Fuji Power MOSFET 電力計算方法 Design Tool Chapter 1. 概要 MOSFETを使用する上で許容される損失を超えていないか確認する必要があります。しかしMOSFETの損失は 電力計などによる測定ができないため、オシロスコープなどによりドレイン‐ソース間電圧VDS、ドレイン電流ID波 形から計算しなくてはなりません。本資料ではMOSFETの損失計算方法を提示します。また付属として損失計算 補助ツールの使用方法も併せて提示します。 Chapter 2. 電力量[J]の計算方法 一般的に図1で表すta-tbの期間における電力量Jab[J]は下式に示す電圧・電流積の積分によって算出できます。 J ab V t I t dt (1 ) tb V(t) ta Va またI(t)、V(t)は以下で表せます。 V t I t Va Vb t Va ( 2 ) t b ta Ia Ib Vb I(t) Ia Ib t Ia ( 3 ) tb ta ta tb t 図1:期間ta-tbの電圧V(t)、電流I(t) 従ってta-tb間を積分すると電力量[J]は以下となります。 J ab 1 Va Vb Ia Ib t b ta 1 Va Vb t b ta Ia 1 Ia Ib t b ta Va Va Ia t b ta ( 4 ) 3 2 2 上式を利用してta-tb間を任意に区切ることで非線形波形に対しても電力量[J]の算出が出来ます。 Chapter 3. 電圧・電流波形から電力量[J]を計算する方法 図2の様に周期Tの電圧、電流波形の損失計算を行う場合には直線近似が可能な範囲で分割し、計算します。 OFF⇒ON ON ON⇒OFF OFF VDS ID t1 t2 t3 t4 T t5 t 図2:損失計算波形例 図2はMOSFETがターンオフする過程で電流波形の傾斜が途中で変化しています。従って図2の波形から 損失を計算する場合はt1~t5の区間に分割して計算を行います。MOSFETの寄生容量を含め、実際の回路では ターンオフ、ターンオンの過渡期の電圧、電流は指数関数の様に変化します。オシロスコープなどで観測した波形 から指数関数で電圧、電流波形を表すのは困難なため直線による近似を用います。 Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 1 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. 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Fuji Power MOSFET Design Tool Chapter 4. 電力量[J]から電力[W]を計算 図3ように周期Tの波形の電圧、電流値を読み取ります。読み取った値と(4)式を使用して損失計算を行います。 VDS V1 V3 I2 I1 I3 0 V2 ID t1 t2 t3 t4 t5 t T=1/f 図3:波形例から電圧、電流値を読み取る t1[s]~t5[s]の区間ごとに損失を計算すると各区間の損失J1[J]~J5[J]を導出することができます。ただし区間t2[s]は MOSFETが導通しているため電圧はMOSFETのオン抵抗RONと電流の積です。各区間ごとの計算式を式(5)~ (9)に示します。周期T[s]は周波数f[Hz]の逆数でもあるため、MOSFETで消費する電力P[W]は式(10)で求めるこ とができます。なお以下に示した式は電圧、電流の傾斜、ゼロクロスによって最終的な式が簡略化されます。各パ ターンにおける計算式を付表1に示します。 1 J1 V1 I1 t1 ( 5 ) 6 1 2 2 J 2 RON I1 I2 I1 I2 I1 I1 t 2 ( 6 ) 3 1 J 3 V2 I2 2I3 t 3 (7 ) 6 J4 1 2V2 V3 I3 t 4 ( 8 ) 6 J5 0 ( 9 ) P J1 J 2 J 3 J 4 J 5 J1 J 2 J 3 J 4 J 5 f (10 ) T 補足①<実効値電流> 式(6)はオン抵抗RONでの電力量[J]を求めています。オン期間t2においては実効値により電力[W]を算出すること ができます。t2区間の実効値電流をI2rms[A]とすると式(6)からオン期間中の電力P2[W]は式(11)のように表すことが 出来ます。 P2 J2 2 RON I2 rms RON T t 1 I1 I2 2 I1 I2 I1 I12 2 T 3 2 (11 ) オン期間はオン抵抗RONと実効値電流の2乗積の電力をMOSFETが消費することになります。そのため電流値の 増加に対して電力は2次関数増加をしていきます。電流波形によって実効値電流の算出式は異なります。 付表2に代表的な波形と実効値の算出式を示します。 Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 2 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. 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Fuji Power MOSFET Design Tool Chapter 5. 取得波形から損失を計算 損失計算例として実際の動作波形より計算を行います。動作波形より計算する場合は周期がわかること、ターン オン、ターンオフの電圧、電流値が読み取れること、オン期間の電流値が読み取れることを確認してください。実測 波形と読み取り値を以下に示します。なおオン抵抗RONは使用するMOSFETのデータシートよりご確認ください。 (以下の計算ではTch=150℃におけるmax値をデータシート記載のグラフから読み取った値を使用しています。) T: 24us Measurement points Flyback‐Converter of the switching MOSFET Device type FMV11N60E (600V/11A/RDS(on)@150℃max=2.05[Ω]) Output power 38W (DC:19V/2A) Turn - OFF Time 20us/div VDS 50V/div ID 1A/div Turn - ON ターンオン 損失なし Z1 Time 400ns/div ON period VDS 50V/div ID 1A/div Time tON: 7.9us 100ns/div 50V/div ID 1A/div ⊿t Va Vb Ia Ib Turn - ON 0us 0V 0V 0A 0A ON period 7.9us 0V 0V 0A 1.6A Z1 45ns 0V 15V 1.6A 1.6A Z2 20ns 15 100V 1.6A 2A Turn - OFF 2us/div VDS Measured values Ib: 1.6A Time Z3 Z2 Z4 VDS 50V/div Z3 25ns 100V 390V 2A 5.2A ID 1A/div Z4 20ns 390V 385V 5.2A 0A 次に読み取った値から損失計算を行います。式(4)にそれぞれ代入した計算結果を以下に示します。 Turn ON : J1 0 [ J ] 1 2 ON period : J 2 2.05 [ ] 1.6 [ A ] 7.9 [ us ] 13.8 [ uJ ] 3 1 Z1 : J 3 15 [ V ] 1.6 [ A ] 45 [ ns ] 0.54 [ uJ ] 2 1 1 1 Z 2 : J 4 85 [ V ] 0.4 [ A ] 85 [ V ] 1.6 [ A ] 0.4 [ A ] 15 [ V ] 15 [ V ] 1.6 [ A ] 20 [ ns ] 2.13 [ uJ ] 2 2 3 1 1 1 Z3 : J5 290 [ V ] 3.2 [ A ] 290 [ V ] 2 [ A ] 3.2 [ A ] 100 [ V ] 100 [ V ] 2 [ A ] 25 [ ns ] 24 [ uJ ] 2 2 3 1 1 1 Z4 : J6 5 [ V ] 5.2 [ A ] 5 [ V ] 5.2 [ A ] 5.2 [ A ] 390 [ V ] 390 [ V ] 5.2 [ A ] 20 [ ns ] 20.2 [ uJ ] 3 2 2 以上の計算結果により、取得波形から計算できるMOSFETの損失P[W]は以下で示すように2.53[W]となります。 P 0 [ J ] 13.8 [ uJ ] 0.54 [ uJ ] 2.13 [ uJ ] 24 [ uJ ] 20.2 [ uJ ] 2.53 [ W ] 24 [ us ] Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 3 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. All rights reserved. Fuji Power MOSFET Design Tool Chapter 6. MOSFET電力計算シート(Excel)の使用方法 ここまでの損失計算方法は手計算により行いましたが、本項ではExcelを使用します。 このExcelファイルは損失分析やチャネル温度計算への使用を目的として作成しています。同ファイル内に使用方 法を記載したシートもあります。内容をご確認いただき、ご使用ください。 Section 1 富士電機ホームページよりExcelファイルをダウンロードしてください。 URL http://www.fujielectric.co.jp/ ホーム > 製品情報 > パワー半導体 > 製品情報 > パワーMOSFET > デザインツール <ファイル名> Power calculation tool_Rev_0_0_J.xlsx Section 2 ダウンロードしたファイル、Power calculation tool_Rev_0_0_J.xlsxを開き、sheet「計算」をクリックします。 Section 3 取得波形、使用するMOSFETのデータシートより必要な数値を入力します。計算比較のためChapter 5の取得波 形、MOSFETデータシートを使用します。 【C2】 使用するMOSFETの型式を入力します。 このCellは入力なくても計算に支障はありません。 【C4、C5】 MOSFETのデータシートに記載されている Drain-Source On-state resistanceグラフよりオン抵抗を 読み取り入力します。またC5のCellにMEMO欄を設けています。 チャネル温度等記録として残せるように使用します。 【C6】 取得波形よりスイッチング周期を[us]単位で入力します。 【F列】 OFF期間の電流、電圧を入力できますが、計算結果はゼロとなるた め入力は不要です。またOFF時間もC6に入力した値とTurn-ON、 ON-period、Turn-OFFで入力する値との差が表示されるため入力は 不要です。 【G~N列】 Turn-ONの時間、電圧、電流値に取得波形の読み取り値を入力しま す。今回の取得波形では電圧、電流の交差がないため入力はしてい ません。 【O~X列】 ON periodの時間、電流値に取得波形の読み取り値を入力します。 ON period中の電圧はRONと電流値の積が演算結果として表示され ます。 【Y~AF列】 Turn-OFFの時間、電圧、電流値に取得波形の読み取り値を入力し ます。 以上を入力した結果、C9に損失の計算結果として2.53Wと表示され ます。手計算で行った損失計算と同じ結果が得ることができます。 Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 4 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. All rights reserved. Fuji Power MOSFET Design Tool 付表1 電圧条件 電流条件 波形 Vb V(t) Va Va<Vb Ia<Ib 計算式 Ib Ia I(t) t ⊿t Va<Vb Ia=Ib Vb V(t) Va Ia I(t) t Vb V(t) Va Va<Vb Ia>Ib Ia Ib I(t) t ⊿t V(t) Va Va=Vb Vb I(t) Ia t ⊿t Va=Vb Ia=Ib V(t) Va Vb Ia Ib I(t) Va=Vb Ia>Ib I(t) Va>Vb Vb 1 Va Ia Ib t 2 1 If : Ib 0 : J ab Va Ia t 2 J ab Ib t Va Ib Ia<Ib I(t) Vb Ia t ⊿t V(t) Va>Vb J ab Va Ia t Ia ⊿t V(t) Ia=Ib Va Ia Vb t ⊿t V(t) Va>Vb Ia>Ib Va Vb I(t) Ia Ib ⊿t Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 1 1 1 J ab Va Vb Ia I b Va Vb Ia Ia I b Va Va Ia t 2 2 3 1 If : Vb 0 : J ab Va 2Ia I b t 6 1 If : Ia 0 : J ab Va 2Vb I b t 6 1 Va Vb Ia t 2 1 If : Vb 0 : Jab Va Ia t 2 J ab Ib I(t) 1 Va Ia Ib t 2 1 If : Ia 0 : J ab Va I b t 2 t ⊿t V(t) Va 1 1 1 J ab Va Vb Ia I b Va Vb Ia Ia I b Va Va Ia t 2 2 3 1 If : Va 0 : J ab Vb Ia 2I b t 6 1 If : I b 0 : J ab 2Va Vb Ia t 6 J ab Ib Ia<Ib 1 Va Vb Ia t 2 1 If : Va 0 : Jab Vb Ia t 2 J ab Ib ⊿t 1 1 1 J ab Va Vb Ia I b Va Vb Ia Ia I b Va Va Ia t 2 2 3 1 If : Va 0 : J ab Vb Ia 2I b t 6 1 If : Ia 0 : J ab Va 2Vb I b t 6 t 1 1 1 J ab Va Vb Ia I b Va Vb Ia Ia I b Va Va Ia t 2 2 3 1 If : Vb 0 : J ab Va 2Ia I b t 6 1 If : I b 0 : J ab Ia 2Va Vb t 6 5 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. All rights reserved. Fuji Power MOSFET Design Tool 付表2 波形 実効値 t ton Ip t Ip T Ip2 1 T I rms Ip1 t ton 0 sin t dt 2 p 1 T Irms Ip ton t on t on T 2 T I 1 T I rms Ip 平均値 t on 0 t on 0 2 I p dt 1 ton I p sin tdt T 0 2I t p on T Iavg Iavg 1 I p2 I p1 2 I p2 I p1 I p1 I p12 ton T 3 0 I p dt I p 2 I p1 t I p1 dt t on 1 t I p1 I p 2 on T 2 Iavg I p 2 I p1 t I p1 dt t on t on t on T Ip t on T 1 T 1 T t on 0 T I rms Ip t ton T 1 T Ip 3 t on 0 Ip t on 2 t dt t on T Iavg 1 T t on Ip 0 t on tdt I p t on 2 T 合成波の実効値 合成波の実効値は各期間における実効値の平方二乗和で求めることができます。 Ip2 I rms I rms1 I rms 2 2 Ip1 Ip3 t t1 t2 I rms 1 T 2 2 t1 0 I p 2 I p1 1 t I p1 dt t1 T t2 t1 tdt t2 I p3 2 T Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 6 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. All rights reserved. Fuji Power MOSFET Design Tool ご注意 1. 本資料の内容(製品の仕様、特性、データ、材料、構造など)は2016年3月現在のものです。 この資料に記載の製品は仕様変更のため、または他の理由により事前の予告なく変更されることがあります。 この資料に記載されている製品を使用される場合には、その製品の最新版の仕様書を入手して、 データを確認してご使用ください。 2. 本資料に記載の手法による計算結果は、あくまで参考値としてご使用ください。 この資料を使用して得られた計算結果(計算値)は富士電機製品、及び動作を保証するものではありません。 3. 本資料の一部または全部の転載複製については、文書による当社の承諾が必要です。 ● 本資料の内容は改良などのために予告無く変更することがあります。 ● 本資料に記載されている応用例や部品定数は、設計の補助を目的とするものであり、 部品バラツキや使用条件を十分に考慮したものではありません。 ご使用にあたっては、これら部品バラツキや使用条件等を考慮した設計をお願いします。 Mar,2016 DT_Power calculation method Rev0.0 7 /7 © Fuji Electric Co., Ltd. All rights reserved.