FEJ 79 05 372 2006

富士時報 Vol.79 No.5 2006
自動車用燃料タンク漏れ検出用圧力センサ
特 集
植松 克之(うえまつ かつゆき)
篠田 茂(しのだ しげる)
栗又 正次郎(くりまた しょうじろう)
まえがき
など)を搭載するための回路基板などの部品が多い。さら
にはこれらの部品間の電気的接続部分が多いため,故障確
自動車の安全性を一段と高める動きがある中,米国市場
率が高くなるといった問題点が挙げられる。
に代表される OBD(On Board Diagnostic system)規制
今回開発したタンク圧センサは,従来のワンチップ技術
により,燃料タンクシステムのガソリン蒸気漏れ検出の義
のメリットを最大限に生かして「小型・高信頼性の製品」
務づけが広がりを見せてきている。ガソリン蒸気の漏れを
をターゲットとし,以下の基本コンセプトを基に開発した。
検出するためには,燃料タンク内の数 kPa の圧力変化を
“All in one chip” によるワンチップ構成
( 1)
モニタする圧力センサが必要となる。
富士電機の標準セルパッケージによる小型化
( 2)
富士電機はこれらの市場ニーズに対応するため,2002
,
を最大限に生かした世界最小のワンチップ製品
( 1)
( 2)
( 3)
年 か ら 量 産 中 の CMOS(Complementary Metal-OxideSemiconductor)プロセスによるデジタルトリミング型自
を実現
低圧センサと同一生産ラインでの製造による低コスト
( 4)
動車用圧力センサの技術を用いて,世界最小〔EMI(Electromagnetic Interference)対応ワンチップタイプ,2006
化
独自のダイアフラム加工技術による高感度・高耐圧性
( 5)
年 5 月末現在当社調べ〕の自動車用燃料タンク漏れ検出用
の確保
圧力センサ(タンク圧センサ)を開発した。
製品構成
本稿では,今回開発したタンク圧センサ(相対圧用途,
ゲージ圧用途)を紹介する。
図 2 に今回開発したタンク圧センサの検出体ユニットの
富士電機のタンク圧センサの特徴
概要を示す。ダイアフラム上に IC プロセスと同時に拡散
配線から成るピエゾ抵抗を形成し,四つのピエゾ抵抗でホ
図 1 に今回開発したタンク圧センサセルを示す。従来
イートストンブリッジを構成している。また,ダイアフラ
のセンサは,圧力検出素子の特性を調整する回路,EMC
ムは富士電機独自の三次元エッチング技術により高精度か
(Electromagnetic Compatibility)対策用の SMD(Surface
つ丸みのあるダイアフラムを形成し,高感度・高耐圧性を
Mounted Device)部品(チップコンデンサやチップ抵抗
確保している。
図
圧センサ(100 〜 400 kPa)の技術をタンク圧用( +
−6〜
信号処理回路は 2002 年度に開発し量産化されている低
タンク圧センサセル
( 1(
)2)
図
タンク圧センサの検出体ユニット
増幅回路・調整回路
ダイアフラム(ピエゾ抵抗)
ガラス台座
EMC保護素子
植松 克之
栗又 正次郎
圧力センサの研究開発に従事。現
圧力センサの研究開発に従事。現
圧力センサの研究開発に従事。現
在,富士電機デバイステクノロ
在,富士電機デバイステクノロ
在,富士電機デバイステクノロ
ジー株式会社半導体事業本部自動
ジー株式会社半導体事業本部自動
ジー株式会社半導体事業本部自動
車電装事業部電装開発部チーム
車電装事業部電装開発部。
車電装事業部電装開発部。
リーダー。電気学会会員。
372( 28 )
篠田 茂
圧力媒体導入孔
〈チップ断面図〉
自動車用燃料タンク漏れ検出用圧力センサ
富士時報 Vol.79 No.5 2006
+
− 10 kPa)に応用・調整したもので,ホイートストンブ
タンク圧センサチップの設計と評価結果
リッジから出力する電圧信号を増幅する高精度増幅器と,
動車のエンジン制御系から発生するサージやアセンブリ
信号処理回路部の高感度設計と高精度化
.
工程内での静電気,さらには外部からの電磁波などから,
タンク圧センサの高感度設計について述べる。図 4 に圧
CMOS で形成された内部回路を保護するための保護素子
力センサの回路ブロック図を示す。
もすべてワンチップ上に備えている。
基本的な回路構成は低圧センサと同じであるが,センサ
さらに,相対的な圧力または大気圧に対するゲージ圧を
部のホイートストンブリッジから出力される電圧信号を増
測定するために,センサユニットのガラス台座およびパッ
幅する増幅器の増幅度を上げることで,高感度化を図ると
ケージ裏面に圧力導入孔を形成し,パッケージおよび接合
ともに,増幅器の直線性を改善することにより高精度化を
層からの応力を緩和するための台座ガラスを静電接合プロ
実現した(図 5)
。
セスによって接合して,信頼性の高い気密性を確保した。
タンク圧用センサの感度は 200 〜 300 mV/kPa であり,
ダイアフラムの高感度設計と耐圧設計
.
低圧センサの 10 〜 40 mV/kPa に対しておおむね 10 倍の
センサの感度を決める要因として,ダイアフラムの厚さ
高感度である。
と直径が挙げられる。
今回開発したタンク圧センサ用のチップ設計においては,
タンク圧センサでは FEM(有限要素法)解析に基づ
増幅回路の増幅度アップと高精度化
( 1)
き,ダイアフラムの厚さと直径の最適化を行った。図 6 に
ダイアフラムの高感度化と耐圧設計最適化
( 2)
FEM 解析モデル,図 7 に FEM 解析結果を示す。
を図った。
また,図 3 に示すとおり低圧センサで使用している富士
図
増幅器の直線性改善による高精度化
電機の標準パッケージと同じ外形寸法で,相対圧用に圧力
導入孔を設けたパッケージを用いることにより,小型かつ
出力誤差(%F.S.)
