GE-PON OLT/ONU 一芯光トランシーバの開発 田中 貴之 井上 美奈子 一方,PONシステムは,数年前からFTTxに適用されて 近年,インターネットの普及とともに,通信システム の高速化・経済性の追求が重要な課題となっており,装 きた低価格光加入者用アクセス方式の一つであり,図1に 置のインタフェースとなる光送受信モジュールの大容量 示すように局側装置(OLT)と光加入者側端末(ONU) 化・低価格化の達成が急務である。加入者系高速サービ を光ファイバと光カプラで接続された1対Nの伝送を基本 スとして,大容量のデータを伝送できるギガビットのPON としている。これにより局側装置と光ファイバを全加入 (Passive Optical Network)が注目されており,今回 者でシェアし,全体的なインフラコストを抑えることが できる。PON方式で代表的なものは標準化団体「FSAN GigaEther-PON(以下GE-PON)用OLT/ONUの光伝 (Full Service Access Network) 」が規格化したもので 送モジュールを開発したので報告する。 ある2)。そのPON技術にEthernet技術を採用することで, システム概要 数多くの機器との接続親和性を向上させ,さらにギガ マルチメディアへの関心が高まる中,加入者系および ビット級の伝送容量を配することで,全加入者をシェア 基幹系通信ネットワークの高速広帯域化が求められてお しても十分な帯域を保証できるメリットがある。このPON り,光ファイバを伝送路とするシステムの需要が増大し の物理層として1Gbit/s Ethernet伝送技術を活用するこ ている。装置のインタフェースとなる光送受信モジュール とが,IEEE802.3ahで検討されている3)。 は,光通信システムのキーデバイスであり,その要求は 今回,このような市場の動向を受け,かつバースト送 高い。 受信技術をギガビットという高速化まで適用し,世界に 当社では,加入者系光伝送システムとして早くからPON 先駆けGE-PON用OLT/ONU光伝送モジュールを開発 用光伝送モジュールの開発に取り組んでおり,ATM-PON した。本稿ではそれらOLT/ONU光伝送モジュールの概 (以下APON)用OLT/ONU光伝送モジュール1)は各方面 要・特性について述べる。 から高い評価を得てきた。 1 Down:連続信号 1 11 2 22 33 44 局 -- NN 2 加入者 11 N N 22 33 -- メトロ/アクセス メトロ/アクセス N N Up:バースト信号 Up:バー 局 局 PONアクセス PONアクセス 加入者 加入者 図1 100 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 GE-ONU光伝送モジュールの主要緒元 ネットワーク特集 ● 表1 GE-ONU光伝送モジュールの主要緒元 伝送速度 種別 伝送距離[km] 発光素子 1.2500Gbit/s ONU-AF 10 ONU-AD 20 ONU-BF 10 ONU-BD 20 FP DFB FP DFB 平均送信電力[dBm] −3.0∼+1.0 −3.0∼+1.0 ±0.0∼+4.0 ±0.0∼+4.0 1280 ∼ 1350 発光波長[nm] Burst信号 送信モード 最大受光電力[dBm] −2.0 最小受光電力[dBm] −24.0 1480 ∼ 1580 受光波長[nm] 受信モード 連続信号 0 ∼70 周囲温度[℃] 写真1 GE-ONU光伝送モジュール(上) 電源電圧 +3.3V±5% 外形寸法 60×40×11mm GE-OLT光伝送モジュール(下) PD LD DATA IN LD Driver BIAS IN SHUT IN 1310nm Temp. Compensation TF 1490nm OPT I/O 1310/1490nm WDM ALM PD DATA OUT Limiter LOS Pre-amp 図2 GE-ONU光伝送モジュールのブロック図 ONU光伝送モジュールのブロック図を図2に示す。送信 ONU光伝送モジュールの概要 部は,LD(Laser Diode)とバースト送信用LD駆動回路 ONU光伝送モジュールは,光加入者端末に設置される IC,LD電流制御回路ICで構成している。通常のLD駆動で 光伝送モジュールであり,PON方式では,他のONUと衝 はフィードバッグ制御のため光バースト信号の先頭部が 突しないようにバースト送信が要求される。当社では 突出し,不安定となる性質がある。このため,バースト APON用ONU光伝送モジュールで培ったバースト送信技 送信用LD駆動回路ICは,バースト信号の1ビット目から 4) 術 を1.25Gbit/sまで高速化に適用させ,GEPON-ONU 立ち上げるため,プリバイアス駆動回路内蔵のフィード 光伝送モジュールを開発した。写真1にその外観を示す。 フォワード型LD駆動方式を採用している。またLDの発光 開発したGEPON-ONU光伝送モジュールは,その用途 を強制的にシャットダウンするSHUTDOWN機能,LDの によって種別を設けている。各伝送距離とPONネット 発光状態が劣化したときに発生するTF(Transmission ワークの最大損失量を考慮に入れ,適用領域を検討した。 Failure)警報発出回路,そして電源電圧がある一定値以 表1にその主要緒元を示す。 下に下がると同様にLDの発出をシャットダウンする電源 光ファイバの波長分散ペナルティにより10km伝送に関 しては,FP(Fabry-Perot)-LDを,20km伝送に関して は,DFB(Distributed FeedBack)-LDを採用した。 