第3章 半導体デバイスの故障解析 半導体品質・信頼性ハンドブック Semiconductor Quality and Reliability Handbook 第3章 半導体デバイスの故障解析 3.1 故障解析とは .......................................................................................................................3-2 3.2 故障解析技術の必要性 .........................................................................................................3-2 3.3 故障解析技術 .......................................................................................................................3-3 3.3.1 一般的な故障解析フロー..........................................................................................3-3 3.3.2 故障発生状況の調査 .................................................................................................3-4 3.3.3 故障サンプルの取り扱い..........................................................................................3-4 3.3.4 パッケージ外観検査 .................................................................................................3-4 3.3.5 電気的特性評価 ........................................................................................................3-5 3.3.6 パッケージ解析技術 .................................................................................................3-5 3.3.6.1 概要 .............................................................................................................3-5 3.3.6.2 X線透視観察・超音波探傷観察 ...................................................................3-6 3.3.6.3 近年使われ始めた解析技術 .........................................................................3-7 3.3.7 チップ解析技術 ......................................................................................................3-12 3.3.7.1 概要 ...........................................................................................................3-12 3.3.7.2 パッケージ開封技術・積層チップ除去技術 ..............................................3-13 3.3.7.3 故障箇所特定技術......................................................................................3-14 3.3.7.3.1 故障推論技術 .............................................................................3-15 3.3.7.3.2 発光解析技術 .............................................................................3-17 3.3.7.3.3 IR-OBIRCH解析技術 ..................................................................3-18 3.3.7.3.4 近年使われ始めた解析技術 ........................................................3-19 3.3.8 チップ物理解析技術 ...............................................................................................3-24 3.3.8.1 概要 ...........................................................................................................3-24 3.3.8.2 層間剥離技術 .............................................................................................3-24 3.3.8.3 チップ表面・裏面観察技術 .......................................................................3-25 3.3.8.3.1 走査型電子顕微鏡(SEM) .......................................................3-26 3.3.8.4 断面解析技術 .............................................................................................3-27 3.3.8.4.1 FIB .............................................................................................3-27 3.3.8.4.2 TEM ...........................................................................................3-28 