FEJ 74 02 110 2001

富士時報
Vol.74 No.2 2001
大容量 6 in 1 IGBT モジュール「EconoPACK-Plus」
渡 新一(よしわたり しんいち)
別田 惣彦(べつだ のぶひこ)
まえがき
(3) 使いやすさ:プリント基板実装型構造で大電流定格ま
で 6 個組化(図3参照)
近年,産業用インバータなどの電力変換装置において,
(4 ) 高信頼性化:サーミスタ内蔵により温度保護精度が向
40 kW ∼ 1 MW クラスの大電流品の要求が高まっており,
これに使用される電力変換用半導体素子
(パワーデバイス)
上(図3参照)
(5) 大電流化:オン電圧の温度特性が正のため並列接続が
にはさらなる小型化,高性能化,高信頼性化,大電流化,
容易であり,なおかつ,並列接続を目的としたパッケー
使いやすさが求められている。これらの要求に対し,富士
ジ設計されており,図4に示す並列接続による大電流定
格化が容易
電機は大電流定格の IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)インバータブリッジ回路を一つのパッケージで構成
(6 ) 高性能化:小型化による熱集中を改善するために効果
(図1参照)を製品化する。本
できる「EconoPACK-Plus」
的なチップレイアウトを行い,さらに新世代の IGBT チッ
稿ではこの製品の系列と特徴,素子技術について紹介する。
プ/新 FWD(Free Wheeling Diode)を新規開発・適用
することで発生損失を従来品に対して約 20 %低減を達
EconoPACK-Plus の系列と特徴
成(図5参照)
次章からはこの EconoPACK-Plus の開発における技術
富士電機はすでに 1,200 V 系にて第四世代 IGBT を適用
的概要について紹介する。
した「EconoPACK」
(PIM:Power Integrated Module)
新世代 IGBT チップの適用
(6 個組)を 10 ∼ 100 A の電流領域で製品
/「PC-PACK」
化し,装置の小型化や組立工程の簡略化などの要求に対応
してきている。今回,大電流定格素子である EconoPACK-
1,200 V 系において富士電機は,注入効率を上げ,輸送
Plus の開発をほぼ完了した。この EconoPACK-Plus は先
効率を下げることを目的とした PT(Punch Through)構
に記述したさまざまな市場ニーズを満足するために次の項
参照〕において,ライフタイムコントロー
造 IGBT〔図6
(a)
目を特徴とする素子として設計されている。
図2 EconoPACK-Plus と従来品のサイズ比較
(1) 定格:1,200 V/225 ∼ 450 A を系列化予定
(2 ) 小型化:従来品使用時の約 1/2 の使用面積(図2参照)
図1 EconoPACK-Plus の外観
(a)従来品
1,200 V/400 A
1 個組× 6 個
渡 新一
IGBT モジュールの開発・設計お
IGBT モジュールの構造開発・設
よび応用技術の開発に従事。現在,
計に従事。現在,富士日立パワー
富士日立パワーセミコンダクタ
(株)
松本事業所開発設計部。
110(10)
別田 惣彦
セミコンダクタ
(株)
松本事業所開
発設計部。
(b)EconoPACK-Plus
1,200 V/450 A
6 個組× 1 個
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大容量 6 in 1 IGBT モジュール「EconoPACK-Plus」
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ル,微細化などで特性改善を進め,1988,1990,1994年に
/Eoff 損失ともに飛躍的な性能改善が可能である。また,
第一,第二,新第三世代(N シリーズ)IGBT モジュール
新世代 IGBT は図8に示すようにオン電圧が正の温度特性
(1)
を製品化した。その後,注入効率を下げ,輸送効率を上げ
を持ち大電流定格品への適応に非常に適した素子である。
るコンセプトの NPT(Non-Punch Through)構造 IGBT
新 FWD チップの特徴
(b)
参照〕の特性改善を行うことによって,1999年に
〔図6
第四世代 IGBT モジュール(S シリーズ)を製品化してい
(2 )
(b)
新 FWD 素子は図9
に示す表面構造を持ち,アノード
る。
今回の新世代 IGBT チップは n− 層の抵抗値低減を目的
に FZ(Floating Zone)ウェーハを最適な厚さに研磨し,
