分散補償ファイバモジュール 光機器・コンポーネント事業部 愛 川 和 彦 1 ・吉 田 順 司 2 ・齊 藤 伸 3 ・工 藤 学 4 株 式 会 社 青 森 フ ジ ク ラ 金 矢 鈴 木 一 成 Dispersion Compensating Fiber Module K. Aikawa,J. Yoshida,S. Saitoh,M. Kudoh,and K. Suzuki 光通信システムの広帯域化には伝送用光ファイバで生じる累積波長分散の補償が必要である.現 在最も多く使用されている分散補償デバイスは分散スロープ分散補償ファイバ(Slope Compensating and Dispersion Compensating Fiber : SC-DCF)を用いたモジュールである.この SC-DCF モジュー ルに対しては,大きく二つの高性能化要求がある.ひとつは,モジュールの低損失化である.モ ジュールの低損失化により光増幅器に対しての利得の要求は緩和され,雑音指数などが改善され ることによりシステム全体の特性が向上する.もうひとつの要求はモジュールの小型化である.波 長多重伝送システムは多くのデバイスから構成されており,それぞれのデバイスを小型化するこ とは大きな課題のひとつである.これらの要求に対してそれぞれの SC-DCF を開発しモジュール の各種特性,信頼性を検証した結果,製品への適用が可能であることを確認したので報告する. In order to widen the bandwidth of optical fiber transmission systems, dispersion compensation for the accumulated chromatic dispersion of the fibers is required. Currently, slope compensating and dispersion compensating fiber(SC-DCF)modules are widely used as dispersion compensation devices. There are two requirements for improving the performance of SC-DCF modules. The first requirement is to lower the insertion loss of the module in optical fiber transmission systems. Low-loss SC-DCF module contributes to the relaxation in gain requirement of optical amplifiers, which improves the noise figure of the optical amplifiers as well as the overall performance of the optical fiber transmission systems. Downsizing of the SC-DCF module is the other requirement. Wavelength division multiplexing transmission system consists of a large number of devices ; therefore, downsizing of each device is one of the major developmental challenges. Each of our new SC-DCF modules has been developed to meet these requirements, and by confirming the optical characteristics and reliability of SC-DCF module. We can ensure that each SC-DCF module has excellent performance and high reliability. 1.ま え が き 分散が累積することで高速伝送の障害となってしまう. 光ファイバを用いたデータ通信の需要の増加に対応 波長多重(Dense Wavelength Division Multiplexing : するために,光ファイバ伝送システムに対する大容量 DWDM)伝送が必須である.ビットレートの高速化には, 化の要求は高い.現在一般的に使用されている伝送用 伝送路の累積波長分散の補償が必要であり,DWDM 伝 光ファイバは 1.3 μm 帯零分散シングルモード光ファイ 送には,より広い波長範囲にわたる残留分散の補償技術 バ(Standard Single-Mode Fiber : SSMF)であり,引 が重要である. き続き標準的な伝送用光ファイバとして広く敷設されて 変調方式が異なると,そのスペクトル広がりの違い いる.