3.3.9 分析技術.................................................................................................................3-28 3.3.9.1 概要 ...........................................................................................................3-28 3.3.9.2 FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopyの略)分析 ...................3-29 3.3.9.3 EDX/WDX..................................................................................................3-30 3.3.9.4 AES(Auger Electron Spectroscopyの略)分析 .......................................3-32 3.3.10 異常と故障メカニズムの関連性の確認 ................................................................3-33 3-1 3.1 故障解析とは 故障解析とは、さまざまな製造過程、市場で発生した故障状況を素早く確認し、LSI テスターなどを 用いて電気的特性調査を行い、その結果に基づいて、最適な物理的・化学的手法や解析装置を用いて故 障に至った原因やメカニズムを究明することです。 3.2 故障解析技術の必要性 近年の半導体デバイスはチップ自体の高集積化や製品自体の高機能化により、複数のチップを一つの パッケージに実装(SiP:System In Package の略)するものなど、ますます製造プロセスは微細かつ複雑 になってきており、故障に至る原因やメカニズムも様々でかつ複雑化しています。 しかしながら半導体デバイスは非常に高いレベルの品質信頼性が要求されています。市場で半導体デ バイスが故障し、お客様に迷惑をかけないように、半導体の製造にあたっては、開発段階から製造段階 に至るまでの一貫した品質信頼性の作り込みが必要です。そのために、信頼性試験で発生した故障品や お客様の工程や市場で発生した故障品を素早く解析し、故障の原因とメカニズムを確実に解明して製造 プロセスや設計プロセスへのフィードバックを行い、製造品質の向上、製品品質の向上を図ることが非 常に重要になります。 このように、故障解析技術は単に故障品の故障原因やメカニズムの究明をするだけではなく、お客様 の工程や市場での故障を限りなくゼロに近づけるため、品質改善や信頼性向上活動に必要不可欠な技術 です。 3-2 3.3 3.3.1 故障解析技術 一般的な故障解析フロー 故障解析で一番重要なことは、故障症状を保持した状態(非破壊状態)のままでどこまで故障箇所を 絞り込むことができるかに尽きます。ある程度の機能を持ったブロックレベルまでしか絞りこめないの か、ピンポイントでこの場所で異常が発生しているというところまで絞り込めるのかで故障原因の究明 率が大きく変わります。 高集積化された先端の半導体デバイスで直径 1 μm 程度の故障箇所を見つけることは、例えていうなら、 東京ドームの敷地に建てた高さ 8 階建ての建物の中に落とした 100 円硬貨を探し出すに等しい行為です。 このような状況でただ漠然と探しても見つけ出すのは不可能です。 まず、100 円硬貨を落とした人の行動はどうだったのかなどを詳しく調査して、落としたと思われる 場所を限りなく狭く絞り込んでいき、場所を特定した後に、その場所を注意深く探せば見つかる可能性 が高くなります。 半導体デバイスの故障箇所の絞込みも同様で、まずは LSI テスターなどを用いて電気的特性を調査し デバイスのどの部分で故障している可能性が高いかを大まかに絞込むところから始まります。 図 3-1 に一般的な故障解析手順の一例を示します。 解析依頼 物理解析依頼 依頼受付 故障情報の把握 カスタマークレーム依頼 /電気解析依頼 故障現象の確認 不良の再現 故障モードを特定 Testerなど 故障箇所の絞込み (電気解析) 故障箇所の絞込み 発光解析・EB・ 故障原因の特定 (物理解析) 物理解析 断面解析(FIB、STEMなど) /平面剥離解析 /分析(EDXなど) 解析報告 図 3-1 一般的な故障解析手順 各々の詳細は次項以降で順次説明していきます。 3-3 3.3.2 故障発生状況の調査 故障が発生した場合にはそれがどのような状況で発生したのか(お客様の製造工程で故障したのか、 市場でしばらく使用された後で故障したのか、使用環境はどうだったかなど)も故障解析を進める上で、 故障原因の推定や故障解析の方法・手順を決めるために非常に重要な情報です。 よって故障サンプル入手と同時に、可能な限り得られる情報を、お客様などを通じて入手します。特 にどのような環境で発生したのか(発生場所・環境条件・使用回路・使用条件・実装条件など)は、故 障メカニズムを推定し、解析手法・方法の選定に役立つ他、場合によっては故障シミュレーションなど を実施し、再現性の確認をすることで偶発故障なのか、設計上の問題なのかを判断する場合に役立ちま す。 3.3.3 故障サンプルの取り扱い 故障サンプルは数が限られており大変貴重なものです。万が一、故障解析を失敗すると何の情報も得 ることができなくなる場合があるために、故障サンプルの取り扱いには次のような注意が必要です。 (1)故障状態の保持 解析前に故障状況を変化させてしまう可能性のあるストレス(熱的・電気的・機械的)を加える と解析ができなくなってしまいます。但し、基板に一度はんだ実装された後に取り外されたサンプ ルは LSI テスターでの測定のためにリード処理やリボール作業などが必要になります。 これらの過熱処理は、可能な限り短時間で処理するようにして、極力デバイスに熱を加えずリー ドやランドにもダメージを与えないように細心の注意が必要です。当社では BGA(Ball Grid Array の略)製品に対しては、熱を加えない方法として、LGA(Land Grid Array の略)状態(BGA 製品か らはんだボールを除去した状態と同じ)で電気的測定ができる環境も整えています。 (2)保管 故障サンプルは最適な温湿度環境下で保管し、静電破壊防止、機械的破損防止などの注意が必要 です。 また、物理解析途中のパッケージを開封したサンプルやチップ単体にしたサンプルなどはゴミの 付着や表面に傷をつけないよう、さらに保管に注意が必要です。近年では、セキュリティーチップ などに対する情報漏えい防止のため、カギ付きの保管庫や一定レベルのセキュリティーが確保され た部屋での保管も必要です。 3.3.4 パッケージ外観検査 入手したサンプルの外観状態の観察は非常に重要であり、故障解析の有益な情報源です。主な確認内 容はクラック、ボイド、キズ、焼損跡、外部端子損傷、異物付着、変色などです。 