FEJ 78 04 312 2005

富士時報
Vol.78 No.4 2005
プラズマ CVD 窒化膜の組成制御技術
特
成田 政隆(なりた まさたか)
横山 拓也(よこやま たくや)
市川 幸美(いちかわ ゆきみ)
まえがき
成だけでは一義的に決まらず,原子の結合状態や H の量
により変化する。そのため,それらに影響を及ぼす基板温
(1)
プラズマ CVD(Chemical Vapor Deposition)で生成さ
れる水素を含んだ窒化アモルファスシリコン薄膜(以下,
度も重要なパラメーターとなる。
まず,主要な物性(光学ギャップ Eg,屈折率 n,抵抗
(4 )
a-SiN : H または窒化膜と記す)は,その組成により半導
体から絶縁体まで膜物性が大きく変化するため,半導体デ
率ρなど)と膜組成の関係について以下に概説する。
図 1 は膜の物性を把握するうえで重要な光学ギャップ
(結晶材料のバンドギャップに対応)と,屈折率が膜組成
バイスへの用途は広い。
化学量論組成に近い絶縁膜は水分透過量が小さく,しか
に対してどのように変化するかを示したものである。窒素
も低温(400 ℃以下)で成膜可能なことからデバイスの最
が 30 %程度までは Eg の増加は比較的緩やかであるが,
終パッシベーションに用いられる。また,膜中の窒素とシ
そこから 40 %にかけては急激に増加する。同図にプロッ
リコンの組成を変化させるとバンドギャップがそれに伴っ
トしたデータは,ガス流量比だけでなく,異なる成膜装置
て変化し,その結果,非常に抵抗が高い領域での抵抗率の
やガス圧,放電電力で堆積した膜のデータが含まれている。
制御が可能になる。こうした性質は,パワー半導体デバイ
これから Eg は成膜条件には大きく依存せず,組成により
(2 )
スのエッジ終端構造に適用されている。このほか,ディス
ほぼ一義的に決まることが分かる。屈折率は半導体デバイ
プレイ用薄膜トランジスタのゲート絶縁膜などにも用いら
スのパッシベーションへの応用において膜質を評価する重
( 3)
れている。
要な指針となっている。結果は組成に対し非常によい近似
このように,プラズマ CVD により生成される
a-SiN : H
膜は組成比を変えることで種々の応用に対応できる興味深
で直線的に変化し,次の実験式で表される。ここで,X
は N/(Si+N)の値を表す。
い材料である。しかし,反応系が複雑であることから,そ
n = 4.2 − 5.7X …………………………………………(1)
の成膜機構については不明の点が多い。ここでは,組成比
デバイスへの応用上,膜の抵抗率ρも重要な物性値であ
を広い範囲で変化させたときの物性と成膜条件の関係につ
いて報告し,それらの成膜機構を明らかにするために行っ
図1 屈折率,光学ギャップと膜中 N 組成比の関係
ている最近の研究成果についても紹介する。
4.5
膜の組成と特性
プラズマ CVD で堆積(たいせき)される窒化膜は基本
的には非晶質材料である。絶縁物基板や絶縁膜の上でも均
一なプラズマ生成が可能な高周波放電をプラズマ源とし,
原料ガスとして
SiH4-N2,SiH4-NH3,SiH4-N2-NH3,ある
いはそれらを H2 などで希釈したガスを用いて成膜するの
が一般的である。
屈折率 ,光学ギャップ n
E g(eV)
集
Eg
n
(633 nm)
4
3.5
3
2.5
2
膜中の Si と N の組成は,主として材料ガスの混合比を
変えることにより行う。放電電力や周波数,ガス圧を変え
1.5
0
ると,成膜前駆体であるラジカル密度やそれらの密度比が
10
20
30
40
膜中窒素量N/
(Si+N)
(%)
50
変化し,膜組成の微調整も可能である。ただし,物性は組
成田 政隆
横山 拓也
市川 幸美
太陽電池,ウェーハプロセスの開
半導体プロセス技術の開発に従事。
半導体素子の解析技術に従事。現
現在,富士電機デバイステクノロ
在,富士電機デバイステクノロ
発に従事。現在,富士電機デバイ
ジー株式会社半導体事業本部半導
ジー株式会社半導体事業本部半導
ステクノロジー株式会社半導体事
体工場プロセス開発部。応用物理
