JA‐29MA - jae.com

技術紹介 7 制振用加速度計の開発(JA-29MA)
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技術紹介
7 制振用加速度計の開発(JA-29MA)
Development of Accelerometer for Active Anti-Vibration Control (JA-29MA)
富岡 達也
Tatsuya Tomioka
航機事業部
第二設計部 マネージャー
山本 修一
Shuichi Yamamoto
航機事業部
第二設計部
キーワード: 加速度計、振動計測、制振、振子
Keywords : Accelerometer, Vibration measurement, Active Anti-Vibration Control, Pendulum
要 旨
SUMMARY
航空電子はこれまで国内産業機器関連の振動計測
JAE has manufactured various high performance,
high reliable accelerometers to the vibration
measurement market. In recent years, the vibration
measurement market needs the accelerometer which
can measure the extremely small acceleration for
active anti-vibration control. As the accelerometer
specialized to detecting micro/sub-micro G vibration,
we have developed the JA-29MA accelerometer for
realizing low noise in the low frequency bandwidth
and has achieved the performance of minimum
sensitivity 0.5µG 0−P / Hz. In the following, we
introduce the outline of development and prototype
model evaluation results of JA-29MA.
市場において、 各種高性能 ・ 高信頼性加速度計を提
供してまいりました。 近年振動計測市場において、
アクティブ制振やアクティブ除振のために、 より小さ
な振動加速度を正確に検出できる加速度計の要求が
強くなってきたことから、 微小な振 動検出に特化し
た制振用加速度計として、 低周波数帯域の低ノイズ
化を図った JA-29MA 加 速 度 計を開 発し、 最小 感
度 0.5 μ G0 − P /
Hz の性能を実現しました。 ここで
は、 JA-29MA 加速度計の開発概要と試作評価結果に
ついて紹介します。
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航空電子技報 No.27 (2004.3)
技術紹介 7 制振用加速度計の開発(JA-29MA)
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1 まえがき
制振用加速度計とは、 非常に小さな振動加速度信号を正確に検出することが出来る振
動計測用のセンサです。制振用加速度計は、 例えば、 半導体 / 液晶製造装置等の精密除
振を必要とする装置において、 アクティブ制振やアクティブ除振のための振動検出用加速
度計として使用されています。これらの装置において使用される加速度計は、0.1μ G オー
ダーで除振台の微振動を検出することが要求され、検出する振動加速度のレベルが非常に
小さいため、加速度計の自己ノイズを小さくする必要があります。このような要求に対し、
長年培った加速度計の要素技術をベースに静電容量検出方式を採用した新しい振子構造
と、 新規設計した電気回路を組み合わせ低ノイズ化を図り、微小な振動検出に優れた制振
用の加速度計として JA-29MA を開発しました。写真 1 に今回開発した JA-29MA 加速
度計の外観を示します。
写真 1 JA−29MA加速度計外観
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2 開発のポイント
本加速度計は、 微小な振動加速度を正確に検出することが重要であることから、 加速
度計の低ノイズ化と、周波数特性の広帯域化をポイントに製品開発を実施しました。
2.1 低ノイズ化 ( 高 S/N 比 )
加速度計のブロック線図を図 1 に示します。加速度計出力のノイズは主に電気回路で使
用している能動素子から発生します。したがって、そのノイズ発生源の前にあたる慣性質量・
ヒンジ剛性・ダンピングおよびピックオフ感度は、 入力に対してより感度を高くし、 ノイ
ズ発生源の後ろにあたる電気回路のゲインをより小さくすることにより、下記①∼④のサー
ボループ系のゲインを最適化して低ノイズ化 ( 高 S/N 比 ) を実現しました。
①慣性質量 : 質量増加 入力に対する
感度増大
