(No.34, 2008年度)パッケージ応力による小型アナログICの回路特性変動評価(7P/786KB)

パッケージ応力による小型アナログICの回路特性変動評価
Prediction of Stress-Induced Characteristic Changes for Small-scale Analog IC
上田 尚宏∗
渡辺 博文∗∗
Naohiro UEDA
Hirobumi WATANABE
要
旨
アナログ特性の精度向上に伴って樹脂封入(パッケージング)による僅かな特性変動が無視で
きなくなってきている.今回,1辺1mm未満の小型アナログ集積回路(IC)において,樹脂封入し
た後の残留応力が引き起こす回路特性の変動を,新たに開発した評価方法を用いて予測する手法
を開発した.テストチップは小型ICと同じ外形寸法で,シリコン単結晶中に不純物拡散法で形成
した1つの微小なピエゾ抵抗体を備えている.このテストチップの抵抗値変化量を測定すること
でパッケージ起因の応力変化を検出する.小型ICは外部との接続電極数が少ないので同じ構造の
テストチップでは1チップで1箇所の抵抗値しか採取できない.そこで我々はピエゾ抵抗体のチッ
プ内位置を変えた複数のテストチップを作製し,その全ての結果を積算することで1つのチップ
面内依存性を再生できることを明らかにした.この新しい手法を用いた小型アナログICのチップ
表面応力分布について報告する.さらに,この応力分布を反映したチップ全体の回路特性シミュ
レーション法を紹介する.
ABSTRACT
Stress-induced parametric changes during the resin-molded packaging of a small-scale integrated
circuit (IC), which is smaller than 1.0 mm2, have been evaluated by a new methodology with specially
designed test chips. Multiple test chips with different resistor locations have been fabricated, measured by
die-to-die correspondence and one contour plot was reproduced from all of the measurement results.
This paper shows distributions of parametric change for the small scale ICs. In addition, a new method for
evaluating the circuit performance change due to stress-induced parametric changes is presented.
∗
電子デバイスカンパニー 技術開発部
Process Development Department, Electronic Devices Company
∗∗ 電子デバイスカンパニー 製品開発部
Product & Technology Development Department, Electronic Devices Company
Ricoh Technical Report No.34
54
DECEMBER, 2008
1.背景と目的
Bonding pad
Patterned aluminium
近年の携帯用電子機器の目覚しい普及拡大に伴い,
それに用いられる電子機器は小型化が要求され半導体
Si single crystal
(100) plane
集積回路(Integrated Circuit:以下IC)もその例外で
P-type piezoresistor
(DUT)
はない.小型化と同時に高精度化への要求も高く,例
えば,アナログICの初期精度を高めることや特性バラ
ツキを抑えることがここ数年のデバイス開発の大きな
<1.0 mm (same size as production IC)
技術課題となっている.
ICの電気特性の高精度化を阻害する1つの要因として
Fig.1
Test Chip.
モールドパッケージング工程に伴う特性変動が挙げら
れる.これは線膨張係数の大きい樹脂がその形成過程
チップ表面の複数の応力データを抽出するために
で硬化収縮を起こし,その結果,IC表面に圧縮応力が
我々は以下3つの工夫をテストチップに盛り込んだ.
発生することが原因である.この応力によるピエゾ効
第1に,ピエゾ抵抗体の位置をあらかじめ変えた複数
果で各種デバイスの電気特性は変化し,結果として回
のテストチップを同時に形成し,全ての測定結果を1つ
1), 2), 3)
路特性もパッケージング工程前後で変化する
のチップ平面内に同時に表示する,という手法を採用
.
した.この方法を用いることで端子数が限定された小
通常の回路設計はウエハ状態で抽出したSPICEパラ
4)
メータ を用いているのでこの特性変動は考慮されて
型ICについても,チップ面内の特性変動傾斜を採取す
いない.
ることが可能になった(Fig.2).
我々は過去に報告例のない1辺1mm未満の小型ICの
面内応力評価方法を開発した.また,この技術を用い
てモールドパッケージング工程で生じる残留応力起因
の回路特性変動を調査したので報告する.