体工場 CR 技術部。日本金属学会
業本部半導体工場プロセス開発部
学会会員。
会員。
マネージャー。工学博士。電気学
会会員。応用物理学会会員。
312(64)
富士時報
プラズマ CVD 窒化膜の組成制御技術
Vol.78 No.4 2005
る。 2 種類の装置で成膜した一連のサンプルについて,膜
較的 N2 流量比の大きい条件でも N 組成は小さく,シラン
中窒素量に対するρの変化を 図 2に示す。この結果から,
系ポリマーは発生せず,低 N 組成膜の成長に適している。
ρの値は組成(あるいは n)に対しほぼ指数関数的に増加
原料ガスによるこのような違いは成膜前駆体が変化する
する。しかし,成膜装置や成膜条件により同じ組成でもρ
ためと考えられるが,これまでに窒化膜について実験的に
特
の値は一けた以上変化することが分かる。これは,ρを決
前駆体を調べた結果は報告されていない。そこで,われわ
集
める主要な因子となる膜中の欠陥準位密度がこれらの条件
れはカバレッジ法を用いて各ガス系における前駆体の膜成
( 5)
( 3)
により大きく変わることによる。
長表面への付着確率を調べる実験を行った。最も一般的な
カバレッジ法は,幅 1 µm 程度のトレンチを形成した Si
成膜技術
ウェーハに膜を堆積し,トレンチ内壁に沿った膜厚分布を
測定し,付着確率(η)を変化させたモンテカルロシミュ
(6 )
組成比の制御は SiH4 に対する NH3 や N2 の流量比を変
レーションとフィッティングする手法である。図4にトレ
化させて行う。図3にバッチ式のプラズマ CVD 装置を用
ンチに堆積した窒化膜の例を,また,図5に付着確率を変
い,SiH4-NH3 と SiH4-N2 の異なる原料ガス系により成膜
えたときのシミュレーションの結果を示す。この方法で得
した場合のガス流量比に対する膜中の N/Si 組成比の変化
を示す。ここで,ガス圧は 233 Pa,放電電力は 655 W と
した。SiH4-NH3 系においては化学量論組成(Si3N4)近傍
から低 N 組成の膜まで制御できるが,N/Si = 0.25 以下の
られた結果は以下のとおりであった。
(1) SiH4-NH3 系:η=0.08 の 1 種類の成膜前駆体でフィッ
ティング
(2 ) SiH4-N2 系:η=0.8 と 0.05 の 2 種類の前駆体を考慮す
低 N 組成膜を成膜するような場合は,シラン系ポリマー
ることによりフィッティング
が発生しやすくなる問題がある。一方,SiH4-N2 系では比
Kushner は窒化膜の場合についてプラズマ CVD のシ
ミュレーションを行い,SiH4-NH3 系では,SiH3−n(NH)n
および SiH3(ともにη= 0.05−0.1)
,また SiH4-N2 系では
図2 抵抗率と膜中N組成比の関係
SiH(η= 0.8)
,および SiH3,N,NH(η= 0.05)を成膜
104
平行平板型枚葉式装置
チューブ型多層電極装置
図4 窒化膜によるトレンチ内壁のカバレッジ
抵抗率ρ(Ω・cm)
103
a-SiN : H膜
(0.5 m)
102
101
0.7 m
100
0
10
20
30
40
膜中窒素量N/
(Si+N)
(%)
50
図3 膜中N組成比と原料ガス流量比の関係
図5 シミュレーションによるカバレッジ
η=0.1
1
η=0.8
膜中窒素組成比 N/Si
0.8
SiH4+NH3系
SiH4+N2系
0.6
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
ガス流量比 N2 (
/ SiH4+N2)
,NH3 (
/ SiH4+NH3)
313(65)
富士時報
プラズマ CVD 窒化膜の組成制御技術
Vol.78 No.4 2005
( 7)
りが見られる。高温領域での傾きは伝導の活性化エネル
前駆体と予想した。
今回得られた結果は Kushner の予想を裏づけた結果と
ギー(Ea)に対応し,バンドギャップ,電子状態密度分
なり,窒化膜の成膜機構に関する実験的な検証を与えるも
布などの微細な構造を反映している。このように求めた
のとなった。