②ヒンジのばね剛性 : ばね剛性低減 ③ピックオフ感度 : 静電容量ピックオフ感度増加 ④電気回路 : 電気回路ゲインを低減
能動素子から発生する
ノイズの抑制を図る
感度をより低くする部分
感度をより高くする部分
ヒンジ
����剛性
ノイズ
ダンピング
入力
��質量
������
感度
電気��
����
出力
トルカ
図 1 加速度計のブロック線図
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2.2 周波数特性の広帯域化
半導体/液晶製造装置等の精密除振を必要とする装置などで使用される加速度計の周
波数特性は、ますます広帯域化を求められております。この広帯域化を実現するためには、
検出周波数帯域に存在する慣性質量部の共振モードを、1 次共振モードのみにする必要
があります。そこで本加速度計では、慣性質量部を 2 枚の金属ばねで挟み込む構造にし、
慣性質量部の動きを平行変位のみで検出できるようにしました。その結果、 高次共振を検
出周波数帯域よりも高い周波数帯域へ移動することにより、 300Hz 付近までフラットな
周波数応答が実現できました。また、 慣性質量部の動きが平行変位のみとしたことから、
不感軸からの加速度の影響を受け難い構造になりました 。
3 加速度計の仕様 JA-29MA 加速度計の仕様を表 1 に示します。
表 1 JA-29MA 加速度計の仕様 ( 温度 25℃ )
項 目
単 位
仕 様
G
±2
感度
V/G
5 ± 3%
バイアス
mG
± 30 以内
度
± 0.5 以内
μ G0 − P / Hz
0.5 以下
Hz
DC ∼ 300 以上
μ G0 − P / Hz
0.1 以下
mm
φ 25.4 × 40
g
90 以下
計測範囲
ケースアライメント
最小感度
周波数特性 ( ± 3dB)
ノイズ (at 1Hz)
外観寸法
質量
( 注記 ) 本文書では、加速度の単位を従来単位系である“G”を用いて表現しています。
これは、加速度を表現する手段として重力加速度を用いた方が一般的に理解し
やすいためです。ここで、1G=9.80665m/s2( 国際度量衡総会で定義され
た標準重力加速度の値 ) とします。
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4 試作評価結果
4.1 基本性能
試作品の基本性能評価結果を表 2 に示します。基本性能は、 目標とした性能を十分に
満足することがわかります。
表 2 基本性能評価試験結果
単位
規格
サンプル 1
サンプル 2
サンプル 3
感度
V/G
4.85 ∼ 5.15
4.90
4.90
4.90
バイアス
mG
± 30
10.4
7.8
9.8
ケースアライメント
度
± 0.5
− 0.006
− 0.017
− 0.138
周波数特性 ( ± 3dB)
Hz
300 以上
376
360
345
4.2 自己ノイズと最小感度
検出する振動加速度レベルが 0.1μ G オーダーになると、入力レベルが非常に小さくな
ることから、 加速度計の自己ノイズと最小感度の正確な評価が非常に難しくなります。ま
た最小感度の評価においては、 振動試験機等により人工的に 0.1μ G 相当の振動加速度
を作り出そうとすると、 周波数 0.1Hz の場合でも片振幅が 2.5 μ m となり、その正確な
振動制御が困難なため現実的な方法ではありません。
そこで、今回開発した JA-29MA 加速度計の自己ノイズと最小感度の評価については、
床の振動を加速度計で検出し、その振動スペクトルから性能を判定することにしました。
以下にその結果を示します。
4.2.1 自己ノイズ
まず、 JA-29MA 加速度計の自己ノイズの評価については、 航空電子昭島事業所の建
屋の床に JA-29MA 加速度計と航空電子製 JA-5V 加速度計を設置し、 鉛直方向の振動
を計測して各加速度計の振動スペクトルを比較評価することで、 JA-29MA 加速度計の性
能を判定しました。図 2 に JA-5V 加速度計の振動スペクトル、 図 3 に今回開発した JA29MA 加速度計の振動スペクトルを示します。図 2 と図 3 から明らかなように、 0.6Hz ∼
0.7Hz 付近にある「脈動」と推測される地盤の振動を、 JA-29MA 加速度計は忠実に地盤
振動として検出しているのに対し、 JA-5V 加速度計の振動スペクトルは 1μ G 0 − P / Hz
程度の平坦なスペクトルを示しており、 0.6Hz ∼ 0.7Hz 付近にある地盤の振動が自己ノイ
ズとの関係で十分に検出されていないことがわかります。次に、 周波数 1Hz ∼ 100Hz の
帯域では、今までの経験から航空電子昭島事業所の建屋の固有振動数が概ね 20 ∼ 30Hz
付近にあることが知られており、その振動レベルが約 10 μ G と大きいことから両加速度
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計とも建屋の振動を検出した結果を示しています。以上、 航空電子の昭島事業所における
床振動の振動スペクトルの計測結果より、 JA-29MA 加速度計の自己ノイズは、 周波数
0.1Hz ∼ 1Hz の帯域において、実力値として 0.3 μ G 0 − P / Hz 以下であると推測して
