FEJ 74 10 551 2001

富士時報
Vol.74 No.10 2001
CMOS 力率制御用電源 IC
鹿島 雅人(かしま まさと)
城山 博伸(しろやま ひろのぶ)
まえがき
in
: n 次高調波成分
以上の式から,力率改善回路により力率を改善すること
現在普及しているほとんどの電子機器では,内部の電子
ができれば入力高調波電流成分を抑制できることが分かる。
回路を駆動するために直流電源を用いているため,交流を
力率とは電圧波形と電流波形の位相のずれのことである
直流に変換する整流回路を必要としている。この整流回路
ので,力率を改善するためには電流波形を制御して電圧波
としてはコンデンサ入力型の回路が主に使われているが,
形と同相の波形としてやればよい。電圧波形と電流波形の
交流入力電圧のピーク時のみに入力平滑コンデンサに電流
位相が完全に一致したときに力率は 1 となる。
が流れるため,入力電流波形がひずんでしまい大量の高調
電流波形を制御するためのアクティブフィルタ回路とし
波電流成分を発生してしまう。また,このときの力率は
て用いられる昇圧型コンバータ回路を図2に示す。これは
0.6 前後となってしまう。このような高調波電流成分の増
ダイオードブリッジによる全波整流回路に昇圧型コンバー
加は,電子機器の誤動作といった社会問題を引き起こす原
タ回路を接続したものである。図2の回路のスイッチング
因ともなり,法的な規制を実施する動きがでてきている
素子M 1 を交流入力電圧の周波数よりも十分高い周波数で
(577 ページの「解説」参照)
。また,力率の低下による電
オンオフ動作させ,そのオンとオフの比率を制御して入力
電流波形の平均値を全波整流された入力電圧波形と同相の
力送配電ロスの増加も問題となってきている。
高調波電流および力率の問題を解決するために種々の方
式が提案されているが,小型・軽量で高力率を実現できる
正弦波電流波形とすることで力率を改善する。
その制御方式には,スイッチング素子M 1 に流れる電流
のピーク値を制御するピーク電流モード制御とリアクトル
ことからアクティブフィルタ方式が広く使われている。
富士電機でも,これまでにアクティブフィルタ制御用
L1 に流れる連続的な電流を制御する平均電流モード制御
IC(Integrated Circuit)として平均電流モード制御の力
率制御用電源 IC である FA5331P/M および FA5332P/M
図1 コンデンサ入力型整流回路とその入力電圧・電流波形
を製品化しているが,今回新たにピーク電流モード制御の
入力電圧
力率制御用電源 IC である FA5500P/N および FA5501P/N
入力電流
を開発したので紹介する。
+
力率改善回路の概要
(a)回路図
(b)入力電圧・電流波形
コンデンサ入力型整流回路とその入力電圧・電流波形を
図1に示す。入力電流は入力電圧のピーク付近のわずかな
期間に流れるだけであり,大量の高調波電流成分が発生し
図2 昇圧型コンバータ回路
ている。高調波電流の存在は力率を低下させるが,その関
L1
係は次式で表すことができる。
2
PF = 1/ 1+THD
+
THD = (i2 2+i32+…in2 )
/i12
PF
M1
:力率
THD :全高調波ひずみ率
il
:入力電流基本波成分
鹿島 雅人
城山 博伸
スイッチング電源制御 IC の開発
スイッチング電源制御 IC の開発
に従事。現在,松本工場 IC 開発
に従事。現在,松本工場 IC 開発
部。
部。
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CMOS 力率制御用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図3 ピーク電流モード制御と平均電流モード制御との入力電
図4 FA5500 と FA5501 の外観
圧・電流波形の比較
入力電圧
入力電流
平均
入力電流
(a)ピーク電流モード制御
(b)平均電流モード制御
表1 ピーク電流モード制御と平均電流モード制御の比較
制御方式
ピーク電流モード制御
平均電流モード制御
機 種
FA5500/FA5501
FA5331/FA5332
発 振
自励発振
他励発振
周 波 数
可変
固定
出力容量
小(約 200 W以下)
大(約 200 W以上)
適用製品
照明器具,パソコンなど
インバータなど
図5 内部ブロック図
MUL
3
VCC
8
VREF
+
FB 1
−
COMP 2
2.5 A
誤差
増幅器
VREF
VDD
VOVP
VZCD
VOS
VSP
乗算器
AOC
+
−
−
VSP
7 OUT
R
S
SP
+
Q
VOVP
の 2 種類がある。図3にピーク電流モード制御と平均電流
+
GND 6
低電圧
誤動作
防止
VOS
+
−
モード制御との入力電圧・電流波形の比較を示す。なお,
基準
電圧
−
+ −
OVP
実際の製品に用いられる場合には通常どちらの方式の場合
R
R
OVP
SP
タイマ
VZCD
4
5
IS
ZCD
でもアクティブフィルタ回路と交流入力電圧との間に高周
