500Mbps/Pair高速インタフェースを搭載した 世界初13bit・ソースドライバの開発および RGB独立ガンマ制御を搭載したデモ・ パネルの製作 加納 行 液晶の存在が植物学者ライニッツァーにより発見され てから120年余り,液晶ディスプレイ(以下LCDと略す) ホールド型表示の致命的な問題である。 これに対しては,フレーム周波数(1秒間に送るコマ は我々の生活の中に浸透し,生活に欠かせない役割を演 数)を,従来一般的にTV放送で用いられている60Hzを じている。PC,Navigation System,Gameなどアプリ 120Hzにアップレート変換し,物理的に残像時間を半減 ケーションは多彩である。そしてTVやGraphic用高品位 させ,動画特性を向上させる方式が用いられるように モニタといった,従来LCDでは難しいと思われていた市 なった。ダブル・フレームと言われる手法である。 場でもLCDが主流となり,その成長には目を見張るもの そして,動画特性と並んで重要な性能が,色再現性で ある。LCDに限らず,ディスプレイではRGBの3原色の がある。 TVにおいては画素数が従来のW-XGA+(1366× 組み合せにより,できるだけ多くの色表示を行うのが一 768)からFull-HD(1920×1080)へ,さらには 般である。LCDには電極への印加電圧によって透過率が Digital Cinema(4096×2160)へと広がりつつある。 変化するVT(Voltage-Transmittance)特性が存在 また昨年にはNHKより,Super Hi-Vision(7680× する。このVT特性は,使用されているバックライト,CF, 4320)の計画が発表されている。それに伴い画質向上へ 液晶材料自体によって異なる。 の要求が高まって来ている。動画特性,色制御(Color Management)は最も重要なファクタである。 倍速フレームにより動画特性向上は解決方向が見出さ れたが,色制御は今後の重要課題として残されている。 今後のLCD-TVではTVショッピングの普及拡大などに より,正確な色再現性が必要となる。TVを見てオーダー した製品が実際の色合いと異なるといった事態も考えら れるため,高い色再現性が必要となる。 本稿は,LCDパネルにおいて従来一律に制御されてい また遠隔医療などに用いられるモニタでは,顔色など た光3原色(Red,Green,Blue)を個別に制御する方式 を正確に表さなければ正しい診断ができないため,色再 を用いたLCDドライバ,タイミング・コントローラ(以 現性はより重要な性能である。 下T-CONと略す)およびLCDパネルの開発結果について 述べるものである。 RGB独立ガンマ制御 動画特性の向上と高い色再現性がLCD-TVの画質に求 LCD-TVへの性能要求 LCD-TVが普及するにしたがって,画質などに対する 要求が急速に高まって来た。 大きな項目として一つは動画に対するレスポンスタイム, そしてもう一つが色に対する要求である。 レスポンスタイムに関して言えば,液晶では一般に冷 るために,LCDのシステムレベルで多くのアプローチが 取られている。一つは色範囲(GAMUT)の拡大であり, LEDバックライト,高演色型CCFLの採用がその代表で ある。もう一つがRGB独立ガンマ制御である。それを達 成するのに必要なのが13bitソースドライバである。 陰極管(以下CCFLと略す)などによる光源と3原色のカ LCDのVT特性については前に述べたが,これはCFの ラーフィルタ(以下CFと略す)で着色された光を液晶分 分光特性とCCFLの波長特性とのバランスなどによりRGB 子の方向で制御する,つまり光スイッチングで制御して それぞれで異なる。 いる。いわゆるホールド型と呼ばれる表示である。した 4 められる2大項目であると前項で述べた。色再現性を高め 図1に概念を示した。これは,TN(Twisted Nematic) がって人間の目には,常に残像が映る。これが動画にお 型のTFTに用いられる液晶をNW(Normally White) ,つ ける尾引き現象となって,動画に対する不自然さとなる。 まり電圧オフ時に透過率が最大となる方式で用いた時の OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 デバイス特集 ● カー,いわゆるセットメーカーは,LCDモジュール単位 透 過 率 (%) でのColor Tracking即ちRGB独立ガンマ制御を求めるよ うになった。そしてこの要求は,デジタル放送化やネッ トショッピングの急速な普及,さらには医療用モニタの LCD化などに伴い,ますます強くなりつつある。 TN/NW型でのモデル B G RGB独立ガンマ制御の概要 上記のようにRGB独立ガンマ制御の達成は,将来LCD R ドライバやT-CONのビジネスを成功させる上で必要不可 欠な技術である。 図2に我々の用いた方式の概要を示す。 Voltage (V) E D C B A 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 図1 RGBごとに異なるVT(ガンマ)特性 特性である。