毎秒1ペタビット、50km の世界最大容量光伝送に成功

毎秒1
毎秒1ペタビット、
ペタビット、50km の世界最大容量光伝送
世界最大容量光伝送に
光伝送に成功
~光ファイバ 1 本でハイビジョン映画 約 5000 本分を 1 秒で伝送可能に~
2012 年 9 月 20 日
株式会社フジクラ(本社:東京都江東区、代表取締役社長:長浜 洋一、以下 フジク
ラ)と日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦 博夫、以
下 NTT)
、国立大学法人北海道大学(北海道札幌市、総長:佐伯 浩、以下 北大)
、デン
マーク工科大学(Denmark Lyngby、President:Anders Overgaard Bjarklev、以下 DTU)
は、12 個のコア(光の通路)を持つ光ファイバ 1 本で毎秒 1 ペタ(1000 テラ)ビット(ペ
タは 1000 兆、
テラの 1000 倍)
の超大容量データを 52.4km 伝送することに成功しました。
毎秒 1 ペタビットという数値は、2 時間のハイビジョン映画 5000 本を 1 秒間で伝送可
能な速度に相当し、
中距離の中継ビルの間隔に相当する約 50km の伝送が可能になること
を示しています。これまでの 1 本の光ファイバを用いた伝送性能として世界最高となる
ものです。
今回の成果は 9 月 16 日からオランダのアムステルダムで開催されているヨーロッパ最
大の光通信国際会議(ECOC2012)において、9 月 20 日(現地時間)にポストデッドライ
ン論文※1 として発表する予定です。
なお、本研究開発の一部は、独立行政法人情報通信研究機構(NICT)委託研究の成果
を用いています。
1.研究
1.研究の
研究の背景
総務省統計[1]によれば、近年の FTTH やスマートフォンの普及に伴うブロードバンドサ
ービスの急速な発展とともに、通信トラヒックは年率 1.2 倍(10 年で約 10 倍)のペースで
増え続けています。通信トラヒックの急増に対応する光ネットワークの大容量化は、これ
まで、光ファイバの基本構造は変えずに、光通信システム装置の大容量化を実現すること
により経済的なインフラを実現し、ブロードバンドサービスの普及を支えてきました。現
在の大容量光ネットワークの基盤となっている光ファイバは、1 本の光ファイバに 1 つのコ
ア(光信号の通路)を持つもので、毎秒 1 テラビット容量を長距離伝送する光ネットワー
クが実用化されています。しかし、トラヒックの増加率から、将来の通信トラヒックへの
長期的な対応が課題とされていました。
このような中で、DTU の 盛岡教授(元 NTT 先端技術総合研究所)は、トラヒック増加を
支え続ける長距離大容量光ネットワークの実現に向けて、1 本の光ファイバに複数のコアを
持つマルチコア光ファイバ等を含む新しい空間的な構造を持つ光ファイバを用いた空間多重
光通信技術※2 の研究開発を提唱し、以来本分野を牽引してきました[2] 。本提案は、最近
の光通信システムの大容量化に関する世界的な研究開発の潮流になりつつあります。日本
発の本提案の有効性の確認に向け、NTT、当社、北大、DTU は、産学連携により、これまで、
それぞれの持っている技術を結集し、空間多重光通信技術による実現目標領域(図
図1)を
目指して、マルチコア光ファイバ設計・製造技術やその性能を極限まで引き出すための伝
送技術の研究を進めてきました。
図1
大容量伝送技術
1本の光ファイバ
ファイバの
の伝送容量
伝送容量(P
(P
(Pbps
bps
bps)
)
空間多重光伝送技術を
空間多重光伝送技術を用いた大容量伝送技術
いた大容量伝送技術の
大容量伝送技術の提案と
提案と本成果の
本成果の位置づけ
位置づけ
10
今回の
今回の成果
10
00
10
0
10
1
1P
bs
・k
Pb
ps
・
Pb
ps
・
Pb
ps
・
km
km
空間多重
光通信技術による
光通信技術による
実現目標領域
km
m
0.1
1
10
※Pbps:
Pbps:ペタビット毎秒
ペタビット毎秒
100
伝送距離 (km)
1000
マルチコア光
マルチコア光ファイバ伝送
ファイバ伝送
(空間多重光通信技術)
空間多重光通信技術)
従来の
従来のシングルコア光
シングルコア光ファイバ
伝送
2.実験と
実験と実験結果
実験結果(
結果(図 2)
光通信システムの大容量化を実現するために、今回、コアをほぼ同心円状に配置した新
