6 小型ワイドレンジ加速度計(JA-26)の開発 Development of Miniature and Wide-Range Accelerometer (JA-26) 術 紹 介 相座 明俊 Akitoshi Aiza 航機事業部 第二設計部 主任 山本 修一 Shuichi Yamamoto 航機事業部 第二設計部 キーワード:加速度計、計測範囲、振動感度 要 旨 当社は、ワイドレンジ型(すなわち、広い計測範囲を持つタイプ)のサーボ加速度計として JA-5SW(φ 25.4mm × 18.8mm)を現在提供しています。このたび、ワイドレンジ型の新しい サーボ加速度計として、体積を JA-5SW の半分以下とすることを狙った、JA-26(φ18.7mm × 16.1mm)の試作に成功した。 SUMMARY JAE has been supplying wide-range (wide measurement range type) servo accelerometer JA-5SW (φ25.4mm × 18.8mm). As an enhanced version of JA-5SW, we successfully developed a prototype of JA-26 (φ18.7mm × 16.1mm) aimed at reducing its volume by half. 18.7mm 25.4mm 16.1mm 18.8mm 技 小型 ワイドレンジ 加速度計 JA-26 既存 ワイドレンジ 加速度計 JA-5SW 写真 1 加速度計の外観 航空電子技報 NO.24 2001-3 1 はじめに 2 目標仕様 あらゆる工業製品に対して、小型化,軽量化,低消費電力化 JA-26 型加速度計の目標仕様を表 1 に示します。同表に への要求が一般的にありますが、特にワイドレンジ型のサー は、比較のため、既存の JA-5SW 型加速度計の仕様も併記 ボ加速度計の場合は、小型の飛翔体に主に使われることか しています。図 1、図 2 はそれぞれの加速度計の寸法を示し ら、この要求が強くあります。当社は、この要求に沿い、既 ます。表 1 のとおり、計測範囲は両者ともに± 490m/s 2 存のワイドレンジ型加速度計 JA-5SW に対して、同等の計 (≒± 50G)で同等ですが、サイズ、質量、消費電流について 測範囲を持ちながら、体積で 50%、質量で 40%、消費電流 は JA-26 型加速度計の仕様を前述したようにかなり小さく で 40%の小型サーボ加速度計 JA-26 の試作に成功しまし しています。また、JA-26 型加速度計では、「振動感度」の た。この小型の JA-26型加速度計と既存の JA-5SW 型加速 目標を設定しています。この「振動感度」は、加速度計が振動 度計の外観の様子を、写真 1 に示します。 を受けたときの加速度計の誤差を規定した項目であり、加速 度計をダイナミックな運動をする小型飛翔体に搭載したとき に特に重要視される項目です。 なお、JA-26 型加速度計の環境条件は、想定される使用 条件から、表 2 に示す目標を設定しました。 表 1 JA-26 型 加速度計の目標仕様 No. 項 目 単 位 JA-26 型加速度計 の目標仕様 既存の JA-5SW 型加速度計 の仕様(参考) 1 電気的特性 1.1 電源電圧 V ±14.25 ∼ ±15.75 ±15 ∼ ±18 1.2 消費電流 mA 8.0 以下 20.0 以下 2 性能 m/s2 ±490.5 以上 [±50G 以上] ±490.5 以上 [±50G 以上] mA/(m/s2) 0.102 ±10% [1mA/G ±10%] 0.115 nomi [1.13mA/G nomi] 2.1 計測範囲 2.2 感度(@25℃) 2.3 バイアス(@25℃) m/s2 ±0.147 [15mG]以下 ±0.0785 以下 [±8mG 以下] 2.4 ミスアライメント(@25℃) mrad ± 3 以下 ±2 以下 2.5 周波数特性(at − 3dB) Hz 1000 以上 (ζ =0.2 ∼ 0.8) 1000 以上 (ζ =0.2 以上) 2.6 感度温度係数 ppm /℃ ±180 以下 ±200 以下 2.7 バイアス温度係数 μ(m/s2)/℃ ±981 以下 [±100μG/℃] ±981 以下 [±100μG/℃] 2.8 ミスアライメント温度係数 μ rad /℃ ±5 以下 ±5 以下 2.9 振動感度 3 質量 4 サイズ m/s2 ±0.0294 以下 [±3mG 以下] (表 2 のランダム振動(作動) を印加したとき) g 20 以下 50 以下 φ18.7 × 16.1 φ25.4 × 18.8 mm (体積:約 4.4cm3 ) 図 1 参照 (体積:約 9.5cm3 ) 図 2 参照 注:[ ]内は、従来単位系である“G(重力加速度)”によるもので、参考とします。 なお、換算式は 1G = 9.80665m/s2 です。 技術紹介 6 −小型ワイドレンジ加速度計(JA-26)の開発 表 2 JA-26 型 加速度計の環境条件 No. 項 目 単 位 目標仕様 ℃ − 45 ∼ + 85 (m/s2)rms 作動:71.6[7.3Grms] 非作動:96.1[9.8Grms] 温度 2 ランダム振動 3 衝撃 m/s2 機能:147[15G] 構造:294[30G] 4 直線加速度 m/s2 784[80G] 定しました。 