富士時報 Vol.73 No.8 2000 1 チャネル CMOS DC-DC コンバータ制御 IC 野村 一郎(のむら いちろう) まえがき 図1 FA7700V と FA7701V の外観 DC-DC コンバータはバッテリーなどの直流電源を入力 とするスイッチング電源であり,小型,軽量,高効率とい う特長から,民生機器,産業機器に広く使われている。 最近では,環境保護への配慮から国内外を問わず省エネ ルギーの 規格 を 導入 する 対象分野 が 増 え,かつ, 規格 が 年々厳しくなるため,電源の高効率化が従来にも増して重 要になってきている。 この要求にこたえ,富士電機では IC の CMOS(Complementary MOS) 化 および MOSFET( Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor) 駆動化 により 電源 の 省電力化 を 実現 した DC-DC コンバータ 用制御 IC「 FA 7700V, FA7701V」を 開発 したので,ここにその 概要 を 報告する。 (5) オンオフ機能:待機時消費電流=約 40 μA (6 ) ソフトスタート機能:起動時にデューティサイクルを 製品の概要 徐々に広げて,電源入力の突入電流と電源出力電圧のオー バシュートを抑制する。 図1に FA7700V と FA7701V の外観を示す。 (7) タイマ・ラッチ方式の短絡保護機能:短絡検出から設 定時間後に遮断動作を行う。ヒステリシス付きでノイズ に対し安定な動作が可能である。 2.1 IC 全体の特長 FA7700V,FA7701V は 1 チャネル制御 IC である。 駆動するスイッチング素子のスイッチング周期に対する オン時比率(デューティサイクルともいう)の制御により 電源出力電圧を安定化させる基本機能のほか,下記の特長 (8) 低電圧誤動作防止(UVLO:Under Voltage Lock-Out) 回路:VCC 端子電圧 が 低下 ( 約 2 V 以下 )するとすべ ての動作をリセットする(詳細は後述)。 (9) 消費電流が小さい: ™スイッチング動作時 1.2 mA(標準)〔200 kHz〕 を有する。 (1) 電源電圧範囲が広い: VCC = 2.5 ∼ 18 V (2 ) 各回路方式に適した IC を選択可能: ™FA7700V:昇圧用,フライバック用, 最大デューティ= 80 %(最小) ™ FA7701V:降圧用,最大デューティ= 100 % (3) n チャネルまたは p チャネル MOSFET を直結駆動可 ™ 短絡保護動作時 0.9 mA(標準)〔200 kHz〕 (10) 動作周波数:50 kHz ∼ 1 MHz (11) パッケージ( TSSOP-8)が 小型:外形寸法 の 最大 は 縦 6.7 ×横 3.4 ×取付け高さ 1.3(mm)である(リード ピンを含む)。 (12) 外付け部品が少ない:抵抗 4 ∼ 6 個,コンデンサ4個 能: ™ OUT 端子ハイサイドオン抵抗= 10 Ω(標準) ™ OUT 端子ローサイドオン抵抗= 5 Ω(標準) (4 ) 高精度基準電圧:0.88 V+ −2 % 野村 一郎 スイッチング電源制御,シリーズ 電源制御などのリニア IC の開発 に従事。現在,松本工場半導体開 発センター IC 開発部。 432(12) 2.0 mA(標準) 〔1 MHz〕 (電源出力電圧の帰還用抵抗 2 ∼ 3 個を含む) 。 参考 として, 図 2 に FA7700V, 図 3 に FA7701V のそ れぞれ内部ブロック図を示す。 富士時報 1 チャネル CMOS DC-DC コンバータ制御 IC Vol.73 No.8 2000 (6 ) 約 2.2 V < VCS :短絡保護動作 。 OUT 端子 のデュー ティサイクルを 0 % にしてスイッチングを 停止 する。 2.2 動作説明 (5) (6 ) FA7700V,FA7701V に共通の動作につき前節 , , (7) の三つの機能を持つ CS 端子を中心に説明する。 図4に示す CS 端子電圧 VCS VCS は「VCC 端子電圧」と「約 5.5 V」のいずれか低い 方でクランプされる。 と動作モードの関係に対応 して,動作は次のとおりである。 図4 CS 端子電圧と動作モードの関係 (1) VCS <約 0.3 V:オフモード。スイッチング停止,かつ, 消費電流 40 μA(標準)となる。 (3) 約 0.6 V < VCS <約 1 V:ソフトスタート動作。IC 内 」 部の「三角波発振器(約 0.6 V から約 1.1 V の間で発振) と「VCS」の交点でデューティサイクルを決定。 (4 ) 約 1 V < VCS <約 1.5 V:定常動作。IC 内部の「三角 波発振器」と「誤差増幅器出力電圧= FB 端子電圧 VFB」 CS端子電圧 V cs(V) 「VCC端子電圧」と「5.5V」のいずれか低い方の電圧 (2 ) 約 0.3 V < VCS <約 0.6 V:内部回路全体が動作開始。 