FEJ 85 06 452 2012

エネルギーマネジメン
特集 トに貢献するパワー半
導体
第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
6th Generation PWM Controller IC: “FA8A00 Series”
藪崎 純 YABUZAKI Jun
山根 博樹 YAMANE Hiroki
小林 善則 KOBAYASHI Yoshinori
「FA8A00 シリーズ」は,新開発の 0.35 µm プロセス技術を適応した第 6 世代 PWM(Pulse Width Modulation)電源制
御 IC である。パッケージは SOP-8 ピンであり,500 V 保証の起動回路を内蔵している。新開発の X キャパシタの放電機能
により,従来必要であった放電抵抗をなくし,抵抗損失を約 20 mW 削減した。さらに,IC の消費電流を従来品の 30 % ま
で削減したことで,電源全体で 30 mW 以下の待機電力を実現した。また,周波数低減特性の最適化により平均効率 89 % 以
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
上を実現しており省エネルギーと電源システムのコストダウンに貢献できる。
“FA8A00 series”is the 6th generation pulse width modulation (PWM) power supply control IC, which utilizes the newly developed 0.35 µm
process technology. The package is a small outline package (SOP) 8-pin and builds in a 500 V-capable startup circuit. Through a newly
developed X capacitor discharge function, the discharge resistance which was formerly necessary is reduced and about 20 mW of resistance
losses are reduced. Furthermore, by reducing the IC current consumption to 30 % of the conventional products, the standby power of a whole
power supply is realized 30 mW or less. Moreover, through optimization of frequency reduction properties, the average efficiency realizes 89 %
or more. This can contribute to energy efficiency and cost reduction of power source systems.
まえがき
低炭素社会に向けて省電力の要求が高まる中,さまざま
な機器に使われるスイッチング電源についても待機電力や
平均効率の規格化が進められ,数年ごとに改訂されてきて
いる。
特に近年,待機電力の削減の要求が大きくなってきてお
り,ある調査では,一世帯当たり年間消費電力の約 6 % が
待機電力であると報告されている。これは実に年間消費量
の 3 週間分に当たる。今後,機器の高機能化や,ネット
ワークの利用が拡大して常時稼動のシステムが増えること
により,待機電力のさらなる増加が予想されており,対策
が急務となっている。
図
「FA8A00 シリーズ」
表
「FA8A00 シリーズ」の機能概要
富士電機では,100 V や 230 V の商用交流電源から直接,
起動電流を供給できる 8 ピンのスイッチング電源用制御
IC を系列化している。今回,従来品に比べて大幅に低待
項 目
機電力性能を向上させ,電気機器に最適な保護機能を付加
周波数低減動作
し た 第 6 世 代 PWM(Pulse Width Modulation) 制 御 IC
過負荷保護 交流入力電圧補正
「FA8A00 シリーズ」を開発した。
Xキャパシタ放電
IC消費電流
「FA8A00 シリーズ」の概要
FA8A00 シリーズはカレントモード PWM 制御 IC であ
る。外観を図 1 に示す。この IC は,軽負荷時にスイッチ
待機電力(電源動作時)
89.2 % を達成した。表
図
「FA8A00シリーズ」
従来品
リニア低減+バースト
リニア低減
内蔵
なし
内蔵
なし
400 µA
1.35 mA
30 mW以下
87 mW
に FA8A00 シリーズの機能概要を,
に FA8A00 シリーズのブロック図を示す。
ング周波数を低減させることで,軽負荷でも高効率を達成
することができるスイッチング制御 IC である。500 V 耐
0.35 µm 500 V プロセス・デバイス技術
圧の起動素子と,起動電流の定電流制御を行う回路から
なる起動回路を備えている。また,負荷電流が減少して
今回,従来品よりもいっそうの低消費電力化,制御回路
ある一定以下になると,スイッチングを停止してバースト
の高精度化を実現するため,新たに 0.35 µm プロセスを開
動作を行い,消費電力を極限まで下げることが可能である。
発した。低耐圧デバイスの微細化と 500 V 起動素子を融合
これにより,電源として待機電力は 28 mW,平均効率は
させ,これまでアナログ回路で構成していた多くの回路ブ
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
452(64)
第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
起動回路
VCC
VH
uvloh
VCC低電圧
誤動作防止
コンバレータ
uvlo
−
起動電流
制御
ON
X コンデンサ
放電回路
startup
REF.