しかし,この SSMF は 1.55 μm 帯の通信波長で から許容される分散値は異なるが,許容分散値は伝送速 は約 17 ps/nm/km の波長分散を有するため,この波長 度の2乗に反比例して小さくなる.例えば,Nonreturn 通信容量の増大には,ビットレートの高速化と高密度 to Zero(NRZ)40 Gbit/s の信号に対する許容分散量は 約 100 ps/nm であり,伝送速度の高速化が進めば進むほ 1 光応用製品事業推進室 光応 F グループ長(博士(工学)) 2 光応用製品事業推進室 光応 F(博士(理学)) 3 光応用製品事業推進室製造部 製造1グループ長 4 光応用製品事業推進室製造部 製造3グループ長 ど,許容される残留分散は小さくなる 1).そのため,伝 送距離が長い状態で伝送速度を上げようとすると,中継 7 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 略語・専門用語リスト 略語・専門用語 正式表記 SC-DCF Slope Compensating and Dispersion Compensating Fiber SSMF 説 明 分散スロープ分散補償ファイバ 負の分散と負の分散スロープをもち,伝 送用光ファイバで累積した波長分散を 使用波長域全体にわたって補償するファ イバ Standard Single-Mode Fiber 国際規格の ITU-T G.652 に準拠したシ ングルモード光ファイバ 1.3 μm 帯にゼロ分散波長をもち,通信 波長の 1.55 μm 帯では約 +17ps/nm/ km の波長分散を有する DWDM Dense Wavelength 波長分割多重 Division Multiplexing 一本の光ファイバに,狭い波長間隔でか つ高密度で光信号を同時に乗せることに より,大容量の情報を伝送する手段 NRZ RDS Aeff Nonreturn to Zero デジタル符号化方式の一つで,1 が連続 しても信号をいったん 0 に戻すというこ とはしないというもの Relative Dispersion Slope 比分散スロープ 分散スロープ / 波長分散で求める値であ り,分散スロープ補償率の指標 Effective area 実効断面積 FOM Figure of Merit 性能指数 単位損失あたりに補償できる分散量 MFD Mode Field Diameter 光ファイバ中を伝搬するモードの電界分 布の広がりを直径として表現したもの SBS Stimulated Brillouin Scattering 誘導ブリリュアン散乱 光ファイバ中の非線形光学効果のひとつ 器毎の分散補償は必須となる.図1に伝送路で累積した とクラッド間にクラッドよりも屈折率の低い層を設ける 波長分散の補償の概念図を示す.ある距離ごとに分散補 ことで分散スロープもマイナスにすることができる 2)3). 償ファイバモジュールを挿入し,伝送路に要求される残 ここで,分散スロープ補償の性能を求めるときに用いる 留分散以下となるように累積波長分散を補償している. 値として波長分散に対する分散スロープの比(Relative 累積波長分散の補償は使用波長帯すべてにわたって Dispersion Slope : RDS)がある.波長分散を D,分散 要求されるので,伝送路の累積分散スロープを同時に補 スロープを S とすると RDS は式(1)のように表わす 償することも必要となる.波長分散補償の概念図を図 2 ことができる. に示す.この図からわかるように伝送路である SSMF RDS = の波長分散はプラスの波長分散と分散スロープを有し S D ・・・(1) ている.一方,分散スロープ分散補償ファイバ(Slope SC-DCF の RDS を伝送用光ファイバの RDS と等しくす Compensating and Dispersion Compensating Fiber ると,波長分散を補償したときに分散スロープも完全に : SC-DCF)は,マイナスの波長分散と分散スロープを 補償することが可能となる. 有している.この SC-DCF は,コアの屈折率を高くし, コア径を細くするなど,屈折率分布を最適化すること で,マイナスの波長分散を得ることができ,さらにコア 8 分散補償ファイバモジュール 伝送用光ファイバ 分散補償ファイバモジュール 光増幅器 累 積 波 長 分 散 伝送位置 図 1 累積波長分散補償の概念図 Fig. 1. Basic concept of compensation of accumulated dispersion. 