富士時報 Vol.82 No.6 2009 特 集 多機能ボルテージモード PWM 制御 IC 「FA5604 シリーズ」 Multi-function Voltage Mode PWM Controller 佐藤 紘介 Kosuke Sato 丸山 宏志 Hiroshi Maruyama 本井 康朗 Yasuro Motoi 電源装置には小型化,低待機電力化,高効率化,高安全性が求められている。これらの要求に対応するため 8 ピンボル テージモード PWM-IC を開発した。主な特徴として,電源電圧絶対最大定格 35 V,低スタンバイ電力機能,軽負荷時制御 系電源維持機能,過負荷時ヒカップ機能,定電流垂下機能などがある。特に,定電流垂下特性を少ない外付け部品で実現 できることから,バッテリなど定電流特性が求められる負荷に接続される電源を含め,さまざまな用途の電源への応用が 可能である。 Power supply units are requested to be smaller in size, consume less standby power, and provide higher efficiency and improved safety. In response to such requests, Fuji Electric has developed an 8-pin voltage mode PWM controller, the main features of which include a maximum power supply voltage rating of 35 V, a low standby power function, a control system power maintenance function for operation at light loads, hiccup function at overload, and a constant current droop function. Because the current drooping characteristic can be obtained with a few external parts, this IC can be used in power supplies for various applications, such as a power supply connected to batteries or other load requiring a constant current characteristic. 1 まえがき の定電流垂下特性を少ない外付け部品で実現できる。また この特性を定電流源として利用すれば,バッテリ充電用電 近年,電源装置には小型化,低待機電力化,高効率化な どが求められている。これらの要求に対応するため,富士 源など,定電流動作が求められる電源への応用も可能であ る。 電機では高効率で低スタンバイ電力機能を内蔵したカレン ⑴〜⑶ トモード電源制御 IC を製品化しており,パソコンやフラッ 2 製品の概要 トテレビなどへの採用も進んでいる。 一方で通信や産業用途に使われる大中容量ユニット電源 には,ノイズ耐性に優れ,オンデューティの制御範囲の ₂.₁ 製品の特徴 今回開発した FA5604 シリーズの外観を図₁,主な仕様 広いボルテージモード PWM(Pulse Width Modulation) を表₁,ブロック図を図₂に示す。また,特徴となる機能 制御 IC が多く使用されている。これらの電源は過負荷時 を次に列挙し,後にその詳細を説明する。 にパワー MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor FieldEffect Transistor)などの部品や負荷の発熱や破損を防ぐ 保護機能が重要視されている。特に過負荷時に過大な電流 表₁ 「FA5604 シリーズ」の主な仕様 が流れないように定電流垂下する保護動作が好まれる。電 源装置の小型化のためにも保護機能を IC に内蔵し,より 少ない部品でこれらの保護動作を実現できることが望まれ ている。 や各種保護機能を内蔵したボルテージモード PWM 制御 IC「FA5604 シリーズ」を開発した。本 IC は,過負荷時 最大デューティ FA5605 FA5606 35 V 100 ~ 300 kHz (外部設定可能) スイッチング周波数 46% 70% 周波数低減 定格負荷時のスイッチング周波数の 1/3 まで低減可能 最小オン幅 400 ns 低電圧誤動作防止(UVLO) 図₁ 「FA5604 シリーズ」の外観 保護機能 一次側過電流保護 二次側 過負荷保護 ヒカップ動作 周波数低減 タイマラッチ機能 動作周囲温度 パッケージ 408( 52 ) FA5604 電源電圧の絶対最大定格 軽負荷動作 そこで,小型 8 ピンパッケージで低スタンバイ電力機能 項 目 17.5 V /9.7 V パルスバイパルス (IS 端子,マイナス検出) 1:7 