920MHz 帯無線マルチホップ通信を 用いた太陽光発電の遠隔制御

920MHz 帯無線マルチホップ通信を
用いた太陽光発電の遠隔制御実証実験
柳原 健太郎 西川 雅之
田辺 原裕
岡本 武志
現在、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用が
実証実験の機器構成
拡大しているが、電力の安定供給を維持するためには需
給管理が必要とされている。2010年6月に閣議決定され
青森実証実験の機器構成を 図 1 に示す。センタサー
たエネルギー基本計画においては「2020年代の可能な限
バーは系統側(電力会社側)の情報を処理するサーバー、
り早い時期に、原則全ての電源や需要家と双方向通信が
通信サーバーは通信メディア毎に用意され、メディアの
可能な世界最先端の次世代型送配電ネットワークの構築
特性に応じた通信を行うためのサーバーである。920MHz
を目指す」と述べられており、これらの諸課題に対応する
帯無線機はコンセントレータ、中継機、DCEに分類される。
ための研究開発、実証実験が行われている。
コンセントレータと中継機は電柱上に、DCEは需要家
これらの経緯、情勢を踏まえ、経済産業省資源エネル
ギー庁は次 世 代 型 双 方 向 通 信 出 力 制 御 実 証 事 業 を
1)
2011年∼2013年度にかけて実施した。
(各住宅)に設置する。DCEで受信された制御信号は通信
アダプタを経てPCSに送られる。
PCSの出力制御においては、エリア、機器の種別等の
これは太陽光発電の大量導入に備え、外部からの通信
条件を満たす全ての機器を一斉制御する場合と、個々の
信号に応じて出力をコントロールできる太陽光発電機器
機器に対して制御を行う場合が想定される。前者は同報
の開発とともに、通信と組み合わせた検証試験を実施する
通信、後者は個別通信として定義されている。
本実証における電文フォーマットはECHONET Lite2)を
ものである。
OKIは双方向通信の手段として920MHz帯無線マルチ
用いている。太陽光発電の出力制御のためのコマンドは
ホップ通信を用いて、青森県六ヶ所村で行われた実証実
定義されていないため、新規にコマンドの定義を行って
験に参加し、2012年12月から2013年11月にかけて実験を
いる。
行った。
我々の開発部分は通信サーバーからDCEまで( 図 1
本稿では、本実証実験の概要と結果を示し、実現性を示す。
実証実験の背景
太陽光発電の大量導入は電力系統の運用上、余剰電
で囲った範囲)の区間である。
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力発生による逆潮流、配電線の電圧上昇等多くの技術
的課題をもたらし、その対策が求められている。その
中で、系統安定化対策として太陽光発電の出力制御の
㻳㻦㻶㻒㻳㻹
㏳ಘ䜦䝄䝛䝃䞀
㻧㻦㻨
必要性が指摘されている。出力制御を行うためには系
統側(電力会社)と需要家(家庭等)との間の情報交
図1 実証実験における機器構成
換が必要となる。
通信手段は通信事業者による広域サービス(携帯電話、
16
コンセントレータからDCEまでの間は無線マルチホッ
WiMAX)、特小無線(900MHz帯、400MHz帯)、電力線
プ通信によって接続する。この部分に関してはOKIが開
搬送など様々な方式が考えられる。そこで本実証事業で
発したMany to One & Source Routing方式を用いている。
は各社が様々な通信メディアを用いて同じコマンドを送
動作の概要を以下に示す。詳細は文献4を参照されたい。
受信し、特性を測定することとなった。我々は920MHz
各ノードは定期的にHelloパケットを送信し、隣接
帯無線マルチホップ通信を用いた実験を担当した。実証
ノードとの接続を確認する。Helloパケットにはコン
事業全体に関しては文献3を参照されたい。
セントレータまでのパスコストが記載されており、自
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ノードに至るコストが最も小さくなる隣接ノードを親
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ノードとして選択する。
• 各ノードは上りデータを親ノードへ転送する。親
ノードへの転送に失敗した際には、他の隣接ノー
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ドから適切なノードを選択し転送を行う。
• 各ノードは定期的にコンセントレ ータに対して
RREC(Route Record)パケットを送信する。経
路上のノードはRRECパケットのアドレスリストに
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ᒇෆタ⨨䠄DCE䠅
自らのアドレスを追記してから中継を行う。
図 2 機器設置個所
• RRECパケットを受信したコンセントレータは記載
されたアドレスリストから各ノードへの経路を特定
し、下りデータを送信する際にはアドレスリストを
書き込んで送信する。
• 下りデータを受信したノードはアドレスリストから自
らのアドレスを削除する。また、アドレスリストから
転送先を読み取り転送処理を行う。
実証実験フィールド
実証実験は青森県六ヶ所村で実施し、約1km四方の
範囲に機器を設置した。台数は屋外に5台、屋内に
変調方式
伝送レート
31台である。設置箇所の地図を 図 2に示す。屋内機器
周波数チャネル