使用波長帯 (C-band:1525∼1565 nm) SSMFの波長分散 25 0 -25 波 -50 長 分 散 -75 (ps/nm/km) 分散補償後の 残留分散 SC-DCFの波長分散 -100 -125 -150 1300 1400 1500 波 長(nm) 1600 図 2 波長分散補償の概念図 Fig. 2. Basic concept of chromatic dispersion compensation. 2.開 発 背 景 とが困難であるため,それぞれの目的に適した SC-DCF 既にこの SSMF 用 SC-DCF については,標準的なファ を開発した.まず,SC-DCF モジュール低損失化のため イバ外径である 125 μm のタイプと小型モジュール用 には,実効断面積(Effective area : A eff)を従来品と同 にファイバを細径化したタイプがある.被補償ファイバ 等の値に維持しながら損失特性劣化を抑え,かつ単位 となる SSMF,従来の標準的な SC-DCF,および従来の 損失あたりの波長分散をより大きくして高性能化を図っ 小型モジュール用 SC-DCF の特性を表1に示す. た.また,SC-DCF モジュールの小型化のためには,SC- 本報告では,SC-DCF モジュールの低損失化という DCF の巻き体積を小さくする必要があり,高分散化に 要求と小型化という二つの要求に対してそれぞれの SC- よる使用ファイバ長の短尺化とファイバ自体の細径化を DCF について最適な構造を設計した.市場要求が二つ 行った.それぞれの SC-DCF,およびモジュールの試作 の方向であり,また二つの要求を同時に達成させるこ 結果について以下に報告する. 9 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 表 1 SSMF,従来品の標準的な SC-DCF,および小型モジュール用従来型細径 SC-DCF の特性 Table 1. Optical properties of SSMF, conventional standard SC-DCF and conventional SC-DCF for compact modules. 項 目 単 位 測定波長 μm ファイバ外径 μm SSMF 標準的なSC-DCF 125 125 小型モジュール用 従来型細径SC-DCF 1.55 90 被覆外径 μm 250 240 175 波長分散 ps/nm/km +17 -115 -115 RDS nm-1 0.0034 0.0034 0.0034 伝送損失 dB/km - 0.40 0.53 性能指数 (FOM) ps/nm/dB - 288 217 Aeff μm2 80 21 17 (A) (C) (B) 図 3 SC-DCF の屈折率分布 Fig. 3. Refractive index profile of SC-DCF. イバ長を短くするためである.A eff を大きくする理由は 3.分散補償ファイバモジュールの低損失化 3. 3 項で後述するが,非線形光学特性による SC-DCF モ 3.1 ファイバ設計 ジュールの特性劣化を抑制するためである.許容される SC-DCF モジュールの低損失化のために,まず表1に 曲げ損失はモジュール製造の際の最小曲げ径やモジュー 記載の“標準的な SC-DCF”の高性能化を行った. ル形状,被覆構造に依存する.またモジュールとして 単位損失あたりに補償できる分散量を性能指数 の実効的なカットオフ波長はファイバ長依存性があるた (Figure of Merit : FOM)といい,SC-DCF の波長分散 め,許容されるカットオフ波長は使用されるファイバ長, を D SC-DCF,ファイバ損失を L SC-DCF とすると FOM SC-DCF モジュール形態に依存する.SC-DCF は分散スロープ補 は,式(2)のように表すことができる. 償性能の向上,および A eff 拡大による非線形光学効果抑 FOMSC-DCF = DSC-DCF LSC-DCF 制などを目的として図 3 のような屈折率分布を用いてい ・・・(2) る. この FOM は,SC-DCF モジュール低損失化のための重 図 3 中の屈折率の一番高い部分(A)を中心コア,中 要な特性の一つである.一般的に FOM を高くすると 心コアを囲むように位置し屈折率が下がっている(B) ファイバの曲げ損失が高くなり,コイルへの巻き込み時 をトレンチコア,屈折率の低い部分を囲みクラッドより に損失が高くなる傾向がある.この損失特性劣化を抑え も屈折率が高くなっている(C)をリングコアと称して ながらモジュール化することにより,低損失な SC-DCF いる.各層の屈折率と径の比を変化させて,光学特性を モジュールの作製が可能となる. 