日本語版

300 MHz、1 mA
電流帰還型オペアンプ
AD8011
特長
機能ブロック図
使用が簡単
8ピン・プラスチック・ミニDIPおよびSOIC
低消費電力
1 mAの消費電流(+5 V電源で5 mW)
+5 Vで高速、高いセトリング
300 MHz、−3 dB帯域幅(G=+1)
180 MHz、−3 dB帯域幅(G=+2)
2000 V/μsのスルーレート
0.1%まで29 nsのセトリング時間
優れたビデオ特性(RL=1 kΩ、G=+2)
25 MHzまで0.1 dBのゲイン平坦性
0.02%の微分ゲイン誤差
0.06°の微分位相誤差
概要
AD8011は、+5 Vまたは±5 V電源で動作するように設計された低
低歪み
−70 dBcの全高調波歪み@5 MHz
−62 dBcの全高調波歪み@20 MHz
単電源動作
+5 V単電源ですべての仕様を規定
消費電力の高速オペアンプです。このデバイスは、広い帯域幅、低
歪みおよび低電力特性を備えていますので、
汎用のオペアンプとし
て理想的です。
AD8011は、
消費電力の大きい高速オペアンプの置き換えとして使
うこともできます。AD8011は電流帰還型オペアンプです。+5 V電
アプリケーション
源動作で、
0.02%と0.06°の微分ゲイン誤差と微分位相誤差を維持し
高速システム
ながら25 MHzまで0.1 dBのゲイン平坦性を備えています。
したがっ
ビデオ・スイッチ
てAD8011は、
カメラやビデオ・スイッチ等の放送局用のビデオ機器
A/D用ドライバ
または携帯型の高速システム機器に最適です。
さらにAD8011は、低
放送局用カメラ
歪みと高速セトリング特性を備えていますので、8、10、12ビットの
CCD画像システム
高速A/D変換のバッファに適しています。
超音波システム(マルチチャンネル)
AD8011の最大消費電流は1 mAで、さらに+5 V∼+12 V単電源で
動作します。パッケージは8ピンDIPと8ピンSOICパッケージです。
以上の特長により、
AD8011は携帯型のバッテリー駆動の応用に最適
です。
AD8011は、
−40∼+85℃の産業用温度範囲で製品が供給されてい
ます。
図1. AD8011の周波数応答;G=+2、VS=+5 Vまたは±5 V
図2. AD8011の歪みの周波数特性;VS=±5 V
アナログ・デバイセズ社が提供する情報は正確で信頼できるものを期していますが、
当社はその情報の利用、また利用したことにより引き起こされる第3者の特許または権
利の侵害に関して一切の責任を負いません。さらにアナログ・デバイセズ社の特許また
は特許の権利の使用を許諾するものでもありません。
REV.0
アナログ・デバイセズ株式会社
本 社/東京都港区海岸1 - 1 6 - 1 電話03(5402)8200 〒105−6891
ニューピア竹芝サウスタワービル
大阪営業所/大阪市淀川区宮原3 - 5 - 3 6 電話06(6350)6868㈹ 〒532−0003
新大阪第2森ビル
AD8011―仕様
デュアル電源(特に指定のない限り@TA=+25℃、VS=±5 V、G=+2、RF=1 KΩ、RL=1 KΩ)
AD8011A
モデル
条件
Min
Typ
Max
単位
ダイナミック性能
−3 dB小信号帯域幅、VO<1 VP−P
G=+1
340
400
MHz
−3 dB小信号帯域幅、VO<1 VP−P
G=+2
180
210
MHz
−3 dB大信号帯域幅、VO=5 VP−P
G=+10、RF=500Ω
57
MHz
0.1 dB平坦性の帯域幅
G=+2
スルーレート
20
25
MHz
G=+2、VO=4 Vステップ
3500
V/μs
V/μs
G=−1、VO=4 Vステップ
1100
0.1%までのセトリング時間
G=+2、VO=2 Vステップ
25
ns
立ち上がりおよび立ち下がり時間
G=+2、VO=2 Vステップ
0.4
ns
G=−1、VO=2 Vステップ
3.7
ns
ノイズ/高調波性能
2次高調波
fC=5 MHz、VO=2 VP−P、G=+2
RL=1 kΩ
−75
dB
RL=150Ω
−67
dB
3次高調波
RL=1 kΩ
−70
dB
RL=150Ω
−54
dB
入力電圧ノイズ
f=10 kHz
2
nV/√Hz
入力電流ノイズ