/Reg.
reset
+
基準電圧 _ 内部電源回路
放電時間
タイマ
clk
ブラウンイン / アウト回路
VCC 過電圧
保護回路
bo
ソフトスタート
回路
発振器
reset
clk
ovp
Dmax
OUT
1shot
PWM
発振器
ON
S
RSFF
Q
R
PWM
コンバレータ
CS
ドライバ
回路
DBL
fb
reset
スローブ
uvlo
latch
Dmax
−
+
ライン補正
回路
35 V
ss
clk
過電流コンバレータ
VH 電圧
検出回路
ラッチ時
VCC 放電回路
(1タイムクランプ)
latch
BO
タイマ
VCC
3V
reg(内部回路用電源)
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エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
−
−
+
ss
reg
過負荷保護回路
OLP_CS
FB
−
+
fb
Reset
reset
FB電圧検出
コンバレータ
過負荷保護タイマ
T1 Over load
ctrl
SCP
S
RSFF
T2
Q
olp_short
GND
R
VCC
ラッチ回路
reset
ショート検出
コンパレータ
reg
LAT
ラッチ
コンパ
レータ
スタートアップ
マネージメント
olp_short
clk
ovp
ラッチ
ラッチタイマ
latch
Set
Reset
Reset
bo
on
uvlo
monitor
startup
ctrl
reset
図
「FA8A00 シリーズ」のブロック図
ロックをデジタル化することで,低消費電力化が可能に
る。
なった。
交流入力電圧
90 ∼ 264 V
主な特徴
.
X キャパシタの放電機能
スイッチング電源で発生する伝導ノイズの交流ラインへ
Rx
Cx
0.4
0.5
〈注 1〉
の流出を低減するため,X キャパシタを接続することが一
般的である。ただし,X キャパシタによる感電を防止する
ため UL60950 などの国際安全規格では,交流電圧遮断後
1 秒以内に,初期値の 37 % 以下までその両端電圧を下げ
ることが定められている。図
図
Rx による Cx の放電回路(従来)
に従来の放電抵抗 Rx によ
る X キャパシタ Cx の放電回路を,図
に Rx による損失
40
(3 MΩ)を示す。従来は,Cx と並列に接続した Rx によ
Rx による損失(mW)
り放電を行っていた。1 秒間に 37% 以下まで放電するには,
Cx を 0.33 µF とした場合,Rx は 3 MΩ以下にする必要が
ある。これにより,交流入力電圧 264 V では 20 mW 以上
の損失が発生してしまう。30 mW 以下の低待機電力を実
現する上では,Rx での損失を削減することが不可欠とな
30
23.2
20
10
〈注 1〉X キャパシタ:X コンデンサとも呼ばれ,ノイズ除去を目的
としたコンデンサである。X キャパシタは,交流電源ライン
0
間に挿入する。蓄積電荷による感電の危険性があるため,国
0.33
0
0.1
0.2
0.3
F
Cx 容量( )
際安全規格 UL60950 などに放電電圧と放電時間が規格化さ
れている。
図
Rx による損失(3 MΩ)
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
453(65)
第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
この機能には 30 ms 以上の遅延があるため,瞬時電圧低下
交流入力電圧
90 ∼ 264 V
が起きても動作停止をしない仕様である。
⑶ 過負荷保護機能
CS 端子電圧をカウント周期 500 µs ごとに検出するアッ
Cx
プダウンカウンタを持ち,CS 端子電圧があるしきい値以
上になるとカウントアップを始め,所定数カウント後に過
負荷と判断し,動作を停止する過負荷保護機能を内蔵し
た。過負荷保護機能によりラッチ停止するタイプと再起動
VH
FA8A00
(自動復帰)するタイプがある。さらに,ラッチタイプに
は,モータ駆動などのピーク負荷に対応しカウント周期を
図
860 ms と長くしたタイプも系列化した。また,CS 端子電
FA8A00 シリーズを使ったときの放電回路
