FEJ 72 04 240 1999

富士時報
Vol.72 No.4 1999
工作機械主軸駆動装置 FRENIC5000MS5 シリーズ
田中 良和(たなか よしかず)
林 寛明(はやし ひろあき)
石井 新一(いしい しんいち)
まえがき
図1 FRENIC 5000MS5 シリーズの外観
工作機械用の AC スピンドル駆動装置では,高頻度の加
減速運転性能,低回転むら,低振動の運転が要求される。
近年は工作機械自体への省スペース化の要求に伴って,駆
動装置への小形化要求も強まってきた。
また,複合加工に対応したスピンドル間の同期運転制御
など,多様な制御機能が要求されている。さらに,EC 機
械指令に代表される各種の規制への対応も重要となった。
これまでの 富士電機 のスピンドル 駆動装置 としては,
(1)
(2)
FRENIC 5000M3 シリーズ , FRENIC 5000V3 シリーズ の
2系列を用意して市場の要求に対応してきたが,仕様や構
(3)
造を統合した FRENIC 5000MS5 シリーズ を発表し,1997
年に速度フィードバックを持たない FRENIC 5000M5 シリー
ズを発売した。そして今回,新たに高性能ベクトル制御方
式 の FRENIC 5000V5 シリーズを 開発 し, FRENIC5000
図1 に FRENIC 5000MS5
シリーズの 電動機 と 駆動装置
MS5 シ リ ー ズ と し て 完 成 さ せ た 。 さ ら に , FRENIC
の外観を示す。駆動装置はドライブユニットとコンバータ
5000M5 シリーズの機能向上策として,工作機械主軸に取
ユニットで構成され,これらのユニットは横方向に密着し
り付けられているパルスエンコーダ(PE)からの速度情
て取り付けて,バー配線で主回路の直流母線を並列接続し
報を用いた主軸 PE ベクトル制御システムも開発した。
て使用する。
以下に,これらの概要について述べる。
さらに 5.5/3.7 kW 以下の小容量系列は,ドライブユニッ
トとコンバータユニットを一つのユニット内にまとめたパッ
FRENIC 5000MS5 シリーズの構成
ケージ形とし,さらなる小形化を可能とした。
これらのユニットを組み合わせることにより,1 台のコ
ンバータユニットで複数台のドライブユニットの駆動がで
2.1 ドライブユニットの構成
FRENIC 5000MS5 シリーズはドライブユニットにより
FRENIC 5000M5 シリーズと FRENIC 5000V5 シリーズと
があり, 表1に FRENIC 5000MS5
きるので,メインスピンドルやサブスピンドル,工具軸ま
でを含めた多軸ドライブシステムの構築が容易である。
シリーズの 容量系列・
標準仕様を示す。
2.2 電動機の構成
ドライブユニット部(インバータ回路部)として,既発
スピンドル用電動機は,MVE シリーズと,MVS シリー
(3)
表の FRENIC 5000M5 シリーズに加え,今回新たに高性能
ベクトル制御の FRENIC 5000V5 シリーズを用意して,出
力容量範囲を 55/45 kW まで拡大した。
ズを用意している。
MVE 電動機は FRENIC 5000M5 シリーズのドライブユ
ニットで駆動 する。また MVS 電動機 は PE 付 きと PE な
また,電源コンバータユニット部は「発電制動方式」と
しを 用意 しており, PE 付 きは FRENIC 5000V5 シリーズ
「電源回生方式」の 2 系列を用意して,自由な組合せ適応
の ド ラ イ ブ ユ ニ ッ ト で 駆 動 す る 。 PE な し の 場 合 は
を可能としている。
FRENIC 5000M5 ドライブユニットで駆動することができ
田中 良和
林 寛明
石井 新一
可変速駆動装置の開発・設計に従
可変速駆動装置の開発・設計に従
交流可変速駆動装置の研究開発に
事。現在,神戸工場制御設計部主
事。現在,神戸工場制御設計部。
任。
従事。現在,
(株)
富士電機総合研
究所パワーエレクトロニクス開発
研究所ドライブシステムグループ
主任技師。
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工作機械主軸駆動装置 FRENIC 5000MS5 シリーズ
Vol.72 No.4 1999
表1 容量系列・標準仕様
項 目
仕 様
連 続 定 格 出 力
(kW)
電
動
機
定
格
出
力
50% ED 定格
出力(kW)
0.75
1.5
2.2
3.7