の設置箇所は大きく4つに分類され 、屋外設置機器を
外部 IF
介して全体が1つのネットワークを構成している。図中
の直 線 は 主 に 用 い ら れ た 転 送 経 路 を 示 す。 機 器 を 設
置 す る候補位置を決定するために事前測定を実施し、
無線信号の伝搬状況を確認した。
実際に近い状況で実験するため、DCEの大半は実際に
居住している家庭の協力を得て家屋内に設置した 。
実際に太陽光発電に接続している1軒、通信アダプタ
内蔵センサー
電源
環境条件
最大消費電流
外形寸法
GFSK
最大 100kbps
出力 20mW 以下
926.5 ∼ 927.7MHz
UART×1 IF-BOX 経由で
RS485,RS232C と接続
温度、湿度、照度
(本実証では使用せず)
USB 給電 5V
-20 ∼ 60℃
100mA(3.3V)以下
30×60×20mm
(アンテナ 190mm)
図 3 無線機の諸元
にのみ接続した1軒以外の家庭ではDCEに実装した疑似
PCS機能が応答信号の作成、送信を行い、通信部分の
実用性を評価した。
実験時の各無線機の通信出力は20mWである。用い
た無線機の外観及び諸元を 図 3に示す。
機器の設置状況を 図 4に示す。屋外の機器は電柱上
の高さ約6mの位置に設置した。屋内の機器は壁、カー
テンレールの上など日常生活の支障にならない場所を
選んで設置した。設置した家屋の構造は木造一戸建て
及び鉄筋コンクリート集合住宅( 図 2の社宅)である。
図 4 機器設置状況
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表3 再送回数の分布
実験結果
2012年9月に機器の設置作業を行い、試験動作を経て
2012年12月から2013年11月まで実証実験を行った。
1年以上の連続動作実験であったが、屋外に設置した
機器を含めて機器の動作異常は見られなかった。
センタサーバーは実用時を想定したスケジュールに
従って制御信号を送信する。通信サーバーはセンタサー
バーからの電文を蓄積し、必要に応じて変換・再送など
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
なし
93.14%
95.88%
92.93%
83.38%
90.49%
91.86%
85.89%
94.61%
96.98%
1回
5.61%
3.33%
4.95%
8.92%
6.83%
5.75%
8.59%
4.46%
2.53%
2回
0.64%
0.67%
1.24%
3.94%
1.55%
1.28%
2.47%
0.61%
0.37%
3回
0.00%
0.04%
0.40%
1.53%
0.47%
0.59%
1.26%
0.13%
0.09%
4回
0.00%
0.04%
0.29%
0.78%
0.14%
0.31%
0.76%
0.04%
0.01%
失敗
0.61%
0.04%
0.20%
1.45%
0.52%
0.22%
1.04%
0.14%
0.02%
を行い、DCEへ電文を届ける。DCEからの応答信号が
センタサーバーに到達することによって通信正否が判定
される。さらに各機器は定期的に信号を送信し、周辺
表 1、2から建物の構造や天候と通信成功率との相関
は見られなかった。
の通信可能な機器間の通信状況を測定している。以下
実験初期の通信成功率が比較的低いのは、通信失敗
に示すのはセンタサーバーが送信したコマンドに対する
時の再送機能を2月末に追加したためである。これは、
結果である。
DCEからの応答がない場合に通信サーバーからの送信を
繰り返すものである。本実証実験では4分間隔で最大5
設置場所別の通信成功率を 表 1に、天候別の通信成
功率を 表 2に示す。これらの成功率は後述するセンタ
3月以降の再送回数の分布を 表 3に示す。再送を許容
サーバーによる再送も含めた最終的な成功率を示して
することで通信失敗を大幅に削減することが可能とな
いる。実証実験期間中には機能追加、動作パラメータの
る。本実験のような機器間の通信では移動はないが、
変更などの調整を行っているため全期間を通して同じ
周辺環境の変化によって通信品質が変動する。通信品
条件での実験とはなっていない。
質が変動している様子を 図 5に示す。 表 3の結果から
数分∼数十分の遅延を許容することで、通信品質の悪
表1 箇所別通信成功率
社宅
村営住宅
93.9%
99.6%
96.2%
99.2%
96.4%
99.2%
98.8%
100.0%
99.9%
100.0%
100.0%
100.0%
99.4%
99.7%
100.0%
99.8%
100.0%
99.7%
99.6%
99.8%
100.0%
99.8%
100.0%
100.0%
団地
96.9%
96.4%
97.5%
99.7%
100.0%
99.3%
96.1%
99.0%
99.5%
97.4%
99.7%
100.0%
全体
96.2%
97.0%
97.4%
99.4%
100.0%
99.8%
98.5%
99.7%
99.8%
99.0%
99.9%
100.0%
12 月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
曇
96.7%
97.7%
97.0%
99.1%
100.0%
99.9%
98.7%
99.8%
99.7%
99.0%
99.6%
100.0%
雨
97.1%
100.0%
100.0%
99.3%
98.1%
99.6%
99.7%
97.1%
99.9%
