AN-826: 2.xGHzのWiMAXダイレクト・コンバージョン・トランスミッタ (Rev. A) PDF

AN-826
アプリケーション・ノート
2.xGHzのWiMAXダイレクト・コンバージョン・トランスミッタ
著者:Cecile Masse、Qui Luu
特長
AD9860-62
MxFE
ダイレクト・コンバージョン送信チェーン
5個のチップを使用して構成する送信無線
フルスケール電流の設定が可能な128MSPS、12/14ビットの
デュアルD/Aコンバータ(DAC)を内蔵する
ADC
IQ
変調器
AD8349
DAC
ADL5330
0°
90°
RF VGA
域幅に対応
QPSK、16QAM、64QAM OFDMに対応
トランスミッタの出力パワー:13dBm(max)、CW
64QAM OFDMのEVM:1.7%@−1dBm
20MHzオフセット時のトランスミッタ・ノイズ:
−142.5dBm/Hz@−1dBm
高精度の出力RMSパワー制御
両電源動作:5V@360mA、3.3V@165mA
AD8362
RMSパワー・
ディテクタ
ADC
DAC
デュアルDAC
フラクショナルN
シンセサイザ
ADF4153
05790-001
AD9860/AD9862 MxFE
2.7GHzの直交変調器AD8349
パワー制御範囲 50dB の 2.7GHz 可変ゲイン・アンプ( VGA )
ADL5330
4GHzのフラクショナルNシンセサイザADF4153
1024サブキャリアOFDMで使用される20MHzのチャンネル帯
図1
アプリケーション
WiBro/WiMAX 5V CPEおよび基地局
REV. A
アナログ・デバイセズ株式会社
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―1―
AN-826
目次
特長 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
アプリケーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
改訂履歴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
はじめに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
アーキテクチャ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
アナログ・ベースバンド信号の生成. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
IQ変調器. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4
LOシンセサイザ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7
VGA、およびそのIQ変調器とのインターフェース . . . . . . . 9
RMSパワー検出 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
システム全体の性能. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12
測定性能の要約 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
主要デバイスの部品表(BOM). . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
代表的な性能特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
改訂履歴
7/06―Rev. 0 to Rev. A
Changes to Baseband Filtering Section . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
Added the Temperature Compensation Section. . . . . . . . . . . . . . . . . 11
Changes to Table 5. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
Changes to Figure 25 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
12/05―Revision 0: Initial Version
―2―
REV. A
AN-826
はじめに
AD9860-62
MxFE
このアプリケーション・ノートは、帯域幅 2.7GHz までの無線
アプリケーションに対応するアナログ・デバイセズのWiMAX
5V送信シグナル・チェーンの性能を実証することを目的として
います。
ADC
DAC
ADL5330
0°
90°
RF VGA
このような課題に対処するために、ダイレクト・コンバージョ
ン・アーキテクチャが選ばれました。この特殊な解析では、
ベースバンド信号の生成から始まって、電圧可変利得制御アン
プおよびパワー・ディテクタの各機能(ただし、パワー・アン
プを除く)までを含む完全な送信シグナル・チェーンの評価を
実施しました。重点的に対象としたのは2.3∼2.4GHzのWiBro
周波数帯域で、この周波数帯域は、 802.16d (固定)および
802.16e(モバイル)規格に準拠するネットワーク配備用とし
て韓国で利用されています。ただし、このシグナル・チェーン
は 2.7GHz までの周波数帯域で利用できます(各デバイスの性
能に関する詳細は、それぞれの製品のデータシートを参照)。
RMSパワー・
ディテクタ
図2.
DAC
デュアルDAC
フラクショナルN
シンセサイザ
ADF4153
05790-001
AD8362
WiMAX固定無線規格は、256キャリアのOFDM変調方式を基
本としています。QPSK、16QAM、64QAMのいずれかのデー
タ・シーケンスを使用して、200のサブキャリアをそれぞれ変
調できます。この規格は、1.25MHzから20MHzまでの種々の
信号帯域幅もサポートするため、可変データレートにも対応し
ます。OFDM複合信号エンベロープの正負間振幅値がきわめて
大きくなり、このときに変調深度が100%に近づき、ピーク値
対平均値の比が約10dBに達することがあります。そのために、
送信系の直線性に対して厳しい条件が適用されます。
ダイレクト・コンバージョン送信チェーン
このアーキテクチャは、送信 DAC 、固定ゲインの IQ 変調器、
LOフラクショナルNシンセサイザ、RF VGA、RMSパワー・
ディテクタなどから構成されます。さらに、サンプリング周波
数の倍数の周波数で存在するイメージをフィルタリングするた
めに、オフチップのローパス・フィルタをDACの出力に接続す
る必要があります。DAC とシンセサイザには3.3V の電源が必
要ですが、その他のデバイスはすべて5Vの単電源で動作します。
送信シグナル・チェーンとして使用する具体的なデバイスは、
以下のとおりです。
• AD9860またはAD9862:12/14ビット、128MSPSサンプリ
ングDAC、SNR≧70dB
