エネルギーマネジメン 特集 トに貢献するパワー半 導体 第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 6th Generation PWM Controller IC: “FA8A00 Series” 藪崎 純 YABUZAKI Jun 山根 博樹 YAMANE Hiroki 小林 善則 KOBAYASHI Yoshinori 「FA8A00 シリーズ」は,新開発の 0.35 µm プロセス技術を適応した第 6 世代 PWM(Pulse Width Modulation)電源制 御 IC である。パッケージは SOP-8 ピンであり,500 V 保証の起動回路を内蔵している。新開発の X キャパシタの放電機能 により,従来必要であった放電抵抗をなくし,抵抗損失を約 20 mW 削減した。さらに,IC の消費電流を従来品の 30 % ま で削減したことで,電源全体で 30 mW 以下の待機電力を実現した。また,周波数低減特性の最適化により平均効率 89 % 以 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 上を実現しており省エネルギーと電源システムのコストダウンに貢献できる。 “FA8A00 series”is the 6th generation pulse width modulation (PWM) power supply control IC, which utilizes the newly developed 0.35 µm process technology. The package is a small outline package (SOP) 8-pin and builds in a 500 V-capable startup circuit. Through a newly developed X capacitor discharge function, the discharge resistance which was formerly necessary is reduced and about 20 mW of resistance losses are reduced. Furthermore, by reducing the IC current consumption to 30 % of the conventional products, the standby power of a whole power supply is realized 30 mW or less. Moreover, through optimization of frequency reduction properties, the average efficiency realizes 89 % or more. This can contribute to energy efficiency and cost reduction of power source systems. まえがき 低炭素社会に向けて省電力の要求が高まる中,さまざま な機器に使われるスイッチング電源についても待機電力や 平均効率の規格化が進められ,数年ごとに改訂されてきて いる。 特に近年,待機電力の削減の要求が大きくなってきてお り,ある調査では,一世帯当たり年間消費電力の約 6 % が 待機電力であると報告されている。これは実に年間消費量 の 3 週間分に当たる。今後,機器の高機能化や,ネット ワークの利用が拡大して常時稼動のシステムが増えること により,待機電力のさらなる増加が予想されており,対策 が急務となっている。 図 「FA8A00 シリーズ」 表 「FA8A00 シリーズ」の機能概要 富士電機では,100 V や 230 V の商用交流電源から直接, 起動電流を供給できる 8 ピンのスイッチング電源用制御 IC を系列化している。今回,従来品に比べて大幅に低待 項 目 機電力性能を向上させ,電気機器に最適な保護機能を付加 周波数低減動作 し た 第 6 世 代 PWM(Pulse Width Modulation) 制 御 IC 過負荷保護 交流入力電圧補正 「FA8A00 シリーズ」を開発した。 Xキャパシタ放電 IC消費電流 「FA8A00 シリーズ」の概要 FA8A00 シリーズはカレントモード PWM 制御 IC であ る。外観を図 1 に示す。この IC は,軽負荷時にスイッチ 待機電力(電源動作時) 89.2 % を達成した。表 図 「FA8A00シリーズ」 従来品 リニア低減+バースト リニア低減 内蔵 なし 内蔵 なし 400 µA 1.35 mA 30 mW以下 87 mW に FA8A00 シリーズの機能概要を, に FA8A00 シリーズのブロック図を示す。 ング周波数を低減させることで,軽負荷でも高効率を達成 することができるスイッチング制御 IC である。500 V 耐 0.35 µm 500 V プロセス・デバイス技術 圧の起動素子と,起動電流の定電流制御を行う回路から なる起動回路を備えている。