1:15 1:7 定格負荷時のスイッチング周波数の 1/9 まで低減可能 CS 端子電圧> 7.3 V 50 µs 検出遅延あり − 40 ~+ 85 ℃ SOP-8/DIP-8 富士時報 Vol.82 No.6 2009 多機能ボルテージモード PWM 制御 IC「FA5604 シリーズ」 図₂ 「FA5604 シリーズ」のブロック図 オン−オフ 3.6 V − + 5 V制御 電源 − 17.5 V/9.7 V ラッチ 5V + − 7.3 V S Q R QB UVLO 内部電源 出力イネーブル信号 − FB(2) − PWM S Q R QB + 出力ドライバ ワンショット パルス 発生回路 電圧制御発振器 + − 3.5 V/3.3 V 15.5 V UVLO 低電圧 誤動作 防止回路 0.75 V/0.60 V 37.5 V + S Q R QB OUT(5) D max 出力電流 制限回路 VF(7) 過負荷 検出回路 RT(1) + − −0.17 V GND(4) IS(3) ⑴ ボルテージモード PWM 制御 オフ期間を延長することで周波数低減動作を実現している。 ⑵ 電源電圧の絶対最大定格 35 V これにより,周波数低減時に過負荷状態へ負荷急変した場 ⑶ 低スタンバイ電力機能 合に,広いオンパルスが出力されることによる一次側パ ⑷ 軽負荷時制御系電源維持機能 ワー MOSFET に過電圧や過電流といったストレスがかか ⑸ 過負荷時ヒカップ機能 ることを防ぐことができる。 ⑹ 過負荷時周波数低減機能と定電流垂下特性 ⑷ 軽負荷時制御系電源維持機能 PWM 制御のスイッチング電源では,軽負荷時にはオン ₂.₂ 機能の詳細 パルス幅が狭くなり,補助巻線から十分な電圧を得られず, ⑴ ボルテージモード PWM 制御 IC の電源が確保できなくなる。そのため,電源装置は起 本 IC ではボルテージモード PWM 制御方式を採用して 動と停止を繰り返す不安定動作となる。その対策として出 いる。これによりカレントモードと比較し,ノイズ耐性に 力端にダミー負荷などを接続し,ダミー負荷に電流を流す 優れ,ブランキングタイムがないためオンパルス幅を小さ ことで安定動作できるようにしている。しかし,これが軽 くすることが可能でオンデューティの制御範囲が広い。 負荷時の効率向上の妨げとなっていることも多い。 ⑵ 電源電圧の絶対最大定格 35 V 本 IC では,軽負荷時の IC のオンパルス幅の最小値を 本 IC では,電源電圧の絶対最大定格を従来機種より 400 ns としている。これにより,軽負荷時に補助巻線から 5 V 高い 35 V に対応し,電源電圧範囲を広くしている。 の電圧を確保することができる。そのため,ダミー負荷 そのため,IC の電源をトランスの補助巻線から取る場合, 入力電圧変動や負荷変動に対し IC の電源電圧安定化部品 (抵抗など)が削除可能で,軽負荷時の効率を改善できる。 なお,軽負荷時にオンパルス幅が最小値となっても周 が不要となる。 波数低減機能により PFM(Pulse Frequency Modulation) ⑶ 低スタンバイ電力機能 制御となるため,さらに軽負荷となっても出力の制御は可 軽負荷時のスイッチング損失低減のために,負荷に応じ 能である。また,カレントモードのブランキングタイムと てスイッチング周波数を低下させる。スイッチング周波数 は異なり,パルスバイパルスの電流制限動作は常時有効で は最低で定格負荷時の約 1/3 となる。 ある。したがって,過電流検出時は最小オンパルス幅の制 本 IC は従来機種と異なり,最大オンパルス幅は一定で 限はなく,400 ns 以下のオンパルス幅にすることができる。 409( 53 ) 特 集 VCC(6) ヒカップ動作用 発振器およびカウンタ CS(8) 富士時報 Vol.82 No.6 2009 多機能ボルテージモード PWM 制御 IC「FA5604 シリーズ」 図₃ 「FA5604」の評価用電源回路 T1 C1 0.47 F C5 C4 DS1 L2 0.22 F 1,000 pF C2 L1 1,000 pF TH1 C7 1,000 R1 AC 85 ∼ 132 V F D1 R21 47Ω R3 CN1 680 kΩ×3 ZT1 C3 1,000 pF C6 1,000 pF R5 100 kΩ D3 R9 22Ω R10 22 kΩ R7 47 kΩ R17 0.47Ω DS2 ESAD92M-02R DS3 C24 1 F + R19 3.3Ω C30 R36 220 pF 47Ω R6 0.047Ω R22 470Ω D4 D5 8 R11 10 kΩ CS 7 VF 6 PC1 A CN2 R25 27 kΩ R26 6.8 kΩ C25 1,000 pF C27 0.1 F VCC OUT FA5604 IC1 RT FB IS GND 1 2 3 4 ZD1 27 V C12 0.1 F IC2 C26 R27 0.1 F 10 kΩ R28 3.9 kΩ R20 680Ω C10 4.7 nF C9 10 