Ea の値は約 0.8 eV となり,a-Si 膜の値とほぼ同じである
(1)
このように窒化膜の成膜機構が明らかになってくると,
,熱励起された電子によるバンド伝導
ことからも(表2)
例えば図3に示される原料ガス比と膜組成比の直線的な関
と考えられる。これに対し,単層膜の室温近傍での振舞い
係を以下のように説明することができる。SiH4-NH3 系を
は異なる伝導機構によるものと推定される。しかし,図7
例にとると,成膜前駆体であるラジカル種の生成はプラズ
に示すように,単層膜でも低い電界(20 kV/cm)で測定
( 7)
マ中で以下の反応によって生成すると考えられる。
SiH4 + e / SiH3 + H + e [k1] ……………………(2 )
図6 高電界印加時の導電率のアレニウスプロット(単層膜と
積層膜の比較)
NH3 + e / NH2 + H + e [k2] ……………………(3)
SiH3 + NH2 / SiH2(NH2)+ H [k3] ……………(4 )
−5.0
k1,k2,k3 は各反応の反応係数を表す。これらのラジカ
ルについて定常状態でのレート方程式から以下の連立方程
式が求まる。
k1NS Ne-DS n S - k3 n S n N = 0
……………………………(5)
k2NNNe-DN n N - k3 n S n N = 0 ……………………………(6 )
k3 n S n N - DSNn SN
= 0 ……………………………………(7)
ただし,n はラジカル密度,N は原料分子密度,D は電極
への拡散損失の割合,添字 S,N,SN,e はそれぞれ SiH4,
SiH4-NH3系
SiH4-NH3系(積層)
SiH4-N2系
SiH4-N2系(積層)
−6.0
logσ(Ω−1・cm−1)
集
,電子に関する諸量を表す。これを解
NH3,SiH2(NH2)
−7.0
−8.0
−9.0
−10
−11
くと,
−12
nSN/nS = k3 k2 NNNe/DSNDN ……………………………(8)
2
2.5
3
3.5
1,000 / T(K−1)
が得られる。前述のように SiH2(NH2)と SiH3 がおのお
の基板に拡散していき,膜として堆積するから,nSN/nS
は膜中の N と Si の組成比に比例すると考えられる。ガス
(8)
圧,電子温度が大きく変化しない場合には式
の k3 ,k2 ,
表2 活性化エネルギー( E a)の比較
DSN,DN は定数と見なせるから,この結果は,N/Si が NN
と Ne,すなわち,NH3 の流量と放電電力(ただし,電子
成膜方法
密度が電力に比例すれば)に比例することを意味し,図3
PE-CVD
の実験結果に対応している。
電気的特性
原料
(ガス,ソース)
光学的特性
E a(eV)
n
Eg
単層
積層
SiH4/NH3
3.16
2
0.80
0.77
SiH4/N2
3.22
1.98
0.77
0.78
電子線蒸着後
Siインゴット
3.84
1.55
0.37
0.72
熱処理後
Siインゴット
3.75
1.7
0.69
0.77
a-SiN : H 膜の抵抗率は重要な特性の一つであるが,抵
抗率の温度特性と電界依存性から伝導機構に関して考察す
図7 単層膜の導電率のアレニウスプロット(高電界と低電界
印加時の比較)
ることができる。表1に示される A ∼ D の 4 種類の n =
3.0 近傍の
a-SiN
: H 膜をくし歯形電極上に成膜し,25 ℃
から 190 ℃の間で電流−電圧特性を測定した。ここで,積
層膜とは
a-SiN
−5.0
: H 膜上に n = 2.0 の高抵抗 SiN 膜を成膜
SiH4-NH3系(50 kV/cm)
SiH4-NH3系(20 kV/cm)
SiH4-N2系(50 kV/cm)
SiH4-N2系(20 kV/cm)
−6.0
した構造である。ここで,図6に電界強度= 50 kV/cm で
測定した導電率のアレニウスプロットを示す。これにより,
90 ℃以上の高温領域ではそれぞれのサンプルの間に差は
みられないが,室温近傍では単層膜のみ導電率の跳ね上が
表1 電気特性評価用サンプルの構造
