エアーアシストを使用したコート紙・薄紙排紙積載性向上技術 A New Technology for High Stacking Performance of Coated Paper Using Air-Assisting System 鈴木 淳也* Junya SUZUKI 高野 孝* 福本 Takashi FUKUMOTO 悟* 佐々木 Satoru TAKANO 圭* Kei SASAKI 要 旨 新倉 康夫* Yasuo NIIKURA 紺野 和法* Kazunori KONNO 信太郎* 松元 Shintaroh MATSUMOTO 森 雄太* Yuuta MORI 児島 秀俊* Hidetoshi KOJIMA 芳賀 宏次郎* Kohjiroh HAGA _________________________________________________ 近年,プロダクトプリンティング市場では,コート紙特有の表面性により,用紙間が密着 することで発生する押出しや座屈による排紙積載不良の改善が求められていた.トレイ等の 補助部材を使用せずに幅広い紙厚のコート紙/薄紙をずらさずに積載できる方式を確立する ことを目指して検討した.積載紙後端を押え押出しを防止する機構と,送風によって排出紙 と積載紙の間に空気層を作り,用紙間密着を防止する機構にて,機能性評価および気流シ ミュレーションの技法を使用し,機能範囲を明確化し,コート紙・薄紙の排紙積載性に関す るロバスト性の高い技術を開発した. ABSTRACT _________________________________________________ In recent years, customers in the production printing market request the high stacking performance, namely the printing system without paper stacking failure due to buckling and extrusion, which come from the close contact between papers by the distinctive surface properties of coated paper. In order to stack the coated and/or thin paper of various thicknesses with high precision without using an auxiliary member, For two mechanisms, to prevent extrusion presses the rear end stacking paper, and to prevent the adhesion between sheets by generating an air layer between the paper stacking and discharge paper by blast, we have developed a robust system based on restraint device of paper and air flow. The functionality evaluation and simulation of air flow was used to optimize the system. * リコーテクノロジーズ株式会社 第二設計本部 Design Division 2, Ricoh Technologies Co., Ltd. Ricoh Technical Report No.39 94 JANUARY, 2014 1. 排出紙 背景と目的 積載紙 1-1 市場の動向 押出し 座屈 近年,プロダクトプリンティング市場への参入に より,周辺機(後処理装置)にも用紙対応力向上が 要求されている. 特に,カラー機においてはカタログ,チラシ等に Fig.1 画像映えのするコート紙へのプリント比率が高く Extrusion and compression buckling of Stacked paper. なっている.しかし,コート紙の一般的な特徴とし て表面平滑度が高い/用紙間密着力が高い/クラー そこで,前身機リコーフィニッシャー ク剛度が低いということが原因で,コート紙の積載 [SR5040/SR5030]では,コート紙積載時の排紙積載 性を悪化させる場合がある.また,書籍等に使用さ 不良を防止するために,Fig.2に示すように,通紙 れている薄紙についても,クラーク剛度が低く,積 するコート紙の紙厚に応じて厚紙用と薄紙用の2つ 載性を悪化させる場合があり,市場からの要求に十 の補助トレイを設置していた. 分に答えられていないのが現状である. 