圧がさらに高くなると ON 幅を狭め,CS 端子電圧がある
しきい値を超えないようにするリミット機能も併せ持つ。
373 V
⑷ 負荷短絡保護機能
過負荷状態でカウントアップしているときに VCC 電圧
37%へ低下
138 V
があるしきい値以下まで低下した場合,負荷短絡状態とみ
なし即座にスイッチングを停止する機能を持たせた。この
機能により負荷短絡時のパワー MOSFET(Metal-Oxide-
Tacdet
56 ms
Tcdis
31 ms
Total
87 ms
Semiconductor Field-Effect Transistor)の破壊を防ぐこ
とができる。ただし,出力電圧を切り替えるタイプの電源
では,出力電圧を下げたときに VCC 電圧が通常動作より
図
Cx 放電時の動作波形
低くなり,負荷短絡を誤検出しやすくなってしまう。そこ
で,負荷短絡状態を FB 端子電圧で検出するタイプも系列
そこで,FA8A00 シリーズでは X キャパシタ放電の機
能を取り込み,Rx をなくして 20 mW の損失削減を可能
荷短絡保護が実現できる。
に FA8A00 シリーズを使ったときの放電回
にした。図
路を, 図
化した。このタイプであれば,VCC 電圧に依存しない負
に Cx 放電時の動作波形を示す。IC の VH 端
電源回路への適用効果
子で交流入力電圧の遮断を検出し,IC に内蔵したスイッ
チを制御して Cx の電荷を引き抜く。Cx を交流入力電圧
.
30 mW 待機電力と平均効率
遮断時の 37 % 以下にするまでに要する時間は,遮断検出
FA8A00 シリーズは,従来品と比較して消費電流を大
時間(Tacdet)を含め,Cx が 0.33 µF のときに平均 87 ms
幅に低減した。内部回路のデジタル化と内部回路用電源
となる。
の低電圧化を行い,消費電流は従来品の約 30 % となった。
本機能を使った場合,Cx を 1 µF としても放電までに要
これにより,X キャパシタ放電機能の追加によって Rx で
節)と合わせ,スイッチング
する時間は最大 310 ms であり,安全規格に対し十分余裕
の損失をなくしたこと( .
を持った設計が可能になる。
電源システムでの待機電力を 30 mW 以下にできた(図 )
。
また,待機時は 25 kHz のスイッチング周波数でバース
.
保護機能
ト動作を行う。一般的に,バースト動作ではスイッチング
FA8A00 シリーズは,電源システムに最適な保護機能
を内蔵しており,少ない外部部品で安全で安定した電源を
100
⑴ 外部ラッチ機能(過熱保護)
80
サーミスタ TH を接続し,過熱保護として使うローサイ
ド側アクティブラッチ機能は,より高精度・低消費電力化
を行った。さらに,VCC 過電圧保護の調整などに使える
ハイサイド側アクティブラッチ機能を追加した。
⑵ 低交流入力電圧保護(ブラウンアウト)
19.1
従来品
待機電力低減 59 mW
60
40
18.7
20
18.5
FA8A00 シリーズ
や起動が遅くなることがあり,過負荷保護機能により停止
0
50
100
してしまう場合がある。このような動作を防ぐため,VH
454(66)
150
200
交流入力電圧(V)
端子で検出された交流入力電圧がしきい値電圧以下の場
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
18.9
30 mW
交流入力電圧が低い場合,出力電圧が不安定になること
合に,動作を停止する低交流入力電圧保護機能を内蔵した。
19.3
FA8A00 シリーズ
図
待機電力の低減
250
18.3
300
出力電圧(V)
実現できる。
待機電力(mW)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
交流入力電圧(264 V)
第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
休止期間を長くすることで消費電力の低減を行うため,出
に,これらの評価に用いた評価用電源ボードの回路
図
図を示す。
力電圧が大きく変動してしまうことが問題となっていた。
FA8A00 シリーズでは,FB 端子の出力電流を最適化する
ことで待機電力 30 mW 以下を実現しつつ,バースト動作
.