logσ(Ω−1・cm−1)
特
−7.0
−8.0
−9.0
−10
−11
サンプル
原料ガス
単 層
積 層
SiH4/NH3
A
B
SiH4/N2
C
D
314(66)
−12
2
2.5
3
1,000 / T(K−1)
3.5
富士時報
プラズマ CVD 窒化膜の組成制御技術
Vol.78 No.4 2005
した場合は,跳ね上がりはほとんど見られない。このよう
いただければ幸いである。
に,ここでみられる室温での伝導機構は,電界によって強
調され,負の温度特性を示し,さらに表面の欠陥密度に
よっても強調される(積層膜の効果)と推定すると,
Frenkel-Pool 伝導が起こっている可能性が高い。
参考文献
(1) 市川幸美ほか.プラズマ半導体プロセス工学,内田老鶴圃,
集
2003.
すなわち,室温で高電界の条件下での伝導は表面近傍で
(2 ) Osenbach, J. W. ; Knolle, W. R. Semi-Insulating Silicon
の欠陥に起因する。したがって,このような条件で抵抗率
Nitride(SinSiN) as a Resistive... . IEEE Trans. Electron
の精密な制御が要求される場合は,表面の欠陥密度の抑制
Devices, vol.37, no.6, 1990, p.1522- 1528.
が重要であることが分かる。
(3) Street, R. Hydrogenated amorphous silicon. Cambridge
University Press. 1991.
あとがき
(4 ) 市川幸美,成田政隆.プラズマ CVD 準絶縁性アモルファ
スシリコン窒化膜の組成制御技術.応用物理.vol.71, no.7,
プラズマ CVD 窒化膜は今日では半導体デバイスにとっ
2002, p.895- 896.
ては欠かせない材料になっている。しかし,その成膜機構
(5) 藤掛伸二ほか.プラズマ CVD による a- SiN:H 堆積にお
についてはいまだに明らかになっていない事柄が多い。こ
けるラジカルの実効付着係数の測定.電気学会論文誌 A,
れはプラズマ内および膜成長表面での反応が複雑なことに
起因する。今後要求されてくる膜物性の高度な制御のため
には,これらを解明するための基礎的な研究が必要になる。
本稿では,そうした研究の一環として行っている基礎研
究について紹介した。まだ研究は緒に就いたばかりである
vol.125, no.6, 2005.
(6 ) Akiyama, Y. et al. Shape of Film Grown on Microsize
Trenches... . Jpn. J. Appl. Phys., vol.34, 1995, p.6171- 6177.
(7) Kushner, M. J. Simulation of the gas-phase process... . J.
Appl. Phys. vol.71, no.9, 1992- 05- 01.
が,窒化膜の適用を考えるうえでの設計開発の一助にして
解 説
インダクタ 【関連論文: p.286-289】
インダクタはその特性上,流れる電流を保持するよ
うに働くデバイスであり,スイッチング電源に用いら
れる。
インダクタのコアとして用いられるフェライトは一
の特性を維持する素材が求められる。
電源の電力変換効率の改善には,以下に記すインク
タの損失を低減することが必要となる。
(1) コアロス(鉄損)
般の金属磁性材料に比べ比抵抗がきわめて高いことが
(2 ) コイルの損失(銅損)
特徴である。
(3) 漏れ磁束に起因する損失
スイッチング電源に用いられるインダクタ用フェラ
イトコアに要求される特性として,コアロスが小さい
こと,飽和磁束密度が高いことがある。特に携帯機器
特
(4 ) 近接効果・表皮効果に起因する損失 これらの損失を低減するため,フェライト材料,コ
ア形状,巻線材料の選定が必要である。
は内部温度が高くなる場合が多く,高温においてもこ
315(67)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。