計算し,許容される曲げ損失,カットオフ波長などを考 SC-DCF の設計は,許容される曲げ損失,カットオフ 慮しながら設計を行った.計算の結果,屈折率分布を調 波長の制限のもとで,目標とする分散スロープ補償率 整しカットオフ波長を長波長側にシフトさせることで, をほぼ 100 % に維持しながら,できるだけ大きな波長 現状の伝送損失を維持しながら目標とする RDS と Aeff, 分散係数と A eff を求めることを主眼とした.できるだけ および大きな波長分散係数が得られることがわかった. 大きな波長分散係数を目標とするのは,巻き込みファ 10 分散補償ファイバモジュール -135 0.8 波 -145 長 分 散 (ps/nm/km) -155 0.6 伝 送 損 失 0.4 (dB/km) -165 1525 1535 1545 1555 0.2 1450 1565 1475 1500 波 長(nm) 1525 1550 1575 波 長(nm) 図 4 SC-DCF の波長分散特性 Fig. 4. Chromatic dispersion characteristics of SC-DCF. 図 5 SC-DCF の損失波長特性 Fig. 5. Attenuation spectrum of SC-DCF. 表 2 試作した SC-DCF の光学特性 Table 2. Optical properties of fabricated SC-DCF. 項 目 単 位 測定値 測定波長 μm 1.55 ファイバ外径 μm 125 伝送損失 dB/km 0.40 波長分散 ps/nm/km -152 RDS nm-1 0.0034 FOM ps/nm/dB 380 カットオフ波長 μm 1.55 Aeff μm2 21 曲げ損失 dB/m, 曲げ直径=20mm 3 図 6 SC-DCF モジュール Fig. 6. SC-DCF module. 表 3 SC-DCF モジュールの光学特性 Table 3. Optical properties of SC-DCF modules. 項 目 分散量 単 位 測定波長 ps/nm 1550 nm 補償 km SSMF長 - RDS nm-1 1550 nm モジュール dB 損失 1550 nm モジュール PMD* No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 -150 -350 -651 -1003 -1370 -1700 10 20 40 60 80 100 0.0037 0.0035 0.0040 0.0036 0.0034 0.0033 0.9 1.4 1.8 2.7 3.7 4.6 0.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.3 ps 1525 nm1565 nm * 偏波モード分散(Polarization Mode Dispersion:PMD) 3.2 ファイバ特性 3.3 モジュール特性 試作した SC-DCF の光学特性を表 2 に示す.波長分散, 表 2 の 試 作 例 を 含 む 数 ロ ッ ト の SC-DCF を 用 い て 6 および分散スロープ補償率の指標となる RDS の値は目 台 の SC-DCF モ ジ ュ ー ル を 試 作 し た.SC-DCF は 小 型 標どおりの値が得られた.波長分散特性,損失波長特性 のリールに巻き込まれ,両端にコネクタ付 SSMF を融 を図 4,5 に示す.曲げ損失による長波長側での損失特 着接続してモジュールとした.モジュールの外観図を図 性劣化もなく良好な特性であった. 6 に,光学特性一覧を表 3 に示す. 11 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 20 10 残 留 分 0 散 (ps/nm) -10 -20 1525 1535 1545 1555 1565 波 長(nm) 図 7 80 km の SSMF を補償した後の残留分散特性 Fig. 7. Residual dispersion after chromatic dispersion compensation for 80-km SSMF. 図 3 のような屈折率分布を有する SC-DCF はガウス 損失化,短尺化も有効であることがわかる.今回試作し 型と異なる電磁界分布を持つ.そのためガウス型電磁 たモジュールと従来の 80 km の SSMF 補償用 SC-DCF 界分布を持つ SSMF との接続損失は,ガウス型近似で モジュール 3)について式(3)の値を比べると,2 π / λ, 算出する接続損失よりも大きくなる.本モジュールで n 2/ A eff の項にはほとんど差がない.