厚紙用補助トレイは,トレイ先端にウィング形状 プロダクトプリンティング市場では,コート紙を (トレイ形状よりさらに角度を増加する)を追加す 大量に精度良く排紙積載できる後処理装置の開発が ることで,積載紙が排出紙に押し出された際に,積 要求されている. 載紙が押し出されることを低減させる狙いがあった. 1-2 従来方式 コート紙を通紙した場合に発生する排紙積載不良 として,大きく2種類に分類できる. (1) 積載紙の押出し コシが強い用紙では,印刷によって生じる排出 Fig.2 Conventional supporting tray. 紙と積載紙の帯電と,排出紙と積載紙の摩擦に より用紙間が密着し貼り付いてしまうと,排出 薄紙用補助トレイは,Fig.3に示すように,トレ 紙が積載紙を押し出してしまう(Fig.1参照). イ上に積載されている積載紙と,排出紙の接触面積 (2) 排出紙の座屈 を減らし,積載紙と排出紙の貼付きを防止する狙い コシが弱い用紙では,印刷によって生じる排出 があった. 紙と積載紙の帯電と,排出紙と積載紙の摩擦に より用紙間が密着し貼り付いてしまうと,排出 紙先端が貼り付きで搬送できなくなり,排出紙 後端が丸まってしまう(Fig.1参照). Ricoh Technical Report No.39 95 JANUARY, 2014 積載紙 積載紙 排出方向 押出し力 排出紙 後端抑止力 積載紙と排出紙の 空間 エンドフェンス 排紙トレイ Fig.3 The aim of the thin paper supporting tray. しかし,紙厚が厚くてもコシがない用紙では,厚 積載紙 紙用補助トレイではなく,薄紙用補助トレイを設置 密着発生 排出紙 排出方向 排出コロ対 しないと排紙積載性を満足できないものがある.積 載枚数が増加していくと,トレイ形状の効果が弱 ファンモータ まっていき,排紙積載不良が発生する懸念があり, 戻しコロ 積載枚数を普通紙に比べて少なく制約する場合が シフトトレイ 排紙トレイ あった. 2. 2-1 Fig.4 空気層発生 Mechanism of restraint device for coated paper. 新方式 コート紙対応技術 用紙排出時の押出し,座屈への対応策として,従 来のコート紙専用の補助トレイは使用せず,積載性 を向上させ,揃え精度の目標値を達成するために下 記の方式を採用した. 押出しによる排紙積載不良に対しては,Fig.4,5 に示すように,2枚目以降の排出紙が,排紙トレイ 上の積載紙と接触する時,積載紙後端をレバーで押 え,排出紙が積載紙と貼り付き,押し出そうとする 力(押出し力)以上の力で後端を押えることで抑止 する(後端抑止力)機構を用いた. 貼付きでの座屈に対しては,排出紙と排紙トレイ の間にファンによる送風で空気層を作り,用紙間密 着による貼付きを防止する方式を採った. Ricoh Technical Report No.39 96 JANUARY, 2014 (1) トレイ角度 水平に近づける.これにより用紙の搬送抵抗を 低減させる. (2) エアー制御 用紙後端を確実に排出させ,用紙後端の浮き を押える. 特に,Fig.6に示すように,排出紙と積載紙の間 に送風を行うファンの排気部に機械的に開閉可能な 1.用紙が排出される 遮蔽板を追加し,ファン排気部内で風量を調整する 機構を検討した.後端押え機構と連動する構成とし, 用紙後端が排紙ローラを抜けるタイミングで遮蔽板 を塞ぎ,ファンの風量を減らすことで,用紙後端の 浮きを防止する思想で作り込みを行った. 2.押えレバーが用紙を押える 3.押えレバーがHPへ退避する Fig.5 Operation of restraint device against extrusion of paper. 2-2 薄紙対応技術 コート紙対応技術を搭載した改良機においても, 薄紙(52.3 [g/m2]以下)では,排出紙のコシが弱く, 排紙トレイ上を上りきれずに,丸まりが発生し,積 載が不可能であることが確認された.そこで,トレ イ角度変更,エアーON/OFF制御の組合せを検討し た結果,下記2条件があれば積載可能であることを 見だした. Ricoh Technical Report No.39 97 JANUARY, 2014 3. 機能性とロバスト性の評価 機能性評価 3-1 押出し,座屈による排紙積載不良の対策として, 様々なバラつきに対しても効果のある機能を選定す るために,機能性評価を行った. ①.1枚目排出開始 遮蔽板 :開 押えレバー:押え 誤差因子を抽出する予備実験と,制御因子の予備 実験を行い,その結果を基に機能性評価を行った. まず基本機能はFig.7に示すように,「エンドフェ ンスから排出紙後端までの距離が狙いの位置にくる ように排出すること」とした. エンドフェンスから用紙後端までの 距離が狙いの位置(0mm)にくること ②.1枚目後端抜け,押えレバー退避開始 遮蔽板 :開→閉 押えレバー:押え→退避 排出紙 積載紙 エンドフェンス 排紙トレイ 遮蔽板閉 Fig.7 ③.1枚目排出完了 遮蔽板 :閉 押えレバー:退避 Functionality evaluation of stacking of paper. 