2.2V 1.5V 1V 0.6V 0.3V の交点でデューティサイクルを決定し,電源出力電圧を 一定に制御する。VCS は約 1.5 V でクランプされる。 (5) 約 1.5 V < VCS <約 2.2 V:短絡検出 。 VFB >約 1.5 V 定常動作 オフ ソフト モード スタート になると,VCS の 1.5 V のクランプが外れ,外付け抵抗 短絡 検出 短絡保護 時 間 t を介して CS 端子外付けのコンデンサを充電する。この とき VCS, VFB >約 1.1 V( 三角波上限 )のため, 最大 デューティサイクルで動作する。 図5 FA7700V の昇圧回路例 図2 FA7700V の内部ブロック図 3.4∼11V 820 (3.0∼11V) kΩ RT 1 8 CS UVLO VREF 0.3V CS REF 2 OUT 6 GND 5 SC802-04 + OSC S.C.P 1.5V BIAS IN− 3 10 H VCC 7 8 − VREF 2.2V 0Ω 0.33 F ON/ OFF ON/ OFF 100 F 1.5V 0.88V FA7700 S.C.DET ON/OFF 1 RT 7.5kΩ 6 OUT OFF + + − ER.AMP 2SK 1467 2.2V − + − + 7 VCC − + Power Good Signal + 2 REF 3 IN− 0.1 F 100 12V F 200mA (50mA) 4 FB PWM FB 4 2.4kΩ 5 GND 30kΩ+330Ω 図6 FA7701V の降圧回路例 図3 FA7701V の内部ブロック図 4.7∼18V RT 1 8 CS UVLO VREF 0.3V ON/ OFF − REF 2 VREF 2.2V BIAS IN− 3 S.C.P 1.5V 1.5V 0.88V OUT 6 GND 5 10 H 100 3.3V F 0.8A FA7701 2.2V ON/OFF OFF 6 OUT − 1 RT 7.5kΩ + ER.AMP 8 7 VCC − FB 4 2SJ416 VCC 7 SC802 -04 − + + 0.1 F − S.C.DET + Power Good Signal + 100 F 0Ω ON/ OFF CS + OSC 820kΩ PWM 2 REF 3 IN− 0.1 F FB 4 1.2kΩ 3.3kΩ 5 GND 433(13) 富士時報 1 チャネル CMOS DC-DC コンバータ制御 IC Vol.73 No.8 2000 (7) 短絡保護 の 解除:短絡保護 の VCS しきい 値電圧 の 約 図6は 降圧回路 の 例 であり, 外付 けのトランジスタ Q1 0.2 V のヒステリシスにより, VCS <約 2 V になるとス がオンでオフモードとなり消費電流が約 40 μA に,Q1 が イッチングを再開する。 オフでスイッチング動作を開始する。 (8) VCS のリセット :VCC 端子電圧<約 2 V になると 前 上記 2 回路について,外付け MOSFET のスイッチング 述の UVLO 回路が働き,OUT 端子のデューティサイク 波形を図7,図8に示す。ゲート電圧,ドレイン電圧の波 ルを 0 %にしてスイッチングを停止するとともに,VCS 形に示すとおり,30 ∼ 50 ns 程度の高速スイッチングをし を約 0 V まで引き下げ,電源投入前の状態にリセットす ているため,これらの MOSFET のスイッチング損失(ター る。 ンオン時またはターンオフ時の電力損失)を小さくできる。 図9, 図10に 上記 2 回路 の 電力変換効率 ( =出力電力/ 応用回路例 入力電力 )データを 示 す。 図9 の 昇圧回路 では, 出力 12 V/200 mA と 12 V/50 mA の 2 種で約 83 ∼ 98 %の高効率 図 5 に FA7700V, 図 6 に FA7701V の 応用回路例 を 示 を得ている。入力電圧が高くなるにつれて MOSFET の導 す。2 回路とも実用レベルの DC-DC コンバータでは比較 通時間が短くなるため,MOSFET のオンロス(導通時の 的高い周波数である 470 kHz で動作する例であり,インダ 電力損失)が小さくなり,効率が高くなる。図10の降圧回 クタ値や入出力の電解コンデンサの容量値を小さくできる 路 では, 出力 3.3 V/0.8 A と 3.3 V/0.2 A の 2 種 で 約 70 ∼ ため,電源の小型化に有効である。 94 % の 効率 である。 入力電圧 が 高 くなるにつれてゲート 図5は昇圧回路の例である。最大デューティサイクルが の駆動電力増大(ゲート電圧の振幅増大による)と外付け 80 % ( 最小 )のため, 回路 の 電力損失 を 考慮 しても, 最 ダイオードの電力損失増大(導通時間増大による)のため 大 3 ∼ 4 倍程度までの昇圧比が得られる。 効率が低下するが,入力電圧が 6 V 以下の比較的低い領域 では 85 ∼ 94 %の高効率となっている。 