富士時報 Vol.73 No.8 2000 EMI 対策内蔵型圧力センサ 加藤 和之(かとう かずゆき) 篠田 茂(しのだ しげる) まえがき ンデンサ,インダクタなどの回路部品とその搭載,電気的 接続のための基板,さらにシールドケースが必要であった。 マイクロマシニング技術,IC プロセスを応用した半導 これら部品の費用および組立実装のための加工費用は,製 体圧力センサは,近年,自動車,医療,計測など広い分野 品のコストダウンに対する大きな阻害要因であった。EMI で用いられている。特に自動車分野においては,環境規制 対策内蔵型圧力センサでは,これらのノイズ対策用の外付 対応のための排ガスのクリーン化,直噴エンジンのような け回路部品,および組立実装工程が不要であり,低価格の 低燃費達成のための高度に電子化されたシステムでの需要 圧力センサが実現可能である。 が急増しており,高性能で低価格の圧力センサが望まれて いる。一方,エンジンルーム内の高密度化,プラスチック シャーシの採用,自動車無線・携帯電話の普及とともに, 自動車の電磁ノイズ環境はより厳しくなってきており,車 載の電子部品はより高レベルの電磁波障害(EMI:Electromagnetic Interference)の対策が要求されている。 (3) 高ノイズ耐性 100 V/m, 1 MHz から 1 GHz のノイズ 環境 でも 正常 な 動作が可能である。 (4 ) 増幅,調整機能を内蔵 チップに内蔵された増幅回路,薄膜抵抗レーザトリミン グによる調整,温度補償機能により,ユーザー要求の圧力 富士電機では,1992年にセンシング部と増幅調整回路を ワンチップ上に集積化した圧力センサを製品化した。今回, 信号を得ることができ,電気的特性に手を加えることなく システムに組み込むことが可能である。 さらにチップ上にノイズ対策用ローパスフィルタを集積化 した EMI 対策内蔵型圧力センサを開発し,車載用として 必要なノイズ耐性を有する圧力センサを低価格で実現した。 この EMI 対策内蔵型圧力センサの技術および製品につい 図1 圧力センサの外観とユーザー工程の比較 て,その概要を紹介する。 EMI対策内蔵型圧力センサ 特 長 (1) 小型,高信頼性 センシング部,増幅調整回路部,さらにノイズフィルタ とその保護素子をワンチップ上に集積化し,さらにチップ への応力緩和のためのガラススペーサ,入出力端子を有す るシンプルなパッケージで構成される。この構造でノイズ 対策のための部品を外付けすることなく,自動車のエンジ ンルーム内での使用が可能であり,従来の圧力センサと比 圧 力 セ ン サ の 外 観 ︵ ノ イ ズ 対 策 付 き ︶ センサ本体(樹脂ケース) めのワイヤボンディング部 3 か所のみであり,高い信頼性 を実現することができる。 貫通コンデンサ(3個) 部品数:1 ユ ー ザ (1)外装組立 ー (2)最終特性測定 工 程 (2 ) 低価格 従来ノイズ対策のためには,チップコンデンサ,貫通コ 加藤 和之 篠田 茂 半導体圧力センサの開発に従事。 半導体圧力センサの開発に従事。 現在,松本工場 IC 部プリンシパ 現在,松本工場 IC 部。 ルエンジニア。 466(46) センサ本体(金属ケース) シールド ケース 。 較して大幅な小型軽量化が可能である(図1) また電気的な接合箇所は,電源供給および信号出力のた 従来方式の圧力センサ (貫通コンデンサで EMI対策の場合) 部品数:5 (1)EMI対策部組立 貫通コンデンサ外周部 はんだ付け(3か所) 貫通コンデンサ中央穴 はんだ付け(3か所) シールドケース接合 (2)外装組立 (3)最終特性測定 富士時報 EMI 対策内蔵型圧力センサ Vol.73 No.8 2000 チップ・回路設計 耐ノイズ設計 EMI 対策内蔵型圧力 センサのチップ 写真 を 図2 に 示 す。 4.1 ノイズフィルタの設計 チップサイズは 3.5×3.5(mm)である。拡散型ひずみゲー ローパスフィルタのキャパシタとして採用した MOS 型 ジ,トランジスタ,ダイオードはバイポーラプロセスで構 コンデンサは理想コンデンサに近く,周波数特性がきわめ 成され,さらに薄膜抵抗形成工程,ダイアフラム加工工程 てよい。図4にその周波数特性を示す。またローパスフィ が追加されている。ノイズ除去のためのローパスフィルタ ルタの抵抗としては,寄生容量が少なく高周波特性のよい はコンデンサと薄膜抵抗で構成されるが,高品質の酸化膜 薄膜抵抗を用いた。 が必要とされるコンデンサの形成には MOS プロセスを採 用した。 ローパスフィルタのカットオフ周波数付近での特性を図 5に示す。センサの入出力に接続されるハーネスにノイズ 図3に回路図を示す。電源電圧入力端子(VCC)と GND が誘起されるのは,電磁波の波長がハーネス長と同等にな 端子間,信号電圧出力端子(VOUT)と GND 端子間にそ る 10 MHz 付近 より 上 であるので,カットオフ 周波数 を れぞれ C,R の二次フィルタが接続される。このフィルタ 10 MHz に設定するように C,R の値を決定した。またロー により,ハーネスを経由して侵入するラインノイズを除去 パスフィルタの減衰特性を急しゅんにするため,二次フィ している。 