• AD8349:2.7GHzのIQ変調器
• ADF4153:4GHzのLOフラクショナルNシンセサイザ
• ADL5330:2.7GHzの電圧制御アンプ/減衰器VGA
• AD8362:2.7GHzのRMSパワー・ディテクタ
OFDM信号の特性、および超高速のデータレートによって変調
精度 EVM (エラー・ベクター・マグニチュード)に対して課
せられる厳しい条件を前提とした上で、 2.7GHz までの周波数
帯域に対する優れた直線性とノイズ性能を考慮して、上記のデ
バイスを選択しました。
アーキテクチャ
無線アーキテクチャはダイレクト・アップコンバージョン方式
であり、これには部品点数の削減、ミキシング製品のスプリア
ス低減、使用するフィルタ数の削減、消費電流の低減などの利
点があります。
このアーキテクチャではさらに、アップコンバージョン動作が
1回のみなので、使用するシンセサイザは1個のみです。
WiMAX OFDM信号またはOFDMA(直交周波数分割多元接続)
信号は、内部に存在するN個のサブキャリアがそれぞれLO(局
部発振器)の位相ノイズによって変調されるため、 LO の位相
ノイズの影響を受けやすくなります。このため、変調時に加わ
る位相誤差の量を最小限に抑えることが重要です。
REV. A
ADC
IQ
変調器
AD8349
無線通信業界が、変調周波数の広帯域幅化によるデータレート
の高速化とより高いRF周波数に移行する状況のなかで、高性能
のリニア送信チェーンが求められています。 WiMAX 無線ブ
ロードバンド・ネットワークは、このような傾向を反映したも
のです。ポイントtoポイントおよびポイントtoマルチポイント
の固定アプリケーションでは、2.5GHzと3.5GHzの帯域から配
備が始まっています。ワイドバンドのOFDM(直交周波数分割
多重)変調を利用して、最大80Mbpsのデータレートを達成し
ています。
―3―
以下の各項では、システム設計の理論的な説明、機能実装、イ
ンターフェースに重点を置いた上で、この送信シグナル・
チェーン内部の主要な機能を個別に解説します。
AN-826
0
アナログ・ベースバンド信号の生成
送信DACは、アップコンバージョンと増幅が行われる理想的な
アナログ信号に最も近い出力を供給する必要があるため、この
シグナル・チェーンの中で最も重要度の高いデバイスの1 つで
す。この DAC の信号対ノイズ比( SNR )とサンプル・レート
に基づいて、IQ変調器を駆動する変調信号のスペクトル純度と
信号品質が決定されます。
このアプリケーションに適用される SNR の推奨値は、最大パ
ワー・レベル時のスペクトル・マスク仕様および最小パワー・
レベル時の EVM 性能を満たす数値である 60dB 以上とします
(たとえば、アンテナの出力パワーが最小のレベルであっても、
64QAM スリークォーター OFDM では、 31.4dB +マージンの
SNRが要求されます)。AD9860(12ビット)とAD9862(14
ビット)はともに、70dBを超えるSNR性能を備えています。
これに加えて、信号周波数が1MHzであるか6MHzであるかに
関係なく、最初のナイキスト・ゾーン内のスプリアスフリー・
ダイナミック・レンジ(SFDR)が−76dBcの一定値に維持さ
れ ま す 。 こ の 特 長 は 、 DC を 中 心 と す る OFDM 10MHz
WiMAX信号のように大きい信号帯域幅の周波数を処理する場
合などに重要となります。
–40
–60
–80
–100
05790-002
このアプリケーション用として選択した送信DACは、AD9860
(12ビット)/AD9862(14ビット)ミックスド・シグナル・フ
ロントエンド・ファミリー(MxFE)の一部を構成します。各
DAC の最大サンプル・レートは 128MHz です。これらの送信
DACの出力は電流源であり、ピーク電流を2∼20mAの範囲で
設定できます。フルスケール電流をレジスタの書込み動作に
よって設定できるため、12/14ビットの分解能を維持しながら、
I/Q変調器のピークtoピーク入力電圧を調整できる柔軟性が得ら
れます。
–120
0
20
40
60
80
周波数(MHz)
100
120
140
図3. 1倍のインターポレーションでOFDM信号を生成する
AD9860/AD9862の送信DAC(fSAMPLE=32MSPS、
1倍のインターポレーション)
0
–20
信号レベル(dBm)
SNRとSFDR
信号レベル(dBm)
–20
–40
–60
–80
05790-003
–100
–120
サンプリング周波数
0
最大変調帯域幅に応じて、適切なサンプリング周波数を選択す
ることができます。一例として、10MHzの複合OFDM信号で
は最低20MHz(4×5MHz)のサンプリング周波数が必要です。
しかし、サンプリング・エイリアスはすべてn×20MHzで発生
し、この周波数は20MHzよりも高いRF周波数帯域幅の範囲に
入ります。このようなイメージをフィルタリングできるのは、
DAC出力に外付けするオフチップの再構成フィルタを使用する
場合のみです。
サンプリング周波数の倍数に相当するDACのイメージ周波数成
分を良好にフィルタリングするには、より高次のフィルタが必
要ですが、 DAC アーキテクチャの内部にあるインターポレー
ション・フィルタを使用すればその必要はなくなります。DAC
の入力データレートは同じ速度に維持されますが、インターポ
レーション・フィルタによって、DACのサンプリング周波数が
増加します。その結果、メインの入力信号からさらに離れた場
所にイメージが現れます。図3と図4に、AD9860/AD9862に内
蔵された4 倍のインターポレーション・フィルタをイネーブル
にしたときの効果をそれぞれ示します。
20
40
60
80
周波数(MHz)
100
120
140
図4. 4倍のインターポレーションでOFDM信号を生成する
AD9860/AD9862の送信DAC(fSAMPLE=32MSPS、
4倍のインターポレーション)
したがって、送信デジタル・データは 20MHz のレートのみで
更新されますが、サンプル・レート全体は 4 倍のインターポ
レーション・フィルタによって実質的に 80MHz まで増加しま
す。このような効果により、構成の簡単な 3 次のベッセル LPF
をDACの出力に接続できます(「IQ変調器」を参照)。
IQ変調器
変調器のAC駆動レベル
変調器のIとQの各入力は差動で駆動します。ピーク値と平均値
の比が10dB以上のWiMAX OFDMなどの信号を変調する場合
は、歪みを最小限に抑えるために、圧縮点から少なくとも
10dBのマージンを得るようにピーク駆動レベルを設定します。
十分なSNRを保ちながら変調器出力のスペクトル歪みを最小限
に抑えることによって、実際に最適なレベルが決まります。
―4―
REV. A
AN-826
ベースバンドのフィルタリング
80MHz(20MHzの4倍のインターポレーション)で信号をサン
AD9862
R1
RL
DAC1
プリングする条件を適用して、イメージ除去の条件を規定でき
ます。DACのサンプル&ホールド動作は、周波数領域でsin(x)
よってサンプリングされた信号波形の畳込みに相当します。
I入力
R2
AD8349
DAC2
VOUT ( f ) =Vsampled ( f ) ×
05790-004
Q入力
図5.