3-4 3.3.5 電気的特性評価 (1)LSI テスター評価 まずは、出荷検査時と同等のテストプログラムで故障サンプルの電気的特性評価を実施します。 この結果により、半導体欠陥による故障品か、テストプログラム不備のために本来は出荷検査時に 不良判定されるべきものがお客様へ流出したものかを判断します。さらに、故障品に関しては温度 依存性、電圧依存性、動作周波数依存性などの詳細評価を実施し、取得したデータを基に詳細解析 手法を決めていきます。 (2)AC・DC 特性評価 オープン・ショート、耐圧劣化などの DC 特性を調査するには、カーブトレーサやパラメータア ナライザなどが用いられます。また、簡単な AC 特性評価などにはオシロスコープを使用します。 (3)実機(実際のセット製品を改造した評価ジグ)評価 上記確認で故障が再現せずに良品判定されるもの(半導体デバイス単体の保証項目としては合格する もの)に関しては、実際のセット製品を改造した評価ジグなどを使用して故障の再現性を確認します。 ここで異常が確認される場合は、実際のセット製品で発生する機能障害を LSI テスターでの出荷 検査プログラムに盛り込めていないケースが考えられるため、不足している機能試験項目の追加を 検討します。また、故障は再現しているが、上記(1)、(2)などでは故障箇所の絞込みが難しい 場合の故障箇所絞込みのための解析手段のひとつ(LSI テスターの代用など)として使用します。 3.3.6 パッケージ解析技術 3.3.6.1 概要 近年、半導体製品に求められるものは、小さくそして薄いパッケージに周辺素子を取り込んだ高機能 化であります。それに応えるのが、最近主流となっている SiP 製品です。図 3-2 に一般的な SiP 製品の 模式図を示します。ひとつのパッケージの中に複数のチップを積層させ、チップだけでなく、製品自体 を組み込んだ Package on Package(以下 PoP)なども出てきており構造自体が非常に複雑化しており、 まずはチップ内部の故障なのか、組み立てに起因する故障なのかを明確に切り分けてから詳細解析に入 る必要が出てきています。また、多ピン化などで金線間隔が非常に狭くなり、以前では問題にならなか った微小な異物でも配線間ショートの原因になるなど、材料管理や組み立て工程の要求クリーン度も以 前とは比べようもない位に厳しくなっています。また、開封方法ひとつを取っても、発煙硝酸などを用 いた薬品による開封のみでは多様化した構造のものを解析するには不十分であり、新たな開封手法を検 討する必要も出てきています。 3-5 ここでは、従来から用いられているパッケージの解析手法は簡単に述べるにとどめ、当社で積極的に 導入を進めている最新のパッケージ構造製品を解析するための新規装置・手法を主に取り上げて説明し ます。 混載パッケージ 上層チップ 下層チップ 図 3-2 一般的な SIP 製品模式図 3.3.6.2 X 線透視観察・超音波探傷観察 X 線透視観察では、ワイヤーボンドの状態(ワイヤーループの状態、金バンプの状態、スティッチ形 状など)やリードフレームの状態、モールド樹脂のボイド、基板の配線やスルーホールの状態が非破壊 で観察できます。また、近年では装置分解能の向上により Chip on chip(以下 CoC)などで用いられる マイクロバンプの状態観察なども可能になっています。(図 3-3 参照) <OPEN> <SHORT> 不良Bump クラック箇所 Bump径=100μm Bump径=100μm (Angle:45°) 図 3-3 X 線透視写真 3-6 さらに CT 機能の付加により、非破壊状態で立体的に内部構造を確認することも可能となったので、 組み立て不具合を観察するのに有効な装置です。 超音波探傷装置 SAT(Scanning Acoustic Tomograph の略)または SAM(Scanning Acoustic Microscope の略)は、超音波が音響インピーダンスの異なる材料が接する界面で反射するという原理を利用し、サ ンプルに対して発振された超音波の反射波をとらえ、接合界面の剥離、パッケージ樹脂内部のボイド、 クラック、チップクラックなどのパッケージ内部の任意の深さの状態を非破壊で観察することが可能で す。(図 3-4 参照) <チップクラック> <剥離> 正常品 不良品 白い部分に「剥離」を検出 図 3-4 超音波探傷写真 最近ではより高周波(300MHz 程度)を使用することで分解能を向上させており、40μm 程度のマイ クロバンプなどの界面剥離や内部ボイドなども観察することが可能となってきています。 装置概要や原理などは一般的で、様々な文献などで記述がありますのでここでは割愛します。 3.3.6.3 近年使われ始めた解析技術 (1)スキャンニング SQUID(Superconducting QUantum Interface Device の略)顕微鏡解析 SQUID とは、超伝導の量子化現象を利用した超高感度磁気センサを表します。従来の磁気センサ よりはるかに高感度であり、地磁気の 5000 万分の 1 以下の微弱磁場を検出することができます。 電流が流れるとその周りに磁界が発生するのはご存知のとおり(図 3-5 参照)です。本装置は前述 のとおり、超高感度磁気センサを使用しているため、電流が作り出した磁場をとらえることが可能 です。 3-7 ここで得られた磁場分布の情報を使い、その磁場分布を作っている電流をイメージ化することで、 半導体デバイス中に流れている電流を観察することが可能となります。(図 3-6 参照) Bz>0 Bz<0 SQUIDセンサー Bz=0 磁場の向き Z ワイヤー/ワイヤー断面 電流の向き Y X Bz(磁場強度) Bz=0 X(センサー位置) ワイヤー位置(電流経路) ワイヤーからの磁場強度を検出 磁場イメージ 磁場強度ベクトルBz と ワイヤー位置 Bzの磁場強度を擬似カラー化する。 磁場強度Bz>0であれば青、Bz<0であれば赤と表示する。 また磁場強度によって色の濃淡が表現され、ワイヤー直上 は白く表示され、この部分が電流経路となる。 SQUIDセンサーにより磁場強度を取得しグラフ化する。 ワイヤーの直上ではZ方向の磁場強度がゼロとなる。 図 3-5 スキャニング SQUID <磁場像> 電流と磁場イメージ <電流像> 電流経路 図 3-6 スキャニング SQUID 3-8 磁場像と電流像 また、磁気は半導体デバイスなどで使用されているシリコンをはじめとするほとんどの材料を透 過するために、非破壊で電流経路を観察できるというのが故障解析をする上でのメリットになりま す。但し、磁場を検出して電流経路を示すという原理の性質から、本装置を使っての故障解析は電 流の方向が一定になる DC 測定状態のみ有効となります。実際の故障解析では良品と故障品での観 察された電流経路を比較し、どこに故障原因があるかを絞り込んだ後に詳細な原因究明のための解 析を実施します。 本手法を用いた解析事例を以下に示します。(図 3-7 参照) <電流像> <光学観察> 隣接する基板配線SHORT 図 3-7 スキャニング SQUID による異物特定事例 この結果から、X 線透視観察ではなかなか発見しづらい極微細な導電性異物による故障原因も特 定することが可能です。 