FEJ 78 04 286 2005

富士時報
Vol.78 No.4 2005
マイクロ電源
特
集
佐野 功(さの いさお)
林 善智(はやし ぜんち)
江戸 雅晴(えど まさはる)
まえがき
表1 マイクロ電源「FB6800シリーズ」
型 式
変換
方式
出力電圧
最大出力
電流
同期/
非同期
応用例
ます高まっている。さらに電力の消費を抑え,バッテリー
FB6813Q
降圧
1.05∼2.025 V
300 mA
同期整流
CPU
の連続使用時間を長くするよう低消費電流化も合わせて求
FB6804Q
降圧
2.5∼5.15 V
300 mA
同期整流
I/O
められる。
FB6824Q
降圧
2.5∼5.15 V
300 mA
非同期
I/O
携帯機器に使用される LSI(Large Scale Integrated cir-
FB6805Q
降圧
3.0∼3.45 V
600 mA
同期整流
モータ
cuit)は微細化プロセス適用のため電源電圧の低電圧化が
FB6825Q
降圧
3.0∼3.45 V
600 mA
非同期
モータ
進んでおり,リチウムイオン電池 2 セル(7.2 V)はもと
FB6806Q
昇圧
15.5∼16.25 V
40 mA
非同期
CCD
FB6807Q
反転
昇圧
入力電圧
−27.0 V
20 mA
非同期
白色
LED
携帯機器は小型化と多機能化という相反する要求がます
よ り , 1 セ ル ( 3.6 V) の 機 器 に つ い て も 従 来 の LDO
(Low Drop Out regulator)主体の電源構成から,DC-DC
コンバータによる構成へと移行しつつある。
電源システムはバッテリーの使用時間をできるだけ長く
図1 超音波フリップチップの実装
するため,負荷となる LSI ごとに電源をきめ細かくオン
ICチップ
オフするパワーマネジメントが必要となってきている。こ
スタッドバンプ
のため,オンオフ制御する電源ごとに DC-DC コンバータ
が必要となるが,サイズの大きなインダクタ(315 ページ
インダクタ
の「解説」参照)を DC-DC コンバータごとに付けるため,
セットの小型化,薄型化を進めるうえでボトルネックと
なっている。また,サイズの小さなインダクタを使えるよ
フェライト基板
超音波フリップ
チップ
ボンディング
うに制御 IC は高スイッチング周波数が要求されている。
本稿では,このような携帯機器の市場要求に応じて,制
アンダーフィル
御 IC とインダクタを一体化したマイクロ電源「FB6800
シリーズ」を開発,製品化したので紹介する。
特 徴
図 2 に示す。3.5 mm × 3.5 mm,厚さ 1 mm(max)を
実現している。
FB6800 シリーズは 表 1 に示すように,インダクタと,
(2 ) パッケージ
図3に示すように CSM(Chip Size Module)12 ピンを
降圧,昇圧,反転昇圧の電圧変換を行う制御 IC を組み合
わせたマイクロ電源で, 7 種類を製品化している。
採用することで,チップサイズとほぼ同じサイズのマイク
マイクロ電源のインダクタ部は図1に示すようにフェラ
イト基板にめっき配線を施して形成し,実装に必要なパッ
ロ電源モジュールを実現した。
(3) 端子構造
ド電極も同時に作り込んでいる。制御 IC は電極部を超音
波でインダクタとフリップチップ接続される。
主な特徴は次のとおりである。
(1) 外
Array)構造とすることで,実装面積の省スペース化に寄
与している。
,Rdc = 0.2 Ω
(4 ) インダクタ: L = 1.64 µH(300 mA)
形
佐野 功
286(38)
端 子 部 が パ ッ ケ ー ジ 外 部 に 出 な い LGA( Land Grid
林 善智
江戸 雅晴
電源 IC の開発,設計に従事。現
超小型スイッチング電源の開発に
マイクロマシン,センサ,磁気素
在,富士電機デバイステクノロ
従事。現在,富士電機アドバンス
子の研究開発に従事。現在,富士
ジー株式会社半導体事業本部半導
トテクノロジー株式会社デバイス
電機アドバンストテクノロジー株
体工場情報・電源開発部プリンシ
技術研究所主任研究員。応用磁気
式会社物質・科学研究所副主任研
パルエンジニア。
学会会員。
究員。応用磁気学会会員。
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マイクロ電源
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インダクタ構造としては,図4に示すようにスパイラル
(6 ) 保護回路
型,リングコア型,EI(ローマ字の E と I を組み合わせ
出 力 短 絡 , チ ッ プ の 過 熱 , UVLO( Under Voltage
た形)コア型,について検討したが,高 L 値,低 Rdc が
Lock Out)などの異常に対する保護回路を内蔵している。
得られる EI コア型を選択した。