同一生産ライン製造による低コストのタンク圧センサを実
現した。
図
タンク圧センサセルと低圧センサセルの構造断面図
ダイアフラム
圧力 P 1
センサチップ
−0
−0.2
−0.4
−0.6
−0.8
−1.0
−1.2
−1.4
−1.6
−1.8
−2.0
−7 −6 −5 −4 −3 −2 −1 0
−0.40 %F.S.
1
2
3
4
5
6
7
圧力 (kPa・Gauge)
P
検出圧力 ΔP = P 1 - P 2
(相対圧)
出力誤差(%F.S.)
(a)タンク圧用高精度増幅器
穴あきガラス
圧力 P 2
(a)タンク圧センサセル
ダイアフラム
圧力 P
センサチップ
−0
−0.2
−0.4
−0.6
−0.8
−1.0
−1.2
−1.4
−1.6
−1.8
−2.0
−7 −6 −5 −4 −3 −2 −1 0
−0.65 %F.S.
1
2
3
4
5
6
7
圧力 (kPa・Gauge)
P
(b)従来増幅器
真空基準室
ガラス
検出圧力 P(絶対圧)
図
(b)低圧センサセル
ダイアフラム最適化(FEM 解析モデル)
t( m)
図
チップ裏面加圧
圧力センサの回路ブロック図
トリミング
回路部
温度検出部
DAC部
感度・零点
DAC部
温度検出
感度温度特性
零点温度特性
φ(mm)
感度調整
回路
EMC
遮断回路
VCC
センサ部
増幅回路
VOUT
t( m)
GND
φ(mm)
零点調整
回路
− P(kPa)
+ P(kPa)
チップ表面加圧
373( 29 )
特 集
センサ特性を補正する調整回路を形成している。また,自
富士時報 Vol.79 No.5 2006
図
自動車用燃料タンク漏れ検出用圧力センサ
ダイアフラム最適化(FEM 解析結果)
.
特 集
0.10
φ1(100 %)
φ2(110 %)
φ3(120 %)
感度(σ/kPa)
0.08
0.06
耐圧試験結果
耐圧はダイアフラムの厚さに依存し,厚さが薄いほど破
壊強度が低下する。そこで,タンク圧仕様における最も
厚さの薄いダイアフラムのサンプルについて,耐圧試験を
実施した。その結果,表面加圧,裏面加圧ともに使用圧力
感度調整可能範囲
6.6 kPa の約 75 倍に相当する 500 kPa を印加しても,ダイ
0.04
アフラム部およびユニット接着部が破壊しないことを確認
した。
0.02
0
.
t =120 %
圧力−出力特性
図 8 に+
− 6.6 kPa 仕様のタンク圧センサセルの圧力−出
t =110 %
力特性を示す。ここで圧力−出力特性はダイアフラムの
t =100 %
厚さおよび回路の調整によって+
− 6 〜+
− 10 kPa(相対圧)
ダイアフラム厚さ t(任意目盛)
までのレンジに対応することが可能である。
図
圧力−出力特性
.
基本仕様
今回開発したタンク圧センサセルの基本仕様を表1に示
5,000
す。
出力(mV)
4,000
.
パッケージオプション
3,000
最終製品の形態としては,圧力センサセル単体での実装
2,000
のほか,圧力センサセルに,アプリケーションごとのメカ
ニカルインタフェース部品(パイプキャップ,マウント型
1,000
0
−10
ハウジング)を組み合わせることでさまざまな取付け方法
−5
0
5
10
に対応することが可能である。
圧力(kPa)
あとがき
表
タンク圧センサセルの基本仕様
今回紹介した自動車用燃料タンク漏れ検出用圧力センサ
単 位
仕 様
備 考
をはじめ,今後の世界各国の環境規制,安全規制に伴い,
絶対最大電圧
V
16.5
<1 min
ますますタンク圧センサのニーズが高まる一方,要求され
絶対最大圧力
kPa
60
る精度,品質,およびコストは厳しくなることが予想され
保 存 温 度
℃
−40∼+135
る。富士電機は常に世界のトップレベルの技術開発と,お
使 用 温 度
℃
−30∼+125
客様に喜ばれる製品開発を目指す所存である。
使 用 圧 力
kPa
±6.66
出 力 範 囲
V
0.5∼4.5
項 目
※1
参考文献
上柳勝道ほか.ディジタルトリミング型自動車用圧力セン
( 1)
kΩ
PU300
PD100
V
<0.2
※2
V
>4.8
※2
シ ン ク 電 流
mA
1
ソ ー ス 電 流
mA
0.1
圧 力 誤 差
%F.S.
<3.0
温 度 誤 差
倍
<1.5
インタフェース
ダイアグ領域
EMC検証済規格
JASO D00-87 / CISPR 25
ISO 11452-2 / ISO 7637
※1:相対圧,フルスケール圧力は任意に変更可能
※2:VCC配線の断線,VOUT配線の断線を検知
374( 30 )
サ.富士時報.vol.74, no.10, 2001, p.581-583.
上柳勝道ほか.自動車用圧力センサの製品開発.富士時報.
( 2)
vol.76, no.10, 2003, p.616-618.
上柳勝道ほか.自動車用圧力センサの要素技術.富士時報.
( 3)
vol.76, no.10, 2003, p.619-621.
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。