誤差因子は,紙種,帯電量,紙面画像の組合せ, 積載形状を選定した.紙種は,前身機評価の中から 押出し,座屈状態の最も悪い最悪紙を選定した.帯 電量は,除電ブラシの本数を変更し帯電量測定した. 紙面画像の組合せは,摩擦係数測定にて用紙が滑り やすい条件を選定した.積載形状は,フェイスカー ル,バックカールの用紙を500枚積載状態にて通紙 確認した. 制御因子は,ファン風速,送風角度,用紙後端を ④.押えレバー動作開始 遮蔽板 :閉→開 押えレバー:退避→押え Fig.6 押える抑止力,トレイ角度の4因子とした. ファンの風速は,送風なしと,座屈に効果のある Technology corresponding to a coated paper. 風速から風速2,4(1~4で数字が大きいほど速い) の3水準を選定した.送風角度は,Fig.8示すように, 送風角度1,6(1~6で数字が大きいほど角度大)の Ricoh Technical Report No.39 98 JANUARY, 2014 評価内容としては,Fig.9に示すように,1枚ずつ 2水準を選定した.後端抑止力は,積載紙の押出し 力測定と通紙確認を行い,押出しが発生せず,汚れ, 10枚の通紙を行い,測定は「エンドフェンス~用紙 傷が発生しない抑止力をなし,1,2(数字が大きい 後端までの距離」を押出し,座屈について測定した. ほど抑止力大)として選定した.トレイ角度は,現 その結果を基に押出しと座屈に対する総合SN比を 状の排紙トレイ角度2と,角度1,3(数字が大きい 算出した. ほど角度大)の3水準を選定した.これらの制御因 子を直交表に割り付けたものをTable 1に示す. エンドフェンスからの 座屈量[mm] エンドフェンスからの 押出し量[mm] 評価紙 評価紙 排出紙 排出紙 排出方向 積載紙 積載紙 ファンモータ 積載紙 排紙トレイ 排紙トレイ Fig.9 Measuring method for extrusion and buckling. 排出コロ対 送風角度 評価結果をFig.10以降に示す.Fig.10は評価Noごと のSN比を示している.青丸で囲んである評価No.7が ファンモータ Fig.8 現状の構成であり,押出し,座屈が発生しており, A air blower angle to the direction of paper feeding. SN比が低くなっている.赤丸は,積載紙後端を押え る,ファンによる送風によって押出し,座屈を防止 できた評価No.12ではSN比が高くなっている. Table 1 Allotment to orthogonal table. SN比 総合 制御因子 なし 角度1 抑止力1 角度2 風速4 角度1 抑止力2 角度3 風速2 角度1 なし 角度1 5 風速2 角度1 抑止力1 角度2 6 風速2 角度1 抑止力2 角度3 7 なし 角度1 なし 角度2 8 なし 角度1 抑止力1 角度3 9 なし 角度1 抑止力2 角度1 10 風速4 角度6 なし 角度3 11 風速4 角度6 抑止力1 角度1 12 風速4 角度6 抑止力2 角度2 13 風速2 角度6 なし 角度2 Fig.11は総合の要因効果図を示している.最適条 14 風速2 角度6 抑止力1 角度3 件は風速:4,送風角度:6,後端押え力:2になっ 15 風速2 角度6 抑止力2 角度1 た.トレイ角度は水準の全てが測定誤差の範囲内に 16 なし 角度6 なし 角度3 入っており,効果が低い結果となった. 17 なし 角度6 抑止力1 角度1 18 なし 角度6 抑止力2 角度2 Ricoh Technical Report No.39 30 0 -30 No.18 No.17 No.16 No.15 No.14 No.13 No.12 No.11 No.9 No.10 No.8 No.7 現状 No.6 -60 No.5 4 60 No.4 3 90 No.3 風速4 評価No 1 120 No.2 2 最適条件 トレイ 角度 角度1 後端抑止力 No.1 送風 角度 角度1 SN比[dB] ファン 風速 風速4 150 評価No Fig.10 Results of functionality assessment. 99 JANUARY, 2014 最適条件での改善量としては,Fig.12,13に示す 70 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 ように,青丸から赤丸に改善されており,押出しで 結果となった.