FEJ 76 02 137 2003

富士時報
Vol.76 No.2 2003
省エネルギー型汚泥処理システム
凍結融解脱水システムとサイホン式
山口 幹昌(やまぐち みきまさ)
本山 信行(もとやま のぶゆき)
過濃縮装置
藤嶋 正幸(ふじしま まさゆき)
まえがき
を凍結融解処理により粗大粒子に改質し高い
過速度で低
含水状態に脱水するために使用される。図1にフローを示
すが,汚泥はサイホン式
上下水汚泥の発生量は年々増加する傾向にあり,処分地
過濃縮装置により濃縮されたの
不足が問題となっている。また最近では,環境保全あるい
ち凍結処理融解槽に充てんされ,ここで凍結融解処理され
は循環型社会の構築に向け脱水汚泥の有効利用化が促進さ
たのち槽下方に排出され,通常は真空脱水機により脱水汚
れている。処分,有効利用に際して汚泥は薬品添加するこ
泥とされる。
となく効率よく濃縮し低含水状態に脱水することが重要で
凍結融解槽は 2 基を一組とし,一方の槽で凍結,他方の
槽で融解が行われる。図2に示すように凍結融解槽内部に
ある。
過濃縮装
は熱交換器が設置され,冷凍機ユニットで冷却されたブラ
置など現在,上下水処理場で活用されている富士電機の省
インの循環通過により 1.5 時間で汚泥が凍結されるが,こ
エネルギー型汚泥処理システムについて概要を紹介する。
のあと熱交換器には冷ブラインに代えて温ブラインが流さ
本稿では凍結融解脱水システム,サイホン式
れ,1.2 時間で融解される。凍結時間と融解時間の差分の
凍結融解脱水システム
0.3 時間内に汚泥が排出され,次の汚泥が充てんされる。
2.1 凍結融解脱水システムの構成
2.2 凍結融解脱水原理
このシステムは無薬注方式であり,難
この原理は霜柱の成長や凍(し)み豆腐の製造に見られ
過性の浄水汚泥
図1 凍結融解脱水システムフロー
過濃縮装置
凍結融解処理装置
温ブライン
冷ブライン
原汚泥
汚泥槽
濃縮汚泥
液管
濃縮汚泥貯槽
液
脱水汚泥
真空脱水機
P
冷凍機
冷ブライン槽
P
P
P
クーラ
P
ヒータ
温ブライン槽
山口 幹昌
本山 信行
藤嶋 正幸
汚泥処理装置の開発,汚泥処理装
オゾン,膜を用いた上水の高度処
凍結融解処理,
置のエンジニアリング業務に従事。
理技術開発に従事。現在,電機シ
の上下水汚泥処理設備の営業に従
現在,電機システムカンパニー環
ステムカンパニー環境システム本
事。現在,電機システムカンパ
境システム本部水処理システム事
部営業統括部水環境事業推進室課
ニー環境システム本部営業統括部
業部水環境技術部副参与。
長。日本水道協会会員,日本内分
水環境事業推進室課長補佐。
過濃縮装置など
泌撹乱化学物質学会会員。
137(37)
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る凍結分離現象を脱水に応用したものである。
図3に原理を示すが,土粒子,植物プランクトン,水酸
2.4 凍結融解脱水システムの適用効果が高い汚泥
化アルミニウムなど微細固形物が凝集した浄水汚泥は,①
浄水場汚泥全般に適用効果がある。特に次の汚泥は,加
冷却されると針状に氷が成長し汚泥粒子は氷層間に集めら
圧脱水では脱水が非常に困難であるが,凍結融解すること
により容易に低含水状態に脱水できる。
れる,②これら汚泥粒子は氷の膨張圧を受け内部水が押し
出されたのち凍結が完了する,③これを加温し融解すると
(1) 有機質を多く含む原水から発生した凝集沈殿汚泥
高密度,粗大固形物が沈降し上澄水が分離する。図4に浄
(2 ) 富栄養化したダム水,湖沼水など藻類を多く含む原水
から発生した汚泥
水汚泥の電子顕微鏡写真を示す。未凍結汚泥は微細な固形
物粒子であるが,凍結融解処理汚泥は微粒子が接合された
図4 各種浄水汚泥の電子顕微鏡写真
粗大固形物として観察される。
(a)表流水系汚泥
2.3 凍結融解脱水効果と処理例
浄水汚泥は水酸化アルミニウム,藻類など親水性,圧縮
性微粒子を多く含むので加圧脱水機ではきわめて
難であり,脱水不良,処理量不足,