しい構造の 12 コア-マルチコア光ファイバ、および入出力デバイスを開発し、各コアに高
密度に波長多重可能なデジタルコヒーレント光伝送技術を適用しました。コアの新しい配
列により、従来課題であったコア間の光信号の漏れ(クロストーク)を低減しています。
さらに、光の波の性質(位相※3・偏波※4)を用い、多数の信号の伝送を可能とする偏波多重
32 値 QAM デジタルコヒーレント技術を用いることで、コアあたりの伝送効率を、従来のマ
ルチコア光ファイバ伝送と比較して、4 倍以上に高密度化することに成功しました。
この結果、
1 コアあたり毎秒 84.5 テラビット伝送容量(= 1 波長あたり 380 Gbps 容量 x 222
波長チャネル)を実現し、12 コアのマルチコア光ファイバ 1 本で総容量毎秒 1.01 ペタビッ
ト(=12 x 84.5 テラビット)の信号を 52.4km にわたり伝送可能であることを実証しました。
それぞれのコアにおいて通信品質を示す Q 値が非常に均一であることから、コアごとの伝
送品質のばらつきやエラーのない高品質の通信が可能であることを示しています(図
図 3)
今回の成果は、これまでの従来の光ファイバを用いた研究レベルの伝送容量記録 [3]に
比較して 10 倍以上の大容量化を実現するとともに、空間多重光通信技術による実現目標領
域においてマルチコア光ファイバを用いた伝送容量の世界記録である毎秒 305 テラビット
(テラは 1 兆)伝送(伝送距離:10km)[4]を更新し、1本の光ファイバで、毎秒 1 ペタビット
の大容量光伝送を世界で初めて実現しました。
実験構成と
実験構成と要素技術諸元・
要素技術諸元・各機関の
各機関の役割
偏波多重32QAM
デジタルコヒーレント
光送信回路
(1)NTT・
)NTT・フジクラ・
フジクラ・北大
ファンイン
222Ch
デンマーク工科大学
デンマーク工科大学(
工科大学(盛岡教授)
盛岡教授)
:空間多重の
空間多重の提唱・
提唱・拡張性
12コア
コアコア
マルチコア光
光ファイバ
マルチコア
(52.4 km)
)
光受信回路
ファンアウト
図2
光受信回路
Q成分
成分
(3)NTT
)NTT
I成分
X偏波.
光受信回路
(2)NTT・
)NTT・フジクラ
Q成分
成分
Y偏波.
マルチコアファイバ
V溝基板
I成分
細径ファイバ
実験結果
図3
11.00
伝送品質 Q-factor (dB)
10.00
core
core
core
core
core
core
core
core
core
core
core
core
9.00
8.00
7.00
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
誤り訂正しきい
訂正しきい値
しきい値
6.00
5.00
1520
1540
1560
1580
1600
1620
波長(nm)
・全チャンネル:2664ch(=12コア x 222ch/コア) にわたり誤り訂正可能なしきい値
以上の特性を確認し、1.01
1.01 Pbps 52 km伝送
km伝送に
伝送に成功。
成功
・非六方最密構造(12コア) によるコア間ばらつきの少ない均一
均一な
均一なマルチコア特性
マルチコア特性を確認。
特性
3.技術
3.技術の
技術のポイント
ポイントおよび役割分担
および役割分担
(1)12 コアコア-マルチコア光
マルチコア光ファイバ設計
ファイバ設計・
設計・製造・
製造・評価技術【
評価技術【NTT、
NTT、フジクラ、
フジクラ、北大】(
北大】(図
】(図 4)
1 本の光ファイバに複数のコアを持つマルチコア光ファイバでは、従来ファイバと同等以
上のデータの低損失特性を実現するとともに、コア間の光信号が互いにもれて交じり合う
こと(クロストーク)を十分低減することが重要となります。しかしながら、従来構造の
マルチコア光ファイバは、コア数を7以上にするとクロストークによるコアあたりの伝送
効率の劣化が課題となっていました。
今回、フジクラと北大は共同で、12 個のコアをほぼ同心円状に配列した新しい構造(非
六方細密構造)のマルチコア光ファイバを設計しました。隣接するコア数を左右 1 個ずつ
の 2 つにすることで従来構造のマルチコア光ファイバに比べてクロストークを低減するこ
とが可能となり、低損失特性との両立を可能としました。NTT がファイバ特性を評価した結
果、各コアの光信号の損失特性は、従来の光ファイバとほぼ同等であり、コア間のクロス
トークもほぼ設計値以内で低減でき、コア間の各特性が均一なマルチコア光ファイバが実