同じ階調(Gray Scale)レベルであっても, LCDの各RGB画素(Sub Pixel)に与える電圧は固有の ものになる訳である。 なお,RGBごとにVT特性が異なるのは周知の事実であ り,この補正は色々な方法で行われている。いわゆるRGB 補 正 ( Color Tracking) で あ り , 一 般 的 に は グ ラ フィック・プロセッサ(エンジン)内で行われる。 Single GAMMA LCDモジュールへは,補正後の画像(階調)データが 送られ,タイミング信号生成などの後,LCDドライバに て DA変 換 さ れ , LCDパ ネ ル 上 の TFT( Thin Film 7 6 5 4 3 2 1 0 Input from Engine (3bit) Transistor)を駆動する。つまり,ごく特殊な場合を除い てColor Management機能はエンジンで行われる訳で Up-Rating to 4bit by T-CON R G B 図2 RGB独立ガンマのデータ生成 ある。しかし,エンジン内でのColor Trackingなどの補 正では不十分であると言われ続けている。これは色に対 してLCDに用いられる材料などが余りに多くの変動要因 を持っているからである。それ以外にも, ここでは理解し易くするために,3bitの階調データを RGB独立階調制御するケースを示した。 図2に示すように従来方式では,グラフィック・プロ セッサから供給された3bitの階調データ(図2中の Input ● 液晶の配向(MODE):VA(Vertical Alignment), from Engine)を,そのままRGB同一データとして割り IPS(In Plain Switching)など 振ってLCDドライバに出力していた(太線-Single ● 液晶分子の電極近傍でのチルト角 GAMMA)。新方式では,これをT-CON内部でLCDパ ● 偏光板(Polarizer)や位相差版の透過・屈折特性 ネルの特性にしたがってRGB個別に変換し直す。した がって,入力よりもデータの分解能は細かくしなければ といった厄介な要因がある。 ならない訳である。つまり,同一制御の場合よりも多く 以上述べた要因の全てが,たとえばTVメーカーが複数 の階調データが必要となる。図2では,3bitの階調データ のLCDモジュール製造会社から同一仕様のLCDモジュール をRGB個別に割り振ることにより,4bitまで細かく分割 を購入した際,供給元によって全く色合いが異なるといっ した階調データにUp-Rate変換している例を示している。 た問題を生む訳である。また,蛇足ではあるが,同一の 今後,LCD-TVの階調は10bitが主流になって来ると思 LCD CELL製造ラインで生産していても,色特性が経時 われる。10bitをRGB個別に制御する場合,12ないし 変化を起こすことすらある。 13bitの分割データ(分解能)が求められる。我々は13bit 以上の現象や傾向から,いくつかのTVやモニタのメー が必要と判断した(後記) 。 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 5 13bit LevelのRGB独立階調を評価するには,決して満 RGB独立ガンマ制御を搭載したデモ・パネルの製作 足の行くSpecを有しているとは言えない。たとえば本来 これまで述べて来たように,今後はLCDモジュールに の13bit Levelの性能を引き出すには,画素(Picture おいてRGB独立ガンマ制御が不可欠である。しかし色合 Format)はFull-HD(1920×1080)が欲しい所である いは,極めて数値化しにくい特性である。したがって,試 が,今回は色合い(色再現性)などの評価・確認が主目 験用のデモ・パネルを製作し,検証・確認をLCD-TVな 的であるため,十分であると判断した。 どのセット・メーカーと共に行わなければならない。 過去,RGB独立ガンマ制御を搭載したテスト・パネル 次にT-CONの部分であるが,ここは前記の通り回路の は,複数のLCDドライバ・メーカーやパネル・メーカー 変更などに柔軟なFPGAを用いて設計した。図3に主な機 にて試作されている。また,携帯電話パネルでは既に普 能を示した。 通に行われているケースも多い。しかし,TVの場合では つまり,入力画像データをラインで2分割し,片方(図 12bit分解能が最大,携帯電話パネルではRGBトータルで では左)はRGB共通のガンマでタイミング調整のみを行 18bit(RGB各6bit)や16bit(RGB=6,5,5bit)と言っ う。一方,残り(同右)はLCDパネルのRGB透過率特性 た程度であった。TVセット・メーカーの一部では「12bit に基いて三原色ごとにガンマ補正を行った後,出力ライ 程度の分解能では階調単位での色付き(後記)が発生し ンメモリに蓄えられ,ライン選択信号のタイミングにし てしまう」との指摘があり,13bitへの大きな期待が寄せ たがってソースドライバに出力される。また,図3で分か られた。 