f=10 kHz、+入力
5
pA/√Hz
微分ゲイン誤差
NTSC、G=+2、RL=1kΩ
−入力
RL=150Ω
微分位相誤差
NTSC、G=+2 、RL=1kΩ
RL=150Ω
5
pA/√Hz
0.02
%
0.02
%
0.06
Degrees
0.3
Degrees
DC性能
入力オフセット電圧
TMIN−TMAX
オフセット・ドリフト
2
5
±mV
2
6
±mV
10
−入力バイアス電流
5
TMIN−TMAX
+入力バイアス電流
5
TMIN−TMAX
オープンループ・トランス抵抗
800
TMIN−TMAX
μV/℃
15
±μA
20
±μA
15
±μA
20
±μA
1300
kΩ
550
kΩ
入力特性
入力抵抗
+入力
入力容量
+入力
450
入力同相電圧範囲
kΩ
2.3
pF
3.8
4.1
±V
−52
−57
dB
3.9
4.1
±V
同相除去比
オフセット電圧
VCM=±2.5 V
出力特性
出力電圧振幅
出力抵抗
出力電流
0.1
TMIN−TMAX
15
短絡回路電流
0.3
Ω
30
mA
60
mA
供給電源
動作範囲
±1.5
無負荷時電源電流
TMIN−TMAX
電源変動除去比
VS=±5 V±1 V
1.0
55
58
±6.0
V
1.2
mA
dB
仕様は予告なしに変更する場合があります。
−2−
REV.0
AD8011
単電源(特に指定のない限り@TA=+25℃、VS=+5 V、G=+2、RF=1 kΩ、VCM=2.5 V、RL=1 kΩ)
AD8011A
モデル
条件
Min
Typ
Max
単位
−3 dB小信号帯域幅、
VO<0.5 VP−P
G=+1
270
328
MHz
−3 dB小信号帯域幅、
VO<0.5 VP−P
G=+2
150
180
MHz
57
MHz
ダイナミック性能
−3 dB大信号帯域幅、
VO=2.5 VP−P
G=+10、RF=500Ω
0.1 dB平坦性の帯域幅
G=+2
スルーレート
15
20
MHz
G=+2、VO=2 Vステップ
2000
V/μs
V/μs
G=−1、VO=2 Vステップ
500
0.1%までのセトリング時間
G=+2、VO=2 Vステップ
29
ns
立ち上がりおよび立ち下がり時間
G=+2、VO=2 Vステップ
0.6
ns
G=−1、VO=2 Vステップ
4
ns
RL=1kΩ
−84
dB
RL=150Ω
−67
dB
RL=1kΩ
−76
dB
ノイズ/高調波性能
2次高調波
3次高調波
fC=5 MHz、VO=2 VP−P、G=+2
RL=150Ω
−54
dB
入力電圧ノイズ
f=10 kHz
2
nV/√Hz
入力電流ノイズ
f=10 kHz、+入力
5
pA/√Hz
微分ゲイン誤差
NTSC、
G=+2、RL=1kΩ
微分位相誤差
NTSC、
G=+2、RL=1kΩ
−入力
RL=150Ω
RL=150Ω
5
pA/√Hz
0.02
%
0.6
%
0.06
Degrees
0.8
Degrees
DC性能
入力オフセット電圧
TMIN−TMAX
オフセット・ドリフト
2
5
mV
2
6
mV
10
−入力バイアス電流
5
TMIN−TMAX
+入力バイアス電流
5
TMIN−TMAX
オープンループ・トランス抵抗
800
TMIN−TMAX
μV/℃
15
±μA
20
±μA
15
±μA
20
±μA
1300
kΩ
550
kΩ
入力特性
入力抵抗
+入力
450
kΩ
入力容量
+入力
2.3
pF
1.5 ∼ 3.5
1.2 ∼ 3.8
V
−52
−57
dB
1.2 ∼ 3.8
0.9 ∼ 4.1
±V
入力同相電圧範囲
同相除去比
オフセット電圧
VCM=1.5 V ∼ 3.5 V
出力特性
出力電圧振幅
出力抵抗
出力電流
0.1
TMIN−TMAX
15
短絡回路電流
0.3
Ω
30
mA
50
mA
供給電源
動作範囲
+3
無負荷時電源電流
TMIN−TMAX
電源変動除去比
∆VS=±1 V
0.8
55
仕様は予告なしに変更する場合があります。
REV.0
−3−
58
+12
V
1.0
mA
dB
AD8011
絶対最大定格1
最大消費電力
電源電圧 …………………………………………………… +12.6 V
AD8011が安全に消費できる最大電力は接合温度の制約を受けま
