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超細径漏洩同軸ケーブルZLCX-2.
5D
エネルギー・情報通信事業部
丹 羽 敦 彦 1
ケーブル・機器開発センター
鈴 木 文 生 2
Super-Thin Leaky Coaxial Cable ZLCX-2.5D
A. Niwa, and F. Suzuki
ワイヤレス通信の拡大に伴い,会議室や機器内などの狭い空間に絞って通信ができ,しかも,簡単に
設置できる細径で軽量なアンテナである漏洩同軸ケーブル(Leaky coaxial cable, 以下 LCX と略す)への
要求が高まっている.当社では,外径 4 mm,質量 20 g/m,電気特性は 2 . 4 GHz において結合損失
57 dB,伝送損失 1 . 3 dB/m の LCX を開発した.現存する LCX の中では最も細径,軽量であり,その優
れた性能により狭域での 2 . 4 GHz 帯無線 LAN 用アンテナに適用できる.
Recently, demand for leaky coaxial cables (abbreviated as LCX hereinafter) as a thin and lightweight antenna
for a small area network such in meeting rooms or instruments is increasing. We have developed a ZLCX - 2 . 5 D
that is the thinnest and the lightest at present, whose diameter is 4 mm and whose weight is 20 g/m. The measured coupling loss and transmission loss at 2 . 4 GHz are 57 dB and 1 . 3 dB/m, respectively. As this LCX has the
superior performances, it is applicable to an antenna used for 2 . 4 GHz wireless LAN system in a small space.
を利用した方が伝搬損失や遅延プロファイルを改善する
1.ま え が き
効果が得られる利点があり,開発が進められている 1).
無線通信の普及は様々な分野でめざましく,特に携帯
上記のように狭い通信エリアに適用する LCX は長い
端末向けの発展は著しい.その結果無線 LAN や携帯電
必要はなく,取扱い性に優れる細径で軽量な LCX が望
話はすでにあらゆる場所で使用できつつある.さらに昨
まれる.すでに当社で製品化された外径 7 mm,質量
今では,スマートフォンの普及と相まって携帯端末での
65 g/m の LCX は多くの顧客から支持を得ている 2).こ
通信速度の高速化,高機能化が進んでおり,無線 LAN で
こでは,さらに細径で可とう性に優れた外径 4 mm,質
は従来よりも通信速度の速い規格である IEEE 801 . 11 n
量 20 g / m と 超 細 径 軽 量 の LCX で あ る ZLCX - 2 . 5 D を
が広く普及し,携帯電話ではいわゆる LTE 規格のサー
開発したので報告する.
ビスが開始されている.
一方,最近では狭い限られたエリアで無線通信環境を
2.基 本 構 造
構築したいという市場要求が増えている.この背景には
2 つあり,1 つは通信エリアを限定することでセキュリ
ケーブル外径が 4 mm のような超細径 LCX は,従来
ティを向上させたいという要求であり,もう 1 つは移
のジグザグ型スロット構造 3)4) では,スロットのサイズ
動通信のデータトラフィックが特に大都市部で逼迫して
が小さくなるために十分な電波の放射が難しい.そこ
おり,同じ周波数を多数の場所で使用できるようにして
で,ZLCX - 2 . 5 D のスロット構造は,ジグザグ型のスロッ
通信容量を拡大させる要求である.ピコセル,フェムト
トではなく,図 1 に示すように外部導体として金属テ
セ ル 等 の よ う に 通 信 エ リ ア を 狭 く す る こ と で SNR
(Signal to Noise Ratio)や周波数利用効率を向上させる
シース
低密度編組
絶縁体
手法が導入されている.
また,これらの用途とは別に,ICT 機器内のハーネス
をワイヤレス化する研究が進められている.ICT 機器内
では電波を反射,遮へいする金属部品が多数使われてい
ることから,チップアンテナ同士で通信するよりも LCX
開口部
遮へい部
図 1 ZLCX - 2.5D の構造
Fig. 1. Structure of ZLCX - 2.5D.