nF R24 1 kΩ R29 1 kΩ R15 2.2Ω 5 C23 C33 2,200 F 2,200 F R23 2.4 kΩ PC2 A R18 10 kΩ + C16 680 pF R8 150Ω PC2B L3 24 V/6.3 A + R2 C29 R35 220 pF 47Ω C22 1,000 pF Q1 2SK3752-01R 500 V/0.46Ω 特 集 F1 250 V/5 A C20 1,000 pF + R13 33Ω R12 C11 12 kΩ 1,000 pF PC1B C13 R14 C14 C15 R40 1,000 pF 2.4 kΩ 0.1 F 10 F 22 kΩ ⑸ 過負荷時ヒカップ動作機能 図₄ 効率,スイッチング周波数-負荷率特性 の期間比率で行うヒカップ動作を行う。それにより,過 負荷時のパワー MOSFET の温度上昇を防いでいる。特に, FA5606 は 1:7,FA5605 は 1:15(内部固定)である。 IC 内部に CS 端子に接続したコンデンサに対して定電流 で充放電を繰り返す発振回路と発振波形をカウントするカ ウンタを内蔵しており,これらによりヒカップ動作の周期 を決定している。したがって,CS 端子に接続するコンデ ンサ容量によりヒカップ動作の周期が設定できる。 効率(%) ング動作期間とスイッチング停止期間の比率は,FA5604/ 200 90 180 (入力電圧 AC100 V 80 のとき) 二次側同期整流を採用している場合に,二次側の整流を行 う MOSFET の温度上昇を防ぐのに有効である。スイッチ 100 160 70 140 60 120 50 100 40 80 30 60 20 FA5604 FA5514(ダミー負荷あり) 10 0 0.1 1 10 40 スイッチング周波数(kHz) 過負荷時,スイッチング動作とスイッチング停止を一定 20 0 100 負荷率(%) ⑹ 過負荷時周波数低減機能と定電流垂下特性 VF 端子には電源出力に応じた信号を入力しておき,過 負荷を検出した際には VF 端子電圧に応じてスイッチング 設定している。VF 端子にはパワー MOSFET のゲート駆 周波数を低減する。周波数低減動作は軽負荷時と同じで, 動信号(IC_OUT 信号)を平滑して入力している。本 IC 最低スイッチング周波数は定格負荷時の約 1/9 となる。こ の評価において,従来機種として類似した電気的特性を持 の動作により電源出力の V- I 特性は定電流垂下特性とな ち,軽負荷時および過負荷時の周波数低減機能と軽負荷 る。また,この周波数低減動作により過負荷時に高周波ス 時制御系電源維持機能を持たない「FA5514」との比較を イッチングすることによるパワー MOSFET の発熱などの 行っている。 ストレスを軽減できる。 ₃.₂ 軽負荷動作および効率 3 電源への適用効果 図₄ に評価電源回路の入力電圧は AC100 V のときの負 荷率(定格出力電流を 100 % とする)に対する効率とス ₃.₁ 評価用電源回路の構成 イッチング周波数の関係を示す。 図₃に評価用電源回路を示す。一般的なフォワード方式 図₄ から,FA5604 は負荷率約 3.5 % からスイッチング の電源構成としている。スイッチング周波数は 190 kHz に 周波数を低減し始めることで,周波数低減機能のない従来 410( 54 ) 富士時報 Vol.82 No.6 2009 多機能ボルテージモード PWM 制御 IC「FA5604 シリーズ」 品の「FA5514」より効率が改善できている。 また,FA5604 は軽負荷時制御系電源維持機能により無 り,スイッチング動作期間:スイッチング停止期間は 1: 7 となっている。 以下では補助巻線から制御系回路への電圧供給が十分に スイッチング再開時は, 図₆に示すように CS 端子電圧 得られず,IC の電源電圧が UVLO(Under Voltage Lock を一度 0 V 近傍まで低下させた後,ソフトスタートをしな Out)電圧まで低下し,起動と停止を繰り返す不安定動作 がらスイッチング動作を再開する。 となる。この不安定動作を回避するために,出力端に 800 ⑵ 周波数低減動作機能と定電流垂下特性 Ω のダミー負荷を接続している。ダミー負荷の有無によ 図₇に出力電圧−負荷電流率特性(過負荷検出時の出力 り,FA5604 の効率の方が負荷率 10 % 以上では約 2 %,負 電流値を 100 % とする)を示す。また,図₈にはスイッチ 荷率 10 % 未満の軽負荷時には 5 〜 20 % 高い。 ング周波数を示す。なお,この特性の測定時には CS 端子 なお,FA5604 のスイッチング周波数が設定した周波数 の 1/3 以下まで低下しているのは,間欠スイッチング動作 − GND 間にツェナーダイオードを接続してヒカップ動作 機能が有効にならないようにしている。 図₇から,周波数低減機能のない FA5514 は過負荷時に となっているためである。 出力電流が大きくなってしまうのに対し,FA5604 は出力 ₃.