押出しについては,33%と再現性の A:ファ ン C:押え D:トレイ 角度 3:E3 2:E2 1:E1 角度3 角度2 角度1 抑止力2 無 抑止力1 角度6-無 角度6-風速2 再現性は総合で14.7%,座屈で2%と再現性が高い 角度1-無 に再現性確認を行った結果,Table 2にあるように, 角度6-風速4 よる送風で74.3 [dB]の改善があった.この結果を基 角度1-風速2 ることで50.2 [dB]改善があり,座屈に対しファンに 角度1-風速4 SN比[dB] はファンによる送風で48.3 [dB],積載紙後端を押え 要因効果図 座屈 E:測定誤差 制御因子 目安である30%を超えているが,評価中で押出しは 発生しなかった. Fig.13 The amount of S/N ratio improvements of compression buckling. C:押え D:トレイ 角度 3:F3 2:F2 1:F1 角度3 角度2 角度1 抑止力2 無 A:ファ ン 抑止力1 角度6-無 角度6-風速2 角度1-無 角度1-風速2 角度6-風速4 Table 2 Confirmation of reproducibility (Gain). 角度1-風速4 SN比[dB] 要因効果図 総合(押出し+座屈) 130 110 90 70 50 30 10 -10 -30 E:測定誤差 制御因子 以下に,各因子の特徴的効果を述べる. Fig.11 S/N ratio cause and effect diagram for extrusion and buckling. (1) ファンによる送風 薄紙の座屈,厚紙の押出しともに効果がある. 風速:4では,送風角度に関係なく座屈に効果 がある.ただし,送風角度:1は搬送方向に対 要因効果図 押出し 70 して内向きの角度が小さいので,風速:4で排 60 50 SN比[dB] 出すると,排出紙後端の両端を送風によって捲 40 り上げてしまい,浮きっぱなしでトレイ上に落 30 20 下しない不具合が発生した.風速:1,角度:6 C:押え D:トレイ 角度 では,排出紙先端がトレイ上の積載紙に接触時 3:E3 2:E2 1:E1 角度3 角度2 角度1 抑止力2 無 A:ファ ン 抑止力1 角度6-無 角度6-風速2 角度6-風速4 角度1-無 角度1-風速2 0 角度1-風速4 10 に座屈は発生しなかったが,送風の効果が用紙 長全体を網羅できずに,積載紙の先端付近で座 E:測定誤差 制御因子 屈が発生した. Fig.12 The amount of S/N ratio improvements of extrusion. (2) 後端押え 抑止力1では,送風により押出しが発生したが, 抑止力2では,トレイ角度に関わらず押出しを 防止できる. (3) トレイ角度 トレイ角度の差による影響が少なく,積載面形 状の変化にもロバスト性が高い. Ricoh Technical Report No.39 100 JANUARY, 2014 端付近で座屈が発生し,効果が低い結果となった. 機能範囲の明確化 3-2 この結果から,送風角度は搬送方向に対して平行に 機能性評価の結果から,押出し,座屈に対して送 排出紙先端に向けた方がより効果があることが確認 風 の効果 が大 きいこ とが 確認で きた .しか し, できた.ファンの選定条件は,送風角度:2,風 Fig.14に示すように,最適条件として送風角度6を 速:3に設定した. 選定したが,風速:4から風速:2へ遅くした際に SN比が大幅に落ちているのに対し,逆に送風角 Table 3 Experimental results of stackability for various angles and speeds of air flow. 度:1の場合は,送風角度:6に比べ風速の影響を受 け難い結果となった. このため,風速,送風角度がどの程度のバラつき に対し効果があるかについて,機能範囲を明確化し, 最適条件を選定した.誤差因子と評価方法は,機能 性評価と同様に実施した.制御因子は,機能性評価 にて押出し,座屈に対し効果が大きいファンの風速 と送風角度以外を固定し,揃え精度が目標値未満に なるまで風速を下げて評価を行った.風速は,機能 性評価の結果から,風速:3で効果があることが確 3-3 認できていて,風速:4では送風量が多く,排出紙 の後端が浮きっぱなしになる副作用が発生するので, 風速4は参考として評価を行った. 気流シミュレーションとの紐付け これまでの実機評価結果から,機能性評価,機能 範囲の明確化で効果を確認できたが,気流は可視化 できないので,風速,送風角度を定量的に表すこと 用紙後端浮き発生 130 110 90 70 を行い,実機評価との相関がとれるか確認を行った. 効果有(最適条件) SN比[dB] その結果,風の流れの解析では,送風角度ごとの 効果有 気流の差異が分かりにくく,実機評価との紐付けが できないことが確認された.