しかし,モジュー は SC-DCF と同等の電磁界分布形状を有し SSMF と同 ル内で使用されるファイバ長に依存する L eff の観点で 等まで MFD を拡大しても特性劣化しない中間ファイバ は,80 km の SSMF 補償用 SC-DCF モジュールとして を用いて SC-DCF と SSMF の接続損失を低減している. 必要な分散補償量の 1360 ps/nm を得るためには,従来 表 3 の No.5 のモジュールは SSMF 80 km補償用である の SC-DCF で 16 km が必要であるのに対して,今回試 が,従来のモジュール挿入損失が 6 ∼ 7 dB であった 3) 作したファイバだと約 9 km となる.これは,今回の試 のに対して 3.7 dB と低くなっている.これは,SC-DCF 作ファイバの波長分散の絶対値が大きいからである.そ 自体の高 FOM 化,および接続損失低減化によるもので のため使用されるファイバ長と損失から算出される実 ある. 効ファイバ長 L eff は従来の約 3 分の 2 となり,さらにモ 長距離伝送の場合には,SN 比向上のため光ファイバ ジュール損失も低くなったことから入力パワー P0 も 60 伝送路への入射パワーを大きくする必要がある.しかし % 前後に低減され,最終的な非線形位相シフト量は従来 ながら,光ファイバへの入射パワーを大きくすると,光 の 80 km SSMF 補償用 SC-DCF モジュールの 30 % 前 ファイバの非線形光学効果により,入射パワーに依存 後に低減することができた. して信号波形に歪みが生じる.SC-DCF モジュールにつ SBS は低損失で長手方向に構造が均一で長尺ファイバ いてもこの非線型光学効果を考慮する必要がある.こ ほど発生閾値が低くなることが知られている 5).今回試 の非線形光学効果にはいくつかあるが,SC-DCF で問 作した SSMF 用 SC-DCF を用いると短い長さでモジュー 題になるのは,自己位相変調と誘導ブリリュアン散乱 ル 化 す る こ と が で き る. 例 え ば, 従 来 の 標 準的な SCDCF を用いて 80 km の SSMF の累積波長分散を補償す (Stimulated Brillouin Scattering : SBS)である. 自 己 位 相 変 調 の 影 響 を 評 価 す る に は,SC-DCF モ る場合,必要なファイバ長は 16 km となり,7.5 dBm ジュールに光を通過させたときの非線形位相シフト量で 前後が SBS 閾値となる 3) が,今回試作した SC-DCF を 評価するのが妥当である 4).非線形位相シフト量(φ)は, 用いると必要な SC-DCF 長は約 9 km となるため SBS 波長をλ,非線形屈折率を n 2,実効ファイバ長を L eff, 閾値は 8.5 dBm 程度まで改善される.これらのことか 入力パワーを P 0 として式(3)のように表すことができ ら今回の SC-DCF を用いた場合,従来品に比べて大き る. く非線形光学効果の影響が抑制されているといえる. φ= 2π n2 Leff P0 λ Aeff SSMF 80 km の累積波長分散を No.5 モジュールで補 ・・・(3) 償したときの残留分散特性を図 7 に示す.図 7 の分散補 この式から非線形位相シフト量を抑えるためには,Aeff 償後の残留分散特性から,1525 nm ∼ 1565 nm の波長 の拡大や n 2 の低減と共に,モジュール全体の損失を低 範囲において,残留分散はおおよそ ±5 ps/nm 以内に くして入力パワーを低減すること,およびファイバの低 抑えられていることがわかる. 12 分散補償ファイバモジュール 挿入損失 2.0 1.5 挿 1.0 入 損 0.5 失 0.0 の 変 -0.5 動 -1.0 (dB,at1545 nm) -1.5 温度 100 80 60 40 温 20 度 0 (℃) -20 -2.0 0 4 8 12 16 時 間(h) 20 -40 -60 24 図 8 No.4 モジュールのモジュール損失温度依存性 Fig. 8. Temperature dependence on insertion loss of No.4 module. 表 4 信頼性試験項目一覧 Table 4. Test items and conditions of reliability test. No. 試験項目 試験内容 1 振動試験 振動数10∼500 Hz,振幅1.5 mm,モジュール に対し上下・左右・前後方向1.5 G 2 衝撃試験 梱包無しで4インチの高さから落下 梱包状態で30インチから落下 3 ヒートサイクル試験 - 40 ℃/+85 ℃,100 サイクル 4 高温・高湿試験 85 ℃,湿度85 %,1000 時間 表 5 各試験前後の光学特性の変動 Table 5. Variation of optical characteristics after each test. 