います。
なお、図 2、図 3 において参考に示した加速度計のノイズスペクトルは、各加速度計の
自己ノイズをシミュレーションした結果です。この結果からも JA-29MA 加速度計の自己
ノイズは小さいため、低周波領域の微小振動をより正確に計測できると判断できます。
1.0E+00
振動スペク
トル [G O −���
Hz ]
P/
振動スペクトル�G
/�Hz�
�������[Gp/�Hz]
1.0E-01
1.0E-02
1.0E-03
加速度計が検出した
20�30Hz にピークを持つノイズ源は、
床の振動スペクトル
昭島事業所の地盤や建屋の振動である。
1.0E-04
1.0E-05
1.0E-06
1.0E-07
1.0E-08
0.1
1
10
��� [ Hz]
����JA5V
100
加速度計のノイズ
加速度計のノイズ
�������������(��)
スペクトル(推測
スペク
トル(推測値)
図 2 JA-5V 加速度計の床の振動スペクトル計測結果
1.0E+00
加速度計が検出した
振動スペクトル [ G O − P / Hz ]
振動スペクトル�G
���/�Hz�
�������[Gp/�Hz]
1.0E-01
床の振動スペクトル
1.0E-02
20�30Hz にピークを持つノイズ源は、
昭島事業所の地盤や建屋の振動である。
1.0E-03
0.6∼0.7Hz のピークは地盤の
1.0E-04
脈動の振動と推測される。
1.0E-05
1.0E-06
1.0E-07
1.0E-08
0.1
1
10
��� [ Hz]
����JA29
�������������(��)
100
加速度計のノイズ
加速度計のノイズ
スペクトル
(推測値)
スペク
トル(推測値)
図 3 JA−29MA加速度計の床の振動スペクトル計測結果
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4.2.2 最小感度
次に最小感度の評価については、 JA-29MA 加速度計を 2 台使用して同時に床の振動
を計測し、 お互いの出力信号の相関関係から判定するコヒーレンス特性を用いました。図
4 に計測結果を示します。コヒーレンス特性は、 2 台の加速度計の出力信号の相関性を
示したものであり、その値は 0 ∼ 1 の間の値となり、 このコヒーレンス値が 1 に近いほど
2 台の加速度計の出力信号は相関性があると判定します。図 4 の場合、 2 台の加速度計
で検出した床振動の特性は、 0.6Hz 以上の周波数帯域で一致しているため、 コヒーレン
ス特性は良好であるという結果が得られているのがわかります。このコヒーレンス特性か
ら見て、 検出された床の振動レベルがほぼ 0.5 μ G 0 − P / Hz 以上であると、 コヒーレ
ンス値は 0.9 以上になることから、 JA-29MA 加速度計は、 0.5 μ G 0 − P / Hz の振
動を検出できる能力を持っていると判断しました。
コヒーレンス特性
1.0E+00
1
�������0.9 ���
20�30Hz にピークを持つノイズ源は
昭島事業所の地盤や建屋の振動
0.8
�� ��� �
0.7
0.6
サンプル1 と サンプル
サンプル22 の
サンプル1
0.5
床の振動スペクトル
0.3
1.0E-04
1.0E-05
0.2
振動:0.5�G��Hz レベル
0.1
1
������
コヒーレンス
��� [ Hz]
����JA-29MA(����1)
1.0E-06
1.0E-07
100
0
0.1
1.0E-02
1.0E-03
0.6�0.7Hz のピークは
地盤の脈動の振動と推測
0.4
1.0E-01
� Hz]
�� [ [Gp
�����トル
振動スペク
GpO�−
Hz ]
-�P//
0.9
10
����JA29MA(����2)
図 4 JA−29MA加速度計コヒーレンス特性
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4.3 周波数特性
今回開発した JA-29MA 加速 度計の周波数特性を図 5 に示します。図 5 より、 JA29MA 加速度計は振子構造の変更により、 航空電子製 JA-5V 加速度計に比べ高次の共
振周波数を目標とする周波数帯域 (DC ∼ 300Hz) よりも充分高い周波数 ( 約 800Hz)
へ移動することができ、共振点を持たないフラットな周波数特性を実現できました。
10
180
0
-3
-10
135
90
検出周波数帯域
-20
45
-30
0
-40
-45
-50
-90
-60
-135
-70
��[deg]
���[dB]
共振点を持たないフラットな特性
-180
0.1
1
10
100
1000
10000
���[Hz]
�������
ゲインデータ
�����
図 5 JA−29MA加速度計の周波数特性
5 むすび
本加速度計は試作評価フェーズのため、 ノイズ特性評価を中心とした基本的な性能評価
を重点に行ってきました。今後は更なる性能改善を進め、 より利用範囲の広いサーボ加速
度計として、お客様のニーズに応えてゆきたいと考えております。
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