FEJ 72 07 396 1999

富士時報
Vol.72 No.7 1999
ソリッドステートコンタクタ
元信 昌弘(もとのぶ まさひろ)
大久保 幸治(おおくぼ こうじ)
まえがき
42 A の3形式で現行の 480 V 70 ∼ 200 A 品と合わせてこ
のシリーズの機種ぞろえが完了した。
長寿命,高頻度開閉,無騒音,メンテナンスフリーを目
的に開発した電磁接触器の無接点化機器であるソリッドス
テートコンタクタ( SSC) SS シリーズは, 三極品 では
AC240 V 3 ∼ 120 A,AC480 V 30 ∼ 120 A,単極品では,
AC240 V 10 ∼ 200 A,AC480 V 70 ∼ 200 A の基本機種の
シリーズ化を図っており,電動機やヒータなどの各種負荷
の制御用として幅広く適用され,好評を博している。
2.1.1 主な特長
(1) 操作入力は,DC5 ∼ 24 V のワイドレンジ仕様
温度調節器など各種機器との組合せに 1 台で対応が可能
(2 ) 冷却フィンは SSC 本体と標準品で一体構造
フィンの選定が不要
(3) 20 A, 30 A 品 の 外形 は 現行 240 V 30 ∼ 40 A 品 と 同
一形状
このたび,SS シリーズの機種拡充を狙いに,新商品と
レール取付け,ねじ取付けとも互換性あり
して次の 3 機種を開発した。
(1) ヒータ制御に最適な小容量単極 AC480 V SSC
図2 480 V SSC の出力回路構成
(2 ) 小形,経済形の単極 AC240 V SSC
Rs
(3) 直流負荷開閉用 DC240 V SSC
本稿では,これらの概要について紹介する。
R1
C1
補助トライ
アック
Z1
新商品 SSC の概要
表1に今回開発した SSC
の仕様を示す。
R2
C2
PT
(Z付き)
Z2
2.1 単極 480 V 20 A,30 A,42 A SSC
図1 に 外観 を 示 す。 主回路仕様 AC480 V 20 A, 30 A,
Rs
(a)新規回路
図1 単極 480 V SSC の外観
D1
D2
R1
Rs
補助
サイリスタ1
Z1
C
R2
PC
補助
サイリスタ2
Z2
D3
D4
(b)従来回路
AF99-203
396(42)
元信 昌弘
大久保 幸治
電子化機器の開発・設計に従事。
電子化機器の開発・設計に従事。
現在,吹上工場器具設計部。
現在,吹上工場器具設計部。
Rs
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ソリッドステートコンタクタ
Vol.72 No.7 1999
表1 SSC の仕様および定格
機 種
形 式
項 目
単極 480 V SSC
SS201H-3Z
-D3
定格使用電圧
AC200∼480 V
50/60 Hz
10 A
20 A
30 A
3A
最小負荷電流
0.5 A
0.1 A
0.1 A
閉路時電圧降下
(100% I n 時)
1.6 Vrms
1.6 Vrms
3.5 V
開路時漏れ電流
(最大)
20 mA
(AC400 V時 f =60 Hz)
15 mA
(AC200 V時 f =60 Hz)
5 mA(DC240 V時)
300 A
660 A
ゼロクロス機能
150 A
225 A
300 A
10 A(10 ms)
あり
あり
なし
点
弧
方
式
無接点点弧方式
操
作
方
式
直流操作
直流操作
交流操作
定格使用電圧
(Vn )
DC5/12/24 V
(2端子,極性あり)
DC5/12/24 V
(2端子,極性あり)
AC100/200 V
(2端子,極性なし)
使用電圧範囲
DC3.5∼30 V
DC4∼30 V
AC85∼264 V
DC4∼30 V
AC85∼264 V
動
作
電
圧
DC3.5 V以下
DC4 V以下
AC85 V以下
DC4 V以下
AC85 V以下
復
帰
電
圧
無接点点弧方式
無接点点弧方式
直流操作
交流操作
DC5/12/24 V
AC100/200 V
(2端子,極性あり)(2端子,極性なし)
DC1.5 V以上
DC1.5 V以上
AC30 V以上
DC1.5 V以上
AC30 V以上
動 作 時 間
(100% V n 時)
15 ms以下
15 ms以下
30 ms以下
5 ms以下
30 ms以下
復 帰 時 間
(100% V n 時)
15 ms以下
15 ms以下
30 ms以下
5 ms以下
30 ms以下
20 mA以下(DC30 V時)
7 mA以下
(DC30 V時)
5 mA以下
(AC264 V時)
消
費
電
流
動
作
表
示
相
対
耐
絶
電
縁
耐
耐
湿
−10∼+60℃(氷結なし,40℃超過時は通電電流を低減して使用のこと。)
抵
振
衝
度
圧
撃
30 mA以下
5 mA以下
(DC30 V時) (AC264 V時)
LED(赤)