また,負荷電流が減少して 今回,従来品よりもいっそうの低消費電力化,制御回路 ある一定以下になると,スイッチングを停止してバースト の高精度化を実現するため,新たに 0.35 µm プロセスを開 動作を行い,消費電力を極限まで下げることが可能である。 発した。低耐圧デバイスの微細化と 500 V 起動素子を融合 これにより,電源として待機電力は 28 mW,平均効率は させ,これまでアナログ回路で構成していた多くの回路ブ 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 452(64) 第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 起動回路 VCC VH uvloh VCC低電圧 誤動作防止 コンバレータ uvlo − 起動電流 制御 ON X コンデンサ 放電回路 startup REF. /Reg. reset + 基準電圧 _ 内部電源回路 放電時間 タイマ clk ブラウンイン / アウト回路 VCC 過電圧 保護回路 bo ソフトスタート 回路 発振器 reset clk ovp Dmax OUT 1shot PWM 発振器 ON S RSFF Q R PWM コンバレータ CS ドライバ 回路 DBL fb reset スローブ uvlo latch Dmax − + ライン補正 回路 35 V ss clk 過電流コンバレータ VH 電圧 検出回路 ラッチ時 VCC 放電回路 (1タイムクランプ) latch BO タイマ VCC 3V reg(内部回路用電源) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 − − + ss reg 過負荷保護回路 OLP_CS FB − + fb Reset reset FB電圧検出 コンバレータ 過負荷保護タイマ T1 Over load ctrl SCP S RSFF T2 Q olp_short GND R VCC ラッチ回路 reset ショート検出 コンパレータ reg LAT ラッチ コンパ レータ スタートアップ マネージメント olp_short clk ovp ラッチ ラッチタイマ latch Set Reset Reset bo on uvlo monitor startup ctrl reset 図 「FA8A00 シリーズ」のブロック図 ロックをデジタル化することで,低消費電力化が可能に る。 なった。 交流入力電圧 90 ∼ 264 V 主な特徴 . X キャパシタの放電機能 スイッチング電源で発生する伝導ノイズの交流ラインへ Rx Cx 0.4 0.5 〈注 1〉 の流出を低減するため,X キャパシタを接続することが一 般的である。ただし,X キャパシタによる感電を防止する ため UL60950 などの国際安全規格では,交流電圧遮断後 1 秒以内に,初期値の 37 % 以下までその両端電圧を下げ ることが定められている。図 図 Rx による Cx の放電回路(従来) に従来の放電抵抗 Rx によ る X キャパシタ Cx の放電回路を,図 に Rx による損失 40 (3 MΩ)を示す。従来は,Cx と並列に接続した Rx によ Rx による損失(mW) り放電を行っていた。1 秒間に 37% 以下まで放電するには, Cx を 0.33 µF とした場合,Rx は 3 MΩ以下にする必要が ある。これにより,交流入力電圧 264 V では 20 mW 以上 の損失が発生してしまう。30 mW 以下の低待機電力を実 現する上では,Rx での損失を削減することが不可欠とな 30 23.2 20 10 〈注 1〉X キャパシタ:X コンデンサとも呼ばれ,ノイズ除去を目的 としたコンデンサである。X キャパシタは,交流電源ライン 0 間に挿入する。蓄積電荷による感電の危険性があるため,国 0.33 0 0.1 0.2 0.3 F Cx 容量( ) 際安全規格 UL60950 などに放電電圧と放電時間が規格化さ れている。 図 Rx による損失(3 MΩ) 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 453(65) 第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 この機能には 30 ms 以上の遅延があるため,瞬時電圧低下 交流入力電圧 90 ∼ 264 V が起きても動作停止をしない仕様である。 ⑶ 過負荷保護機能 CS 端子電圧をカウント周期 500 µs ごとに検出するアッ Cx プダウンカウンタを持ち,CS 端子電圧があるしきい値以 上になるとカウントアップを始め,所定数カウント後に過 負荷と判断し,動作を停止する過負荷保護機能を内蔵し た。過負荷保護機能によりラッチ停止するタイプと再起動 VH FA8A00 (自動復帰)するタイプがある。さらに,ラッチタイプに は,モータ駆動などのピーク負荷に対応しカウント周期を 図 860 ms と長くしたタイプも系列化した。また,CS 端子電 FA8A00 シリーズを使ったときの放電回路 圧がさらに高くなると ON 幅を狭め,CS 端子電圧がある しきい値を超えないようにするリミット機能も併せ持つ。 