そこで,排出紙が排紙 座屈発生 C:押え D:トレイ 角度 3:E3 2:E2 1:E1 角度3 角度2 角度1 抑止力2 無 A:ファ ン 抑止力1 角度6-無 角度6-風速2 角度1-無 角度6-風速4 角度1-風速2 トレイに接触する用紙の挙動を動画にて撮影し,測 角度1-風速4 50 30 10 -10 -30 ができない.そこで,気流シミュレーションで確認 要因効果図 総合(押出し+座屈) 定したデータを基に3DCADにてモデル化した. Fig.15に作用力の解析用モデルデータを示す.送風 E:測定誤差 制御因子 の上下方向は排紙トレイ角度と平行に固定して,送 風が用紙に作用する力を送風角度,風速を変更して Fig.14 S/N ratio variation due to the change of angles and speed of air flow. 解析を行った. 30mm 上記に基づき,風速,送風角度の機能範囲の明確 排出紙先端~30mmの範囲で 用紙に作用する力 化を行った結果,座屈に対し効果があることが分 か った. 揃え 精度の 規格 値を達 成で きるの は, Table 3に示しているように風速:2,3では,送風角 度:1~4になった.機能性評価で最適条件として設 Fig.15 Calculated force acting an paper using air flow simulation. 定した送風角度:4は,風速を弱めることにより先 Ricoh Technical Report No.39 101 JANUARY, 2014 確認結果 シミュレーション条件 ・ トレイ角度:現状 Table 4でAの範囲が,シミュレーション,実機と ・ 送風角度:6パターン(角度1~6) もに効果のある範囲,Cの範囲がシミュレーション, ・ 風速:4パターン(風速1~4) 実機ともに座屈が発生する範囲,Bの範囲が判断で ・ 解析位置:排出紙先端から30mmまでの領域 きない境界領域となり,A,Cの範囲で相関がとれ ていることが確認できた. Fig.16がシミュレーション結果になっており,各 この結果から,排紙トレイでトレイ角度が現状の 送風角度,風速での用紙に掛かる力を示している. 場合,座屈を防止するには,Aの範囲の力が排出紙 グラフに示しているように,シミュレーションでの 先端に作用していれば貼付き,座屈に対して効果が 最適条件は,送風角度:3になり,実機評価結果の あることが確認できた. 最適条件である送風角度:2と差異がある結果と なった.これは気流シミュレーションでは送風を受 Table 4 Correlation confirmation using air flow simulation. ける用紙を板上の形状で固定しているので,排出紙 がトレイ面に接触後の用紙の挙動を含んでいないこ とで差異が生じたと考えられる.送風角度:4以上 では,実機評価結果と同様に角度が大きくなるほど 用紙に作用する力が減っていく傾向にあった. 次に,気流シミュレーション結果を基に,実機評 価結果の座屈の発生有無とシミュレーション結果を 比較し,相関確認を行った.Table 3に示している実 機評価で座屈に効果のあるOK領域,座屈が発生し たNG領域,OK領域とNG領域の境界領域を判別し, 実機評価結果とシミュレーション結果の相関確認を した.境界領域は,実機評価で判断できていない① 3-4 風速:3での送風角度:4,5の間,②風速:2での送 風角度4,5の間の,2箇所を選定している. ロバスト性確認 次に,ロバスト性確認として,これまでの評価の 選定条件でロバスト性,用紙対応力の見極めを行っ た.選定条件は,以下である. 用紙に作用する力[N] 送風角度毎の用紙に作用する力[N] 0.14 0.12 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.00 ・ ファン風速:風速3 風速1 ・ 送風角度:角度2 風速2 ・ 後端抑止力:抑止力2 風速3 確認項目は,前身機リコーフィニッシャー 風速4 1 2 3 4 5 [SR5030/SR5040](以降,「前身機」と呼ぶ)と改 6 良機リコーフィニッシャー[SR5050/SR5060](以降, 送風角度 「改良機」と呼ぶ)のコート紙揃え精度を比較する Fig.16 Force on paper for various angles and speed of air flow. ことと,改良機での普通紙に対するコート紙の揃え 精度を確認する2項目を行った.評価方法としては, 1枚目の積載位置を基準に,積載紙の揃えズレ量を 測定した. Ricoh Technical Report No.39 102 JANUARY, 2014 前身機とのコート紙揃え精度比較 20 Fig.17が搬送方向の揃えズレ量,Fig.18が幅方向 15 の揃えズレ量を示している.