過が困
布の目づまりなどの
問題が生じている。凍結融解処理によると浄水汚泥は高密
度,粗大粒子に改質され容易に脱水される。表1に処理例
を組成分析結果とともに示すが,凍結融解処理の適用によ
未凍結汚泥
り,ダム水,表流水,井水など各種の浄水過程で発生した
汚泥は
過性が改善され 100 kgds/m2h 前後の高い
過速
凍結融解処理汚泥
(b)湖水系浄水汚泥
度で脱水され含水率が 60 %以下になった。
図2 凍結融解処理槽の上部
未凍結汚泥
凍結融解処理汚泥
(c)井水系浄水汚泥
未凍結汚泥
凍結融解処理汚泥
図3 凍結融解脱水の原理図
水酸化アルミニウム
粗大化汚泥
自由水
水
粗大化汚泥
氷
土粒子
植物プランク
トン(藻類)
(伝熱面)
冷却開始
138(38)
氷の成長方向
(伝熱面)
凍 結
融 解
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表1 各種浄水場汚泥の凍結融解脱水処理例
固形物組成分析値(%)
強熱減量
SiO2
Al2O3
Fe2O3
MnO
重力濃縮
濃度
(%)
湖 水
34.7
26.8
22.9
4.1
0.8
0.95
表 流 水
19.7
38.5
32.1
3.6
0.2
表 流 水
21.0
38.7
23.7
6.9
0.2
井 水
12.8
10.5
1.0
43.6
ダム直接水
16.2
42.7
24.3
5.9
ダム放流水
14.0
45.6
24.9
ダム放流水
25.4
37.3
23.1
ダム放流水
29.5
28.2
34.5
原水種類
凍結融解処理真空脱水
(−0.80 MPa・10分)
含水率
(%)
過速度
(kgds/m2h)
6.5
57.3
65
1.7
10.2
56.2
93.9
3.8
14.7
53.5
100
23.5
2.5
8.8
64.3
144
0.4
3.5
15
52.0
150
6.1
0.3
4.6
21.5
59.8
180
4.2
0.3
5.1
15.4
58.0
104
1.8
0.2
0.73
5.7
59.3
82.2
図5 汚泥体積減少による電力量の削減例
汚泥体積(m3)
過濃縮
濃度
(%)
図6 凍結融解脱水汚泥の外観
100
汚泥固形物1 t あたり電力量=312 kWh/tds
80
60
100
40
20
33.3
6.7
6.7
2.4
排泥池
重力沈降
過濃縮
凍結融解
真空脱水
汚泥濃度1 %
電力量
3%
5 kWh
15 %
15 kWh
15 %
290 kWh
42 %
2 kWh
0
(3) 渇水期,積雪時の表流水やダム水などの濁度が低い原
水の凝集沈殿から発生する水酸化アルミニウムを多く含
図7 凍結融解脱水汚泥の光学顕微鏡写真
む汚泥
(4 ) クリプトスポリジウム除去のため,原水にアルミ系凝
集剤が多量に注入されて発生した凝集沈殿汚泥
(5) 井水(地下水)の酸化処理により発生した水酸化鉄や
二酸化マンガンを多く含む汚泥
2.5 凍結融解脱水の電力
遠心濃縮機の 1/20 ∼ 1/30 の電力で運転できるサイホン
式
表流水系浄水の凍結融解脱水汚泥 地下水系浄水の凍結融解脱水汚泥
(×25)
(×25)
過濃縮装置により,汚泥の体積を 1/3 ∼ 1/7 に減少し
たあとで凍結融解する方式のため,システム全体の電力は
大幅に削減される。例えば図5に示すように,重力濃縮濃
度が3%の汚泥の場合 15 %まで濃縮したあと凍結するの
で,汚泥固形物 1 t あたりの電力量は 312 kWh で済む。
2.7 CGS 排熱利用凍結融解脱水システム
2.6 凍結融解脱水汚泥の有効利用
される場合,この排熱によりアンモニア吸収式冷凍機を運
浄水場にコージェネレーションシステム(CGS)が導入
図6に示すように脱水汚泥は粒状であり,表面積が大き
転すると供給エネルギーの約 10 %が冷凍エネルギーに変
いので乾燥しやすい。表流水系の汚泥は土分を多く含んで
換され汚泥の凍結に利用できる。また,凍結融解脱水シス
いるが,図7に示すように粒子は多孔質,団粒構造であり,