異常検知後動作を停止し,ALERT 端子= L で保護状態を
特
解除し H で復帰する。
集
フェライトによるコアロスを低減する基板材質の選定,
(7) スイッチング周波数: 2 MHz
磁気飽和しにくいデザインの最適化を図った。
デッドタイムコントロール,ドライバ回路,高速コンパ
(5) 入力電圧
比較的電圧の高い 4 ∼ 8.4 V(Li イオン電池 2 セル対応)
で高効率を実現するため,LDD(Lightly Doped Drain)
構造の CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)を採用し,LDD のイオン注入濃度とディメン
ジョンを最適化した。
レータ,発振回路の最適化設計により,高速動作を実現し
た。
(8) シリアルインタフェース
CPU とのシリアルインタフェースで電源動作のオンオ
フ,出力電圧設定など,各種設定が可能である。
(9) タイムラグのないソフトスタート動作
ソフトスタート用コンパレータの入力にオフセットを持
たせることにより,オン信号を受けてからスイッチング開
図2 マイクロ電源の外観(1)
始するまでのディレイ時間を改善した。
(10) 低消費電流:スタンバイ時 1 µA,動作時 800 µA
ボトム
トップ
サイド
各回路ブロックに対し低消費電流化を施し,携帯機器に
必要な低消費電流化を実現した。
3.5 mm
FB6813Q の主な電気的特性を表2に示す。
3.5 mm
マイクロ電源のモジュール技術
マイクロ電源の組立はフリップチップボンディングを適
3.5 mm
1.0 mm
用している。
従来のワイヤボンディングを利用した組立では,IC
チップから配線接続する基板へワイヤを引き出すため,イ
ンダクタサイズが大きくなり省スペース化の妨げとなって
図3 マイクロ電源の外観(2)
いる。
フリップチップボンディングは,ワイヤを省き,IC
チップの表面に配線接続のためのバンプと呼ばれる突起電
極を形成し,インダクタ基板と直接実装している。
バンプ形成はワイヤボンダを用いて,図5に示すように
スタッドバンプを形成している。金ワイヤ先端に金ボール
を形成し,これを IC チップ上の電極に接合させ,バンプ
高さをそろえるためレベリングを行い,ワイヤを切断して
形成している。
インダクタ基板表面にも金めっきによる電極を形成し,
超音波による Au-Au 接合で制御 IC を実装する。
フリップチップボンディング時には,加圧衝撃および超
音波振幅による制御 IC へのダメージが考えられる。
また,スタッドバンプと制御 IC のアルミ電極間による
図4 インダクタの構造
Au/Al 合金層は,その比率によっては機械的強度が低下
することが知られている。
今 回 , ス タ ッ ド バ ン プ の 下 に UBM( Under Bump
Metal)層を設けることにより,上記 2 項目の信頼性上の
課題を解決している。
次にフリップチップ実装したインダクタと制御 IC のギ
ャップをアンダーフィル材料を塗布・充てんして接合強度
スパイラル型
リングコア型
EIコア型
を確保し,最後にインダクタ基板をダイシングしてマイク
ロ電源に個片化する。
287(39)
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表2 FB6813Qの主な電気的特性
項 目
記 号
特
制御電源電圧
単 位
8.4
V
3.0
3.07
V
1.029
1.05
1.071
V
1.078
1.10
1.122
V
SEL=H,SD=0001,無負荷
1.127
1.15
1.173
V
SEL=H,SD=1000,無負荷
1.176
1.20
1.224
V
SEL=H,SD=1001,無負荷
1.225
1.25
1.275
V
SEL=H,SD=1010,無負荷
1.274
1.30
1.326
V
SEL=H,SD=1011,無負荷
1.323
1.35
1.377
V
SEL=H,SD=0100,無負荷
1.47
1.50
1.53
V
SEL=H,SD=0101,無負荷
1.519
1.55
1.581
V
SEL=H,SD=0110,無負荷
1.568
1.60
1.632
V
SEL=H,SD=0111,無負荷
1.617
1.65
1.683
V
SEL=H,SD=0011,無負荷
1.666
1.70
1.734
V
SEL=H,SD=1100,無負荷
1.764
1.80
1.836
V
SEL=H,SD=1101,無負荷
1.837
1.875
1.913
V
SEL=H,SD=1110,無負荷
1.911
1.95
1.989
V
2.066
min
3.0
V DD
2.93
SEL=H,SD=0010,無負荷
SEL=H,SD=0000,無負荷
集
出力電圧
max
条 件
V IN
電源電圧
typ
V OUT
V
SEL=H,SD=1111,無負荷
1.984
2.025
η
