サージ,信頼性設計などについて検討した。
イッチング電源用ワンチップパワー IC 技術を開発した。本稿では,
これらの設計検討の結果,自動車用としての高信頼性を確保し,高
2層メタルフィールドプレート構造と平たん化プロセスを適用した
精度な圧力センサが実現できた。
高信頼性パワー MOSFET デバイス技術,小型化と高精度化を実現
した制御回路デバイス技術,およびこれらの技術を適用した製品例
について概要を紹介する。
低オン抵抗トレンチ横型パワー MOS デバイス技術
杉 祥夫
富士時報
澤田 睦美
藤島 直人
Vol.74 No.10 p.588-592(2001)
携帯電子機器や情報通信機器に搭載される電源 IC やドライバ IC
はスイッチング素子としてパワー MOS を集積しており,パワー
MOS の低オン抵抗化とスイッチング特性向上が課題となっている。
富士電機では,トレンチ内部に素子を形成した高集積度・低オン抵
抗横型パワー MOS(TLPM/S)を開発した。TLPM/S はデバイス
ピッチの縮小とチャネル幅密度の向上により,従来プレーナ横型パ
ワー MOS に対して 60%の低オン抵抗を達成している。また,帰還
容量とチャネル容量を低減し,優れたスイッチング特性を実現して
いる。
Auto-Focus module with a High Optical Quality IC
Package
Second-Generation PDP Address Driver IC
Sachiaki Komatsu
Seiji Noguchi
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.578-580 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.574-577 (2001)
Recently film cameras require the higher performance and more
compact size. In it, range finders, which are called as auto-focus (AF),
are the key components. Moreover superior range finders are also
indispensable for digital still cameras (DSCs). Fuji Electric has developed the smaller and better performance AF module, which contains
the new sensor with analog output and the high optical quality package
for film camera and DSC. This paper describes its configuration and
features.
To meet the diffusion of color PDPs (plasma display panels), the
driver IC (integrated circuit) for PDPs is strongly required to improve
performance and reduce cost. Fuji Electric has developed a 2nd-generation PDP address driver IC that satisfies these requirements. The
absolute maximum voltage of this IC is 85 V. This IC realizes the
reduction of chip area by using power devices of low on-resistance for
the output circuit and making isolation regions slim and also the low
power consumption and high-speed operation by using the 1μm rule
and improving the circuitry. This paper gives an outline of this IC and
its device and process technologies.
New 700 V One-Chip Power IC Technology
Automotive Pressure Sensor with Digital Trimming
Yoshio Tsuruta
Katsumichi Ueyanagi
Gen Tada
Masaru Saitou
Hitoshi Sumida
Kazuhiro Kawamura
Mutsuo Nishikawa
Katsuyuki Uematsu
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.584-587 (2001)
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.581-583 (2001)
AC adapters and battery chargers used in portable electronic
equipment are strongly required to be of small size, light weight and
low power consumption. To meet these requirements, Fuji Electric has
developed high-reliability power IC (integrated circuit) technology for
switching power supply with a 700 V power MOSFET (metal-oxidesemiconductor field-effect transistor) and a control IC integrated on
one chip. This paper describes the high-reliability power MOSFET
technology that uses double-metal-field-plate structure and the planar
process, the control circuit technology that realizes smaller size and
higher precision, and examples of IC products that utilize this technology.
This paper introduces the automotive pressure sensor with digital
trimming that uses an EPROM (erasable programmable read-only
memory) based on the CMOS (complementary metal oxide semiconductor) process. With a piezoelectric resistance type pressure sensor,
the sensor part design on the crystal face (100) used for the CMOS,
circuitry configuration using an EPROM and a D-A (digital to analog)
circuit, immunity to noise and surge required for automotive use, and
reliability design were investigated. As the result of these investigations into designing details, a high-precision pressure sensor with high
reliability for automotive use was realized.
Low On-Resistance Trench Lateral Power MOS
Technology
Akio Sugi
Mutsumi Sawada
Naoto Fujishima
Fuji Electric Journal Vol.74 No.10 p.588-592 (2001)
Power supply ICs (integrated circuits) and driver ICs in portable
electronic and communicative equipment integrate power MOSFETs
(metal-oxide-semiconductor field-effect transistors) as switching
devices. Lower on-resistance and higher switching speed for these
power MOSFETs become of greater importance. Fuji Electric has
developed a high-density, low on-resistance trench lateral power MOS
FET (TLPM / S). The TLPM / S sttains 60% of the on-resistance of
planar MOSFETs by increasing channel density and reducing device
pitch. Also it realizes excellent switching characteristics by reducing
Miller and channel capacitance.