1 国内インフラ技術部
2 メタルケーブル・機器開発部
26
内部導体
超細径漏洩同軸ケーブルZLCX-2.
5D
ープで絶縁体を覆う遮へい部と金属テープのない開口部
長手方向の位置を x,そして,虚数単位を j とすると,Z 1
を設ける部分遮へい型スロットとし,さらにその外側を
側 か ら Z2 側 へ の 境 界 面 で の 電 圧 反 射 係 数 は
低密度編組とした.
Z 2 - Z1
,
Z 2 + Z1
周期的な開口部から電波を漏洩させることで,従来の
逆 に Z2 側 か ら Z1 側 へ の 境 界 面 で の 電 圧 反 射 係 数 は
ようなジグザグ型スロット構造の LCX と同様に指向性
を持つ一種のアレイアンテナとして動作させることがで
Z1 - Z 2
と表される.スロットピッチとケーブル内での
Z 2 + Z1
きる.さらに遮へい部と開口部の長さを同じにすること
は下記のよ
信号の波長が一致した場合の反射電圧 V(x)
R
で,ジグザグ型スロット構造の LCX に特有のスロット
うに表すことができ,すなわち反射波の位相は逆転して
のピッチによって発生する電気的共振を抑制することが
打ち消し合うことになる.
できる.ZLCX - 2 . 5 D の外観と内部を図 2 に示す.
È Z - Z1
˘
Z - Z2
VR ( x) = V0 Íd 2
D exp (jbx) + d 1
D exp {j (bx + 2 p)} + � ˙
ÍÎ Z 2 + Z 1
˙˚
Z 2 + Z1
=
3.共 振 を 抑 制 す る 手 法
=
一般に LCX ではスロットピッチとケーブルを伝搬す
る信号の波長が一致するとケーブル内で共振が生じ反射
n-1
È Z2 - Z 1
 V ÍÍÎd Z + Z
i= 0
0
n-1
2
ÂVd
i= 0
0
1
Dexp {j (bx + 4ip)} + d
˘
Z 1 - Z2
D exp [ j {bx + (4i + 2) p}] ˙ … …(1)
˙˚
Z 2 + Z1
Z2 - Z 1 + Z 1 - Z2
Dexp (jbx)
Z 2 + Z1
=0
電力が増大して電圧定在波比(Voltage Standing Wave
厳密にはケーブルの伝送損失を考慮すべきだが,隣接
Ratio:以下 VSWR と略す)が悪化する.従って,使用
す る 境 界 面 間 の 距 離 は 無 線 LAN の 周 波 数 で あ る 2 . 4
する周波数帯からこの共振周波数をはずす必要がある.
GHz 帯では約 10 cm,5 GHz 帯では約 5 cm であり無視
これは図 3 に示すように LCX のスロット部では,スロ
した.
ットの無い部分に比べインピーダンスがわずかに大きい
LCX において放射角度は一般に図 5 のように定義さ
ため各スロットから反射が生じ,その結果,ケーブル内
での信号の波長がスロットピッチと一致する場合,反射
LCX
波の位相が揃って強め合うためである.
次に,図 4 を使用して部分遮へい型構造の外部導体
ある瞬間のケーブル内の位相
を持つ LCX でスロットピッチとケーブル内での信号の
波長が一致した場合を考える.開口部は等価遮へい径が
大きいため,遮へい部よりもインピーダンスがわずかに
ケーブルのインピーダンス
大きい.このときの開口部のインピーダンスを Z 1,遮
Z1
が得られる.入力電圧を V 0,伝搬定数をβ,ケーブル
わずかに低い
Z1
Z2
Z1
Z2
Z1
インピーダンス境界面でわずかに反射
Z1
Z2
Z1
Z2
Z1
Z2
Z1
Z2
Z1
Z2
へい部のインピーダンスを Z 2 とすると,Z 1 > Z 2 の関係
Z1
わずかに高い
Z2
Z1 - Z 2
Z 2 + Z1
Z 2 - Z1
Z 2 + Z1
境界面の電圧反射係数
ある場所での反射電圧
È Z - Z1
˘
Z - Z2
VR ( x) = V0 Íd 2
D exp (jbx) + d 1
D exp {j (bx + 2p)} + � ˙
ÍÎ Z 2 + Z 1
˙˚
Z 2 + Z1
0 となる
図 4 部分遮へい型 LCX での共振状態模式図
Fig. 4. Schematic illustration of resonance in
partial - shield - type LCX.