搬送方向,幅方向とも 10 SN比[dB] 前身機とのコート紙揃え精度比較結果 3-4-1 に前身機に比べ,改良機の方が揃え精度が向上し, 全て規格値の搬送方向,幅方向が目標値を達成して 前身機SR5030/SR5040 SR5050/SR5060 7.7 5 0 いることが確認できた.この結果から,揃え精度の 改 善 量 は, Fig.19に 示 すよ う に ,搬送 方 向 で -4.9 -5 [dB]から16.2 [dB]へ21.1 [dB],幅方向で-5.1 [dB]か -10 -4.9 搬送方向 ら7.7 [dB]へ12.8 [dB]に大きく向上できた. -5.1 幅方向 Fig.19 S/N ratio of precision of paper registration of the improved and preceding machines. 前身機とのコート紙揃え精度比較(搬送方向) 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 -40 Fig.20,21の積載写真にあるように,前身機では 座屈,押出し等の積載不良が発生していたが,改良 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 機では正常に排出できている. SR5030 揃えズレ量[mm] 16.2 ●スタック 性改善確認(薄紙コ ー ト 紙) B ef ore(前身機) A f ter(改良機) コート紙1 コート紙2 コート紙3 コート紙4 コート紙5 コート紙6 コート紙7 銘柄 Fig.17 Comparison of the precision of paper registration between the improved and preceding machines (transfer paper direction). 座屈による積載不良 揃え ズ レ量MA X 110[m m] 縦方向:1.6[mm] 30 25 20 15 10 5 0 -5 -10 -15 -20 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 SR5030 SR5050 Fig.20 Improvement of stackability for thin and coated paper. SR5030 揃えズレ量[mm] COL-B/COL-Cコート紙揃え精度比較 全環境(幅方向) コート紙1 コート紙2コート紙3 コート紙4 コート紙5コート紙6 コート紙7 銘柄 Fig.18 Comparison of the precision of paper registration between the improved and preceding machines (width direction). Ricoh Technical Report No.39 103 JANUARY, 2014 普通紙/コート紙比較 揃えズレ量(搬送方向) ●スタック 性改善確認(厚紙コ ー ト 紙) B ef ore(前身機)拡大 B ef ore(前身機) 2.0 1.5 SN比[dB] 1.0 0.5 コート紙9 コート紙8 コート紙7 コート紙6 コート紙5 コート紙4 コート紙3 -1.0 コート紙2 A f ter(改良機) 普通紙 -0.5 コート紙1 0.0 押出しによる スタック不良 銘柄 Fig.22 Comparison of the precision of paper registration between regular and coated paper (paper-transfer direction). Fig.21 Improvement of stackability for pasteboard coated paper. 普通紙/コート紙比較 揃えズレ量(幅方向) 2.0 ていることが確認できた.揃え精度は,Fig.24に示 コート紙9 コート紙8 紙は搬送方向,幅方向ともに全て目標値を達成でき コート紙7 -0.5 コート紙6 向の揃えズレ量を示している.確認の結果,コート コート紙5 0.0 普通紙 を比較している.Fig.22が搬送方向,Fig.23が幅方 コート紙4 0.5 コート紙3 代表的な普通紙と,コート紙について揃えズレ量 1.0 コート紙2 普通紙とコート紙の揃え精度比較 コート紙1 3-4-2 SN比[dB] 1.5 銘柄 すように,搬送方向が代表的な普通紙が16 [dB]に 対しコート紙は10.9 [dB]と5.1 [dB]低下しているが, 幅方向は普通紙が3.1 [dB]に対し7.7 [dB]と,普通紙 Fig.23 Comparison of the precision of paper registration between regular and coated paper (width direction). の揃え精度に勝る結果となった. Ricoh Technical Report No.39 104 JANUARY, 2014 改良機におけるコート紙/普通紙 揃え精度比較 18 16.0 16 コート紙 普通紙 14 SN比[dB] Table 5 Stackability examination of thin paper. 