広帯域偏波保持フォトニック結晶ファイバ 光電子技術研究所 竹 永 勝 宏* 1 ・官 寧* 2 ・井 添 克 昭* 3 ・松 尾 昌一郎* 1 ・姫 野 邦 治* 4 Highly Birefringent Photonic Crystal Fiber for a Wide Wavelength Range K.Takenaga,Dr.N.Guan,K.Izoe,S.Matsuo & K.Himeno コア領域の周りに孔径が異なる空孔を非対称に配置した偏波保持型フォトニック結晶ファイバを開発し た.試作したファイバは波長 1,620nm において,2.1 × 10−3 の複屈折および−48dB の偏波クロストークを示 し,さらに,480nm から 1,620nm までの広い波長領域にわたり,高い複屈折を保持した.また,極めて小 さな曲げ径に対しても,広い波長領域において,ファイバの偏波クロストークはほとんど劣化しなかった. We have fabricated a highly birefringent photonic crystal fiber which has a modal birefringence of 2.1 × 10−3 and a polarization crosstalk of −48dB at 1,620nm and maintains polarization for a wide wavelength range from 480nm to 1,620nm.Little deterioration of the crosstalk occurred even an extremely small bending diameter was applied to the fiber. 1.ま え が き 2.ファイバの構造 近年,フォトニック結晶ファイバ(PCF : Photonic 今回検討した PM-PCF の断面構造を図 1 に示す.図のよ crystal fiber)あるいはホーリーファイバと呼ばれる光 うにコア領域は三角格子構造状に配置される空孔配列に ファイバは,基礎研究だけでなく,実用の観点からも大変 よって囲まれているが,コア近傍にある 8 つの空孔は他の 注目を集めている .PCF は従来のファイバでは持ち得な 空孔より大きくなっている.小さい空孔と大きい空孔の直 い数多くのユニークな特性が実現できる.高い複屈折もそ 径をそれぞれd とd2 とし,空孔のピッチは大小空孔共通で の一つである.PCF の空孔配列を 2 回以下の回転対称性に Λとしている.この構成はすでに絶対単一偏波を実現する 配置すると,直交する軸に対応する伝搬モードの等価屈折 構造として提案されており 7),コア近傍に大きな空孔を多 率に大きな差を持たせることができる.これは PANDA 数配置することで,高い複屈折が得られるだけでなく, ファイバ 2)のような応力による複屈折の生成と基本的に異 フィールドを強くコアに閉じ込め良好な曲げ特性が得られ なる.これまでに,オーダーが10 になる従来の偏波保持 ることが期待される.われわれは境界要素法 8)を用いて本 ファイバより一桁大きい複屈折が報告され 3)4)5),単一偏 ファイバを解析した.図 2 に PM-PCF の slow 軸と fast 軸に 6) 波しか存在しないような絶対単一偏波も実現されている . 対応する伝搬モードの等価屈折率,およびクラッドの屈折 われわれはコア領域の周りに孔径が異なる空孔を非対称 率を示す.ただし,クラッドが小さな空孔の配列で形成さ に配置した偏波保持型 PCF(PM-PCF : Polarization- れているとし,その屈折率はその領域におけるスペース充 maintaining PCF)の設計と試作をおこなった.試作した 填(space-filling)モードの等価屈折率とした.各寸法は, ファイバは480nm から1,620nm までの広い波長領域にわた d=1.4μm,d2=2.3μm,Λ =2.7μm とした.また,この寸 り,高い複屈折と低い偏波クロストークを実現している. 法では図 2 の波長範囲において,屈折率がクラッドよりも またこのファイバは,コア領域の近傍に大きな空孔が多数 大きいほかの伝搬モードが存在しないことが確認されてい 配置されており,伝搬モードのフィールドがコア領域に強 る. 図 3 , 4 はそれぞれ s l o w 軸 , f a s t 軸 モードの波 長 く閉じ込められるため,良好な曲げ特性を有する.さらに 1,550nm におけるパワー分布を表し,図中の等高線は 3dB ファイバを極めて小さな曲げ径で曲げても,広い波長領域 間隔である.両モードのフィールドはともに x 方向に細長 において偏波クロストークがほとんど劣化しない特徴を備 く分布していることがわかる.また伝搬モードの電界成分 えている. が,slow 軸でほぼ x 方向に向き,fast 軸で y 方向に向いて 1) −3 いるため,slow 軸モードのフィールドはfast軸モードに比 *1 *2 *3 *4 光技術研究部 光技術研究部(工博) 光機器事業部光応用製品部 光技術研究部グループ長 べ x 方向でより空孔によって束縛されるが,逆に y 方向で より空孔内に浸み出している.図 5 に両モードのx,y 方向 のモードスポット直径 9 ) の波長依存性を示す.