波用のフィルタを挿入して使用する。このフィルタの作用
により,入力電流は図3の破線で示された平均入力電流に
近くなる。
また,表1にピーク電流モード制御と平均電流モード制
御の比較を示す。表1に示したとおり,適用製品は両モー
ド制御を比較した場合,一般的には出力容量の差で決まっ
てくる。比較的大きい出力容量(約 200 W 以上)に適し
スタートアップ 20 μA,動作時 2 mA
(2 ) 軽負荷補正回路により,定格負荷から無負荷までの定
電圧制御が可能
(3) FB ショート検出回路により,出力電圧検出部が異常
になった場合に回路動作を停止
た平均電流モード制御の FA5331P/M と FA5332P/M が
(4 ) 過電圧保護機能内蔵
インバータなどでの使用を目的としているのに対して,今
(5) 低電圧誤動作防止回路のオン電圧による系列化
回開発したピーク電流モード制御の FA5500P/N と FA
FA5500P/N : 11.5 V オン/9 V オフ
5501P/N は比較的小さい出力容量(約 200W 以下)に適
FA5501P/N : 13 V オン/9 V オフ
しており,照明器具,パソコンなどでの使用を目的として
(6 ) リスタートタイマ内蔵
いる。
(7) パワー MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field
Effect Transistor)を直接駆動可能
製品の概要
今回開発した IC は各種の機能を内蔵し,8 ピンの DIP
出力ピーク電流:ソース 500 mA,シンク 1 A
3.2 軽負荷補正回路
( Dual In-line Package) ま た は SOP( Small Out-line
従来の力率制御回路では,力率制御 IC の内部回路のオ
Pakage)に収められている。 図 4 に外観を, 図 5 に内部
フセット電圧の影響で軽負荷時に出力電圧が上昇してしま
ブロック図を示す。
うという問題が発生していた。
3.1 特 長
トオフセットコントロール(AOC)回路を設けて IC 内部
本 IC ではその対策として内部の電流コンパレータにオー
本 IC の特長は以下のとおりである。
(1) 30 V 高 耐 圧 CMOS( Complementary Metal Oxide
Semiconductor)プロセスにより,低消費電力を実現
552( 8 )
の電圧オフセットを回路的に補正している。このように軽
負荷時に内部回路のオフセット電圧を補正することで,定
格負荷から無負荷までの定電圧制御を可能としている。
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CMOS 力率制御用電源 IC
Vol.74 No.10 2001
図6 応用回路例
600 V 4 A
80∼264 Vac
680 kΩ
2,200 pF 5D11
470 kΩ
2SK3520
3A
+
100 F
47 kΩ
0.47 F
0.22 F
410 V
100 W
ERC25-06
390 H
0.22 F 2,200 pF
470 kΩ
10 kΩ
0.1 Ω
ERA91-02
100 kΩ
680 kΩ
22 Ω
33 Ω 100 kΩ
220
Ω
47 kΩ
5.6 Ω
FB
ERA91-02
680 kΩ
VCC
COMP OUT
9.1
kΩ
0.47 F
MUL
GND
IS
ZCD
FA5501
+
0.1 F
100 F
2,200 pF
ERA91-02
0.01 F
図7 入力電圧・電流波形
応用回路例
〈条件〉入力:100 Vac 50 Hz,出力:100 W
図6に応用回路例として本 IC を使用した 100 W 出力の
入力電流
1 A/div
0→
アクティブフィルタ回路を,図7に入力電圧・電流波形を
示す。電流波形が電圧波形と同位相の正弦波となっており,
力率がほとんど 1 に近い値に制御されていることが分かる。
また,電流波形は入力部のフィルタにより平均化されて正
弦波となっていることが分かる。
入力電圧
100 V/div
0→
あとがき
ピーク電流モード制御の力率制御用電源 IC の概要につ
5 ms/div
いて紹介した。力率改善回路のニーズはより一層高まって
いくものと予想される。今後さらに,力率制御回路と DC
出力を制御するための PWM(Pulse Width Modulation)
制御回路を一体化した IC の開発などを行い,市場の要求
3.3 FB ショート検出回路
にこたえていく所存である。
FB ショート検出回路を設けて,FB 端子入力がグラウ
ンドなどとショートした場合やオープンとなった場合に
IC の出力を停止させている。これにより,従来必要であっ
た外部保護回路を削除することができる。
参考文献
(1) 黒 田 栄 寿 ほ か . 力 率 改 善 制 御 用 IC. 富 士 時 報 . vol.67,
no.2,1994,p.121- 125.
553( 9 )
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。