超高速1個取りプレス金型開発

技術紹介 15 超高速 1 個取りプレス金型開発
技術紹介
15 超高速 1 個取りプレス金型開発
Development of Ultra-high Speed Single-cavity Stamping Die
渡部
寛
Hiroshi Watanabe
芦野 美喜男 Mikio Ashino
山形航空電子 技術部
山形航空電子 製造 1 部 副班長
堀米 真人
Masato Horigome
山形航空電子 製造 1 部
山本 啓介
Keisuke Yamamoto
コネクタ事業部 生産技術 2 部 主任
峯
Daisuke Mine
コネクタ事業部 生産技術 2 部
大典
キーワード: コネクタ、高速化、プレス加工、コストダウン、品質向上
Keywords : connector, speed-up, stamping process, cost down, quality improvement
要 旨
SUMMARY
コネクタの構成要素であるコンタクトは、これまで
生 産数 量確保やコスト抑制という観点から、多数個
取りプレス金型が主流でした。しかしながら、寸法の
C o n t a c t s , p a r t o f c o n n e c t o r, a r e g e n e r a l l y
manufactured by multi-cavity stamping die in
terms of securing of production quantity and cost
saving. In that case, however, it is very difficult to
keep dimension stably, causing the problem of the
dimensional fluctuation as shown in Figure 1.
As a corrective action to solve the problem, we
devised single-cavity stamping die. But this raises
another problem of cost increase due to decrease of
production quantity. To overcome this problem, we are
trying to speed up stamping. This effort is contributing
greatly to not only quality of contacts, but also cost
reduction, improvement of yield ratio of assembly, and
assembled connectors' quality.
安定維持が非常に難しく、どうしても ( 図 1) のような
寸法分布になってしまう問題点がありました。
上記問題点を解決する方策として、1 個取り金型が
クローズアップされたわけですが、取り数ダウンによ
るコストアップという弊害も出て来ます。これらを解
決する手段としてプレス加工の高速化を推進して参り
ました。本開発は、コンタクトの品質はもちろん、コ
ストダウン、組立歩留まり向上、コネクタ品質向上に
大きく貢献しています。
図 1 寸法分布図
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1 まえがき
近年、コネクタの小型化、高精度化を受けて、コンタクトには厳しい精度が要求され
ます。ハウジングであるプラスチック成形品との相性問題も考慮すると、コンタクト寸法
は公差幅で 20 μ m 以下、コンタクト間の寸法差で 10 μ m 以下の要求が常識化してい
ます。これらの要求を満足させるため、1 個取り金型に着目し、かつ、生産数量確保と
コスト低減を視野に入れ、プレス加工の高速化に取り組みました。これまでの高速加工と
区別するために、実現できましたスピード 1500spm 以上を、航空電子では超高速と定
義いたします。
表 1 加工区分
呼 称
加工スピード
適 用
中速プレス
∼ 1000spm
抜き曲げ一般
高速プレス
1000spm ∼ 1500spm
抜き曲げ一般
◎ 超高速プレス
1500spm ∼
超高速曲げタイプ
◎ 超高速プレス
2000spm ∼
超高速抜きタイプ
2 金型の特徴
2.1 金型の小型化、軽量化
これまで、多数個取り対応していた金型は、長手サイズ 400mm 前後とやや大きめで
した。取り数を 1 個取りにすることにより、金型サイズは約 50% 小型化に成功しました。
また、超高速プレス機搭載における金型重量には、制限がありますので軽量化が必須とな
ります。そこで、上下に往復運動する上型を軽量化するため、高強度アルミダイセットを
採用しました。
(図 2)
2.2 金型の高精度化
小型化の成 功によって、従 来、
金 型精度 維持には必要であった
�����������
アウターガイドが不要になりまし
た。 代 わって、 イン ナ ーガ イド
方 式を見直し、より精 度 維 持に
有利なボールタイプを採用しまし
た。
(図 2)
また、金型内の荷重バランス
が最適になるように、各部品の
����������
配置を慎重に行っています。
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図 2 金型の小型化、軽量化、高精度化
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2.3 金型部品の高寿命化
金型の部品の中で過酷な状況にあるのが、コンタクト材料に対して加工を行う部分、い