3-9 (2)TDR(Time Domain Reflectometry の略)解析 TDR とは、高速パルス信号を被測定物に入力し、その反射信号を観測することで被測定物の伝送 品質を測定する技術で、送電線の断線などを発見する手法として昔から使用されています。(図 3-8 参照) TDRサンプリングオシロスコープ ①TDRサンプリングモジュール ⑤ 入射波 ⑤ 波 形 表 示 ① ② パルス 発生 Z0=50Ω 入射波 +反射波 ②50Ωケーブル Sampler 信号線路 反射波 ③ GND ④基板上の線路 ④ ③ 50Ω プローブ 図 3-8 TDR の一般的原理 これを半導パッケージ解析に応用して、不具合が推察されるパッケージ電極にプローブして高速 パルス信号を試料に与え、材料のインピーダンス不整合部分で発生する反射波をサンプリングオシ ロスコープでとらえます。もし配線経路の断線などオープン系の不良があった場合、不具合箇所で インピーダンス不整合が大きくなることで大きな反射波が発生し、良品波形と不良品波形とで差異 が発生します。この反射波の差異より不良箇所の推察が可能となります。原理上は、ショート箇所 の特定にも応用可能ですが、現状では主にオープン箇所の特定に用いられています。 この手法も前述の SQUID 解析と同様に非破壊での解析が可能となり、特にオープン箇所の特定を、 素早く・非破壊で行なえる手法は他にないために、半導体デバイスのパッケージ解析においては非 常に有効な解析手法となります。特に、高機能化された SiP 製品などでは、使用している基板が多 層化されてきており、単純に X 線透視観察をするだけでは、配線同士の重なりなどの影響で異常を 判別するのが困難になってきています。本手法を使って確実に故障箇所を絞り込んだ後で X 線透視 観察などを行ないます。 3-10 本手法を用いた解析事例を以下に示します。(図 3-9 参照) <TDR波形> 不良品 <不良箇所断面のSEM写真> 基板のみ 正常品 基板の範囲 最上層VIA形成不良 不良箇所は基板側と判断できる 図 3-9 TDR による不良特定事例 (3)CP(Cross-section Polisher の略)断面加工 従来、組み立て関連の故障解析における断面観察には、対象観察範囲が広いケースが多いために 機械研磨が主に使われてきました。しかし、機械研磨では研磨紙や研磨剤を用いて加工するために、 加工面の仕上げに限界があり、特に組み立てでよく使用されている、はんだ・金・銅・アルミなど は素材が柔らかいために表面にダレが生じ、誰にでも完全な鏡面仕上げを実現するのは困難でした。 そのため、極微細クラックなどは加工の仕方次第では見えないなどの不都合がありました。 また、チップの断面解析などに使用される FIB(Focused Ion Beam の略)を使用すれば鏡面仕上げ を容易に得ることが可能です。しかし、本来は微小領域(数μm レベル)を加工する装置のため、 機械研磨に比べて、1)非常に加工時間がかかる、2)広範囲な加工には不向きなどの諸問題があり ました。 機械研磨の手軽さ・素早さと FIB 加工の表面の鏡面仕上げの容易さを併せ持つのが CP 断面加工です。 3-11 クロスセクション・ポリッシャ(CP)とは、加工したい場所に遮蔽板を合わせ、Ar イオンビーム を照射することでダメージの少ない断面を作ることが可能です。この装置を使用することで、例え ば金線とアルミパッドのボンディング界面などのような複数の材料が接している界面状態や微小な ボイド、クラックなどを容易に・確実に観察することが可能です。(図 3-10、図 3-11 参照) <Solder Bump> <Solder Bump> クラックを観察 図 3-10 機械研摩後の観察写真 3.3.7 チップ解析技術 3.3.7.1 概要 図 3-11 CP 後の観察写真 前述のとおり、近年の製品の高集積化、製品の多機能化などにより、回路規模も膨大(数千万~数億 ゲート)かつ複雑になっており、その中から数μm レベルの範囲にある故障箇所を絞り込み、原因を究 明することは容易なことではありません。チップの故障解析には従来から用いられてきた、発光解析や 発熱解析、IR-OBIRCH(Infra Red-Optical Beam Induced Resistance CHange の略)に加えてソフトウエア を使用した故障推論技術なども出てきており、チップの故障箇所の絞込みには多種多様な方法がありま す。 また、近年では DLS(Dynamic Laser Stimulation)解析、微細プロービング技術など新たな解析手法も 登場してきており、故障箇所を絞り込むために複数の解析手法を組み合わせて実施してはじめて絞り込 むことができるという状況になっているのが実情です。そのため、故障解析にかかる時間も膨大なもの となっており、故障原因判明率の改善・向上とともに、解析開始から終了までの TAT(Turn Around Time の略)の短縮も現在の故障解析技術の課題となっています。 ここでは、様々なチップの故障箇所特定解析手法の中から主なものを抜粋して、その役割、機能など を説明します。 3-12 3.3.7.2 パッケージ開封技術・積層チップ除去技術 パッケージの種類にはモールド樹脂を使用したものやセラミックを使用したものなどがありますが、 ここでは広く一般的に使用されているモールド樹脂の開封に関して説明します。基本的には薬品を使用 して樹脂を溶かしてチップ表面を露出させる方法を取ります。 開封手法としては 1)開封装置を使用する。 2)ジグなどを使用して人の手作業で開封する。 があります。 一般的に 1)の開封装置を使用すると開封技術や熟練を必要とせずに誰でも容易に開封ができると認 識されていますが、開封中の作業状態が外からは見えずどこまで開封されているのかがわからない、薬 液の温度や流量など条件の少しのズレでエッチングレートが変化しやすいなどの問題があり、電気的特 性を保持したままの状態での開封にはあまり向いていない方法です。 サンプル数の少ないクレーム解析では開封作業で失敗をしてしまうと、後の解析続行がほぼ不可能と なるので、当社ではほとんど人の手作業での開封を実施しています。近年では薬品を使用して開封でき ない樹脂も増えてきており、他の手法を模索していますが、最適な方法が見つかっていない状況でもあ ります。今後はこの部分の技術確立が急がれます。 また、SiP 製品などの場合、多くはチップを積層して組み立てています。この場合、故障解析対象の チップが下層にある場合は上層に積層されているチップなどが解析の際に邪魔になりますので除去する 必要があります。但し、上層のチップを除去する際に故障解析対象のサンプルを破損することは絶対に 避けなければなりません。そのため、我々は高精度で加工をコントロールできる切削機を使用し、失敗 なく確実に不要な積層チップなどを除去する技術を確立しています。(図 3-12 参照) 3-13 図 3-12 高性能切削技術 3.3.7.3 故障箇所特定技術 チップ内部の故障箇所特定技術としては、従来より機械的プロービング技術や EB(Electron Beam の 略)テスティング技術、発光解析技術、発熱解析技術などが広く知られています。