特殊光ファイバ融着接続機 光機器・システム事業部 飛 田 謙 洋 1・小 沼 朋 浩 1・吉 田 謙 介 1・佐々木 一 美 1 Specialty Fiber Fusion Splicer K. Tobita, T. Konuma, K. Yoshida, and K. Sasaki 光ファイバ技術の応用分野は情報通信だけでなく非通信分野にも展開され,伝送媒体である光ファイ バの種類も多様化している.光ファイバ融着接続機においても,大口径光ファイバや定偏波光ファイバ など多種多様な光ファイバに柔軟に対応可能な機能が必要とされる.今回,市場の要求にこたえるべく, 安定した融着接続性能を実現した新型特殊光ファイバ融着接続機を開発した. The application of optical fiber technologies is developed in not only the telecommunication field but also nontelecommunication fields; as the result, the optical fiber is diversified. Therefore, the specialty fiber fusion splicer with various flexible splice functions such as for the large-diameter fiber and the polarization-maintaining fiber is strongly demanded in the market. To meet the marketing needs, Fujikura has developed a specialty fiber fusion splicer that achieves a stable splice performance. 1.ま え が 表 仕 様 Table. Specifications. き 今や情報通信インフラの構築において欠くことのでき ない光ファイバであるが,その応用分野は情報通信にと どまらず,非通信分野においても用途が広がっている.光 ファイバ融着接続機においても,大口径光ファイバや定 偏波光ファイバなどを安定して融着接続するために,様々 な種類の光ファイバに対応したクランプ可変機構,放電 形状可変機構,高速画像処理機能など,多様な性能が要 求される.今回これらの要求にこたえた新型特殊光ファ イバ融着接続機を開発したので,その内容を報告する. 2.装 置 概 要 融着接続機の外観を図 1 に,仕様を表に示す. 3.特殊光ファイバ融着接続機の特徴 3.1 光ファイバクランプ可変機構 クラッド径φ 60 μm とφ 500 μm の光ファイバを把 持している状態を図 2-1 に示す.モータによって調整さ れる可動V溝 A ,B およびクランプで形成される 3 つ の平面で光ファイバを把持する. クラッド径φ 60 μm の光ファイバを把持している状 図1 特殊光ファイバ融着接続機 Fig. 1. Specialty optical fiber fusion splicer. 態から,クラッド径φ 500 μ m の光ファイバを把持す るまでの形状変化を図 2-2 に示す. 1 精密機器製品部 開発グループ 17 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 略語・専門用語リスト 略語・専門用語 正式表記 ITU-T International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector 説 明 国際電気通信連合・電気通信標準化部門 ITU-T G.652 シングルモード光ファイバおよびケーブル に関する ITU-T 規格 SM ファイバ Single Mode Optical Fiber 伝播するモードが単一の光ファイバ PANDA ファイバ Polarization maintaining and absorption reducing fiber 定偏波光ファイバの一種 MFD Mode Field Diameter 光ファイバ中を伝搬するモードの電界分布 の広がりを直径として表現したもの 可動V溝A クランプ機構の模式図を図 2-3 に示す.摺動機構 A に クランプ よって可動 V 溝 A が垂直に移動し,摺動機構 B によっ て可動 V 溝 B がθ / 2 方向に移動する.クランプは摺 動機構 C により上下に移動し,V 溝位置に合わせて左 右に移動する.この方式により,光ファイバの中心を定 位置に保ったまま,クラッド径φ 60 μm ∼φ 500 μm の光ファイバを把持可能である.