図 2 ZLCX - 2.5D の外観と内部
Fig. 2. Appearance and inside view of ZLCX - 2.5D.
放射角度
スロットピッチ
スロット
ξ
電磁波
信号入力
ある瞬間の位相
信号入力
図 3 スロット型 LCX での共振状態の概略
Fig. 3. Schematic illustration of resonance in slot - type
LCX.
図 5 LCX から電磁波の放射角度
Fig. 5. Radiation angle of electromagnetic wave from LCX.
27
2013 Vol. 1
フ ジ ク ラ 技 報
第 124 号
れる.スロットピッチとケーブル内の信号の波長が一致
結合損失 LC はケーブル内を伝搬する電力 Pi と外部空
すると放射角度は 0 °となり,ケーブルから垂直方向へ
間に置かれた半波長標準ダイポールアンテナの受信電力
の放射となる.放射角度が大きいと図 6 のようにケー
Pr との比により,以下の式で定義される.
ブル端末部分に電波不感地帯が生じやすいため放射角度
は小さい方が好ましい.特に短く使う場合が多いと考え
L C = - log 10
られる超細径 LCX では,長く使用される太い径の LCX
に比べ端末部分の不感地帯の比率が大きくなりやすいの
Pr
Pi
(dB) … ……………………………(2)
本文で示す結合損失は,特に断りがない限り LCX か
で, 放 射 角 度 は 0 °に 近 い 方 が 好 ま し い. 開 発 し た
ら 1 . 5 m 離れた場所での値である.
ZLCX - 2 . 5 D は,共振を抑制して放射角を 0 °とするこ
約 4 m の ZLCX - 2 . 5 D について,2 . 4 GHz における Ez,
とが可能である.ただし,スロットピッチがケーブル内
及び,Eθ 偏波の結合損失の測定結果を図 8 に示す.主
の信号の波長の整数倍のときは共振を抑制することが可
放射は EZ 偏波であり,Eθ 偏波と比較して 10 dB 以上小
能だが,0 . 5 倍,1 . 5 倍,…とnを 0 を含む正の整数と
さな結合損失となっている.また変動幅も 3 dB 程度と
して n + 0 . 5 倍のときは共振の抑制はできない.
小さく安定している.なお結合損失値は編組密度により
調整が可能である.
結合損失測定をケーブル長さ方向だけでなく半径方向
4.構 造 と 電 気 特 性
についても測定し,その分布を調査した結果を図 9 に
示す.長さ 3 m のケーブルからの電磁波がほぼ垂直方
2 . 4 GHz 帯無線 LAN 用に開発した ZLCX - 2 . 5 D の構造
向(0 °方向)に放射されていることが分かる.
と 電 気 特 性 を, 表 1 と 表 2 に そ れ ぞ れ 示 す. な お,
2 . 4 GHz での放射角度を 5 °として設計した.
4.1 結合損失
r
LCX を含む空間に対して,図 7 に示すように LCX の
半径方向を r,長さ方向を z,円周方向をθとする円筒
座標系を適用した時,ジグザグ型スロットの LCX では
θ方向の電界成分である Eθ を主に使用するのに対し,
部分遮へい型スロットを有する超細径 LCX では z 方向の
z
θ
電界成分 Ez を使用する.
不感地帯
通信可能領域
通信可能領域
放射角度が大きい時
図 7 LCX の円筒座標表示
Fig. 7. Cylindrical coordinate for LCX.
放射角度が小さい時
図 6 LCX 端末部に生じる不感地帯の模式図
Fig. 6. Blind zone at end of LCX.
100
90
表 1 構造
Table 1. Structure and dimensions.