近年の半導体デバイ スの微細化、高集積化、多機能化、高速化などにより、これら解析手法単独では故障が見つからないケ ースが増えてきており、さらに新しい手法を含む複数の解析手法を併用してピンポイントへの絞り込み を行う必要が出てきています。しかし、どれをどのように組み合わせて使用して絞り込んでいくかは、 電気的特性確認時に得られた情報から都度判断しながら進める必要があるため、書き表すことは困難で す。 ここでは、故障解析で良く使用される手法や最新の技術で単独で使用したらどのようなことに使え、 何がわかるのかにフォーカスして説明します。 3-14 3.3.7.3.1 故障推論技術 近年、LSI における回路の大規模化、高速化にともない、回路の電気的解析の難易度は著しく高くな っています。その理由は LSI のほとんどの部分が複雑なデジタル論理回路で構成されており、論理回路 のどの部分が故障しているか何の手がかりもなく絞り込むのはもはや不可能です。 ここではこの問題を打開すべく開発された故障診断技術について触れます。故障診断技術は文字どお り故障を診断する技術で、あらかじめ設計段階で作成された故障診断用テスト環境を使用することで、 論理回路上のどの部分に問題があるのか想定することができます。故障診断用のテスト環境には、すべ ての論理回路上で起こる可能性があるすべての故障(断線、ショートなど)が登録されているデータベ ースがあります。これは故障データベースと呼ばれています。またこのデータベースを元に故障を検査 するテストプログラムも作成されており、このプログラムでテストを行うことで、LSI に想定された断 線、ショートなどの不良が起こっている場合、その不良を検出することができます。またこのテストの 結果を故障データベースと比較することで、どの論理回路で不良が起こっているか予想することができ ます。この診断結果をガイドとして各種詳細解析を行うことで、物理異常発見率が飛躍的に向上します。 3-15 従来の故障診断技術は断線、ショートなど完全な故障しか対象としてなかったのですが、近年プロセ スの微細化による信号の遅延系故障などを対象とした診断技術も開発され、今後さらなる発展が期待さ れます。(図 3-13 参照) 論理/レイアウト設計 ・故障データベース登録 ・チップレイアウト設計 故障 データベース チップ レイアウト 設計 テストプログラム 作成 テスト プログラム 測定 解析 測定結果 結果比較 不良 予測箇所 図 3-13 一般的な故障推論フロー 3-16 3.3.7.3.2 発光解析技術 半導体デバイスの電流リーク解析手法としては、よく知られる手法のひとつです。 一般的に、電流リークはホットエレクトロンや少数キャリア再結合などにより極微弱な発光を伴いま す。 また、ラッチアップや中間電位による貫通電流、通常のトランジスタ動作においても電流が流れるた め発光を伴います。これらを超高感度冷却 CCD カメラ(有効感度はおよそ 200nm~1000nm)を使って 検出し、半導体デバイス回路のどこで発光しているかをイメージ化し、故障箇所を絞り込む手法です。 (図 3-14 参照) ●発光写真 ●異常個所写真 ゲート酸化膜 破壊 図 3-14 発光解析写真 近年では、より赤外波長部分に感度がよくなる MCT カメラや、新しいタイプの InGaAs カメラ(有 効感度はおよそ 800nm~2000nm 付近)も登場してきています。このカメラは赤外領域における感度特 性が非常に優れているため、チップ裏面からの発光をとらえるのに非常に有効です。この手法は、高集 積化、多層配線化された半導体デバイスを、チップ裏面からシリコンを透過してくる赤外光を観察する ことにより解析する場合に用います。 3-17 また、一般に冷却 CCD カメラより InGaAs カメラの方が高感度と誤解されがちですが、それぞれとら える波長帯域が異なるため、一概にどちらが高感度ということはいえません。但し、トランジスタを取 り囲んでいる材料がシリコンを主に使用しているため、シリコンを透過しやすい赤外光に対して非常に 感度がよい InGaAs カメラの方が近年の半導体デバイスの解析には有利です。(図 3-15 参照) ■各種検出器の感度特性較表 100 ホットキャリアの発光領域 量子効率(%) 90 80 InGaAs 70 60 50 40 MCT Cooled CCD 30 20 10 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 波長(nm) 図 3-15 検出器ごとの発光感度特性 発光解析手法の良いところは、AC/DC どちらの状態でも解析可能という点です。但し、電流により 何らかの発光を伴うため、発光解析によりとらえた発光の意味を充分に吟味し解釈する必要があります。 発光箇所が必ずしも故障箇所とは限りませんので、発光解析だけではなく、複数の解析手法を併用し て、総合的判断で故障箇所の絞込みをすることが重要です。 3.3.7.3.3 IR-OBIRCH 解析技術 この解析技術は以下の原理によって、配線間ショートや高抵抗部分などの故障箇所を特定することが できます。 ・ 定電圧を印加した配線に近赤外レーザを照射して部分的に加熱する。 ・ 温度変化が生じ配線抵抗が変化して、配線を流れる電流も変化する。 ・ この電流変化を高感度アンプで検出することで故障箇所を特定する。 3-18 原理からわかるように、故障箇所に近赤外レーザが照射された時の電流変化をとらえる手法のため、 上述の発光解析とは異なり反応箇所がほぼ故障箇所として検出されます。但し、DC レベルでの解析し かできないために LSI テスターなどを使用しないと故障が再現しないような不具合モードには不向きで す。近赤外レーザはシリコン基板を透過するため、チップ裏面解析も容易です。(図 3-16 参照) <OBIRCH写真①:TCR 正> <OBIRCH写真②:TCR 負> ●異常個所写真 過電流による ゲート破壊 図 3-16 OBIRCH 反応事例 3.3.7.3.4 近年使われ始めた解析技術 (1)DLS(Dynamic Laser Stimulation の略)解析技術 半導体デバイスの微細化&高速化に伴い、時間遅延によるマージン性不良が増加しています。マ ージン性不良は動作条件次第で Pass する不安定なモードであり、既存の解析手法では絞込みが難し く、不良を特定する解析手法として、近年 DLS が注目されています。 DLS は時間遅延不良の多くが温度依存を持つことに着目し、局所的 Laser 照射による温度変化を利 用した解析手法です。LSI テスターによりデバイスを動作させ、デバイス表面または裏面から波長 3.3μm の赤外レーザを照射すると、照射箇所の温度が変化し、結果としてデバイスの Pass/Fail が 反転する。この Pass/Fail 変化を LSI テスターから読み込み、レーザ画像と重ね合わせ表示するこ とで不良箇所の特定を行います。 3-19 DLS はボイドなどの配線欠陥やトランジスタの特性異常のように温度依存性が高い不良を特定す る有効な解析手法であると期待されています。一方、デバイスを長時間繰り返し動作させる必要が あるため、デバイスの発熱を考慮した温度管理、および局所的レーザ照射で Pass/Fail が変化する テストパラメータ設定など非常に条件設定がシビアな解析手法です。