10.9 12 10 7.7 8 6 3.1 4 2 0 搬送方向 幅方向 Fig.24 S/N ratio of paper registration of regular and coated paper. No.1~3の設定では,排紙トレイの角度が大きく, 排出紙が排紙トレイ上を上ることができずに積載不 良が発生した.No.4の設定では,排紙トレイの角度 これらの結果から,コート紙に対しても以下のよ を小さくすることで,丸まり/座屈は発生しないが, うな効果がある. 排出紙を搬送する中で,排出紙のコシが弱いので, (1) 積載紙の後端を確実に押えることで,排紙トレ 推進力が低下し,排出紙後端が排出しきれなかった. イ上に積載後に,排出紙によって押し出される Fig.25に示すように,No.5の設定では,エアーに 不良が発生しない. よって排出紙の搬送をサポートでき,後端まで確実 (2) 排出時にエアーによって排出紙先端まで送風を に排出することができたが,排出紙後端に送風を続 行うことで,貼付きを防止することができ,積 けてしまうので,後端がトレイ上に落下できずに正 載紙が増えて,積載面の形状が変化しても,送 常に排出完了できなかった.No.6の設定では,No.5の 風の効果が継続している. 設定に送風量の可変を追加し,用紙後端が排出完了 3-5 後に風量を下げることで,排出紙後端が排紙トレイ 薄紙対応技術の評価結果 上に落下でき,正常に排出できることを確認できた. コート紙対応技術を搭載した改良機においても, この結果から,ファンON/OFF制御時の制御タイ 2 薄紙(52.3 [g/m ]以下)の排紙積載性確認では積載 ミングとして,押えレバーと同期して制御すること が不可能なので,積載可能な方式の検討を行った. で効果があることが確認できたので,押えレバーと 各方式での積載可否結果をTable 5に示す. 同期した構成でモータ等の新規追加は行わずにレイ 評価方法は,各設定にて環境,紙種,画像の条件 アウトを検討した. を誤差として通紙を行い,丸まり/座屈の有無を確 認した. Ricoh Technical Report No.39 105 JANUARY, 2014 ・遮蔽板なし (No. 5) ●ス タック 性改善確認(薄紙) B ef ore(シャ ッ ター なし) A f ter(シャ ッ ター あり) 送風により排出紙 後端が浮く 排出紙(2枚目) 座屈による積載不良 排出紙(1枚目) Fig.27 Improvement of stackability of thin paper by the shatter mechanism. ・遮蔽板あり (No. 6) エアーの風量を下げ、 用紙後端の吹上がりを 防止 排出紙(2枚目) 4. 結論 機能性評価,機能範囲の明確化の結果,ファン風 排出紙(1枚目) 速,送風角度,後端抑止力の最適条件を選定するこ とができ,コート紙積載性向上技術を構築すること 遮蔽板閉 ができた. また,ロバスト性確認の結果,押出し,座屈の発 Fig.25 The action of a shutter mechanism on the backside of the paper. 生がなく揃え精度が安定している技術であることが 確認できた. 検討結果の確認として,通常構成と対策構成での 薄紙に対しても,トレイ角度の変更と,排紙エ 排紙積載精度の比較を行った.Fig.26,27に示すよ アーの風量制御を行うことで排出可能であることを うに,対策を行うことで丸まり/座屈の発生がなく, 見だせた. 以上の結果から,コート紙・薄紙排紙積載時の押 排出性が改善されていることが確認できた. 出し,座屈に対して用紙後端押え機構,排紙エアー 今後の機種にもこの技術を搭載し,プロダクトプリ -10 SN比[dB] 機構を改良機に搭載し,用紙対応力強化ができた. 通紙確認結果 SN比 全環境 0 -7.9 -9.6 -20 ンティング市場の種々用紙への対応ができるように 発展させたい. -18.2 -30 -40 -50 -45.4 遮蔽板なし 遮蔽板あり 遮蔽板なし 搬送方向 系列1 -45.4 遮蔽板あり 幅方向 -18.2 -9.6 -7.9 条件 Fig.26 S/N ratio of stackability for thin paper. Ricoh Technical Report No.39 106 JANUARY, 2014