373 V ⑷ 負荷短絡保護機能 過負荷状態でカウントアップしているときに VCC 電圧 37%へ低下 138 V があるしきい値以下まで低下した場合,負荷短絡状態とみ なし即座にスイッチングを停止する機能を持たせた。この 機能により負荷短絡時のパワー MOSFET(Metal-Oxide- Tacdet 56 ms Tcdis 31 ms Total 87 ms Semiconductor Field-Effect Transistor)の破壊を防ぐこ とができる。ただし,出力電圧を切り替えるタイプの電源 では,出力電圧を下げたときに VCC 電圧が通常動作より 図 Cx 放電時の動作波形 低くなり,負荷短絡を誤検出しやすくなってしまう。そこ で,負荷短絡状態を FB 端子電圧で検出するタイプも系列 そこで,FA8A00 シリーズでは X キャパシタ放電の機 能を取り込み,Rx をなくして 20 mW の損失削減を可能 荷短絡保護が実現できる。 に FA8A00 シリーズを使ったときの放電回 にした。図 路を, 図 化した。このタイプであれば,VCC 電圧に依存しない負 に Cx 放電時の動作波形を示す。IC の VH 端 電源回路への適用効果 子で交流入力電圧の遮断を検出し,IC に内蔵したスイッ チを制御して Cx の電荷を引き抜く。Cx を交流入力電圧 . 30 mW 待機電力と平均効率 遮断時の 37 % 以下にするまでに要する時間は,遮断検出 FA8A00 シリーズは,従来品と比較して消費電流を大 時間(Tacdet)を含め,Cx が 0.33 µF のときに平均 87 ms 幅に低減した。内部回路のデジタル化と内部回路用電源 となる。 の低電圧化を行い,消費電流は従来品の約 30 % となった。 本機能を使った場合,Cx を 1 µF としても放電までに要 これにより,X キャパシタ放電機能の追加によって Rx で 節)と合わせ,スイッチング する時間は最大 310 ms であり,安全規格に対し十分余裕 の損失をなくしたこと( . を持った設計が可能になる。 電源システムでの待機電力を 30 mW 以下にできた(図 ) 。 また,待機時は 25 kHz のスイッチング周波数でバース . 保護機能 ト動作を行う。一般的に,バースト動作ではスイッチング FA8A00 シリーズは,電源システムに最適な保護機能 を内蔵しており,少ない外部部品で安全で安定した電源を 100 ⑴ 外部ラッチ機能(過熱保護) 80 サーミスタ TH を接続し,過熱保護として使うローサイ ド側アクティブラッチ機能は,より高精度・低消費電力化 を行った。さらに,VCC 過電圧保護の調整などに使える ハイサイド側アクティブラッチ機能を追加した。 ⑵ 低交流入力電圧保護(ブラウンアウト) 19.1 従来品 待機電力低減 59 mW 60 40 18.7 20 18.5 FA8A00 シリーズ や起動が遅くなることがあり,過負荷保護機能により停止 0 50 100 してしまう場合がある。このような動作を防ぐため,VH 454(66) 150 200 交流入力電圧(V) 端子で検出された交流入力電圧がしきい値電圧以下の場 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 18.9 30 mW 交流入力電圧が低い場合,出力電圧が不安定になること 合に,動作を停止する低交流入力電圧保護機能を内蔵した。 19.3 FA8A00 シリーズ 図 待機電力の低減 250 18.3 300 出力電圧(V) 実現できる。 待機電力(mW) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 交流入力電圧(264 V) 第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 休止期間を長くすることで消費電力の低減を行うため,出 に,これらの評価に用いた評価用電源ボードの回路 図 図を示す。 力電圧が大きく変動してしまうことが問題となっていた。 FA8A00 シリーズでは,FB 端子の出力電流を最適化する ことで待機電力 30 mW 以下を実現しつつ,バースト動作 . 時の出力電圧変動を+ −5 % 以下にできた。 過負荷時出力電流の交流入力電圧依存性改善 過負荷時における出力電流は,交流入力電圧に比例して に示すように,平均効率は従来品に比べて 0.4 % 向 大きくなってしまうため,従来品では CS 端子と一次側平 上した。スイッチング周波数の低減特性を最適化すること 滑電圧(C3 プラス電圧)の間に抵抗を挿入して補正する 図 。この方法では,交流入力電圧 90 〜 必要があった(図 ) で,負荷率が低いときに大きく効率が向上した。交流入力 〈注 2〉 電圧 230 V での平均効率は 89.2 % となり,EPA5.0 で定め 264 V の範囲内で,過負荷時の出力電流幅が+ −10% 程度と られている平均効率 87 % 以上に対して 2 % の余裕を持つ 大きな値になっていた。 ⑴ ことができた。 