ご使用上の注意~バイポーラ編~ トランジスタを安全にご使用いただくために トランジスタは、スイッチあるいは増幅の動作をさせることで使用しますが、ご使用条件が適切でない場合、故障にい たる場合があります。 そこで、トランジスタを安全にお使いいただくために、ご使用条件が適切であるか検証する必要があります。 ここでは、最低限必要とされる検証について3点ご紹介します。 検証1.すべての条件が最大定格以内であるか 検証2.ASO(安全動作領域)以内であるか 検証3.接合部温度が最大定格以内であるか 3-1.DC で使用する場合 3-2.シングルパルスで使用する場合 3-3.連続パルスで使用する場合 ご使用上の注意~バイポーラ編~ 検証 1 すべての条件が最大定格以内であるか 対象部品のデータシートに記載しています最大定格をご確認下さい。 その際に、下記の注意点を参考にしながら確認をお願いします。 ・コレクタ-エミッタ間電圧が、最大定格(下記では 50V)以内であること ・コレクタ電流が、最大定格(下記では 200mA)以内であること ・コレクタ損失 VCE×IC が、最大定格(下記では 200mW)以内であること ・ベース電流 IB の定格は、通常ベース電流がコレクタ電流に比べ小さいことから、最大定格には記載されていませ んが、ご使用条件によりベース電流が大きくなる場合は、VBE×IB + VCE×IC < PC(コレクタ損失最大定格)を 満たす必要があります。(通常コレクタ電流最大定格の 1/3~1/10) 最大定格(Ta=25℃) 記号 項目 定格値 単位 VCBO コレクタ・ベース間電圧 50 V VEBO エミッタ・ベース間電圧 6 V VCEO コレクタ・エミッタ間電圧 50 V IC コレクタ電流 200 mA PC コレクタ損失 200 mW Tj 接合部温度 150 ℃ ‐55~+150 ℃ Ts tg 保存温度 検証 2 ASO(安全動作領域)以内であるか 最大定格に記載しているコレクタ損失の最大定格 PC は、直流での最大定格になりますが、パルス駆動あるいは誘 導負荷ご使用時など、瞬間的にコレクタ損失の最大定格を超える場合、下記に示す安全動作領域内でご使用に なる必要があります。 尚、品種によりデータシートに ASO(安全動作領域)の記載がない場合は、お手数ですが弊社営業担当までご要求 願います。 ご使用上の注意~バイポーラ編~ 検証 3 接合部温度が最大定格以内であるか(直流の場合) 許容損失の最大定格、ASO(安全動作領域)は、周囲温度が 25℃の場合に、接合部温度が最大定格(通常 150℃)に達する電力として定義していますので、周囲温度が 25℃以上の場合、下記に示すディレーティングカー ブにより、最大定格をディレーティングして考える必要があります。 ディレーティングカーブは、接合部温度が最大定格に達する電力ですので、下記のように考えることができます。 Tj=Ta+Rth(j-a)×Pc ※Tj:接合部温度、Ta:周囲温度、Pc:印加電力 Rth(j-a):接合部-大気間熱抵抗 右のグラフの場合 Ta=25℃で、Pcmax=200mW 時、Tjmax=150℃ となりますので、Rth(j-a)=(150-25)/200=625(℃/W) Ta=75℃の場合、許容損失 Pcmax は Pcmax=(Tjmax-Ta)/Rth(j-a)=(150-75)/625=0.12(W) となります。 Ta=75℃で、仮に印加電力 Pc=0.1(W)で使用した場合、 接合部温度 Tj=Ta+Rth(j-a)×Pc=75+625×0.1=137.5(℃) となり、接合部温度の最大定格 Tjmax=150℃以内であることから、使用条件は問題ないと判断できます。 検証 3 接合部温度が最大定格以内であるか(シングルパルスの場合) ASO(安全動作領域)も同様に、周囲温度が 25℃以上の場合、最大定格をディレーティングして考える必要があり ます。 Ta=25℃、1msec 時の許容損失最大定格は、 右図より 26V×0.2=5.2W Ta=25℃で、Pcmax=5.2W 時、Tjmax=150℃ となりますので、rth(j-a)=(150-25)/5.2=24(℃/W) Ta=75℃の場合、許容損失 Pcmax は Pcmax=(Tjmax-Ta)/Rth(j-a)=(150-75)/24=3.1(W) となります。 右図の青い線は、この Pcmax=3.1(W)で制限される 領域を図示したものになります。 Ta=75℃で、仮に印加電力 Pc=2(W)で使用した場合、 接合部温度 Tj=Ta+Rth(j-a)×Pc=75+24×2=123(℃) となり、接合部温度の最大定格 Tjmax=150℃以内であることから、使用条件は問題ないと判断できます。 ご使用上の注意~バイポーラ編~ 検証 3 接合部温度が最大定格以内であるか(連続パルスの場合) 連続パルスにおける接合部温度確認のためには、連続パルスの電流、電圧波形から、電力波形を算出し、下記式 に従って接合部温度上昇を算出します。算出された接合部温度上昇をΔTj、周囲温度を Ta とすると、Ta+ΔTj が、 Tjmax 以内であれば問題なしと判断します。 ΔTj = [ D×Rth-a + (1-D)×rth(T1+T) + rth(T1) - rth(T) ] × P ここで D:デューティ Rth-a:ジャンクション-大気間定常熱抵抗 rth(T1):パルス幅 T1 における過渡熱抵抗 rth(T):パルス幅 T における過渡熱抵抗 rth(T1+T):パルス幅 T1+T における過渡熱抵抗 P:せん頭電力 Icpeak=175mA、VCE(sat)=0.6V、周期 T=3msec、D=50%の連続パルスとします。 P=175mA×0.6V=105mW T1=1.5msec Rth-a=(Tjmax-Ta)/PT=(150-25)/0.2=625(℃/W) 下記過渡熱抵抗グラフから、 rth(1.5msec)=17.4(℃/W) rth(3msec)=26.5℃/W) rth(4.5msec)=31.5(℃/W) ΔTj = [ D×Rth-a + (1-D)×rth(T1+T) + rth(T1) - rth(T) ] × P = [0.5×625 + (1-0.5)×31.5 + 17.4 - 26.5]×0.105 = 33.5(℃) Ta+ΔTj = 25 + 33.5 = 58.5(℃) < Tjmax(150℃)となりますので、当条件については問題なしと判断できます。 最大定格は、使用できる条件の限界値をなりますので、これを超えて使用した場合、素子は劣化または破壊を起こし ます。素子の劣化または破壊を未然に防ぎ、機器の高信頼性を実現するためにも、最大定格内でのご使用をお願い します。