2.技術
2-1
テストチップ
今回の評価で用いたテストチップの外観をFig.1に示
す.テストチップは小型ICと同一の形状,同一の接続
端子部(Bonding Pad)を備えている.これは実際の小
Fig.2
型ICで生じる残留応力起因の特性変動をできるだけ正
principle of the multi point measurements
utilizing the test chips.
確に計測するためである.
小型ICは端子数が少なく例えば1辺1mm未満の小型
第2として,異なる複数のテストチップの結果から1
ICでは端子部が4つしかない.よってこれと同じ端子数
つのチップの応力面内分布を再現するためには,個々
で作製したテストチップには,応力検出用の素子(ピ
の測定結果に高い測定精度が必要である.このために
5)
エゾ抵抗体 )が1つしか搭載できない.つまり,この
テストチップに形成したピエゾ抵抗体の抵抗値測定は,
チップだけでは小型ICのチップ表面の異なる場所の応
引き回しのメタル配線抵抗の違いやコンタクト抵抗の
力データを採取することはできない.
バラツキなどの外乱要因を排除することができる4端子
Ricoh Technical Report No.34
55
DECEMBER, 2008
法(4 point Kelvin resistance measurement method6) )
Parametric
Change
を用いた(Fig.3).
Stress
第3としては,前述のように評価の対象となる小型IC
のチップサイズが1辺1mm未満と極めて小さいのでテ
ストチップに内蔵させるピエゾ抵抗体はチップサイズ
Load Cell
Current/Voltage
Sources
に対して十分小さい必要がある.そこで今回作製した
ピエゾ抵抗体は,幅:2um,長さ:30umと極めて小さ
Environmental Chamber
いものとした.
DUT
Clamp
P-type
Implanted
resistor
Silicon Beam
V_m1
GND
Fig.4
Si substrate
resistance change (%)
3.0
Fig.3 outline of a piezo sensor cell.
以上の特徴を備えたテストチップを実際の小型ICと
同じ生産設備・同じ材料・同じ工程条件でSiウエハ上
に作製し,続いてパッケージング処理を行った.抵抗
値の測定は温度依存性で生じる測定値バラツキを避け
15.0
Poly-Si resistor
NMOS
PMOS
2.0
10.0
1.0
5.0
0.0
0.0
-1.0
-5.0
-2.0
-10.0
-3.0
-15.0
-3.0
るために,23±0.5℃の恒温環境下で行った.
2-2
calibration equipment by cantilever technique.
Gm change (%)
V_m2
I-force
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
resistance change of P type resistor (%)
キャリブレーション
Fig.5
calibration result.
以上の手法で作られたピエゾ抵抗体の抵抗値変動か
ら,回路全体での特性変化を予測するため,回路で用
いられているそれぞれの素子の特性変動と,応力に対
応して変化するピエゾ抵抗値との相関関係を調査した.
評価システムは短冊形状に切り出したSiチップ(10
×40mm)の片側を固定し,自由端側に既知の荷重を
印加しながら電気特性を測定する,いわゆるカンチレ
バー法7),
8)
を用いた(Fig.4).内部応力は印加した荷
重とサンプル形状から算出する.
測定は応力の方向と素子に流れる電流の方向が平行
な状態で行った.印加した荷重はチップ内応力換算で
は0~±150Mpaである.
評価結果をFig.5に示す.ピエゾ抵抗体はP型抵抗体で
形成した.横軸が抵抗値の応力起因特性変動を,縦軸が
同じ応力印加状態での各素子の特性変動を表している.
Ricoh Technical Report No.34
56
DECEMBER, 2008
ピエゾ抵抗体のチップ内位置(P1~17)に対して
3.成果
Site1~6の測定結果が小さなバラツキ範囲内で同じ挙
動を示しており,抵抗値変動のチップ面内依存性が再
測定データの精度と再現性
3-1
現性良く高分解能で測定できていることがわかる.
複数のテストチップの測定結果から1つのチップ面内
他のチップサイズに対しても同様の結果が得られて
依存性を再現するためには,個々の測定結果に高い精
いることから,我々の評価手法が小型チップの調査に
度と再現性が要求される.Fig.6はチップサイズ0.8×
対して十分な精度と再現性をもっていることが確認で
0.7mmのテストチップにおける合計17個のピエゾ抵抗
きた.
体(P1~17)の配置図である.
