富士時報 Vol.76 No.8 2003 コンパクト型インバータ「FRENIC-Mini シリーズ」 松本 吉弘(まつもと よしひろ) 石井 新一(いしい しんいち) 中西 孝司(なかにし たかし) まえがき グローバル対応を考え,従来機種になかった三相 400 V シリーズを追加した。 汎用インバータは,ファン・ポンプの省エネルギー化や また,顧客の多様な使われ方に対応できるように,これ 産業機械などの省力化,自動化といった幅広い用途に使わ までオプション対応であったが,EMC(Electromagnetic れており,要求される性能・機能により単純な可変速用途 Compatibility) フ ィ ル タ 内 蔵 品 , 制 動 抵 抗 器 内 蔵 品 , から高性能ベクトル制御を適用したシリーズまでがある。 RS-485 通信対応品を準標準シリーズとして開発した(図 今回開発した「FRENIC-Mini シリーズ」は小型・低価 格を狙った機種であるが,単純な可変速用途だけでなく水 2参照) 。 表1にその機種バリエーションを示す。 平搬送などの,これまで上位機種で対応していた性能・機 能を低価格で実現した。また,ノイズ低減や鉛フリーはん 図2 EMC フィルタ内蔵品と制動抵抗器内蔵品 だの一部適用など環境への配慮,長寿命化など保守性の改 EMC フィルタ 善を行い,世界で広く使用できるグローバル製品とするこ 制動抵抗器 とをコンセプトとした。 本稿ではその特徴を中心に紹介する。 豊富な機種バリエーション 図1に FRENIC-Mini シリーズの外観を示す。今回開発 した FRENIC-Mini シリーズは,従来機種 FVR-C11 シ リーズの後継機種で,外形寸法を同一としている。 図1 FRENIC-Mini シリーズの外観 表1 FRENIC-Miniシリーズの機種バリエーション 機種分類 バリエーション 1 単相100 V 0.1/0.2/0.4/0.75 kW 2 単相200 V 0.1/0.2/0.4/0.75/1.5/2.2 kW 3 三相200 V 0.1/0.2/0.4/0.75/1.5/2.2/3.7 kW 4 三相400 V 0.4/0.75/1.5/2.2/3.7 kW 1 なし 全機種 2 内蔵タイプ 単相100 Vを除く全機種 1 なし 全機種 2 内蔵タイプ 1.5/2.2/3.7 kW (三相200 V/400 V) 1 なし 全機種 2 同一梱包 三相200 V/400 V (こんぽう) 電 源 電 圧 EMC フィルタ 制動抵抗器 内蔵 RS-485 通信対応 :追加機種 松本 吉弘 石井 新一 中西 孝司 可変速駆動装置の開発・設計に従 交流可変速駆動装置の研究・開 可変速駆動装置の開発に従事。現 事。現在,機器・制御カンパニー 発・設計に従事。現在,機器・制 在,機器・制御カンパニー シス システム機器事業部 インバータ 御カンパニー システム機器事業 テム機器事業部 インバータ開発 開発生産センター 開発部次長。 部 インバータ開発生産センター 生産センター 開発部主任。電気 電気学会会員。 開発部マネージャー。技術士(電 学会会員。 気・電子部門) 。電気学会会員。 453( 3 ) 富士時報 コンパクト型インバータ「FRENIC-Mini シリーズ」 Vol.76 No.8 2003 機種バリエーションは,従来機種では 17 機種に対し FRENIC-Mini シリーズでは 58 機種と大幅に増やし幅広 機能により,負荷変動(ステップ負荷)に対し高応答で安 定した運転を実現した。 図5にステップ負荷応答特性例を示す。 いニーズに対応した。 単純に機種をこのように増やすと,構成部品の種類が大 幅に増えるが,今回の開発では共通化設計と制御基板,電 さらに,電圧制御性能を向上し,低速域での回転むらを 当社比で約 1/2 に改善した。図6に回転むら特性例を示す。 源基板などの構成ユニットの機能分担を最適にし,ユニッ トの種類をほとんど増やさずに実現できた。 3.2 自動省エネルギー機能 図3の磁束推定器の推定値と誘導電動機電流から発生ト 高性能化技術 ルクを演算し,負荷に応じて最適な電圧を誘導電動機に印 加できるため,誘導電動機効率を最適に保てる。図7に省 市場要求である小容量汎用インバータのトルク特性の大 エネルギー効果特性例を示す。 幅な改善,自動省エネルギー機能,ストール防止機能など を搭載するために「簡易トルクベクトル制御」を開発した。 