sin ( πf T)
πf T
(2)
図3 は、このサンプリング・イメージ成形の効果を示す適例で
す。結果として、最高のイメージ周波数は1×fsのサンプリング
周波数、つまりこの場合80MHzで発生します。
DACとIQ変調器とのインターフェース
AD9860/AD9862 DACとAD8349変調器とのインターフェース
sin(x)/xを使用し、これらのサンプリング・イメージのレベル
を図5に示します。
を計算できます。
R1とR2の各抵抗でDCバイアス・レベルを設定し、抵抗RLでI
およびQのベースバンド電圧のレベルを設定します。
80MHzのサンプリング周波数で、1×fsおよび2×fsで計算され
たレベルは、それぞれ−31.6dBc と−37.6dBc です。これらの
変調器の差動入力電圧は式1から計算できます。これは抵抗RL
とDACのフルスケール電流IDAC両方の関数として変化します。
イメージについて実際に測定されたレベルは、計算値と大きく
異なることはなく、−33dBcと−40dBcでした。
2×IDAC×RDC×RL
=f(IDAC)=g(RL) (1)
2×RDC+RL
RDC=R1=R2
AD8349の電圧ゲインは固定です。適切な値の入力負荷抵抗を
選択することによって、この変調器の出力レベルを設定できま
す。これに代わる方法として、もっと大きい値の抵抗を選択し、
DACのフルスケール出力電流を所望の駆動レベルにスケーリン
グすることもできます。
WiMAXなどのOFDM変調に最適なIQ変調器AD8349の駆動レ
ベルは、0.725Vp-p±10%です(詳細については、「IQ変調器
アップコンバージョンによって生じたRF帯域に入るイメージを
取り除き、クリーンなベースバンド信号を変調器に供給するた
めに、DAC変調器のインターフェースにフィルタを接続します。
ローパス・ベッセル構造のフィルタは、帯域内の群遅延が平坦
であるため、このアプリケーションに最適です(図7 を参照)。
3dBカットオフ周波数が8MHzの3次フィルタは、80MHzにお
いて 50dB のイメージ除去性能を備え、サンプリング・イメー
ジのSNRを80dBcまで低減します。
このフィルタの詳細な性能特性を図6∼図8に掲載します。
ポート
IまたはQ
の最適な動作ポイントを見つける方法」を参照)。このレベル
で、変調器の出力レベルとスペクトル品質とのトレードオフの
問題を解消する妥協点を見出すことができます。
A
駆動する方法によって、この電圧を得ることができます。
ポート
IBまたはQB
NUM = 2
この最適なACレベルは、最大のピーク電圧が得られるRLの値
を選択し(たとえば、1.2Vp-pの場合には240Ω)、DACの出力
電流を約12mAに調整する方法によっても設定できます。その
後で、R1とR2の接続ポイントにDCオフセットを加えて、DC
バイアス・レベルを400mVに維持します。なお、このようにフ
ルスケール電流を低くする場合は、DACのダイナミック性能が
約2dB低下します。
C8
C = 68pF
L7
L = 680nH
C9
C = 470pF
R5
R = 240Ω
ポート
IB_OUT またはQ B_OUT
図6. 信号源抵抗と終端抵抗を含むベースバンド・フィルタの
回路図
DCバイアス・レベル
R1とR2の各抵抗を使用して、DCバイアス・レベルを設定しま
す。同相電圧の推奨レベルは400mVです。
40Ωの値を選択すると、20mAのDACフルスケール電流に必要
な400mVのDCバイアス・レベルが、RLの値とは無関係に生成
されます。
REV. A
R3
R = 40.2Ω
R4
R = 40.2Ω
68ΩのRL抵抗を使用し、20mAのフルスケール電流で変調器を
ポート
IOUTまたはQ OUT
L6
L = 680nH
05790-005
Vdiff(差動入力電圧)=
―5―
AN-826
0
IとQの振幅のミスマッチ補正は電流スケーリングによって行わ
れます。各送信チャンネルのフルスケール出力電流を個別に調
整する手法として、微調整と粗調整のゲイン制御方法(レジス
タ14とレジスタ15を使用)があります。電流スケーリングを行
わない場合、あるいはフルスケール電流の 1/2 または 1/11 だけ
スケーリングできる場合は、粗調整のゲイン制御をバイパスで
きます。このスケーリングは、−6dBまたは−20dBの電流変化
に相当します。もっと微細な分解能が必要な場合は、微調整の
ゲイン制御を適用して、フルスケール電流を各レッグ上で個別
に±4%スケーリングします。
–10
dB(H(f))
–20
–30
–40
正または負のオフセットをIチャンネルとQチャンネルのいずれ
かに加えて、LO のリークを抑制することもできます。10 ビッ
ト精度(レジスタ10∼13)の場合には最大±12%、20mAのフ
ルスケールなら±2.4mAまでのオフセット電流をいずれかの差
動チャンネルに加えることが可能です。これは、 LO のリーク
を抑制するために通常必要とされる方法よりはるかに効果的な
手法です。
–60
10k
図7.
05790-006
–50
100k
1M
周波数(Hz)
10M
100M
ベースバンド・フィルタのゲイン応答性(単位:dB)
40
ゲインとオフセットのミスマッチは、アナログ変換の後で補正
されるため、信号の分解能が維持されます。 LO のリークを変
調器の出力側で 75dBc まで抑制し、不要なサイドバンドを
−55dBcに低減できます。
遅延
(H
(f)
(ns)
)
30
WiMAX OFDM 信号には DC のサブキャリアが存在しません
が、WiMAXバーストのオン時間とオフ時間を復調器が容易に
区別できるように、良好な DC オフセット補正を行うことが重
要です。ただし、バーストのオフ時間中に変調器をディスエー
ブルにするときは、 LO リーク・キャンセルの条件を緩和して
ください。
20
0
10k
05790-007
10
100k
1M
10M
図9に、DCオフセットとゲインのキャリブレーションを適用し
た後 VGA 出力で観測された単一のサイドバンド・スペクトル
特性を示します。
100M
周波数(Hz)
図8.
ベースバンド・フィルタの群遅延応答性(単位:秒)
I と Q の各信号パス間のミスマッチを最小限に抑えるために、
フィルタには許容誤差範囲ができるだけ小さい部品を使用して
ください。
REF 12dBm
# SAMP
LOG
10dB/
#ATTEN 22dB
ΔMKR1 4.00MHz
–52.158dB
LOのフィードスルーとサイドバンドの抑制
変調器の出力で発生する LO のリークは、さまざまな原因に
よって発生します。
LG AV
100
W1 S2
S3 F3
• IとQ間のDCオフセット
_
__
• IとI、およびQとQの差動信号間の不平衡を引き起こすDCオ
£(F):
F TUN
SWP
05790-008
フセット
• LOとRF間の不完全なアイソレーション
一般に、 LO リークの最も重大な原因は、信号が生成されてか
ら変調器のミキサに入力されるまでにベースバンド信号に蓄積
される不要なDCオフセットです。
CENTER 2.350 00 GHz
RES BW 300kHz
一方、IとQの各信号間の振幅と位相にミスマッチがあり、90°
の LO 位相シフトが不正確であれば、これが原因で上側サイド
バンドに不要なイメージが発生します。複合出力を供給するよ
うに送信DACを設定する場合は、変調器の出力で良好なイメー
ジ除去が行われることがきわめて重要です。このようなスプリ
アスがチャンネルに入り込んでしまうとフィルタリングできな
いためです。位相のミスマッチを補償することは不可能ですが、
振幅のマッチングはDACレベルで個別にゲインを補正する方法
によって実行できます。これと同様に、 AD9860/AD9862 の
DACはDCオフセット補正電圧により、LOのリークを抑制でき
ます。
―6―
VBW 300kHz
SPAN 20MHz
SWEEP 1ms (601 PTS)
図9. DCオフセット/ゲインのキャリブレーションの後で
観測された2.35GHzでの単一サイドバンド・スペクトル
(送信シグナル・チェーン出力)
REV. A
AN-826
IQ変調器の最適な動作ポイントを見つける方法
–40
アップコンバージョンされた信号の歪みを周波数領域で測定す
ることによって、変調器の最適な出力レベルを確定することが
できます。出力パワー・レベルが−10dBm から−20dBm の範
囲で変化するように、変調器に入力される電圧を掃引します。
–45
16QAM OFDMのACPR(dB)
ACP1
802.16-2004規格ではスペクトル品質に特定の条件の規定がな
いため、通常は各国内の条例によって規定されます。国内の条
例でも規定がない場合は、802.16d規格で規定されるIEEEマス
クを適用することができます(図10を参照)。しかし、韓国の
WiBro規格には具体的なスペクトル・マスク仕様も規定されて
おり、これはオフセット周波数f3時の条件が緩和されたIEEEマ
スクに相当します。固定無線システム向けにその他のマスクも
規定されていますが、これらは固定WiMAXシステムにも適用
できます。
–50
–55
–60
ACP2
–65
ACP3
–70
–80
–20
05790-010
–75
–19
–18
–17
–16
–15
–14
–13
–12
–11
IQ変調器の出力パワー(dBm)
図11.