応力起因の特性変動分布
3-2
今回,我々が評価したテストチップのチップサイズ
700
P2
500
Chip Y (um)
P3
P5
600
P4
とセンサー個数,及び,パッケージ種類をTable 1に示
P17
す.チップサイズは0.5×0.5mm,0.7×0.8mmの2種類,
P16
パッケージはA,Bの2種類に対して評価を行った.
400
P7
P6
P1
P15
P14
300
Table 1
Bonding Pad
P12
P8
200
P10
100
P9
Chip size
0.5 x 0.5 mm2
0.8 x 0.7 mm2
N of sensor
20
17
Package A
Figure 8
Figure 9
Package B
―
Figure 10
P13
P11
0
0
Fig.6
100
200
300
400
500
Chip X (um)
600
700
800
configuration of piezo sensor sells for 0.8×0.7
mm test chip.
Fig.8~10は実測データを基に計算したピエゾ抵抗体
の抵抗値変化率のチップ面内分布であり,図中の数値
1枚のウエハ内の異なる6つの場所(Site1~Site6)か
は抵抗値変化率:(a.u.)を表している.
らそれぞれ17個のテストチップを採取し,合計102個
のパッケージングに伴う抵抗値変化率ΔRを測定した
2
結果をFig.7に示す.
Site-1
Site-2
Site-3
Site-4
Site-5
Site-6
average
1.5
1.0
ΔR(%)
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
P1
P2
P3
P4
P5
P6
P7
P8
Fig.8
P9 P10 P11 P12 P13 P14 P15 P16 P17
Position of piezoresistor sensor in the Test Chip
Fig.7
contour plot of parametric change for 0.5×0.5
mm Si chip resin-molded with package A.
stress-induced resistance change results of
102 packages of the test chip.
Ricoh Technical Report No.34
57
DECEMBER, 2008
パッケージ Aに関してチップサイズの異なる2つの
2
分布を比較すると,チップの右領域でマイナス方向の
抵抗値シフトが,チップの上領域でプラス方向の抵抗
値シフトが共通して観測されている.しかしチップの
左下は異なる分布を示している.
パッケージ Aの分布に対してパッケージ Bではチッ
プ中心を原点とした対称的な特性変動傾斜を呈している.
以上のことからパッケージの違いによる特性変動の
違いは,パッケージの構造的な違い,特にICチップが
接着されているチップタブとそれとつながるリードフ
レームの形状が原因と考えている.
さらにパッケージ Aで見られた分布の非対称性は
Fig.9 contour plot of parametric change for 0.8×0.7
mm Si chip resin-molded with package A.
キャビティへの樹脂注入が一要因として考えられ,今
後の更なる解析が待たれている.
2
3-3
回路特性の変動予測
以上の結果を用いてパッケージング工程に伴う特性
変動を回路レベルで検証することを試みた9),
10)
.評価
の対象としたテスト回路はチップサイズ:0.5×0.5mm
のオペアンプ回路であり,パッケージAで組み立てる
ことを想定した.評価手順は以下の通りである.
まず回路全体のレイアウト図を0.1mm単位で正方分
割し,それぞれのブロックに含まれる素子を特定する
(Fig.11).一方で同じチップサイズの特性変動図も
同様に0.1mm単位にブロック分割し,各ブロックにお
ける特性変動量を読み取っていく(Fig.8).この時,
Fig.10 contour plot of parametric change for 0.8×0.7
mm Si chip resin-molded with package B.
ブロック内で特性変動量が傾斜を持つ場合は平均値を
代表値とした.
特性変動を考慮した素子はNMOS,PMOS,Poly-Si抵
抗体の3つであり,トランジスタは伝達関数:
Transconductance(Gm)を,抵抗体は抵抗値の特性変
動をFig.5のデータを用いて反映させた.
次にそれぞれの変動量を考慮したSPICE回路シミュ
レーション用のモデルパラメータを作成した.モデル
パラメータファイルは変動量の大きさごとに複数作成
し,ブロックによる変動量の違いに対応できるように
した.
Ricoh Technical Report No.34
58
DECEMBER, 2008
この結果について個々の要因を分離して調査したと
ころ,トランジスタだけが応力の影響を受けて特性変
動するとした場合(抵抗値は一定)で約0.4%,一方で,
抵抗体のみが変動する場合(トランジスタは一定)は
約0.3%出力が変動することが確認できた.