(図 3-17 参照) <Shmoo> * : Pass、 . : Fail マージナル不良 不良品 良品 2.0V 2.0V 1.6V 1.6V 解析ポイント: マージンの境界に 条件設定 25 ℃ 1.1V 25ns 40ns 1.1V 25ns 40ns DLS反応 コンタクト高抵抗不良 図 3-17 DLS 解析事例 (2)微細プロービング技術(SEM 式プローバー、AFM 式プローバー) 微細な探針を用い、露出された半導体素子の配線やコンタクトに直接プロービングして電気特性 を取得する技術です。従来は光学像による機械的探針が主流でしたが、近年の半導体素子微細化に より、主に以下の微細プロービング技術が用いられています。 ① SEM 式プローバーによるプロービング 従来の光学像を用いたプローバーから、走査電子顕微鏡内に挿入された金属探針を用いて SEM 画像を見ながらプロービングを行う、ナノ・プローバと呼ばれる装置が主流となりつつあります。 ナノ・プローバはピエゾ素子によりナノレベルで制御可能な高精度探針と、電界放出型電子銃に よる高い分解能を有し、最先端プロセスの配線やコンタクトに直接プロービングすることが可能 です。さらに電子ビームを利用して EBAC*(Electron Beam Absorbed Current の略)との併用が可 能であり、最先端 LSI の解析手法として重要な役割を占める装置として今後ますます期待されて います。(図 3-18 参照) 3-20 図 3-18 プロービング画像 *EBAC に関しては後述で説明します。 ② AFM(Atomic Force Microscope)を利用したプロービング 原子レベルの鋭利な探針により試料表面を走査し、原子単位の表面形状や電子状態を測定する 装置を総称して走査プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)と呼び、SPM には検出対 象となる物理量により様々な方式があります。このうち原子力間顕微鏡(AFM)はカンチレバー と呼ばれる微小な板ばねを探針として、試料表面に接触させながら走査し、試料の表面状態によ るカンチレバーの変位量を検出して AFM 画像を取得します。 現在、当社では上述の SEM 式プローバーに加えて、AFM プローバーも保有しており、取得し た AFM 画像をもとにカンチレバーを配線やコンタクトにプロービングして素子の電気特性取得が 可能で、特にアナログ製品の特性評価などに使用しています。(図 3-19 参照) 3-21 <AFM画像> <カンチレバー&プローブ> W製プローブ カンチレバー 先端径100nm以下 図 3-19 AFM 画像 (3)EBAC 技術 半導体デバイスの素子微細化や多層配線化に伴い、各層をつなぐ配線ビア起因の不良が増加して おり、さらに配線ビアの不良はエミッションや IR-OBIRCH などの既存解析手法では絞込み困難なう え剥離解析による 2 次元的観察では確認できないことが多いため、効果的な解析手法が必要となり ます。 EBAC は上述の配線ビアオープンや高抵抗不良に有効な解析手法であり、デバイスに電子ビーム を照射し、金属配線に吸収される電流(=吸収電流)を利用しています。装置原理は SEM 式プロー バーを用いた高精度なメカニカルプローブで特定の配線やコンタクトに直接プロービングした状態 で電子ビームをデバイスに照射します。発生した吸収電流はプローブを通じてアンプで増幅され、 等電位経路が吸収電流像として表示されるため、断線や高抵抗箇所があるとその箇所を境にして吸 収電流像に明・暗のコントラストが生じ、不良特定が可能となります。(図 3-20 参照)原理的に高 抵抗であるほど検出感度が高くなりますが、プローブ手法やアンプの改良により現在では 100Ω前後 の低抵抗不良も検出可能です。 EBAC 解析が可能な深さは、電子ビームが深く注入されるほどビーム径が広がり空間分解能が低 下するので、実用的には最上層から 2~3 レイヤーが対象となり、それ以下のレイヤーは上層を剥離 する必要があります。このように EBAC は剥離解析と交互に実施して不良箇所を特定する電気的絞 込みと物理解析とをつなぐ解析手法です。 3-22 <EBAC画像> 図 3-20 EBAC 画像 3-23 3.3.8 チップ物理解析技術 3.3.8.1 概要 半導体デバイスの故障解析において、様々な解析手法を用いて故障箇所を絞り込んだ後で最終的に直 接故障箇所を観察するための技術です。時間をかけて故障箇所の絞込みを行っても、ここで失敗すると、 結局は何も情報が得られなくなるために非常に重要な技術となります。但し、異物付着、パターン崩れ など明らかに判明するケースもあれば、物理解析を実施しても故障が見つからないケースもあります。 見つからないケースとしては、 1)故障箇所の絞込みの仕方が不十分であり、他の場所に故障箇所があったケース 2)故障箇所は間違いなく絞り込めているが、 ① 物理解析中の異常見落とし ② 物理解析手法の選択ミス(平面剥離解析が良いのか断面解析が良いのかの選択ミス)により 異常を観察しきれなかった ③ 物理的に目視できるレベルの異常ではなかった(ゲート酸化膜耐圧不足、結晶欠陥など) のケースなどが主に考えられます。 いずれにしても、物理解析エンジニアの力だけでは故障原因の判明には至りません。また、絞込みの 段階で如何に正確に、如何に狭い範囲で絞り込むことができるか、絞り込んだ後の解析手法(平面から のアプローチか断面からのアプローチかなど)を如何に選択するのかが非常に重要で、その後の判明率 を左右します。 当社では、故障解析に携わっている各種分野のエンジニアが常に連携して、場所の絞込み・最適手法 の選択を行い、その上で物理解析を実施することを徹底し、故障原因判明率の向上に努めています。 次から個々のチップ物理解析技術を紹介します。 3.3.8.2 層間剥離技術 様々な解析手法を使用して絞り込んだ故障箇所を、SEM などを用いて物理的に観察を行なうために は、回路を形成する配線層や層間絶縁膜を一層ずつ剥離する必要があります。代表的な処理方法として、 以下の手法が挙げられます。 (1)ウェットエッチング(Wet Etching) ・ 薬液を用いて、各配線層/層間絶縁膜などのエッチングを行います。 ・ 材料に合わせた薬液を用いるため選択性に優れていますが、等方性エッチング(縦方向/横方向と もにエッチングが進む)ですので微細プロセスには適用困難です。 3-24 (2)ドライエッチング(Dry Etching) ・ 気体と固体(被加工材料)との物理的、化学的反応によりエッチングする方法で代表的な手法に RIE(Reactive Ion Etching の略)があります。 ・ 異方性エッチング(一方向だけにエッチングが進む)のため、微細な加工が可能です。 (3)表面研磨(Surface Polishing ) ・ 表面研磨機と研磨剤を用いて、選択性なくあらゆる材料の除去を行なう手法で、試料表面を平坦に 仕上げることが可能です。 最近の半導体デバイスは、平坦化プロセス(CMP:Chemical Mechanical Polishing の略)や Cu 配線プ ロセスが採用されているため、層間絶縁膜をドライエッチングで、配線層を表面研磨で剥離する手法が 主流となっています。 