現できていることを確認しました。
図4
12コア
コア-マルチコア光
マルチコア光ファイバ
12コア-
12コア
コア マルチコア
光ファイバ
SMF
ファンアウト
SMF
SMF
ファンイン
• 非六方最密構造(
非六方最密構造(12コア
12コア)
コア)により、
により、コア間
コア間のクロストーク特性
クロストーク特性の
特性の劣化を
劣化を回避するとともに
回避するとともに、
するとともに、
良好な
良好なコア性能
コア性能(
性能(低損失・
低損失・低非線形性)
低非線形性)を両立した
両立した。
した。
SMF
SMF
SMF
SMF:
:単心ファイバ
単心ファイバ
ファイバ長 52.4 km
クロストーク -33 dB @ L帯
損失(最大値) 14.8 dB @ L帯
7コア
19コア
従来の
従来のマルチコアファイバ
(六方最密構造)
六方最密構造)
本提案の
本提案のマルチコアファイバ
(非六方最密構造)
非六方最密構造)
同心円上に
同心円上にコアを
コアを配置し
配置し隣のコア数
コア数を削減
(2)マルチコア光
マルチコア光ファイバ入出力接続技
ファイバ入出力接続技術
入出力接続技術【NTT、
NTT、フジクラ】(
フジクラ】(図
】(図 5)
通常の光送受信回路を用いて、光信号をマルチコア光ファイバの 12 個のコアに効率よく
入出力するためには、通常の光ファイバを介してマルチコア光ファイバと高効率で接続す
る入出力接続デバイス技術(ファンイン・ファンアウト:12 本の従来ファイバと 1 本の 12
コア・マルチコア光ファイバを安定な接続・変換を行う)を確立する必要があります。今
回、12 コア-マルチコア光ファイバのコアの位置にあわせ、従来の光ファイバ径に比較して
1/3 以下の細径の光ファイバを 12 本精度よく配置・実装する構造を提案し、低損失でコア
間のクロストークを低減可能なファンイン・ファンアウトデバイスを実現しました。
図5
マルチコアファイバ入出力接続技術
マルチコアファイバ入出力接続技術
•12コア
コアMCFを
を12本
本の単芯ファイバ
コア
単芯ファイバへと
ファイバへと変換
へと変換する
変換するファンイン
するファンイン/ファンアウトデバイス
ファンイン ファンアウトデバイスを
ファンアウトデバイスを試作
•高精度加工
高精度加工された
高精度加工されたV溝
された 溝への細径
への細径ファイバ
細径ファイバ充填
ファイバ充填による
充填によるコア
によるコア配置
コア配置/位置合
配置 位置合わせ
位置合わせ構造
わせ構造により
構造により
挿入損失 0.4 ~ 1.1 dB, コア間
コア間 クロストーク < - 30 dB を実現
ファンイン/ファンアウトデバイス試作品
マルチコアファイバ
V溝基板
細径ファイバ
(3)高密度多値
高密度多値 QAM デジタルコヒーレント技術
デジタルコヒーレント技術【
技術【NTT】
NTT】(図 6)
従来の光通信では光 ON/OFF の 2 つの強度の状態を使って伝送する方式が一般的です。本
提案では、スマートフォンでも一部適用されているデジタル信号処理を光通信に応用・発
展させ、光の波の性質(位相・偏波)を用いて多数の信号状態を作ります。今回、デジタ
ル信号の 1 と 0 を、この複数の信号状態に対応させて光信号を高効率に伝送する偏波多重
多値 QAM(Quadrature Amplitude Modulation)デジタルコヒーレント技術※5 を用い、新たに
マルチコア光ファイバ伝送に応用することで、マルチコア光ファイバのクロストークがあ
る程度あっても安定な伝送を実現し、1 波長あたりの伝送効率を従来の ON/OFF 変調技術に
比較して、約 10 倍以上向上可能な大容量光伝送技術を実現しました。
デジタルコヒーレント光送信回路
偏波多重32QAMデジタルコヒーレント
デジタルコヒーレント光送信回路
図6 偏波多重32QAM
コア間
コア間クロストーククロストーク-30dBにおいて
30dBにおいて全波長範囲
において全波長範囲(
全波長範囲(11THz)で
11THz)で周波数利用効率 7.6 bps/Hz
を実現
⇒380Gbps偏波多重
380Gbps偏波多重32QAM
偏波多重32QAMデジタルコヒーレントマルチキャリア
32QAMデジタルコヒーレントマルチキャリア変調
デジタルコヒーレントマルチキャリア変調を
変調を適用
偏波多重I/Q
偏波多重I/Q変調
I/Q変調モジュール
変調モジュール
X偏波.
偏波多重32QAM信号
信号
偏波多重
偏波
合成
Y偏波.
