FEJ 74 10 567 2001

富士時報
Vol.74 No.10 2001
白色 LED 駆動用電源 IC
加茂 宏明(かも ひろあき)
佐野 功(さの いさお)
まえがき
図1 負荷電流と効率
90
器がある。小型ゲーム機に始まり携帯電話,電子手帳に至
80
効率(%)
われわれの手放せなくなった物の一つに携帯型の電子機
るまでさまざまな種類があり,それらのほとんどはヒュー
マンマシンインタフェースとして表示装置を持つ。近年,
液晶パネルに代表される表示装置の発達は目覚ましく,高
V dd =3.6 V, Vdd3v =2.85 V
70
60
Ta =25 ℃
Ta =−30 ℃
Ta =85 ℃
50
40
30
精彩カラー化など表示機能,品質に対する期待がますます
0
5
10
15
20
負荷電流(mA)
強くなっている。
一方,液晶パネルと同様にパネルを照らすバックライト
にも品質の高度化が求められる。現在,携帯機器では小型
軽 量 , 低 消 費 電 力 の 点 か ら 白 色 LED( Light Emitting
図2 FA3717J の外観
Diode)がその代表として用いられている。白色 LED は
Vf = 3.6 ∼ 4.0 V で,通常の電池使用では昇圧,均一な発
光,多段階調光機能を制御する IC(Integrated Circuit)
が必要となる。
本稿ではこうした機能,品質を実現する白色 LED 駆動
用 IC「FA3717J」を紹介する。
製品の概要
FA3717J は携帯電子機器向けに開発されたパルス幅変
調(PWM:Pulse Width Modulation)方式 DC-DC コン
バータコントローラである。
以下に本製品の特長を列挙する。
(1) 高効率昇圧型 DC-DC コンバータ(図1に負荷電流と
効率を示す。
)
保護回路内蔵
(8) 高耐圧出力スイッチング素子内蔵(n チャネル DMOS
(2 ) 白色 LED を定電流駆動可能
FET:Double Diffused Metal Oxide Semiconductor Field
(3) 多段階調光を可能にする 8 ビットの DAC(Digital to
Effect Transistor)
Analog Converter)搭載
(9) CMOS(Complementary MOS)プロセスを使用し低
(4 ) さまざまな制御を可能にするシリアルインタフェース
消費電力:1μA(待機時の標準値)
図3にブロック図を,表1に主な電気的特性を示す。
搭載
(5) 小型 SON(Small Outline Non-lead)16 ピンパッケー
例えば,電源にリチウムイオン電池(3.6 V)を使用し,
図4のように昇圧型コンバータとして使用した場合,最大
ジ(図2参照)
(6 ) 外付け抵抗による発振周波数の変更が可能
約 18 V の出力電圧を得ることができる。この電圧は白色
(7) ソフトスタート回路,最大デューティ制限回路,各種
LED 3個を直列に駆動するのに十分な電圧である。
加茂 宏明
佐野 功
電源 IC の開発,設計に従事。現
電源 IC の開発,設計に従事。現
在,松本工場 IC 開発部。
在,松本工場 IC 開発部。
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白色 LED 駆動用電源 IC
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図3 ブロック図
図4 使用回路例
VDD3V
VDD
CS
X1
L1
3.6V
VIN
C1
BGR
C3
X2
GND
OSC
RT
ソフト
スタート
CLK
シリアル 8ビット
I/F
D/A
DATA
デューティ
制限
インタフェース
入力
STRB
NRST
誤差増幅器
+
R2(Rt)
+
−
IN−
OUT
コンパ
レータ
C2
−
FB
FA3717J
RT
FB
CS
VR22
PGND
2.2V
基準電圧
VR22
X4
R5
C4 R3
R4
GND
VDET
R6
VDD3V
2.85V
VDD3V
BGR
18V検出
X3
VDD
OUT
NRST
VDET
CLK
DATA
STRB
IN−
C5
PGND
GND
表1 主な電気的特性
項 目
記 号
条 件
最 小
標 準
最 大
単 位
昇圧系電源電圧
Vdd
3.1
3.6 4.3 V
制御系電源電圧
Vdd3v
2.75 2.85 2.95 V
OUT 端子出力電圧
Vout
0 19 OUT 端子出力電流
I out
0 700 三角波発振周波数
f osc
500
f osc82
R t=8.2 kΩ
発振器電源安定度
S fosc_vdd3v
R t=8.2 kΩ