内部消費電力2
す。プラスチック・デバイスの最大安全接合温度は、プラスチック
プラスチック・パッケージ(N) … ディレーティング曲線を参照
の融点温度によって決まります。これは約+150℃です。この限度
SOパッケージ(R) ………………… ディレーティング曲線を参照
を一時的に超えた場合、
パッケージ内のチップ上に掛かるストレス
入力電圧(同相) ………………………………………………
±VS
の変動によってパラメトリック性能が変化します。
またかなり長い
±2.5 V
時間接合温度が+175℃を超えた場合、デバイスの機能が損なわれ
差動入力電圧
………………………………………………
出力短絡回路期間 …………
電力ディレーティング曲線を参照
ます。
保管温度範囲(N、R) ……………………………… −65 ∼ +125℃
AD8011は内部で短絡回路保護を施していますが、
これだけではす
動作温度範囲(Aグレード)………………………… −40 ∼ +85℃
べての条件下で最大接合温度
(+150℃)を超えない保証となりませ
リード温度範囲(ハンダ付け、10秒) …………………… +300℃
ん。適切に動作させるために、最大電力ディレーティング曲線(図
注
1
“絶対最大定格”を超えるストレスはデバイスに永久破壊をもたらすことがあります。こ
の定格はデバイスの単なるストレスの度合いであり、基本的な動作あるいは動作の項に示
す他の条件においてこの定格は考慮されていません。デバイスをある項目についての絶
対最大定格の状態に長時間さらすとデバイスの信頼性に影響を与えます。
2
仕様は空冷の無い状態;
8ピン・プラスチック・パッケージ:θJA=90℃/W
8ピンSOICパッケージ:θJA=140℃/W
3)を参照する必要があります。
オーダー・ガイド
モデル
温度範囲
パッケージ・オプション
AD8011AN
−40 ∼ +85℃
8ピン・プラスチックDIP
AD8011AR
−40 ∼ +85℃
8ピン・プラスチックSOIC
AD8011-EB
SOIC評価ボード、G=+2
図3. 最大消費電力と温度の関係
注意
ESD(静電放電)の影響を受けやすいデバイスです。4000 Vもの高圧の静電気が人体やテスト装置に容易に帯電し、検知さ
れることなく放電されることもあります。このAD8011には当社独自のESD保護回路を備えていますが、高エネルギーの静
電放電にさらされたデバイスには回復不能な損傷が残ることもあります。したがって、性能低下や機能喪失を避けるため
に、適切なESD予防措置をとるようお奨めします。
−4−
WARNING!
ESD SENSITIVE DEVICE
REV.0
AD8011
図4. テスト回路、ゲイン=+2
図7. テスト回路、ゲイン=−1
図5. *100 mVステップ応答、G=+2、VS=±2.5 Vまたは±5 V
図8. *100 mVステップ応答、G=−1、VS=±2.5 Vまたは±5 V
図6. *ステップ応答、G=+2、VS=±2.5 V(2 Vステップ)または
図9. *ステップ応答、G=−1、VS=±2.5 V(2 Vステップ)または
±5 V(4 Vステップ)
±5 V(4 Vステップ)
*注意:VS=±2.5 V動作はVS=+5 V単電源動作と同じです。
REV.0
−5−
AD8011
図10. ゲイン平坦性;G=+2
図13. 出力電圧振幅と負荷
図11. 歪みの周波数特性;VS=±5 V
図14. 歪みの周波数特性;VS=+5 V
図12. 微分位相と微分ゲイン;VS=±5 V
図15. 微分位相と微分ゲイン;VS=+5 V
−6−
REV.0
AD8011
図16. 大信号周波数応答;VS=±5 V、G=+2
図19. 大信号周波数応答;VS=+5 V、G=+2
図17. 周波数応答;G=+1、+2、+10;VS=+5 Vまたは±5 V
図20. 短期間セトリング時間;VS=+5 Vまたは±5 V
図18. 周波数応答;G=−1、−10;VS=+5 Vまたは±5 V
図21. 長時間セトリング時間;VS=+5 Vまたは±5 V
REV.0
−7−
AD8011
図22. CMRRの周波数特性;VS=+5 Vまたは±5 V
図25. PSRRの周波数特性;VS=+5 Vまたは±5 V