₃ 過負荷時保護機能 電流を制限し,垂下特性となっていることが分かる。ま ⑴ ヒカップ動作機能 た,パワー MOSFET のゲート駆動信号(IC_OUT 信号) 図₅ に過負荷時のヒカップ動作波形を示す。通常動作 を平滑にする抵抗 R11 と並列に R18 と D5 を接続し,周 時,CS 端子はソフトスタート完了後,約 3.6 V でクラン 波数を低減しやすくすることによって垂下特性曲線を補正 プされる。過負荷検出後,CS 端子は約 4 V と約 6 V の間 することができる。ただし,ヒカップ動作を併用する場合 で発振動作し,この発振波形を IC 内部でカウントして は周波数低減しやすくなることにより,電源の起動直後に いる。CS 端子に接続するコンデンサ容量が 10 nF の場合, ヒカップ動作に入ってしまい,起動しづらくなったり起動 スイッチング動作期間は約 260 ms(64 カウント分) ,ス 図₇ 出力電圧−負荷電流率特性 図₅ ヒカップ動作(CS 端子接続コンデンサ容量 10 nF) 30 スイッチング停止 約 1,800 ms (入力電圧 AC100 V のとき) 25 出力電圧(V) スイッチング動作 約 260 ms IC_OUT 10 V/div FB 5 V/div VF 2 V/div 20 15 FA5604 10 FA5604 (R18,D5 を使った 補正あり) 5 0 CS 2 V/div FA5514 0 25 50 75 100 125 150 175 200 負荷電流率(%) 400 ms/div 図₈ スイッチング周波数-負荷電流率特性 図₆ 再起動時波形(CS 端子接続コンデンサ容量 10 nF) 200 スイッチング周波数(kHz) 180 IC_OUT 10 V/div FB 5 V/div VF 2 V/div CS 2 V/div ソフトスタート動作 しながら再起動 10 ms/div (入力電圧 AC100 V のとき) 160 140 120 100 80 FA5604 60 FA5604 (R18,D5 を使った 補正あり) 40 20 0 FA5514 0 25 50 75 100 125 150 175 200 負荷電流率(%) 411( 55 ) 特 集 負荷でも安定動作できるのに対し,FA5514 は負荷率 0.5 % イッチング停止期間は約 1,800 ms(448 カウント分)とな 富士時報 Vol.82 No.6 2009 できなくなることがあるため,部品定数の設定は重要であ る。以上のように,垂下特性が容易に実現できることによ 多機能ボルテージモード PWM 制御 IC「FA5604 シリーズ」 ⑶ 園部孝二ほか. 臨界型PFC電流共振統合電源IC「FA5560 M」 . 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.419-423. 特 集 り,バッテリなどの定電流特性が重要となる負荷に接続さ れる電源など,幅広い分野の電源への応用が可能となる。 4 あとがき 新規に開発した多機能ボルテージモード PWM 制御 IC 佐藤 紘介 電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システ ムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディス クリート・IC 開発部。電気学会会員,日本磁気学 会会員。 「FA5604 シリーズ」の概要について紹介した。この IC は, 小型の 8 ピンパッケージでありながら,低スタンバイ電力 機能や多くの保護機能を内蔵している。通信および産業用 丸山 宏志 市場の拡大に伴う電源装置の小型化,高効率化,安全性な スイッチング電源制御 IC の開発・設計に従事。現 どの要求を満足することができるものと考える。 半導体統括部ディスクリート・IC 開発部。 本製品の市場展開および系列機種開発により,これらの 在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部 市場のさらなる要求に応えていく所存である。 参考文献 本井 康朗 ⑴ 藤井優孝ほか. 多機能低待機電力PWM電源IC「FA5553/ スイッチング電源制御 IC の開発・設計に従事。現 FA5547シリーズ」 . 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.436-440. ⑵ 丸山宏志ほか. 低待機電力擬似共振電源IC「FA5571シリー ズ」 . 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.415-418. 412( 56 ) 在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部 半導体統括部ディスクリート・IC 開発部。 *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。