使用周囲温度
一
般
仕
様
DC24∼240 V
50/60 Hz
42 A
SS031D-3
-A2
DC20.4∼264 V
(AC19∼250 V全波,
半波整流電源適用可)
定 格 周 波 数
30 A
SS031D-3
-D3
AC100∼240 V
AC85∼264 V
20 A
直流 SSC
SS301C-3Z
-D3,-A2
SS201C-3Z
-D3,-A2
AC170∼528 V
サージオン電流
( I TSM )
(60 Hz,正弦波,
1サイクル)
操
作
回
路
SS101C-3Z
-D3,-A2
使用電圧範囲
定格通電電流
(In)
主
回
路
単極 240 V SSC
SS421H-3Z
-D3
SS301H-3Z
-D3
45∼85%(結露なし)
AC2,500 V 1分間
主回路,操作回路一括-フィン間,
主回路-操作回路間
AC2,000 V 1分間
(主回路,操作回路一括-フィン間,主回路-操作回路間)
100 MΩ以上(DC500 Vメガー)(主回路,操作回路一括-フィン間,主回路-操作回路間)
抗
性
耐久 10∼50 Hz 複振幅0.75 mm(最大37 m/s2)
性
耐久 300 m/s2(約30 G)
(4 ) 操作入力の動作表示灯標準装備
は整流回路 D1 ∼ D4 を介して補助サイリスタが 2 段直列
(5) ゼロクロス機能標準装備
に構成されていた。操作入力信号を受けてホトトランジス
2.1.2 高電圧制御回路の構成
AC480 V という 高電圧 に 対応 した 制御回路 を 小形 ケー
タ PC がオンすると,抵抗 R1,R2 を通って補助サイリス
タ 2 がオンする。これにより抵抗 R1 →補助サイリスタ1
スに収納するためには,出力段回路の小形化が必要となっ
がオンして,パワー素子がオンすることで負荷の開閉制御
た。この課題に対し新回路方式を採用することにより,小
を行う。
形・高電圧制御回路を実現した。
図 2 に 480 V SSC
の 従来品 と 今回 の 新商品 の 出力段回
このように従来回路では補助サイリスタ方式のため部品
点数が多く,小形化は困難であった。
路構成を示す。出力段の開閉パワー素子は,どちらも 2 個
図2の新方式において,駆動回路はトライアックとホト
のサイリスタの逆並列接続で構成している。従来品は,サー
トライアックの 2 段直列とし整流回路を使用しない構成と
ジ吸収素子としてスナバコンデンサ C,スナバ抵抗 Rs と
した。なお,サージ吸収回路は従来品と同様に C1,C2,
バリスタ Z1,Z2 が素子と並列に,パワー素子の駆動回路
Rs とバリスタ Z1,Z2 の構成としている。
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図3 単極 240 V SSC の外観
図4 単極 SSC の構造と回路
端子
電子部品
静電浮遊容量
銅パターン
絶縁層
Cs
アルミ
ベース
C sは,パターン面積と絶縁層の厚み,
(1)静電浮遊容量 誘電率で決まる。
( C s ∝ εS /d )
(2)耐コモンモードノイズに対しては, が小さいほど
Cs
耐量アップする。
(a)SSC内部構造
(アース)
補助
サイリスタ
AF99-119
スナバコンデンサ C は,サージ 吸収機能 に 加 えてホト
コモン
ノイズ 電源
トライ
アック
(アース)
トライアックがオンするとコンデンサの充電電流がホトト
ライアック→補助トライアックのゲートへ流れ二つの補助
素子を確実にターンオンさせ,パワー素子がオンする。
Cs
サージ吸収用 CR 部品に複合機能を持たせることで部品
負荷
Cs
点数も削減(従来比 65 %)した。
(アース)
(b)回路構成
2.2 単極 240 V 10 ∼ 30 A SSC
図3に外観を示す。主回路 10 A,20 A,30 A の 3 フレー
ム,操作入力は DC5 ∼ 24 V,AC100 ∼ 200 V の計 6 形式
を開発した。
2.2.1 主な特長
(1) 銅はくパターン面積の低減
パターン面積の大きい場所は入出力端子の接続箇所で,
(1) 操作電圧は DC5 ∼ 24 V のワイドレンジ仕様
この部分だけで総容量の約 80 %を占めている。このため
(2 ) 小形薄形構造
通電電流による温度上昇が問題とならない端子取付面とパ
10 ∼ 30 A まで同一形状。従来の単極品に比較して,30 A
品で床面積は 65 %,体積は 50 %。
(3) 冷却フィンはオプション対応
盤への直取付け,汎用フィンへの取付けなどの使用可能
ターン面積の狭小化(約 50 %低減)を図った。
(2 ) 絶縁層材料の選定
絶縁層は,エポキシ樹脂と熱伝導性を良くするために金
属粉を成分とするフィラーで構成されているのが一般的で
(4 ) 操作入力の動作表示灯標準装備