図23. 出力抵抗の周波数特性;VS=+5 Vまたは±5 V
図26. ノイズの周波数特性;VS=+5 Vまたは±5 V
図24. トランスインピーダンス・ゲインと位相の周波数特性
図27. 出力振幅と電源
−8−
REV.0
AD8011
動作の原理
結論として、高い外部負荷駆動能力と低いAC歪み特性が要求さ
AD8011は、優れた帯域幅、消費電力、歪み、信号振幅等の特性を
れる場合、AD8011のような2段のゲイン段を持つアンプの方が消費
備えた高速電流帰還型のオペアンプです。現在AD8011のように数
電力の点で従来の1段のデバイスより優れています。さらに電流帰
MHzの周波数まで以上のようなAC特性あるいは[
(周波数×VSIG)/
還型のアンプの方が、電圧帰還型のアンプよりクローズドループ帯
(歪み×消費電力)]性能を備えたICアンプは存在しません。コンプ
域幅変動対外部ゲイン変動(RNを変更:帯域幅はゲインに反比例)
リメンタリ高速バイポーラ・プロセスと独自の設計技術により優れ
の点で優れています。またこのアンプの優れた特性の1つに、+5 V
たダイナミック特性(ノイズ性能も含む)を実現しました。従来の
単電源で動作するということが挙げられます。これは幅広い同相入
オペアンプのゲイン段は、ネルソン・アンプと呼ばれる1段のコン
力特性と出力電圧範囲を備えているためです。
5 V電源動作の場合、
プリメンタリ・ミラー型の構造を採用していましたが、AD8011は2
静止電流は10 V電源の場合の半分になり、またACおよびDC特性は
段のコンプリメンタリ構造を採用しています。この2段型の設計手
若干低下します。データ・シートの仕様の項を比較して下さい。
法は、
AD9617等で採用されていましたが、消費電力が大きいことが
特徴でした。しかしAD8011は、静止電流および動作電流が小さく、
DCゲイン特性
さらにネルソン型のアンプと同様に高い周波数の信号を扱うこと可
ゲイン段、A1/A1BとA2/A2Bによって負帰還の伝達抵抗ゲイン
能で、また多くの電流を流すことも可能です。つまりこの製品の高
がもたらされます。図28を参照して下さい。A3はユニティ・ゲイン
速出力立ち上がり/立ち下がり時間とスルーレートは、
ゲイン段の
のバッファで、A2と外部負荷を絶縁します。各段は対称的な設計を
DC静止電流ではなく(入力レベル・シフト用のダイオードQ1とQ2
施しています(示されていませんがA3も対称的に設計されていま
は例外)、それぞれアンプの小信号帯域幅と入力信号ステップの振
す)。前述したように、これにより信号の歪みを大幅に低下させ、ま
幅によって左右されます。2段の設計技術により、同じ消費電力で
た静止電流も減らしています。DCから低周波領域では、クローズ
より大きなゲイン帯域幅積(GBWP)を実現できました。したがっ
ドループ・ゲインは以下のように近似できます。
て優れた信号歪み性能とより大きな外部負荷駆動能力を備えていま
G=1+RF/RN
非反転動作
G=−RF/RN
反転動作
この関係は、すべてのオペアンプのものと同一です。出力を駆動
するのに必要な反転入力誤差電流(IE)と反転IE×R1降下により(誤
す。さらに2段目のゲイン段は負荷駆動の影響を受けるA3の入力を
絶縁しますし、比較的低い歪み特性と高いオープンループ・ゲイン
性能によって優れた非直線性がもたらされます。
図28. 簡略化したブロック図
REV.0
−9−
AD8011
差電流×オープンループ反転入力抵抗)、低周波での閉ループ伝達
関数を以下のように表すことができます(図29を参照)。
この解析では、
理想的な電流ソースと無限大のゲインAVのトラン
ジスタ(Q3とQ4の出力トランスコンダクタンスを0と仮定)と仮定
しています。AD8011のオープンループの極未満の周波数での低ゲ
G
G
AV=――――――――――=――――――――
RF
G
RF
G×R1
1+―――+――
1+――+――
TO
AO
TO
TO
イン
(G)非反転動作の場合、
この仮定のオープンループ電圧ゲイン
およびこれに関連する入力誤差の値と実際の値は若干異なることに
なります。これはR1の値がここで導出した値より小さいため、入力
信号(VP)がQ3/Q4出力コンダクタンスを変調してしまうからで