IEEEマスクの特性を図10に示します。この特性は、このトッ
プ・レベルの特性評価全体にわたって利用されています。
16QAM OFDM変調時の変調器出力のACPR性能、
IおよびQ入力電圧(またはIQ変調器の出力パワー)の
関数として変化(2,350MHz時)
dB
WiMAX OFDM信号波形に対するIQ変調器自体のEVM性能も
同様に、−16dBmの出力時にきわめて良好であり、その数値は
1.2% rmsです。主な理由は、上側サイドバンドのキャンセル量
–25
が制限されることに加えて、メイン・チャンネルの範囲に収ま
る各サブキャリアの2次および3次相互変調が優れているためで
す。
–50
f1
図10.
f2
f3
05790-009
–32
LOシンセサイザ
このダイレクト・コンバージョン・アーキテクチャでは、1 個
の局部発振器が必要です。DCから所望のRF周波数へのアップ
コンバージョンは、IQ変調器によって直接実行されます。位相
ノイズや周波数分解能、セトリング時間などの性能は、 LO の
生成に使用するフラクショナルNシンセサイザによって左右さ
れます。
802.16d規格のスペクトル・マスク
基本的に、各ACPR測定の周波数オフセットは信号帯域幅に応
じて変化します。 10MHz の信号の場合は、周波数オフセット
が以下のように変化します。
• f1=1.09×BW/2=5.45MHzでは、ACP1≦−25dB
位相ノイズ
アップコンバージョンでは、局部発振器へのミックス時に
WiMAX OFDM信号のN個のサブキャリアそれぞれに位相ノイ
ズが重畳されます。
• f2=1.95×BW/2=9.75MHzでは、ACP2≦−32dB
• f3=2.95×BW/2=14.75MHzでは、ACP3≦−50dB
図11に、16QAM 256 OFDM信号を処理する場合の変調器のス
ペクトル性能を示します。この図では、IQ変調器の出力パワー
が−20dBm から−11dBm までの範囲になるように、入力駆動
レベルを変化させています。最適な動作ポイントは、−16dBm
の出力時に得られます。
局部発振器の位相ノイズは、次の2つの悪影響をもたらします。
• すべてのサブキャリアに対するランダムな位相回転
• 特定のサブキャリアがN-1のノイズの多い隣接サブキャリア
の悪影響を受けることによって発生するキャリア間の干渉
最初の2 つの周波数オフセットの場合、パワー・レベルが低下
するに従って圧縮点からのマージンが大きくなり、 3 次イン
ターセプト・ポイントが信号歪みの低減とACPR性能の改善に
役立っています。出力パワーがさらに低下すると、これに伴っ
てSNRが低下し(変調器のノイズ・フロアと比較して信号エネ
ルギーが小さくなるため)、これが原因で各dB単位のACPR性
能が劣化します。ACP3と表記している3番目の周波数オフセッ
トでは、スペクトルの再生がまったく見られず、SNRの低下に
伴ってACPR性能も同様に低下します。
EVM 低下の大きな要因となるこれらの位相誤差を効果的に補
正するために、トレーニング・シーケンスのデータで変調され
る8個のサブキャリアがOFDMシンボルに含まれています。こ
れらのサブキャリアはパイロット・トーンと呼ばれ、 LO から
発生した隣接する位相ノイズの大部分をレシーバがトラッキン
グおよび除去する上で役立ちます。ただし、この方法で除去さ
れるのはシンボル長 よりも低速に変化する位相のノイズのみで
あり、シンボル長よりも高速に変化する位相はトラッキングさ
れず、EVMに悪影響を及ぼします。
後で実施するシステムの特性評価のために、 VGA の最適な駆
動レベルを−16dBmに設定しています。
64QAM 変調方式の OFDM の場合は、トランスミッタ出力の
EVM要求仕様が2.7% rmsときわめて厳しく規定されます。こ
のような理由により、PLLのループ帯域幅に加えて、トータル
の積分位相誤差がこの PLL の設計できわめて重要となります。
シンセサイザを選択するための基準として、1°rmsよりも低い
トータル位相誤差を適用しています。
REV. A
―7―
AN-826
インテジヤーNシンセサイザを利用する場合、2.3GHzを超える
RF周波数の合成にN分周器が十分に対応し、しかも微細な分解
能を維持できます。ただし、PLLのループ帯域幅の範囲で、基
準周波数および位相周波数検出器(PFD)のノイズ・レベルが
ともに20×log(N)増加します。これが直接的な原因となって、
PLLのトータル位相誤差が劣化し、場合によっては1°rmsより
も高くなることがあります。
フラクショナルNシンセサイザは、位相ノイズ性能が優れてい
るため、よく用いられます。より高い比較周波数を使用して、
きわめて微細な周波数分解能を達成できるため、トータル位相
ノイズの低減に効果的です。これらのフラクショナルNシンセ
サイザの位相ノイズ誤差は、0.5°rms未満(typ)に抑えられる
ため、このアプリケーションに適しています。
ADF4153 は低ノイズ・モード、低ノイズ/低スプリアス・
モード、低スプリアス・モードの 3 つのモード選択が可能な
4GHz のフラクショナル N シンセサイザです。ナローバンドの
ループ・フィルタの場合は、ループ・フィルタの応答によって
スプリアスがすでに減衰されているため、低ノイズ・モードを
推奨します。高速のロッキング・ループが必要とされない
WiMAXの双方向通信モードにも低ノイズ・モードを推奨しま
す。
シンセサイザの周波数分解能
IQ変調器のLOに対して要求される最小周波数分解能は、
802.16規格で要求されるチャンネル・ラスターに基づいて規定
されます。まだ最終的に承認されていませんが、チャンネル・
ラスターの要求周波数は250kHz に規定され、一部の特定プロ
ファイルでは 125kHz に規定されるはずです。したがって、
PLLから生成されるキャリア周波数はチャンネル周波数ステッ
プの条件に応じて、少なくとも250kHzまたは125kHzの倍数と
することが必要になります。
基準周波数
条件
スプリアス・インターバル
MODが3では割り切れず、
2で割り切れる場合
チャンネル・ステップの1/2
MODが2では割り切れず、
3で割り切れる場合
チャンネル・ステップの1/3
MODが6で割り切れる場合
チャンネル・ステップの1/6
上記以外の場合
チャンネル・ステップ
さらに、整数の INT 分周比を小さくすることができるように、
十分に高い基準周波数を選択しなければなりません(式3 を参
照)。基準周波数を10MHzよりも高くすると、インテジヤーN