5.5
7.5
11
15
18.5
22
30
37
45
1.1
2.2
3.7
5.5
7.5
11
15
18.5
22
30
37
45
55
45
55
30分定格出力
(kW)
M V E シ リ ー ズ MVE1.1
M5-2
(M5シリーズ用)
MVE2.2
M5-2
MVE3.7
M5-2
MVE5.5
M5-2
MVE7.5
M5-2
MVSシリーズ
(M5/V5 シリーズ用)
MVS2.2
V5-2
MVS3.7
V5-2
MVS5.5
V5-2
MVS7.5
V5-2
MVE18.5
M5-2
MVE22
M5-2
MVE30
M5-2
4,500
MVS11
V5-2
MVS15
V5-2
MVS18.5
V5-2
MVS22
V5-2
MVS30
V5-2
1,500
基底速度(r/min)
8,000
最高速度(r/min)
ド
ラ
イ
ブ
ユ
ニ
ッ
ト
形
式
MVE15
M5-2
6,000
最高速度(r/min)
M5パッケージ
ユニット
MVE11
M5-2
1,500
基底速度(r/min)
電
動
機
形
式
30分定格出力×
120%,1min
50% ED 定格出力×120%,1min
過 負 荷 定 格
FRN1.1
M5-2
FRN2.2
M5-2
FRN3.7
M5-2
M5ドライブ
ユニット
V5パッケージ
ユニット
6,000
V5ドライブ
ユニット
FRN3.7
V5-2
FRN22
MC5-2
FRN30
MC5-2
FRN5.5
VC5-2
FRN7.5
VC5-2
FRN11
VC5-2
FRN15
VC5-2
FRN18.5
VC5-2
FRN22
VC5-2
FRN30
VC5-2
FRN37
VC5-2
FRN45
VC5-2
FRN55
VC5-2
FRN7.5
PD5-2
FRN11
PD5-2
FRN15
PD5-2
FRN18.5
PD5-2
FRN5.5
PR5-2
FRN7.5
PR5-2
FRN11
PR5-2
FRN15
PR5-2
FRN18.5
PR5-2
FRN22
PR5-2
FRN30
PR5-2
FRN37
PR5-2
FRN45
PR5-2
FRN55
PR5-2
ダイナミックトルクベクトル制御,主軸 PE ベクトル制御(オプション)
V 5 シ リ ー ズ
高性能ベクトル制御
制
動
制
動
方
式
制動頻度(%ED)
ドライブユニット
冷却方式
4,000
FRN18.5
MC5-2
M 5 シ リ ー ズ
動
4,500
FRN15
MC5-2
制
御
方
式
変
1,000
FRN11
MC5-2
相数・電圧・
周波数
容
1,150
FRN7.5
MC5-2
入
力
電
源
許
MVS55
V5-2
FRN5.5
V5-2
発電制動ユニット
電源回生ユニット
MVS45
V5-2
FRN5.5
M5-2
FRN5.5
MC5-2
FRN2.2
V5-2
MVS37
V5-2
三相3線式,200 V/50 Hz,200 V∼230 V/60 Hz
電圧:+10∼−15%,電圧アンバランス率:2%以下
MS 5シリーズコンバータユニットによる発電制動または電源回生制動
発電制動式:10%ED 電源回生式:30%ED
2.2/1.1 kW以下の機種は自冷,3.7/2.2 kW以上の機種は強制風冷
る。
まで拡大した。
2.3 EC 指令対応
3.7/2.2 kW と 37/30 ∼ 55/45 kW を 出力低減 なしとした。
また, 従来高速域 で 出力低減 を 行 っていた 2.2/1.5 ∼
FRENIC 5000MS5 シリーズ 全機種 について, EC 指令
このため,高速域での切削トルクを増大できることはもち
(低電圧指令)対応を標準仕様とし,全機種とも EC 指令
ろん,加減速時間をおよそ 10 ∼ 20 %短縮することができ
に基づいた TÜV 認定を取得完了し,工作機械の国際化に
た。
対応した製品としている。
3.2 制御応答の改善
基本性能の改善
FRENIC 5000MS5 シリーズでは,高性能 CPU システム
を採用して,演算時間の高速化・分解能の向上を図り,従
3.1 定出力領域の出力特性改善
来シリーズで一部アナログ制御を用いていた制御系を,全
MVS 電動機は巻線仕様や鉄心形状の最適化を図り,定
ディジタル方式とした。その結果,制御回路の共通化を実
出力領域でのトルク特性を改善した。これにより 5.5/3.7 ∼
現するとともに各種オプションの一元化を図った。さらに
11/7.5 kW までの 最高速度 を 6,000 r/min から 8,000 r/min