マルチな要求に,マルチでお応えする
電源IC
富士電機の電源IC
お問合せ先:電子カンパニー IC事業部 電話(03)5435-7158
pチャネル
ドライバ
PNSEL
OUT5
pチャネル
ドライバ
OUT6
OUT4
PGND3
OUT3
nチャネル
ドライバ
DT2
pチャネル
ドライバ
VCC3
OUT2n
DT1
nチャネル
ドライバ
OUT2p
OUT1n
VCC2
OUT1p
pチャネル
ドライバ
各ドライバへ
ドライバ
用電源
デッドタイム
設定
VCC1
第3
チャネル
デッドタイム
設定
第1チャネル
制御
UVLO
電源
pチャネル
ドライバ
第4
チャネル
pチャネル/
nチャネル
ドライバ
第5
第6
チャネル
チャネル
三角波
発振器
RT
CT
第2チャネル
CS3
社
務
所
1(03)5435-7111 〒141-0032 東京都品川区大崎一丁目11番2号(ゲートシティ大崎イーストタワー)
北
東
北
中
関
中
四
九
海
道
支
北
支
陸
支
部
支
西
支
国
支
国
支
州
支
社
社
社
社
社
社
社
社
1(011)261-7231
1(022)225-5351
1(076)441-1231
1(052)204-0290
1(06)6455-3800
1(082)247-4231
1(087)851-9101
1(092)731-7111
〒060-0042
〒980-0811
〒930-0004
〒460-0003
〒553-0002
〒730-0021
〒760-0017
〒810-0001
札幌市中央区大通西四丁目1番地(道銀ビル)
仙台市青葉区一番町一丁目2番25号(仙台NSビル)
富山市桜橋通り3番1号(富山電気ビル)
名古屋市中区錦一丁目19番24号(名古屋第一ビル)
大阪市福島区鷺洲一丁目11番19号(富士電機大阪ビル)
広島市中区胡町4番21号(朝日生命広島胡町ビル)
高松市番町一丁目6番8号(高松興銀ビル)
福岡市中央区天神二丁目12番1号(天神ビル)
北
関
東
支
店
首 都 圏 北 部 支 店
首 都 圏 東 部 支 店
神
奈
川
支
店
新
潟
支
店
長 野 シ ス テ ム 支 店
長
野
支
店
東
愛
知
支
店
兵
庫
支
店
岡
山
支
店
山
口
支
店
松
山
支
店
沖
縄
支
店
1(048)526-2200
1(048)657-1231
1(043)223-0701
1(045)325-5611
1(025)284-5314
1(026)228-6731
1(0263)36-6740
1(0566)24-4031
1(078)325-8185
1(086)227-7500
1(0836)21-3177
1(089)933-9100
1(098)862-8625
〒360-0037
〒330-0802
〒260-0015
〒220-0004
〒950-0965
〒380-0836
〒390-0811
〒448-0857
〒650-0033
〒700-0826
〒755-8577
〒790-0878
〒900-0004
熊谷市筑波一丁目195番地(能見ビル)
大宮市宮町一丁目38番1号(野村不動産大宮共同ビル)
千葉市中央区富士見二丁目15番11号(日本生命千葉富士見ビル)
横浜市西区北幸二丁目8番4号(横浜西口KNビル)
新潟市新光町16番地4(荏原新潟ビル)
長野市南県町1002番地(陽光エースビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
刈谷市大手町二丁目15番地(センターヒルOTE21)
神戸市中央区江戸町95番地(井門神戸ビル)
岡山市磨屋町3番10号(住友生命岡山ニューシティビル)
宇部市相生町8番1号(宇部興産ビル)
松山市勝山町一丁目19番地3(青木第一ビル)
那覇市銘苅二丁目4番51号(ジェイ・ツービル)
道
北
釧
道
道
青
盛
秋
山
新
福
い
水
茨
金
福
山
松
岐
静
浜
和
鳥
倉
山
徳
高
小
長
熊
大
宮
南
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
所
1(0166)68-2166
1(0157)22-5225
1(0154)22-4295
1(0155)24-2416
1(0138)26-2366
1(0177)77-7802
1(019)654-1741
1(018)824-3401
1(023)641-2371
1(0233)23-1710
1(024)932-0879
1(0246)27-9595
1(029)231-3571
1(029)266-2945
1(076)221-9228
1(0776)21-0605
1(055)222-4421
1(0263)33-9141
1(058)251-7110
1(054)251-9532
1(053)458-0380
1(073)432-5433
1(0857)23-4219
1(0858)23-5300
1(0852)21-9666
1(088)655-3533
1(088)824-8122
1(093)521-8084
1(095)827-4657
1(096)387-7351
1(097)537-3434
1(0985)20-8178
1(099)224-8522
〒078-8801
〒090-0831
〒085-0032
〒080-0803
〒040-0061
〒030-0861
〒020-0034
〒010-0962
〒990-0057
〒996-0001
〒963-8033
〒973-8402
〒310-0805
〒311-1307
〒920-0031
〒910-0005
〒400-0858
