特集 エネルギーマネジメントに 貢献するパワー半導体 ピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 PWM Power Supply Control IC “FA8B00 Series” Capable of handling Peak loads 松本 晋治 MATSUMOTO, Shinji 山根 博樹 YAMANE, Hiroki 藪崎 純 YABUZAKI, Jun 近年,ノート PC やインクジェットプリンタの分野では,新 CPU への対応やモータ駆動負荷などに向けた最大出力電力 の増大が要求されている。富士電機では,これらの要求に応えたピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 を開発した。この IC は,FB 端子電圧の上昇に合わせてスイッチング周波数を最大で 130 kHz まで上昇させることができ るため,トランスの体積を増やすことなく電源の最大出力電力を増大することができる。さらに,スイッチング周波数ジッ In recent years, the notebook computer and inkjet printer market requires increasing the maximum output power for new CPUs and motor drive loads. To meet these requirements, Fuji Electric has developed the“FA8B00 Series”of pulse width modulation (PWM) power supply control IC capable of handling Peak loads. This IC can increase the switching frequency up to 130 kHz in accordance with rise in FB terminal voltage, allowing it to increase the maximum output power of a power supply without increasing the volume of a transformer. Furthermore, the IC comes equipped with an expansion function for switching frequency jitter that enables it to achieve low EMI noise characteristics even against varying loads. magnetic Interference)ノイズ特性を実現した。 まえがき 表 近年,深刻な問題となっている地球温暖化を防止するた に FA8B00 シリーズの機能概要を,図 にブロッ ク図を示す。 めに,低炭素社会をつくることはますます重要となってい る。現代社会を支える各種電子機器においても,省エネル ギ ー 化 と EMC(Electromagnetic Compatibility) の 観 点 から,高効率,低待機電力,低ノイズが求められている。 富士電機では,このような社会的な要求に応えるため高効 率で,かつ低待機電力機能を内蔵したカレントモード電源 制御 IC を多数製品化している。一方で,ノート PC やイ ンクジェットプリンタの分野においては,新 CPU への対 応やモータ駆動負荷などに向けたピークパワー出力が要求 されている。 富 士 電 機 は, こ れ ら の 要 求 に 応 え た カ レ ン ト モ ー ド PWM(Pulse Width Modulation) 制 御 IC と し て, ピ ー クパワー対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」を 開発した。 図 1 「FA8B00 シリーズ」 製品概要 表1 「FA8B00 シリーズ」の機能概要 図 に FA8B00 シリーズの外観を示す。この IC は,電 FA8B00 シリーズ FA8A00 シリーズ (従来機種) スイッチング 周波数特性 3 段階の周波数特性 (25kHz − 65 kHz − 130kHz) 2 段階の周波数特性 (25kHz − 65kHz) OCP ライン 補正 ± 3.7% ± 6.5% IC の出力電圧 出力電圧のクランプあり 出力電圧のクランプなし スイッチング 周波数ジッタ 拡大機能あり 固定 25.7 mW 29.0 mW 項 目 源のピーク負荷に対応した 3 段階のスイッチング周波数 特性を持ち,電源の部品サイズを変更することなく最大出 力電力を増大させることができる。