貫通電極を用いたチップ積層技術の開発

貫通電極を用いたチップ積層技術の開発
加藤 理
LSIシステムの高密度化,高機能化のためにこれまでさ
Via First法は,Poly-Siが金属より高抵抗であることとそ
まざまな実装技術が開発されてきた。しかし,LSIチップ
の充填時間は非常に長いという課題があるが,DRAMの
を並べて配置する2次元実装では限界に達しつつあるため,
プロセスに最も適合しやすい。以上のことから,プロセス
これを3次元に積層実装する技術が必須になっている。3次
はVia First法を選択することにして,課題である貫通電
元実装技術として,半導体基板を貫通して形成する貫通
極技術の開発とその電気抵抗の確認および積層技術の開
電極(Through Silicon Via:TSV)があり,チップ間
発を行った。
を最短距離で接続できることで高機能,高速動作のLSIシ
ステムの実現が可能である1)2)3)4)。
このような背景のもと,エルピーダメモリ
エレクトロニクス
*1)
,NEC
*2)
,OKIの3社は,高速かつ大容量で
Conventional
Single Layer DRAM
Chip Stack DRAM With
Through Silicon Via(TSV)
Internal
Bus
DRAM
Core
小型化を同時に実現する積層DRAM(Dynamic
発している5)6)7)。メモリの積層化は,携帯電話などに搭
載するモジュールを劇的に縮小することが可能であり,他
4Gbit Density
Peripherals
Random Access Memory)を2004年より共同で開
TSV
DRAM Core
Interposer
のLSIを混載積層することによって高機能化も実現できる。
8 Layers
Peripherals
本稿では,次世代の実装技術として現在OKIで取り組んで
3Gbps/pin
いる積層DRAMに適用した貫通電極技術と積層技術につ
図1 積層型DRAMの開発目標
いて解説する。
表1 各種貫通電極形成方法の比較
積層DRAMの開発
図1に積層DRAMの開発目標を示す。従来のコア部とイ
Via First
ンタフェース部を別チップに分離した上で,貫通電極
(TSV)を有する512Mbit容量のDRAMコア層を8積層し
て4GbitDARMにする。そして,DRAMコア層とは別に
外部入出力機能をインタフェースチップに集約し,高速
Via Last
From
Front side
From
Back side
Filling materials
Poly-Si
Cu、W、Al
Cu、Al
Contamination
None
Sensitive
Sensitive
Temperature
restriction
None
Must be low
Must be low
Cascaded
interconnect
Easy
Difficult
Easy
動作を実現させる。
DRAMコア層を開発するにあたり,貫通電極の形成方
法と材料の選択は,プロセス技術開発を行う上で重要な
要素であった。表1に各種貫通電極形成方法の比較を示す。
形成方法としては,DRAM素子を形成する前に貫通電極
を形成するVia First法と,DRAM素子を形成した後に貫
プロセスフロー
通電極を形成するVia Last法に大別され,Via Last法は
基板表面側から加工する方法と基板裏面側から加工する
図2にVia First法のプロセスフローを示す。プロセスフ
方法がある。Via Last法は,Via First法よりプロセスの
ローは,①SiO2をハードマスクにしてドライエッチング
自由度があることが優れているが,金属の汚染や後工程
でSiをエッチングする,②CVD(Chemical Vapor
のプロセス温度に制限があるという課題がある。一方,
Deposition)で側壁絶縁膜を形成する,③CVDで高P
*1)エルピーダメモリ株式会社 Technology & Development Office〒229-1197神奈川県相模原市南橋本3-1-35
*2)NECエレクトロニクス株式会社 先端デバイス開発事業部 〒229-1198神奈川県相模原市下九沢1120
66
OKIテクニカルレビュー
2007年10月/第211号Vol.74 No.3
デバイス特集 ●
Via first
Front side
Back side ⑥BG+CMP
①Via Etch
②Isolation
Support
⑦Isolation
⑧Contact
③Poly-Si
⑤Front Bump
⑨Back Bump