今回,交流入力電圧補正機能を IC に内蔵することで, 5.5 過負荷時出力電流(A) 90 効率(%) 従来品 出力電流変動幅:±10.6% FA8A00 シリーズ 平均:89.2% 89 従来品 平均:88.8% 88 87%(EPA5.0) 87 86 0 25 50 75 100 5.0 4.5 FA8A00 シリーズ 出力電流変動幅:±3.95% 4.0 3.5 50 125 100 負荷率(%) 図 効率の向上 図 NF1 NF2 C2 200 250 300 過負荷時出力電流のフラット化 C11 交流入力電圧 90 ∼ 264 V C1 150 交流入力電圧(V) DS1 ∼ + T1 C3 + C12 19 V/3.4 A L1 D5 R2 R1 C13 + C4 ∼ − R12 + C14 F1 D1 D2 D3 R6 C5 TR1 D4 GND R16 R13 R3 R4 R7 R17 PC1A R14 R10 R5 C15 C7 C6 R15 R8 + D4 C16 IC2 IC1 R18 8 7 6 5 FA8A00 1 2 3 4 R9 TH1 C8 R11 PC1B C9 C10 図 「FA8A00 シリーズ」評価用電源ボード回路(19 V/3.4 A 65 W) 〈注 2〉EPA5.0:国際エネルギースタープログラムの外部電源装置 (EPS)基準である。国際エネルギースタープログラムは, OA 機器の省エネルギーのための国際的な環境ラベリング制 度であり,経済産業省と米国環境保護庁の相互承認の下で運 営している。 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 455(67) 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 91 第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 補正用の外付け部品を不要にし,さらに精度を向上して± くの機能を内蔵する要求が増えている。今後,小型 8 ピン 4 % 以下の出力電流変動幅を実現した。図 0 に示すよう パッケージでこれを実現し,さらに各特性の調整が簡単に に,従来は交流入力電圧 100 V 以下で出力電流が急激に減 できる IC の開発を行い,市場のニーズにマッチした製品 少する特性を持っていた。このため,交流入力電圧 150 V を提供していく所存である。 付近に出力電流のピークがくるように調整を行い,交流入 力電圧が高いときには出力電流が下がる傾向となっていた。 参考文献 FA8A00 シリーズでは,交流入力電圧 100 V 以下での出 ⑴ 朴虎崗ほか. EPA5.0規格対応カレントモードPWM制御IC 力電流低下を抑えるために,CS 端子電圧しきい値の切替 「FA5592シリーズ」 . 富士時報. 2009, vol.82, no.6, p.403-407. えを行う。これにより,入力電圧の全範囲で出力電流がフ ラットな特性を実現できた。 藪崎 純 . スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富 電源部品削減効果 電源から発生する EMI ノイズを低減するため,電源の 士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導 体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。 特集 エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体 入力部分に,ノイズフィルタとしてコモンモードチョーク コイルやコンデンサを挿入する。最大のノイズ発生源はパ ワー MOSFET のスイッチングであるが,スイッチング周 波数を変動(周波数拡散)させることでノイズの周波数 ⑴ を分散することができる。FA8A00 シリーズは,周波数変 動周期を従来品の 1/4 とすることで最適化を図り,規格に 山根 博樹 スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富 士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導 体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。 対するノイズマージンを 11 dB 以上確保することが可能と なった。 この機能により,入力フィルタの小容量化や削減が可能 である。 小林 善則 スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富 あとがき 本稿では,第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」 について述べた。カレントモード PWM 制御 IC には,多 富士電機技報 2012 vol.85 no.6 456(68) 士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導 体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。