シンセサイザで達成できないようなPLL位相ノイズの改善が可
能になります。
ロック時間
PLLのロック時間は、以下のような場合、きわめて重要となる
ことがあります。
• 周波数と時間両方のデュプレックスが使用されるHFDDシス
テムにおいて
• 信号品質の改善、データ・セキュリティの強化、マルチパ
ス・フェーディングの回避、周波数干渉の回避を目的とする
周波数ホッピングの実行中
基準周波数または比較周波数を高くするか、必要に応じてルー
プ帯域幅を増加させることによって、PLLのロック時間を最適
化できます。
以下に記載する式に基づいて、フラクショナルNシンセサイザ
の設定を行います。
FREF
MOD =
FRES
表1
式4より、係数値のMODはPFD周波数とチャンネル間隔に応じ
て変化します。チャンネル間隔は固定されているため、可能で
あれば、係数の値によってサブフラクショナル・スプリアスが
発生することのないようなPFD周波数を選択してください。
高速ループの場合は、スプリアスがループ帯域幅内に入るため、
スプリアスの減衰量が少なくなります。低スプリアス・モード
では、ディザがイネーブルになります。これはフラクショナル
量子化ノイズをランダム化するため、このノイズはスプリア
ス・ノイズではなく、ホワイト・ノイズのように見えます。
RFout=[INT+K/MOD]×[FREF]
フラクショナル N シンセサイザでは、チャンネル間隔のイン
ターバルでスプリアスが現れ(フラクショナル・スプリアス)、
さらにチャンネル間隔のフラクションでスプリアスが発生する
可能性もあります(サブフラクショナル・スプリアス)。係数
の値がサブフラクショナル・スプリアスの場所にどのように作
用するかを表1に示します。
(3)
(4)
ADF4153では、32MHzまでの基準周波数またはPFD周波数を
選択することが可能であり、またオンチップの周波数ダブラー
を利用して、低い周波数の基準クロックを使用しながら、PFD
周波数を高くすることができます。
PLLのループ帯域幅を規定する際は、要求されるセトリング時
ここで、
RFoutはPLLによって合成された周波数。
FREFは基準周波数であり、この場合、PFDの比較周波数と等し
くなります。
MODは係数。
INTは整数の分周比。
Kは合成された周波数の分割値を設定。
FRESはPLLの周波数分解能。
間、受け入れ可能な位相誤差、スプリアス・レベルのどれを優
先するかというトレードオフの問題が伴います。ループ帯域幅
を高くすると、これに応じてロック時間が高速化されますが、
位相誤差とスプリアス・レベルが高くなってしまいます。しか
し、ロック時間が重要でない場合は、「位相ノイズ」で説明し
た理由により、ナローバンドのループ帯域幅の使用を推奨しま
す。
―8―
REV. A
AN-826
–80
性能
2.35GHzでの位相ノイズ
この特殊な特性評価では、約20kHzのクローズド・ループ帯域
幅に対してPLLを設計しています。10MHzの256-OFDM信号
を使用する場合のシンボル持続時間は 25.6µs であり、これは
39kHz のサブキャリア間隔に相当します。したがって、 PLL
ループの位相ノイズの大部分がパイロット・トラッキング・ア
ルゴリズムによってトラッキングおよび除去できるように、意
図的にPLLループがシンボル持続時間よりも低速化するよう設
計されています。ループ・フィルタを含むPLLの回路図を図12
に示します。
位相ノイズ(dBc/Hz)
–90
–100
–110
–120
16
AV DD DV DD V P
6
5
R2
1.50kΩ
–140
100
CPO 2
RF IN
C1
4.70nF
RF IN
RSET 1
電源電圧
R1
750Ω
C3
2.20nF
VCO
35.0MHz/V
図13.
C2
56.0nF
RSET
5.10kΩ
ADF4153
8
GND
MUXOUT 14
11 CLOCK
10 SD V
DD
GND GND GND
3
4
図12.
9
注
1. TSSOPパッケージのピン番号
2. AVDDはアナログ電源
3. DVDDはデジタル電源
4. VPはチャージ・ポンプ電源
5. AVDD=DVDD、VP>=DVDD、AVDD
6. 詳細については製造元の
データシートを参照
クローズド・ループ位相ノイズのシミュレーション
(2.35GHz)
このVGAのゲイン制御には、0.5∼1.4Vの正の制御電圧が必要
です。ゲイン電圧を1.4Vに設定すると、15dBに近い最大ゲイ
ンが得られます。
PLLループ回路図
IQ変調器のAD8349とADL5330とのインターフェースの基本
接続を図14に示します。
図13は、このPLLのクローズド・ループ位相ノイズ性能を示し
ます。
VCOはSirenza社製のVCO190-2350Tで、同調感度は35MHz/V
( typ )です。 PLL のクローズド・ループ帯域内位相ノイズは
−95dBc/Hzです。
この設計の等価 RMS 位相誤差はわずか 0.35°rms で、 0.6 %の
EVM性能の寄与に相当します。システム全体のEVM性能に対
するこのフラクショナルN PLLの寄与度については、「システ
ム全体の性能」の項で説明しています。
REV. A
1M
ADL5330 は高性能の VGA ( 50Ω I/O )です。この VGA は
2.3GHzで50dBに近いゲイン制御を行い、そのゲイン制御勾配
はおよそ60dB/Vです。
05790-011
基準クロック
TCXO10
100k
WiMAXシステムは見通し外アプリケーションに利用できるた
め、チャンネルの品質によっては、トランスミッタをゲイン制
御して送信出力レベルを調整する必要があります。
ロック検出
出力
12 DATA
10k
VGA、およびそのIQ変調器との
インターフェース
REF IN
13 LE
1k
周波数(Hz)
V+
FOUT
05790-012
–130
15
7
―9―
AN-826
+5V
+5V
VPOS
IBBP
DAC
差動I/Qベースバンド入力
120nH
+5V
VPOS
COMM
AD8349
IBBN IQ 変調器 V
OUT
QBBP
COMM
ADL5330
100pF
RF VGA
INLO
INHI
DAC
QBBN
120nH
100pF
RF出力
OPHI
OPLO
100pF
100pF
ETC1-1-13
100pF
200Ω
ゲイン制御
100pF
05790-013
LO出力
200Ω
ETC1-1-13
図14.