(図 2-4) 可動V溝B クラッド径φ60μm 光ファイバ クラッド径φ500μm 光ファイバ 図 2-1 光ファイバクランプ可変機構 Fig. 2-1. Adjustable fiber clamp mechanism. a)クラッド径φ 60 μm の光ファイバを把持 b)可動 V 溝 A , B およびクランプが,それぞれ矢印の クランプ 方向に移動する c)クラッド径φ 500 μm の光ファイバを把持 θ θ/2 可動V溝A クランプ 可動V溝B a) 可動V溝A 摺動機構A b) 可動V溝B 摺動機構B c) 摺動機構C 図 2-2 V 溝とクランプの動き Fig. 2-2. V-grooves and clamp movements. 図 2-3 クランプ機構の原理 Fig. 2-3. Principal of clamp mechanism. 18 特殊光ファイバ融着接続機 電極間隔 1 mm 図 2-4 光ファイバの把持状態 Fig. 2-4. Picture of optical fiber clamping. 図 3-2-1 電極間隔を変化させた写真 Fig. 3-2-1. Picture of electrode gap change. 3.2 放電形状可変機構 3.2.1 電極間隔可変機構 特殊光ファイバ融着接続機では,放電電極の間隔を 1 ∼ 3 mm の範囲でモータによって調整する機構を有す る.図 3-1 に電極間隔可変機構の模式図を示す.光ファ イバの径に応じて,加熱領域を変化させている. この電極間隔可変機構と放電電極高さ可変機構を組合 わせることで,特殊光ファイバに応じた様々な放電形状 が実現可能である. 1 mm 電極間隔 3 mm 図 3-2-2 電極間隔を変化させた写真 Fig. 3-2-2. Picture of electrode gap change. φ60 μm 高さ可変機構により,特殊光ファイバに応じた放電温度 の調整が可能となる. φ500 μm 3.3 接続損失に対する可変機構の効果 クラッド径φ 80 μm の同種光ファイバを接続した場 合とφ 400 μm の同種光ファイバを接続した場合の接続 放電電極 3 mm 損失を図 4 に示す. 放電電極 光ファイバクランプ可変機構により光ファイバが確実 図 3-1 電極間隔可変機構 Fig. 3-1. Adjustable electrode gap mechanism. に把持され,放電形状可変機構により放電加熱を最適化 した結果,安定した融着接続損失が得られていることが わかる. また,図 5 にクランプ可変機構および放電形状可変機 図 3-2-1, 図 3-2-2 に電極間隔を変化させた場合の写真 構の設定画面を示す.画面内のグラフィックスにした を示す. がって設定を行うと,モータによってクランプや放電プ 3.2.2 放電電極高さ可変機構 ロファイルが自動調整される. 図 3-3 に示すように光ファイバに対して放電電極を上 下方向にモータで移動する機構を有する.この放電電極 19 2010 Vol.2 フ ジ ク ラ 技 報 第 119 号 放電電極 放電電極 電極間隔可変機構 電極高さ可変機構 の設定画面 標準光ファイバ クランプ可変機構 の設定画面 a)電極高さ方向の移動なし[標準状態] +100μm 熱に弱い光ファイバ b)光ファイバが電極より100μm高い 図 5 接続設定画面 Fig. 5. Splice setting menu. −300μm 熱に弱い光ファイバ c)光ファイバが電極より300μm低い 図 3-3 放電電極高さ可変機構 Fig. 3-3. Adjustable electrode height mechanism. 25 20 図 6 PANDA ファイバ偏波面の解析 Fig. 6. Analysis of PANDA fiber polarization plane. SMF φ400 μm N = 30 MFD:9 μm SMF φ80 μm N = 30 MFD:9 μm 12 15 頻 度 10 10 PANDAファイバ N = 30 Average −44 dB 8 頻 度 5 6 4 0 0.00 0.04 0.08 0.12 0.16 0.20 2 接続損失(dB) 0 図 4 接続損失の分布 Fig. 4. Distribution of splice loss. -50 -48 -46 -44 -42 -40 -38 -36 -34 -32 -30 偏波クロストーク(dB) 図 7 偏波クロストークの分布 Fig. 7. Distribution of polarization crosstalk. 20 特殊光ファイバ融着接続機 4.定偏波光ファイバの接続 5.む す び 図 6 は高速画像処理機能を用いて定偏波光ファイバの 今回開発した特殊光ファイバ融着接続機は,多様化し 偏波面を解析している様子を示す.画像処理結果から回 た光ファイバの接続を可能にするクランプ可変機構や放 転方向と回転角度を演算し,PANDA ファイバにおいて 電形状可変機構などを搭載している.これらの新機能に は 35 秒で融着接続を完了する.図 7 に PANDA ファイ より,安定した低接続損失が可能となる. バ接続時の偏波クロストーク特性の分布を示す. また,側方観察画像のデータを記憶することで,あら ゆる定偏波光ファイバの偏波面調心を可能とするアルゴ リズムもかね備えている. 21