るように,本T-CONでは同一画面上で従来方式とRGB独 これに応えるため,我々は13bit分解能によるデモ(試 作)パネルを製造し,セット・メーカーやパネル・メー カーへのデモを行い,共同で効果の確認,問題点の抽出 などを行うこととした。 立ガンマ制御の画像とが比較できるような出力が可能に なっている。 さらにLook Up Table (以下LUTと略す)を搭載し, ここでLCDパネルのRGB透過率特性に応じた補正ができ デモ・システムを製作するに当たり,LCDドライバに るようになっている。この補正パラメータは,外部から はOKIが独自に開発した世界初の13bit(ソース)ドライ 容易に書き換が可能になっており,パネルが変わった場 バ,MT3100(表1)を,またT-CONには開発に際し多 合や色々なガンマ定数(1.8, 2.2, 2.4など)に対応でき くの機能の見直しが予想されるため,FPGA(Field るようになっている。 Programmable Gate Array)を活用することとした。 Out (Common) Out (RGB Individual) 表1 MT3100 Spec.(概要) Gray-Scale Level Max. 13bit (8192 Levels) Typical VDD (Logic / LCD) 2.7V / 16.5V Interface FP-LVDS / 6 Pairs Max. Clock Rate 216MHz Output Ports 414 / 420 / 480 / 516CH Line Memory Line Memory Picture Data R/G/B →13/13/13bit LUT (RAM) デモ・システムの製作に当たって最も肝心なのはLCD パネル(セル)であるが,これは台湾のLCDメーカーよ Control Timing Control R 8bit →13bit G 8bit →13bit B 8bit →13bit り提供していただいた。 このパネルの仕様を表2に示す。 表2 試作パネルの概要(台湾メーカ提供) LCD Control LUT Data 図3 T-CON (FPGA)の概略 6 Size 37 inches Picture Format W-XGA+ (1366×768) Color Space 72% (vs NTSC) ゲートドライバやソースドライバへのStart Pulseなどのコ LCD Type VA(NB) ントロール信号を生成する。 Gray Scale Input 8bit Compressed OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 Timing Control部分では,画面スキャンを制御する デバイス特集 ● T-CON(FPGA)基板上には,DVI(Digital Visual デモ・パネルの概要 今回製作したデモ・パネルの外観を写真1に示す。 LCDパネル(セル)のサイズは37インチ,Formatは Wide-XGA +(16:9 HDTV対応)である。ちなみに, Interface)レシーバなどT-CONとして動作させるのに必 要な画像処理LSIなどが配置されている。 図4は本デモ・システムのブロック構成図である。 画像データは,DVI Formatで供給される8bit情報であ このパネルに使用されている液晶はVA(Vertical る。これをLUT(Flash Memory)に書かれたRGBごと Alignment)型でありコントラストが高く取れる反面,黒 のガンマ補正パラメータで13bit分解能のガンマデータと 色側のVT特性が急峻,つまりわずかなドライバ出力電圧 して,LCDドライバへ供給する。 変動で透過率が大きく変動する。したがって細かい分解 能(12bitよりは13bit)が必要と推定される。 LUTに書き込むガンマ補正データはパネルの製造元に て測定したRGBごとの輝度データより,それぞれのVT特 性に合致するように換算したものである。 このLUTをいかに精度良く作成するかがこの方式のシ T-CON (FPGA) ステムにおける最も大きなポイントである。高い輝度測 定精度,さらに“輝度データ→LUTデータ”の変換アル ゴリズムなどの工夫が必要である。 写真2は,デモ・システムの画像を写真撮影したもので ある。中央で分割した左側が従来方式,右半分がRGB独 立してガンマ補正を行ったものである。 デジタルカメラの色範囲とデモ・パネルとの違い,ま 37”W-XGA+Panel た写真処理で画像圧縮を繰り返しているため写真上では 分かり難くなってしまったが,グラデーションには明ら かな差が認められる。 Signal Generator 写真1 デモ・システムの外観 Data Generator (Picture Data) DVI RX Gamma LUT Data Picture Data FPGA FLASH MEMORY Gamma Data (図3参照) T-CON 写真2 パネル上での実際の画像(右半分がRGB独立ガンマ制御) MT3100 デモ・パネルに対する顧客の評価,コメント 37inch W-XGA+ (1366×RGB×768) カーの要請を受け,日本国内,韓国,アメリカにてデモ デモ・システムの完成後,カスタマやTVセット・メー G A T E を行った。 