テムの専用電源として CGS を導入する場合のフローを 図
間げき水は容易に排出される。個々の粒子内部には水が適
8に示す。主に圧縮式冷凍機で凍結するが,組み合わせた
度に保たれる特性を備えている。このため埋戻し土として
アンモニア吸収式冷凍機から必要冷凍エネルギーの約
利用できる。また,脱水汚泥は透水性と保水性があり,植
15 %が確保される。このほか CGS では約 80 ℃の温水が
物の育成に必要な水分と肥厚成分の供給が適切にできるた
利用でき,低温乾燥機で脱水汚泥を有効利用しやすい低含
め,園芸土としても利用できる。
水状態に乾燥することができる。
139(39)
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図9 サイホン式
図8 CGS 排熱利用凍結融解脱水システム
凍結融解処理槽
過濃縮装置の外観構造
排気
レベル計
脱水機
サイホン式
過濃縮装置
重力沈降
濃縮槽
圧縮式冷凍機
過板
吸収式
冷凍機
電力
水蒸気
エア
抜き用
給水
脱水汚泥
ブライン
乾燥機
排熱
コージェネ
レーション
濃縮汚泥
はく離用
圧縮空気
未濃縮
汚泥返送
ポンプ
埋戻し材,栽培土
汚泥
供給口
スクリュー
コンベヤ
2.8 凍結融解脱水システムの特徴
(1) 原水の濁度成分の質変動に影響されずに浄水汚泥を粗
圧縮空気
タンク
サイホン管
液
濃縮汚泥
引抜ポンプ
大粒子に改質でき,容易に低含水率に脱水できる。した
がって,年間を通し安定した運転ができる。
(2 ) 加圧脱水で脱水困難な浄水汚泥であっても高密度の粗
図10 サイホン式
過濃縮装置の基本構造
大粒子に改質される無薬注で容易に低含水状態にされる
ため,脱水不良や処理能力不足が生じることがない。
(3) サイホン式
排気弁
汚泥
過濃縮装置により濃縮し,体積を減少さ
ヘッダ
せたあとで汚泥を凍結する方式であるため,電力消費が
少ない省エネルギー運転ができる。
(4 ) サイホン式
過濃縮装置は
付着が少なく目開きが大きい高強度
で目づまり,損傷による
液集水管
布を用いているの
汚泥槽
布交換が不要である。
液排出管
(サイホン管)
過板
(5) 凍結融解処理汚泥は水切り程度で脱水が完了するため,
真空脱水の
空気圧縮機
(はく離用)
過面の移動がなく,汚泥
布は高い圧力を受けない。このため損傷が
過水
排泥
(濃縮汚泥)
少なく長期の使用ができる。
(6 ) 凍結融解は槽方式でヒートポンプを用いた冷却方式で
行われるため高効率であり,完全自動運転ができる。
(7) 脱水汚泥は粒状であり,そのまま有効利用ができる。
(8) CGS が導入される場合は,排熱が吸収式冷凍機によ
り冷凍エネルギーに変換でき有効利用ができる。
る。
(1) 汚泥槽に汚泥を充てんし,
液排出管上部の排気弁を
開き空気を抜き,サイホンを形成する。
(2 ) サイホン管下端のバルブを開き
サイホン式
過濃縮装置
泥が
(3)
液を流出させると汚
過される。
過板に濃縮汚泥が付着したあと汚泥槽底部のバルブ
を開き未濃縮汚泥を排出する。
3.1 構 成
この装置は凍結融解の前濃縮のほか,加圧脱水の処理能
力増強のため供給汚泥の濃度向上や下水の余剰活性汚泥の
(4 )
液排出管内に圧縮空気を供給し,
気を吹き出して濃縮汚泥を
過板内面から空
布からはく離する。
濃縮などに用いられている。また,この装置は汚泥槽内に
設置した
過板に取り付けた
液排出管にサイホンの負圧
を作用させ汚泥が高濃度に濃縮でき電力費が少なくて済む
という特徴がある。
過濃縮装置の濃縮性能
表2に浄水汚泥の濃縮例を示す。重力濃縮汚泥は 3 ∼ 7
倍に濃縮され,濃度が最高 16.5 %になった。なお,濃縮
図 9 に外観構造, 図10に基本構造を示す。汚泥槽に平
行・垂直に設置された
3.3 サイホン式
過板,
倍率は濃度が低い汚泥であるほど高い傾向がある。
液排出管,槽底部のスク
リューコンベヤ,濃縮汚泥の引抜ポンプ,サイホン管に接
サイホン式
過濃縮装置の上水への適用