80
軟銅線
絶縁体
発泡ポリエチレン
外部導体
銅テープ,すずめっき軟銅線編組
シース
ノンハロゲン難燃ポリエチレン,外径 4 mm
概算質量
20 g/m
結合損失
内部導体
70
(dB) 60
Eθ
50
表 2 電気特性
Table 2. Electric characteristics.
特 性
40
EZ
0
2
数 値
結合損失
57 dB at 2 . 4 GHz
減衰量
1 . 3 dB/m at 2 . 4 GHz
VSWR
1 . 2 以下 2 . 4 ~ 2 . 5 GHz
インピーダンス
53 Ω
4
位置(m)
信号入力
ケーブル布設位置
図 8 2.4 GHz での結合損失測定結果
Fig. 8. Coupling loss at 2.4 GHz.
28
6
超細径漏洩同軸ケーブルZLCX-2.
5D
1.7
1.5
1.3
1.1
高さ
0.9
0.7 (m)
0.5
0.3
0.1
0 0.2 0.4 0.6 0.8
位置(m)
信号入力
1
1.2 1.4 1.6 1.8
2
2.2 2.4 2.6 2.8
3
3.2 3.4 3.6 3.8
4
4.2 4.4 4.6 4.8
5
ケーブル布設位置
90−85
85−80
80−75
75−70
70−65
65−60
60−55
55−50
50−45
45−40
図 9 LCX 周辺の結合損失の分布
Fig. 9. Coupling loss on the vicinity of LCX.
10
6
9
5
減衰量
8
4
7
3
VSWR 6
5
(dB/m)2
4
1
0
3
0
1
2
3
2
4
1
0
周波数(GHz)
1
2
3
4
周波数(GHz)
図 10 伝送損失の周波数特性
Fig. 10. Frequency dependence of transmission loss.
図 11 電圧定在波比(VSWR)の周波数特性
Fig. 11. Frequency dependence of VSWR.
4.2 伝送損失
では困難だった共振現象を抑制し,LCX から放射角 0 °
ZLCX - 2 . 5 D の伝送損失の周波数特性を図 10 に示す.
の垂直放射を実現した.今後は,他の周波数帯域へも設
2 . 4 GHz における伝送損失は 1 . 3 dB/m である.
4.3 電圧定在波比(VSWR)
計を拡張する.超細径という特徴を生かし,会議室など
ZLCX - 2 . 5 D の VSWR の 周 波 数 特 性 を 図 11 に 示 す.
の狭域エリア,ICT 機器内などの狭小空間,そして,セ
図 11 より使用周波数帯である 2 . 4 GHz 付近の VSWR
キュリティを確保した通信用途において幅広く適用され
が 2 以下に抑制できていることが分かる.なお,この
ることが期待できる.
VSWR は 設 計 の 改 善 に よ っ て さ ら に 抑 制 可 能 で あ る.
従って,従来のスロット型 LCX では使用できなかった
参 考 文 献
共振点付近でも可能となり,放射角 0 °およびその近傍
での運用ができる.
1) 岡 ほか:「狭小かつ複雑な空間における LCX の利用の一
検討」,電子情報通信学会総合大会,B - 5 - 155,2012 年
2) 鈴 木ほか:「細径漏洩同軸ケーブル LCX - 5D」,電子情報
5.む す び
通信学会総合大会,B - 1 - 156,2012 年
外 径 4 mm, 質 量 20 g/m と 世 界 で 最 も 細 径 で 軽 量
3) 高 野ほか:「ギガヘルツ対応広帯域漏洩同軸ケーブル」,
な LCX を開発した.2 . 4 GHz において結合損失 57 dB,
フジクラ技報,第 110 号,pp. 9 ~ 15,2006 年
伝送損失 1 . 3 dB/m と 2 . 4 GHz 帯無線 LAN 用として適
4) 稲 田ほか:「漏洩同軸ケーブル」,藤倉電線技報,第 46
用可能な特性を得た.また,ジグザグスロット型 LCX
号,pp 19 ~ 28,1972 年
29