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2. 4GHz 無線 LAN 用細径漏洩同軸ケーブル LCX - 5D
鈴 木 文 生 1
ケーブル・機器開発センター
Thin Leaky Coaxial Cable LCX-5D for 2.4GHz Wireless LAN
F. Suzuki
従来の漏洩同軸ケーブル(Leaky coaxial cable, 以下 LCX と記す)は,トンネル内や鉄道沿線などへの
布設用に長距離で使用することを前提に設計されています.従って,低い伝送損失を得るために外径は
15 ~ 60 mm と太く,その結果重いことから布設工事には特殊な技術が要求されていました.しかし,最
近,事務所や会議室などの狭い範囲に絞って通信ができ,簡単に設置できる無線 LAN 用アンテナとして
の LCX の需要が高まっています.
フジクラでは,LCX の近傍に安定した通信エリアを確保でき,かつ,設置が容易な外径 7 mm で質量
65 g/m と細径で軽量の LCX - 5D を開発しました.本製品の電磁波放射特性を含む電気特性,および,耐
環境性や機械特性の評価を行い良好であることを確認しました.
A conventional Leaky coaxial cable (LCX) is 15 mm to 60 mm diameter large and accordingly heavy because it
is designed for longer distance installation in tunnels or railways, and requires a special technique for the installation. Recently, the demand of LCX as wireless LAN antenna for narrow area networks such in of f ices or meeting
rooms is increasing.
Fujikura has developed LCX - 5D which is only 7 mm diameter large and 65 g/m weight, provides stable wireless LAN connectivity along the length of the cable. The cable is installed more easily than conventional leaky coaxial cables. We have verif ied that the cable shows good performance in the electric characteristics including
electromagnetic radiation, environmental resistance and mechanical strength.
の太い LCX は必要なく,しかも,取り扱い性の優れた細
1.ま え が き
くて軽い LCX が要求されました.そこで当社は,現存す
LCX は,地上と列車間の通信用に鉄道沿線,あるいは,
る LCX の中では最も細径,軽量で従来の LCX の放射特性
防災無線用に地下街やトンネル内に布設されています.
と同等の特性を有する LCX - 5D を開発したので報告しま
そして,長期の屋外使用に耐える高い堅牢性や保守の簡
す.
便さ等の優れた特長によって半世紀におよぶ実績ある同
軸ケーブル型アンテナです 1),2).これまでの LCX の通信
2.構 造
カバーエリアは,長さ方向に数 100 m,幅方向に数 10
m と長く広いものでした.また,LCX を布設する為には専
LCX - 5D の外観を図 1 に示します.構造は,図 2 に
門の工事が必要でした.
示す様に,直径 2 mm の中心導体を直径 5 mm の発泡絶
最近,無線 LAN を使用した事務所や会議室のような狭
縁体で囲み,その上に外部導体を縦添えし,更にノンハ
い通信エリアが数多く設置されるようになっています.
ロゲン難燃ポリエチレンで被覆し外径は 7 mm です.外
このような狭い通信エリアでは,エリア内での確実な通
部導体には,周期的に配置したスロットと呼ぶ長穴を穿
信確保と秘密情報の外部への漏洩を抑える必要がありま
す.しかし,一般のアンテナでは確実な通信を確保しよ
うとして送信電力を増加させると電磁波の漏洩の恐れが
ありました.そこで,ケーブルの近傍に沿って安定した
通信エリアを形成できる LCX が期待されています.狭域
エリアで使用する LCX の長さは,長くても 10 m 程度の
ため,伝送損失を低く抑えた LCX - 10D, - 20D, - 43D 等
図 1 LCX - 5D の外観
Fig. 1. Appearance of LCX - 5D.
1 通信グループ長
92
2 . 4 GHz 無線 LAN 用細径漏洩同軸ケーブルLCX- 5 D
中心導体
絶縁体
(2mmφ) (5mmφ)
外部導体
シース
(7mmφ)
波面
スロット
放射角 θ
図 2 構造と寸法
Fig. 2. Structure and dimensions.
φ
信号源
波源
(スロット)
孔してあり,そこから LCX 内部と周辺の電磁波信号を送
/2
/2
z
/2
図 3 LCX からの放射イメージ
Fig. 3. Radiation image from LCX.
受信します 3).
スロットの形状は,従来からよく使用されているジグ
ザグ配列型としてその設計手法を使用しました 4).LCX で
チ,角度,長さ,幅を決定しました.