続したはく離用圧縮空気タンクにより構成されている。
4.1 加圧脱水機の処理能力の増大
3.2 サイホン式
過濃縮装置の運転原理
図11に運転原理を示す。汚泥は次の工程により濃縮され
140(40)
表3 に示すように,1.6 %の重力濃縮汚泥は
より 10.9 %に濃縮され,加圧脱水による
過濃縮に
過速度は 0.76
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図11
過濃縮装置の運転原理図
(空気抜き充水)
(1)
汚泥充てん
省エネルギー型汚泥処理システム…
表2 過濃縮装置の浄水汚泥濃縮性能
(2)
サイホン形式
濃縮条件
サイホン
長さ3.4 m
(0.34 MPa)
ダム水
0.75 %
4.9
5.7
表流水
1.7 %
8.2
10.2
表流水
3.8 %
14.7
16.5
ダム水
5.1%
15.1
15.4
地下水
2.5 %
7.7
8.8
重力濃縮汚泥
液排出
濃縮汚泥形式
過板
サイホン
長さ8 m
(0.80 MPa)
液
表3 原汚泥と 過濃縮汚泥の加圧脱水
試 料
汚泥槽
濃縮汚泥
(ケーキ)
液排出管
重力濃
縮汚泥
過濃縮
汚泥
重力濃
縮汚泥
1.6
10.9
3.7
8.0
15.9
過速度(kgds/m h)
0.76
1.4
1.2
2.2
4.6
脱水汚泥含水率(%)
66.1
64.5
51.8
56.1
55.9
項 目
供給濃度(%)
液
2
(3)
未濃縮汚泥排出
(4)
表流水系汚泥
ダム水系汚泥
過濃縮汚泥
濃縮汚泥はく離
濃縮汚泥排出
〈注〉加圧脱水条件 方式:短時間型加圧圧搾脱水,
圧力: 過0.5 MPa,圧搾1.5 MPa
る方式とし,安定した脱水を可能にしている。
圧
縮
空
気
5.2 消化処理の合理化
重力濃縮汚泥を
過濃縮装置で濃縮したあと消化槽に供
給する方式により,①高温消化が可能となり無機化率が向
未濃縮
原汚泥
上する,②加温エネルギーが削減され消化ガスのエネル
濃縮
汚泥
ギーの有効利用が可能になり,③消化汚泥の濃度が上がり
二次消化槽における消化汚泥の濃縮が不要にできるなど処
理設備の合理化が期待される。
kgds/m2h から 1.4 kgds/m2h に増加した。また,3.7 %の
重力濃縮汚泥は
圧脱水による
過濃縮により 15.9 %まで濃縮され,加
あとがき
過速度は 1.2 kgds/m2h から 4.6 kgds/m2h
に増加した。
凍結融解脱水システムとサイホン式
過濃縮装置につい
て構造,原理,特徴,用途などの概要を紹介した。凍結融
4.2 天日乾燥の期間短縮
解脱水システムは省エネルギー化により凍結の電力量が削
過濃縮汚泥を供給することにより乾燥がすぐに開始す
るようになる。このため,
床の準備工程,沈降,濃縮工
減されたが,より一層の削減を進め経済性を高めていきた
い。また,サイホン式
過濃縮装置は上水および下水分野
程が不要になり,必要な処理は乾燥工程だけとなるので処
の施設の運転合理化に寄与できるものと考えられるが,施
理期間が大幅に短縮できる。
設への適合技術開発を進めていきたい。
サイホン式
過濃縮装置の下水への適用
参考文献
(1) 山口幹昌.凍結処理によるスラッジ脱水技術.冷凍.
5.1 余剰汚泥の分離濃縮
vol.77,no.5,2002,p.408- 414.
重力濃縮槽引抜き濃度が低下し後段の脱水機の処理状態
不良が起きていた下水処理場において,余剰汚泥に高分子
凝集剤を添加して,初め 0.6 ∼ 0.8 %であった濃度を
過
濃縮装置で 3 ∼4%に濃縮したあと後段の脱水機に供給す
(2 ) 山口幹昌ほか.千葉県水道局柏井浄水場納入排水処理設備
(FSS 設備)
.富士時報.vol.54,no.6,1981,p.392- 397.
(3) 山口幹昌ほか.汚泥のろ過濃縮装置.富士時報.vol.54,
no.6,1981,p.382- 387.
141(41)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。