図5 ステップ負荷応答特性例 地球温暖化防止のための国際協定「京都議定書」を批准し たことなどからインバータの省エネルギー効果は注目され 負荷トルク ており,省エネルギー機能を小容量インバータにも搭載し た。 100 % 300 r/min 電動機回転速度 「簡易トルクベクトル制御」により,低速域でもパワフ 100 % 出力電流 ルな運転を実現させ,水平搬送機械・かくはん機への適用 を可能とした。また,省エネルギー機能によりファン・ポ ンプ用途でのさらなる高効率が図れる。図3に制御ブロッ 0 2.5 5 ク図を示す。 7.5 10 12.5 時間(s) 3.1 簡易トルクベクトル制御 V/f 制御で運転される誘導電動機の磁束推定機能により, 図6 回転むら特性例 負荷状態によらず,常に適切な電圧が印加でき,低速域に 始動トルク 150 %(5 Hz 時)を達成した。 図4 に速度 ―トルク特性例を示す。また,滑り補償制御 周波数設定:5 Hz, V / 制御 f 10 r/min おいても滑らかで大きなトルクを発生できる。これにより, (a)FRENIC-Mini 10 r/min 図3 制御ブロック図 制御器 f * 加減速 調節器 電流制限 調節器 電圧指令 演算 トルク 推定器 簡易磁束 推定器 v* PWM i det インバータ (b)従来機種 誘導 電動機 図7 省エネルギー効果特性例 80 図4 速度−トルク特性例 総合効率(%) トルク(%) 60 200 100 FRENIC-Mini 40 従来機種 20 0 0 500 1,000 回転速度(r/min) 454( 4 ) 1,500 2,000 0 0 20 40 60 風量または流量 (%) Q 80 100 富士時報 コンパクト型インバータ「FRENIC-Mini シリーズ」 Vol.76 No.8 2003 図8 電流制限動作特性例 図9 鉛フリーはんだ使用 IGBT モジュール 負荷トルク 100 % 電動機回転速度 1,500 r/min 100 % 出力電流 0 2.5 5 7.5 10 12.5 時間(s) 3.3 高速電流制限機能 表2 「メンテナンス情報」による寿命判定の目安 高速電流制限機能を搭載したので,インパクト負荷にも トリップすることなく運転を継続できる。本機能と3.1節 で述べた滑り補償制御機能とにより水平搬送機械への適用 を容易にした。 図8に電流制限動作特性例を示す。 部 品 寿命予報の判定基準 主回路コンデンサ 工場出荷時のコンデンサ容量の85.0 %以下 プリント基板上の 電解コンデンサ 累積運転時間61,000時間以上 冷 却 フ ァ ン 累積運転時間61,000時間以上(1.5∼3.7 kW) 環境への配慮 メンテナンス性の向上 4.1 EMC ノイズ低減 インバータから発生するノイズにより他の機器が誤動作 する場合があり,発生するノイズの低減が重要な課題であ 5.1 冷却ファンの長寿命化 インバータ内部には冷却ファン,主回路コンデンサ,プ リント基板上の電解コンデンサなどの寿命部品があり,こ る。 イ ン バ ー タ か ら 発 生 す る ノ イ ズ は , 主 回 路 の IGBT れらは,定期的に交換することを推奨している。 (Insulated Gate Bipolar Transistor)素子と制御電源の 従来機種での推奨標準交換年数は,冷却ファンが 3 年, FET(Field Effect Transistor)のスイッチングが主な原 主回路コンデンサが 5 年,プリント基板上の電解コンデン 因で,モジュールや配線と対地との浮遊容量などを通して サが 7 年と,冷却ファンの寿命が最も短かった。 伝導する伝導ノイズと電波として発生する放射ノイズがあ 例えば,インバータを 10 年使用する場合には,冷却 ファンを 3 回交換する必要があり,メンテナンス回数が多 る。 これまでの機種でも主回路の IGBT の電圧変化率 dV/dt を下げるなどのノイズ低減を行ってきた。 今回の FRENIC-Mini シリーズでは,制御電源の FET についても伝搬経路を絶つ構造にするなどの工夫をしてい くなっていた。 FRENIC-Mini シリーズでは長寿命冷却ファン(設計寿 命 7 年,40 ℃)を採用することにより,標準交換年数を 主回路コンデンサと同等以上にし,交換の手間を軽減した。 る。 また,ノイズ低減用の EMC フィルタはこれまでの機種 ではオプションとして外部に取り付ける構造であったが, 内蔵フィルタを開発し,欧州の EMC 規格(EN61800-3) に適合させた。 