3.3.8.3 チップ表面・裏面観察技術 実際に故障原因を見つけるための観察装置として、目的(観察対象物の大きさや見たい場所など)に 応じて実体顕微鏡、金属顕微鏡、赤外線顕微鏡、電子顕微鏡などを使用します。実体顕微鏡は主にパッ ケージなどの外観観察、金属顕微鏡は主にチップ表面観察などに使用します。また赤外線顕微鏡はシリ コンを透過しての観察が可能ですので、保護回路の破壊が疑われる場合など膜剥離せずに、チップ裏面 からの観察に使います。光学顕微鏡でも理論的にはサブミクロンレベル分解能は有していますが、実際 の観察可能レベルは、数ミクロンレベルの異常の観察などに用いられます。しかし、電子顕微鏡と異な り、大掛かりな装置や試料の前処理なども不要なので手軽に用いることができるため、故障解析の際に は電子顕微鏡で観察する“事前観察”として使用します。 実体顕微鏡・金属顕微鏡・赤外線顕微鏡は光学顕微鏡ともいわれ、光(可視光や赤外光)を試料に当 てて観察するのに対して、電子顕微鏡は文字どおりに“電子”を試料に当てて観察する顕微鏡です。電 子顕微鏡の利点は原子レベルの大きさのものが観察できる分解能を有しているところにあります。しか しながら、装置自体が大掛かりで高額(数千万円から数億円程度)な上、磁場や振動などの影響を受け ない専用の部屋が必要であり、観察試料も場合によっては前処理などが必要で観察までに時間がかかり ます。 電子顕微鏡にも大きく 1)走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope の略) 2)透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope の略) の 2 種類があります。 ここでは表面観察に使用する SEM に関して少し説明をし、TEM に関しては別項で説明します。 3-25 走査型電子顕微鏡(SEM) 3.3.8.3.1 SEM は試料に電子線を当てて、そこから出てきた反射電子、二次電子、特性 X 線のうち、反射電子 や二次電子を検出器に集めてその情報を画像化して観察をする装置です。このうち、反射電子は組成像、 二次電子は表面の凹凸像(図 3-21 参照)を得ることができ、残りの特性 X 線を利用すれば EDX などで 元素分析が可能となります。主に平面剥離試料の観察に用います。また、SEM 観察時はグランドに接 続されている金属物は明るく、フローティングしている金属物や絶縁膜は暗く観察されます(図 3-22 参照)ので、VC 法(Voltage Contrast の略)という解析手法にも用いることが可能です。 半導体デバイスの場合、配線材料以外は絶縁膜(SiO2など)を使用しているために、観察中に電子線 を長時間当て続けることでデバイスが帯電し綺麗な像が観察できない、焼付きを起こすなど、その後の 解析継続に様々な不都合が発生します。したがって、観察時には必要最小限の時間で素早く観察を終了 させるか、試料表面にカーボンや金などの導電性物質をコーティングすることで帯電を防ぐケースもあ ります。 <Solder Bump反射電子像> <Solder Bump二次電子像> 図 3-21 反射電子像と二次電子像 3-26 <不良品のSEM写真> <正常品のSEM写真> 赤枠はシリコン基板につながるContactであるため正常であれば電荷が抜け明るいコントラストになります。 一方、不良品は暗いコントラストであることから電荷が抜けない(=高抵抗or Open)と判断できます。 図 3-22 VC 法の写真 3.3.8.4 断面解析技術 チップの断面観察には主に断面試料作成用として FIB を使用します。また、作成した試料断面の詳細 観察に TEM を用います。観察対象部分を、FIB を用いて薄片化し、それをマイクロサンプリング法で 取り上げ、TEM 用のホルダーに設置して TEM を用いて断面詳細観察を実施します。ここでは、FIB と TEM に関して説明します。 3.3.8.4.1 FIB イオン源として主にガリウム(Ga)を使い、これを電界で加速したビームを試料表面に当て、表面の 原子を弾き飛ばすことで必要な場所をエッチングすることが可能です。ビームは数百 nm 程度まで絞る ことができるため、サブミクロンレベルの加工ができます。また、もうひとつの機能として、導電性膜 や絶縁膜を蒸着することも可能です。断面解析加工の他、上記機能を使って、半導体回路の配線修正な どもできるので、開発品のバグ修正試料を短期間で作成することが可能です。また走査イオン顕微鏡像 (SIM:Scanning Ion Microscope の略)を観測することができ、上記エッチングや蒸着中の試料断面観 察も容易にできます。この SIM 像はグランドに接続されている金属配線は明るく、フローティングし ている金属配線や絶縁膜は暗く観察されますので、SEM 観察と同様に VC 法という解析手法にも用いる ことが可能です。しかし、観察中は Ga イオンが試料表面に常に当たって観察部位がエッチングされる ため素早く観察する必要があります。 3-27 3.3.8.4.2 TEM TEM は試料に電子線を当てて、その試料を透過してきた電子を試料と反対側にある検出器で集めて その情報を画像化して観察する装置です。試料の構成成分により電子線の透過量に差が出るためにその 情報を画像化し試料構造を観察します。したがって主な用途は断面観察となります。(図 3-23 参照) <GaAs Epi.転位> <W via高抵抗不良> 転移 転移 筋のように見える箇所が転移(線状欠陥)で シリコンの結晶配列がくずれている状態です 図 3-23 TEM 画像 しかし、電子を透過させるために、加速電子を超高圧(100kV~1000kV 程度)にして透過させる必要 があり、これらの加速電圧を得るために装置が大きく(全長約 2m~8m 程度)設置場所が限られるのが 欠点です。最近では前述の FIB などを使用して試料をより薄く加工することが可能となり、また FIB 加 工時のダメージ層を除去して仕上げる技術(Ar ミリング)も進んでいるため、より低加速で透過させ ることが可能となってきています。また、SEM と TEM の両方の機能を併せ持つ走査型透過電子顕微鏡 (STEM:Scanning Transmission Electron Microscope の略)も多く使用されています。 3.3.9 分析技術 3.3.9.1 概要 半導体デバイスを故障解析した際に、異物の付着や金属配線材料の変色など様々な異常が確認される ことがあります。分析技術は、これらの元素や材料を同定することで発生原因プロセスを究明し、該当 プロセスの改善を行なうために用います。 分析装置には様々な種類のものがありますが、ここでは半導体デバイスの故障解析によく用いられる 装置を説明します。 3-28 3.3.9.2 FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy の略)分析 この分析方法は物質に赤外線を照射した際の化合物分子の赤外線吸収を利用して有機系異物の元素結 合状態の情報を得る測定方法です。得られたスペクトルより、測定対象物に含まれる官能基が分かるた め、物質の同定が可能です。