φ 18.7MAX. 1 づき、磁石の形状・サイズ、及び、コイルの線径・巻数を設 図 3 JA-26 型加速度計の構造図 (2) 振動感度低減設計 前述のとおり振動感度は、 振動条件下で発生する加速度 計の誤差ですが、この誤差は、振子の変位検出器の非対称 図 1 小型ワイドレンジ加速度計 JA-26 の寸法 性、及び、サーボループ電子回路のアンプ部の非対称性 により発生します。これに対し、電子回路内に調整部を 設けて、前記の非対称性を全体として軽減する設計とし ました。 4 試作評価結果 前述の設計に基づいてJA-26型加速度計を11個試作し、 これらを評価した結果を表3に示します。同表中の評価項目 のうち、感度、バイアス、ミスアライメントの各温度特性に ついては、その試験データの 1 例を図 4 に示します。 これらの評価の結果、試作したすべての加速度計におい 図 2 既存のワイドレンジ加速度計 JA-5SW の寸法 て、目標仕様の全条件を満足する成果を得ました。すなわち、 計測範囲、消費電流について目標仕様を満たしながら、加速 3 設計のポイント 度計のいわゆる「性能グレード」を表す指標である感度、バイ アス、ミスアライメントの各温度係数、及び、JA-26 加速度 計の主要課題である振動感度が、余裕をもって目標仕様を JA-26 型加速度計の設計のポイントは、次に示す 2点です。 満たしたことを確認しました。 (1) 磁気回路設計 図 3 に示すように JA-26 型加速度計の機構部の構成は 既存の JA-5SW 型加速度計と同一ですが、小さなスペー 5 むすび スに入るよう各機構部品はすべて新規に設計しました。 この機構部の設計のポイントは磁気回路設計です。すなわ 以上に示した試験結果により、JA-26 加速度計の試作品 ち、「 計測範囲」 の仕様で定めた最大の加速度を加速度計 は、目標仕様をすべて満たすことを確認しました。 に与えたときに振子の制御が適切にできるよう、大きな JA-26 型加速度計の次の目標は、今回試作品の仕様を維 リバランス力を確保することが必要になります。このた 持しながらローコスト化に向けて、開発を進め、製品化する め、当社がこれまでに蓄積してきた磁気回路設計技術に基 ことです。 航空電子技報 NO.24 2001-3 Scale Factor Bias 7 感度温度係数 目 標 仕 様: ± 180ppm/ ℃ 実 測 結 果 : + 54ppm/ ℃ 12 10 5 8 4 [×1000ppm] ミスアライメント温度係数 目 標 仕 様 : ± 5 . 0 μr a d / ℃ 実 測 結 果 : − 0 . 3 μr a d / ℃ 1.5 バイアス温度係数 目 標 仕 様 : ± 1 0 0μG / ℃ 実 測 結 果 : + 3 4 μG / ℃ 1.0 6 [mG] 3 2 1 4 [mrad] 6 Alignment 2.0 14 2 0 0 0.5 0.0 –2 –1 –4 –2 –6 –3 –60 20 –20 60 100 –0.5 –8 –60 20 –20 Temperature [℃] 60 100 –1.0 –60 Temperature [℃] –20 20 60 100 Temperature [℃] 図 4 JA-26 型加速度計の温度特性試験結果の例 表 3 JA-26 型 加速度計の試作評価結果 No. 1 項 目 単 位 目標仕様 評価結果 電気的特性 1.1 電源電圧 V ±14.25 ∼ ±15.75 良好 1.2 消費電流 mA 8.0 以下 6.1 ∼ 6.5 m/s2 ±490.5 以上 [±50G 以上] ±557.0 ∼ ±593.3 [±56.8G ∼ ±60.5G] mA/(m/s 2) 0.102 ±10% [1mA/G±10%] 0.100 ∼ 0.103 [0.98mA/G ∼ 1.01mA/G] 2 性能 2.1 計測範囲 2.2 感度(@25℃) 2.3 バイアス(@25℃) m/s2 ±0.147 [15mG]以下 −0.073 ∼ +0.081 [−7.41mG ∼ +8.26mA] 2.4 ミスアライメント(@25℃) mrad ±3 以下 −0.3 ∼ +1.5 2.5 周波数特性(at − 3dB) Hz 1000 以上 (ζ =0.2 ∼ 0.8) 2198 ∼ 2358 (ζ =0.26 ∼ 0.32) 2.6 感度温度係数 ppm /℃ ±180 以下 +53 ∼ +58 2.7 バイアス温度係数 μ(m/s2)/℃ ±981 以下 [±100μG/℃] +177 ∼ +539 [+18μG ∼ +59μG] 2.8 ミスアライメント温度係数 2.9 振動感度 3 質量 4 サイズ 5 耐環境性 μ rad /℃ ±5 以下 −0.3 ∼ +1.2 m/s 2 ±0.0294 以下 [±3mG 以下] − 0.0098 ∼ +0.0118 [−1.00mG ∼ +1.23mG] g 20 以下 17.6 ∼ 17.7 mm φ18.7 × 16.1 図 1 参照 良好 ℃ − 45 ∼ + 85 良好 (m/s2)rms 作動:71.6[7.3Grms] 非作動:96.1[9.8Grms] 良好 5.1 温度 5.2 ランダム振動 5.3 衝撃 m/s2 機能:147[15G] 構造:294[30G] 良好 5.4 直線加速度 m/s2 784[80G] 良好 技術紹介 6 −小型ワイドレンジ加速度計(JA-26)の開発