また,電源システムに 最適な各種保護機能を持つため,電源の安全性が確保でき 〈注〉 るものである。さらに,スイッチング周波数ジッタ の拡 大機能により,変動する負荷に対しても低 EMI(Electro〈注〉スイッチング周波数ジッタ:スイッチング周波数を一定の間隔 待機電力 と幅で変化させることにより,EMI ノイズ,特に伝導ノイズ を低減する IC の機能をいう。 電源平均効率 90.0 % 90.7% 89.7% 90.5% (V i=AC115 V)(V i=AC230 V) (V i=AC115 V) (V i=AC230 V) 富士電機技報 2015 vol.88 no.4 287(57) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 タの拡大機能により,変動する負荷に対しても低 EMI ノイズ特性を実現した。 ピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 vcc VH su_on 起動電流 制御 on uvloh VCC 低電圧誤 動作防止回路 startup 基準電圧調整回路 vcc_ovp vcc_det VCC 電圧 検出回路 vh_det ブラウンアウト clk VCC VDD5 VDD3 uvlo Xコンデンサ 放電回路 clk reset ソフトスタート 回路 発振器 reset ss su_on clk Dmax VH 電圧 検出回路 過電流保護 回路 fb PWM 発振器 Dmax スロープ R PWM コンパレータ CS DBL ドライバ 回路 ON 1ショット S CS 状態設定 回路 OUT RS フリップ Q フロップ ss su_on VDD5 S RS フリップ Q フロップ 過負荷保護回路 R fb FB olp_short GND FB ゲイン ラッチ電圧検出回路 LAT vcc_ovp clk reset olp_short latch ラッチ vh_det su_on uvlo スタートアップ マネージメント on monitor startup ctrl 図2 「FA8B00 シリーズ」のブロック図 3 . 2 OCP ライン補正の高精度化 主な特徴 過負荷時における出力電流は,交流入力電圧に比例し 3 . 1 ピーク負荷対応のスイッチング周波数特性 て 大 き く な る 特 性 を 持 っ て い る。 こ の た め, 低 入 力 時 FA8B00 シリーズでは,電源のピーク負荷に対応する (AC100 V 近辺)と高入力時(AC230 V 近辺)とでは,電 ため,新たに 3 段階のスイッチング周波数特性(25 kHz- 源回路が過負荷を検出する電流値に大きな差が生じてしま 65 kHz-130 kHz)を持っており,FB 端子電圧の上昇に合 う。従来機種では,交流入力電圧により変化してしまう わせてスイッチング周波数も最大 130 kHz まで上昇する CS 端子しきい値電圧の調整を行う OCP(Over Current (図 ) 。従来機種の「FA8A00 シリーズ」では,スイッ Protection)ライン補正機能を内蔵し,交流入力電圧 90 チング周波数が 65 kHz までしか上昇しないため,より大 〜 265 V の範囲内で,過負荷時の出力電流変動幅を±6.5 % きな最大出力を得るためには,トランスの体積の増加が まで狭めていた。 不可欠となりコストアップとなっていた。これに対して, FA8B00 シリーズでは,この機能をさらに交流入力電圧 FA8B00 シリーズでは,スイッチング周波数の高周波化が に対してフラットな特性となるように,制御の高精度化 可能なため,トランスの体積を変更することなく最大出力 を図った。図 を増大することができる。 較を示しており,FA8B00 シリーズでは出力電流変動幅を 6.8 65 25 負荷電流 FA8B00 シリーズ (出力電流変動幅 ±3.7 %) 6.0 5.6 5.2 4.8 従来機種 (出力電流変動幅 ±6.5 %) 4.0 バースト PWM PFM PWM 通常負荷以下 図 3 3 段階のスイッチング周波数特性 富士電機技報 2015 vol.88 no.4 288(58) 6.4 4.4 0 動作モード は,従来機種との過負荷時出力電流の比 7.2 スイッチング周波数変調 130 出力電流(A) スイッチング周波数(kHz) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 over load FB 電圧検出回路 通常 PFM PWM ピーク負荷 3.6 50 100 150 200 入力電圧(V) 図 4 過負荷時出力電流の比較 250 300 ピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 グを停止する。 