は多くの放射モードが存在します.図 3 に LCX からの
放射波のイメージを示します.各スロットを微小な波源
3.コ ネ ク タ
として,位相のそろう方向に放射波は進行します.放射
波の進行方向である LCX の法線方向からの傾きθを放射
LCX - 5 D の構造は新しいので従来のコネクタは使用で
角と呼びます.開発した LCX - 5D は,周波数 2. 4 GHz で
きないことから,専用のコネクタを開発しました.コネ
最低次のモードだけを放射させて LCX からの電磁波強度
クタの構造はマイクロ波周波数帯でよく使われている
の安定化を考慮しました . このモードは,LCX を軸として
SMA 型とし,特性インピーダンスは 50 Ωとしました.
周方向φの電界成分を有するEφ偏波の放射波です.
開口部はプラグとジャックとの 2 種類を用意しました.
コネクタの外観を図 4 に示します.
Eφ 偏波が放射波となる条件は式(1)となり,これよ
り最低次 m=−1 モードであるE φ,−1 モードの放射角
θφ,−1 は式(2)で計算できます .
c-b g ◊
P
P
sin q f,m = 2np ……………(1)
- p C + k0 ◊
2
2
ただし,m = 2 n + 1(n = 0,± 1,± 2,…)
q f,-1 = sin -1 c e r -
l0
C … ………………………(2)
P
(a)プラグ
(b)ジャック
図 4 LCX - 5D 用 SMA コネクタ
Fig. 4. SMA - type connectors for LCX - 5D.
ただし,P はスロットのピッチ,λ0 は空間波長,λ g
はケーブル内波長,β g と k 0 はそれぞれケーブル内と空
間での位相定数でβg=2π/λg=2π√
εr /λ0,k 0=2π/λ0,
そして,εr は絶縁体の比誘電率です.開発した LCX - 5D
4.電 気 特 性
は,θを−25 °で放射方向が入射電力側を向くバックフ
ァイヤ型で設計しました.
今回開発した LCX - 5D の代表的な電気特性である結合
また,LCX の送受信特性は,一般に,結合損失 Lc で示
損失,伝送損失,電圧定在波比(VSWR),および,特性
されます.結合損失は,LCX への入射電力 Pin と LCX から
インピーダンスの測定値を表 1 に示します.結合損失,
ある距離離れた位置にある半波長標準ダイポールアンテ
伝送損失,電圧定在波比の測定周波数は 2. 4 GHz です.
ナからの出力 Pout から式(3)によって計算します.
結合損失の測定系を図 5 に示します.結合損失は,LCX
L C = -10 log c
Pout
C
Pin
から 1. 5 m 離れた位置での値です.伝送損失は 2. 4 GHz
で 0. 46 dB/m であり,その周波数特性を図 6 に示しま
(dB) …………………………(3)
す.
LCX の長さ,伝送損失,結合損失,および,LCX と移
動体までの距離から,LCX の入射端から移動体側のアンテ
ナまでの合計損失を知ることができるので LCX を使用し
た無線システムの設計ができます.開発した LCX - 5D の
スロットの形状は,結合損失が 60 dB となるようにピッ
93
2012 Vol. 2
フ ジ ク ラ 技 報
第 123 号
LCX からr= 0. 5 m,1. 0 m,1. 5 m の位置におけるz
5.結 合 損 失
方向に沿った結合損失の変化を図 8 に示します.放射方
LCX - 5 D の放射指向性を把握する目的で LCX - 5D 周辺
向における結合損失の変動は 5 dB 以内に抑制されてお
のE φ 偏波に対する結合損失分布を測定した結果を図 7
り,この値は従来の LCX - 10D や LCX - 20D と同じ程度で
に示します.電波暗室の内部で長さ 3 m の LCX を電波吸
す.
収体の上に置き,図 5 の結合損失測定系で測定しまし
た.図 5 に示すように LCX へ電力を入射し,LCX の出射
側は 50 Ωで終端しました.測定範囲は,LCX の軸方向
(z)に 0 ~ 5 m,半径方向(r)に 0. 25 〜 2. 25 m です.
ダイポールアンテナ
LCX は図 7 に示す様に x=1 ~ 4 m の位置におきました.
出力:Pout
図 7 より,放射方向は設計通りに LCX からの法線に
対して給電側に約−25 °傾斜しており,バックファイヤ
型です.また,結合損失も r=1. 5 m で約 60 dB と設計通
1.5m
りでした.バックファイヤ型 LCX では,終端部にて結合
LCX
損失が LCX から遠ざかるに従って急激に増加して不感地
入力:Pin
が発生することに留意する必要があります.なお,EZ 偏波
の結合損失は,Eφ偏波よりも 10 dB 程度大きく放射は弱
くなっています.しかし,終端付近では,LCX の不連続に
図 5 結合損失の測定系
Fig. 5. Measurement system of coupling loss.