図7 昇圧回路 n チャネル MOSFET のスイッチング波形 なお, 電源入力 を 図5 では 3.4 ∼ 11 V, 図6 では 4.7 ∼ (VCC = 3.4 VDC,出力 12 V/0.2 A) 図9 昇圧回路の電力変換効率データ(470 kHz スイッチング) 100 出力12V/200mA ゲート電圧 VGS(2 V/div) 95 ドレイン電圧 VDS(5 V/div) 効 率η(%) 90 85 出力12V/50mA 80 75 70 65 60 2 (500 ns/div) 4 6 8 10 12 電源入力電圧 V cc(V) 図8 降圧回路 p チャネル MOSFET のスイッチング波形 (VCC = 5 VDC,出力 3.3 V/0.8 A) 図10 降圧回路の電力変換効率データ (470 kHz スイッチング) 100 95 ゲート電圧 VGS(2 V/div) 効 率η(%) 90 ドレイン電圧 VDS(2 V/div) 出力3.3V/0.8A 85 80 75 70 出力3.3V/0.2A 65 60 (500 ns/div) 434(14) 4 6 8 10 12 14 電源入力電圧 V cc(V) 16 18 富士時報 1 チャネル CMOS DC-DC コンバータ制御 IC Vol.73 No.8 2000 18 V としたが, 出力電圧設定 , 外付 け 素子 の 特性 , 回路 実,同期整流方式の採用などで高効率化に対応し,製品系 方式などによっては各 IC とも 2.5 ∼ 18 V の範囲内で動作 列を拡大していく所存である。 が可能である。 参考文献 あとがき (1) 野村一郎・有村健一:DC- DC コンバータ制御 IC,富士時 報,Vol.68,No.7,p.403- 406(1995) 電源の高効率化のために,MOSFET 直結駆動と,待機 (2 ) 丸山宏志: カレントモード 電源用 CMOSIC, 富士時報 , 時および動作時の低消費電力化を実現した,1 チャネル出 Vol.71,No.8,p.430- 433(1998) 力タイプの DC-DC コンバータ用制御 IC(2 型式)の概要 (3) 山田谷政幸: 3 チャネル DC- DC コンバータ用 IC,富士時 を紹介した。 報,Vol.71,No.8,p.434- 437(1998) 富士電機は今後も電源の高効率化,小型化,軽量化の動 (4 ) 遠藤和弥:6 チャネル DC- DC コンバータ用 IC,富士時報, 向にマッチすべく,さらなる IC の小型化,保護機能の充 Vol.71,No.8,p.438- 441(1998) 技術論文社外公表一覧 標 題 所 属 氏 名 発 表 機 関 ポルフィリンを用いるマグネシウムの蛍光 検出ー FIA 装置の開発 富士電機総合研究所 〃 大戸時喜雄 野田 直広 Journal of Flow Injection Analysis(FIA 研究会会誌) , 17,1(2000) 究会 かざし型非接触 IC カード リーダ/ライタ 事 日本工業出版 フローインジェ クション分析研 室 近藤 史郎 情報端末,7 月号(2000) 新 事 業 推 進 室 〃 〃 〃 〃 須藤 業 花澤 真人 和田 崇徳 岡江 功弥 瀬谷 彰利 電気化学 および 工業物理化学 , 電気化学会 68,9(2000) 走査型プローブ顕微鏡による磁気ディスク 上液体潤滑剤の高分解能観察 富士電機総合研究所 熊谷 明恭 トライボロジ,7 月号(2000) 新樹社 Fiber Bragg grating temperature sensor for practical use 富士電機総合研究所 〃 平山 紀友 佐野 安一 ISA Transactions,2(2000) ISA 濁度計の粒子に対する感度とシミュレーシ ョンによる検証 富士電機総合研究所 環境システム事業部 山口 太秀 赤松 和彦 第51回水道研究発表会・日本水道協会(2000-5) 事 業 開 〃 発 室 松本 廣太 松本 悟史 日本機械学会「PC クラスタによる超並列 CAE シ ステムの開発に関する研究分科会」(2000-7) フィールドネットワークの動向と展望 事 業 開 発 室 山田 隆雄 日本能率協会「計装制御技術チュートリアルセミ ナー」(2000-7) メーカーから見たイミュニティ試験法 富士電機総合研究所 大澤 千春 第 6 回 Electromagnetic Compatibility( EMC) フォーラム(2000-7) 固体高分子電解質水電解槽の大型化技術の 開発 事 山口 幹昌 エンジニアリング振興協会成果発表会(2000-7) リン 酸型燃料電池用電極 の 特性 におよぼ す 触媒・ PTFE 粒子 の 分散・凝集状態 の 効果 T 法電磁界解析プログラムの並列化 業 業 開 開 発 発 室 435(15) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。