試験項目 No. 挿入損失 波長分散 PMD PDL 変動(dB) 変動(ps/nm) 変動(ps) 変動(dB) 1550 nm 測定波長 1 振動試験 <0.2 <1.0 <0.2 <0.02 2 衝撃試験 <0.2 <1.0 <0.2 <0.02 3 ヒートサイクル試験 <0.2 <1.0 <0.2 <0.02 4 高温・高湿試験 <0.2 <1.0 <0.2 <0.02 3.4 モジュール信頼性 5 に示す.振動・衝撃試験,ヒートサイクル試験,長期 SSMF 60 km 補 償 用 モ ジ ュ ー ル に 相 当 す る No.4 モ 高温高湿試験のいずれの試験においても光学特性の劣化 ジュールの挿入損失温度依存性を図 8 に示す.測定波 は認められなかった. 長は 1545 nm とした.SC-DCF モジュールは,使用温 度範囲として -5 ℃∼ +70 ℃,保存温度範囲として -40 4.小型分散補償ファイバモジュール ℃ ∼ +75 ℃ が 一 般 的 で あ る. こ の 図 か ら, 保 存 温 度 範囲の下限となる -40 ℃でモジュール挿入損失が高く 4.1 ファイバ設計 なっていることがわかるが,その後,室温に戻すことで SC-DCF モジュールの小型化のためには,ファイバ自 その損失が回復していることがわかる.また,使用温度 体の細径化,および使用ファイバ長の短尺化が必要で 範囲の下限となる -5 ℃において 0.05 dB の損失変動が ある 8).小型 SC-DCF モジュールに使用されている従 あったが,実用上問題のないレベルであり,製品要求仕 来品の細径 SC-DCF は,90 μm クラッド,175 μm 被 様も十分満足できるものである. 覆外径であり,平均的な波長分散は -115 ps/nm/km と 試作した SC-DCF モジュール全てに対して各種信頼 なっている.今回の目標特性は,巻き体積を 2 分の1に 性 試 験 を 行 っ た. 試 験 項 目 と 試 験 内 容 を 表 4 に 示 す. するために,ファイバ被覆外径と実現可能な光学特性を 6)7) .ま シミュレーションし,クラッド径 80 μm, 被覆外径 145 た各試験前後の挿入損失,波長分散,偏波モード分散 μm, 波 長 分 散 は -150 ps/nm/km 以 下 と し,FOM は 本 試 験 は Telcordia の 規 格 を 基 準 と し て い る (Polarization Mode Dispersion : PMD),偏波依存損失 300 ps/nm/dB 以上とした. (Polarization Dependent Loss : PDL)変動の結果を表 13 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 △ 細径80μm SC-DCF ● 125μm SSMF 1.50 1.00 0.50 0.8 0.00 -0.50 伝 0.6 送 損 失 (dB/km) 0.4 -1.00 ln(ln(1/(1-F))) F:累積破断確率 -1.50 -2.00 -2.50 -3.00 -3.50 0.2 1450 1475 1500 1525 1550 1 1575 5 10 破断強度(GPa) 波 長(nm) 図 10 ワイブル分布プロット Fig. 10. Weibull distribution of tensile strength on fabricated SC-DCF with small diameter. 図 9 細径 SC-DCF の損失波長特性 Fig. 9. Attenuation spectrum of SC-DCF with small diameter. 表 6 従来の 90 μm SC-DCF の特性と新規細径 80 μm SC-DCF の目標値, および試作した細径 80 μm SC-DCF の特性 Table 6. Optical properties of conventional 90 μm SC-DCF, target 80 μm SC-DCF for compact modules and fabricated 80 μm SC-DCF with small diameter. 細径 80μm 細径 90μm 項 目 単 位 細径 80μm SC-DCF SC-DCF SC-DCF (従来品) (目標値) (試作結果) 1.55 測定波長 μm ファイバ外径 μm 90 80 80 被覆外径 μm 175 145 145 波長分散 ps/nm/km -115 ≦-150 -160 RDS nm-1 0.0034 0.0034 0.0034 伝送損失 dB/km 0.53 - 0.53 FOM ps/nm/dB 220 300 以上 302 Aeff μm2 17 17 17 PMD ps/km1/2 0.1 0.1 0.1 4.2 試作ファイバの特性 ロベンド損失などの光学特性と共に機械強度特性も十分 従来の小型モジュール用細径 SC-DCF の特性と今回 考慮する必要がある.