図4 Poly-Si貫通電極の表面SEM像
④CMP
4
60
(リン)濃度のPoly-Siを充填する,④CMP(Chemical
Mechanical Polishing)で表面のPoly-Siを除去する,
⑤DRAM素子形成後に電解めっきで表面側にマイクロバ
ンプを形成する,⑥基板をハンドリングしやすいように
支持体を表面側に貼り付け,基板をBG(Back Grinding)
Trench depth [μm ]
図2 Via First法のプロセスフロー
3
50
2
40
1
とCMPで50μmまで薄化する,⑦支持体を剥離させない
ように低温のCVDで窒化膜を形成する,⑧ドライエッチ
ングで貫通電極部を開口して配線を形成する,⑨電解めっ
30
1300
1500
1700
0
Hard mask thickness change [μm ]
⑩Dicing
DRAM Process
Si/SiO2 Selectivity>40
Etching time [s]
きで裏面側にマイクロバンプを形成する,⑩支持体を分
離してダイシングである。
図5 エッチング時間とトレンチ深さおよび
ハードマスクエッチング量の関係
Poly-Si貫通電極
CVDによるPoly-Siの成長速度は非常に遅いことから,
充填時間の大幅な短縮が必要であった。そこで,貫通電
SiO2
Hard Mask
極の構造を工夫した。図3にPoly-Si貫通電極の構造,図4
査型電子顕微鏡)像を示す。貫通電極は2.5μmのSiポスト
を2μmの間隔で配置したものであり,たとえば20μm径
の貫通電極よりPoly-Siの充填時間を1/10にしている。さ
らに,寄生容量を低減させるために外周リングを配置し
ている。
52.5μm depth
にその表面SEM(Scanning Electron Microscope:走
図5にエッチング時間とトレンチ深さおよびハードマス
クエッチング量の関係,図6に1700秒エッチング後(a)
とCMP後(b)のPoly-Si貫通電極の断面SEM像を示す。
2.5μm 2μm 2μm
(a)After Etching
(b)After CMP
図6 Poly-Si貫通電極の断面SEM像
2.5μm
1700秒エッチング後(a)とCMP後(b)
1500∼1700秒のエッチング時間で約50μmの深さにな
2μm
ることがわかり,本プロセスのSi/SiO2のエッチング選択
28μm
比は40以上を示して十分な選択比が得られていた。
図3 Poly-Si貫通電極の構造
OKIテクニカルレビュー
2007年10月/第211号Vol.74 No.3
67
マイクロバンプと積層
TEG chip (50μmt) with TSV
× 9 layers
マイクロバンプの接合不良やその接合時の荷重圧によ
る下層配線の破壊を防ぐため,マイクロバンプの構造を
工夫して接合条件を最適にした。図7にマイクロバンプの
Base chip
断面構造を示す。マイクロバンプは50μmの間隔で配置
しており,表面側はSn-Ag/Cu構造,裏面側はAu/Ni構
Bump
造にしてCuの表面酸化を抑制した。図8にマイクロバンプ
の斜めSEM像と断面SEM像を示す。マイクロバンプは,
TSV
通常の薬液でCuめっきした平型バンプ(a)と,促進剤,
抑制剤の添加剤を入れた薬液でCuめっきした凸型バンプ
(b)を作製した。平型バンプは,余分なSn-Agがはみ出
図9 積層TEGの斜めSEM像と断面SEM像
して窒化膜上まで流れており,不必要な寄生容量を発生
させる要因になっていた。一方,凸型バンプは,Sn-Ag
貫通電極の電気抵抗
のはみ出しはなく,良好な断面状態が得られていた。図9
に積層TEG(Test Element Group)の斜めSEM像と断
図10に,2層,4層,8層貫通電極TEGの電気抵抗を
面SEM像を示す。マイクロバンプは凸型バンプを採用し,
示す。測定した構造は,デイジーチェーンを組んでおり,
FC(Flip Chip)接合は加熱温度,荷重圧を最適にした
インタフェースTEG上に貫通電極TEGチップを積層し,
ことで,Sn-Agのはみ出しやクラックのない最大9層の
最上層に折り返し接続のためのTEGチップが搭載されて
チップ積層を実現した。
いる。抵抗値は積層数に応じて比例しており,貫通電極1
個あたりで約4.1Ωが得られた。これは,8層DRAMの信
Pitch=50μm
号ピンとして問題のない値である。
Front Bump
90
80
Sn-Ag
70
Au
Ni
Back Bump
SiN
Resistance [ohm]
Al
Cu
50μm
Case of 8 layers with TSV