非反転の場合(Gは正)
す。しかし反転動作の場合、実際のDC誤差と理論値のズレは小さ
くなります。
G
AV=――――――――――
1−G
RF
1+―――+――
TO
AO
AC伝達特性
以下のAC小信号伝達特性の式は、
単純な1極のモデルに基づいた
ものです。
AD8011を非反転で低い外部ゲインで動作させた場合、閉
反転の場合(Gは負)
ループ帯域幅(CLBW)周波数に近づくにつれて理論値からは若干
ズレますが、AC小信号特性を理解する上で重要です。
高い非反転ゲインで反転動作で動作させる場合、
前述の伝達式で
実際のデバイスのAC性能のよい近似が得られます。
VOとVPの関係を正確に求めるためには、まずAO(s)とTO(s)を求
める必要があります。以下の非反転ゲインの関係を利用します。
G
VO(s)/VP(s)=――――――――――――
G
RF
――――+――――+1
AO[s]
TO[s]
この場合、
図29. Z1開ループ入力インピーダンス
ここでGは前述した理想的なゲインです。R1=TO/AO(オープン
ループ反転入力抵抗)を使用すると、2番目の式(Gが正)は従来の
電圧帰還型のオペアンプの式に近くなります。AOとTOは、それぞれ
アンプの開ループDC電圧と抵抗ゲインです。この変数は、以下の
R1×gmf×A2
AO(s)=―――――――――
1−gmc×R1
――――――
sτ1
――――――
1−gmc×R1
ように記述できます:
R1×gmf×Α2
R1×A2
1−gmc×R1
AO=――――――またTO=――――;したがってR1=―――――
(1−gmc×R1)
2
2×gmf
ここでgmcは、正帰還トランスコンダクタンスで、1/gmfはデバイ
スD1/D2とQ3/Q4の熱エミッタ抵抗です。gmcとR1を乗じたもの
は、
負のDC開ループ・ゲインで、
標準値は−2500 V/V
(図30を参照)
です。
電圧帰還型や電流帰還型のアンプでは、この負のオープンループ
電圧ゲインは入力誤差(VP−VO/G=G/AO+RF/TO)となり、Gが
+3/−4を超える場合は通常負の値になります。例えばG=10、AO
=−2500、TO=1.2 MΩの場合、上のAVの式を利用すると誤差は−3
mVになります。
図30. オープンループ電圧ゲインと位相
− 10 −
REV.0
AD8011
ここでR1はA2/A2Bに対しての入力抵抗です。またτ1(=CD×
R1×A2)はオープンループの時定数です。
A2×R1
TO(s)=――――――――――
2
――――
sτ1+1
図32. オープンループ反転入力インピーダンス
は正の実数部の
ωが(gmc×R1−1)/τ1に近づくにつれ、Z(s)
I
値をとり、1/2gmfに近づきます。これによりAV(s)の複素項の入力
抵抗は1/2gmf(Q3/Q4の並列熱エミッタ抵抗)になります。前述
のA(s)
からクローズドループ帯域幅を計算し、他のパラメータに
V
定格設計値を使用すると、クローズドループ3 dB帯域幅はオープン
ループ角周波数(1/2πτ1)に1/[G/(2gmf×TO)+RF/TO]を乗
じたものに等しくなります。RFを固定した場合、3 dB帯域幅は低ゲ
図31. オープンループ・トランスインピーダンス・ゲイン
インの時にRF/TO項で決まり、また高ゲインの時にG/(2gmf×TO)
図31、図32、図33のACオープンループは、SPICEによるAD8011シ
項で決まります。例えば、定格設計パラメータ及びRI=1 kΩ(定格
ミュレーションに基づいているものであり、
外部の寄生容量を含ん
TO=1.2 MΩ)を利用すると、G=0の時(反転I-VモードでRNを除去)
でないことに注意して下さい(以下を参照)。しかし前述のACルー
の帯域幅は80 MHzとなります。またG=+10/−9の時は40 MHzと
プの式は、
シミュレーションおよびアンプのクローズドループ帯域
なります。
幅内の実際の性能と良く近似しています。通常gmc×R1は−4で、AO
(s)は極の右半分を占めます。時間領域では(AOの逆ラプラス変
容量負荷の駆動
換)、AO(s)は不安定になります。これによりVOはリニアな領域か
AD8011は、主に受動的な負荷を駆動するように設計されていま
ら指数的にハズレることになります。クローズドループの場合、帯