Y偏波
偏波
-10
Power (10dB/div)
デジタル
主信号
DA変換+デジタル信号処理
X偏波
偏波
信
号
LD
-20
50GHz帯域
-30
-40
-50
X偏波
偏波
信
号
LD
-60
偏波
合成
Y偏波
偏波
Wavelength (0.1nm/div)
偏波多重32QAMを
を用いた
偏波多重
8キャリア多重信号
キャリア多重信号
4.今後の
今後の展開
今回の実験を通じて、光ファイバ自体の伝送性能を、現在実用化されている商用技術の
1000 倍以上に飛躍的に向上させる革新的な光通信システム実現のキーとなる要素技術を開
発しました。光ファイバの空間的な構造の自由度を駆使する本技術を発展させ、光増幅技
術等との連携より、さらなる長距離化の実現を目指すとともに、本技術により、今後のブ
ロードバンドサービスの発展を支え続ける将来の長距離大容量光ネットワークの実現に貢
献していきます。
[1] http://www.soumu.go.jp/main_content/000149220.pdf
[2] T. Morioka, New generation optical infrastructure technologies: “EXAT
initiative” towards 2020 and beyond, 14th OptoElectronics and Communications
Conference, OECC 2009 FT4 (2009).
[3] A. Sano et al, 102.3-Tb/s (224 x 548-Gb/s) C- and Extended L-band
All-Raman Transmission over 240 km Using PDM-64QAM
Single Carrier FDM with Digital Pilot Tone, OFC.NFOEC2012, PDP5C.3 (2012).
[4] J. Sakaguchi, et al, 19-core fiber transmission of 19 x 100 x 172Gb/s
SDM-WDM-PDM-QPSK signals at 305 Tb/s, OFC.NFOEC2012, PDP5C.1 (2012).
【用語解説】
※1 ポストデッドライン論文
一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文で、本分野の研
究機関が会議直前の最新技術によって光通信技術の最高性能を競い合います。会議期間内
で論文選考が行われ、高く評価された研究成果のみが報告されます。
※2 空間多重光通信技術
光ファイバの空間的な自由度を活用したマルチコア光ファイバ、等の新しい構造を持つ
光ファイバの特性を極限まで引出し、コアが一つしかない従来の光ファイバを用いた大容
量光伝送と同等以上の光伝送効率を実現するための大容量光通信基盤技術の総称を意味し
ます。
※3 位相
光は電波と同じように波としての性質を持っています。この波の振動するタイミングを
位相と呼びます。波は周期的に振動していますので、位相は 0~360 度までの自由度を持っ
ています。この自由度を使って、異なる位相(たとえば 0 度と 180 度)にデジタルデータ
の 1,0 を対応させ受信側でその位相の差を検出することで従来の光の ON/OFF のみを使う方
式に比べて高感度受信による長距離化や、高効率な通信による大容量化が可能となります。
このような通信方式を位相変調と呼びます。
※4 偏波
光は電波と同様に、2 つの独立な振動方向(X 軸と Y 軸)があります。この独立な軸のこ
とを偏波といい、3D 映画ではよくこのような性質を使って、右目と左目に異なる情報を送
って立体的映像を実現しています。従来の光通信では、受信側で 2 つの偏波の向きを安定
に検出することが困難であったため、どちらか一方の偏波成分しか利用することができま
せんでした。デジタルコヒーレント技術では、受信側で 2 つの独立な偏波方向を安定に分
けることができるため、各々の偏波に独立な情報を乗せて通信できるようになり効率的な
大容量伝送が実現できます。
※5 偏波多重 QAM デジタルコヒーレント技術
通常は強度の 2 つの状態(ON/OFF)に信号の 0,1 を対応させて送る強度変調技術が一般
的ですが、偏波多重 QAM デジタルコヒーレント技術では、2 つの強度状態(ON/OFF)の代わ
りに、光信号の持つ 2 つの独立な偏波光信号の各々に関して、光信号電界のさらに 2 つの
独立な方向(I 成分・Q 成分)を多値(複数のレベル)で変調します。I/Q 成分が異なる多
値信号(たとえば各々N 値)で変調されることで、各偏波信号の電界は異なる強度と位相の
組み合わせによる複数(NxN)の信号状態(振幅位相変調:Quadrature Amplitude
Modulation) が生成されます。この状態に、複数ビット(=log2N)のデジタル信号を対応
させることで高効率・高感度な光伝送ができます。NTT では、本技術をコアが 1 つしかない
従来の光ファイバを用いた高効率光伝送に適用し、従来構造の光ファイバでの世界最大容
量の毎秒 102 テラビット波長多重伝送を実証しています。