5.2 寿命判断機能 寿命部品である主回路コンデンサは,その寿命に伴い静 電容量が低下していく。この容量の低下は周囲温度や負荷 条件などの使用条件で大きく異なるため,単に使用年数で は判断できない。 4.2 鉛フリーはんだの適用 環境有害物質としての鉛は,2006 年には欧州で使用が 規制されるなど,今後使用できなくなる。 今回開発した FRENIC-Mini シリーズでは,鉛フリーは 。 んだを適用した IGBT モジュールを開発した(図9) 鉛フリーはんだの適用により,従来より熱抵抗,パワー サイクル特性も改善されている。 FRENIC-Mini シリーズでは寿命時期を判断する目的で, 電源遮断時に主回路コンデンサの放電時間を自動的に内部 で演算することで,初期値からの容量低下率を表示させた。 また,そのほかの寿命部品である制御電源の電解コンデ ンサ,冷却ファンについても,それぞれの累積運転時間を タッチパネルの「メンテナンス情報」で参照可能とした。 表2に各寿命部品の寿命判定の目安を示す。 455( 5 ) 富士時報 コンパクト型インバータ「FRENIC-Mini シリーズ」 Vol.76 No.8 2003 表3 メニュー方式 図10 過負荷回避機能 メニュー 番号 メニュー LED 表示 1 機能コード・データ 設定 1.F_ _∼ 1.y_ _ 2 機能コード・データ 確認 2.rEF 工場出荷値状態から変更した 機能コードのみ表示 3 ドライブモニタ 3.oPE 運転情報の表示 4 I/Oチェック 内 容 出力周波数 機能コード・データの設定 OH1トリップ 5 メンテナンス情報 6 アラーム情報 7 データコピー (遠隔タッチパネル が必要) インバータ温度 4.i_o 外部インタフェース情報の表 示 5.CHE 保守・メンテナンス情報の表 示 6.AL アラーム履歴とアラーム発生 時の各種情報表示 7.CPy 機 能 コ ー ド・デ ー タ の 読 出 し,書込みおよびベリファイ 過負荷回避動作信号 去 4 回まで記憶可能とし,トラブル発生時に解析しやすく した。 標準タッチパネルのほかにオプションとして遠隔タッチ また,これらの寿命部品が表2の目安値に到達すると寿 パネルを準備しており,LED(Light Emitting Diode)に 命時期と判定し,トランジスタ出力から寿命予報信号を出 よる単位表示,状態表示とデータコピー機能が標準タッチ 力することができる。 パネルに対して追加されている。 高機能化 6.2 過負荷回避機能 ファン・ポンプなどの用途で連続運転中に,負荷や周囲 温度の状態でインバータが過熱しても保護停止させたくな 6.1 タッチパネル機能 従来の FVR-C11 シリーズのタッチパネルでは周波数な い場合がある。 どのモニタ機能とインバータの動作を決定するファンク 過負荷回避機能は図10のように,インバータが冷却フィ シ ン加熱またはインバータ過負荷でトリップする前に,イン リーズではメンテナンス情報やアラーム情報などの表示情 バータの出力周波数を自動的に低下させ,トリップを回避 報を大幅に増加させるためメニューモードを採用した。 する機能で,今回新たに開発した機能である。 ションの設定機能が中心であったが,FRENIC-Mini メニューモードの各メニュー番号に対する内容を表3に あとがき 示す。 FVR-C11 シリーズに対し,機能コード・データ確認, ドライブモニタ,I/O チェック,メンテナンス情報,ア 以上,コンパクト型インバータ FRENIC-Mini シリーズ について,その特徴を紹介した。 ラーム情報の各メニューを追加した。 ドライブモニタ機能は出力電流など 10 種類,メンテナ 3.7 kW 以下の非常に価格競争の厳しい容量範囲の中で, ンス機能は累積運転時間など 12 種類,アラーム情報はア 今回の FRENIC-Mini シリーズを展開することにより 1 ク ラーム発生時の出力周波数など 19 種類のデータを表示可 ラス上の性能が要求される用途まで適用範囲が広がるとと 能としている。 もに,グローバルな展開が期待できる。 また,アラーム発生時の情報は,従来機種では過去 1 回 しか記憶できなかったが,FRENIC-Mini 456( 6 ) シリーズでは過 今後とも,新しい技術,機能を積極的に取り入れ,より 良い商品開発に努めていきたい。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。