す。容量成分を持つ負荷を駆動する場合、図33に示すように小さな
域幅は大きく広がり、トランスインピーダンス・ゲインTO(s)がオ
抵抗を直列に接続することによって最適な周波数応答が得られま
ペアンプの安定性を大きく左右するようになります。これはs>>
す。図34には最適な値のRSERIESと容量負荷の関係を示しています。
1/τ1の場合、Z1が1/2gmfに近づくためです。図32を参照して下さ
大きな容量負荷を駆動する時の回路の周波数応答は、RSERIESとCLの
い。以下のZ(s)
とAV(s)の非反転伝達式によって、このことが分
1
関係が主要因となることに着目して下さい。
かります。
Sτ1
(1−gmc×R1) ―――――――+1
1−gmc×R1
=――――――――――――――――――
Z(s)
I
2×gmf(Sτ1+1)
[
]
G
AV(s)=――――――――――――――――――――――――
G
RF
G
RF
1+――+―― Sτ1(―――――+――)+1
AO
TO
2gmfTO
TO
[
REV.0
][
図33. 容量負荷の駆動
]
− 11 −
AD8011
図34. 0.1%まで30 ns以下の場合の推奨のRSERIESと容量負荷
図35. 平坦性とフィードバック
平坦性の最適化
さらに出力端子と外部部品の寄生容量を含めるとクローズド
前述したように、
上述のAC伝達式は単純な1極のモデルに基づい
ループ帯域幅はより広がり、これが非常に広い場合はクローズド
たものです。デバイスの内部寄生容量(主に図28のCP1/CP1Bと
ループ帯域幅前後でピーキングを生じます。このためステップ・セ
CP2)と外部パッケージ/基板の寄生容量(図34に示されているも
トリング応答特性が貧弱なものになります(約2 GHzまでのリンギ
の)により、前述のVO(s)式を利用して求めた帯域幅はAD8011の実
ングと過度のオーバーシュート)
。CLが5 pFを超える時、
外部に直列
際の小信号帯域幅より小さくなります。
ダンピング抵抗を設けることを推奨します。
セトリング時間とCLの
内部寄生容量を含めたものを考えると帯域幅は広がりますので、
前述の1極のモデルではなく、
主にCP1/CP2BとCP2によって作成さ
項を参照して下さい。負荷が小さい場合、出力容量はA2の出力上に
クローズドループ帯域幅近くの反射容量
(クローズドループ帯域幅
れる極(複素数)のモデルを考えなければなりません。これにより
>fT/B)
として現れ、またより高い周波数では負の抵抗成分として
閉ループのダンピング比(ζ)の設計値は0.6となり、クローズド
現れる場合があります。この2つの現象は負荷Cに比例します。こ
ループ帯域幅は増加し、1極のモデルで計算した時の約1.3倍以上に
の反射容量と負の抵抗成分は、それぞれA2/sの位相余裕度と高周
なります(外部ゲインを+2/−1に最適化した場合)。しかし外部
波“L×C”ピーキングに影響を与えます。
(前述した)外部直列抵抗
非反転ゲイン
(G)が増加すると、実際のクローズドループ帯域幅の
を使用すると、A2の出力に対して零点を発生し、このピーキングと
AC応答は1極のモデルで計算したものに近づきます。
リンギングの影響を減少できます。抵抗性の負荷が大きい場合、こ
さらに反転端子と外部部品の寄生容量を含めるとクローズド
の影響を取り除くためにより大きな負荷容量が必要となります。
ループ帯域幅はより広がり、非反転モードで動作させる場合、CPと
特に電源及び反転/非反転入力上の高い誘電寄生容量は、過渡状
RN‖RFによってクローズドループの零点を発生します。
RFを適切に
態で出力上に低レベルの変調RFリンギングを発生する場合がありま
選択し、
また基板レイアウトに注意すれば
(レイアウトの項を参照)
す。これを避けるためには、適切なRFの選択と基板レイアウト技術
容量は約1.5 pFです。これによりG=+1に低下した時の帯域幅は約
が必要です。寄生リード・インダクタンスが比較的高い場合(およ
2倍(計算値と比べて)に増加します。そしてゲインを+6以上にし
そ15nh以上)、L×Cリンギングを起こす場合があります。ここでの
た時は、極(複素数)の帯域幅に近づきます。また前述したように、