図5 インバータ動作時の発生損失比較
n 層(空乏層を止めるための拡散層)/p 層(ホール注入
C1
C3
G5
E5
G3
E3
G1
E1
G4
E4
G2
E2
T1
T2
E rr
VF
E on
200
E off
VCE(sat)
0
第四世代
新世代
(Sシリーズ) IGBT+FWD
1,200 V/450 A 素子
T j = 125 ℃
I
U d = DC 600 V f
o
o
= 242 Arms
= 50 Hz
f c = 6 kHz
cosφ = 0.85
λ= 1
図6 IGBT チップの構造比較
22
50
22
50
162
22
50
150
C5
G6
E6
W
V
110
122
137
U
%
図3 EconoPACK-Plus の外形図および等価回路図
400
0
この新世代 IGBT 適用により 図 7 に示すようにオン電圧
2
層)を形成した PT-IGBT 構造を有する半導体素子である。
約
インバータ損失(W)
V CE(sat)+ Eoff + Eon+ VF+ Err 損失〕
〔 図6
に示すように裏面からのイオン注入を行うことで,
(c)
17
22
E
G
E
G
E
G
(a)外形図
n+
〔インバータ部〕
+
G5
E5
C3
G3
E3
V
G6
E6
−
n−
n+
n−
T2
p+
n p
p
−
図4 EconoPACK-Plus の並列接続例
C
C
(b)NPT-IGBT
(a)PT-IGBT
(b)等価回路図
n+
p+
n−
C
G2
E2
G4
E4
n+
p
T1
〔サーミスタ部〕
G1
E1
W
n+
p+
C1
−
n+
p
p+
(c)新世代IGBT
図7 各世代 IGBT の VCE(sat)- Eoff トレードオフ比較
T j =125 ℃
12
EconoPACK-Plus
1,200V/450A×1
1,200 V/50 Aデバイス
EconoPACK-Plus
1,200V/450A×3
1,200V/1,350A
ターンオフ損失(mJ/pulse)
U
+
+
C5
n+
p
V cc=600 V
新第三世代 I =50 A
c
(Nシリーズ)
R g =24 Ω
V ge=±15 V
10
8
6
第四世代(Sシリーズ)
4
Pシリーズ
新世代IGBT
2
0
1.8
2.0
2.2
2.4
2.6
2.8
3.0
V CE(sat)(V)at 125 ℃
3.2
3.4
111(11)
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からの少数キャリヤ注入をコントロール(低注入化)する
ターンオン損失を低減させることが可能である。
に示すようなソフトな逆回復特性を有す。さ
ことで図10
(c)
EconoPACK-Plus の特徴
らに大電流定格品への適用を狙いオン抵抗の温度特性を
図11に示すように改善したうえ,図12のように従来 FWD
並みのオン電圧−Err トレードオフ特性を有する FWD 素
5.1 EconoPACK-Plus の系列
子である。また,この新 FWD 適用により,アノードから
本製品では欧米市場で対応が必要な AC480 V 入力系イ
の少数キャリヤ注入を抑える効果で図13のように IGBT の
ンバータまでに適用できる 1,200 V 系素子を 225 A,300 A,
450 A で系列化する。
図8 新世代 IGBT の出力特性
100
図11 FWD の出力特性比較
1,200 V/75 A 素子
測定条件:+VGE =15 V
100
100
125 ℃
50
75
125 ℃
I F(A)
75
室温
I F(A)
コレクタ電流 I C(A)
75
室温
50
25
25
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
125 ℃
室温
25
0
0
0
0
50
1
2
3
0
0
V F(V)
(a)従来FWD
(1,200 V/75 A)
3.0
1
2
3
V F(V)
(b)新FWD
(1,200 V/75 A)
コレクタ - エミッタ間電圧 VCE(V)
図12 FWD の VF - Err トレードオフ比較
図9 FWD チップの構造比較
5
p
p
p
n−
n−
n+
n+
カソード
p
カソード
(a)従来FWD
(b)新FWD
逆回復損失 E rr(mJ/pulse)
アノード
アノード
1,200 V/75 A-FWD素子
T j=125 ℃
V cc=600 V,I F=75 A
4
従来FWD
3
2
新FWD
1
0
1.25
図10 EconoPACK-Plus のスイッチング波形
1.50
1.75