〒390-0811
〒500-8868
〒420-0053
〒430-0945
〒640-8052
〒680-0862
〒682-0802
〒690-0007
〒770-0832
〒780-0870
〒802-0014
〒850-0037
〒862-0950
〒870-0036
〒880-0805
〒892-0846
旭川市緑が丘東一条四丁目1番19号(旭川リサーチパーク内)
北見市西富町163番地30
釧路市新栄町8番13号
帯広市東三条南十丁目15番地
函館市海岸町5番18号
青森市長島二丁目25番3号(ニッセイ青森センタービル)
盛岡市盛岡駅前通16番21号(住友生命盛岡駅前ビル)
秋田市八橋大畑一丁目5番16号
山形市宮町一丁目10番12号
新庄市五日町1324番地の6
郡山市亀田一丁目2番5号
いわき市内郷御厩町二丁目29番地
水戸市中央二丁目8番8号(櫻井第2ビル)
茨城県東茨城郡大洗町桜道304番地(茨交大洗駅前ビル)
金沢市広岡一丁目1番18号(伊藤忠金沢ビル)
福井市大手二丁目7番15号(安田生命福井ビル)
甲府市相生一丁目1番21号(清田ビル)
松本市中央四丁目5番35号(長野県鋳物会館)
岐阜市光明町三丁目1番地(太陽ビル)
静岡市弥勒二丁目5番28号(静岡荏原ビル)
浜松市池町116番地13(山崎電機ビル)
和歌山市鷺ノ森堂前丁17番地
鳥取市雲山153番地36〔鳥電商事
(株)
内〕
倉吉市東巌城町181番地(平成ビル)
松江市御手船場町549番地1号(安田火災松江ビル)
徳島市寺島本町東二丁目5番地1(元木ビル)
高知市本町四丁目1番16号(高知電気ビル別館)
北九州市小倉北区砂津二丁目1番40号(富士電機小倉ビル)
長崎市金屋町7番12号
熊本市水前寺六丁目27番20号(神水恵比須ビル)
大分市寿町5番20号
宮崎市橘通東三丁目1番47号(宮崎プレジデントビル)
鹿児島市加治屋町12番7号(日本生命鹿児島加治屋町ビル)
エ ネ ル ギ ー 製 作 所
変電システム製作所
東京システム製作所
神
戸
工
場
鈴
鹿
工
場
松
本
工
場
山
梨
工
場
吹
上
工
場
大
田
原
工
場
三
重
工
場
1(044)333-7111
1(0436)42-8111
1(042)583-6111
1(078)991-2111
1(0593)83-8100
1(0263)25-7111
1(055)285-6111
1(048)548-1111
1(0287)22-7111
1(0593)30-1511
〒210-9530
〒290-8511
〒191-8502
〒651-2271
〒513-8633
〒390-0821
〒400-0222
〒369-0192
〒324-8510
〒510-8631
川崎市川崎区田辺新田1番1号
市原市八幡海岸通7番地
日野市富士町1番地
神戸市西区高塚台四丁目1番地の1
鈴鹿市南玉垣町5520番地
松本市筑摩四丁目18番1号
山梨県中巨摩郡白根町飯野221番地の1
埼玉県北足立郡吹上町南一丁目5番45号
大田原市中田原1043番地
四日市市富士町1番27号
事
北
営
見
営
路
営
東
営
南
営
森
営
岡
営
田
営
形
営
庄
営
島
営
わ き 営
戸
営
城
営
沢
営
井
営
梨
営
本
営
阜
営
岡
営
松
営
歌 山 営
取
営
吉
営
陰
営
島
営
知
営
倉
営
崎
営
本
営
分
営
崎
営
九 州 営
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
業
CS2
VREG
CS1
制御
電源
ソフト
スタート
制御
PWM比較器
基準
電圧
CNT3
タイマ
ラッチ
CNT1
CREF
オンオフ
制御
誤差増幅器
CP
IN6+
TLSEL
FB6
IN6−
IN5+
IN5−
FB5
IN4+
IN4−
FB4
IN3+
IN3−
FB3
IN2−
FB2
IN1+
FB1
IN1−
バッファ
VREF
製品例: 2チャネルFA3630V,3チャネルFA3629AV,
6チャネルFA3621F,6チャネルFA3675F,
6チャネルFA3676F,6チャネルFA3698F
用 途: TFTパネル用マルチ出力電源,ビデオカメラ・ディジ
タルカメラ用マルチ出力電源など
特 長: ●同期整流対応(FA3676F2チャネル分)
●低オン抵抗DMOS出力トランジスタを内蔵可能な
C/DMOSプロセスによりパワー段と制御部を
ワンチップ化
●低消費電力・小型・高効率
低入力電圧に対応可能(2.5Vまで)
過電流,加熱などに対する保護機能が充実
●小型パッケージ
TSSOP-16,SSOP-28,LQFP-48,LQFP-64
VDRV
低消費電力のパワーマネジメントをワンチップで実現
本
FA3676Fの例
(株)
富士電機総合研究所
(株)
FFC
1(0468)56-1191 〒240-0194 横須賀市長坂二丁目2番1号
1(03)5351-0200 〒151-0053 東京都渋谷区代々木四丁目30番3号(新宿コヤマビル)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 13 年 10 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 74 巻 第 10 号(通巻第 799 号)
昭和 40 年 6 月 3 日 第三種郵便物認可 平成 13 年 10 月 10 日発行(毎月 1 回 10 日発行)富士時報 第 74 巻 第 10 号(通巻第 799 号)
IC特集
聞こえてきますか、技術の鼓動。
本誌は再生紙を使用しています。
定価525円(本体500円)
ISSN 0367-3332