監視機能も有している。 受信部は前置増幅器内蔵PIN-PDアンプ,識別ICで構成 しており,LOS(Loss of Signal)警報発出機能を有し 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 101 最適化により対処している。 ている。 光部品はBIDI(Bi-directional)モジュールを採用し, OLT光伝送モジュールの概要 LD,PD一体型の一芯双方向伝送を実現した。送受の光ア イソレーションは,WDMフィルタにより,30dB以上を OLT光伝送モジュールは,局側装置に設置される光モ ジュールであり,各ONU光伝送モジュールから送出され 確保している。 た各々光レベルの異なるバースト光信号を受信すること ONU光伝送モジュールの特性 図3にONU光伝送モジュールのベッセル-トムソンフィ が要求される。APON-OLT光伝送モジュールで培った バースト受信技術5)を1.25Gbit/sまで高速化に適用し, ルタ通過後の光送信波形を示す。消光比は14dBであり, IEEE802.3ahのアイマスク規定を十分満たす良好な波形 10-4 が得られている。 25deg. 25deg. 0deg. 0deg. 70deg. 70deg. 5 図4に光出力のバースト信号を示す。バースト信号の 1ビット目から光信号が立ち上がる良好な結果が得られて 2 いる。 10-5 図5にONU光伝送モジュールの符号誤り率特性を示す。 主要緒元に示す最小受光電力規格値(1×10 以下)に対 して,十分にマージンのある良好な特性を得ている。ま た送受同時動作時におけるクロストークは,実装構造の 5 Bit Error Rate -12 2 10-6 5 2 10-7 5 2 10-8 5 2 10-9 5 2 10-10 5 2 10-11 5 2 105-12 2 10-13 −30 100ps/div 図3 GE-ONU光出力波形 −29 −28 −27 −26 −25 Received Power[dBm] 図5 GE-ONU符号誤り率特性 2ns/div PON(Passive Optical Network) 光ファイバの途中に光カプラを設けて伝送路を2∼ 32本に分岐させたスター型ネットワーク。 ATM(Asynchronous Transfer Mode) 音声やコンピュータのデータなど,全てのデータを 53バイトの小さなセルに分割して送るデータ通信方 式。 BIDI(Bi-directional)モジュール 上り下りで異なる波長帯を内蔵のWDM(波長多重) フィルタで分波する一芯双方向光部品モジュール。 図4 GE-ONUバースト光出力 102 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 ネットワーク特集 ● ギガ帯バースト受信を実現させた。写真1(p.101)に外観 バースト受信用ATC(Automatic Threshold Control) を示す。 回路IC,APDバイアス電源回路で構成されている。バース OLT光伝送モジュールはPONネットワークの最大損失 ト受信用ATC回路ICは,フィードフォワード型自動識別回 量によってA-type,B-typeで種別化した。なお最大伝送 路を採用しており,各バースト間に規定のリセット信号を 距離は,ともに20kmを許容している。表2にその主要緒 入力することにより,高速に,かつ正確にバースト信号の 元を示す。A-type,B-typeは,各々ONUのAx,Bxに対 閾値レベルを検出し,信号再生を可能としている。 光部品はONU同様,BIDIモジュールを採用しており, 向することにより,ネットワークの最大損失量をカバー 送受の光アイソレーションは,WDMフィルタにより, するよう,光レベルを設定している。 OLTモジュールのブロック図を図6に示す。送信部は, 30dB以上を確保している。 LDとLD駆動回路ICで構成しており,LD駆動回路ICは OLT光伝送モジュールの特性 APC( Automatic Power Control) 回 路 , TD (Transmission Degrade)警報発出機能,およびTF警 図7にOLT光伝送モジュールのベッセル-トムソンフィ 報発出機能を内蔵している。また,LDの発光を強制的に ルタ通過後の光送信波形を示す。消光比は11Bであり, シャットダウンするSHUT機能も有している。 IEEE802.3ahのアイマスク規定を十分満たす良好な波形 受信部は,バースト受信用前置増幅器内蔵APDアンプ, が得られている。 