V IN=3.6 V,V OUT=1.8 V,I OUT=0.2 A
85
89
ラインレギュレーション
ΔV OUT/V IN
V IN=4∼8.4 V,V OUT=1.5 V,I OUT=0.3 A
0
±1
%
ロードレギュレーション
ΔV OUT/ I OUT
V OUT=1.5 V,I OUT=0∼0.3 A
0
±0.04
mV/mA
効 率
%
開ループ電圧利得
AV
60
dB
単一利得帯域幅
fT
1
MHz
過熱保護温度
TSD
125
発振周波数
f osc
1.8
I
2.0
150
℃
2.2
MHz
1.0
A
VDD端子,動作時
800
A
PVDD端子,停止時
1.0
A
VDD端子,停止時
VDD
消費電流
I PVDD
図5 スタッドバンプ写真
示 す 。 本 製 品 は イ ン ダ ク タ , 出 力 MOS( Metal Oxide
Semiconductor)を内蔵しているため,外部部品としては
入出力のコンデンサと,位相補償のコンデンサと抵抗だけ
で降圧のスイッチング電源が構成でき,セットの省スペー
ス化に寄与することができる。
今回 FB6813Q では高効率化のため,下記のことを実施
した。
(1) 制御回路:デッドタイムコントロールとブロックごと
の低消費電流化,発振周波数の最適化
(2 ) 出力 MOS :耐圧設計の最適化で低オン抵抗と低ゲー
トチャージ電荷量
(3) インダクタ:コアロスを低減する基板材質の選定
上記改善により負荷と出力電圧を変えたときの効率の実
測例として,図8に示すように入力電圧(VIN)= 3.6 V,
出力電圧(VOUT)= 1.8 V,出力電流(IOUT = 180 mA で
90 %の高効率を実現している。
応用回路
今回開発製品化した,FB6800 シリーズを使用すること
により,負荷となるデバイスの近傍に用途に応じた電圧変
FB6813Q のブロック図を 図 6 に,応用回路例を 図 7 に
288(40)
換を行うマイクロ電源を配置し,マイコンによりオンオフ
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図6 FB6813Q の回路ブロック図
PVDD
VDD
バッテリー
内部電源
特
CIN
CINT
−
GND
集
1.0 V
+
REF
0.8 V
バッファ
0.1 V
pチャネル
ドライバ
PDMOS
FB
CFB
RFB
IN
誤差
増幅器
−
+
+
1.0 V
0.2 V
PWM
0.6 V 比較器
+
1.0 V
+
+
OUT
−
0.1 V
+
インダクタ
OUT
デッド
タイム
−
SCP
− 比較器1
降圧出力
COUT
SCP
比較器2
OSC
SS
比較器
SS_IN
+
TSD
nチャネル
ドライバ
NDMOS
−
0.8 V
ALERT
起動・停止・保護ロジック
SD
PGND
SCL
シリアル
インタフェース
データレジスタ
デコーダ
SEL
図7 FB6813Q の応用回路例
図8 FB6813Q の効率測定例
PVDD
PGND
ALERT
SCL
100
C3
SD
4
VDD
5
C2
2
FB6813
6
C1
R1
7
8
1
12
11
10
9
90
OUT
C4
V IN=3.6 V
V OUT =1.8 V
負荷
PGND
効率(%)
3
80
V OUT =1.5 V
V OUT =1.2 V
70
GND
SS_IN
60
をシリアル制御することで,セットの小型化,薄型化,
50
0
バッテリーの長寿命化を可能にする分散電源システムを構
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
出力電流(A)
築することができる。
あとがき
参考文献
主に DVC(Digital Video Camera)
,DSC(Digital Still
(1) Hayashi, Z. et al. High-Efficiency DC- DC Converter
Camera)用に対応したマイクロ電源「FB6800 シリーズ」
Chip Size Module with Integrated Soft Ferrite. The 2003
について紹介した。
International Magnetics Conference(INTERMAG 2003).
今後,携帯電話,DSC 用のリチウムイオンバッテリー 1
セル用マイクロ電源をメニューに加えラインアップを充実
させていくと同時に,さらなる高効率化,小型化を図って
いく所存である。
(2 ) 川島鉄也ほか.マイクロ電源モジュールの実装技術開発.
エレクトロニクス実装学会.MES2004. 2004- 10.
(3) 片山靖ほか.マイクロ DC- DC コンバータ用 CMOS IC の
最適化設計.電子情報通信学会電子通信用エネルギー技術研
究会.2003- 09.
289(41)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。