波長が 6 広帯域偏波保持フォトニック結晶ファイバ Λ d y d2 x slow axis fast axis 図3 PM-PCF の slow 軸モードのパワー分布 Power distribution of slow-axis mode of PM-PCF 図1 PM-PCFの構造 Configuration of PM-PCF 1.47 1.46 slow軸モード fast軸モード クラッド 1.45 等 価 屈 折 率 1.44 1.43 1.42 1.41 1.40 1.39 1.38 400 Λ =2.7μm d =1.4μm d2=2.3μm 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 波 長(nm) 図4 PM-PCFの fast 軸モードのパワー分布 Power distribution of fast-axis mode of PM-PCF 図2 PM-PCFの両直交偏波モードおよびクラッドの 等価屈折率の波長依存性 Effective index dependences on wavelength for two orthogonal polarization modes and cladding of PM-PCF 3.6 x方向(slow軸モード) x方向(fast軸モード) y方向(slow軸モード) y方向(fast軸モード) 3.4 400nm ∼ 1,800nm に変化してもモードスポットの直径の変 化は,おおよそ0.3 μm ∼ 0.4 μm 程度であることがわかる. 3.偏 波 特 性 モ ー ド ス ポ ッ ト 直 径 3.2 3.0 2.8 2.6 (μm)2.4 前項での設計に基づき実際にファイバを試作した.試作 ファイバの断面写真を図 6 に示す.ファイバの寸法は図 2 の計算で使用したものと同程度のものが得られた. ファイバの複屈折は波長掃引法 10) を用いて測定した. この方法ではファイバの偏波主軸に対して 45 度傾けた直 2.2 2.0 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 波 長(nm) 図5 PM-PCF のモードスポット直径 Modal spot diameters of PM-PCF 線偏波光をファイバに入射し,出力端でこれと直交した方 向に置いた偏光子を通った出力光のパワーの波長依存性を 測定して,その測定結果から偏波ビート長を算出する.図 7 に測定の一例を示す. この方法で測定したビート長 LB* から群複屈折 B * が得ら れる: B *= dβf dβs λ − = dk dk LB* ただし,k = 2 π/λ,λは波長を表し,βs ,βf はそれ ぞれ slow 軸モードと fast 軸モードの位相定数を表す.ま た, B =︱βs / k −βf / k ︱で定義される通常の複屈折か ら,群複屈折は次のように求められる: 7 図6 試作した PM-PCF の断面写真 Picture of cross-section of fabricated PM-PCF 2005 年 4 月 フ ジ ク ラ 技 報 −20 1.0 0.9 −25 偏 波 ク ロ ス ト ー ク 0.8 0.7 光 強 度 0.6 0.5 (a.u)0.4 −30 −35 −40 (dB) 0.3 −45 −50 400 0.2 0.1 0.0 1,616 第 108 号 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 波 長(nm) 1,617 1,618 1,619 1,620 1,621 1,622 1,623 図9 PM-PCF の偏波クロストークの波長依存性 Polarization crosstalk dependence on wavelength 波 長(nm) 図7 PM-PCFの波長掃引測定例 A typical wavelength scanning diagram of PM-PCF −20 480nm 1,550nm −25 3.5 偏 波 ク ロ ス ト ー ク 3.0 (dB) ×10−3 5.0 4.5 4.0 複 屈 折 2.5 2.0 1.5 0.5 0.0 400 600 800 −35 −40 −45 −50 0 B*(実測値) B*(計算値) B (計算値) 1.0 −30 20 40 60 80 100 曲げ径(mm) 図 10 PM-PCF の偏波クロストークの曲げ径依存性 Polarization crosstalk dependence on bending diameter 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 波 長(nm) 図8 PM-PCFの複屈折の比較 Birefringence comparison between theory and measurement トークの曲げ径依存性を示す.測定は長さ 6m のファイバ を使用し,そのうちの 4m をマンドレルに巻いて行った. B *= B −λ 図のように,曲げ直径を10mmにしても,両波長における dB dλ 偏波クロストークはほとんど劣化しないことがわかる.こ の広い波長範囲での良好な曲げ特性は,PCF 構造で得ら B の波長変動が小さく上式右辺の第 2 項が無視できる場合, れる大きな特徴であり,偏波保持ファイバの応用を拡大す B *と B はほぼ同じ値になるが,本 PM-PCF の場合,両者 る意味において重要であると考えられる. の値が大きく異なる.