PD LD DATA IN LD Driver SHUT IN 1490nm TD APC OPT I/O 1310nm/1490nm WDM 1310nm TF APD RESET IN DATA OUT ATC Pre-amp 図6 GE-OLT光伝送モジュールのブロック図 表2 GE-OLT光伝送モジュールの主要緒元 伝送速度 種別 伝送距離[km] 発光素子 平均送信電力[dBm] 1.2500Gbit/s OLT-A OLT-B 20 20 DFB DFB −3.0∼+1.0 +2.0∼+6.0 1480 ∼ 1500 発光波長[nm] 送信モード 連続信号 最大受光電力[dBm] −14.0 最小受光電力[dBm] −24.0 −16.0 −26.0 受光波長[nm] 1260 ∼ 1360 受信モード バースト信号 周囲温度[℃] 100ps/div 0 ∼ 70 電源電圧 +3.3V±5% 外形寸法 70×50×9.5mm 図7 GE-OLT光出力波形 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 103 10 -4 25deg. 25 0deg. 0deg. 70deg. 5 2 -16dBm Bit Error Rate 10 -5 5 -26dBm 2 10 -6 5 2 10 -7 10 10ns/div 5 2 10 -8 図9 GE-OLT入力光バースト信号 5 2 10 -9 5 2 10 -10 5 2 10 -11 5 2 10 -12 5 2 10 -13 −30 −29 −28 −27 −26 −25 Received Power[dBm] 図8 GE-OLT符号誤り率特性 図8にOLT光伝送モジュールの符号誤り率特性を示す。 10ns/div 10 主要緒元に示す最小受光感度(B-type,1×10-12以下) に対して十分にマージンのある良好な特性を得ている。ま た送受同時動作時におけるクロストークは,ONUと同様, 図10 GE-OLT出力電気バースト信号 実装構造の最適化により対処している。 図9にバースト光入力信号,図10にそれらを再生した に対し,本稿で述べたGE-PON用OLT/ONU光伝送モ OLT光伝送モジュールの電気出力信号を示す。プリアン ジュールのスペック(表1-p.101,表2)は,残念ながら ブルは30bitsで,バースト光信号を電気信号へ再生可能 OLT受光ダイナミックレンジ(OLT最小受光電力とOLT である。 最大受光電力)に関して未達で,現状では当社独自スペッ クとなっている。 課題と今後の展開 IEEE802.3ah 1000Base-PX20(D2.0)完全準拠を 表3にIEEE802.3ah 1000Base-PX20(D2.0)の代表 目指し,以下のようにOLT受光ダイナミックレンジ改善 的な光インタフェース要求スペックを示す。このスペック を行っている。従来のOLTに用いた前置増幅器では,APD (Avalanche Photo Diode)デバイスから流れる大電 表3 IEEE802.3ah 1000Base-PX20 1.2500Gbit/s 1000Base-PX20-D 1000Base-PX20-U (OLT) (ONU) 伝送距離[km] 20 20 平均送信電力[dBm] −1.0 ~ +4.0 +2.0 ~ +7.0 送信モード 連続信号 バースト信号 最大受光電力[dBm] −6.0 −3.0 最小受光電力[dBm] −27.0 −24.0 受信モード バースト信号 連続信号 伝送速度 種別 104 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 流で飽和してしまうことがわかった。そのため−6dBm入 力時のOLT光伝送モジュールの出力波形は図11のように アイパターンが潰れてしまい,受光不可能となっている。 そこでバースト用前置増幅器を新規に設計し,本課題に 対して,これらの改善を図った。その結果,図12のよう にPX20-D最大受光電力の要求スペック(−6dBm)に対 して,十分にマージンのある結果が得られた。しかし,パ ケット間レベル差による最小受光感度劣化が生じており, ネットワーク特集 ● ■参考文献 1)石崎裕司 他:アクセス系光伝送モジュールの開発,沖テクニ カルレビュー190号,Vol.69 No.2,pp.76-81,2002年4月 2)ITU-T G.983.1:BROADBAND OPTICAL ACCESS SYSTEMS BASED ON PASSIVE OPTICAL NETWORKS (PON) 3)IEEE802.3ah(D2.0):Media Access Control Parameters, Physical Layers and Management Parameters for subscriber access networks. 4)岡田浩 他:ATM-PON用156Mb/s ONU側光伝送モジュール, 電気通信学会1999年総合大会講演論文集B-10-74 5)菊池修 他:ATM-PON用156Mb/s OLT側光伝送モジュール, 電気通信学会1999年総合大会講演論文集B-10-75 200ps/div 図11 現状TIAでの−6dBm受光波形 ●筆者紹介 田中貴之:Takayuki Tanaka,株式会社シグマ・リンクス開発部 井上美奈子:Minako Inoue,株式会社シグマ・リンクス開発部 200ps/div 図12 改良版TIAでの−6dBm受光波形 その原因と対策をAPDデバイス,ATC回路の両面から追 求している。ONU光伝送モジュールに関しては, IEEE802.3ah 1000Base-PX20(D2.0)に完全に準拠 しているため,今後は低価格化を最重要課題と定め,歩 留まり改善などを目標に取り組んでいく。 あ と が き 本稿では,新規に開発した当社独自仕様のGE-PON用 OLT,ONU光伝送モジュールの概要,そして課題につい て述べた。今後はIEEEのみならず,ITU-Tという世界標 準に完全準拠させるべく,まずはバースト用ICの方式・ 回路設計を行い,さらにそれらを使用したより高速で,高 性能なバースト用光伝送モジュールの開発に取り組んで いく。 ◆◆ 沖テクニカルレビュー 2004年1月/第197号Vol.71 No.1 105