図 10 に 125 μm クラッド,250 の目標特性,および試作したファイバの特性を表 6 に示 μm 被覆の SSMF と今回試作した細径 80 μm SC-DCF す.波長 1550 nm において,波長分散 =-160 ps/nm/ の機械強度特性を評価した結果をワイブル分布プロッ -1 km,損失 =0.53 dB/km,RDS=0.00 34 nm ,A eff =17 μ トとして示す.この結果から今回試作した細径 80 μm 2 m の値が得られた.試作した細径 SC-DCF の損失波長 SC-DCF は通常ファイバと同等の機械強度特性を維持し 特性を図 9 に示す.曲げ損失による長波長側での損失特 ていることが確認された. 性劣化もなく良好な特性である.細径 SC-DCF は,クラッ 4.3 モジュール特性 ド外径を細くし,被覆厚も薄くしていることからマイク 試 作 し た フ ァ イ バ を 用 い て,SSMF 40 ∼ 100 km 補 14 分散補償ファイバモジュール 20 表 7 小型 SC-DCF モジュールの光学特性 Table 7. Optical properties of compact SC-DCF modules. 10 項 目 残 留 分 0 散 (ps/nm) 分散量 -10 -20 1525 1545 1555 1565 波 長(nm) 補償 km nm-1 1550 nm モジュール dB 損失 1550 nm モジュール 図 11 100 km の SSMF 分散補償後の残留分散特性 Fig. 11. Residual dispersion after chromatic dispersion compensation for 100-km SSMF. ps/nm 1550 nm SSMF長 RDS 1535 単 位 測定波長 PMD サンプル1 サンプル2 サンプル3 サンプル4 -680 -1020 -1020 -1700 40 60 60 100 0.0035 0.0034 0.0035 0.0034 2.7 4.0 3.9 6.2 0.1 0.1 0.2 0.3 ps 15251565 nm 2.0 100 1.5 80 1.0 60 0.5 挿 入 損 失 の 0.0 変 動 (dB,at1550nm) -0.5 40 温 20 度 (℃) 0 -1.0 -20 -1.5 -40 -2.0 -60 0 5 サンプル1 サンプル2 サンプル3 サンプル4 温 度 10 時 間(h) 図 12 サンプル 1 ∼ 4 モジュールのモジュール損失温度依存性 Fig. 12. Temperature dependence on insertion loss of Sample1-4 modules. 償用のモジュールを試作した.モジュールの特性を表 7 DCF を十分加熱することで MFD の拡大,および電磁 に示す.モジュールに使用したリールのサイズは幅 23 界分布形状をガウシアンに近づけることなどの接続条件 mm,フランジ直径 138 mm である.従来の細径 90 μm 最適化を進めて接続損失の低減化を行った.さらに従来 SC-DCF を用いたモジュールに比べて,ファイバの短尺 は中間ファイバを用いて接続損失の低減を図ったが,こ 化とさらなる細径化により巻き体積を小さくすることが の小型モジュールでは 80 μm 細径 SC-DCF と 125 μm でき,従来の 90 μm SC-DCF を用いたモジュールと比較 SSMF を直接接続しモジュール化を行った. すると同一サイズで 2 倍の分散補償をすることが可能と SSMF 100 km の累積波長分散をこのモジュールで補 なった.従来の 125 μm SC-DCF を用いたモジュールと 償したときの残留分散特性を図 11 に示す.この分散補 比較すると約 4 分の1にまで小型化することに成功した. 償後の残留分散特性から,1525 nm ∼ 1565 nm の波長 本 モ ジ ュ ー ル 試 作 時 の SC-DCF 接 続 作 業 で は SC- 範囲において,残留分散が±10 ps/nm 以下に抑えられ 15 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 ていることがわかる. ま た, 小 型 SC-DCF モ ジ ュ ー ル に 適 応 可 能 な フ ァ 4.4 モジュールの信頼性 イバを設計・試作した.この細径 SC-DCF の波長分散 試作したモジュールの挿入損失温度依存性を図 12 に は 100 % 分散スロープ補償性能を維持しながら,波長 示す.