誤差増幅器基準電圧
V ref
Vref 分解能
0.85 1,500 1.00 1.20 ±6 V
mA
kHz
MHz
%
DAC=00(h)
0.773
0.803
0.833
V
DAC=FF(h)
1.148
1.184
1.220
V
D vref
DAC=00∼FF(h)
1.5 mV
V csd0
デューティ=0%
0.82 V
V csd50
デューティ=50%
CS 端子しきい値電圧
CS 端子充電電流
I cs
異常出力電圧検出
V det
最大デューティサイクル
V
2.6 A
17
19 21 V
f osc=500 kHz
81
87 93 %
D max2
f osc=1 MHz
79
83 92 %
0.5
0.6 0.7 Ω
2.200
2.244
R on
VR22 出力電圧
V R22
待機時消費電流
2.0 D max1
出力オン抵抗
動作時消費電流
1.10 1.4
2.156
V
I dd1
f osc=1 MHz
1.2 mA
I dd3v1
f osc=1 MHz
1.2 mA
I dd3
0.1 A
I dd3v3
0.5 A
※特記なき場合,Vdd=3.6 V,Vdd3v=2.85 V,R t=8.2 kΩ,温度=25℃
一方, 図4 において電流検出抵抗に発生した電圧は 2.2 V
主要回路の概要
を定電圧出力する VR22 端子と外付け抵抗によりレベルシ
フトされる。この二つの電圧を比較演算しPWM制御を行
図5に FA3717J のチップ図を示す。
い,定電流制御を実現している。
図4の使用方法における外付け部品のばらつきを含めた
3.1 DAC と定電流制御回路
DAC の設定値と出力電流の相関の例を図7に示す。
図3において,負荷電流設定用に8ビットの DAC を搭
載している。DAC の設定はシリアルインタフェースを介
して行われ,設定値に対して図6に示す電圧を出力する。
568(24)
3.2 発振回路
素子間の不要な干渉を防ぐため,外付けの抵抗値による
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図5 FA3717J のチップ図
図8 タイミング抵抗と発振周波数の関係
発振周波数 f (kHz)
10,000
1,000
100
10
タイミング抵抗 R t(kΩ)
1
100
図9 起動時のデューティ制御
図6 DAC 設定値とその出力電圧
1.38V
原振(三角波)
DAC 出力電圧(V)
1.2
CS端子
電圧
1.1
0.82V
1.0
0.9
0V
0.8
V dd3V
0.7
0
150
100
DAC 設定値(dec)
50
200
250
0V
スイッチ
ング素子
駆動波形
し外付けの平滑コンデンサを破壊する恐れがある。このよ
図7 DAC 設定値と出力電流の相関
うな状態を避けるために,出力電圧を監視する VDET 端
70
子を設けた。VDET 端子は昇圧出力に接続され,出力電
60
圧が 19.5 V(標準値)を超えると,スイッチング動作を停
I out(mA)
50
40
止し各素子に高い電圧が印加されるのを防ぐ。
最大
30
20
3.5 過電流保護回路
10
最小
0
−10
FF(h)
00(h)
−20
例えば,インダクタの端子が何らかの原因で短絡した場
DAC
合,電源から出力スイッチング素子に非常に大きな電流が
流れ,素子破壊を招くことが考えられる。そこで,大電流
が流れると出力スイッチング素子のドレイン端子電圧が上
昇することを監視し,異常電圧を検出するとスイッチング
発振周波数の可変制御を可能にしている。図8にタイミン
動作を停止する。
グ抵抗と発振周波数の関係を示す。
あとがき
3.3 ソフトスタート回路
スイッチング開始時の突入電流を回避するために,ソフ
携帯電子機器の表示パネルの白色 LED バックライト制
トスタート回路を内蔵している。CS 端子に接続されたコ
御用 IC として開発した FA3717J の製品紹介を行ってきた。
ンデンサに2μA(標準値)の定電流充電を行い,そのコ
今後ますます小型電子機器の持つ情報密度は濃くなるもの
ンデンサの端子電圧により最大デューティの制御を行う
と予想できる。欲しい情報をすぐ手にできる利便性,楽し
。
(図9参照)
3.4 過電圧検出回路
動作中,何らかの原因で負荷回路が断線した場合,フィー
ドバック制御ができなくなるため,出力電圧が異常に上昇
さを実現するため,製品の拡充を図る所存である。
参考文献
(1) 佐野功ほか.携帯電話機用電源 IC.富士時報.vol.73,
no.8,2000,p.440- 442.
569(25)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。