ある。通常,金属基板は熱伝導性を確保するためフィラー
(5) ゼロクロス機能標準装備
の量を多く入れているが,誘電率はフィラーのほうがエポ
2.2.2 耐ノイズ性能の向上
キシ樹脂より大きいため基板の Cs はフィラーで決定され
SSC の 薄形構造化 のためにパワー 素子 , 制御回路 と 入
ていた。このため, SSC の 発生損失 に 合 った 最適 な 熱伝
出力端子をアルミ基板に同一実装する構成とした。構造お
導性を備えたフィラーを選定するとともに,浮遊容量を小
よび回路構成の概要を図4に示す。
さくするための最適量の決定を行った。このため金属基板
本構造における技術的課題は耐ノイズ性能の向上である。
メーカーと共同開発を進めて従来比で Cs を半減化した材
金属基板は銅パターンとアルミベース間に絶縁層が介在す
料を開発し,ノイズレベルの耐量アップを図ることができ
るため,パターン面積と絶縁層の厚み,誘電率で決まる浮
た。
遊容量 Cs が発生する。したがって,回路構成に示すよう
に回路上の各点とベース間に Cs が寄生する。このため,
2.3 DC240 V 3 A SSC
電源ーアース(ベース)間のコモンモードノイズ耐量が低
図5に外観を示す。主回路 DC240 V 3A,操作電圧仕様
下する。つまり,出力端子と SSC のベース間が C で結合
は, DC5 ∼ 24 V 品 と AC100 ∼ 240 V 品 の 2 形式 を 開発
されているため,コモンモードノイズが印加されると浮遊
した。
容量をバイパスして直接メイントライアック,補助サイリ
本商品は電動機用ブレーキコイルの直流開閉を狙いに開
スタに印加されるためノイズの dv/dt が素子の許容値を超
発したものである。従来の有接点開閉器では,直流電流の,
えると誤動作してしまう。
特に高頻度開閉では接点寿命が短くメンテナンスを頻繁に
ノイズ 耐量 をアップするためには, Cs を 極力小 さくす
行 う 必要 があった。 今回開発 した 直流 SSC により, 有接
る必要がある。このため,下記により浮遊容量の半減化を
点開閉器使用時の回路を変更することなく置換えができ,
図りノイズ耐量を確保した。
長寿命化,メンテナンスフリーが可能となる。
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富士時報
ソリッドステートコンタクタ
Vol.72 No.7 1999
図6 直流 SSC のブレーキコイルへの適用例
図5 直流 SSC の外観
3φ
AC200∼240V
R S T
バリスタ
(富士電機製 ENC391D-20A)
三極SSC
直流SSC
M
ブレーキ
コイル
整流ユニット
AF99-118
ために必ず SSC 出力端子と並列にバリスタ(富士電機の
商品名:ゼットラップ)を接続することが必要である。
2.3.1 主な特長
(1) 出力は DC24 ∼ 240 V のワイドレンジ仕様
また,図示していないがブレーキコイルは通常,無励磁
(2 ) AC240 V 交流電源の半波,全波整流電圧に適用可能
で制動となるため直流 SSC を三相 SSC に対して先入れ,
(3) 操作電圧は,DC 品,AC 品ともワイドレンジ仕様
後切 れになるように 各 SSC の 操作入力 のタイミングを 確
(4 ) 操作入力の動作表示灯標準装備
保する必要がある。
2.3.2 ブレーキコイルへの適用例
図6 に 直流 SSC
のブレーキコイルへの 適用例 を 示 す。
あとがき
図 のように 電動機 の 開閉制御 に 現行 の 三極 SSC を 使用 し,
主回路を整流ユニットで半波整流した直流電圧とコイル間
以上 , 今回開発 した SSC の 構造 , 仕様 について 紹介 し
に直流 SSC を接続すればよく,基本的には従来の有接点
た。今後も市場動向に注目し,新しいニーズに対応した商
開閉器 で 構成 した 箇所 にそのまま SSC を 置 き 換 えれば 装
品開発を行っていく所存である。
置の無接点化が可能で長寿命,無騒音化が図れる。図にお
いて,コイルにはインダクタンス L があるため 直流 SSC
がオフしてもコイルに蓄えられたエネルギーの減衰特性で
ブレーキの制動時間が決まる。制動時間を短くするために
は SSC がオフするとコイル間を開放すればよいが,この
ときコイルから発生するサージ電圧から SSC を保護する
参考文献
(1) 石川雅英 ほか : ソリッドステートコンタクタ, 富士時報 ,
Vol.60,No.2,p.134-141(1987)
(2 ) 田中順造ほか:ソリッドステートコンタクタの特徴と使い
方,富士時報,Vol.68,No.8,p.442-446(1995)
399(45)
*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。