よって EZ 偏波の放射が存在するので注意が必要です.
1.0
表 1 LCX-5D の電気特性
Table 1. Electric characteristics of LCX - 5D.
伝送損失
結合損失(dB)
0.8
60
伝送損失(dB/m)
0.46
電圧定在波比
1.2以下
特性インピーダンス(Ω)
0.6
(dB/m)
0.4
at20℃
51
0.2
0.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
周波数(GHz)
−25°
図 6 伝送損失の周波数特性
Fig. 6. Frequency dependence of transmission loss.
放射方向
2.25
2
1.25
1
から半径方向
1.75 L
C
X
1.5
−40
r=0.5m
0
結合損失
0.5 (m)
0.25
入力
LCX
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
5
2.75
3.75
4.75
0.25
0.75
1.25
1.75
2.25
3.25
4.25
0
−Lc
(dB)
LCX 軸方向 (m)
‒100‒‒95
‒65‒‒60
‒95‒‒90
‒60‒‒55
‒90‒‒85
‒55‒‒50
‒85‒‒80
‒50‒‒45
‒80‒‒75
‒45‒‒40
‒75‒‒70
‒70‒‒65
‒40‒‒35
‒35‒‒30
r=1.0m
r=1.5m
−50
0.75
−60
−70
放射方向
−80
−90
1
2
3
LCX 軸方向 (m)
図 7 LCX 周辺の結合損失の分布
Fig. 7. Coupling loss on the vicinity of LCX - 5D.
図 8 結合損失の変動
Fig. 8. Fluctuation of coupling loss along LCX - 5D.
94
4
2 . 4 GHz 無線 LAN 用細径漏洩同軸ケーブルLCX- 5 D
な通信への応用の可能性を示しました.耐環境性能は同
6.耐 環 境 性 ,機 械 強 度
タイプの同軸ケーブルと同様であることを確認しました.
また,機械強度を調査することにより実用上問題ないこ
高温保持試験(80 ℃)
,高温高湿保持試験 80 ℃,85 %
とを確認しました.
RH,低温保持試験(−40 ℃)
,および,熱衝撃試験(−
40 ℃ / 80 ℃)を行いました.試験前後の電気特性を測
同軸ケーブル型アンテナである LCX は,ケーブルに沿
定した結果,結合損失の変化はほとんどなく,他の特性
った周囲に安定した通信領域を確保できます.また,電
も一般の同軸ケーブルと同様で良好な結果を得ました.
磁波を反射する金属体が存在して電波不感地が発生する
機械強度試験については,LCX - 5D のケーブル部分の屈
複雑な空間では,一般のアンテナでは多くの台数を必要
曲試験および破断試験,ケーブル部分とコネクタ接続部
としますが LCX を使用することによって台数を削減でき
分の屈曲試験および破断試験,更に,シース上から金属
省エネ効果もあります.今後も,LCX の優れた特徴を生か
片を押し当てた側圧試験を行いました.これらの試験結
し,一般アンテナとのすみわけを行いながら,より高性
果から,LCX - 5D の破断強度は 500 N 以上,LCX - 5D と
能で使い安い LCX を開発します.
コネクタ部との破断強度は 150 N 以上でした.また,側
圧試験では 400 N/15 mm を与えても減衰量と結合損失に
参 考 文 献
問題はありませんでした.なお,屈曲試験から LCX - 5 D
の許容曲げ半径として,取扱い中は 250 mm 以上,固定
1) 岸 本 ,
時は 100 mm 以上を得ました.
佐々木:LCX 通信システム,電子情報通信学会,
コロナ社,pp.1 - 32,1982
2) 高 野 ほ か:「 ギ ガ ヘ ル ツ 対 応 広 帯 域 漏 洩 同 軸 ケ ー ブ ル
(WBLCXTM)」,フジクラ技報,第 110 号,pp.9 - 15,2006
7.む す び
3) 鈴 木ほか:「細径漏洩同軸ケーブル LCX - 5D」, 電子情報
外径が 7 mm で質量 65 g/m の世界的に最も細径で軽
通信学会総合大会 , B - 1 - 156, 2012
量の LCX - 5D を開発しました.LCX 周辺に安定した通信
4) 稲 田ほか:「漏洩同軸ケーブル」,藤倉電線技報,第 46
領域を実現でき,LCX 近傍に通信領域を制限するセキュア
号,pp.19 - 28,1972
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