前書きにも述べたように,このような技術は,今後重 要性が極めて高いため,各社の関心は高く国内外の主要 図4 デモ・システムのブロック図 メーカーで多くのエンジニアなどと実際の画面を前に議 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 7 論を行った。各社の反応は概ね良好であり, ● 肌色のグラデーションに明らかな差が認められる。 ● 色合いに,より自然さが感じられる。 ● 色への感覚は個人差があるが,標準色をディスプレイ ● エンジンでのColor Trackingの負担が減り,トータル・ できる(であろう)ことに大きな意味がある。 システムとして簡素化が期待できる。 との見解が大勢を占めた。一方で, ● デモ用としてのパネルが性能不足。狭GAMUT,狭視 写真3 マイクロ・カラー・シフト(MCS)効果 野角などの影響で期待ほど改善が確認できない。 ● VT特性が急峻な階調での着色が見られる。従来の方式で は見られなかったもの。 ● 最近では12bit分解能のものが試作されているが,OKI の13bitとで差はあまりないようだ。 といった問題点も指摘された。 特にハイエンド志向のセット・メーカーからは, 「FullHD,広色域,色深度の十分なパネルを使うことで,より 明らかな差が出るはずだ。」との指摘を頂き,新たなデ モ・システムの製作を依頼された。 ド ラ イ バ 出 力 2bit R 3bit いずれにしても,指摘された問題点も,本方式への期 2bit B 待の裏返しであると言える。 この階調で緑の色付き 2bit 問題点と対策の検討 G デモからのフィードバックにもあるように,本方式に n 特有の問題として,「VT特性が急峻な階調での着色」が n+1 n+2 n+3 Gray Scale Data ある。従来方式では,全階調,即ちスクリーン全体での 色付き(ブルーシフトなど)の発生はあるのだが,階調 図5 MCS効果(緑の色付き原因) 単位での色付きは,RGB独立ガンマ制御特有のもので ある。 図5は,これを模式的に表したものである。n+1の階調 この現象はMicro Color Shift(MCS) ,つまり,マイ (Gray Scale Data)におけるG(緑)のB(青)に対す クロ・カラー・シフト効果(以下MCS効果と略す)と名 る出力電圧差が,その前後の階調に比べて1bit分ずれてい 付けられ,写真3に現象を示す。黒側の一部階調で緑色の る。これは,ガンマの独立制御を行った際に,ある特定 着色が認められるのが分かる。 階調においてRGBのバランスが取れていないことによる もので,特定の色が強調されてしまう現象である。 なお,デモ・システムのパネルは,液晶分子がVA (Vertical Align)配向方式であり,またNB(Normally 考えられる原因としては, Black)モードのため,特に黒側のVT特性が急峻になり, 電圧変化の影響を受けやすい。 このMCS効果は,RGB個別に且つ階調ごとにガンマ補 正を行っているが故に発生する。 8 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 ● パネルでのRGB輝度測定における測定バラツキ ● T-CONのLUTに書き込むデータの算出エラー(たとえ ば最下位bitの変換誤差) デバイス特集 ● ● VT特性の曲線をデジタル階調化する際の近似誤差 などが挙げられる。 我々は13bit化により,この現象を軽減しようとし,あ る一定の効果をセット・メーカーと一緒に確認したが,ま だ不十分であるとの指摘を頂いている。しかし,言い換 えれば,他社の提唱している12bitの分解能では不十分で あるということでもある。 結論と今後の検討 T-CON,ソース・ドライバによる,13bit分解能 (8192 Levels)を持つRGB独立ガンマ制御は今後のLCD モニタやTVにおいて必要不可欠な技術である。 今後,現行システムの改善や新たな高品位パネルによ るシステムを検討し,LCD-TV,ハイエンド・モニタ向 ドライバ,T-CONにおけるColor Managementの技術 リーダとなる。 一方で,本方式特有のMCS効果の対策を進め,技術の 成熟化を図る。 また13bit化により,T-CONとソース・ドライバ間の データやClock信号の転送密度は飛躍的に高くなり,EMI (Electro Magnetic Interference)など伝送に関る問題 がクローズアップされて来る。現在はFP-LVDSやminiLVDSで対応できているが,Digital Cinemaなどの登場 を見越して,Clock Embedded方式などの新しい技術も 検討していく。 ◆◆ ●筆者紹介 加納行:Hideki Kanou. シリコンマイクロデバイスカンパニー ディスプレイドライバビジネス本部 ビジネス開拓部 OKIテクニカルレビュー 2007年10月/第211号Vol.74 No.3 9