(TSV=16)
8 Layers
60
8
7
6
5
4
3
2
1
y=4.1x
50
4 Layers
40
2 Layers
30
20
図7 マイクロバンプの断面構造
10
0
4.1Ω/ TSV
0
5
図10
10
15
Number of TSV
20
2層,4層,8層貫通電極TEGの電気抵抗
プロトタイプDRAMの積層結果
図11にプロトタイプDRAMのコア層レイアウト図とそ
の写真,図12に積層プロトタイプDRAMの断面SEM像を
示す。プロトタイプDRAMのコア層部を観察したところ,
クラックなどなく8層のチップ積層ができていることを確
認した。現在は積層プロトタイプDRAMの組み立ておよ
び評価を行っており,その実用化を進めている。
図8 マイクロバンプの斜めSEM像と断面SEM像
平型バンプ(a)と凸型バンプ(b)
68
OKIテクニカルレビュー
2007年10月/第211号Vol.74 No.3
デバイス特集 ●
Proto-DRAM core chip
design (512Mb)
TSVs
Evaluation chip
DRAM Core
Base Die for
Power Lane,
Signal I/O
図11
プロトタイプDRAMのコア層レイアウト図とその写真
Components and Technology Conference(ECTC),
pp.601-609
3)Philip Garrou:“3D Integration: A Status Report”in
Proc. 3D Architectures for Semiconductor Integration and
Packaging, Tempe, Arizona, June, 2005
4)T. Fukushima et al. :
“ New Three-Dimentional
Integration Technology Using Self-Assembly Technique”,
International Electron Devices Meeting Technical Digest
(IEDM)
, pp.348-351, Dec. 2005
5)H. Ikeda et al.:“Stacked Memory Chip Technology
Development”, SEMI Technology Symposium(STS)
2005 Proceedings, Session 9, pp.37-42.
6)M. Kawano et al.:“A 3D Packaging Technology for 4
Gbit Stacked DRAM with 3 Gbps Data Transfer",
International Electron Devices Meeting Technical Digest
(IEDM)
, pp.581-584, Dec. 2006
7)T. Mitsuhashi et al.:
“Development of 3D-Packaging
Process Technology for Stacked Memory Chips”, Mater.
Res. Soc. Symp. Proc., Vol.970, 0970-Y03-06, 2007
●筆者紹介
加藤理:Osamu Kato. シリコンマイクロデバイスカンパニー
ATP生産本部 実装開発部
Proto-DRAM Core
× 8 layers
図12
積層プロトタイプDRAMの断面SEM像
あ と が き
積層DRAMを開発するにあたり,貫通電極にSiポスト
を配置したことでPoly-Siの充填時間を大幅に短縮するこ
とができ,電気抵抗はDRAMの動作上で問題のない値が
得られてVia First法の貫通電極を確立することができた。
さらに,マイクロバンプの構造を工夫してFC接合条件を
最適にしたことで,最大9層のチップ積層を実現した。
このような3次元実装技術は,システムの高密度化,高
機能化を実現する技術として貢献できるものであること
から,今後も実用化を進めていく。
◆◆
■参考文献
1)富坂学 他:“3次元実装に用いるチップ貫通電極形技術”
,デ
ンソーテクニカルレビュー,Vol.6 No.2,2001年
2)K. Takahashi et al.:
“Process Integration of 3D Chip Stack
with Vertical Interconnection”in Proc. 2004 Electronic
OKIテクニカルレビュー
2007年10月/第211号Vol.74 No.3
69