時の出力電圧変動を+
−5 % 以下にできた。
過負荷時出力電流の交流入力電圧依存性改善
過負荷時における出力電流は,交流入力電圧に比例して
に示すように,平均効率は従来品に比べて 0.4 % 向
大きくなってしまうため,従来品では CS 端子と一次側平
上した。スイッチング周波数の低減特性を最適化すること
滑電圧(C3 プラス電圧)の間に抵抗を挿入して補正する
図
。この方法では,交流入力電圧 90 〜
必要があった(図 )
で,負荷率が低いときに大きく効率が向上した。交流入力
〈注 2〉
電圧 230 V での平均効率は 89.2 % となり,EPA5.0 で定め
264 V の範囲内で,過負荷時の出力電流幅が+
−10% 程度と
られている平均効率 87 % 以上に対して 2 % の余裕を持つ
大きな値になっていた。
⑴
ことができた。
今回,交流入力電圧補正機能を IC に内蔵することで,
5.5
過負荷時出力電流(A)
90
効率(%)
従来品
出力電流変動幅:±10.6%
FA8A00 シリーズ
平均:89.2%
89
従来品
平均:88.8%
88
87%(EPA5.0)
87
86
0
25
50
75
100
5.0
4.5
FA8A00 シリーズ
出力電流変動幅:±3.95%
4.0
3.5
50
125
100
負荷率(%)
図
効率の向上
図
NF1 NF2
C2
200
250
300
過負荷時出力電流のフラット化
C11
交流入力電圧
90 ∼ 264 V
C1
150
交流入力電圧(V)
DS1
∼ +
T1
C3
+
C12
19 V/3.4 A
L1
D5
R2
R1
C13 +
C4
∼ −
R12
+
C14
F1
D1
D2
D3
R6
C5
TR1
D4
GND
R16
R13
R3
R4
R7
R17
PC1A
R14
R10
R5
C15
C7 C6
R15
R8
+
D4
C16
IC2
IC1
R18
8 7 6 5
FA8A00
1 2 3 4
R9
TH1
C8
R11
PC1B
C9
C10
図
「FA8A00 シリーズ」評価用電源ボード回路(19 V/3.4 A 65 W)
〈注 2〉EPA5.0:国際エネルギースタープログラムの外部電源装置
(EPS)基準である。国際エネルギースタープログラムは,
OA 機器の省エネルギーのための国際的な環境ラベリング制
度であり,経済産業省と米国環境保護庁の相互承認の下で運
営している。
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
455(67)
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
91
第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
補正用の外付け部品を不要にし,さらに精度を向上して±
くの機能を内蔵する要求が増えている。今後,小型 8 ピン
4 % 以下の出力電流変動幅を実現した。図 0 に示すよう
パッケージでこれを実現し,さらに各特性の調整が簡単に
に,従来は交流入力電圧 100 V 以下で出力電流が急激に減
できる IC の開発を行い,市場のニーズにマッチした製品
少する特性を持っていた。このため,交流入力電圧 150 V
を提供していく所存である。
付近に出力電流のピークがくるように調整を行い,交流入
力電圧が高いときには出力電流が下がる傾向となっていた。
参考文献
FA8A00 シリーズでは,交流入力電圧 100 V 以下での出
⑴ 朴虎崗ほか. EPA5.0規格対応カレントモードPWM制御IC
力電流低下を抑えるために,CS 端子電圧しきい値の切替
「FA5592シリーズ」
. 富士時報. 2009, vol.82, no.6, p.403-407.
えを行う。これにより,入力電圧の全範囲で出力電流がフ
ラットな特性を実現できた。
藪崎 純
.
スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富
電源部品削減効果
電源から発生する EMI ノイズを低減するため,電源の
士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導
体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。
特集
エネルギーマネジメントに貢献するパワー半導体
入力部分に,ノイズフィルタとしてコモンモードチョーク
コイルやコンデンサを挿入する。最大のノイズ発生源はパ
ワー MOSFET のスイッチングであるが,スイッチング周
波数を変動(周波数拡散)させることでノイズの周波数
⑴
を分散することができる。FA8A00 シリーズは,周波数変
動周期を従来品の 1/4 とすることで最適化を図り,規格に
山根 博樹
スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富
士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導
体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。
対するノイズマージンを 11 dB 以上確保することが可能と
なった。
この機能により,入力フィルタの小容量化や削減が可能
である。
小林 善則
スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富
あとがき
本稿では,第 6 世代 PWM 制御 IC「FA8A00 シリーズ」
について述べた。カレントモード PWM 制御 IC には,多
富士電機技報 2012 vol.85 no.6
456(68)
士電機株式会社電子デバイス事業本部パワー半導
体事業統括部ディスクリート・IC 技術部。
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。