新製品 紹介 「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」―― “V Series” IPM -- Medium Capacity and Compact Package “P636 Package” 皆川 啓 * MINAGAWA Kei 寺島 健史 * TERASHIMA Kenshi 近年,IPM(Intelligent Power Module)の主な用途で ベルの最適化を図った。過電流保護レベルは,P622 パッ ある汎用インバータ,サーボ制御装置などのモータ駆動 ケージが定格電流の 1.5 倍であるのに対して,P636 パッ 装置だけでなく,エアコン,太陽光発電用 PCS(Power Conditioner)などの市場においても,装置の小型化が強 く求められている。そのため,IPM に対しては,さらな る小型化と出力電流の拡大の要求が高まっている。 これらの市場要求に応えるため,富士電機は現行の「V シリーズ」IPM のラインアップに追加して,新たに中容 量(600 V/50〜100 A,1,200 V/25〜50 A)の小型パッケー ジの製品化を計画している。 本稿では,中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」 の特徴とその技術的背景について述べる。 (a)外 観 特 徴 90 18.5 80 P636 パッケージの外観 と外形図を図 プを 表 に,ラインアッ に示す。P636 パッケージは, 外形寸法 W90× D55×H18.5(mm)の小型パッケージ であるにもかかわ 25.55 55 らず定格電流が 600 V/100 A,1,200 V/50 A までの中容量 をラインアップした業界初の IPM である。装置の小型化 と装置設計の自由度向上に貢献する製品である。 ⑴ 小型化 16 シリーズ IPM「P630 パッケージ」に対して 54 %,既存の 中容量 IPM である Econo-IPM「P622 パッケージ」に対 して 26 % 低減している。 25.5 P636 パッケージのフットプリントサイズは,現行の V (b)外形図 ⑵ 過電流保護レベルの最適化 装置の最大負荷電流 を 拡大するために, 過電流保護レ 表 「P636 パッケージ」 「P636 パッケージ」のラインアップ 定格電流 電 圧 600 V 1,200 V * 図 インバー タ部 ブレー キ部 型 式 搭載機能 6 in1 7 in 1 IGBT 駆動回路 制御電源 低下保護 チップ過熱 保護 過電流 保護 アラーム出力 (上下アーム) 50 A 30 A 6MBP50VFN060-50 7MBP50VFN060-50 ○ ○ ○ ○ ○ 75 A 50 A 6MBP75VFN060-50 7MBP75VFN060-50 ○ ○ ○ ○ ○ 100 A 50 A 6MBP100VFN060-50 7MBP100VFN060-50 ○ ○ ○ ○ ○ 25 A 15 A 6MBP25VFN120-50 7MBP25VFN120-50 ○ ○ ○ ○ ○ 35 A 25 A 6MBP35VFN120-50 7MBP35VFN120-50 ○ ○ ○ ○ ○ 50 A 25 A 6MBP50VFN120-50 7MBP50VFN120-50 ○ ○ ○ ○ ○ 富士電機株式会社電子デバイス事業本部事業統括部産業モジュー ル技術部 2014-S02-1 富士電機技報 2014 vol.87 no.1 「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」―― ケージは定格電流の 2.0 倍にアップしている。 用 に 最 適 設 計 を 行 っ た 第 6 世 代 IGBT(Insulated Gate ⑶ ブレーキ用素子の搭載 Bipolar Transistor) の 適用 により, 前 世代 IGBT 適用の 素子定格は,600 V/50〜100 A および 1,200 V/25〜50 A P622 パッケージと比較して約 10 % 損失を低減している。 の中容量帯をカバーしている。 小型パッケージに もかか 図 に示すように,IGBT と FWD の定常損失は全発生 わらず,ブレーキ用素子を搭載して おり, 装置設計にお 損失の約 60% を占めている。 “IGBT の定常損失とターン いて,外付けブレーキ用素子が不要となる。 オフ損失”および“FWD の定常損失とターンオン損失・ リカバリー損失”は,それぞれトレードオフの関係にある。 そこで,発生 損失の中で最も支配的な IGBT と FWD の 背景となる技術 定常損失を低減させる ために,IGBT の Vce(sat) と FWD の VF のトレードオフ曲線上の適用ポイントを見直した。 ⑴ 高放熱絶縁基板の適用による低熱抵抗化 パッケージ を 小型化 する上で,放熱性を改善して パ また,発生損失は,放射ノイズともトレードオフの関 ワーチップの熱集中・熱干渉 による チップの温度上昇を 係にある。P636 パッケージでは発生損失を低減しつつ, 抑制する必要がある。そこで,P636 パッケージの絶縁基 放射ノイズを抑制するために,前述の トレードオフ関係 板には,既存の P622 パッケージで使用しているアルミナ の最適ポイントの見直しにより,スイッチング時の電圧 (Al2O3) 絶縁基板 に替わり, 放熱 性の高い 窒化アルミニ ウム(AlN)絶縁基板を新たに採用した。 表 の立上がり dv/dt を低減 し,図 に示すように従来より も放射ノイズを抑制している。 に,100 A/600 V の 同 一 定 格 素 子 に お け る P622 ⑶ 出力電流の増加 パッケージと P636 パッケージの熱抵抗の 比較を示す。 P636 パ ッ ケ ー ジ は,P622 パ ッ ケ ー ジ よ り も 熱 抵 抗 P636 パッケージは,P622 パッケージよりも 熱抵抗 が 約 (IGBT 部) が 17 % 低減 し,発生損失 は 10% 低減したこ 20 % 低くなった。 とで,同一のΔTj c(チップ−ケース間温度)となる出力 ⑵ 発生損失と放射ノイズの低減 電流値は,30% 増加させることができる。 たとえば 表 - パ ワーチップの 温度上昇 を抑制するために は, 熱抵抗 に示すように, 同一のΔTj c となる出力電流値は,P622 を 低減す るだけでなく, 発生損失 も 低減す る必要がある。 パッケージが 30 A(実効値) であるのに対して,P636 に,600 V/100 A に お け る P622 パ ッ ケ ー ジ と P636 図 - パッケージは 39 A(実効値)と増加させることができる。 パッケージの PWM インバータ動作時の発生損失 につい て シミュレーション で 比較 した 結果を示す。 キャリア周 90 表 ノイズレベル(dBµV/m) 波数 5 kHz の運転条件 の 場合,P636 パッケージは IPM 600 V/100 A の同一定格素子における熱抵抗の比較 項 目 熱抵抗 max.(℃/W) 低減率(%) j=125 ℃, 「P622パッケージ」 インバータ部 「P636パッケージ」 インバータ部 IGBT FWD IGBT FWD 0.36 0.67 0.30 0.52 − − 17 22 d=300 V, Econo-IPM 80 70 V シリーズ IPM P636 パッケージ 60 50 40 30 30 cc=15 V, o=30 A (実効値) λ=1.0 c=5 kHz, o=150 Hz,cosφ=0.8, P622パッケージ 40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 周波数(MHz) 図 放射ノイズ比較(相対比較試験結果) 表 600 V/100 A における適用電流と温度上昇の比較 トータル発生損失(W) 30 リカバリー損失 (FWD) 25 定常損失(FWD) 20 15 ターンオン損失 (IGBT) 10 ターンオフ損失 (IGBT) 0 Econo-IPM P622 パッケージ Econo-IPM 「P622パッ ケージ」 V シリーズ IPM P636 パッケージ Vシリーズ IPM「P636 パッケージ」 600 V/100 A におけるトータル発生損失のシュミレー ション比較 富士電機技報 2014 vol.87 no.1 IGBT FWD 出力 電流 トータル 熱抵抗 トータル 熱抵抗 ΔT j-c ΔT j-c (実効値) 損失 max. max. 損失 (℃) (℃) (A) (W) (℃ /W) (W) (℃ /W) 製 品 定常損失(IGBT) 5 図 T j=125 ℃,E d=300 V,V cc=15 V,f c=5 kHz,f o=150 Hz, cosφ=0.8,λ=1.0 2014-S02-2 30 21.9 0.36 7.9 3.7 0.665 2.5 30 19.5 0.30 5.8 3.7 0.52 1.9 39 26.0 0.30 7.8 5.0 0.52 2.6 30%増加 2.1 ℃低減 0.6 ℃低減 「V シリーズ」IPM ―― 中容量・小型パッケージ「P636 パッケージ」―― 発売時期 600 V 系:2014 年 8 月 お問い合わせ先 1,200 V 系:2014 年 12 月 富士電機株式会社 営業本部半導体営業統括部営業第一部 電話(03)5435-7152 (2014 年 3 月 11 日 Web 公開) 2014-S02-3 富士電機技報 2014 vol.87 no.1 本誌á記載ËĂܺā会社名Àþé製品名åhÓĂÔĂä会社Â所有Ïā 商標ôÕå登録商標ݸā場合¸ĀôÏg