IQ変調器とRF VGAとのインターフェース
+5V
AD8349は50Ωの負荷を駆動し、VGAと容易にインターフェー
スするように設計されています。
120nH
このシグナル・チェーンは−3dBmの出力パワーを供給すると
同時に、15dB を上回るマージンで802.16 スペクトル・マスク
仕様を満たし、 64QAM OFDM 変調方式で 1.5 %のトータル
EVM性能を発揮します。
OPHI
120nH
100pF
POUT = –1dBm MAX
ADL5330
OPLO
VGA から要求されるパワーが比較的小さい場合は、変調器と
VGA との間にパッドを追加することを推奨します。この方法
10dB
100pF
T2
ETC1-1-13
1nF
AD8362
INHI
100Ω
1nF
V OUT
V SET
INLO
CLPF
VTGT V REF
2GHzから3GHz帯域における動作の場合は、この帯域に対応す
るように特別にマッチングされた差動/シングルエンド変換用
のバランを使用することも推奨します。 ADL5330 の入出力は
差動です。シングルエンド・インターフェースの場合は、村田
製のSP-LDZ-49_LDB182G5005Gバランを使用すると、RFゲ
インが1dB以上改善されます。
RMSパワー検出
高精度で高速のパワー制御を行うために、パワー・アンプの出
力にRMSパワー・ディテクタAD8362を接続することができま
す。AD8362は高精度でワイドバンドのRMS/DC 2乗ディテク
タです。この2乗検波機能 の出力は、オンチップのコンデンサ
と外付けコンデンサCLPFの両方によって結合される正の電流
です。これによって生成される電圧は DC 結合アンプによって
バッファされ、計測および制御目的に利用可能な出力がこのア
ンプから供給されます。
図15.
V OUT
47nF
05790-014
を利用すると、直線性の性能が最適化され、さらに出力ノイ
ズ・フロアが改善されます。
AD8362を用いたパワー検出
AD8362は、ベストな検出範囲が確保される差動で駆動するか、
シングルエンドで駆動します。カプラの結合ポートが不平衡で
あるため、802.16規格ですべての変調に利用できることが規定
されているシングルエンドの駆動を適用して、AD8362の特性
評価を実施しました。
信号エンベロープの残留成分を除去するために、2 乗ディテク
タの出力側にフィルタリング用のシャント・コンデンサを外付
けします。WiMAX 信号の場合には0.1µF のコンデンサを使用
すれば、検出精度とセトリング時間に関するトレードオフが適
切に解消できます。ただし、高速の応答が必要な場合は、容量
の小さいコンデンサを選択してください。
表2
図 15 に、ディレクショナル・カプラを用いた RMS パワー測定
技法の回路を示します。ディレクショナル・カプラは、実用上
の理由により VGA の出力側に配置してありますが、パワー・
アンプ(PA)の出力側に配置してもまったく問題なくパ
ワー・レベルを検出できます。
CLPF
40dB以内の精度
セトリング時間
0.1µF
+0.3dB/−0.5dB
160µs
47nF
+0.3dB/−0.75dB
78µs
パワー・ディテクタ性能の測定結果は、図28と図29に記載して
います。
図16と図17に、CLPF=47nFを使用する場合のパワー・ディテ
クタの検波範囲、精度、セトリング時間の特性を示します。
― 10 ―
REV. A
AN-826
3
2.5
16QAM、レート1/2
64QAM、レート2/3
QPSK、レート3/4
16QAM、レート3/4
64QAM、レート3/4
P OUT = –1dBm MAX
10dB
2.7nH
0.5
–1
0
–2
–40
–30
–20
–10
0
–3
誤差(dB)
INLO
1nF
VTGT
V SET
CLPF
VREF
R1
R2
4.99kΩ 33.2kΩ
TMP36F
47nF
VOUT_Comp
図18.
2.35GHz時のAD8362のパワー検出と温度補償
補正済みの VOUT_comp 電圧が全温度範囲で一定になるよう
に、R1とR2の抵抗比を計算します。
2.35GHz時のAD8362の温度ドリフトは、−0.03dB/℃です。こ
れは、−15dBmの検出器入力パワーで測定した値です。
POUT (dBm)
図16.
0.1µF
AD8362
4.7nH
05790-015
0
1.0
1nF
INHI
VDET_OUT
1
–0.5
–50
5V
4dB
2
1.5
VOUT (V )
RF入力
05790-028
2.0
QPSK、レート1/2
以下の式は、抵抗比の計算方法を示しています。
CLPF=47nFを使用する場合のRMSパワー・
ΔVTMP
−
10mV/°C
R2
ΔT
=
=
ΔVDET
AD8362 ドリフト (mV/°C)
R1
ΔT
ディテクタの検波範囲と精度
このディテクタは、適用されるOFDM変調のタイプにまったく
左右されない点に注目してください。したがって、 QPSK 、
64QAMいずれの方式でOFDMのサブキャリアを変調する場合
でも、キャリブレーションが必要ありません。
dB/ ℃単位の AD8362 の温度ドリフトは、検出器の対数勾配
(2.35GHz時で49.79mV/dB)を乗算することによりmV/℃の単
位に換算します。このアプリケーションでは、−0.03dB/℃の
ドリフトが−1.51mV/℃に相当します。
2.35GHz時の補償済み回路についてさまざまな温度での測定性
能を図19に示します。なお、0∼85℃の範囲では、温度ドリフ
CH1の立ち
上がり時間
77.93µs
トを最適化するために補償係数を選択しています。これは、低
温時の性能が比較的重要ではない最終装置に適しています。
4
3.5
3
05790-016
3.0
図17.