測定波長は 1550 nm とした.SC-DCF モジュー 1550 nm において,-160 ps/nm/km であり,モジュー ルは,使用温度範囲として -5 ℃∼ +70 ℃,保存温度範 ル化しても特性劣化はほとんど見られず,また挿入損失 囲として -40 ℃∼ +75 ℃が一般的である.図 12 から, の温度変動も実用上問題のないレベルであり,顧客要求 保存温度範囲の下限となる -40 ℃でモジュール挿入損 を十分満足できるものであることを確認した.モジュー 失が高くなっているが,その後,室温に戻すことでその ル の サ イ ズ は 従 来 の 90 μm 細 径 SCDCF を 用 い た モ 損失が回復していることがわかる.また,使用温度範囲 ジュールの 2 分の 1 にまで小型することができた. の下限となる -5 ℃においては 0.1 dB の損失変動がある が,この変動は十分小さく実用上問題のないレベルであ 参 考 文 献 り,製品要求仕様も十分満足できるものである. 試作した小型 SC-DCF モジュールに対して各種信頼 1) 鳥羽ほか:「 次世代超高速伝送技術 」,NTT R&D,Vol.48, 性試験を行った.試験項目と試験内容は表 4 に示したよ No.1, pp.33-41, 1999 うに低損失タイプのモジュールに対して行ったものと 2) L. Grüner-Nielsen, et al. :“Dispersion-compensating 同一である.各試験前後の挿入損失,波長分散,PMD, fibers”, J. Lightwave Technol., Vol.23, No.11, pp.3566-3578, PDL 変動の結果も,ここでは具体的なデータを示すこ 2005 3) K. Aikawa, et al. :“High-performance dispersion-slope とは行わないが,表 5 に一括して記載した通りのレベル and dispersion compensation modules” , Fujikura Technical であった.いずれの試験においても光学特性の劣化は認 Review, No.31, pp.59-64, 2002 められなかった. 4) T. Kato, et al. :“Design optimization of dispersion compensating 5.む す び fiber for NZ-DSF considering nonlinearity and packaging performance”, Proc. Optical Fiber Communication Conference, SC-DCF モジュールのさらなる高性能化要求に対応す No.TuS 6, 2001 るために,通常被覆外径の SC-DCF の高分散化,およ 5) A. Wada, et al. :“Suppression of stimulated Brillouin び高 FOM 化の検討を行い -152 ps/nm/km, FOM=380 scattering by intentionally induced periodical residual ps/nm/dB の SC-DCF を作製することができた.この -strain in single-mode optical fibers”, IEICE Trans. SC-DCF を用いたモジュールは従来品の SC-DCF を用 Commun. Vol.E76-B, No.4, pp.345-351, 1993 6) Telcordia-GR-2854 Generic Requirements for Fiber Optic い た モ ジ ュ ー ル の 2 分 の 1 程 度 の 挿 入 損 失 と な っ た. Dispersion Compensators(Issue 2, Dec. 1997) そして,SSMF 80 km の累積波長分散を補償した後の 7) Telcordia-GR-63 NEBS Requirements: Physical Protection 1525 nm から 1565 nm における最大残留分散特性も (Issue 3, Mar. 2006) ±5 ps/nm 以下に抑えられており,高速伝送にも十分 8) P. Kristensen, et al. :“Dispersion and slope compensating 耐えられることを確認した.モジュールの挿入損失の温 module for G.652 fiber with x4 reduced physical dimensions”, 度変動についても大きな変動がないことを確認した. Proc. European Conf. on Opt. Commun., No. We4P.15, 2003 16