100.0%
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雪
95.5%
96.2%
97.6%
100.0%
100.0%
12:00
-78
15:00
᫬้
18:00
21:00
-80
ཷ
ಙ
㟁
⏺
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ᗘ
-82
-84
-86
-88
-90
d -92
B
-94
m
-96
)
表2 天候別通信成功率
晴
93.0%
96.8%
98.3%
99.8%
99.9%
99.7%
98.6%
99.4%
99.8%
99.5%
100.0%
100.0%
化に対処できることを示している。
(
戸建住宅
12 月
99.3%
1月
98.3%
2月
98.5%
3月
100.0%
4月
100.0%
5月
99.7%
6月
99.2%
7月
99.4%
8月
100.0%
9月
98.5%
10 月
100.0%
11 月
100.0%
18
回の送信を行っている。
全体
96.2%
97.1%
97.5%
99.4%
100.0%
99.8%
98.6%
99.6%
99.8%
99.0%
99.8%
100.0%
図5 リンク変動の一例
また、 表 3において失敗と表記した通信の一部はセ
ンタサーバーによる再送(初回の3時間後)によって到
達している。センタサーバーが再送を行った通信の最終
的な通信成功率は100%、センタサーバーが再送を実施
した回数は2664回中10回(0.37%)であった。このこ
とからも許容遅延を大きくすることにより、無線通信
を用 いて も 信 頼 性 を 確 保 し た 通 信 を 行 う こ と は 十 分
に可能であると考えられる。
前 述 し た 周 辺 の 機 器 との 通 信 状 況 を 分 析 し た 結 果 、
各機器とも複数の通信経路が確保されており、ノード
の電源断などの障害が発生した場合にも他の経路を
1)経済産業省資源エネルギー庁, 次世代型双方向通信
用いることで通信を維持した。実際に実験中には通信
出力制御実証事業費補助金公募要領 (2011-6).
経路が変化しており、通信環境の変化に応じて適切な
2)エコーネットコンソーシアム, ECHONET Lite 規格
経路を選択することによって、より信頼性の高い通信
書 Ver1.01(日本語版) (2012-5).
を実現している。
3)片岸誠: 「次世代型双方向通信出力制御実証事業、青
木造住宅が並んでいる箇所に関しては全ての家では
森実証フィールドの進
」信学技報, IN2013-66, pp.
なく、1軒おきに設置を依頼した。実験の結果、間に
37-42,(2013-9).
1軒挟んだ家屋との直接通信はほぼ問題なく行われた。
4)野崎正典, 西村弘志, 久保祐樹, 柳原健太郎, 福永茂:
さらに多くの家屋を挟んでの通信が可能な箇所も多く
「950MHz帯における大規模・高信頼ルーティング方式の
あり、無線マルチホップ通信を用いたPCS制御の実現
開発と評価」, 信学技報, USN2010-24, pp.15-20(2010-
性は高いと考えられる。
10).
また、機器の設置及び撤去作業時を利用して機器の
追加及び減少時にネットワークが自動的に再構成され
ることを確認した。これらの結果から周辺の環境変化
や 無 線 端 末 の 増 減 に 対 して も 柔 軟 に 対 応 する ネッ ト
柳原健太郎:Kentaro Yanagihara. 研究開発センタ ワークの構築を確認することができた。
スマート社会ビジネスイノベーション推進部
西川雅之:Masayuki Nishikawa. 研究開発センタ スマート社会ビジネスイノベーション推進部
あとがき
田辺原裕:Motohiro Tanabe. 通信システム事業本部 本稿では、各家庭に設置された太陽光発電を制御す
スマートコミュニケーション事業部 ソフトウェア開発部
る双方向通信として920MHz帯無線マルチホップ通信
岡本武志:Takeshi Okamoto. 社会システム事業本部 を用いた実証実験の概要と結果について述べた。実験
交通・防災システム事業部 システム第三部
の結果、太陽光発電が多くの家庭に普及している状態
であれば無線マルチホップ通信を太陽光発電の出力制
御に用いることは十分に可能であると考えられる。
本方式が真価を発揮するためには、各無線機が周辺
の複数の無線機と通信可能となっている必要があり、
無線機の密度が一定以上求められる。今後は出力制御
単独のネットワークだけではなく、現在構築が進めら
DCE(Data Circuit terminating Equipment)
回線終端装置。
れているスマートメータのネットワークとの共用など
を含めて検討する必要があると思われる。
PCS(Power Conditioning System)
太陽光パネルで発電した直流電流を交流電流に変換
する他、太陽光発電の出力を調整する機器。
謝辞
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁補助事業
「次世代型双方向通信出力制御実証事業」の一部として
実施された。また、実証実験は青森県、六ヶ所村の協力、
支援の下実施した。関係者に感謝の意を表す。 ◆◆
O K I テクニカルレビュー
2014 年 10 月/第 224 号 Vol.81 No.2
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