なお、既知試料、データベースのスペクトルと比較することにより、容易 に成分の判断を行うことができます。また、大気中で測定を行うため、固体、液体、気体の定性、定量 分析が可能です。(図 3-24 参照) 付着物のFT-IR分析結果 Wafer表面異物付着 ポリイミド(Wafer表面)のFT-IR分析結果 図 3-24 FTIR 分析事例(既知資料との比較の事例) 3-29 半導体デバイスの故障解析の場合、異物が微小であるため、顕微鏡を用いた顕微反射法と顕微透過法 で測定します。ボンディングパッド、ランドなど金属上付着物の場合、非破壊で測定可能な顕微反射法 を主に用います。基板など有機物上に付着した異物の場合には、サンプリング後、顕微透過法を用いま す。なお、これらの最小分析エリアは約 15μm×15μm です。 また、反射法の一つに ATR(Attenuated Total Reflectance)法がありますが、これは固体表面層(約 1 μm)のみを測定する手法です。結晶をサンプルに接触させる手法であるため、凹凸のあるサンプルは 不可、また、分析エリアは約 100μm×100μm 以上と、対象物に制限があります。但し、非破壊で分析 が可能なため、不具合を維持したままの測定が可能です。その他、表層分析が可能なため、例えばテー プ類の両面の成分データを取得することができます。 FT-IR 分析は、特に有機化合物の同定では、分析の容易さ、データベースが充実しているという点で 最も有効な手法ですが、比較的低感度です。約 10%程度含有していないと検出されないといわれており、 数μm 程度の微小領域や汚染などの微量の分析には不向きです。 3.3.9.3 EDX/WDX (Energy Dispersive X-ray spectrometer/Wavelength Dispersive X-ray spectrometer の略)分析 この分析手法では、分析対象物(固体)に極細く絞った電子線を照射し、その際に発生する特性X線 を検出器で計測することで、元素を同定することが可能です。またその中に含まれる元素量を定量化す ることもできます。数ミクロンの深さの元素までを検出するために極表面分析には不向きです。検出方 法の違いで 2 種類の方法に分類され、 1)EDX(エネルギー分散分析): 発生した特定 X 線のすべてを、半導体検出器を用いて増幅して エネルギー別に X 線の波長を振り分け分析する方法 2)WDX(波長分散分析): 発生した特性X線のうち、任意の設定波長をもつ X 線の分光結 晶を使用し選別して分析する方法 があります。それぞれに得意不得意があり、EDX では WDX と比べて波長分解能は劣りますが、多くの 元素を同時に分析することが可能なために短時間での定性が可能です。波長分解能が劣ることから近接 ピーク同士が重なることが多く、注意深くデータを解析しないと誤った判断をする可能性があります。 また、軽元素の分析は不得意です。 WDX では EDX と比べて波長分解能が優れており、近接ピークが重なることが少ないために同定の誤 判定の可能性がなくなります。但し、分光結晶を用いながら一つのチャンネルで一つの元素を同定して いくことから極微量(10ppm 程度)な元素分析ができ、EDX では検出できない軽元素もカバーする反 面、分析時間が長くなるという不利な点もあります。 3-30 以上の特性を利用して、実際に分析する際には、EDX でおおよそどのような元素で構成されている のかを短時間であらまし分析し、その中の目的元素に関して、同定結果に間違いがないかの確認と詳細 な分析を実施する際に WDX を用いるのが一般的です。(図 3-25、図 3-26 参照) EDX分析ではSiのピークのみがみられるが、 WDX分析では他の元素も検出され、分解能 感度に優れていることが確認できる。 <EDX/WDXスペクトル> O スペクトル 1 スペクトル 1 黄色:EDX 分析ポイント Si 水色:WDX C N Ta 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 フルスケール ED 148 カウント フルスケール WD 45296 (100xcps) カ keV Si Ta W 1.65 1.7 1.75 1.8 1.85 フルスケール ED 1976 カウント フルスケール WD 152908 (100xcp keV 図 3-25 EDX/WDX による分析事例 <EDXマッピング> SEM像 C <WDXマッピング> Sn Ni O Al Ni NiのみをWDX分析で抽出した 場合、ノイズが除去され、本来の Niのイメージ図を取得することが Si Ti Cu EDX分析では多元素を同時に短時間で分析可能。 但し、ピーク分解能が悪く、ノイズも拾うため、正確な元素分布が確認できない ケースもある。(Niを例に取ります) 図 3-26 EDX/WDX による分析事例 3-31 可能である。 3.3.9.4 AES(Auger Electron Spectroscopy の略)分析 この分析手法では、分析対象物(固体)に極細く絞った電子線を照射し、その際に対象物の極表面 (表面から数 nm 程度)から発生するオージェ電子を分光検出することで、超高感度で元素を同定する ことが可能です。また、その中に含まれる元素量を定量化することもできます。 また、アルゴンイオンを用いてエッチングもできるため、深さ方向の元素分布(Depth-profile)を確 認し、どのエリアまで異常があるのか、汚染などが進行しているのかなどを確認することも可能です。 (図 3-27 参照) <Depth Profile)> <SEM画像(傾斜)> 半導体チップ PAD変色品 REF品 図 3-27 AES による分析事例 半導体デバイスの故障解析においては特に異物の分析やボンディングパッドや金属配線などの変色・ 腐食の分析、薄膜中の汚染分析などの目的に使用します。 3-32 3.3.10 異常と故障メカニズムの関連性の確認 故障解析を実施した際に特定された“異常”はそれが原因で故障を発生させているという確かな裏づ けを基に説明できることが重要です。“異常”があっても、故障原因にならないケースも多々あります。 例えば、配線パターンに形状異常が見られたとしても、隣接する配線と接触などしていなければ、見 た目がよくないということはいえますが、それが不具合の原因であるとはいえません。その場合は必ず 他に真の原因があるので、それを確実に見つけ出さなければ適切な改善には結びつきません。 このように、様々な解析手法を用いて異常を確認した場合には、それが不具合症状や電気特性との矛 盾を生じていないことが説明できなければなりません。説明できて初めて、故障原因の特定に至ったと いえます。しかし、不具合症状と故障原因が一致するかを確認することは、近年の半導体デバイスの高 集積化や回路の大規模化により不具合症状も複雑化してきており、解析技術エンジニアだけで確定させ るのが困難になってきています。 当社では回路設計エンジニア、製品技術エンジニア、信頼性技術エンジニア、プロセスエンジニアな どと協力しながら故障メカニズムを確実に解明し、適切な改善を実施して継続的な品質改善活動に取り 組んでいます。 3-33