ルタとした。 ひずみゲージブリッジ RG1 ∼ RG4 の出力電圧は,演算 電源電圧入力端子部のフィルタによる電圧降下を抑える 増幅器 OP1, OP2 と 薄膜抵抗 , 拡散抵抗 からなる 回路 で ため,ひずみゲージ部,演算増幅器,補償,調整抵抗部で 増幅,調整,温度補償され出力される。 消費する電流を抑え,その結果,電源電圧 5 V で出力動作 範囲 0.2 ∼ 4.75 V を確保することができた。 ローパスフィルタのコンデンサ保護のため,静電気,サー ジ吸収用のツェナーダイオードを入出力端子に接続し,車 載用として必要な耐久性を確保した。 図2 EMI 対策内蔵型圧力センサのチップ写真 図4 MOS 型コンデンサの周波数特性 インピーダンス(Ω) 10,000 ディスクセラミック コンデンサ(500pF) 1,000 100 MOS型コンデンサ (500pF) 10 500pF理想コンデンサ 1 0.1 1.00E+00 1.00E+01 1.00E+02 周波数(MHz) 1.00E+03 図3 EMI 対策内蔵型圧力センサの回路図 図5 EMI 対策内蔵型圧力センサのローパスフィルタ減衰率の R10 C3 R11 R7 − C1 R1 OP1 + RG3 RG4 ひずみゲージ ブリッジ R5 R2 ZD1 1.2 R6 1.0 − C2 R12 R13 VOUT R8 OP2 + C5 C6 ZD2 R4 0.8 減衰率 RG2 周波数特性 C4 R3 R9 RG1 VCC 0.6 0.4 0.348 RMD RMT GND 0.2 S5 0 拡散抵抗 薄膜抵抗 1 10 100 1,000 周波数(MHz) 10,000 467(47) EMI 対策内蔵型圧力センサ Vol.73 No.8 2000 図6 EMI 対策内蔵型圧力センサの組立構造 表1 EMI 対策内蔵型圧力センサの主要な特性仕様 樹脂ケース 特 性 マニホルド圧検出用 196 kPa 保存温度 −40∼+150℃ −40∼+120℃ 使用温度 −40∼+130℃ センサ チップ ガラス スペーサ −40∼+90℃ アルミ ワイヤ シリコーン 接着剤 センサ端末 電源電圧範囲 出力特性 (電源電圧 5 V) 4.75∼5.25 V(標準 5 V) 4.75∼5.25 V(標準 5 V) 出力(V) シールド板 ゲル 3.96 1.2 12 VCC GND 大気圧検出用 450 kPa 最大許容圧力 出力(V) 富士時報 3.045 1.773 112 60 圧力(kPa.abs) 106.7 圧力(kPa.abs) VOUT 誤 差 図7 EMI 試験装置(TEM セル) 電界強度計 光ファイバ ラインフィルタ (計測器保護) 25℃ :±1.5%FS −40∼+130℃ :±2.5%FS 25℃ :±3.0%FS −40∼+90℃ :±6.0%FS 消費電流 5 mA(最大) シンク電流 1 mA(最小) ソース電流 0.1 mA(最小) 静電気耐性 ±250 V:0 Ω,200 pF ±2 kV :1.5 kΩ,100 pF 出力イン ピーダンス 23 Ω(最大) 応答性 5 ms(最大) 試験品 信号 発生器 広帯域 増幅器 TEMセル ローパス 双方向 (G-TEM) フィルタ 結合器 電源 電圧計 特性・仕様 図8 EMI 対策内蔵型圧力センサの EMI 試験結果 出力変動値(mV) EMI 対策内蔵型圧力 センサの TEM セルによる 試験装 100 置を図7に示す。1 GHz まで試験可能な G-TEM を用いて 80 おり, 全周波数域 で 100 V/m の 電界強度 を 得 るため, 電 界強度計でモニタし,発振部のパワーをコントロールして 60 +1%FS いる。 40 20 この装置で試験を実施した結果は図8のとおりであり, 0 ノイズによる出力変動は 1 % FS 以下と,実用上問題のな −20 いレベルであることが確認された。 −1%FS −40 10 13 16 21 26 34 43 55 70 89 114 145 184 235 299 382 487 621 793 1,000 その他主要な特性仕様は表1のとおりである。 周波数(MHz) あとがき 市場のグローバル化に伴った価格競争の激化,ノイズ対 4.2 構造設計 策の必要性の高まりにより,ノイズ対策をチップ上に搭載 EMI 対策内蔵型圧力センサの組立構造を図6に示す。外 した小型・低コスト圧力センサの市場,用途拡大が期待さ 来ノイズの侵入を抑えるため,チップとケースとのワイヤ れる。富士電機としても,製品の開発,系列化をさらに進 ボンディング箇所は入出力の 3 端子のみとした。また,空 め市場要求にこたえていく所存である。 間を伝搬してくるノイズを防ぐため,樹脂ケース内部に金 属製 のシールド 板 を 内蔵 している。このシールド 板 は GND 端子に接続されており,チップへのシールド効果を 持たせている。 468(48) 参考文献 (1) 加藤和之:1 チップ 集積形圧力 センサ, 富士時報 , Vol.69, No.8,p.440-443(1996) *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。