0.5 mm
すなわち,この回路においては抵抗体よりもトラン
ジスタのほうが,DCアウトプットの変動に与える影響
が大きいことが分かった.
4.結論
Fig.11
Experimental circuit
チップサイズが1辺1mm未満の小型ICに対してモー
ルドパッケージング工程に伴う応力起因特性変動を評
以上の準備をした後,回路シミュレーションを行っ
価した.評価に当たってはピエゾ抵抗体のチップ面内
た.応力の影響で生じる回路のDCアウトプットの変動
位置を変えた複数のテストチップを作製し,その全て
量をFig.12に示す.
の結果から1つのチップ面内分布を再現する,という独
回路シミュレーションは,応力分布を考慮した最適
自の手法を開発した.
な回路レイアウトの場合をベストケースとし,トラン
本手法を用いることで,チップサイズが異なると応
ジスタと抵抗体の両方の素子が応力の影響を最大に受
力の面内分布が異なること,パッケージ種類に関して
ける場合をワーストケースとして,それぞれ実行した.
もチップ面内分布を左右することが明らかになった.
ワーストケースの場合,DCアウトプットが約0.7%
これらの結果を用いてチップ全体の回路特性変動を
変動する結果が得られた.
シミュレーションしたところ,素子によって影響度合
いが異なることが確認できた.
以上のことから,我々が開発した手法は端子数が限
DC output change (%)
0.8
Worst case
0.7
定された小型ICのパッケージング起因の特性変動評価
0.6
に対して極めて有効であることが示された.
0.5
0.4
0.3
5.今後の展開
0.2
Best case
0.1
本技術を実際のIC回路設計に適用することで従来品
0.0
Reference
(without
change)
Gm change
Resistance
change
の性能を上回る超高精度なICが実現できる.
Gm&
Resistance
change
さらにこの技術は小型ICに対して応力分布の可視化
Simulation pattern
Fig.12
を可能としたことで様々な産業分野への応用が可能で
Simulation results.
あり,例えば,低応力パッケージングに関する実装技
術開発,さらにはそれに用いる新規樹脂開発などへの
応用が期待できる.
Ricoh Technical Report No.34
59
DECEMBER, 2008
参考文献
1) H. Ali : "Stress-Induces Parametric Shift in Plastic
Packaged Devices" IEEE Transacitons on Conponents,
Packaging, and Manufacturing Technology, Part B,
vol.20, No.4, Nov., (1997).
2) Y. Kanda, "A Graphical Representation of Piezoresistance
Coefficients in Silicon," IEEE Transacitons on Electron
Devices, vol.ED-29, No.1 (1982), pp.64-70.
3) A. Hamada et al. : "A new aspect of mechanical stress
effects in scaled MOS devices," IEEE Transacitons on
Electron Devices, vol.38, No.4 (1991), pp.895-900.
4) http://bwrc.eecs.berkeley.edu/Classes/IcBook/SPICE
5) Jeffrey C. Suhling and Richard C. Jaeger : "Silicon
Piezoresistive Stress Sensors and Their Application
in Electronic Packaging," IEEE Sensors Journal,
vol.1, (2001), pp.14-30.
6) http://www.allaboutcircuits.com/vol_1/chpt_8/9.html
7) F. Fruett, G. C. M. Meijer and A. Bakker : "Low-drift
Bandgap Voltage References," European Solid-State
Circuit Conference, (2002).
8) F. Fruett and G. C. M. Meijer : "The Piezojunction
effect in silicon integrated circuits and sensors, "
ISBN 1-4020-7053-5, Kluwer Academic Publishers.
9) S. Komatsu et al. : "Stress-insensitive diffused resistor
network for a high accuracy monolithic D/A
converter," in IEDM Tech. Dig., Int. Electron Devices
Meet., (1980), pp.144-148.
10) H. Miura : "Device Characteristic Changes Caused by
Packaging Stress," Mechanics and Materials for
Electronic Packaging, AMD-Vol.195, (1994), pp.101109.
Ricoh Technical Report No.34
60
DECEMBER, 2008