L/Cは、コレクタから基板までのデバイス容量を含む入力端子、外
1極の応答でも良く近似することができます。
1/2 gmfとCPが作成す
部部品、リード端子等の浮遊容量です。AC領域では、このL×C共振
る極は、
AD8011を不安定にしないように動作することにも留意して
効果は通常現れませんが、
オペアンプのクローズドループ帯域幅を
下さい。
正の低いゲインの場合にこの寄生容量は帯域幅に大きな影
大きく超えた所ではクローズドループ応答に現れる場合がありま
響を与えます。しかし反転動作の場合、CPはクローズドループ帯域
す。
幅変動に余り影響を与えません。
− 12 −
REV.0
AD8011
高ゲインでの帯域幅の増加
入力が1 Vの時、R3を通じて加算ノードに1.2 mAの電流が流れま
前述したように、RF(フィードバック・ゲイン設定抵抗)が一定
す。そしてこの電流はR1に流れます。これらの電流はバランスをと
の場合にRNが低下すると(Gが増加)AD8011のクローズドループ帯
りあうのでR2へ流れる電流はありません。つまり出力は、非反転入
域幅は減少します。単にRFの値を小さくすれば、この影響を抑える
力あるいは1.6 Vと同じ電圧になります。
ことができます。
つまりゲインが+2/−1を超える場合は部分的に
AD876の入力部は、直列のMOSFETスイッチを備えています。こ
デバイスの最適な帯域幅を得ることができます。しかしAD8011は、
のスイッチは、変換レート毎にON/OFFします。このMOSFETは、
AV=+2/−1およびRF=1 kΩの場合に最適なAC性能を得ることが
デバイス内部のホールド・コンデンサに接続されています。
できることに注意して下さい。
Gと前述のV(s)
の式を使用すると、
O
MOSFETのONインピーダンスは約50Ωです。ホールド・コンデン
以下の関係を導き出すことができます:
サの容量は約5 pFです。
G=1+RF/RN の場合RF=1k+2−G/2gm(非反転動作)または:
G=−RF/RN の場合RF=1k+G+1/2gm(反転動作)
最悪の場合、
AD876の入力電圧は1サンプリング・サイクルでフル
スケール分(2 V)変化します。入力MOSFETをONした時、オペアン
G=5/−4で、これに相当RNが125Ωのとき、120Ωの1/2gmを利
プの出力はMOSFETの直列抵抗成分を通じて充電したホールド・コ
用するとRFは500Ωです。これにより、RL=1 kΩでAD8011の帯域幅
ンデンサに接続されます。他に抵抗成分がなければ、流れる瞬間電
は設計値180 MHz(typ)に近づきます。またゲインが+7/−6を超
流は40 mAです。これはオペアンプのセトリング性能に影響を与え
える場合、RFは400Ω以下の値にしてはなりません。さもなければ
ます。
100Ωの抵抗を直列に接続すれば、MOSFETのスイッチON時に流
ACピーキングを発生します。したがってRFの値を最小値にすれば、
Gの値が大きい時に最適な帯域幅を得ることになります。しかしゲ
れる瞬間電流を13 mAに制限できます。この抵抗値は大きな値にし
インが+7/−6を超える場合、
クローズドループ帯域幅は減少しま
ないで下さい。大きくすればオペアンプの高周波性能に影響を与え
す。上記の記述はあくまで近似です。
ます。
単電源のA/Dコンバータの駆動
ns間閉じます。10ビット精度にセトリングするのに、
時定数の約7倍
AD876のサンプリングMOSFETは、
各サイクルの半分あるいは25
CMOS A/Dコンバータを駆動するオペアンプの需要が増してき
の時間が必要です。直列の100Ω抵抗と50ΩのON抵抗とホールド・
ています。高分解能、高速変換レート、入力スイッチング確実性の
コンデンサによって、750 psの時定数になります。これらの値はセ
実現には、優れたセトリング性能を持つオペアンプを要求します。
トリングに十分な時間的余裕を残すことになり、
信号発生器による
さらに現在のA/Dコンバータは、+5 V単電源で動作し、消費電力
駆動に比べA/Dコンバータの駆動に最適な製品といえます。
が小さいものが数多くあります。
したがってオペアンプも単電源で
AD8011は、AD876 A/Dコンバータのバッファに最適です。この