わゆるパンチとダイスです。
しかしながら、これらは超微粒子材の進歩と我々ユーザーの適
正な選択により、寿命をある程度延ばすことが可能となって
います。一方、金型内に配置されているバネも、1 秒間に 30
回前後の圧縮収縮を繰り返すという状況にさらされています。
このバネは、大きさや荷重、たわみ量などを考慮して選択し
たものですが、コイルバネの寿命はメーカー保証約 100 万回
であり、そのままの使用では量産に耐えられません。(写真 1)
本開発型では、コイルバネをガイドするなど、ノウハウを
駆使して、1000 万回寿命を実現しています。
2.4 金型の高寿命化
写真 1 コイルバネ破損の例
本開発型は 1 個取りのため、多数個取りと比較した場合、設備償却の面から見て金型
の寿命を延ばす必要が出てきます。少なくとも寿命を 2 倍以上にし、1 個取りでも不利
にならない金型が望まれます。一般的に、金型の寿命を左右しているのは、各プレートの
初期精度と経年によって悪化した精度とのギャップと言えますので、本開発型では、超
高速における耐衝撃性、耐摩耗性を考慮して、主要プレートに焼入れ処理を行い、高寿命
化を図っています。以上のような取り組みにより、従来の金型寿命 1 億ショットに対し、
本開発型では約 2 億 ∼ 5 億の高寿命化が図れました。
2.5 金型の再現性向上
1 個取りによる効果として、金型の量産貢献 L/T が格段に短いことがあげられます。
多数個取りの場合、多大な工数を費やして、パンチ、ダイスの最適設定を導き出していま
した。1 つのパンチが、2 つ以上のコンタクト生成に寄与するわけですから、多数個の
コンタクトを最適状態で維持することは、かなり無理があります。一方で、1 個取りは 1
つのインプットに対して 1 つのアウトプットですから、1 度決めた最適設定はそれ以降、
容易に再現できます。
2.6 金型設備費用の削減
多数個取りから 1 個取りにシフトすることによって、金型部品点数が削減され、また
小型化の効果もあり、金型設備費を抑えることができました。もちろん、金型製作 L/T
の短縮も金型設備費用抑制に貢献しています。
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3 成果
超高速 1 個取りプレス金型の開発による大きな成果として、組立歩留まりの改善もあ
げられます。一定の、
かつ安定した品質のコンタクトを供給することによって、プラスチッ
ク成形品との相性問題も軽減され、コネクタの品質も高いレベルで維持できるようになり
ました。
ここで、従来の多数個取り金型との比較を表にいたします。
表 2 多数個取り金型に対する超高速 1 個取り比較表
比較項目
評価対象
成果
1
回転数
spm
2.5 倍
2
加工費
コンタクト単価
30% 削減
3
金型設備費用
4
金型製作 L / T
製作日数
30% 削減
5
金型段取り性
金型移動から良品出しまでの工数
1 /4
6
再現性
通常メンテナンス工数
40% 削減
7
メンテサイクル
1 研磨あたりのショット数
25% アップ
8
稼働率
9
金型寿命
トータルショット数
2∼5倍
10
生産能力
7Days 24h における能力
50% アップ
11
組立歩留まり
組立における良品率
1% 改善
30% 削減
15% アップ
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4 超高速 1 個取りプレスの展開状況
4.1 超高速 1 個取りプレス金型適用状況
パソコン、オーディオビジュアル、
デジタル家電、携帯電話、自動車用、
産業用など全てのジャンルに対応する
新規プレス金型に対し、20% 以上の
適用率で展開しています。
4.2 超高速プレスコンタクトの例
右の写真は、超高速生産しているコ
ンタクトの一例です。主に、FPC 用
コネクタのコンタクトが実績として多
くあげられます。
写真 2 超高速プレスコンタクトの例
4.3 超高速プレス生産ライン
現在、グループ全体で超高速プレスを推進しておりますが、金型設計、製作、生産に
おいて最も先行かつ整備されているのが山形航空電子です。超高速プレス機保有は 6 台、
24 時間稼働しています。
写真 3 超高速 1 個取りプレス金型生産
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写真 4 超高速プレス生産ライン(山形航空電子)
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5 むすび
ここで紹介いたしました超高速 1 個取りプレス金型は、初め FPC コネクタ用のコンタ
クト用として開発されました。いわゆる、打ち抜きのみで完成する形態のコンタクトです。
一方、曲げタイプのコンタクトは金型サイズが大きい傾向にあり、高速化に限界がありま
した。しかしながら、昨今の小型・狭ピッチ化するコネクタに合わせて、曲げタイプのコ
ンタクトも小型化する傾向であり、かつ 1 個取り化も追い風となるなか、実際に曲げタ
イプの超高速 1 個取り金型が、数型実現しております。
現在、超高速プレス金型における課題としては、さらなる高速化、金型設備費のコスト
ダウン、極小ピッチコンタクトの超高速化があげられます。これらの課題に対する取り組
みは、グループ全体で協業しながら平行して開発を進めており、少しずつ実現に近づいて
います。これからも、超高速 1 個取りプレス金型の適用拡大を図り、お客様に満足して
いただけるコネクタづくりに貢献するよう、技術開発を進めてまいります。
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