FRENIC 5000M5 シリーズではオリエンテーション性能や,
まで,22/18.5 ∼ 30/22 kW を 4,500 r/min から 6,000 r/min
同期運転性能の大幅な向上を達成した。さらに富士電機独
241(33)
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工作機械主軸駆動装置 FRENIC 5000MS5 シリーズ
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図2 トルク制限特性
160
図4 同期加減速運転特性
120%制限時
軸トルク(%)
120
40
4,000 r/min
スレーブ軸
回転速度
80 100%制限時
2軸間同期
位置偏差
50%制限時
2.25°
同期完了幅
(±5パルス)
0
50%制限時
−40
2s
同期完了
信号
−80 100%制限時
(マスタ軸:7.5/5.5 kW,スレーブ軸:3.7/2.2 kW,ワークなし)
−120
120%制限時
−160
0
1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000
回転速度(r/min)
に紹介する。
4.1 トルク制限特性
図2に 11/7.5 kW
図3 加減速運転特性
で測定したトルク制限特性の代表例を
示す。全範囲にわたって,120 %の最大トルクが確保され
ていることが分かる。
4,000
r/min
主軸回転速度
4.2 加減速運転特性
図3に 11/7.5 kW
の電動機を実際の機械に組み合わせ,
加減速運転を行ったときのオシログラムを示す。加速・減
100 A
電動機電流
速ともに FRENIC 5000V5 シリーズ並みの最大トルクでの
加減速運転が可能となっている。
1s
(11/7.5 kW,負荷イナーシャ 0.047 kg・m2)
4.3 同期運転特性
図4は実際の機械に組み合わせ,マスタ軸・スレーブ軸
間の同期運転特性の一例である。マスタ軸・スレーブ軸が
自のダイナミックトルクベクトル制御を採用して,回転む
結合されていない条件で,加減速中も同期完了信号(+
−5
らの低減・加減速時間の短縮を図っている。また,主軸エ
パルス≒+
− 0.5 °)が落ちることなく運転が可能である。
ンコーダを利用した PE ベクトル制御を実現することがで
きた。
さらに,同期運転時の加減速時間も従来比約 30 %の短
縮が可能となった。
FRENIC 5000V5 シリーズでは,ACR(Automatic Current Regulator)系の応答を改善して負荷変動に対する応
あとがき
答性などの向上を図った。
以上,工作機械主軸駆動装置 FRENIC 5000MS5 シリー
主軸 PE ベクトル制御
ズについて,概要を紹介した。制御機能の大幅な改善が図
られたことにより,ポリゴン加工,リジッドタップ,差速
この制御方式は,電動機に速度センサを持たない
リジッドタップなどへの適用実績をさらに増やし,工作機
FRENIC 5000M5 シリーズのドライブユニットに対して,
械主軸駆動システムとして十分期待にこたえられるよう,
機械主軸の PE 信号を用いて制御装置内で電動機速度を演
一層の努力をしていく所存である。
算し,速度センサ付きベクトル制御を行う方式である。こ
の機能は本体にオプションの PE インタフェースカードを
搭載することで実現できる。
この制御方式の採用により,トルク制御精度が向上し,
参考文献
(1) 田中良和・細木俊猪: AC スピンドル 駆動装置 FRENIC
5000M3,富士時報,Vol.67,No.11,p.608-611(1994)
インパクト負荷に対する応答性および加減速性能を向上さ
(2 ) 八須康明・藤田光悦:ディジタル AC スピンドルドライブ
せた。さらにオリエンテーション時の停止トルクの増大に
システム FRENIC 5000V3,富士時報,Vol.63,No.7,p.470-
よる停止精度向上・停止時間の短縮,同期運転時の同期精
度の向上などが可能となった。
主軸 PE ベクトル制御の運転特性の代表例について以下
242(34)
473(1990)
(3) 田中良和 ほか :工作機械主軸駆動装置 FRENIC 5000MS5,
富士時報,Vol.70,No.12,p.638-641(1997)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。