M1.00ms
A CH1
T
2.97200ms
2.5
VOUT (V )
CH1 500mV
1.33V
WiMAXダウンリンク・バーストに対するパワー・
ディテクタの時間応答性(TSYMB=25.6µs)、
CLPF=47nF
2
+85°C
+85°C
1
+25°C
+25°C
2.0
0
1.5
–1
–40°C
1.0
誤差(dB)
1
4.0
–2
温度補償
2.35GHz時に全温度範囲にわたってAD8362の測定精度を改善
するには、簡単な温度補償の方法を利用できます。これは基本
的に、 V DET = f (ピン)特性の検出器インターセプト・ポイン
トのドリフト補正になります。伝達関数全体は温度の上昇に
伴って降下する傾向がありますが、その勾配はきわめて安定し
ています。したがって、特定の入力レベル(−15dBmなど)で
のドリフト補償がダイナミック・レンジ全体で良好に維持され
ます(図21を参照)。
補償は簡単で、高精度温度センサTMP36 を利用します。25 ℃
での TMP36 の出力電圧は 750mV 、温度係数は 10mV/ ℃です。
TMP36 の正の温度係数によって検出器の負の温度係数を直接
補償できます。この構成回路を図18に示します。
REV. A
― 11 ―
–3
0.5
0
–60 –55 –50 –45 –40 –35 –30 –25 –20 –15 –10
–5
0
–4
05790-029
–40°C
ピン測定値(dBm)
図19.
AD8362の2.35GHz時の出力電圧および温度ドリフト
(外部温度補償による)
AN-826
システム全体の性能
送信チェーン全体の性能を表3 にまとめて記載しています。以
下のシステム性能の特性評価を実施しました。
図21では、IQ変調器の2つの出力パワー・レベルを比較してい
ます。
A: Ch1 OFDM Meas
1.5 TRIAL LICENSE
7 DAYS LEFT
• パワー制御範囲
Range: 6dB m
• 最大のリニア出力パワー
Const
• ゲイン平坦性
• ノイズ・フロア
300m/div
• OP1dBとOIP3
05790-017
• パワー・ディテクタの精度と検波範囲
–1.5
• WiMAX OFDM信号を処理する場合のEVM性能
–2.473
RBW: 31.25kHz
• WiMAX OFDM信号を処理する場合のスペクトル品質
Agilent社のシステム/回路シミュレーション・ソフトウェアで
あるADSを使用して、OFDM信号を生成しています。さらに、
256-OFDM信号の生成能力および復調能力を評価のときに限り
利用できるようにしました。 EVM 性能の測定には、 Agilent
89600復調ソフトウェア(チャンネル評価シーケンスのみのイ
コライゼーション)を使用しました。
RCE(EVM)
RCEPk
PilotRCE
Freq Err
Quad Err
Sync Corr
図20.
OFDM信号の場合、EVM性能の低下を引き起こす大部分の原
因は、IQ変調器の不完全性、およびローカル発振器の位相ノイ
ズまたは位相誤差によるものです。アップコンバージョンの後
でサブキャリアを変調する隣接位相ノイズの一部は、レシーバ
または復調器に内蔵される位相トラッキング・アルゴリズムに
よって除去できます。
2.473
TimeLen: 8 Sym
RCE(EVM)
dB
= –36.198
% pk at sym 2
= 4.8109
dB
= –36.515
CPE
IQ Offset
kHz
= –28.427
Gain Imb
= –803.82 mdeg
SymClkErr
= 0.96309
%rms
= 1.5491
m%rms
= 276.76
dB
= –44.147
dB
= 0.002
ppm
= –0.07795
送信シグナル・チェーンのコンスタレーションと
−3dBmの出力パワー時のEVM性能、64QAM OFDM
2.6
2.4
E V M ( % r ms )
2.2
この送信チェーンの各ビルディング・ブロックが−3dBmの出
力パワー時に EVM 性能に対して寄与する度合を示す数値は、
以下のとおりです。
2.0
1.8
• DAC+IQMODおよび理想的なLO:EVM=1.18%
1.6
• DAC+IQMOD+VGAおよび理想的なLO:EVM=1.34%
1.4
• DAC + IQMOD + VGA および理想的なフラクショナル N
PLL:EVM=1.55%
1.2
–45
EVM_m15dBm
図 20 に示すように、出力パワーが− 17dBm のときに VGA は
約− 3dBm を出力することが可能であり、そのときの EVM は
1.5%です。
変調器から−15dBmのパワーが出力される場合は、EVM性能
が1.7%に多少低下しますが、VGAの最大出力パワー・レベル
は−1dBmに増加します。
–40
–35
–30
–25
–20
–15
–10
–5
0
トータル・パワー・レベル(dBm)
このリファレンス設計に使用したフラクショナルN PLLには、
0.35° の位相ノイズによる位相誤差があるため、システム全体
のEVM性能が0.2%低下します。
EVMのトータル性能を観察することにより、IQ変調器の出力
パワーまたは VGA の入力レベルの影響度についても検討を加
えています。すでに確認されている−16dBmの最適なパワー・
レベルの周辺で、2つの異なるVGA入力パワー・レベルと等価
な2つの異なる変調器入力駆動レベルについて考察しました。
05790-018
EVM_m17dBm
図21.