図 8 に群複屈折の測定値と計算値, さらに複屈折の計算値を示す.群複屈折の計算値と測定値 4.む す び がよく一致しており,波長 1,620nm において,群複屈折が 3.3 × 10 − 3 になるとともに,複屈折が 2.1 × 10 − 3 になるこ われわれは高い複屈折を有する偏波保持型フォトニック とを示している. 結晶ファイバを開発した.試作したファイバは非常に広い 長さ 2m の PM-PCF の偏波クロストーク測定結果を図 9 波長領域において,高い複屈折と低い偏波クロストークを に示す.図のように,480nm から1,620nm までの広い波長 示した.また,ファイバを極めて小さな曲げ径で曲げて 領域において,クロストークは− 25dB 以下であった.ま も,広い波長範囲で偏波クロストークがほとんど劣化しな た,測定範囲の波長領域では,両偏波モード以外の伝搬 いことを確認した.このファイバは,従来からある偏波依 モードは観測されなかった. 存性のある光部品間の接続に用いられるだけでなく,コン 本 PM-PCF はコア領域の近傍に大きな空孔が 8 つ設置さ パクトかつ広帯域伝送を必要とする光回路での応用に用い れおり,伝搬モードのフィールドがコア領域によく閉じ込 られることが期待される. められるため,各伝搬モードの曲げ損失が非常に小さい. したがってファイバを極めて小さな曲げ径で曲げても,偏 参 考 文 献 波クロストークは曲げの影響を受けにくい. 図 10 に 480nm と 1,550nm の両波長における偏波クロス 1) T.A.Birks,J.C.Knight,B.J.Mangan and P.St. 8 広帯域偏波保持フォトニック結晶ファイバ 6) H.Kubota,S.Kawanishi,S.Koyanagi,M.Tanaka J.Russell : Photonic crystal fibres: an endless variety, IEICE Trans.Commun., Vol. E84-B,No. 5,pp.1211- and S.Yamaguchi : Absolutely single polarization 1218,2001 photonic crystal fiber, IEEE Photon.Technol.Lett., Vol.16,No.1,pp.182-184,2004 2) J.Noda,K.Okamoto and Y.Sasaki : Polarization- 7) K.Saitoh and M.Koshiba : Single-polarization single- maintaining fibers and their applications,J.Lightwave mode photonic crystal fibers,IEEE Photon.Technol. Technol.,Vol. LT-4,No. 8,pp.1071-1089,1986 Lett., Vol.15,No.10,pp.1384-1386,2003 3) A.Ortigosa-Blanch,J.C.Knight,W.J.Wadsworth, 8) N.Guan,S.Habu,K.Takenaga,K.Himeno and A. J.Arriaga,B.J.Mangan,T.A.Birks and P.St. J.Russell : Highly birefringent photonic crystal fibers, Wada : Boundary element method for analysis of holey Optics Lett., Vol.25,No.18,pp.1325-1327,2000 optical fibers,J.Lightwave Technol., Vol.21,pp.17871792,2003 4) T.P.Hansen,J.Broeng,S.E.B.Libori,E. 9) M.Koshiba and K.Saitoh : Structual dependence of Knudsen, A. Bjarklev, J. R. Jensen and H. effective area and mode field diameter for holey fibers, Simonsen : Highly birefringent index-guiding photonic Opt.Express,Vol.11,No.15,pp.1746-1756,2003 crystal fibers,IEEE Photon.Technol.Lett., Vol.13, 10)K.Kikuchi and T.Okoshi : Wavelength-sweeping No.6,pp.588-590,2001 technique for measuring the beat length of linearly 5) G.Melin,O.Cavani,L.Gasca,A.Peyrilloux,L. Provost and X.Rejeaunier : Characterization of a birefringent optical fibers,Optics Lett.,Vol.8,No.2, polarization maintaining microstructured fiber,ECOC- pp.122-123,1983 IOOC 2003,We1.7.4,2003 9