動作し、消費電力が小さいことが非常に重要です。AD8011は、上記
場合、AD8011の発生する歪みはA/Dコンバータの発生する歪みよ
のようなA/Dコンバータの駆動に最適な製品です。
り小さくなります。
図36は、単電源動作、消費電力はわずか140 mWの10ビット、20
MSPS、A/DコンバータAD876の駆動にAD8011を使用した回路で
す。AD8011はレベル・シフトと駆動用に使用しています。この際
信号発生器で駆動しているときに比べ、A/Dコンバータに性能の
低下はありません。
AD876のアナログ入力範囲は、約2.6 Vを中心に2 Vです。抵抗回路
とバイアス電圧によって、レベル・シフトと増幅を行っています。
つまり0 Vから1 Vの入力信号をAD876の要求に合わせて1.6 Vから3.6
Vに変換しています。
1.6 V DCで、AD8011の非反転入力のバイアスを行うことでオペア
ンプがリニアな動作をする場合、反転入力は1.6 V DCになります。
また入力が0Vの時、
R1を通じて加算ノードに3.2 mAの電流が流れま
す(1.6 V/499Ω)。さらにR3を通じて加算ノードに1.2 mAの電流が
流れます(3.6 V−1.6 V)/1.65 kΩ。これらの電流の差(2 mA)はR2
に流れなければなりません。この電流は加算ノードに流れます。こ
れは出力電圧を加算ノードより2 V高くするか、3.6 Vにするための
ものです。
REV.0
− 13 −
図36. AD8011でAD876を駆動
AD8011
レイアウト上の考察
AD8011の高速特性を利用する上で、
基板レイアウトと部品選択に
注意を払うことが重要です。表1はAD8011の部品の推奨値です。図
38∼図40は、AD8011評価ボード(8ピンSOIC、ゲイン=+2)のレイ
アウトを示しています。
適切なRF設計技術と低寄生容量の部品を選
択することが基本です。
プリント回路基板は、
低インピーダンスのグラウンド面を実現す
るために基板の部品側の使用しない部分はすべてグラウンド面で覆
うべきです。浮遊容量を減らすために、グラウンド面は入力端子か
ら離して下さい。
電源デカップリング用にチップ・コンデンサを使用して下さい
(図37参照)。一方の端子はグラウンド面に接続し、もう一方を各電
源端子の3 mm以内に接続して下さい。また大きな値(4.7μF∼10μ
F)のタンタル電解コンデンサを並列に接続して下さい。
フィードバック抵抗は、
反転入力端子上の浮遊容量を抑えるため
にこの端子の近くに配置して下さい。反転入力上での容量変動を
1.5 pF内に抑えれば、優れた高速性能を維持できます。
信号ラインが長い時(2.5 cm以上)は、ストリップ・ライン設計技
術を使用します。
この設計ではシステムの適切なインピーダンスを
図37. 反転構成と非反転構成
利用し、また各々終端します。
表1. 標準的な帯域幅vs.ゲイン設定抵抗
ゲイン
RF
RG
RT
小信号−3 dB帯域幅(MHz)、VS=±5 V
−1
1000Ω
1000Ω
52.3Ω
150
−2
1000Ω
499Ω
54.9Ω
130
−10
499Ω
49.9Ω
−
140
+1
1000Ω
−
49.9Ω
400
+2
1000Ω
1000Ω
49.9Ω
250
+10
422Ω
47.5Ω
49.9Ω
100
+6
1000Ω
200Ω
49.9Ω
70
+6
500Ω
100Ω
49.9Ω
170
入力インピーダンス特性が50Ωの場合、RTを選択します。
出力インピーダンス特性の場合、ROを選択します。
− 14 −
REV.0
AD8011
図38. 評価ボード・シルクスクリーン(上面)
図39. 評価ボード・レイアウト(ハンダ面)
図40. 評価ボード・レイアウト(部品面)
REV.0
− 15 −
AD8011
外形寸法
サイズはインチと(mm)で示します。
8ピン・プラスチックDIP
(Nパッケージ)
8ピン・プラスチックSOIC
うにやさ
ゅ
い
し
ちき
PRINTED IN JAPAN
(Rパッケージ)
み
る
「この取扱説明書はエコマーク認定の再生紙を使用しています。
」
ど
りをまも
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REV.0