7.2 ⑵ ブラウンイン・ブラウンアウト機能 出力電流(A) 6.8 交流入力電圧の低下時に電源回路の誤動作を防ぐために 6.4 6.0 5.6 Weak ブラウンイン・ブラウンアウト機能を内蔵した。この機能 は交流入力電圧が VH ブラウンアウトしきい値電圧まで低 Middle 5.2 4.8 下し,一定時間を経過すると OUT 端子からの出力パルス Strong を停止する。また,交流入力電圧が VH ブラウンインしき 4.4 い値電圧に達すると,スイッチングを開始する。 4.0 3.6 50 100 150 200 250 300 ⑶ 過電圧保護機能 VCC 端子電圧を監視する過電圧保護機能を内蔵した。 入力電圧(V) VCC 端子電圧が過電圧保護しきい値電圧以上まで上昇し, 図 5 OCP ライン補正の選択 一定時間以上継続するとスイッチングを停止する。 ⑷ 低電圧誤動作防止機能 た。VCC 端子電圧がオフしきい値電圧まで低下すると動 作を停止し,VCC 端子電圧がオンしきい値電圧に達する FA8BXX CS R1 と動作を開始する。 Rcs Ccs Rs 電源回路への適用効果 4 . 1 EMI 対策 図 6 CS 端子の回路構成例 従来機種には EMI 対策として,スイッチング周波数 65 kHz に対し,±7% の周波数変動を行うジッタ機能が内 表 2 補正量の調整 蔵されていた。この機能によりスイッチングのノイズエネ 抵抗値 ルギーを固定周波数方式に比べて分散できるため,伝導ノ Strong(大) 0.3 kΩ≦ Rcs または R1 + Rcs ≦ 0.5 kΩ イズの低減が可能であった。しかしながら,スイッチング Middle(中) 1.4 kΩ≦ Rcs または R1 + Rcs ≦ 2.1 kΩ 周 波 数 が 130 kHz か ら 65 kHz 間,65 kHz か ら 25 kHz 間 Weak(小) 3.9 kΩ≦ Rcs または R1 + Rcs ≦ 5.2 kΩ 入力電圧依存性補正量 で変動する領域内(周波数低減領域)においては,実質 ジッタ幅は 7 % 以下に低減してしまうため,ノイズ低減効 果が弱くなるという問題があった。これは,ジッタによる ±3.7 % まで低減した。また,この OCP ライン補正につい 周波数変化分を FB 端子電圧による周波数変動分が打ち消 ては,3 種類の補正量(Weak,Middle,Strong)からの し合うことにより,ジッタ振幅が小さくなるためである。 選択を可能にし,設計の自由度をより向上させた。補正量 そこで,FA8B00 シリーズでは,周波数低減領域でのジッ の選択は CS 端子に接続する外付け抵抗の値によって行う タ幅を,7 % から 14 % に拡大させるスイッチング周波数 (図 ,図 ,表 ) 。 3 . 3 各種保護機能 FA8B00 シリーズは,電源システムに最適な各種保護機 ジッタ拡大機能を新たに内蔵した。図 にスイッチング周 波数ジッタ拡大機能の概要を,図 にスイッチング周波数 ジッタ拡大機能の評価結果を,図 に伝導ノイズの電源評 価結果をそれぞれ示す。周波数低減領域内でのジッタ効果 能を内蔵しており,少ない外部部品で安全かつ安定した電 ⑴ 負荷短絡保護機能 電 源 出 力 の 短 絡 時 に お け る MOSFET(Metal-OxideSemiconductor Field-Effect Transistor)の破壊を防止す る負荷短絡保護機能を内蔵した。この機能は負荷短絡状態 における検出方法において 2 タイプあり,用途により使い 分けができる。VCC 端子電圧で検出するタイプでは,過 負荷状態において,VCC 端子電圧があるしきい値まで低 下した場合,即座にスイッチングを停止する。また,FB スイッチング周波数(kHz) 源を実現できる。 130 ±1 4 % 65 ±7 % 25 FB 端子電圧 端子電圧で検出するタイプでは,FB 負荷短絡保護検出電 圧を超える状態が一定時間以上継続した場合にスイッチン 図 7 スイッチング周波数ジッタ拡大機能の概要 富士電機技報 2015 vol.88 no.4 289(59) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 IC の電源電圧である VCC 端子電圧が低下したとき,IC の誤動作を防止するための低電圧誤動作防止機能を内蔵し ピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 スイッチング周波数特性 120 100 80 ジッタ特性 60 40 20 0 0 1 2 3 4 で説明したスイッチング周波数ジッタ拡大機能を新たに内 蔵しており,従来機種と比べて伝導ノイズを低減できるた ジッタ(±%) スイッチング周波数(kHz) ルやコンデンサを挿入する。