EVM性能に対するIQ変調器の可変出力パワー・レベル
の影響度
ミッドパワーの範囲では、EVM性能は基本的にIQ変調器とLO
シンセサイザによって決定されます。出力パワーがダイナミッ
ク・レンジの下限に到達するときに、信号対ノイズ比の低下に
伴って、EVM性能が低下し始めます。
出力パワー・レベルが最大0dBmまでのときは、スペクトル品
質もきわめて良好です。参考情報として、− 3dBm のときに
+ 15dB を上回るマージンで 802.16d マスク仕様を満たします
( 図 2 5 を 参 照 )。 さ ら に 、 ト ー タ ル 出 力 パ ワ ー ・ レ ベ ル が
− 1dBm のときに、+ 17dB を上回るマージンで ETSI EN 301
021タイプGマスク仕様に適合します。
これらの性能とトップ・レベルの完全なシグナル・チェーン条
件に基づき、このシグナル・チェーンから適切な最大パワー・
レベルを選択できます。
― 12 ―
REV. A
AN-826
測定性能の要約
VPS1=5V(AD8349、ADL5330、AD8362)、VPS2=3.3V(ADF4153、AD9860/AD9862のDAC)、無線周波数帯域:2.3∼2.4GHz、
信号帯域幅:10MHz、QPSK、16QAM、64QAM、256サブキャリアのOFDM変調
表3
条件
typ
単位
最大リニア出力パワー・レベル
64 QAM OFDM、EVM=1.7%
−1
dBm
出力パワー制御範囲
@2.35GHz、±3dBのゲイン法則適合性、VGAの入力パワー<−10dBm
51
dB
周波数 対 ゲイン平坦性
2.3∼2.4GHzの周波数帯域
0.025
dB/MHz
任意の周波数帯域幅が20MHz時の最悪時性能
0.5
dB
パラメータ
1
GAIN =
OIP3
@2.35GHz、V
OP 1 dB
@2.35GHz、VGAIN=1.4V
スペクトル・マスク/ACP
RBW=100kHz、VBW=30kHz、
16QAM OFDM―POUT=−3dBm、10MHz信号
ゲイン制御 対 EVM性能
1.4V
19.4
dBm
11.0
dBm
FOFFSET=1.09×BW/2
−40.5
dB
FOFFSET=1.95×BW/2
−54
dB
FOFFSET=2.95×BW/2
−72.5
dB
64 QAM OFDM、2.35GHz
POUT=−1dBm、VGAIN=ハイ
POUT=−40dBm、VGAIN=ロー
1
−35.4
dB
+1.7
%
−34.9
dB
+1.8
%
広帯域ノイズ・フロア
オフセット周波数=20MHz、POUT=−1dBmまたはVGAIN=1.4V
−142.5
dBm/Hz
オフセット周波数=20MHz、POUT≦−20dBmまたはVGAIN≦1V
−155
dBm/Hz
RMSパワー検出範囲
すべての変調方式、誤差<±0.8dB
40
dB
条件
typ
単位
VGAINはADL5330のゲイン制御電圧です。
表4.
電源
パラメータ
正電源電圧1
無負荷時静止電流
AD8349、ADL5330、AD8362の総消費電流
正電源電圧2
無負荷時静止電流
REV. A
ADF4153、80MSPS動作時のAD9860またはAD9862送信パスの総消費電流
― 13 ―
5
V
360
mA
3.3
V
165
mA
AN-826
主要デバイスの部品表(BOM)
表5.
デバイスの品名(受動部品を除く)
デバイス
AD9860/AD9862
機能
ミックスド・シグナル・フロントエンド
(ADCおよびDAC)
メーカ名
評価用ボードの製品番号
アナログ・デバイセズ
AD9860-EB、AD9862-EB
AD8349
ダイレクト・コンバージョンIQ変調器
アナログ・デバイセズ
EVAL-AD8349EB
ADL5330
電圧制御アンプ/減衰器
アナログ・デバイセズ
ADL5330-EVAL
ADF4153
フラクショナルN PLL
アナログ・デバイセズ
EVAL-ADF4153EB1
AD8362
RMS応答パワー・ディテクタ
アナログ・デバイセズ
EVAL-AD8362EB
― 14 ―
REV. A
AN-826
代表的な性能特性
10
–5
5
–15
0
–25
–5
LG AV
100
W1 S2
S3 F3
£(F):
F TUN
SWP
–10
–45
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
–15
1.4
05790-022
–35
CENTER 2.350 00 GHz
# RES BW 100kHz
V GAIN (V)
図22.
図25.
AD8349変調器の出力パワーが−10dBmのときの
パワー・ゲイン範囲、ゲイン法則適合性、および
VGAINの関連特性(2350MHz時)
17
16
VBW 30kHz
SPAN 40MHz
SWEEP 34.88ms (601 PTS)
トランスミッタの出力スペクトル(64QAM WiMAX
OFDM、BW=7MHz)、−3dBmの出力パワー時、
802.16dスペクトル・マスクと比較
3.0
–28
2.8
–29
2.6
–30
–31
2.4
14
EVM ( % r ms )
基本レベル(dBm)
15
13
12
–32
2.2
–33
2.0
–34
1.8
–35
1.6
–36
1.4
–37
1.2
–38
11
9
2.28
05790-020
10
2.30
2.32
2.34
2.36
2.38
2.40
1.0
–45
2.42
–39
–40
–35
RF周波数 対 トランスミッタのゲイン平坦性
(1.2Vp-pのCW信号が変調器入力に印加される場合)
図26.
–10
ノイズ・フロア(dBm/Hz)
–15
–10
–5
0
802.16 64QAM OFDM信号に対するトランスミッタ
のトータルEVM性能、10MHzの信号帯域幅
5.45MHz
–50
9.75MHz
–60
14.75MHz
05790-021
–40
–30
–145
–150
–155
–70
–50
–140
–20
–10
–160
–60
0
05790-024
ACPR ( dB)
–40
–50
–40
–30
–20
–10
0
トータル出力パワー・レベル(dBm)
トータル出力パワー(dBm)
REV. A
–20
–135
–30
図24.
–25
–130
–20
–80
–60
–30
トータル出力パワー(dBm)
RF周波数(GHz)
図23.
コンスタレーション誤差(dB)
5
#ATTEN 8dB
REF –2dBm
# SAMP
LOG
10dB/
802.16dマスクに準拠するトランスミッタのACPR
(64QAM WiMAX OFDM、10MHzの帯域幅)、
出力パワーまたはVGAIN電圧の関数
図27.
― 15 ―
トランスミッタの出力パワー 対 出力ノイズ・フロア
(QPSK、16QAM、64QAM OFDM変調信号)
05790-023
15
ゲイン法則適合性(dB)
15
05790-019
ゲイン(dB)
VPS1=5V(AD8349、ADL5330、AD8362)、VPS2=3.3V(AD9860/AD9862、ADF4153)、無線周波数帯域:2.3∼2.4GHz
AN-826
3
QPSK、レート3/4
16QAM、レート3/4
64QAM、レート 3/4
2
1.5
1
1.0
0
0.5
–1
0
–2
–0.5
–50
–40
–30
–20
–10
0
–3
2
1
CH1 500mV
VGA出力パワー・レベル(dBm)
図28.
RMSパワー・ディテクタの応答性と検出誤差、および
図29.
送信シグナル・チェーンの出力パワー・レベルの関連特性、
QPSK、16QAM、64QAM OFDM変調
(VGA出力に10dBのカプラを使用)
― 16 ―
CH2 20.0mV?
M1.00ms
A CH4
T
3.15200ms
174mV
WiMAXダウンリンク・バーストに対するパワー・
ディテクタの時間応答性(長いプリアンブル、
FCH、64QAM OFDMデータ・シーケンス)、
シンボル時間=25.6µs
REV. A
AN05790-0-7/06(A)-J
64QAM、レート2/3
誤差(dB)
16QAM、レート1/2
05790-025
VOUT (V )
2.0
QPSK、レート1/2
05790-026
2.5