2.00
2.25
V F(V)at 125 ℃
V GE(20 V/div)
3
3
V GE(20 V/div)
図13 ターンオン波形比較
V CE(200 V/div)
V CE(200 V/div)
2
0.2 s/div
(a)ターンオン波形
V CE(200 V/div)
2
I F(100 A/div)
1
0.1 s/div
(c)逆回復波形
112(12)
I C(100 A/div)
2
0.2 s/div
(b)ターンオフ波形
1,200 V/225 A
EconoPACK-Plus
T j=125 ℃
V CC=600 V,I =225 A
V GE=±15 V,R g=6.3 Ω
V CE:250 V/div,I F:50 A/div
I C(100 A/div)
1,200 V/75 A-FWD素子
T j=125 ℃
V cc=600 V,I F=75 A
従来FWD
新FWD
V CE
IF
時間:0.5
s/div
2.50
2.75
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今後の展望
5.2 パッケージの特徴
本製品の構造的な特徴としては,次の項目が挙げられる。
(1) 全型式 6 個組モジュール
本稿では,1,200 V 系の素子技術について述べたが,600
(2 ) インバータへの制御端子部実装をはんだフロー方式に
∼ 1,700 V 系についても同一コンセプトで新世代素子の開
よって可能にするためにはんだ付けが可能なピン端子構
発が進んでおり,これらを EconoPACK-Plus のみでなく
造を採用
EconoPACK/PC-PACK にも適用し,さらなる系列の拡
(3) 富士電機製品である EconoPACK/PC-PACK と同様,
大を行っていく計画である。
小型,薄型パッケージで装置の小型・軽量化が可能
(4 ) 全 8 か所にポジショナを付けたことによってプリント
あとがき
基板の製品上面実装が容易
さまざまな新技術が適用される EconoPACK-Plus は,
既存の適用分野はもちろん,新分野への適用,装置の性能
5.3 内部構造
EconoPACK-Plus
は
EconoPACK/PC-PACK
と同様,
向上,設計の容易性に寄与するものと考える。富士電機は
主端子をはんだ付けにて DBC(Direct Bonding Copper)
今後さらなる技術革新を重ね,パワーデバイスの高性能化,
基板に接合するのではなく,ワイヤで接合する構造となっ
高機能化,高信頼性化に取り組み,多様化する市場要求に
( 3)
ており,これによってパッケージ構造の簡易化,小型・軽
最適化された製品を開発・供給し,パワー分野のさらなる
量化,組立工数の削減を実現している。さらに,IGBT/
発展に貢献していく所存である。
FWD チップを適切に配列させることにより効果的な熱分
散を可能にする工夫や,上下アームの IGBT 素子を均等に
配置することでターンオン時の過渡電流バランスを改善し,
ターンオン損失の増加が起こらない工夫などがなされてい
る。
また,EconoPACK-Plus のパッケージは約 20 nH の低
(b)
のように速い
内部インダクタンスを実現しており,図10
ターンオフで低いスパイク電圧という相反する性能を実現
している。
参考文献
(1) 大日方重行ほか. 高精度電流センス IGBT. 平成 6 年電気
学会電子・情報・システム部門大会. A- 5- 9, 1994, p.97- 98.
(2 ) Onishi, Y. et al. Analysis on Device Structure for Next
Generation IGBT.
Proceeding of the 10th ISPSD. 1998,
p.85- 88.
(3) 中島修ほか. 小・中容量産業用 NPT- IGBT モジュール.
富士時報. vol.71, no.2, 1998, p.112- 116.
(4 ) Laska, T. et al. The Field Stop IGBT(FS- IGBT)- A
New Power Device Concept with a Great Improvement
Potential. Proceeding of the 12th ISPSD. 2000, p.355 - 358.
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*本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する
商標または登録商標である場合があります。