FA8B00 シリーズは,4. 1 節 140 め,入力フィルタの小容量化や削減が可能である。 4 . 3 電源安全性の向上 FA8B00 シリーズでは,IC の OUT 端子電圧クランプ 機能を内蔵しており,VCC 端子電圧が 20 V 以上印加さ 5 れた場合でも,IC の出力電圧はおよそ 18 V でクランプさ FB 端子電圧(V) れ,それ以上 OUT 端子電圧が上昇することを防ぐことが できる。この機能により,ゲート保護やゲート電圧仕様が 図 8 スイッチング周波数ジッタ拡大機能の評価結果 20 V 以下のパワー MOSFET が使用できるため,電源安全 性の向上および部品のコストダウンが可能となる。図 80 雑音端子電圧(dBµV) を用いて従来機種と比較した待機電力および電源効率の測 マージン:−14.2 dB 70 ,図 に示す。FA8B00 シリーズは,従来 60 定結果を図 50 機種と比べて 3.3 mW の待機電力低減を達成しており,電 40 源効率においても従来機種と同等以上の実力を持っている。 30 20 10 35 0 0.15 0.5 1 5 10 20 30 入力電力(mW) 周波数(MHz) 図 9 電源の伝導ノイズの評価結果 を維持でき,規格に対するノイズマージンを約 10 dB 以上 従来機種 30 25 FA8B00 シリーズ 20 待機電力低減 3.3 mW 15 確保することができる。 10 50 4 . 2 電源部品削減効果 100 150 200 250 300 入力電圧(V) 電源から発生する伝導ノイズを低減するため,電源の入 力部分にノイズフィルタとしてコモンモードチョークコイ 図 1 1 待機電力 C11 交流入力電圧 90 ∼ 264 V C1 NF1 NF2 C2 DS1 ∼ + T1 C3 + C12 19 V/3.4 A L1 C13 + C4 ∼ − R12 D5 R2 R1 + C14 F1 D1 D2 D3 R6 C5 TR1 D4 GND R16 R13 R3 R4 R7 R17 PC1A R14 R10 R5 C15 C7 C6 R15 R8 + D4 C16 IC2 IC1 R18 8 7 6 5 FA8BXX 1 2 3 4 R9 TH1 t゚ 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 に評価用電源ボードの回路を示す。また,この電源ボード 90 R11 C8 PC1B C9 C10 図 1 0 評価用電源ボードの回路 富士電機技報 2015 vol.88 no.4 290(60) ピーク負荷対応 PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」 96 参考文献 ⑴ 藪崎純ほか. 第6世代PWM制御IC「FA8A00シリーズ」 . 富 電源効率(%) 94 FA8B00 シリーズ( =AC115 V) i 士電機技報. 2012, vol.85, no.6, p.452-456. 92 松本 晋治 90 FA8B00 シリーズ( 88 86 0 20 40 60 i スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,台 =AC230 V) 80 湾富士電機社パワー半導体製品設計。 100 負荷率(%) 図 1 2 電源効率 山根 博樹 スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,台 あとがき 本稿では,スイッチング電源回路のピークパワーに対応 した PWM 電源制御 IC「FA8B00 シリーズ」について述 べた。 今後もさらなる高効率化,低待機電力化,低ノイズ化を 藪崎 純 スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,台 湾富士電機社パワー半導体製品設計。 実現する新技術の確立を図り,市場のニーズにマッチした 製品開発を進めていく所存である。 富士電機技報 2015 vol.88 no.4 291(61) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 湾富士電機社パワー半導体製品設計。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。